薬学教育
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原著
薬学生を対象としたメンタルヘルスファーストエイド教育の導入とその評価
齋藤 百枝美村上 勲中村 英里安藤 崇仁土屋 雅勇楯 直子栗原 順一
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2018 年 2 巻 論文ID: 2018-019

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Abstract

日本の年間自殺者数は3万人を下回り減少傾向にあるが先進諸国の中では依然高い水準である.自殺の原因としては健康問題が最も多く,患者と身近で関わる薬剤師に自殺予防ゲートキーパー(GK)としての役割が求められている.このため,薬学部4年生を対象として,GK養成講座としてメンタルヘルスファーストエイド(MHFA)を導入しその評価を行った.精神疾患について2コマの講義を実施後にMHFAを実施し,事前・事後にアンケート調査を実施した.回答者数は251名で回収率100%であった.GKについては89.6%の学生が知らないと回答した.薬剤師が自殺予防に関わることへの自信度は事前3.0(3.0, 3.0)から事後4.0(3.0, 4.0)へ有意に上昇した.GK養成講座が役に立つかは93.6%が「役に立つ」「やや役に立つ」と回答した.MHFAはエビデンスに基づいており,対応についての悪い例,良い例をDVDで視聴し,精神的危機に陥っている人に対する対応をロールプレイにより実践的に学ぶことができるため,学習効果が大きく有用であると考えられる.

緒言

本邦の年間自殺者数は現在3万人を下回り平成29年は21,140人と減少傾向にあるが,自殺率は主要先進7か国の中で最も高く,非常事態はいまだに続いている.政府が推進すべき自殺対策の指針として自殺対策基本法に基づき自殺総合対策大綱が定められており,平成29年7月「自殺総合対策大綱~誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指して~」が閣議決定された.見直し後の大綱では,地域レベルの実践的な取組の更なる推進,若者の自殺対策,勤務問題による自殺対策の更なる推進,自殺死亡率を先進諸国の現在の水準まで減少することを目指し,平成38年までに平成27年比30%以上減少させることを目標とすることを掲げている 1).また,重点施策 2) 12項目中には「4.自殺対策に係る人材の確保,養成および資質の向上を図る」として,医療等に関する専門家などを養成する大学や専修学校等と連携した自殺対策教育の推進,ゲートキーパーの養成,家族や知人等を含めた支援者への支援等が挙げられている.

薬学教育モデル・コアカリキュラムにおいては,A基本事項②薬剤師が果たすべき役割に「7.薬物乱用防止,自殺防止における薬剤師の役割について説明できる.」が挙げられている 3)

自殺の多くは健康問題,経済・生活問題,家庭問題,勤務問題,学校問題,男女問題など複合的な原因および背景を有しており,動機別では健康問題が最も多い 4).薬剤師が関わる患者の多くは健康問題を抱えており,薬剤師は患者の身近な存在として自殺予防ゲートキーパー(GK)としての役割が求められている 5,6).このため,薬学部教育にGK養成講座としてメンタルヘルスファーストエイド(MHFA)を導入しその評価を行った.なお,MHFAは,メンタルヘルスの問題を有する人に対して,適切な初期支援を行うための5つのステップからなる行動計画で,オーストラリアのBetty A Kitchener とAnthony F Jormにより開発された.MHFAは心理的危機に陥った方に対して,専門家の支援が提供される前にどのような支援を提供すべきか,どのように行動すべきか,という対応法を身に付けるためのエビデンスに基づき開発されたプログラムである 7)

MHFAを薬学生へ行うことにより,精神的危機に陥った人に対して専門家の支援が提供される前にどのような支援を提供すべきか,また,どのように行動すべきかという対応法を学習することで,豊かな人間性を有し,医療人として生命の尊厳を深く認識し,人の生命と健康な生活を守る使命感,責任感を持たせることを目的とする.これらの教育プログラムによって精神疾患の理解が深まり,偏見差別意識の減少,および精神的危機に陥った人や精神疾患患者への対応ができるようになることが期待される.

