抄録
分子生物学の勃興により, さまざまな腫瘍のふるまいや宿主病態が分子の言葉で語られるようになった.癌治療のフィールドも変化しつつある.腫瘍病態に関与する生体分子に対して「ねらい撃ち」的に働きかける薬剤を用いようとする治療を「分子標的治療 (target-based therapy) 」と呼んでいる.これまで常に帰納的にっくられてきた治療薬を, 演繹的に創出しようという分子標的治療の試みは, 治療学の歴史のなかでは画期的な出来事であるかもしれない.しかし, この黎明期にある治療学にも, 多くの問題が存在する.本稿では, 分子標的治療薬の現状をふまえ, その問題点, とくに1) 作用原理とドラッグ・デザイン, 2) 適応, 3) 作用と副作用, 4) 検証過程にっいて議論した.