抄録
1980年代に, 小児癌患児らの心理的問題がPTSD症状に酷似していると報告された.そして, 1994年のDSM-IVではPTSDとしてのトラウマの概念が拡大され, 生命を脅かしかねない疾患に罹患することもトラウマと解釈されるようになった.その後, 小児癌患児・家族の心の問題をPTSDの枠組みで考えることの有用性が検証され, さらに, 脆弱因子などの調査も進んできた.欧米での患児におけるPTSSの発症が2.6~47%に対して, 少ない報告ながらわが国の報告では80~83%と非常に高い頻度であった.PTSS発症における予防的介入は, 患児自身のみならず両親に対しても必要である.主観的治療強度, ソーシャルサポート授与感, 特性不安, 告知などを考えに入れて介入する.また, 日本での調査では, アレキシシミック (感情表現困難) な性格傾向とPTSS発症との関係が指摘され, これが, 日本人に特有な性格傾向であることは興味深く, 今後, 日本での調査を進め, われわれがもつ特性とPTSS発症の関係が明らかになることで, 小児癌患児にとってさらに有効な援助を行うことができるだろう.