方法

1.対象と教育プログラム

平成28年度の4年次生を対象として,統合失調症,気分障害(うつ病,双極性障害)について病態,症状,薬物療法,重症度の評価方法,対応方法等に関する2コマの講義を実施後にGK養成講座としてMHFAを実施した.GK養成講座では日本の自殺の現状について,厚労省の自殺総合対策大綱,GKについて,メンタルヘルスに問題を抱えた人に対する薬剤師対応の悪い例のDVD(こころのサインに気付いたら―ゲートキーパー養成研修用DVD,内閣府)視聴,SGD・発表,良い例のDVD視聴,SGD・ロールプレイ・感想,MHFAについて具体的に解説した(表1).

表1 MHFA教育プログラム
項目 時間(分) 内容 方法,資源
1回
90分
(1コマ)
精神疾患患者への対応(1) 40 ・統合失調症の疫学,症状,経過,治療方法について説明できる.(知識) 講義:PPT,PPT配布資料
25 ・統合失調症患者の心理に配慮した対応について説明できる.(知識) DVD視聴,講義:バーチャルハルシネーション日本版DVD(金剛出版),PPT,PPT配布資料
25 ・心理社会的療法について説明できる.(知識) 講義:PPT,PPT配布資料
2回
90分
(1コマ)
精神疾患患者への対応(2) 40 ・うつ病,双極性障害の疫学,症状,経過,治療方法について説明できる.(知識) 講義:PPT,PPT配布資料
20 ・うつ病の症状の重症度評価方法について概説できる.(知識) DVD視聴,講義:HAM-DトレーニングDVD(日本精神科評価尺度研究会,日本語版HAM-DトレーニングDVD),PPT,PPT配布資料
15 ・うつ病患者の心理に配慮した対応について説明できる.(知識) 講義:PPT,PPT配布資料
15 ・自殺を考えている人の心理と自殺の危険因子・防御因子について概説できる.(知識) 講義:PPT,PPT配布資料
3回
90分
(1コマ)
自殺予防ゲートキーパー養成講座 8 ・日本における自殺の現状と自殺対策について概説できる.(知識) 講義:PPT,PPT配布資料
8 ・自殺予防における薬剤師の役割について説明できる.(知識) 講義:PPT,PPT配布資料
14 ・メンタルヘルスファーストエイドについて説明できる.(知識) 講義:PPT,PPT配布資料
60 ・メンタルヘルスファーストエイドによる対応例について討議する.(知識・態度)
・メンタルヘルスファーストエイドによる対応法を実施できる.(知識・態度)
DVD視聴,課題,ロールプレイ:
・温かみのある態度のチェック,傾聴のロールプレイ
・DVDの悪い対応例を視聴後,対応の悪い点をSGDにより課題作成,発表
・DVDの良い対応例を視聴後,対応の良い点をSGDにより課題作成,発表
・良いシナリオによるロールプレイ
・感想の発表
・今後に活かしていくために

2.アンケート調査

GK養成講座の事前・事後に本講義に関する事前6項目,事後4項目からなるアンケート調査(図1)を無記名にて実施した.

