薬学教育
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実践報告
クラウドを活用した協働学修による大規模クラスにおける文章指導
西牧 可織二瓶 裕之井上 貴翔鈴木 一郎足利 俊彦堀内 正隆新岡 丈治木村 治青木 隆
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2021 年 5 巻 論文ID: 2020-042

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抄録

大規模クラスであっても効果的な文章指導を行うために,クラウドを活用した協働学修を授業に組み込んだ.クラウドを活用した協働学修では,クラス規模の大きさを逆に利点とするために,ネットワーク上に仮想的な共同作業の場を提供することでディスカッションの活性化を図った.その結果,受講生が互いの意見を見ながら,全員がクラウド内で自身の意見を発するようになり,授業最終回には意見の記入回数も増加するなどディスカッションが活性化されたことを確認した.また,ディスカッションを経て提出したレポートは正答との一致率も高まった.さらに,学生へのアンケート結果からも,SBOに対する達成度が授業回を追うごとに高まり,文章指導における協働学修の必要性の認識も高まるなど,薬学教育における言語表現能力の必要性や重要性に対する気づきが多くの学生へ広がったとの知見を得た.

Abstract

The purpose of this study was to investigate the effect of utilizing a cloud service in cooperative learning strategies for developing students’ writing skills in a large-scale academic writing class. The study aimed to encourage discussion in a cooperative learning group by providing students with a cloud-based virtual learning environment. As a result of reading other students’ comments, all students learned to express their own opinions, leading to an increase in the number of submitted comments by the end of the course as group discussions were enhanced. The essays submitted after the group discussions also improved. Furthermore, the results of the students’ questionnaires indicated achievement in the specific behavioral objectives (SBO) toward the end of the course. The students recognized the importance of cooperative learning in academic writing and the necessity of developing strong writing skills in pharmaceutical education.

目的

薬学教育においても言語表現能力は,実務実習において週報や日報を作成したり,卒業研究を論文にまとめたりなど多くの場面で問われてくる.そのためにも,科学的な根拠となる事実や情報を整理して,自らの意見を加えて,読み手にわかりやすく伝えるアカデミックライティングの能力を醸成することが求められている.最近では,東邦大学薬学部など,多くの大学の薬学部,もしくは,薬科系大学においても,言語表現能力の育成を図るための授業科目として「文章指導」などが開講されている1,2)

文章指導には教員による個別指導なども求められるが,文章指導に関わる授業科目は初年次に開講されることが多く,大規模クラスで実施されることも少なくない.したがって,個別の添削指導を毎時間実施することは現実的には難しい.そこで,大規模クラスでも効果的な文章指導を行うために,グループワークやピアレビューなどの様々な協働学修の学修方略を導入することが検討されている3,4)

しかし,大学に入学して間もない多様な学修背景を持つ初年次学生に協働学修を実施する場合,例えばディスカッションなどへの対応能力や参加態度に大きな差が表れることがある5,6).そのために,協働学修による教育効果も十分に検証する必要がある.北海道医療大学(以下,本学)薬学部初年次学生は,まだ,文章力を修得することの必要性に気づいているものは少なく,文章指導に関した授業科目への修学意欲が高くはないなど,学部内でもいくつかの問題がかねてより指摘されていた.

今回,初年次学生に対して新たにクラウド技術を活用した協働学修を組み込みながら大規模クラスで文章指導を実施し,その学修効果を検証することとした.クラス規模の大きさを逆に利点とするためにネットワーク上に仮想的な共同作業の場を提供することでディスカッションの活性化を図ることとした.大規模クラスにおける言語表現能力の育成効果についても検証をする.さらに,薬学教育における言語表現能力の必要性や重要性に対する気づきについても授業アンケートなどを通して確認をする.

方法

今回の取り組みの対象とした授業科目は,本学薬学部で開講している「文章指導」である.本授業科目は1年前期必須科目であり,単位数は2単位,授業回数は15回であり,履修者概数は160名程度であった.本授業科目では,言語表現能力として「論理的な文章を的確に読解する力(読解力),相手の考えを的確にまとめる力(要約力),自分の考えを適切に表現して,わかりやすく伝える力(論理的思考力,文章構成力,論述力)」などを身につけることを目標としている.

科目担当教員は9名であった.内訳としては,まず,薬学教育における文章指導の重要性を伝える観点から主担当が薬学部教務部長である.そして,文章指導の専門的見地からの教材設計や初回授業などを担当する専門教員1名,グループワークのファシリテータとして主に初年次科目を担当している薬学部人間基礎科学講座教員4名,薬学領域におけるテーマを扱う授業を担当する実務系薬学教員1名である.今回,クラウド技術などのICTを活用した授業を設計する観点から情報系教員2名を配当した.

