薬学教育
Online ISSN : 2433-4774
Print ISSN : 2432-4124
ISSN-L : 2433-4774
誌上シンポジウム:アンケートやインタビュー取っただけに終わってませんか?―データのより深い解析をめざして―
質的研究を実施するうえで知っておきたい基本理念
今福 輪太郎
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2021 年 5 巻 論文ID: 2020-002

詳細
抄録

質的研究の目的は,研究対象となる当事者の視点から見える事象や人々との関わり,その人の心情などの内面的世界を理解することにあり,事実に対する「良い」「悪い」の評価基準は保留することが重要である.医療者教育の分野においても質的研究への関心が高まり,質的研究を「やってみよう」「やってみたい」と思う人が増えてきている.しかしながら,それに比例して,「どんなリサーチ・クエスチョンを立てたらいいのか」「何人からデータを収集すればいいのか」「数値に表しきれない膨大なデータが蓄積されていくだけでこの先どうすればいいのか」「分析手順がわからない」など,質的研究を始めてはみたものの壁にぶつかる人も多くいるだろう.本稿では,質的研究を実施する中でしばしば生じる疑問に答えながら,質的研究の位置づけや目指すものを整理し,その基本理念や方略について考察していく.

Abstract

The purposes of qualitative research are to better understand the phenomenon, social interaction and psychological world from an emic perspective of research participants. In other words, it is important for researchers to withhold the ‘good’ or ‘bad’ criteria to statistically evaluate the fact of phenomenon. Recently, the number of researchers who are interested in conducting qualitative research has been increasing in health professions education. However, in proportion to this trend, many researchers might be struggling to carry out qualitative research due to some problems in terms of setting research questions, identifying sample size, managing the enormous volumes of qualitative data, and understanding data analysis procedures. Responding to common questions about qualitative research, we discuss the premises, principles and practices in this research methodology.

質的研究とは

本稿では,質的研究の位置づけや目指すものを整理したうえで,質的研究を実施する際の注意点や工夫について考える.

質的研究の目的は,現場や当事者の中で実際に「何が」「どのように」「なぜ」起こっているのかを探索することにある.特に,量的研究では,大規模な研究対象者からのデータ分析をもとに結果の一般化を目指すのに対して,質的研究では対象となる事象や個々人の経験を詳細に記述し,先行研究との比較検討をしながらその事象を主体的に解釈することで,読み手の文脈に汎用可能な示唆を持たせることに重きを置く.そのためには,観察可能な行動や事実だけでなく,対象者の内面世界(気持ち,認識,信条,価値観,アイデンティティ)や対象者間の社会的関係性,その事象が起こるまでの過程を文脈と関連づけながら深く解釈することが重要となる.

この二つのアプローチの違いは,研究の根底にある現実や知識の捉え方(存在論や認識論),パラダイムの違いが影響している1).概して,量的研究は,現実世界は静的で観察・測定可能なものであるという実証主義的立場をとるため,客観性や反復可能性を重視する.一方,質的研究は,現実世界は人々により社会的に構築され多元的であるという構成主義・解釈主義的立場をとるため,参加者の行為や経験等を探求し理解することを重視する.特に,構成主義的観点からは,人々の体験(現実)は,その主体と無関係に事実として存在するのでなく,社会的文脈や他者との相互行為を通して主観的に解釈され内在される多元的なものとして捉えられる.つまり,質的研究では主観的事象を対象とするのである.ここで留意すべきことは,両者は目指す方向性が異なるため,質的研究を量的研究の判断基準で評価することはできないということである.

以上より,質的研究では,実験や統計解析に基づく量的研究では得られない知見を得ることが目的になる.質的研究は,問題を解決するための研究ではなく,潜在する問題を発見するための研究であり探索的な特性を有する2).また,今福は,質的研究からみえるものとして以下のようにまとめている3)

文脈と関連づけた具体的状況の記述

研究者が,事象が起こるフィールドであれ対象者の内的世界であれ「現場」に入ることで,その文脈と関連づけながら実際に何が起こっているのか,そこにいる人々が何を感じたのかを探索することが可能になる.