図1

アンケート用紙

3.統計解析

事前・事後で同じ内容の2項目の設問については,Wilcoxon signed-rank test を用い,p < 0.05を有意差ありと判定した.なお,設問事前3・事後5「あなたは薬剤師が自殺予防に関わることついてどのように思いますか?」は1点:全く何もできない,2点:何もできない,3点:少しできる,4点:かなりできると点数化した.設問事前5・事後2「精神的な問題を抱えている人とコミュニケーションをとることについて,あなたはどう思いますか?」は1点:難しいと思う,2点:やや難しいと思う,3点:どちらともいえない,4点:やや難しいとは思わない,5点:難しいとは思わないと点数化して解析した.また,自由記述についてはKH coder 2.xを用い解析を行った.KH Coderの「共起ネットワーク」のコマンドを用い,自由記述のそれぞれの中で出現パターンの似通った語(共起の程度が強い語)を線で結んだネットワークを描いた.強い共起関係ほど太い線で,出現数が多い語ほど大きい円で描画される.語の色分けは,ネットワークの構造の中で,どの程度中心的な役割を果たしているかを示すもの(媒介中心性)で,水色・白・ピンクの順に中心性が高くなることを示す.媒介中心性の中心性得点(中心性を示す指標)は,R(version 3.1.0)を用いて抽出した.その共起関係をもとに,テキストデータに戻り「KWICコンコーダンス」コマンドを用いて,それぞれの語がどのように用いられているか検索した.出現回数が多い中心語は,コロケーション統計(コンコーダンス検索を行った語の前後5語以内に頻出した語をリストアップする)でリストアップされた語を追加条件に加えて,さらに文脈を検索した.

4.倫理的配慮

アンケートに際し,学生への倫理的配慮として文書および口頭により調査の趣旨,記入は自由意志であること,無記名による調査であること,非提出や未記入で単位を失うなどの不利益を被ることがないこと,得られた結果は統計学的な処理を行うことで個人が特定されないように配慮すること,研究結果は学会発表,論文等で公表することがあるが,個人情報は保護されることの説明を行い,拒否の機会を担保した.

本研究は,帝京大学倫理委員会の承認(帝倫14-112号)を得ている.

結果

1.回答者数

回答者は2017年1月25日のGK養成講座に出席した男性102名,女性149名,年齢22.4 ± 1.6歳,回収率100%であった.

2.GKの知識(事前)

GKについては225名(89.6%)が「知らない」と回答した.「知っている」と回答した26名について,情報源はテレビが最も多く12名,次いでインターネット10名,新聞・雑誌2名,友人・知人2名,家族1名,その他4名であった.

3.薬剤師の自殺予防への関わり(事前・事後)

薬剤師の自殺予防への関わりについて,事前は「少しできる」が200名(79.7%)と最も多かった.しかし,事後は「かなりできる」が154名(61.4%)と最も多く,事前23名(9.2%)から約7倍に増加した(図2).点数化した場合,中央値(第一四分位数,第三四分位数)は事前3.0(3.0, 3.0)から事後4.0(3.0, 4.0)へ有意に上昇した(p < 0.001).

図2

薬剤師の自殺予防への関わりについて.***:p < 0.001,点数化した事前と事後の比較(Wilcoxon signed-rank test).

4.精神的な問題を抱えている人とのコミュニケーション(事前・事後)

自殺など精神的な問題を抱えている人とコミュニケーションをとることについて,事前の「難しいと思う」「やや難しいと思う」を合わせると193名(76.9%)を占めたが,事後は135名(53.8%)へ減少した.また,事前の「やや難しいとは思わない」「難しいとは思わない」を合わせると13名(5.2%)であり,事後は51名(20.3%)へ増加したが,事前・事後ともに半数以上の学生が「難しいと思う」「やや難しいと思う」と回答した(図3).点数化した場合,中央値(第一四分位数,第三四分位数)は事前2.0(1.0, 2.0)から事後2.0(2.0, 3.0)へ有意に上昇した(p < 0.001).

図3

精神的な問題を抱えている人とのコミュニケーション.***:p < 0.001,点数化した事前と事後の比較(Wilcoxon signed-rank test).

5.MHFAによる認識の変化および有用性(事後)

GK講座後の精神的な問題を抱えている人とコミュニケーションをとることについての認識の変化について,「変化があった」93名(37.1%),「やや変化があった」133名(53.0%),「やや変化はなかった」15名(6.0%),「変化はなかった」10名(4.0%)と90.1%の学生が「変化があった」「やや変化があった」と回答した.

