薬学教育
Online ISSN : 2433-4774
Print ISSN : 2432-4124
ISSN-L : 2433-4774
原著
4年間の実践を経た学生を対象としたピア評価に関する意識調査
安原 智久小坂 哲也串畑 太郎永田 実沙上田 昌宏栗尾 和佐子曽根 知道
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2021 年 5 巻 論文ID: 2020-045

詳細
抄録

これまでピア評価に対する研究は,特定の科目で実施されたピア評価に対して行われており,科目での説明や実施方法,結果の取り扱い方,科目あるいは担当教員に対する学生の印象が影響を与えている可能性が否定できない.そこで,4年間で18科目31回のピア評価を経験した学生を対象にピア評価に関するアンケート調査を行い,学生の持つピア評価への印象や評価への姿勢を分析した.2019年度4年生195人に対してアンケートを配布し,180人(92%)から有効回答を得た.その結果,学生はピア評価に対して,成績を左右することや評価基準に揺らぎが起こりうる要素があることを懸念しながらも,ピア評価の持つ有用性を十分に理解し,教員のみの視点ではない評価の存在,ピア評価におけるフィードバックの価値を高く評価していることが示唆された.また,学生はピア評価の妥当性を高め,自らを評価者として厳格に位置づけようとする意識も持ち合わせていることが示唆された.

Abstract

To date, studies on peer evaluation have been conducted on a specific subject. It cannot be denied that the impression of the faculty member or the participants, the explanation of peer evaluation on the topic, the implementation method of peer evaluation, and how the results are handled may influence the research results. Therefore, we administered questionnaire surveys on peer evaluation for students who were engaged in the practice 31 times in 18 topics over 4 years and analyzed their impressions and attitudes toward peer evaluation. A questionnaire was distributed to 195 fourth-year students in 2019, and 180 (92%) provided valid responses. Results suggest that students fully understand the usefulness of peer evaluation and highly value the existence of evaluation from the perspective of students as well as teachers and of feedback in peer evaluation, while they were also worried about the influence of grades and the fact that evaluation criteria may fluctuate. Results also suggest that the students sense an increasing relevance of peer evaluation and strictly positioning themselves as evaluators.

緒言

文部科学省は,これからの社会を,個人にとっても社会にとっても将来の予測が困難な時代であると予測し,その人材育成を担う大学に対して,次代を生き抜く力を学生が確実に身に付けるための教育を求めている.また,そのために,「従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から,教員と学生が意思疎通を図りつつ,一緒になって切磋琢磨し,相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り,学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換」1) が大学には必要である.しかしながら,能動型学修が目的とする学生の成長の評価には,従来の行動主義的学習観に基づく測定では困難であり,パフォーマンスに基づく評価,学習者の行為・遂行能力等を直接測定していく事が必要2,3) になる.学習成果基盤型教育の考え13) に基づいて作成された改訂薬学教育モデル・コアカリキュラム(改訂コアカリ)4) においてもパフォーマンスに基づく評価が6年制薬学教育には求められている.しかしながら,パフォーマンス評価には多大な人的資源を必要とするほか,学習行動中の学習者の行為・遂行を評価者が余すことなく観察するのが困難であるという問題がある.不十分,不完全な評価が学習者の評価への不信感を生むことになる.学習者の学習は「意図された学習成果」と「整合した評価」によって導かれる5) ため,適切な学習目標の設定と同じく評価のデザインや評価に対する学生の信頼は極めて重要となる.ピア評価は人的資源上の限界からくる観察の目が行き届かないという問題を解決すると同時に,共同作業を行う者同士が相手に求める視点からの評価という多様な評価基準の導入が可能になり,パフォーマンスの直接観察をもたらす評価法6) である.

我が国の高等教育におけるピア評価はピア・ラーニングの手法が活用されていた語学学習の領域で早くから取り入れられていた7,8) が,その必要性が「課題探求能力の育成」9) や「医学系学部におけるコミュニケーション教育」10) といった分野で2009年頃から言及され始めた.実際には,ピア評価の実践はチーム基盤型学習(Team-based Learning: TBL)11) の導入に伴って薬学教育12,13) を含む医療系教育へ広がっていった.現在では,small group discussion(SGD)6,14),ジグソー法を用いた学習15),プレゼンテーション16),分野横断的統合学習17,18) などへも導入がされており,ピア評価がTBL固有のものではなく,協同型学習における評価法の選択肢の一つとして広く認識され始めている.また,ピア評価の実施には膨大なデータ処理が必要となるが,この問題点は情報処理システムの導入19,20) により解決されている.

