薬学教育
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誌上シンポジウム:6年制薬学教育のアウトカムと質保証
薬学教育評価・第2サイクルの課題
山田 勉
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2018 年 2 巻 論文ID: 2018-006

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Abstract

薬学教育評価は,「臨床に強い」「チーム医療を担える」薬剤師養成を目指す薬学教育のプログラム評価である.しかし評価結果では,国家試験合格のみを目指した教育に過度に偏重しているとの指摘が後を絶たない.そこで本稿では,「三つのポリシー」の観点から第2サイクルの課題を考察した.まず「薬剤師として求められる基本的な資質」は人格の深部に及ぶ資質・能力を教育目標としているが,薬学教育モデル・コアカリキュラムは「学習すべき内容」のみを記載しており,現実のカリキュラムと方略は大学が決める必要がある.また例えば知識には「知っている・できる」「わかる」「使える」という深さがあり,真正の評価が重要である.要するに,大学は基本的な資質をディプロマ・ポリシーに,パフォーマンス評価をカリキュラム・ポリシーに組み込み,薬学教育評価機構は国家試験対策の『総合演習』による卒業判定を,両ポリシー違反と認定することが課題である.

問題と目的

1.問題

1)AIで消える職業

「雇用の未来:職業はコンピュータ化にどれほど影響を受けやすいか」 1) という論文が話題になったことがある.ちなみに,職業としての「薬剤師」が自動化される確率は表1の通り算出されている.

表1 コンピュータ化の確率による職業順位
コンピュータ化可能
順 位 確 率 職 業
54 0.012 薬 剤 師
394 0.72 調剤助手
562 0.92 調剤技師

(出典:文献1,pp. 57–72より抜粋のうえ,訳出)

もちろん,分析対象となった米国労働省が定める職業分類と日本の薬剤師制度は異なっているし,第3次AIブームは機械学習等の進化による深層学習を基盤としており,AI自体が自分で意思決定をして実世界で行動していくわけではない.したがって,AIによって日本の薬剤師という職業自体が消えることは当面ないだろう.とはいえ,コンピュータ技術の進歩によって自動化可能な範囲が薬剤師業務について拡がりつつあることは,薬剤師像を確立し,今後必要とされる6年制薬学教育を考えるうえで,重要な論点だと思われる.

2)合格のみを目指した教育

ところで,現在の薬学教育評価基準には,薬剤師という職能の未来を見据え,「薬学共用試験や薬剤師国家試験の合格のみを目指した教育に過度に偏っていないこと」という観点が設けられている.

にもかかわらず,この観点について指摘を受ける大学が後を絶たないのが,第1サイクルの現状である.たとえば,平成27・28年度評価結果では以下のような問題が指摘されている.

  • ・  4年次後期の大半を薬学共用試験CBT対策に充てる偏った教育がなされることが2,3年次の過密カリキュラムの原因となっている.
  • ・  …5,6年次の多くの時間を国家試験の準備教育に充てる偏った教育になっていることを意味しており,卒業研究など本来の教育内容に割り当てる時間を早急に増やすことが必要…
  • ・  国家試験予備校講師が「卒業要件単位の対象となる(必修)科目」の演習授業の多くを担当している.
  • ・  6年次後期の「卒業研究II」における試験(卒業研究II試験)が実質的な卒業要件となっており,さらに…,国家試験受験予備校による薬剤師国家試験模擬試験結果との相関を考慮し当該試験の合否判定がなされており,適正な卒業判定とは言えない.

2.目的

こうした結果から考えると,6年制薬学教育が目指した薬剤師像と学士(薬学)がどうあるべきかについてあらためて議論が必要であると言わざるをえない.

6年制への移行は,「臨床に強い薬剤師」「チーム医療を担える薬剤師」の養成を目指した改革である.一方,海外では調剤助手や調剤技師が担当する業務は,70%以上の確率で自動化可能であると予測されている1).本来あるべき学校のマーケティングとは,このような来るべき社会を学校がどう解釈しどう先取りしているかを,カリキュラムとシラバスによって示すことである2).では,薬剤師像を前提に,6年制薬学教育プログラムは何をどうすることが今日の高等教育として求められているのだろうか.

本稿では,この問いに答えることを目的として,第2サイクルを迎える薬学教育評価の課題について考察したい.具体的には,質保証に果たす評価の役割を踏まえ,三つのポリシーの一体的な策定と運用の観点から,どのような改善が薬科大学・薬学部と薬学教育評価機構に必要なのかについて提言を行いたい.