また,GK講座が今後の役に立つかとの設問では,「役に立つ」134名(53.4%),「やや役に立つ」101名(40.2%),「どちらともいえない」15名(6.0%),「やや役に立たない」1名(0.4%),「役に立たない」0名であり,93.6%の学生が「役に立つ」「やや役に立つ」と回答した.

6.コミュニケーションについての自信度と精神的な問題を抱えている人とのコミュニケーションで不足していることの関連(事前)

コミュニケーションについての自信度は「とても自信がある」4名(1.6%),「自信がある」90名(35.9%),「やや自信がない」137名(54.6%),「自信がない」20名(8.0%)であった.

精神的な問題を抱えている人とのコミュニケーションで不足していること(自由記述)について「とても自信がある」「自信がある」と回答した学生をコミュニケーションに自信がある群(回答者78名,83.0%),「やや自信がない」「自信がない」と回答した学生をコミュニケーションに自信がない群(回答者130名,82.8%)と2群に分けてKH coderを用い解析を行った(図4).

図4

精神的な問題を抱えている人とのコミュニケーションで不足していること.a)コミュニケーションに自信がある群,b)コミュニケーションに自信がない群.

文章の単純集計を行った結果,総抽出語数は1889,異なり語数は342であった.また,助詞や助動詞などの一般的な語を除外し分析に使用された語として896語(異なり語:249語)が抽出された.

「コミュニケーションに自信がある群」では,「相手」「理解」「精神」「問題」「知識」の順で記述が多く,媒介中心性の中心得点の高い上位3語は,「気持ち」「抱える」「経験」であった.「気持ち」の語が用いられた文脈として,「精神疾患を持っている人の気持ちを理解すること」「相手の立場になって考える気持ちの余裕」「相手の気持ちがあまり分からず言葉に詰まってしまう」,「抱える」では,「精神的な問題を抱えているかどうか気付くこと」「精神的な問題を抱えている人に対する接し方が分からない」「精神的な問題を抱えている人の気持ちを理解できる力」,「経験」では,「疾患に対する知識や接し方の経験」「人生の経験値」「対象患者とのコミュニケーションの経験不足」などの記述があった.

「コミュニケーションに自信がない群」では,「問題」「精神」「人」「相手」「知識」の順で記述が多く,媒介中心性の中心得点の高い上位4語は,「良い」「難しい」「判断」「取る」であった.「良い」が用いられた文脈として,「どの様に話を聞くのが良いか分からない」「どう話したら良いか分からない」「言わない方が良いことを判断すること」,「難しい」では,「どの程度コミュニケーションを取ればいいのか判断が難しい」「身構えてしまい,戸惑う気持ちを消すことが難しい」,「判断」では,「何を考えているか,状況によって言っていいことと悪いことの判断をすること」「何が必要か判断すること」,「取る」では,「精神的な問題を抱えている人への理解不足,コミュニケーションを取ることの不安」「精神的な問題を抱えている人とコミュニケーションを取る上で知識と経験が不足している」などの記述があった.

7.薬剤師が自殺予防に関わることについて(事前・事後)

事前アンケートの自由記述回答者204名(81.3%)において文章の単純集計を行った結果,総抽出語数は3540,異なり語数は505であった.また,助詞や助動詞などの一般的な語を除外し分析に使用された語として1551語(異なり語:367語)が抽出された.「思う」「患者」「自殺」「人」「聞く」の順で記述が多く,媒介中心性の中心得点の高い上位3語は,「思う」「服用」「疾患」であった.「思う」は,出現回数が91回と多かったためコロケーション統計を行った.「思う」という語の5つ前までに出現していた回数が上位5語は「関わる」「人」「自殺」「難しい」「予防」であった(図5a).これらの語を追加条件に加えて文脈を検索したところ,「アプローチの方法が分かれば,少しは関わることができると思う」「自殺を考えている人が医療機関を受診すれば関われると思う」「過量服用等の自殺に関しては,予防にも関わることができると思う」「治療のアドバイスで関われるとは思うが,自殺しようとしている人はそもそも薬局に来ないと思う」「関わっていくべきと思う反面,現実的には難しいと思う」「主に医師が関わると思う」などの記述があった.中心得点が2番目に高い「服用」の文脈では,「薬の服用により自殺する可能性が高くなることがあると思うから」「自殺願望のある人は抗不安薬などの薬を服用している場合が多いから」「不安な気持ちを聞き,正しく服用を続けてもらうことで,自殺予防につながる」,「疾患」では,「精神疾患で薬物治療をしている人が来局するから」「精神疾患患者の過量服用による自殺予防で関わることができる」「どのような疾患が,自殺を引き起こす可能性が高いか知っているため」などの記述があった.