経時的変化やプロセスの記述

複雑な状況の中で,外見的に観察可能な行動だけではなく,人々の内面的現実の変化(プロセス)を描くことができる.

問題の発見と探索

既知の研究的知見が十分でない事象において,どのような問題が潜んでいるのかを探索することができる.

質的研究のめざすものは,研究対象となる当事者の視点から見える事象や人々との関わり,その人の心情などの内面的世界を理解することにある.また,事象に対する「良い」「悪い」の評価基準は保留して,「なにが」「どのように」「なぜ」起こったのかを解明することが重要である.つまり,「管理」ではなく「理解」というスタンスが質的研究においては求められる4)

質的研究を実施するうえでの注意点や工夫

医療者教育の分野においても質的研究への関心が高まり,質的研究を「やってみよう」「やってみたい」と思う人が増えきている.しかしながら,それに比例して,「どんなリサーチ・クエスチョンを立てたらいいのか」「何人からデータを収集すればいいのか」「数値に表しきれない膨大なデータが蓄積されていくだけでこの先どうすればいいのか」「分析手続きがわからない」など,質的研究を始めてはみたものの壁にぶつかる人も多くいるだろう.また,「サンプル数が少ないからとりあえずインタビューしてみよう」「質的研究って流行っているからやってみよう」というような声もあるかもしれない.ここでは,質的研究の実施に関わる一般的な疑問に答えながら,その注意点や工夫について考察する.

どのようなリサーチ・クエスチョンを設定すればいいのか?

研究を進めていく際に,とりわけデータ収集や分析手法に目が向きがちになるが,その前段階として研究目的やリサーチ・クエスチョンを明確にしておくことがとても大切になる.それにより,適切な文献レビューからリサーチギャップを特定したり,研究目的に合致した一貫性のある研究をデザインしたりすることが可能となる.リサーチ・クエスチョンは,インタビュー等のデータ収集の計画や分析過程,考察に至る全ての研究プロセスの根底でつながっており,研究者が「何を聞き出すためのインタビューなのか」「どんな視点でデータを解釈したらいいのか」を考える指針にもなる.そのため,その都度その都度リサーチ・クエスチョンに立ち返ることが重要となる.

質的研究におけるリサーチ・クエスチョンを設定するときの重要な観点は,「どうすればいいか」という問題解決に向けた問いではなく,「どうなっているか」という事象理解や問題探索に向けた問いを意識することである2).また,Willig は,質的研究におけるリサーチ・クエスチョンの特質に関して「リサーチ・クエスチョンはオープンエンデッドなものである.すなわち,単純に「はい」「いいえ」で答えられるものではない.リサーチ・クエスチョンからは詳細な記述を与えるような答えが必要である.また可能であれば,現象の説明も必要である(p. 20)」と述べている5).さらに,「何が起こったか」に留まらず,「どのようにものごとが生じたのか」を問うことが良いリサーチ・クエスチョンの設定の鍵となるとも述べている5).つまり,質的研究のリサーチ・クエスチョンでは,what やhowから始まる疑問文が軸となり,仮説検証というよりは現実世界の詳細な記述から仮説生成することが主眼となる.

臨床研究のリサーチ・クエスチョンの規準として「FINER:F = Feasible(実施可能性がある),I = Interesting(興味深い),N = Novel(新規性がある),E = Ethical(倫理的である),R = Relevant(必要性がある)」がある.FINERクライテリアは臨床研究や医療系の研究だけでなく,社会科学系の研究にも適用できるとされている2).その適用の詳細は大谷(2019)を参照されたい2)

膨大な質的データにどう対処するか?