ピア評価による観察は,試験やレポート,発表と同じく能力の表出に基づく直接評価である21) というパフォーマンス評価における重要な利点を持ち,近年の高等教育における研究でも,「評価と統制」の教授機能をもつ22) ほか,適切な運用により自己評価力が高まる23) とも言われている.一方で,実際の教育へのピア評価の導入や運用には,多様な議論が伴っており,力強い導入に踏み切れない様子がうかがえる.ピア評価の積極的な運用に対してネガティブな意見としては,アンケートで学生からの批判的な意見に配慮したり14),総括的評価への適用の抵抗感を示したり12),授業回数が少ないためグループの関係性構築が十分でないことが予想されることによるピア評価の不実施24),特に理由への言及のない不実施25) などがあげられる.一方で,ピア評価に対する学生からの好意的な意見が報告される16,26) ほか,学生は評価を担う人的資源になりえる17),などの報告もある.いずれにせよ,薬学領域に限らずほとんどの報告が,単一の科目でのピア評価の経験を基にした分析であり,ピア評価という方法自体に対する評価を論じることが難しい状態である.我が国の高等教育におけるピア評価は,相互ロールプレイが能力の習得に有用な語学領域で独自に行われてきたものと,ディスカッションを主体とする問題基盤型学習を積極的に取り入れた医療領域で急速に広がったものから,様々な教育領域へと広がりを示した.その結果,能動的学習・協同的学習の充実に伴いパフォーマンス評価を支える可能性のある評価方法としてピア評価の導入が広がってはいるが,導入・運用における学生への影響に対する研究が十分とは言えない.

これまでの研究で調査されたピア評価に対する学生の印象は,ピア評価そのものへの印象というよりも,限定された科目で実施されたピア評価に対する印象であり,その科目でのピア評価に対する説明,実施方法,結果の取り扱い方,科目あるいは担当教員自体に対する学生の印象が結果に影響を与えると考えられる.摂南大学薬学部では,能動型学習,協同型学習を伴うグループワーク・演習・実習にピア評価を積極的に導入しており,2019年度のシラバスでは1年次から6年次に配当された19科目において成績評価の一部として用いられている.多様な科目の中で多数のピア評価を経験してきた学生からは,上述の問題を持つ科目やピア評価の運用自体への印象と切り離されたピア評価への意見の抽出が可能だと考えられる.そこで我々は,これまでにないピア評価自体への学生の印象を抽出し,学生の持つピア評価の印象や,評価者としての姿勢を分析するため,アンケート調査を実施した.

方法

1.各科目でのピア評価の実態調査

2019年度シラバスにおいて,評価の項目にピア評価を記載している19科目の責任者に対して,「ピア評価の評価項目・評価基準等」が分かる資料,「ピア評価の実施時期,実施回数」,「ピア評価の結果のフィードバックの有無と方法」,「グループワークの実質的なコマ数および発表会等のコマ数」に関する調査を行った.メールで依頼を行い,直接回答をもらう,もしくは学生に配布している資料の提供を依頼する形で調査を行った.

2.学生へのアンケート調査

2019年度の4年生に対して2020年1月に,記名任意によるアンケート(表1)調査を行った.ピア評価を実施しない科目の中で行われる外部講師の講演会終了後に,アンケート用紙を配布し,特定の科目のピア評価に対してではなく在学中に行ったすべての学生間相互評価(ピア評価,ルーブリック評価等)を対象とすること,およびアンケート結果の使用目的,個人情報を含むアンケート結果の取り扱い,研究成果として公開する可能性に関する説明を行った.アンケート実施に当たり,アンケートの回答内容や回答の有無が成績等に影響を与えないこと,アンケートの回答に関しては,自分自身の判断のみで自由に決めて良いことを説明した.研究目的のうち,アンケート結果と成績,これまでの各科目への出席状況や課題の達成状況等の情報を連結し解析することに同意できる場合は,学籍番号を記載した上でアンケートへの協力を依頼した.アンケートの回収は解散後に任意で提出することとし,授業時間への影響がないように配慮した.