図5

薬剤師が自殺予防に関わることについて(事前・事後).a)事前,b)事後.

事後アンケートの自由記述回答者198名(78.9%)において文章の単純集計を行った結果,総抽出語数は3301,異なり語数は506であった.また,助詞や助動詞などの一般的な語を除外し,分析に使用された語として1477語(異なり語:373語)が抽出された.「患者」「思う」「聞く」「話」「薬剤師」の順で記述が多く,媒介中心性の中心得点の高い上位3語は,「勧める」「医療」「様子」であった(図5b).「勧める」の語が用いられた文脈として,「話を聞いたり,専門機関を勧めたりできるから」「患者の話を聞いて専門家への受診を勧めることができる」「相手の不安や悩みを聴き,専門家を勧めることができる」「親身になって話を聞き,受診を勧めることで予防につながる」「サポートを得るように勧めることができる」,「医療」では,「話しを聞き,医療機関へ行くことを勧める」「薬剤師から専門の医療機関につなげることができる」「医療や患者の状態を幅広く知っている存在である」「患者さんと関わる機会が多く,医療上の悩みがある人も多いため」,「様子」では,「患者さんと直接対面するので,様子に気付き相手の不安や悩みを聴くことができる」「相手に配慮することで,感情や様子・顔色を見て,サポートできる」「相手の態度,様子で気付けると思う」などの記述があった.

考察

世界保健機関が「自殺はその多くが防ぐことのできる社会的な問題」であると明言しているように,自殺は社会の努力で避けることのできる死であるというのが,世界の共通認識となっている 8)

自殺者の大多数は自殺前に,気分障害(主としてうつ病),物質関連障害(主としてアルコール依存症),統合失調症,パーソナリティ障害などの診断に該当していたとの報告 9) がある.しかし,大多数は適切な治療を受けることなく自殺に至っているため,精神疾患を早期に発見し,適切な治療を導入することが自殺予防につながる 10).自殺の動機別では健康問題が最も多く,薬剤師は患者の最も身近な存在として多くの健康問題を抱える患者に対応していく必要がある.このため,健康問題から精神的危機に陥っている人の早期発見や適切な治療を導入するために精神疾患に関する正しい知識や対応方法を学習する必要があり,GK講座の前に自殺者数の多い統合失調症と気分障害について学習した後に,GK講座を実施した.

自殺総合対策大綱の重点施策としてGKの養成が挙げられている.しかし,事前アンケートではGKについては89.6%の学生が「知らない」と回答しており,GKに関するさらなる啓発が必要と考えられた.

MHFAはエビデンスに基づいて開発されており,MHFAプログラムの受講によって知識が増え,スティグマを伴う態度が減り,メンタルヘルスの問題をもつ人々へのファーストエイドの行動が増えることが明らかとなっている 1115).MHFAの行動計画は「り:声かけ,リスク評価,支援開始」,「は:はなしをよく聞く」,「あ:あんしんにつながる支援と情報」,「さ:専門家のサポート」,「る:セルフヘルプなどのサポート」と理解しやすい.また,メンタルヘルスの問題を有する人に対する薬剤師の対応についての悪い例,良い例をDVDで視聴し,ロールプレイにより実践的に学ぶことができる.このため,薬剤師の自殺予防への関わりについて事前3.0(3.0, 3.0)から事後4.0(3.0, 4.0)へ有意に上昇し,また,自殺など精神的な問題を抱えている人とコミュニケーションをとることについても,事前2.0(1.0, 2.0)から事後2.0(2.0, 3.0)へ有意に上昇したと考えられる.