アウトカム重視の質保証とは何か,なぜ必要か

1.質保証の定義

まず質保証は,内部質保証と外部質保証の対概念によって説明されるのが通例である.たとえば,UNESCO-CEPES(ユネスコ・ヨーロッパ高等教育センター)の定義によれば,内部質保証とは,「機関(プログラム)の一連の活動に関する質の監視(monitoring)と向上(improvement)に用いられる大学内部の仕組み」 3) であり,外部質保証とは,「機関(プログラム)の質の審査・維持・向上のための機関間または機関の上位にある制度」 3) である.

2.専門分野別評価と質保証

この定義にしたがえば,6年制薬学教育プログラムの質保証は概ね以下のように説明できるだろう(図1参照).

図1

6年制薬学教育プログラムの質保証(出典:筆者作成)

まず薬学教育の質保証は,薬科大学・薬学部による「内部質保証」と,薬学教育評価機構による「外部質保証」から成り立っている.点検・評価・改善を薬科大学・薬学部は日常的に行う一方で,第三者評価ではその活動を報告書にまとめて薬学教育評価機構に提出する.機構は,基準に基づいて長所・助言・改善すべき事項を指摘することによって,薬学教育プログラムの改善を図り,薬学教育評価基準への適合判定を行うことによって当該プログラムの質を対社会的に保証する.

3.アウトカム重視の質保証とその必要性

ところで,薬学教育評価では第1サイクルから「目標達成度」や「総合的な学習成果」の自己評価を薬科大学・薬学部に求めており,アウトカム重視の質保証を実践しようとしてきたことが特徴である(表2).

表2 「目標達成度」「総合的な学習成果」の自己評価を求める基準・観点
○医療人教育の基本的内容(中項目3)
【観点3-1-1-4】ヒューマニズム教育・医療倫理教育
【観点3-2-2-4】コミュニケーション能力および自己表現能力を身につけるための教育
○実務実習(中項目5)
【観点5-3-6-4】病院・薬局実習
○問題解決能力の醸成のための教育(中項目6)
【観点6-1-1-5】卒業研究
【観点6-2-1-3】問題解決型学習
○成績評価・進級・学士課程の修了認定(中項目8)
【基準8-3-3】総合的な学習成果の評価
「教育研究上の目的に基づいた教育における総合的な学習成果を適切に評価するよう努めていること.」
【観点8-3-3-1】【観点8-3-3-2】

(出典:文献5,p. 96 表1を一部修正)

薬剤師という特定の専門職業人養成に関わって直接的に質保証を行う責任があること,また卒業することが国家試験の受験資格取得要件になっていることから考えると,自己評価の内容は「教育成果を学生の学習成果を中心に評価する教育評価」 4) になる.そのため,臨床を重視した全人的・専門教育に対応する多くの評価項目について,評価指標の設定による目標達成度ないし総合的な学習成果の自己評価が要請されているのである5)

「資質・能力」と薬学教育の質保証

1.学習成果としての「資質・能力」へのシフト

さて,この学生の学習成果については,その捉え方が近年大きく進展している.三つのポリシーに関するガイドラインでは,ディプロマ・ポリシーにおける「学修成果の目標」は「卒業までに学生が身につけるべき資質・能力」と表現され,アドミッション・ポリシーでは「受け入れる学生に求める学習成果(「学力の3要素」についてどのような成果を求めるか)」と記載されている.また学力の3要素は,(1)知識・技能,(2)思考力・判断力・表現力等の能力,(3)主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度と説明されている6).新学習指導要領では,この学力3要素を「資質・能力の三つの柱」と位置づけており,高大接続改革によって,「資質・能力」は初等・中等・高等教育を通貫する教育目標となったと言えよう.

2.薬剤師として求められる基本的資質

では,「薬剤師に求められる基本的資質」 7) は,どのような「資質・能力」なのだろうか.学力の3要素は主に高校での学習を想定しており,特にその(3)は「どのように学ぶか」という観点から記述されている.他方,「基本的資質」は大学卒業時に求められるものである.そこで,本稿では学力の3要素を検討する際に参考とされたカリキュラム・デザインのための概念と比較することによって,それがどのような資質・能力かを考察してみたい.

