Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Special Topics “At the beginning of pharmaceutical education research”
Study of learning outcomes using multivariate analysis
—Analysis of questionnaire survey in early clinical exposures—
Taro KushihataYumi YamamotoTomoe NishikawaWasako KurioTomohisa YasuharaTomomichi Sone
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2017 Volume 1 Article ID: 2017-001

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Abstract

【目的】早期臨床体験における訪問施設での見聞・体験の内容が,学修成果に与える影響を,実施内容に関する実態調査とプレ・ポストアンケート結果の多変量解析から検討する.

【方法】2015年度1年次生を対象に,訪問施設で見聞・体験した内容をグループ毎に調査し,「臨床現場に依存した見聞・体験か,否か」を基準に,臨床現場依存の見聞・体験度を算出した.また,個人を対象に薬剤師に対する関心を問うプレアンケートと,施設訪問で受けた印象を問うポストアンケートの結果を用いて,因子分析・クラスター分析を行った.

【結果・考察】臨床現場依存の見聞・体験度は,病院:9.2 ± 3.4,薬局:8.0 ± 2.9であった.薬剤師に対する関心が高かった群から薬剤師に対する関心が下がった群に推移した学生(n = 7)は,臨床現場依存の見聞・体験度が,病院:6.0 ± 2.6,薬局:5.7 ± 2.4と,平均より低い傾向にあり,訪問施設での見聞・体験の内容が学修効果を低下させている可能性が示唆された.

はじめに

早期臨床体験19は,低学年次から薬剤師の職能に対する理解を深め,今後の学修の意義を認識し,学修意欲の向上へと繋げると共に,医療者としてのプロフェッショナリズムの涵養においても重要である.本稿では,量的研究の実践例として,アンケートの多変量解析による早期臨床体験における臨床現場での見聞・体験と学修成果の検討について紹介する.

方法

2015年度1年次生216名は,病院(23施設・47グループ),薬局(22施設・51グループ)で早期臨床体験(2015年4月27日~5月8日)を行った.個人を対象としたアンケートは,入学直後に病院・薬局の薬剤師に対するイメージや,業務・役割についての興味・関心を問うプレアンケート(5件法,全20項目)を,両施設訪問後に,病院・薬局の薬剤師に対するイメージや,業務・役割についての興味・関心の変化,訪問施設で受けた印象を問うポストアンケート(5件法,全28項目)を実施した.アンケート実施に際しては,1. アンケートには自由意思で,記名で回答する,無記名で回答する,回答しないという選択が出来ること,2. アンケートへの協力の有無や回答内容は成績に一切影響しないこと,3. アンケート結果を教育改善の目的で研究に用いることがあり,研究成果を学会及び論文等で公開する際には個人は特定されないこと,を文章と口頭で説明した.また,訪問施設で見聞・体験した内容を病院・薬局(各21項目)でグループ毎に調査した.各調査結果を,「臨床現場に依存した見聞・体験」と,「臨床現場に依存しない見聞・体験」に判別し,臨床現場依存の見聞・体験度を算出した.各アンケートに未回答,多変量解析に使用した項目に欠損値のあるものを除外し,204名のデータを用いて解析を実施した.アンケートの統計学的解析には,JMP®Pro 11(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を用いた.

結果

プレアンケートの単純集計を表1にまとめた.プレアンケートの全20項目を用いて因子分析10を行った.探索的因子分析は,スクリープロットにより因子の固有値1以上を指標として,最尤法,対角要素=Squared Multiple Correlation(SMC),Quartimin回転を行い,最終的な共通性が0.30以上の項目を採用した.最終的に19項目から表2に示す5因子を抽出し,各因子を構成する項目(因子負荷量:0.35以上)より命名した.抽出された因子は,因子1「具体的な業務の認識」,因子2「薬局薬剤師への関心」,因子3「病院薬剤師への関心」,因子4「施設訪問への期待」,因子5「職業的意義の認識」であった.また,各因子得点を用いて階層型クラスター分析(Ward法)を行い,A~Dの4群に分類した.各群のもつ因子得点の平均を表3に示した.各群の説明は,薬剤師や医療に関するイメージが出来ていないA群,全ての因子が平均以下で,特に施設訪問に期待をしていないB群,全ての因子が平均以上で,薬剤師や医療に対する関心が高いC群,薬剤師や医療に対する関心は高いが具体的なイメージは出来ていないD群である.