表1 学生へのアンケートと結果
No アンケート項目 回答 30との相関係数
相手を評価(点数を付けたりコメントしたり)することについてお尋ねいたします. 1 2 3 4 5 備考 平均±標準偏差
1 あなたがグループメンバーを評価することは必要だと思いますか。 思わない1…5思う 7 9 30 77 57 3.93 ± 1.01 0.4723
2 グループメンバーがあなたを評価することは必要だと思いますか。 思わない1…5思う 4 10 29 75 62 4.01 ± 0.96 0.5150
3 教員による評価だけで成績が付くことが適切な評価だと思いますか。 思わない1…5思う 6 10 54 60 50 反転(思う1…5思わない) 3.77 ± 1.02 0.1602
4 仲の良い友達を評価する時にためらいを感じますか。 感じない1…5感じる 21 51 30 30 48 反転(思う1…5思わない) 3.18 ± 1.40 0.1659
5 人の成績を左右することにためらいを感じますか。 感じない1…5感じる 35 47 33 34 31 反転(感じる1…5感じない) 2.88 ± 1.38 0.2393
6 誰が評価したかが相手に知られそうで率直につけられないときはありますか。 ない1…5ある 17 44 23 42 54 反転(感じる1…5感じない) 3.40 ± 1.38 0.1857
7 相手が示した実際の成果・結果より高い点数をつけたことはありますか。 ない1…5ある 48 56 38 16 22 反転(ある1…5ない) 2.49 ± 1.30 0.1123
8 相手が示した実際の成果・結果より低い点数をつけたことはありますか。 ない1…5ある 17 12 35 39 77 反転(ある1…5ない) 3.82 ± 1.31 0.1639
9 ピア評価を入力するのが面倒で、いい加減につけたことはありますか。 ない1…5ある 29 33 31 43 44 反転(ある1…5ない) 3.22 ± 1.41 0.3531
10 グループメンバーの人数が多くて評価しにくかったことはありますか。 ない1…5ある 55 46 18 27 33 反転(ある1…5ない) 2.63 ± 1.51 0.1016
11 グループメンバーの人数が少なくて評価しにくかったことはありますか。 ない1…5ある 11 9 25 49 86 反転(ある1…5ない) 4.06 ± 1.17 0.1593
他者からの評価(点数を付けたりコメントされたり)についてお尋ねいたします 1 2 3 4 5 備考 平均±標準偏差
12 教員から返却されたピア評価の結果をしっかり確認していますか. していない1…5している 21 25 29 46 59 3.54 ± 1.37 0.4292
13 グループメンバーからの評価やコメントがその後の自分の振る舞いの参考になったことがありますか. ない1…5ある 14 22 40 57 47 3.56 ± 1.22 0.3622
14 ピア評価を行った際,ピア評価の結果を学生に返却することは必要だと思いますか. 変わらない1…5変わる 8 4 32 49 87 4.13 ± 1.06 0.4814
15 ピア評価があることでグループワークへのやる気が増しますか. 増さない1…5増す 9 25 39 68 39 3.57 ± 1.12 0.4235
16 ピア評価があることでグループワークにおいて委縮してしまうことはありますか. ない1…5ある 18 27 45 40 50 反転(ある1…5ない) 3.43 ± 1.30 0.2602
17 ピア評価のコメント欄は必要だと思いますか. 思わない1…5思う 30 24 36 51 39 3.25 ± 1.37 0.4317
18 ピア評価の現在のフィードバック(紙に印刷して個別に返却)は良いことだと思いますか. 思わない1…5思う 8 11 35 60 66 3.92 ± 1.09 0.4434
ピア評価を行うグループワークについてお尋ねいたします 1 2 3 4 備考 平均±標準偏差
19 適切にピア評価を行うためには,何コマ程度のグループワークが望ましいと思いますか. 1. ~5, 2. 6~10, 3. 11~15, 4. 16~ 35 79 51 15 2.26 ± 0.86 0.0035
20 適切なピア評価を行うためには,何人のグループが望ましいと考えますか. 1. ~5, 2. 6~8, 3. 9~10, 4. 11~15 148 29 1 2 1.21 ± 0.49 –0.1127
ピア評価の特徴である以下の各項目についてあなたはピア評価の良い点であると考えますか,それとも悪い点であると考えますか. 1 2 3 4 5 6 7 備考 平均±標準偏差
21 他者からの自分の評価がわかる 1 1 2 24 51 58 43 5.61 ± 1.11 0.5156
22 相手の改善点を指摘してあげることができる 1.非常に悪い点である 3 0 5 40 58 48 26 5.21 ± 1.18 0.4199
23 グループワークに意欲的に取り組むことができる 2.かなり悪い点である 1 1 6 45 54 49 24 5.18 ± 1.14 0.4874
24 頑張っている人とそうでない人の点数差をつけることができる 3.やや悪い点である 3 1 7 31 47 44 47 5.43 ± 1.32 0.5293
25 自分がした評価が相手の成績に影響を与えることが出来る 4.どちらともいえない 7 9 36 73 28 14 13 4.11 ± 1.36 0.4046
26 グループワーク前の事前準備をしっかり行うようになる 5.やや良い点である 2 1 6 76 45 27 23 4.86 ± 1.19 0.3765
27 学生同士で評価し合うものである 6.かなり良い点である 4 3 19 51 50 33 20 4.77 ± 1.34 0.5595
28 談合(話し合い)をして評価をしてしまう可能性がある 7.非常に良い点である 4 9 11 52 55 32 17 反転 4.72 ± 1.35 0.0783
29 教員の評価と異なる可能性がある 7 9 19 68 36 23 18 4.43 ± 1.44 0.2888
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 平均±標準偏差
30 ピア評価を行うことはグループワークの質を高めるために必要だと思いますか. 思わない1…10思う 3 6 4 5 11 31 34 41 21 24 7.13 ± 2.08