「文章指導」を実施する教室は,クラス分けせずに開講ができる200名程度収容可能な大規模教室とした.この教室では,薬学CBTや歯学CBTを実施できる環境が整っており,PC200台が教室内の戸棚に保管されている.各座席には,電源と有線LANを備えた情報コンセントが用意されている.一方,座席は固定式であることから,机を移動させながらグループワークを実施するなどの什器の可搬性はない.

「文章指導」の講義は,PCを利用し始めた2018年度から3講義を1セットとして,5週にわたり実施した.その理由が,各セットでテーマを1つ設定し,1つのテーマに対して連続して多様な学修方略を取り入れるためである.1セットの講義では,1つのテーマに対してレポートを2回提出する.各セットの冒頭では,初めに事前講義を行い,学生一人ひとりに1回目のレポートを提出させる.その後,レポートのテーマに関して協働学修を実施することで他者と意見を交換し合い,多角的な視点から自らの文章を主体的に推敲する習慣を身につけられるようにした.2回目のレポート提出時には,協働学修での学びがレポート作成へ如何に反映されたのかを確認するために,協働学修において学んだこと,それにより,1回目のレポートと比較して2回目のレポートをどのように改善できたのかを報告させた.

協働学修でのグループの設定方法としては,第1週では学籍簿順とし,本学薬学部で採用をしているクラス担任制のグループ分けと同じくした.第2週以降は,より多くの学生とディスカッションできるように,毎回,無作為にグループを組み換えした.

協働学修を実施するにあたっては,限られた授業時間や座席固定教室であっても,より多くの学生が意見交換に参加して,ディスカッションの活性化を促す仕組みとして,クラウドアプリケーションを活用することとした.そのために,情報系教員が中心となって,協働学修に向けてネットワーク上に仮想的な共同作業の場を提供した.仮想的な共同作業の場に用意したのがオンラインアプリケーションであるgoogleスライドやJambordなどの電子ボードである.これは,クラウド空間に設置されたボードであり,複数の学生が同時に1つのボードに文字を書き込むことができる共同編集の機能を持つ.これにより,グループの学生どうしがリアルタイムで互いに他者の意見を見ながら自分の意見を発したり,ディスカッションの過程を記録したりできる.また,教員側も,大規模クラスであっても,リアルタイムで各グループの進捗や学生の参加状況を確認することできるようになる.

表1には,クラウドを活用した協働学修を取り入れた各週のテーマ概要を示した.まず,第1週の「事実と意見」では,1講目に基本的な言語表現能力を身につけるために事実と意見と悪文添削についての事前講義を行い,与えられた課題に対して1回目の個人レポートを作成させた.課題は,「中学校では制服と私服のどちらが望ましいだろうか.それぞれの優れている点や問題点を挙げつつ,あなたの考えを述べなさい(800文字以内)」とした.引き続き行った2講目のグループワークでは,与えられた課題に対して,ブレインストーミングによりクラウド型の電子ボードに自分の意見を書き込み,かつ,他の人の意見も見ながらグループとしての意見をまとめさせた.3講目には,グループワークの結果を踏まえて,2回目の個人レポートを提出させるとともに,レポートがどのように改善できたのかについても報告させた.

表1 文章指導の授業概要と実施日程
テーマ概要 SBO
第1週
事実と意見,悪文添削
4/17(水) 3~5講目
〇定められた書式,正しい文法に則って文書を作成できる.(知識・技能)
・クラウドの利用方法を説明できる.
・事実と意見の差異について説明できる.
・文体/話し言葉と書き言葉/記号の使用方法など日本語表記の基本的なルールについて説明できる.
・悪文添削の課題を解くことができる.
・与えられた課題に対してレポートを作ることができる.
・与えられた課題に対してSGDができる.
・SGDの結果を踏まえて改善したレポートを作ることができる.
第2週
ノートの取り方
4/24(水) 3~5講目
〇目的(レポート,論文,説明文書など)に応じて適切な文書を作成できる.(知識・技能)
・メモとノートの違いについて説明できる.
・模擬講義のノートを取ることができる.
第3週
ルーブリック評価とピアレビュー
5/22(水) 3~5講目
・レポートの基本的な作成手順について説明できる.
・様々な評価の方法について説明できる.
・ルーブリック評価表について説明できる.
・SGDでのブレインストーミングを通してルーブリック評価表を作ることができる.
・ルーブリック評価表によりピアレビューできる.
・ピアレビューの結果を踏まえて,レポートを再度提出できる.
・レポートをどのように改善できたのかについても報告できる.
第4週
文章読解と要約
5/29(水) 3~5講目
・文章を要約する基本的な方法について説明できる.
・与えられた文章を読解して,要約することができる.
・中心文の役割を理解したうえで,与えられた文章を読解して,要約することができる.
・ブレインストーミングにより文章の要約について意見交換ができる.
・中心文のつながりを意識したうえで,与えられた文章を読解して,要約することができる.
第5週
エビデンスに基づいたレポート作成
6/5(水) 3~5講目
・「かかりつけ薬剤師」について調べたいことをグループでまとめることができる.
・「かかりつけ薬剤師」について調べたいことをインターネットで調査できる.
・エビデンスに基づいた課題解決型協働学修を行い,それを踏まえてレポートを作成できる.