文部科学省が公開しているOECDとの政策対話資料(図28) によれば,学力の3要素とは,知識を「個別の知識・技能」に,また(いわゆるジェネリック)スキルを「思考力・判断力・表現力等」に,さらに人間性とメタ認知を合わせて「主体性・多様性・協調性 学びに向かう力 人間性など」に整理したものだとわかる.

図2

カリキュラム・デザインのための概念と,『学力の三要素』の重なり(出典:文献8

この元の図式に薬剤師として求められる資質を,試行的に当てはめてみると以下のようになるだろう(図3参照).

図3

カリキュラム・デザインのための概念と「基本的資質」(出典:筆者作成)

メタ認知に直接対応する項目は存在しないようである.この問題については後に触れるとして,ここでは「基本的資質」の大半は,「知識」ではなく「スキル」や「人間性」から構成されていることを確認しておきたい.前述の通り,ディプロマ・ポリシーにおける「学修成果の目標」は「卒業までに学生が身につけるべき資質・能力」である.「基本的資質」のこうした特徴を理解すると同時に,薬科大学・薬学部はそれぞれの理念と現実に照らして,主体的に目標を設定してそれをディプロマ・ポリシーに反映させることが必要であろう.

3.モデル・コアカリキュラムと質保証

ところで,資質・能力やコンピテンシーなどの「新しい能力」概念は,認知的な能力を越えて,人格の深部にまでおよぶ人間の全体的な能力に目を向けていると同時に,そうした能力を教育目標・対象と位置づけていることが特徴である9).他方,薬学教育モデル・コアカリキュラムは,実は「学生が学修すべき内容」を記載しているだけで,カリキュラムと方略(シラバス)は大学が決定する必要があることに注意が必要である.つまり,その内容の質保証は,モデル・コアカリキュラムという名称に関わらず,これとは別に考えなければならないのである10)

「基本的資質」を育むために

カリキュラムと方略(シラバス)の決定は,カリキュラム・ポリシーの課題である.カリキュラム・ポリシーとは,「ディプロマ・ポリシーの達成のために,どのような教育課程を編成し,どのような教育内容・方法を実施し,学修成果をどのように評価するのかを定める基本的な方針」 6) である.では,ディプロマ・ポリシーに定めた「卒業までに学生が身につけるべき資質・能力」を育むために,教育課程をどのように編成・実施・評価することが求められるのだろうか.

まず,「教授から学習へのパラダイム転換」 11) に留意することが必要である.日本においても2000年代半ばから,高等教育の焦点は「教員が何を教えたか」から「学生が何を学んだか」に移行している.このパラダイム転換から考えると,カリキュラムとは「学習者に与えられる学習経験の総体」であり,たとえばチューニング・プロジェクトでも,教えるべき知識・内容を網羅するインプット志向ではなく,コンピテンス(能力)を育むアウトプット志向に,カリキュラムは変容している12).したがって,「基本的資質」を育むためには,それがどのような学習成果なのかを明確にして,学習者に必要な学習経験を与えうるカリキュラムと方略(シラバス)を考案することが大切である.

1.能力全体の捉え方

「新しい能力」概念を「深さと広さ」の二次元で捉える松下(2010) 9) を参照しながら,「基本的資質」を実現するカリキュラム・ポリシーの課題を最初に整理しておこう(表3参照).

表3 能力全体の捉え方
深さ
要素主義的
アプローチ
コンピテンシーが能力を構成する要素として抽出され,それぞれに尺度化→カリキュラム・マップによるカリキュラム構成
統合的
アプローチ
ある特定の文脈における要求に対してそれらの要素を結集して応答する能力こそがコンピテンス→要素を含むがリスト化が焦点ではない
広さ
脱文脈的
アプローチ
文脈とは独立に個人の内的属性であるスキルにおいて汎用性を強調する
文脈的
アプローチ
文脈によって変化する対象世界・道具や他者との相互作用を含む

(出典:文献9をもとに筆者作成)

「深さ」に関して,コンピテンシーが能力の構成要素として抽出され,個別に尺度化されるのが「要素主義的アプローチ」である.この立場は,カリキュラム・マップによるカリキュラム編成と親和性が高い.他方,コンピテンスを,「ある特定の文脈における要求に対してそれらの要素を結集して応答する能力」と考えるならば,要素は含むがリスト化が焦点ではないことになる.これが「統合的アプローチ」である.カリキュラムを「学習者に与えられる学習経験の総体」と考えるならば,個別に抽出・尺度化するだけでなく,知識理解の深さをいかに実現するかが認知的側面では重要であり13),カリキュラム・ポリシーにおいてどのように統合的アプローチを採用するかが第一の課題である.