事前アンケートにおけるコミュニケーションについての自信度と精神的な問題を抱えている人とのコミュニケーションで不足していることの関連について,コミュニケーションに自信がない群の中心性得点の高い抽出語である「良い」,「難しい」,「判断」等は,頻出語である「問題」,「精神」,「人」,「相手」等に対して,自らの行動を判断する際に用いられる単語である.すなわち,コミュニケーションに自信がない群では,自らの行動の正否に重点が置かれている傾向にあると考えられた.一方,コミュニケーションに自信がある群の中心性得点の高い抽出語である「気持ち」,「抱える」,「経験」等は,頻出語である「相手」,「理解」等と依存関係にあり,対象者の問題に重点が置かれる傾向にあると考えられた.GKには,「気づき」,「傾聴」が重要であり,対象者の問題に重点を置いて考えることが必要である.コミュニケーションに自信がない群では,自らの行動の正否に重点が置かれる傾向が考えられることから,コミュニケーション教育とGK教育の連携が必要と考えられる.

薬剤師の自殺予防への関わりでは,事前の頻出語である「思う」に対するコロケーション統計の上位には「関わる」,「難しい」といった語があり,文脈検索では具体的な行動ではなく漠然としたイメージで書かれた文脈やネガティブな文脈が多く認められた.しかし事後では,中心性得点の高い語として「勧める」,「医療」,「様子」といった具体的な行動に関わる語が挙がっており,文脈検索においても具体的な行動の記述が認められた.この結果から,本教育プログラムにより,薬剤師業務におけるGK機能の必要性を学び,GKとしての具体的な行動イメージを持つことで,薬学生がGKとして自殺予防へ関わることや精神的に問題を抱えている人とのコミュニケーションに関して自信を持てることが示唆された.また,このことにより,薬剤師の自殺予防への関わりの点数および精神的に問題を抱えている人とコミュニケーションをとることについての点数が事後で有意に上昇したと考えられる.

GK講座後,精神的な問題を抱えている人とコミュニケーションをとることについて90.1%の学生が「変化があった」「やや変化があった」と回答し,大多数の学生に認識の変化が認められた.また,93.6%の学生がGK講座が「役に立つ」「やや役に立つ」と評価し,GK講座は有用と考えられる.

自殺総合対策大綱 8) において,「調剤や医薬品販売を通じて住民の健康情報に接する機会の多い薬剤師のゲートキーパー養成の取り組みを促進する」と明記されている.また,患者のための薬局ビジョン 5) において,「健康の維持・増進に関する相談を幅広く受け付け,必要に応じ,かかりつけ医を始め適切な専門職種や関係機関に紹介する」,「地域住民の健康サポートを積極的かつ具体的に実施し,地域の薬局への情報発信,取組支援等を実施する」と明記されている.すなわち,今後薬局において薬剤師が求められる能力はGKの役割と関連性があり,薬剤師にGKとしての役割が求められることは当然の帰結といえる.また,近年,睡眠薬や抗不安薬などの処方薬乱用や過量服薬の問題 6) が広がっており,薬局・薬剤師が服薬情報の一元管理・継続的把握をすることでGKとして機能することは重要である.このような背景のもと,MHFAはメンタルヘルスに問題を抱える人に対して,症状を認識し,初期支援を提供し,いかに適切な専門家のもとにつなげるかを学ぶことができることから,薬学生にとって必要な教育プログラムと考えられる.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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