表1 プレアンケートの単純集計
1 2 3 4 5
否定的 肯定的
Q01 病院施設見学について 8 9 6 104 77
Q02 病院薬剤師という職種に対しての関心について 1 11 3 101 88
Q03 病院薬剤師の印象について 0 6 18 135 45
Q04 病院薬剤師の業務や役割の具体的なイメージについて 15 100 12 74 3
Q05 病院でのチーム医療への関心について 0 19 6 128 51
Q06 病院でのチーム医療の具体的なイメージについて 12 103 17 72 0
Q07 病院薬剤師の病棟業務への関心について 2 25 10 129 38
Q08 病院薬剤師の病棟業務の具体的なイメージについて 17 135 12 38 2
Q09 病院薬剤師は非常にやりがいのある職種だと思う 2 6 4 92 100
Q10 将来,病院薬剤師になりたいと思う 3 22 14 110 55
Q11 薬局施設見学について 4 9 5 99 87
Q12 薬局薬剤師という職種に対しての関心について 2 18 5 117 62
Q13 薬局薬剤師の印象について 0 7 11 140 46
Q14 薬局薬剤師の業務や役割の具体的なイメージについて 5 58 17 115 9
Q15 薬局での地域医療への関心について 3 36 11 121 33
Q16 薬局での地域医療の具体的なイメージについて 17 116 15 54 2
Q17 薬局薬剤師の在宅医療への関心について 7 70 16 94 17
Q18 薬局薬剤の在宅医療の具体的なイメージについて 38 125 12 26 3
Q19 薬局薬剤師は非常にやりがいのある職種だと思う 1 10 8 103 82
Q20 将来,薬局薬剤師になりたいと思う 3 23 19 105 53
表2 プレアンケートの因子分析の結果
項目 共通性 因子1 因子2 因子3 因子4 因子5
Q04 0.644 0.797 –0.180 0.056 0.014 0.059
Q08 0.614 0.738 0.036 0.137 –0.006 –0.073
Q06 0.488 0.704 –0.133 –0.007 0.015 0.071
Q16 0.457 0.655 0.069 –0.030 0.024 –0.109
Q14 0.387 0.603 0.055 –0.062 0.009 0.148
Q18 0.391 0.582 0.163 –0.031 –0.035 –0.133
Q20 0.506 –0.054 0.749 –0.008 –0.133 0.011
Q12 0.741 0.051 0.713 –0.079 0.280 0.095
Q15 0.504 0.091 0.600 0.174 0.056 0.014
Q13 0.405 –0.023 0.555 –0.002 0.150 0.076
Q19 0.584 0.129 0.489 –0.031 0.030 0.474
Q17 0.320 0.071 0.385 0.275 0.067 –0.199
Q07 0.676 –0.036 –0.011 0.786 0.110 0.014
Q02 0.604 –0.004 0.029 0.761 –0.032 0.103
Q10 0.441 –0.043 –0.020 0.684 –0.031 –0.003
Q05 0.411 0.131 0.035 0.556 0.067 0.047
Q01 0.745 0.081 –0.149 0.117 0.846 –0.052
Q11 0.592 –0.100 0.289 –0.053 0.634 0.077
Q09 0.726 –0.050 0.055 0.310 0.036 0.728
寄与率 16.6 16.4 15.5 12.3 6.7
累積寄与率 16.6 33.0 48.5 60.8 67.5
表3 プレクラスターの各因子得点
A群 B群 C群 D群
n 75(36.8%) 25(12.3%) 61(29.9%) 43(21.1%)
因子1 –0.24 ± 0.76 –0.34 ± 1.00 0.93 ± 0.56 –0.70 ± 0.47
因子2 –0.01 ± 0.83 –1.13 ± 1.19 0.37 ± 0.67 0.14 ± 0.70
因子3 –0.47 ± 0.83 –0.58 ± 1.27 0.56 ± 0.51 0.36 ± 0.63
因子4 0.07 ± 0.44 –1.87 ± 0.98 0.54 ± 0.42 0.21 ± 0.54
因子5 –0.66 ± 0.91 –0.20 ± 0.97 0.38 ± 0.54 0.73 ± 0.21

平均±標準偏差

ポストアンケートの単純集計を表4にまとめた.ポストアンケートの全28項目を用いてプレアンケートの時と同様の基準で,探索的因子分析を行い,最終的に28項目から表5に示す5因子を抽出し,各因子を構成する項目(因子負荷量:0.35以上)より命名した.抽出された因子は,因子1「薬局薬剤師への関心」,因子2「病院薬剤師への関心」,因子3「プロフェッショナリズム」,因子4「具体的な病院業務の認識」,因子5「病院施設へ信頼」であった.また,各因子得点を用いて階層型クラスター分析(Ward法)を行い,E~Iの5群に分類した.各群のもつ因子得点の平均を表6に示した.各群の説明は,全ての因子が平均以上で,薬剤師や医療に対する関心が非常に高まったE群,病院薬剤師への関心や信頼を高めたF群,病院施設への信頼が低いが,他の因子は平均的なG群,全ての因子が平均以下で,特に病院薬剤師への関心が高まらなかったH群,病棟業務のイメージは出来たが,それ以外の因子が著しく低いI群であった.