アンケートは,4年間ピア評価を受けてきた学生が総合的な観点からピア評価のグループワークへの必要性を問うた「項目30:ピア評価を行うことはグループワークの質を高めるために必要だと思いますか」をピア評価に対する総合的な評価として,各項目との関りを分析するCustomer Satisfaction分析(CS分析)の手法を応用して行うようデザインして作成した.すなわち,ピア評価への総合的評価である項目30とアンケートの各項目の相関係数を横軸に,アンケートの各項目の平均値を縦軸にプロットする分析法である.ただし,本アンケートは項目により4~7件法と異なっている.単に項目ごとの平均値を用いた場合,例えば5件法よりも7件法の方が見た目の数値が大きくなり,CS分析のために同じ軸上にそのままプロットすると,7件法の項目が高く見えてしまう.各項目の平均値を適切に評価するため,各アンケート項目における最大値を分母,各項目の平均を分子とした値を「獲得点率」と定義し,この「獲得点率」を縦軸にプロットする.更に,項目30との相関係数による分析をわかりやすく示すため,ピア評価に対して肯定的な回答,ピア評価を積極的に活用する意思を示す回答の選択肢番号が大きくなるように,項目3~11,16,28を反転して処理を行う.また,本論文で採用する解析は,CS分析で一般的に行われている4象限への分類による解析ではなく,各プロットの獲得点率と相関係数の相関からの「ずれ」に注目して解析を行う.「ずれ」たプロットの抽出法として,回帰分析のR2値が0.9以上となることを目安に,特徴的な群を抽出する.

アンケート結果の分析はJMP Pro 15.1(SAS Institute Inc)で行った.本研究は,摂南大学の人を対象とする研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号2013-19).

結果

科目責任者への調査の回収率は100%であった.学生へのアンケートの回収率は99%(195人中193人)であり,そのうち回答に欠損値のある無効回答が13人あり,有効回答数は180人(92%)であった.なお,本論文での解析にはアンケート以外の情報を連結した研究は行っていないため,180人分のデータを用いて解析を行った.

本学で行われているピア評価を表2に示した.これらは,2019年度シラバスを基にしているが,アンケート対象者となる2019年度4年次生が受けてきたカリキュラムと変わらず,同じ科目で同じ形式のピア評価を経験していることを確認した.なお,科目番号19のみ6年次実施科目のためアンケート対象者である4年次生は経験しておらず,対象者は4年間で18科目,31回のピア評価を経験している.ピア評価を行う学年は1年次および4年次に多いが,本学の協同型学習が両学年に多く配置されていることによる.一方で,1年次,2年次に実施するピア評価の方が1科目内での回数が多く,フィードバックを行う科目も多い.これはピア評価の導入時において丁寧な運用を行うことにより,学生自身の評価能力の向上を図るとともに,ピア評価の教育的効果を理解しやすくする方針に基づくものである.19科目中11科目が科目内でピア評価を1回しか行わず,プログラム途中でのフィードバックを得る機会がない.ピア評価の評価基準項目数は2~7項目であり5項目が最も多い.これを5段階ないし10段階で評価を行うものが主となっている.科目番号3では,評価項目ごとにスケールによる評価を行うのではなく,100点の持ち点を自分以外のメンバーに配分する方式のピア評価を行っている.また,科目番号10では,グループメンバー間の個人の相互評価ではなく,グループ発表に対する相互評価となっており,各個人が発表グループのプレゼンテーションを評価する.科目番号11に関しては,グループメンバー間の個人の相互評価と発表グループのプレゼンテーションの評価の双方が導入されている.