第2週の「ノートの取り方」では,様々な授業での自己学修の効果を高めるために,メモとノートの違いについての解説を事前講義として行った後に模擬講義を実施し,それに対するノートを一人一人に作成させた.ノート作成の後,グループワークでのブレインストーミングを通して「良いノート」の特徴についてディスカッションした.さらに,クラウド上にグループでノートを再度作成し,多角的な観点からノートの取り方を学べるようにした.

第3週の「ルーブリック評価とピアレビュー」では,レポートを自分自身が主体的に検証や評価できるようになるという観点から,ルーブリック評価表についての事前講義を行った.その後,授業時間外課題として提出させていた個人レポートをクラス全員で互いに読み合い,レポートを評価するためのルーブリック評価表をグループごとに学生自身で作らせた.授業時間外課題は「自身が興味あるテーマ(「問」の形式とする)を設定し,テーマについていろいろな観点からデータを調査する.調査したデータを比較しながらテーマの問に対する答えを導く(800文字)」とした.ルーブリック評価表については,観点は4個,尺度の段階数も4個とした.このルーブリック評価表によりレポートのピアレビューをし,ピアレビューの結果を踏まえて,個人レポートを再度提出するとともに,レポートをどのように改善できたのかについても報告させた.

第4週の「文書読解と要約」では,文章読解と要約の要領について事前講義を行い,小説の課題文を学生へ提示して要約を1回目の個人レポートとして提出させた.次に,小説の課題文の中心文を見つけ出すグループワークを,電子ボードを使って実施しグループワークの結果を踏まえて,2回目のレポートを提出させるとともに,レポートがどのように改善できたのかについても報告させた.

第5週の「エビデンスに基づいたレポート作成」では,薬学領域におけるテーマとしてかかりつけ薬剤師についての事前講義を行った.その後,与えられた課題に対して,統計ダッシュボード7) などの国の機関や民間企業等が提供している統計データを分析しながらグループでエビデンスに基づいた課題解決型協働学修を,電子ボードを使って行った.それを踏まえて最終レポートを個人で作成して,言語表現力の醸成が図れるようにした.

「文章指導」における教育改善効果を検証するための方法としては,まず,学修意欲の形成的な変化を検証するために,授業回ごとのSBOに対する達成度を4段階の自己評価形式で回答させた.表1にはSBOも記載した.SBOは,シラバスにおいて授業回ごとに設定した「授業内容および学習課題」を細分化したものであり,文頭に〇が付記されているものは薬学準備教育ガイドラインに記載されているSBOである.授業回ごとに設定したSBOについては,毎回同じ授業構成で,同じ程度作成時間が必要な課題としたことから同程度の目標設定であると仮定して,形成的な変化を検証した.クラウドアプリケーションを利用した効果を検証するために,授業初回アンケートを実施した.さらに,クラウドアプリケーションによる協働学修の活性化の度合いを検証するために,第4週「文書読解と要約」と第5週「エビデンスに基づいたレポート作成」の協働学修で利用をした電子ボードに対する各学生の編集回数を分析した.

協働学修を組み込んだ文章指導による言語表現力の改善効果を検証するために,第4週「文書読解と要約」におけるレポートを機械学習により採点をした.このレポートを検証の対象とした理由は,レポートに対する正答となる文章例を用意できたことにある.要約の正答例は文章指導の専門教員が作成したものである.客観的な評価のために,文書中に含まれる単語の重要度を評価するtf-idfのベクトルを計算し,それを比較したcos類似度8) を計算する機械学習により正答例との一致度を算出した.算出にはpython 3.7.4,形態素解析にはJanome 0.3.9を用いた.機械学習のライブラリとしてはscikit-learn 0.22.1を使用して,TfidfVectorにより文書中に含まれる単語の重要度を評価するTfiDFを計算し,cosine_similarityでcos類似度を計算した.レポートはGoogleフォームから提出させて,文字数は250文字以内とした.さらに,協働学修を挟んで2回提出したレポート間で正答例との一致度を比較することで,協働学修を組み込んだ文章指導による言語表現力の改善効果を検証した.