次に「広さ」については,まず個人の内的属性であるスキルにおいて,文脈とは独立した汎用性を強調する立場が「脱文脈的アプローチ」である.他方,新しい能力は,文脈によって変化する対象世界・道具や他者との相互作用をそもそも含んでいると考えるのが「文脈的アプローチ」である.(ジェネリック)スキルという分類は,「カリキュラム・デザインのための概念」としては有用であるが,たとえば薬剤師と法律家のコミュニケーション能力が大きく異なることは明らかであり,(ジェネリック)スキルの文脈依存性を前提にするのであれば,文脈的アプローチの採用が第二の課題となる.

2.高次化と深化を統一する学習(認知的側面)

まず,学力における中心的カテゴリーである認知的側面の「深さ」について考察しよう.石井(2015) 14) は,学校で育てる能力を,行為システムと認知システムの二重の階層性において捉えたうえで,後者の認知システムについて興味深い指摘を行っている(図4参照).

図4

学校で育てる能力の階層性(出典:文献13,p. 8 図1-1)

すなわち,知識のタイプには内容知と方法知があり,さらにこれらを学習する質には,「知っている・できる」「わかる」「使える」という深さのレベルがある,というのである.確かに,化学構造式を丸暗記しているだけでは「わかる」レベルとはいえず,また薬物療法において副作用を検討する場合に化学構造式に戻って考察することできなければ「使える」レベルとは言えないだろう.SBOsは知識・技能・態度の組み合わせによって構成されているが,この知識理解に限ってもそこには深さのレベルが存在するのである.このことを薬学という領域固有の知識構造や知的操作から捉えなおし14),認知的側面では高次化と深化を統一するような学習を実現できるよう13),学位プログラムにおける教科内容を構造化することが第一に必要である.

3.真正の評価の追求(社会的・情意的側面)

次は,行為システムにあたる,コンピテンシーの社会的・情意的側面の「広さ」について考察しよう.「新しい能力」を,文脈的アプローチによって整理したのが「能力の三軸構造」である(表4参照).

表4 能力の三軸構造
〈カテゴリー1〉
対象世界との関係
(認知的側面)
〈カテゴリー2〉
他者との関係
(社会的側面)
〈カテゴリー3〉
自己との関係
(情意的側面)
キー・コンピテンシー(OECD-DeSeCo) 道具を相互作用的に用いる 異質な人々からなる集団で関わりあう 自律的に行動する
21世紀型コンピテンシー(NRC) 認知的コンピテンシー 対人的コンピテンシー 自己内コンピテンシー

(出典:文献13,p. 7 表1-1)

「カリキュラム・デザインのための概念」(図3参照)は,「育成すべき資質・能力に包摂される個人の内的属性に目を向けているのに対して,DeSeCoは,個人の内的な属性と文脈・要求との相互作用に目を向け」 15) ている.したがって,「他者との関係(社会的側面)」には,協働性以外に,対立・葛藤の調停といった関係性も含まれるし,そこでは,態度だけでなく知識・スキルや能力も必要となる.また,「自己との関係(情意的側面)」には,自分の認知について知ること(メタ認知)や自分の意見を表明することなどが組み込まれている」 15).このように「新しい能力」が,ある特定の文脈における要求に対してそれらの要素を結集して応答する能力であるならば,文脈とは独立した内的属性であるスキルにおいて汎用性を強調する脱文脈的アプローチには限界がある.むしろ,学習文脈の真正性を追求すること,とりわけ職業的キャリアとしての薬剤師という職能を前提とした「パフォーマンス評価」をカリキュラム・ポリシーに組み込むことが必要である.なおその際,対象世界との関係(認知的側面)も実は学習文脈に含まれることは,新しい能力の定義からは明らかだろう.

4.学習の質と構成主義的整合性

統合的アプローチと文脈的アプローチを採用して構築されたカリキュラムを支えるのは,構成主義的に整合した科目設計である.

学習とは学習者が知識を能動的に構成することである.構成主義的整合性とは,この構成主義の学習観に立って,〈目標(意図された学習成果)-教授・学習活動-評価〉を連動させようとする考え方である13).この立場からは,意図された学習成果に向けて,教授・学習活動と評価作業が整合していて初めて,学習者は概念の意味を構成しながら学習を進めることが可能となる16)図5参照).

