抄録
造血において幹細胞にどのような成長因子が作用するかという報告は多いが, 成長因子作用後に造血細胞や造血環境に生じる代謝変動について言及されたものは少ない.筆者らの研究の目的は赤血球造血における脂質代謝の変動を調べることであった.検体はすでに当教室で確立されている溶血性貧血のラットモデルより採取された. (1) in vivoにおける変動 : 血清, 骨髄上清, 骨髄細胞に含まれるほとんどの脂質はearly stageには減少し, intermediate stageには増加していた.しかし骨髄上清のリン脂質と骨髄細胞のフォスファチジルセリンとフォスファチジルイノシトール分画は造血早期より造加していた.また骨髄細胞の脂肪酸の分析では飽和脂肪酸に比べて不飽和脂肪酸の回復が遅れていた. (2) In vitroにおける変動 : エリスロポエチンの添加により骨髄細胞のアラキドン酸の減少が認められた.溶血4日目のラットから採取された骨髄細胞に含まれるイノシトールー3一リン酸は溶血前のものより高値であったが, in vitroにおいてエリスロポエチンを添加しても増加しなかった.これらの結果はアラキドン酸とリン脂質が造血において何らかの役割がある可能性を示唆する.イノシトールー3一リン酸はエリスロポエチンによる赤血球前駆細胞の成熟のための細胞内応答には関与しないのかもしれない