表2 科目ごとのピア評価の概要
科目番号 配当年次 領域 主な学習方略 コマ数 実施時 ピア評価 コメント収集 フィードバック 備考
GW 発表 実施回数 項目数 段階
1-1 1 薬剤師導入教育 SGD 3 1 SGD終了時 2 5 5 あり 点数・コメントを個別に実施
1-2 9 3 SGD終了時
2 1 基礎化学 TBL 12 4コマごと 3 5 10 あり 点数・コメントを個別に実施
3 1 生物 SGD 5 終了時 1 分配点方式 なし なし
4 1 化学全般 TBL 12 4コマごと 3 5 10 あり 点数・コメントを個別に実施
5 1 教養教育 PBL 8 中間と終了時 2 5 10 あり 点数・コメントを個別に実施
6 2 物理・化学 SGD 13 中間と終了時 2 5 10 あり 点数・コメントを個別に実施
7 2 医療安全 PBL 6 3コマごと 2 5 10 あり 全体的なフィードバックのみ
8 3 キャリア教育 SGD 5 1 終了時 1 5 5 あり なし
9 3 コミュニケーション教育 SGD 9 3 終了時 1 4 6 あり 点数・コメントを個別に実施
10 4 臨床統合型教育 PBL 8 4 3コマごと 4 5 5 なし なし *1
11 4 臨床統合型教育 PBL 5 3 発表後ごと 3 5 5 なし なし *2
12 4 臨床統合型教育 PBL 12 終了時 1 5 10 なし なし
13 4 臨床統合型教育 PBL 10 終了時 1 5 10 あり 全体的なフィードバックのみ
14 4 臨床系科目 PBL 10 1 終了時 1 5 10 あり 点数・コメントを個別に実施
15 4 臨床系科目 PBL 6 2 終了時 1 2 10 あり なし
16 4 臨床系科目 PBL 3 終了時 1 5 10 あり なし
17 4 臨床系科目 PBL 20 5 終了時 1 7 5 あり なし
18 4 臨床系科目(アドバンスト) PBL 20 終了時 1 4 10 あり 点数・コメントを個別に実施
19 6 臨床系科目(アドバンスト) PBL 3 終了時 1 5 10 あり なし

*1 Rubricを用いたグループの発表の評価

*2 個別評価とは別に発表に対する3項目5段階のRubricによる評価あり

アンケートの単純集計の結果を表1に示す.前述のとおり,項目3~11,16,28を反転処理しているため,表1の結果も反転した結果を記載した.また,各項目の平均とピア評価への総合的評価である項目30との相関係数を示した.本アンケートは順位変数を結果として与えるものであり,平均点をもって議論をすることは必ずしも適切ではないが,CS分析の手法を活用するために指標として平均を算出することとした.

各アンケート項目の獲得点率を縦軸に,項目30との相関係数を横軸に項目1~18,21~29をプロットした結果を図1に示した.ただし,「項目19:適切にピア評価を行うためには,何コマ程度のグループワークが望ましいと思いますか」および「項目20:適切なピア評価を行うためには,何人のグループが望ましいと考えますか」に関しては,ピア評価に対する本人の意識ではなく,ピア評価を行うグループの環境に関する設問であり,本解析の趣旨からは外れるため除外している.獲得点率及び相関係数の平均±標準偏差は,それぞれ0.695 ± 0.09,0.334 ± 0.15であった.このプロットにおいて,直線回帰に合致する点は,各項目への学生の認識とピア評価そのものへの必要性の認識が相関するものであるが,合致しない点は何らかの特徴を有している項目と考えられる.図1においてプロットしたすべてのデータによる直線回帰におけるR2値が0.240であるのに対して,相関係数からみて非常に高い獲得点率を示した項目3,8,11,やや高い獲得点率を示した4,6,16,28,逆に低い獲得点率を示した17,25,27を除外した場合のR2値は0.925となった(図1中のグレー部分).

