Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Special Topics | Consideration of the university-centered clinical training aiming at improvement of the quality of the pharmacist
Active contributions required of the university and the academic society to the practical training
—Recommendations from the satellite symposium—
Tadashi Suzuki
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2021 Volume 5 Article ID: 2020-014

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抄録

改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムに準拠した新しい実務実習が2019年2月に開始された.それに合わせて,第4回日本薬学教育学会のプレイベントとして3月に全国から70名の実務実習関係者が集まり,新しい実務実習について論議するシンポジウムを名古屋市立大学で開催した.シンポジウムでは,新しい実習の指針である薬学実務実習に関するガイドラインへの対応や課題について話し合い,実習実施方法の改善や,実習評価の充実,参加体験型実習の推進などについて意見が出された.今後,さらに実習生を送り出す大学が主体となってそれらの課題を検討し,施設と一緒に改善していくことが求められていること,学会も大学や団体の枠を越えて臨床薬学教育に貢献していく必要があることなどが議論された.今回のシンポジウムの成果を情報共有し,今後の実務実習のさらなる質の向上に向けオール薬学で臨む姿勢が重要であると考える.

Abstract

New pharmaceutical practical training based on the revised model core curriculum for pharmaceutical education has started in February 2019. And we held the symposium as a pre-event for the 4th annual meeting of Japan Society for Pharmaceutical Education to discuss new practical training at Nagoya City University. At the symposium, we discussed how to follow the guideline for new practical training, and exchanged opinions on improving the method of conducting the training, enhancing the quality of new training evaluation, and promoting the training with interactive experience. I introduce those opinions at the symposium, and I emphasize that the university and the academic society need to actively contribute to make the training more effective.

はじめに

平成25年度改訂薬学教育モデル・コアカリキュラム1) に基づく新しい実習が平成31年2月から開始された.新しい実習では「薬学実務実習に関するガイドライン」2) が提示されており,早期からの参加体験型実習の推進,大学と施設間の連携の強化,学習成果基盤型教育に準じた新しい評価などが導入されている.ガイドラインで提示された事項は,大学が主体的に活動して薬学臨床実習の質の向上を目指すための提言であり,実際に大学が主体的に活動できたか,そして旧来の実習に比して質の向上につながったかを今後確認していく必要がある.

今回まずはガイドラインに則した実習を行うための準備状況と開始された実習の状況を全国レベルで検討するシンポジウムを開催したのでその成果とそこから考察される今後の課題について述べる.

第4回日本薬学教育学会サテライトシンポジウム

2019年3月30日名古屋市立大学薬学部キャンパスにおいて第4回日本薬学教育学会のプレイベント(東海薬学教育連携コンソーシアム共催)としてサテライトシンポジウム「薬学実務実習情報共有と課題検討シンポジウム」を開催した.本シンポジウムでは,北海道から九州まで全国各地区の大学実務実習担当者と,東海,関東,近畿地区の病院・薬局実務実習指導薬剤師の代表に集まっていただき,70名が6グループに分かれて小グループ討論(SGD)を行った.SGDでは,まず各地区の実務実習への取り組みについて代表者から報告いただき,その情報を基本にして,各地区の状況の情報共有,課題の検討を行った.各グループでまとめたSGD成果の発表と,その後の総合討論から,2019年度より開始された改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムに準拠した新しい実務実習の準備状況と課題を情報共有することができた.

新しい実務実習開始にむけた準備状況

新しい実務実習の準備状況は,地区や大学により差が見られた.特に進んだ地域としては,東海地区と近畿地区があげられる.東海地区では,薬系7大学が連携した組織を調整機構とは別途設立して,実務実習実施計画書,WEBシステム,大学・施設間の情報提供などのツールや運用方法を大学と病院・薬局間で合意しながら準備を行った.近畿地区では,地区内の各地域で薬局と病院のグループをつくり,薬局と病院の連携をスムーズにし,大学はそのグループとの情報共有を密にすることで,主体的な役割を果たす新しいシステムを準備して運用を始めた.北陸地区からは,単純に薬局-病院という順番で実習を行うのではなく,病院・薬局の各実習期間の11週間を地域医療の実情に合わせて,より教育効果の高い実習期間に少し組みなおして実習を行う試みの紹介があった.

薬局-病院実習の順番を固定し,連期で行う実習が求められ,実習施設の割振りにはどの地区も苦労したことが報告されたが,すべての地区でガイドラインの要件に従った実習の割振りは実施できたようである.

新しい実務実習で準備することになった「実務実習実施計画書」は,ほとんどの地区で実務実習指導・管理WEBシステム(WEBシステム)を利用して大学・薬局・病院施設間で計画書を共有することになっているが,新しいWEBシステムの運用開始が遅かったことや,準備されたシステムの不備なども影響して,シンポジウムの時点では各地区での利用方法は仮運用の状況が多く実習を進めながら改善していく方向であった.