インタビューや録画データなど膨大な言語資料に圧倒されて分析がなかなか進まないという経験を持つ人も多いだろう.質的研究ではデータ収集が全て完了していなくても分析を開始することが可能なため,収集中に分析を少しずつ進めておくことが大切になる.特に,早めに分析を開始することで,その結果内容をもとに収集方法(インタビューガイド等)を見直し,修正,調整できる利点がある.つまり,質的研究デザインは柔軟性を有しているため,少しずつでもまずは分析してみることが肝要である6,7)

特に,質的研究の初学者にとっては,経験のある研究者とともに複数人で最初の数例を分析してみるのも一つの方略かもしれない.コーディングの手続き方法や分析の視点を確認できるだけでなく,膨大なデータに立ち向かうための精神的な支えにもなりうるからである7)

質的データ管理やコーディング,分析過程の可視化など質的研究を支援するソフトウェアも多く開発されている.ソフトウェアにより自動的に質的データを分析,解釈することはできないが,研究データに関わる手続きを効率化する一つのツールとして覚えておくことに損はないといえる.

分析手法は何が一番いいのか?

質的研究では,唯一の定石的な分析手法はないといえる.というのも,グランデッド・セオリー・アプローチ8,9) や修正版グランデッド・セオリー・アプローチ10),Steps for Coding and Theorization(SCAT)2),主題分析法11) など体系的,帰納的に質的データを分析する手法が多く考案されており,各々で少しずつその特徴や焦点,手続きが異なるからである.つまり,研究目的やリサーチ・クエスチョンに立ち返り,どの分析手法が適しているのかを検討する必要がある.表14に各分析手法の概要を示した.

表1 グランデッド・セオリー・アプローチ(GTA)

 ➢ グラウンデッド・セオリー・アプローチ(grounded theory approach: GTA)は,(a)データに根ざして,(b)概念をつくり,(c)概念同士の関係性をみつけて,(d)理論を生成する分析手法である.

【分析手順】

①データ収集

②テキスト化

③切片化:

言語データを分析単位に分割する.目的は,文脈から切り離すことで,分析者が言語データから距離をとることにある.

④オープンコーディング:

1.プロパティ(切り口・視点)・ディメンション(中身・内容)の書き込み

2.ラベルづけ(データの簡潔な名前)

3.複数のラベルを束ねたカテゴリーの生成

⑤軸足コーディング:

カテゴリー同士を関連付ける作業.パラダイム(状況・行為/相互作用・帰結)を用いて各カテゴリーを再統合する.

⑥選択的コーディング:

コア・カテゴリーに向けて各カテゴリーを関連付ける.「コア・カテゴリー」とは,カテゴリーを統制して理論を生成する際の中心になるものであり,プロセスを把握することが重要となる.

⑦ストリートラインの作成:

カテゴリー関連図を作成したら,理論的サンプリングを新たに行い,全体像を把握するために,ストーリー・ラインを記述する.「ストーリー・ライン」とは,現象をカテゴリ―,ラベル,プロパティ,ディメンションを使って記述したものである.

 

表2 修正版グランデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)

 ➢ グランデッド・セオリー・アプローチとの違いは,データの切片化をせずに,コーディングもオープンコーディングと選択的コーディングのみを行う.

 ➢ まずは,分析テーマとともに分析焦点者を決める.分析焦点者とはデータの解釈のときに特定の人間に焦点をおくということである.

【分析手順】

①切片化の代わりに,「分析ワークシート」を作成する.1概念につき1ワークシートになる.また,言語資料中に数ページにわたって述べられている事柄を一つの意味として解釈することもある.

分析ワーククシート:

概念名:ヴァリエーションの記述を束ねる上位の概念

定義:どのようにデータを解釈したか

ヴァリエーション:記述の抜出

理論的メモ:プロセスで「気づいたこと」,「考えたこと」,「採用しなかった解釈」などを記入

②各概念を関連づけカテゴリーと結果図を生成

コア・カテゴリーがみつからなくても,カテゴリー間の関係性を把握し,全体を説明することができる.

関係性発見のポイント:「理論的メモ・ノート」を参考にする.

無理に概念同士を結び付けないことが重要である.その結び付けに不足するデータは理論的サンプリングにより追加し,結果図にまとめる(≒カテゴリー関連図)

③ストーリーラインの作成

分析結果を生成した概念とカテゴリーだけで簡潔に文章化する.