図5

構成主義的整合性(出典:文献16 図7を訳出)©Higher Education Academy Engineering Subject Centre, Loughborough University

換言すれば,学生の学習の質を問うために,構成主義的に整合性のある教育デザインがむしろ必要なのである17)図6参照).

図6

「学習の質」と,そのための教育デザイン(出典:文献17,p. 60 図3)

加藤(2013) 17) によれば,1)学生の学習への意識・見通しの質には,学習を浅くとらえて学習を浅くすませようとする「浅いアプーチ」と,学習を深くとらえて学習を深めようとする「深いアプローチ」がある.2)この「学習意識∕見通しの質」が,先に見た知識理解の深さという「理解内容の質」に影響を与え,3)さらに,明確な目標や方向性にてらした自分の現状を適切に振り返り,省察的に学習するかどうかという「学習の進め方の質」に影響し,これらが相互作用を経て最終的に「学習成果の質」を決定し,その成果についての認識が学習の質への意識を形成していく.

このように構成主義的整合性とは,学生の学習の質に働きかけ,「学生が深いアプローチに変容せざるを得ない状況をもたらす教育の具体的原理」 17) であり,これに基づく教育デザインとその実践が必要である.

なお,すでに述べた通り,「基本的資質」にはメタ認知(どのように省察し学ぶか)に直接対応する項目は見当たらない.しかしながら,メタ認知は「学習の進め方としての質」そのものであり学生の学習の質を大きく左右する要素である.卒業時に求められる生涯学習能力という観点から,教育目標に位置付けるべきであろう.

5.アセスメントの重点目的の設定

最後に,教育課程の評価にあたって,アセスメントの重点目的を設定する必要性について簡単に考察しておきたい.

「整合した評価」(図5参照)とは,科目レベルの総括的評価(学習の確認)である.評価結果は評価基準によって大きく異なることから,構成主義的に整合したデザインの一部として評価基準が設定され,これに基づく評価が行われることはとても重要である.しかし,他面において,学習者が知識を能動的に構成する手段として,整合性のある評価基準が提示されている場合,それは学生を主体とする形成的評価(学習の支援)として機能としていることに注意が必要である.

さらに,カリキュラム・ポリシーにおいて「学修の成果をどのように評価するのか」と表現されている内容は,科目レベルの総括的評価や形成的評価だけではなく,むしろプログラム評価を意味していると考えられる.だからこそ,ディプロマ・ポリシーではなくカリキュラム・ポリシーにおいて言及されているのである.

ところで,「複数の目的に完全に応える単一のアセスメントは存在しない」 18).したがって,学習成果のアセスメントが求められていることに変わりはないが,その重点目的を主体的にいずれかに定め,これに沿った学習成果の評価方法を特定して,実践することが重要である.

むすびにかえて

薬学教育評価が第1サイクルにおいて目指したアウトカム重視の質保証は,未完である.「薬学共用試験や薬剤師国家試験の合格のみを目指した教育に過度に偏っていないこと」はもとより,むしろ第2サイクルでは,薬剤師という職能に求められる「基本的資質」を実現するための,教育課程の編成・実施・評価の実践が一層求められると考える.むすびにかえて,どのような改善が必要なのかについて提言をまとめておく.

1.「基本的資質」を反映したディプロマ・ポリシーの策定

薬科大学・薬学部はそれぞれの理念と現実に照らして,「薬剤師に求められる基本的資質」をディプロマ・ポリシーに反映すること.

このことは,薬剤師という職能の未来を,各薬科大学と薬学部がどのように解釈し,先取りしているかをカリキュラムとシラバスによって示す前提となる.養成すべき人材は,薬剤師,調剤助手,調剤技師のいずれなのだろうか.

2.資質・能力を育む学習・教授・評価

薬科大学・薬学部は,カリキュラム・ポリシーを改定して以下を実現すること.認知的側面では高次化と深化を統一するような学習を実現できるよう,学位プログラムにおける教科内容を構造化すること.特に社会的・情意的側面では,職業的キャリアとしての薬剤師という職能を前提とした「パフォーマンス評価」をカリキュラムに組み込み,認知的側面も結集して応答する真正の評価を考案すること.構成主義的整合性に基づく教育デザインを採用して,学生の学習の質に働きかけること.アセスメントの重点目的を主体的に定めて,学習成果の評価方法を特定し,実践すること.