大学・薬局・病院の実習内容の共有についても,ほとんどの地区がWEBシステムによる実習生の「振り返りレポート(週報)」を共通に閲覧することで対応する方向であったが,一部の地区・大学ではポートフォリオなどのツールを使って学習内容を詳細に共有する運用も始まっている.

学習成果基盤型教育に基づく新しいパフォーマンス「評価」(概略評価)についても,ほとんどの地区がWEBシステム利用の方向であったが,前年度からの先行導入(トライアル)が十分であった地区は少なく,その対応について不安を抱えたままの状況が確認できた.

新しい実務実習の課題検討

SGDの成果発表であげられた意見で重要と思われるものを表1に示した.このシンポジウムが開催された時期は,第1期実務実習が開始されたばかりであり,実習を経験した実習生の意見や感想を反映できていないのは残念であるが,長い期間をかけて新しい実習の準備をしてきた大学や施設の責任者の真摯な意見があげられている.また,SGDの会場では,新しい実務実習に対応したWEBシステムの設定や運用,使い勝手に困惑しストレスを感じている意見も多数聞かれたが,WEBシステムは,あくまで大学と実習施設,学生の情報共有をするツールであり,薬学教育協議会の検討委員会も立ち上がっており,今後順次改善されていくことを予想して,今回のSGDでは,そのツールを使ってどのような情報をどのように共有,活用していくのかを中心に話し合っていただいた.従って,表1にはあえてWEBシステム自体についての意見は提示していない.

表1 サテライトシンポジウムのSGDで出された意見(抜粋)
○実習期・実習順
・年度をまたぐ実習期間は調整が難しい
・実習期の間の準備期間が短く対応が大変
・お盆・年始年末・長期休日などの対応をどうするのか明確になっていない
・薬局が先は概ね良好だが,地域連携や患者のつながりは見えにくいのではないか
○大学・施設間の連携
・学生の成績も含めきちんと情報を共有した方が学生に合わせた実習が可能
・大学の事前学習の内容やその評価はきちんと伝達して欲しい
・薬局・病院の評価もすべて共有した方が効果的な実習ができるのではないか
・薬局も病院も地域でのグループ実習を検討し導入する方が実習に有効
○評価
・評価の視点について,指導薬剤師間での共有が十分でない
・大学と施設の指導薬剤師の評価の視点のすり合わせは必要
・大学・薬局・病院と連続して同じ評価表で評価する方が効果的ではないか
・提示されているSBOの取扱いについてどうすればよいか明確でない
○代表的な疾患
・8疾患を全て体験できない事例がかなり見られる
・実習生も大学も体験する疾患や患者の「数」にこだわりすぎていないか
・8疾患の強調しすぎが施設の実習参加を妨げている
○その他
・大学や他の施設の学習内容が分かることで自施設の実習内容が再検討できた
・疾患ベースで実習生に話ができることで指導しやすくなった
・指導薬剤師,学生,教員のコメントをお互い確認できるのは参考になる
・施設の指導薬剤師間,大学と施設間で実習について議論できる機会を広げて欲しい

ガイドラインに提示された,薬局-病院の順に連期で実習を行うことに対応した4期制については,どの地区も苦労して実現にむけた努力が見られた.ただ,年度をまたぐ実習期,実習期と実習期の間の短い準備期間,お盆・年始年末期間の対応など課題は多い.地区間でも実習施設の状況,冬季の対応など大きく条件も異なり,全国一律での実施に批判的な意見も出された.

大学と施設,薬局と病院間の情報共有の内容にも,各大学,薬局,病院での考え方の違いがみられ,学生の成績までしっかり共有した方が教育効果も上がると考える参加者が多かったが,大学側の責任者には,学生情報の全面的開示・共有には慎重論が多かった.

評価については,新しい概略評価(ルーブリック評価)について,学生,大学,施設指導薬剤師で未だ理解が十分ではなく,評価を的確に実施できるかに疑問をもつ意見が多く,それを大学の成績評価に連結できるかについても準備されていない状況が明らかになった.

代表的な疾患については,8つの基本的な疾患を全て体験させることばかりに大学や実習現場の意識が向いていることに注意喚起が必要であるという意見が多く出された.大学側は,実習生に本当に幅広く疾患を体験させてもらえたかを確認するためにも体験した疾患の数や記録をきちんと報告して欲しいという要望は根強かったが,施設で疾患の体験数を数えることに意識が向くと,薬剤師が疾患をどのように捉え,患者に最適な薬物療法をどのように考えるかという根本的な学習に目が向かなくなり,旧来の実習の到達目標(SBO)チェックの評価に戻ってしまうのではないかという意見も多く聞かれた.また,代表的な疾患の体験を実習施設に強要するような雰囲気があり,実習施設の指導薬剤師のモチベーションにも影響しかねないという意見も出ていた.