木下(2007)を参考に作成

 

表3 SCAT(Steps for Coding and Theorization)

 ➢ Glaser & StraussのGTAが,比較的大規模なデータの採取と長い研究期間を要する大がかりな研究であって,ごく小規模のデータやすでに採取した手持ちのデータには適用できないこと,また,この手法を含む質的研究の多くの手法では,分析の際にデータにキーワードのようなコードを付していくが,コードがうまく思いつかないと悩む初学者が多く,理論化を行うことが難しいことを受けて,開発された.

 ➢ SCATでは,分析フォームの中にセグメント化したデータを記述し,そのそれぞれに下記のコーディングを行う.

〈1〉テクストの中の着目すべき語句

〈2〉テクスト中の語句の言い換え

〈3〉それを説明するようなテクスト外の概念

〈4〉前後や文脈を考慮してテーマ・構成概念,及び 疑問・課題の順にコードを考えて付していく.

 ➢ 次に〈4〉のテーマ・構成概念を紡いでストーリー・ラインを記述し,そこから理論を記述する

 ➢ この手法は,一つだけのケースのデータやアンケートの自由記述欄などの,比較的小規模の質的データの分析にも有効である.また,明示的で定式的な手続きを有するため,初学者にも着手しやすいとされる.

大谷(2019)を参考に作成

 

表4 主題分析(テーマティック・アナリシス法)

 ➢ 主題分析は,「こうしなくてはならない」という絶対的な枠組みはなく,自由度が高い手続きである.

 ➢ 演繹的に既存の理論やコードを当てはめる方法や,帰納的にデータからコード,カテゴリーを生成する方法,また,その両方を取り入れたハイブリッドのアプローチがある.

 ➢ 基本的には,文字テキストデータに内容を代表する短い言葉をつけ(ラベル),具体から抽象へとコードを階層的にまとめていき,生データの分量を縮小していく作業を行う.

 ➢ コーディングユニットに関しても規定はなく,インタビューガイドの各質問や1段落,1文など「自由」に研究者が設定できる.

 ➢ 生データからリサーチ・クエスチョンに関連があると思われる語やコンセプトを探していく方法とリサーチ・クエスチョンにかかわらず,重要と思われる語やコンセプトを探していく方法がある.

【主なコーディング手順】

1)各研究参加者のインタビューデータ(逐語録)をコーディングする.逐語録を何度も繰り返して読んでからコーディングを開始する.極力短い単語や語句を用いてラベルを付す.初学者は生データの言葉をそのまま使ってコーディングの第一段階を進めてみるとよい.

2)複数の逐語録から類似したコードでまとめるコードブックを作成することを勧める.コードブックには,①ラベル,②明確な定義(ラベルの説明),③取り入れ条件,④除外条件,⑤肯定的,否定的な具体例を記述するとよい.

3)コードやカテゴリーの関連性を眺めて,その事象のパターンを説明するテーマを生成する.

土屋(2016)を参考に作成

各々の質的分析手法で共通することは,数値化できないデータからどのようなテーマやストーリー,パターン,理論があるのかを浮かび上がらせることであり,質的データ分析は,仮説検証ではなく仮説生成(Data-driven)であるという意識を持つことが大切となる.また,いずれの分析手法も分析ワークシートやフォームが用いられ,どのデータからカテゴリーや概念が生成されたか,また,その生成プロセスでどのような思考過程が分析者にあったかを明示することも共通している.どの分析手法を採用したか自体よりも,概念生成や分析結果・解釈に至る過程を他者に十分に示すことが重要になる.

質的研究は主観的であるのに科学といえるのか?

実証主義の立場による研究では,主観性を排除し,いかに客観的に現実を測定・評価するかが重視される.一方で,質的研究では,必ずしも客観性を保持する必要はなく,研究参加者がどのように現実を見たのか・経験したのかという主観性を基盤にした現実の「質」を詳細に記述することを重視する.そのため,むしろ研究参加者の主観は大切にしなければいけない.そこには,当事者の視点をありのままに理解しようとする構成主義的パラダイムが大きく影響する1)

量的研究者からは,分析者の主観的解釈に基づいて結果を導く研究は科学とはいえないと批判されることもあるかもしれない.質的研究では,質的データ(つまり,研究参加者の現実の主観的解釈)を分析者は深く解釈する必要がある.その分析過程において,当事者の視点をありのまま記述するためには,質的データと分析者の意味づけや解釈とを何度も往還する対話的手続きをとらなければいけない.つまり,コードを付しては,データに立ち返り,その分析過程を省察しながら修正する手続きを繰り返すことで,直観や思いつきだけではないコーディングが可能になる.