3.第2サイクルに向けた評価基準の改定

薬学教育評価機構は,評価基準を改定して,三つのポリシーの定義を基準・観点に盛り込み,上記1,2の実践を各薬科大学・薬学部に求めること,結果として国家試験対策である『総合演習』を必修科目とし,同科目の合否のみをもって卒業判定を行い,国家試験合格率の維持・向上を図ることは,自らが設定したディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシーに反していることを薬学教育評価において明らかにすること.

最後に,本稿では学修と学習の書き分けは原則として「学習」に統一し,引用部分では原典に従った.また,本稿の内容は,薬学教育評価機構アドバイザーとしての私見であり,同機構の公式見解ではない.第2 サイクルの受審準備にあたっては薬学教育評価機構が発行する最新の「薬学教育評価ハンドブック」を参照していただきたい.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
  • 1)  Frey CB, Osborne MA. The future of employment: How susceptible are jobs to computerisation? [cited 2016 June 26]. Available from http://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/publications/view/1314.http://www.psywww.com/psyrelig/psyrelpr.htm.
  • 2)  芦田 宏直.努力する人間になってはいけない―学校と仕事と社会の新人論,山口:ロゼッタストーン;2013. p. 200–204.
  • 3)  大場 淳.第7章フランスにおける高等教育の質保証.高等教育質保証の国際比較.東京:東信堂;2009. p. 177–195.
  • 4)  江原 武一.転換期日本の大学改革―アメリカとの比較.東京:東進堂;2010. p. 272.
  • 5)   山田  勉.6年制薬学教育プログラムの第三者評価による質保証の要件.立命館高等教育研究.2013; 13: 91–105.
  • 6)  中央教育審議会大学分科会大学教育部会.「卒業認定・学位授与の方針」(ディプロマ・ポリシー),「教育課程編成・実施の方針」(カリキュラム・ポリシー)及び「入学者受入れの方針」(アドミッション・ポリシー)の策定及び運用に関するガイドライン.文部科学省;2016.
  • 7)  薬学系人材養成の在り方に関する検討会.薬学教育モデル・コアカリキュラム 平成25年度改訂版.文部科学省;2014. p. 16–17.
  • 8)  文部科学省.カリキュラム・デザインのための概念と,「学力の三要素」の重なり.文部科学省編,教育課程企画特別部会 論点整理 補足資料.文部科学省;2015. p. 165.
  • 9)  松下 佳代.〈新しい能力〉概念と教育.松下佳代編著,〈新しい能力〉は教育を変えるか.京都:ミネルヴァ書房;2010. p. 1–42.
  • 10)  松木 則夫.薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂案 全国説明会 全体趣旨説明.公益財団法人日本薬学会;2013.
  • 11)   Barr  RB,  Tagg  J. From teaching to learning-a new paradigm for undergraduate education. Change. 1995; 27(6): 12–26.
  • 12)   松下  佳代.教育から学習への転換を支えるもの.大学教育学会誌.2013; 35(2): 10–14.
  • 13)  松下 佳代.アクティブラーニングをどう評価するか.松下佳代・石井英真編,アクティブラーニングの評価.東京:東真堂;2016. p. 3–25.
  • 14)  石井 英真.今求められる学力と学びとは―コンピテンシー・ベースのカリキュラムの光と影―.東京:日本標準;2015.
  • 15)   松下  佳代.〈センター教員・共同研究論考〉資質・能力の新たな枠組み―「3・3・1 モデル」の提案―.京都大学高等教育研究.2016; 22: 139–149.
  • 16)  Houghton W. Constructive alignment: and why it is important to the learning process. In: Engineering Subject Center, editor. Engineering Subject Centre Guide: Learning and Teaching Theory for Engineering Academics. Loughborough: The Higher Education Academy; 2004. p. 28.
  • 17)   加藤  かおり.学習者中心の大学教育における学習をどう捉えるか―深いアプローチを手掛かりに―.大学教育学会誌.2013; 35(1): 57–61.
  • 18)  Pellegrino JW. A learning sciences perspective on the design and use of assessment in education. In: Sawyer RK, editor. The Cambridge handbook of the learning science. UK: Cambridge University Press; 2014. p. 233–252.
 
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