その他,新しい実習は開始されたばかりであったが,大学,施設間で情報連携するようになったことが,大学・施設連携さらには地域医療連携全体に良い影響を与えてくれるのではないかという期待は,すべてのSGDグループで聞くことができた.

シンポジウムから見えてきた新しい実務実習の検討課題

実務実習の学習効果を高め,実習生に公平に参加体験型の実習を行うことを目標に提示されたガイドラインであるが,シンポジウムの中で,4期制が本当に理想的な実習期間であるのか,薬局-病院の順番で実習を行うことが本当に実習生にとって有益であるのか,その効果,欠点を含め今後評価,検討してくことは必要という意見は多かった.薬局を先に行う実習は,シンポジウムでは概ね好評であったが,地域連携や患者のつながりが見えにくい面も指摘され,実習期も含めた地域連携を理解しやすいさらに有効な実習方法の検討は今後の課題である.

参加体験型を推進する新しい実習で,確かに実習生の早期からの継続的な患者対応は増加し,病院では病棟業務を中心にした実習が行われてきている.ただ,ここでも代表的な疾患に見られるように,対応した患者数を数えることに意識が向いて,作業をただこなしているだけになっていないかという危惧がある.作業ではなく,その業務の意義をきちんと理解できるような実習,個々の患者の状態を考え,薬物療法をしっかり考察する実習を推進できるかは,今後の大きな課題である.

実習の評価については,形式上は,実習生が目標のどこまで到達したかそのパフォーマンスを測定し評価する内容が整い,多くの説明会も開催され実務実習の新しい評価は開始された.しかしながら,その評価をなぜ行うのか,その評価でどのような指導を学生に行うのか,実質的な評価の活用まで含めて,今後も大学が施設に積極的に情報を提供していく必要がある.本来は,実習生が卒業時までにきちんと目標の臨床での実践的能力を身に付けたかを評価することが必要で,その評価の中で重要な位置を占めるのが実務実習での実習生の評価である.確かに,大学での事前学習,薬局実習,病院実習の新しい評価は,学生への形成的評価に有効に利用されてきている.しかしながら,現状は大学,薬局,病院がそれぞれの評価表で評価を行い,継続的な総合評価ができていない.また,大学の想定している学生評価の中に薬局,病院での実務実習評価をどのように活用していくのか明確にしている大学はほとんどない.それどころか,未だにSBOの実施・未実施に評価の重点をおいている指導者が多く見られる.

今後実習生により効果的で満足度の高い実習を実現していくためには,これらの課題を確実に検討し必要があれば積極的に改善していく必要がある.そのために,ガイドラインにも強調されているように,医療人材となる薬剤師教育を行い,薬局や病院に実習生を送り出して実習を依頼している大学が責任をもって主体的に行動していくことが求められることは言うまでもない.大学は,実習を行う施設の薬剤師にきちんと情報提供を行い,実習の指導方法などを一緒に検討することで,実習施設での学習効果を高めていく責務がある.さらに,実習生,施設の意見を集約して実習の期間や内容を精査し,より効果的な実習の運用方法を提案し,地区内で協議の上それが効果的であると結論されれば改善していく必要がある.大学が実習施設との連携を深めることで,地域医療連携にも貢献できる可能性が高く,その貢献はさらに質の高い実務実習にもつながっていく.大学が実務実習に主体的に貢献することが実務実習の質を向上させ,地域医療を活性化する.それは,結果的に薬剤師の質の向上,社会での評価を高めることであり,薬学部の存在価値を高めることでもある.

実務実習の評価は,先にも述べたように,現状では大学-薬局-病院と継続した総合的な学生のパフォーマンス評価ができないため,学生の成長を長い期間で連続して評価することができない.大学,薬局,病院それぞれで,その業務への思いや教育への考え方が違うことは理解できるが,医療人材育成を考えた時,やはり大学6年間で学生が成長したかどうかを継続的に評価して指導することは重要であり,特に臨床の実践的能力を真に評価できる薬局・病院実習での評価をその中に加えていくことで,学生自身にも自分がどこまで成長し,何が不足しているかを理解させることができる.このような,総合的な薬剤師としての成長を評価する指標は,大学や職能団体で検討して提示することは難しい.そこで,例えば日本薬学教育学会のような,団体や大学を越えて真に薬学教育・薬剤師教育という目的で集まった専門家集団で,医療人材育成の大きなビジョンと具体的な評価方法などをまずは提示する必要があるのではないかと考える.お互いの利害や思いを乗り越え,本当に理想的な薬剤師教育とは何かを,今薬学教育では必要としている.そこに学会という集まりの持つ意義は大きい.それは,次世代の薬学教育への準備であり,より進んだ学習成果基盤型教育による20年後,30年後に活躍する薬剤師の輩出につながる最重要な学会活動であると考えている.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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