抄録
小児がんは稀な疾患であるが小児がんの臨床遺伝学的研究は, 成人のがんも含めがんの臨床および基礎研究の進歩に貢献し続けてきた.NCIのMillerらがはじめた小児がんに伴う先天異常の研究はヒトの良性腫瘍も含めてcarcinogenesis, およびmutagenesisとteratogenesisを包括してとらえることを示唆した.そして腫瘍を伴った各種の奇形症候群患者の正常リンパ球にみとめられる染色体の欠失や転座の存在は腫瘍レベルでも解析され各腫瘍の遺伝子座発見の糸口となった.優性遺伝する遺伝性の網膜芽細胞腫の臨床的観察からKnudsonは発がん2段階説いわゆるtwo hit theoryを提唱し, これはがん抑制遺伝子の発見に導いた.CaveneeはRFLPマーカーを用いて網膜芽細胞腫の腫瘍細胞レベルでのヘテロ接合性の消失を示しがん抑制遺伝子の仮説が実証された.その後遺伝性のがんは通常特定の抑制遺伝子のgermline mutationによって生ずると考えられるようになった.1990年, 様々のがんが若年で発症しやすい体質が優性遺伝で伝えられるLi-Fraumeniがん家系症候群と呼ばれる家系にp53遺伝子のgermline point mutationが発見された.われわれも日本のがん体質家系から2つの新しいp53 germline mutationを発見した.本稿では「がんの易罹病性」の本体を明らかにする上での疫学者と分子生物学者の効率的な連携プレイを紹介する.また, LFSの遺伝子診断を例に挙げて, がんの易罹病性を発病前に遺伝子診断することの問題等についても言及する.