最後に,授業開始時と終了時に実施したプレ・ポストアンケートを比較することで,薬学教育における文章指導や,また,文章指導における協働学修の必要性や重要性についての学生自身の認識の変化を検証した.

なお,アンケート調査の実施時には,学生に対して個人が特定できないよう加工して教育改善などの成果を学外に報告すること,アンケートへ回答しないことによる不利益が一切ないことを伝えたうえで,本報告では,趣旨に同意した学生からの調査結果を用いた.文章指導の初回授業時に,授業改善や教育改善のための取り組みとして,授業中に収集した各種の学修情報に対して匿名化加工をしたうえで成果報告する旨の同意を求め,学生が自由意志により拒絶した場合には,そのデータを利用しないことを伝えた.本学情報センター運営会議にて,個人情報を適切に匿名化していることが確認されている.

結果

図1は,授業回ごとのSBOに対する達成度である.授業回ごとのSBOはシラバスに記載されおり,各SBOに対して,達成した度合いの自己評価を4段階(4が最も高い)で回答させた.この結果,5週の全体にわたって,9割以上の学生が4か3の達成度を選んでおり,授業が進むにつれて,4の評価の比率が高まっていることがわかる.特に,最後の第5週には,6割以上の学生が4を選んだ.

図1

授業回ごとのSBOに対する達成度

図2は,授業初回アンケートの結果である.ここでは,クラウドアプリケーションを利用した効果を検証するために,協働学修で電子ボードを活用できたか,電子ボードをレポート作成や遂行に役立てることができたかを5段階(5が良くできた,1が全くできなかった)で回答させた.この結果,ともに,半数以上の学生が5か4と答え,特に,レポート作成や遂行に役立てることに対しては,半数が5と回答した.また,電子ボードについての感想を自由記載形式で回答させた結果,「パソコンだから発言しやすかった」「クラウドで活発にディスカッションができた」などのほかに「ディスカッションを自身のレポートに役立てられた」などと効果的に利用できたとの意見も,感想を回答した58名中43名と多く得た.

図2

クラウド活用に関する授業初回アンケート

図3は,電子ボードを利用してブレインストーミングを実施した第1,2,4,5週の協働学修における電子ボードの利用状況である.図3(a)は各学生の編集回数のヒストグラムであり,図3(b)は全学生の編集回数の平均値と標準偏差である.協働学修では,ブレインストーミングを実施したが実施時間はともに30分間程度であった.また,電子ボードに対して文字を入力するなどの編集をしたときには,1分間程度に1回の編集記録が学生ごとに残るようになっている.

図3

電子ボードに対する学生の編集回数

(a)電子ボードの編集回数と学生数

(b)各授業週の電子ボードの編集回数

まず,第1週では,ブレインストーミングを実施するときに学生へ自由に電子ボードに記入するように伝えた.その結果,編集回数の平均値は8.5回で,3名の学生が40回以上を記録したが,一方で,165名中65名の学生が10回以下,標準偏差も8回,操作回数が5回未満の学生も8名となった.第2週では,電子ボードに,記入者の氏名を入力させることとして,全員の学生が編集作業をするように促した.その結果,平均値は14回と高まったが,標準偏差は8回程度となった.

授業回が進んだ第4週と5週では,第1週と同様に,学生へ自由に電子ボードに記入するように伝えた.その結果,記録された編集回数は5回未満の学生は0名となり,全員が一定以上の編集記録を残した.一方,第4週に記録された編集回数のヒストグラムは,再び,第1週と同様な分布となった.しかし,かかりつけ薬剤師をテーマとした第5週のブレインストーミングでは,編集回数10回未満の学生数が減少し,15~20回の学生が増加していた.

図4は,第4週「文書読解と要約」におけるレポートを機械学習により採点した結果のヒストグラムである.ここでは,横軸が採点結果の点数であるが,これは,各学生のレポートと正答とのcos類似度であり,完全に正答と一致したときに1となる.この結果,協働学修の前に実施した1回目のレポートのcos類似度と比較して,2回目のレポートのcos類似度が,クラス全体として高まっていることがわかる.