図1

アンケートの各項目の結果と項目30との相関係数のプロット

考察

「項目1:あなたがグループメンバーを評価することは必要だと思いますか(3.93 ± 1.01/5件法)」,「項目2:グループメンバーがあなたを評価することは必要だと思いますか(4.01 ± 0.96/5件法)」から分かるように学生間で相互評価を行うことに対する肯定的な回答が強く,「項目3:教員による評価だけで成績が付くことが適切な評価だと思いますか(3.77 ± 1.02/5件法:反転)」から教員のみが評価を行うことに対する反対を示す傾向が強いことがうかがえる.加えて,「項目29:教員の評価と異なる可能性がある(4.43 ± 1.44/7件法)」もピア評価の良い点であるとの回答が多い.これらの項目へ否定的な回答は少なく,学生はピア評価の評価者としての自分たち学生の適切性にかなりの価値を見出していると思われる.また「項目14:ピア評価を行った際,ピア評価の結果を学生に返却することは必要だと思いますか(4.13 ± 1.06/5件法)」,「項目18:ピア評価の現在のフィードバック(紙に印刷して個別に返却)は良いことだと思いますか(3.92 ± 1.09/5件法)」,「項目21:他者からの自分の評価がわかる(5.91 ± 1.11/7件法)」,「項目22:相手の改善点を指摘してあげることができる(5.21 ± 1.18/7件法)」などの項目も高い傾向が強く,ピア評価のもつフィードバック性に学生は価値を見出していることが示唆された.加えて,「項目15:ピア評価があることでグループワークへのやる気が増しますか(3.57 ± 1.12/5件法)」,「項目23:グループワークに意欲的に取り組むことができる(5.18 ± 1.14/7件法)」,「項目26:グループワーク前の事前準備をしっかり行うようになる(4.86 ± 1.19/7件法)」も高く,学生はピア評価があることでグループワークへのモチベーションが高まることを実感していると考えられる.

一方,「項目4:仲の良い友達を評価する時にためらいを感じますか(3.18 ± 1.40/5件法:反転)」,「項目5:人の成績を左右することにためらいを感じますか(2.88 ± 1.38/5件法:反転)」が低く総括的評価として用いた場合の他者の成績への影響力への懸念を示したり,「項目16:ピア評価があることでグループワークにおいて萎縮してしまうことはありますか(3.43 ± 1.30/5件法:反転)」では平均値は低くないが,萎縮することがあると答える学生が一定の割合を示した.これらはピア評価の問題点,導入に関して他の事例で困難と考えられる事例として報告されている事例12,14) であり,このような懸念を示す学生が多数派ではないが存在している.

「項目7:相手が示した実際の成果・結果より高い点数をつけたことはありますか(2.49 ± 1.30/5件法:反転)」が低いことに対して,「項目8:相手が示した実際の成果・結果より低い点数をつけたことはありますか(3.82 ± 1.31/5件法:反転)」が高く,学生は不適切に低い評価を付ける傾向は低いことが示唆された.これは,「項目24:頑張っている人とそうでない人の点数差をつけることができる(5.43 ± 1.32/7件法)」の結果も踏まえて考えれば,より良いパフォーマンスを示した人に適切な高い評価を付けたいという傾向が示されたと考えられる.しかしながら,「項目9:ピア評価を入力するのが面倒で,いい加減につけたことはありますか(3.22 ± 1.41/5件法:反転)」の回答傾向が1~5に分散していることから,ピア評価を手間だと感じる気持ちはそれなりにあると考えられ,学生負担の少ないシステムの導入がピア評価の質を上げることが示唆された.

ピア評価による相互測定に対する反応を問うた「項目:27学生同士で評価し合うものである(4.77 ± 1.34/7件法)」が比較的肯定的であることに比べて,自身のピア評価による測定が教員による価値判断に影響を与える可能性について問うた「項目25:自分がした評価が相手の成績に影響を与えることが出来る(4.11 ± 1.36/7件法)」が否定的ともいえる結果になったことは,学生は測定によるフィードバック性と成績を左右する価値判断を区別して考え,それぞれの効果を分離できていることを示唆している.