表4 ポストアンケートの単純集計
1 2 3 4 5
否定的 肯定的
Q01 病院施設見学について 5 11 15 113 60
Q02 病院薬剤師という職種に対しての関心について 2 5 23 108 66
Q03 病院薬剤師の印象について 0 5 24 121 54
Q04 病院薬剤師の業務や役割の具体的なイメージについて 0 3 13 142 46
Q05 病院でのチーム医療への関心について 0 3 13 142 46
Q06 病院でのチーム医療の具体的なイメージについて 4 15 35 128 22
Q07 病院薬剤師の病棟業務への関心について 1 3 32 126 42
Q08 病院薬剤師の病棟業務の具体的なイメージについて 1 12 22 138 31
Q09 病院薬剤師は非常にやりがいのある職種だと思う 1 4 11 96 92
Q10 (病院)これからの学習へのモチベーションが高まった 5 1 22 120 56
Q11 (病院)医療人としての自覚ができた 1 2 15 124 62
Q12 見学した病院の薬剤師のようになりたい 3 11 28 104 58
Q13 見学した病院を,あなたや家族が患者として利用したい 2 12 46 109 35
Q14 見学した病院で,将来,薬剤師として働きたい 7 24 49 82 42
Q15 薬局施設見学について 0 4 15 94 91
Q16 薬局薬剤師の印象について 1 3 19 107 74
Q17 薬局薬剤師という職種に対しての関心について 2 5 17 111 69
Q18 薬局薬剤師の業務や役割の具体的なイメージについて 0 5 9 123 67
Q19 薬局での地域医療への関心について 1 4 35 119 45
Q20 薬局での地域医療の具体的なイメージについて 4 16 23 120 41
Q21 薬局薬剤師の在宅医療への関心について 2 3 63 104 32
Q22 薬局薬剤師の在宅医療の具体的なイメージについて 7 24 41 100 32
Q23 薬局薬剤師は非常にやりがいのある職種だと思う 2 4 17 107 74
Q24 (薬局)これからの学習へのモチベーションが高まった 4 1 23 111 65
Q25 (薬局)医療人としての自覚ができた 4 0 19 113 68
Q26 見学した薬局の薬剤師のようになりたい 5 5 30 104 60
Q27 見学した薬局を,あなたや家族が患者として利用したい 1 4 32 125 42
Q28 見学した薬局で,将来,薬剤師として働きたい 4 12 43 103 42
表5 ポストアンケートの因子分析の結果
項目 共通性 因子1 因子2 因子3 因子4 因子5
Q19 0.661 0.778 0.075 0.006 0.096 –0.051
Q20 0.498 0.749 –0.026 –0.152 0.154 0.041
Q17 0.760 0.662 0.084 0.289 –0.084 –0.124
Q28 0.625 0.655 –0.020 0.111 –0.245 0.185
Q26 0.663 0.649 0.094 0.180 –0.208 0.009
Q16 0.661 0.647 0.073 0.214 –0.072 –0.022
Q21 0.566 0.603 0.003 0.124 0.173 0.087
Q27 0.621 0.541 –0.078 0.210 –0.138 0.331
Q15 0.591 0.505 0.307 0.202 –0.216 –0.169
Q22 0.389 0.501 0.042 –0.048 0.188 0.165
Q18 0.364 0.412 –0.029 0.244 0.139 0.004
Q12 0.614 –0.102 0.741 0.029 –0.054 0.154
Q01 0.654 0.079 0.736 0.066 0.032 0.004
Q03 0.506 0.029 0.698 –0.157 0.044 0.058
Q02 0.688 –0.087 0.658 0.201 0.121 0.126
Q07 0.582 0.188 0.566 –0.053 0.214 0.060
Q05 0.486 0.078 0.512 0.036 0.258 0.017
Q10 0.691 0.103 0.440 0.411 –0.091 0.178
Q25 0.790 0.197 –0.026 0.777 0.016 –0.056
Q23 0.693 0.261 –0.140 0.697 –0.011 –0.004
Q09 0.614 0.002 0.158 0.620 0.179 0.132
Q11 0.579 –0.061 0.118 0.511 0.298 0.265
Q24 0.668 0.275 0.348 0.438 –0.300 –0.119
Q08 0.596 0.186 0.145 0.002 0.622 0.078
Q06 0.465 0.050 0.151 0.165 0.526 0.068
Q04 0.332 0.021 0.281 0.106 0.381 –0.014
Q13 0.663 0.133 0.127 0.102 0.026 0.652
Q14 0.652 0.041 0.395 –0.126 –0.024 0.572
寄与率 30.070 24.844 24.947 9.409 13.591
累積寄与率 30.070 54.913 79.861 89.269 102.861
表6 ポストクラスターの各因子得点
E群 F群 G群 H群 I群
n 38(18.5%) 73(35.8%) 56(27.5%) 32(15.7%) 5(2.5%)
因子1 1.12 ± 0.37 –0.09 ± 0.47 –0.16 ± 0.79 –0.38 ± 0.96 –3.05 ± 0.83
因子2 0.91 ± 0.55 0.28 ± 0.42 –0.05 ± 0.58 –1.33 ± 0.83 –2.00 ± 1.08
因子3 0.86 ± 0.35 –0.12 ± 0.42 0.05 ± 0.80 –0.32 ± 0.91 –3.24 ± 2.08
因子4 0.53 ± 0.78 0.11 ± 0.39 0.14 ± 0.49 –1.26 ± 0.82 0.90 ± 2.33
因子5 0.78 ± 0.51 0.48 ± 0.37 –0.60 ± 0.59 –0.79 ± 0.86 –1.23 ± 1.45

