2021 Volume 5 Article ID: 2020-052
帝京平成大学におけるセミナー科目は,「薬剤師としての心構え」や「患者・生活者本位の視点」を身につけることを目標とした本学の態度教育の主軸となる科目であり,学生は6年間に亘って学修する.5年次,6年次に配当されるセミナー科目は,実務実習前後に行われ,個人ワーク,グループワーク,スモール・グループ・ディスカッション,発表といった参加型学修を中心にプログラムが構築されている.そのため,2020年2月以降の新型コロナウイルス感染拡大による影響は,プログラムの中心となる参加型学修をどのように代替すればよいのか,担当教員はプログラム運営における工夫を余儀なくされた.本報告は,実務実習前後の参加型学修のオンライン授業の本学における実践報告である.本報告を通して,タイムスケジュールへの配慮,担当教員同士で知識,経験を共有することの重要性が示唆された.
A practical training program was offered to students at Teikyo Heisei University to help them improve their attitudes as pharmacists and valuable members of society and develop patient-centered perspectives. The program was structured around participatory learning techniques such as group work, small group discussions, and presentations. However, the impact of the spread of COVID-19 in February 2020 and beyond forced the faculty members in charge to devise new ways of replacing participatory learning, which is the core learning method employed by program. This is a practical report on the online classes for participatory learning before and after the practical training program at Teikyo Heisei University. This report stresses the importance of considering the time schedule and sharing knowledge and experience among the faculty members in charge.
帝京平成大学薬学部では,本学独自の「セミナー科目」により,「臨床における実践力」を支える医療職の心・態度,社会や人に関わる広い視野の醸成を目指している.学生は,セミナー科目を6年間に亘って学修することにより,「薬剤師としての心構え」や「患者・生活者本位の視点」などを身につけることを目標にしている.そのため,セミナー科目では,学生の参加型学修がプログラムの中心となっている.
この「セミナー科目」において,5~6年次に配当されるアドバンスセミナーIII(薬剤師のモラルジレンマ),およびアドバンスセミナーIV(薬剤師プロフェッショナリズム)は,実務実習をはさんで,実習前および実習後に行うプログラムで構成されている.アドバンスセミナーIVについては,6年次に配当される科目としての位置づけではあるが,学生は先取りする形で,5年次にアドバンスセミナーIII,IVを連続して集中講義として受講する.本セミナー科目は,薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂後,2015年(平成27年)に内容が刷新され,2020年が完成年度である.しかし,2020年2月以降,我が国における新型コロナウイルス感染拡大は,このプログラムの運営に少なからず影響を与え,プログラムの中心となるスモール・グループ・ディスカッション(以下SGD)や,その成果物の発表をオンライン授業においてどのように代替したらよいのか,担当教員はプログラム運営における工夫を余儀なくされた.
そこで本報告では,まず年間を通して運営されるアドバンスセミナーIII,IVの授業日程および授業プログラムの概要を説明する.そして,実務実習前,および実務実習後に行ったこの2つのプログラムにおける参加型学修をオンライン授業で行うにあたっての工夫,成果について述べる.オンライン授業への対応は2つのプログラムに共通しているため,本報告は,アドバンスセミナーIIIについての報告を主とし,アドバンスセミナーIVについては,アドバンスセミナーIIIにはない授業内容についてのみ報告する.そして最後に,2つのプログラムを通して浮上した課題を述べる.
本学薬学部の1学年の学生数は約200名である.学生の実務実習時期に合わせ,I~II期に実務実習を行う学生をAグループ,II~III期をBグループ,III~IV期をCグループとし,同じ授業プログラムを年間通して3回行う.グループごとに学生数には多少のばらつきはあるが,各グループ60~80名である.2020年度の授業日程は表1に示した通りである.オンライン授業を行った授業日を,表中にハイライトで示した.