ピア評価を実施するグループワークの性質を表す項目では,「項目10:グループメンバーの人数が多くて評価しにくかったことはありますか(2.63 ± 0.10/5件法:反転)」,「項目11:グループメンバーの人数が少なくて評価しにくかったことはありますか(4.06 ± 1.17/5件法:反転)」から人数が多いことが評価の妨げになる一方で少ない場合は問題と感じる学生は少ないことが見てとれる.「項目20:適切なピア評価を行うためには,何人のグループが望ましいと考えますか」において5人以下と答えた学生が82%であり,ピア評価を導入する場合のグループの人数は5名前後が望ましいと考える.一方で,「項目19:適切にピア評価を行うためには,何コマ程度のグループワークが望ましいと思いますか」では,6~10コマが最頻値(44%)であり,コマ数が多い方を肯定しているわけではない.5コマ以下との回答も19%あり,短時間のグループワークでのピア評価の困難性24) が言われているほど高くない可能性も考えらえる.

図1において相関係数に比べて非常に高い獲得点率を示した項目3,8,11は,ピア評価自体に対する学生の必要性の認識に関わらず,学生がピア評価の持つ性質のうち肯定的に捉えているものだと考えられる.この3項目が示すものは,「少人数での教員以外の視点を踏まえた肯定的な評価」とまとめることが可能である.これは,ピア評価の利点と考えられ,ピア評価自体への必要性の認識とは無関係に学生からは認められた点であることが示唆された.

項目4,6,16,28は相関係数に比べてやや高い獲得点率を示した.これらの項目はピア評価に伴う学生の精神的負担を表した項目である.これらは反転済みのため数値が大きいほど負担がないという結果になっている.これらの項目への肯定感とピア評価自体への必要性の認識に若干の上方向へのずれが生じていることは,学生はピア評価の重要性の認識以上に,「仲の良し悪しや評価者が誰かわかることで評価を変えること,評価により萎縮すること,談合による評価を行うこと」は適切ではないという認識があることがうかがえるが,前述の「少人数での教員以外の視点を踏まえた肯定的な評価」ほどには,受け入れられていない傾向も示唆された.

逆に項目17,25,27は相関係数に比べてやや低い獲得点率を示した.「学生間相互評価においてピア評価におけるコメントや他者の成績に影響を与えること」がピア評価の必要性の認識と高い相関を持つものの,これらの項目を肯定することにためらいを感じている様子がうかがえる.理解はしているがやりにくい項目と考えられる.安易に学生が抵抗感を示すことを理由にピア評価からこれらの要素を除外してしまえば,ビア評価自体の必要性の認識が下がる可能性が示唆された.

以上,学生はピア評価に対して,成績を左右することや評価基準に揺らぎが起こりうる要素があることを懸念しながらも,ピア評価の持つ有用性を十分に理解し,学生間相互評価であることや教員のみの視点ではない評価の存在,ピア評価におけるフィードバックの価値を高く評価していることが示唆された.またそれ故に,ピア評価に対して評価としての妥当性を高め,自らを評価者として厳格に位置づけようとする意識も持ち合わせていることが示唆された.一方で,ピア評価に対して真摯ではない姿勢を見せる学生や,心理的な負担を感じている学生がいることもわかったが,総合的には肯定的に捉えている結果が得られたといえる.

本調査の対象者は我が国の薬学領域に限らず高等教育における教育研究において他に例をみない科目数で多様な条件のピア評価を4年間受けてきた学生であり,アンケート実施のタイミングもピア評価関連科目とは無関係の時期に行っている.したがって,本アンケートの結果は,ピア評価そのものに対する学生のある程度成熟した意見であると考えられる.これまでのピア評価およびピア評価を導入した教育に関する研究成果が1科目や1種類の教育プログラムにおけるピア評価の実施に対する調査,解析であったため,科目自体への学生の考えや当該科目でのピア評価の運用上の問題が強く影響してしまうことが否定できない.本研究は,18科目で31回のピア評価を経験してきた学生から収集したデータであり,ピア評価という手法に対するある程度総論的な考察を与えるものであり,学生への教育貢献がより高いピア評価の実施に寄与すると考えらえる.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
© 2021 日本薬学教育学会
feedback
Top