平均±標準偏差

臨床現場依存の見聞・体験度の結果は,全体平均:病院9.2 ± 3.4,薬局8.0 ± 2.9(平均±標準偏差)であった.プレクラスターからポストクラスターへ推移した群毎に,施設での臨床現場依存の見聞・体験度とのクロス集計を表7に示した.

表7 プレクラスターからポストクラスターへの推移
A群 B群 C群 D群 全体
病院 薬局 n 病院 薬局 n 病院 薬局 n 病院 薬局 n 病院 薬局 n
E群 7.7 ± 3.8 7.4 ± 3.6 10 10.0 ± 3.6 6.7 ± 4.0 3 9.5 ± 2.4 8.6 ± 2.3 15 9.4 ± 4.2 9.9 ± 3.3 10 9.0 ± 3.4 8.5 ± 3.1 38
F群 9.2 ± 3.7 7.7 ± 3.2 30 7.4 ± 2.2 7.9 ± 2.8 7 10.8 ± 3.4 7.5 ± 3.0 22 8.6 ± 3.5 8.2 ± 3.4 14 9.4 ± 3.6 7.8 ± 3.1 73
G群 9.0 ± 3.0 7.8 ± 2.5 21 9.6 ± 3.0 9.0 ± 2.8 7 10.4 ± 2.5 10.1 ± 2.7 17 9.3 ± 4.6 7.9 ± 2.4 11 9.6 ± 3.2 8.6 ± 2.7 56
H群 9.2 ± 3.7 6.9 ± 1.9 11 8.8 ± 3.9 7.7 ± 1.8 6 6.0 ± 2.6 5.7 ± 2.4 7 7.6 ± 4.0 7.8 ± 3.3 8 8.0 ± 3.6 7.0 ± 2.4 32
I群 10.7 ± 2.1 5.7 ± 2.5 3 11.0 ± 1.4 5.0 ± 4.2 2 0 0 10.8 ± 1.6 5.4 ± 2.8 5

平均±標準偏差

考察

ポストクラスターの分布では,E群(n = 38),F群(n = 73),G群(n = 56)と80%以上の学生が,臨床現場での見聞・体験を通して,薬剤師に対する認識を深め職業的興味を高めたものと考える.一方で,C群やD群のように,薬剤師や医療に対する関心が高かったにもかかわらず,H群へ推移した学生は,臨床現場依存の見聞・体験度がC群→H群(病院:6.0 ± 2.6,薬局:5.7 ± 2.4,n = 7),D群→H群(病院:7.6 ± 4.0,薬局:7.8 ± 3.3,n = 8)と全体平均より低い傾向にあった.これらの学生では,訪問施設での実施内容が薬剤師に対する関心や,今後の学修意欲を低下させている可能性が示唆された.また,本研究で用いている臨床現場依存の見聞・体験度は,訪問グループを対象に項目を調査したものであり,施設での実施内容を正確に把握するためには,より詳細な測定を行っていく必要があると考える.今後も検証を進め,早期臨床体験の実施に還元する.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
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