学生数 | 実務実習前授業 | 実務実習(薬局・病院) | 実務実習後授業 | 地域医療見学・体験実習*3 | 地域医療見学・体験実習後授業*4 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
A | 53 | III | 2/3,4 | 2/25~8/9*1 | 8/19 | ||
IV | 2/5,7 | 8/20 | 中止 | 11/17 | |||
B | 65 | III | 5/11,12 | 5/25~11/9*2 | 11/9 | ||
IV | 5/13,14 | 11/10 | 中止 | 2021.2/19*5 | |||
C | 83 | III | 8/3,4 | 8/24~2021.2/14 | 2021.2/16 | ||
IV | 8/6,7 | 2021.2/17 | 中止 | 2021.4/23*5 |
*1:Aグループ学生の薬局実習は,2月25日から開始となったが,緊急事態宣言が発令された4月7日の前日4月6日をもって中断,その後中止となる.病院実習については,緊急事態宣言が5月25日に解除されたことを受け,53名中32名が6月1日から開始となり,21名については,実習日程が変更となった.そのため,8月19日,20日の実務実習後授業は,32名が対象となったが,当日1名が体調不良で欠席となり,31名に授業を行った.
*2:Bグループ学生の薬局実習は,緊急事態宣言が5月25日に解除されたことを受け,全員が6月1日から実習が開始となっている.病院実習については,Aグループ同様に実習日程が変更となっている学生がいる.
*3:2020年2月より地域医療見学・体験実習は新型コロナウイルス感染拡大の影響により中止となり,2020年度については1年間にわたって中止が決定している.
*4:2020年度は,地域医療にかかわる専門職の役割や業務を理解するための映像の視聴,その後のSGDを対面もしくはオンラインで行う予定である.
*5:日程は変更の可能性がある.
なお本報告の対象となるのは,実務実習前授業は2020年5月および8月に行った授業について,実務実習後授業は,2020年8月に行った授業についてである.これらのオンライン授業を受講した学生は,表1に示すとおり,同じ学生が対象とはなっていない.
本プログラムのテーマは「薬剤師のモラルジレンマ」である.プログラムにおける参加型学修は,個人ワーク,SGDおよびグループ発表である.対面による授業の流れは以下の通りである.
実務実習前の授業では,薬剤師のモラルジレンマ,および臨床倫理の4分割表に関する講義を行った後に,教員から提示されたモラルジレンマ事例を,個人ワークとして,臨床倫理の4分割表を用いて事例の整理をした後,事例の問題点を抽出,問題を解決するために必要な情報を検討,そして薬剤師としてどのような対応をすることが望ましいかについて考える.その後,4~5名でSGDを行い,課題として提示されたモラルジレンマ事例についてグループ内でさらに深め,発表用ポスターを作成する.最後にグループ発表を行い,学生間で相互評価を行う.
実務実習後の授業では,実務実習中に学生自身が経験した,または実務実習中に指導薬剤師の方が経験したモラルジレンマ事例について各自がレポートとしてまとめた後,グループでグループメンバーが経験した事例を共有する.その後,グループとして検討すべき一事例を選び,実務実習前に行った方法と同様に,臨床倫理の4分割表により事例を整理し,問題点の抽出,問題解決のための必要な情報の検討,そして薬剤師としての対応についてSGDを通して考え,グループとしてポスターを作成する.授業の最後にポスター発表を行い,学生間で相互評価を行う.
1-2.アドバンスセミナーIVの授業内容とプログラム内の参加型学修本プログラムのテーマは「薬剤師のプロフェッショナリズム」である.在宅医療への薬剤師の関わりと多職種連携が主軸となる.在宅医療に関しては,薬局薬剤師が初めて在宅医療にかかわるプロセスを追うストーリー仕立てのDVD視聴とワークで構成されている.薬局でのケアマネージャからの相談と訪問依頼,医師からの情報提供書の受け取り,初めての患者宅への訪問,担当者会議へとストーリーは進む.そして,各場面で考えるべき点についての課題が与えられる.場面ごとに学生は考え,ワークシートに課題に対する考えを記述していく構成となっている.これらのワークシートへの記述は,まずは個人ワークとして行い,その後グループワークにすぐに移行し,グループ内でのディスカッションを通して,グループメンバーの考えを集結し,ワークシートを充実させていく.最後に総括として,在宅医療にかかわる上での薬剤師の対応の整理と薬剤師が初めて在宅医療に関わるにあたって準備しておくことについてまとめる.