図4

「文書読解と要約」におけるレポートの採点結果

最後に,図5は文章指導と文章指導における協働学修の必要性に関するプレ・ポストアンケートの結果である.2つの質問項目に対して,ともに,必要性や重要性について,強く感じるから全く感じないまでを6段階で回答させた.回答者数はプレアンケートが164名,ポストアンケートは146名となった.2つの質問項目ともに,ポストアンケートでは,必要性を強く感じる,または感じると答えた学生の比率が高まった.特に,文章指導における協働学修については,カイ二乗検定の結果から,プレ・ポストアンケートの間で有意差が確認された(p<.05).残差分析の結果からも,プレアンケートで必要性をあまり感じないと答えた学生が,ポストアンケートでは有意に減少していた.

図5

協働学修の必要性に関するプレ・ポストアンケートの結果

考察

図1から図5に示した教育改善効果の検証結果に基づいて,今回の取り組みについて考察する.まず,クラウドアプリケーションを利用した効果については,図2の授業初回アンケートの結果からも,学生はクラウドアプリケーションを第1週の授業時からスムーズに活用することができ,それにより,レポート作成や遂行に役立てるなど自身の学修に役立てることができたものと考える.また,図3の電子ボードに対する編集回数が示すように,第4週,第5週目には,受講生全員がクラウド内で自身の意見を発するようになっていた.特に,薬学領域のテーマを扱った授業最終回では,クラス全体としてみても,意見の記入回数が増加するなどの結果を得た.記入された意見も,編集により新しい意見が書き込まれ,多様性が増す内容となっていた.これらの結果から,協働学修への対応能力などに差が表れる可能性が指摘されていた初年次学生であっても,クラウドを活用することで,協働学修におけるディスカッションが活性化され,一定の教育効果が得られたものと考える.

次に,言語表現能力の育成効果について検証する.図4の「文書読解と要約」におけるレポートの採点結果から,協働学修におけるディスカッションを経て提出した2回目のレポートでは正答とのcos類似度(一致率)が高まった.特に重要な結果が,cos類似度が0.2以下である学生数が大きく減少し,クラス全体のcos類似度が向上している点である.

協働学修では課題文の中心文を見つけ出させたが,レポート作成時には,中心文に含まれる語を使いながら課題文の要約を作るように伝えた.要約の正答とした文章も中心文の語を使いながら作った.したがって,レポートと正答の文章は,ともに限られた語で作られたと考えられる.ここで,cos類似度が高いことは,頻繁に出現する語や稀有に出現する語の出現傾向の一致度が高いことを意味する.そのため,今回のように,計算対象となる語が限られるような場合には,cos類似度が高ければ,比較する文章どうしの一致度も高くなると考えた.

科目担当教員がレポートを読んで,cos類似度が高い場合には正答の文章との一致度も高いことを確認した.一方,cos類似度が低い場合には正答との一致率が低かったが,1割程度は,中心文で使われていた語とは異なる類義語を使いながら正しく要約されていたレポートもあった.このように,cos類似度から推測される今回の結果は,クラス全体の傾向を表すものの個別のレポートの傾向を表すには十分ではないと考えられる.また,今回,cos類似度で検証したのは要約力である.「文章指導」で身につけることを目指した言語表現能力には,要約力以外にも読解力や論理的思考力があり,これらについては別に検証する必要がある.

以上のことから,多様な学修背景を持つ学生を含むような大規模クラスであっても,クラウドを活用した協働学修により,ディスカッションを活性化するとともに,クラス全体の傾向として,要約力を問うたレポートでも正答の文章と一致度の高い文章を作れるようになったと考えられる.

さらに,図1の授業回ごとのSBOに対する達成度からも,授業が進むにつれて徐々に達成度が高まり,特に,かかりつけ薬剤師をテーマとした最後の授業回で自己評価による達成率が最も高まるなど,文章指導に対する学修意欲の醸成が図られたものと考える.図5のプレ・ポストアンケートの結果からも,授業実施前と比較して,授業実施後には文章指導や文章指導における協働学修に対する必要性の認識が高まっていた.このことから,薬学教育における言語表現能力の必要性や重要性に対する気づきが多くの学生へ広がったものと考える.このように,言語表現において多様な意見に触れ,ディスカッションする必要性への認識の高まりは,特定の授業科目のみならず,患者と関わる薬剤師として,多職種連携医療に関わるチームの一員として今後様々なコミュニケーションの場面においても有効であると考えられる.今後は,ブレインストーミング,ピアレビューなど各学修方略による文章力向上への寄与率など,詳細な検討も重ねていきたい.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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