さらに,質的研究において,研究者自身が最大のツールだと考えられており,自分自身が誰なのか,なぜこの研究テーマを設定したのか,どのような立場から「現象」を解釈するのか,研究者と研究参加者とはどのような関係性なのかなど,研究者自身の質的研究への影響を意識する再帰性(reflexivity)の記述が鍵となる.これにより,研究者の背景やバイアスの分析への影響を,たとえ排除できなくても,抑制することはできるだろう.その分析への影響を研究の限界として自覚することもできるといえる7,12)

分析結果と先行研究や理論的枠組みとのすり合わせも必要になる.そうすることで,単なる分析者の感想ではなく,対象となる現実にどのような意味があるのかをこれまでの知見を基盤として理解し考察することができる.つまり,質的データから深い分析結果を導くためには,個の現象の理解を超えた普遍的な示唆へと昇華させることがポイントとなる.

質的研究の結果は一般化できるのか?

質的研究では,現象の数値的な評価・検証を通して,その結果の一般化を(必ずしも)目的とはしていない.対象となる「現実」で何が起こっているのかを詳細に記述することで,そのプロセスを解明し理論的且つ実践的示唆を持たせることが目的となる.つまり,量的研究とは違い,質的研究の結果の一般可能性(generalizability)は,翻訳可能性(transferability)という考え方で担保される13).翻訳可能性とは,論文読者が質的研究の知見と自分自身のケースを比較し,自分の文脈にそれを翻訳・応用させることで「一般化」が可能になるという考え方である.これにより,質的研究では,研究参加者を増やすことで普遍性のある知見を追究するのではなく,その個別的具体的な対象から深い意味や問題を見出すことで「普遍性」のある知見を追究しようとする2).つまり,個の特徴や過程の深い理解によって,その現象の根底にある他の文脈にも当てはまるような普遍的な概念が抽出できると考えるのである.このように,質的研究では,サンプルの大きさではなく,分析の深さが問題となる.

翻訳可能性を担保させるためには,研究の「厚い記述」が重要である14).これは,ただ単に記述量の多さを意味しているものではない.研究参加者の外見的な特徴や観察可能な行動・現象だけでなく,文脈と関連づけながらその現実に対する意味づけや価値観などの詳細を記述することである.「厚い記述」は,質的研究の結果だけでなく,データ収集や分析の段階でも必要であり,最終的な解釈に至るまでの分析の流れや研究者自身の省察の記述も含まれる.

まとめ

質的研究と量的研究の違いは,依拠するパラダイムの違いが大きく影響している1).質的研究を実施するまえに,前提となる質的研究のパラダイム(=概して構成主義)の理解が重要となる.研究パラダイムは,リサーチ・クエスチョンの設定やデータ分析,収集,結果の記述,考察など研究デザインの基盤になるものである.例えば,本稿では,質的研究の実施における注意点や工夫について論じたが,主観性や一般可能性は,研究パラダイムの違いによるところが大きい.

質的研究計画をどう進めていいか困ったときは,質的研究のチェックリストを活用するのもいいかもしれない.例えば,Consolidated criteria for reporting qualitative research(COREQ)は,研究者自身のことや研究参加者との関係性,方法論と理論,サンプリング,収集方法,分析方法,結果の提示方法など32項目の論文執筆時のチェックリストであるが,質的研究を実施するうえで何を注意すべきかを知る資料として役立つ15)

医療者教育において,質的研究による知見は教育改善や開発に有用な示唆をもたらすと考える.本稿が,質的研究の特徴の理解を促し,薬学教育領域の質的研究の実施・発展の礎になれば幸いである.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
© 2021 日本薬学教育学会
feedback
Top