多職種連携に関しては,元気に過ごす高齢者の日常生活について,病気となったときの高齢者の日常生活について,また生活に欠かせない「食べる」ということを中心に,どのように多職種が連携し,高齢者の生活を支援するかについてDVDを視聴しながら考える.こちらもワークシートを用意し,高齢者の生活に関わる専門職の役割についてグループディスカッションを通して多職種連携について考える.
上記2つのグループディスカッション後には,形式的な発表の場を設けてはいないが,教員がグループを回りながら,マイクを向け,各グループの意見を吸い上げていくような方法をとっている.
そして実務実習後には,「患者の困りごとに関するワークシート」と「地域包括ケアと多職種連携に関するワークシート」への記述を通して,実習中に経験した多職種連携の場面を振り返り,なぜ薬剤師が多職種とかかわる必要があったのかについて個人ワークとして振り返り,その後グループ内で経験の共有,また,教員がグループを回りながら,マイクを向けて,各グループで共有した個人の経験を,さらに全体で共有するような方法をとっている.
2.オンラインによる実務実習前授業の概要上記に示した対面授業の流れを,オンライン授業ではどのように代替し実施したかについて,まずアドンスセミナーIIIでの授業を取り上げる.対象は,2020年度Bグループ(5/11)およびCグループ(8/3)に行ったオンライン授業である(表1参照).授業当日の参加型学修のタイムスケジュールは図1に示す通りである.なお,manabaとは,株式会社朝日ネットによるクラウド型の教育支援サービスであり,本学では,学生の学修のプラットフォームとして採用している.
アドバンスセミナーIIIの実務実習前の参加型学修のオンライン授業におけるタイムスケジュール
対面授業とオンライン授業との対応,および工夫点を以下の表2に示す.
学修内容 | 対面授業 | オンライン授業での代替法 | 工夫点 |
---|---|---|---|
臨床倫理4分割表による事例整理,問題点抽出,必要な情報の検討,薬剤師としての対応を考える. | SGD | 1.指定時間までにレポートとして個人ワークを提出 2.manabaのレポート相互閲覧機能によりグループ内でレポートを相互閲覧 3.グループ内で相互にレポートにコメントを投稿 |
manabaを通して提示 [授業3日前] ・当日の授業の流れ ・班分け表 ・manabaでのディスカッションへの参加方法 [当日] 担当教員のメールアドレスを明示し,質問に素早く対処 |
グループ発表 | グループメンバーからのコメントを参考にレポートをブラッシュアップして再提出 | ブラッシュアップレポートの提出時間を授業後でも可能と設定 |
SGDに変わる方法として,レポートの相互閲覧およびレポートへのコメント投稿機能を利用した.SGDのような時間を共有した双方向のディスカッションとは言いがたいが,グループメンバーからの意見を得ること,またグループメンバーのレポートを閲覧することにより,新たな気づきが得られると考えての代替方法であった.なお,ブラッシュアップレポートでは,グループメンバーからのコメントを受けての追加部分については赤字で記述するよう指示した.
工夫として,学生がスムーズに上記の「manaba上のディスカッション」に参加できるよう,当日の授業の流れ,班分け表,PCのスクリーンショットの画像を取り込み,視覚的に参加方法が理解できるようなパワーポイント資料「グループディスカッションへの参加方法」の3つを,授業日3日前にmanabaを通して学生に提示した.
また当日は担当教員のメールアドレスを開示し,回線の不具合などが原因で起こるトラブルが発生した際の連絡窓口,不明点についての質問窓口として随時受けつけられる体制を取り,学生への迅速な対応を心がけ,学生が不安にならないよう心がけた.そして,ブラッシュアップレポートの提出期限時間を授業時間後に設定することで,回線の不具合への対処,およびレポートへの取り組み時間が十分とれるよう配慮した.
成果としては,臨床倫理の4分割表を用いたモラルジレンマ事例の整理の後,問題点の抽出,必要な情報の検討,薬剤師としての対応を考える個人ワークは,対面授業と比較して,学生のレポートの文字数が多く内容的に充実していた.ワードファイルでの作成のほうが手書き作成よりも行いやすかったことも一因と考えられる.また,「自分では気づかなかったので参考としたい」,といったコメントが見られ,他の学生のレポートを閲覧し,コメントを投稿する,という疑似SGDは,「広い視野の醸成を目指す」ことを学修目標とするセミナー科目において,効果的な手法となっていたとも考えられる.
アドバンスセミナーIVでは,SGDとグループ発表に加え,DVDを視聴しながらワークを行うプログラムがあるので,上記に加え,タイムスケジュールおよび対面授業とオンライン授業での対応と工夫点について追記する.対象は,2020年度Bグループ(5/13,14)およびCグループ(8/6,7)に行ったオンライン授業である(表1参照).授業当日の参加型学修のタイムスケジュールは以下に示す通りである(図2).なお,本稿では,1日目の在宅医療への薬剤師の関わりに関する講義についてのみ報告する.2日の多職種連携は,講義内容は上記に示した通りで,オンライン授業でのSGD,発表,グループワークは1日目と同様の方法で行った.
アドバンスセミナーIVの実務実習前の参加型学修のオンライン授業におけるタイムスケジュール
対面授業とオンライン授業との対応,および工夫点を以下の表3に示す.
学修内容 | 対面授業 | オンライン授業での代替法 | 工夫点 |
---|---|---|---|
在宅医療にかかわる薬剤師の役割と業務を理解する. | 講義受講とDVD(「初めての在宅」)視聴をしながら教員の指示に従いワークシートに記入 | 講義ビデオと場面ごとに編集したDVD動画を,Office365のビデオ配信サービスStreamを利用して配信し,manabaのアンケート機能を利用して作成したワークシートに記入. | 講義動画,動画ビデオは通し番号をつけ,学生が番号通りに視聴することで,順序を間違えずに受講できるようにした. 受講学生と担当教員のみが視聴できるよう講義動画,動画ビデオは閲覧制限を設け,Teamsのタブ機能を利用して,学生がダウンロードできないよう工夫して配信した. |
この授業では動画ビデオと講義ビデオの視聴を挟みながら,ワークシートに取り組むことから,動画をこちらが意図する順序で学生が迷うことなく視聴できるよう工夫をした.また,教育用DVDを動画ビデオとして編集した上で配信したので,担当教員と受講学生のみ視聴可能とし,閲覧制限を設けた.また,学生が動画をダウンロードできないようTeamsのタブ機能を利用して配信した.対面授業では,学生のワークシートへの記述状況を確認しながら時間を調整することが可能であるが,オンライン授業の場合は,あらかじめ提出時間を設定することから,時間内に提出が間に合わない学生への対応が必要となる.しかし,今回はBグループ,Cグループともに全学生が提出時間内に提出ができていたため,スケジュール通りに授業は進行した.しかし,ややタイトなタイムスケジュールとなっていたため,提出期限時間間際に提出する学生が数名みられた.オンライン授業におけるスケジュール管理については学生のアンケート結果を参照しながら後ほど検討する.
3.オンラインによる実務実習後授業の概要実務実習前授業と同様,対面授業をオンライン授業ではどのように代替し実施したのかについてアドバンスセミナーIIIでの授業について述べる.対象は2020年度Aグループ(8/19)に行った授業である(表1参照).II期の病院実習が日程変更となった学生がいたこと,また当日の体調不良により欠席学生が1名いたことから,受講学生は31名であった.授業当日の参加型学修のタイムスケジュールは以下に示す通りである(図3).受講生が少ないことから,学生のトラブル対応へもきめ細かく行えることができると考え,大学がライセンス契約をしているMicrosoft社Office365のアプリケーションTeamsのテレビ会議システムを利用してSGDおよびグループ発表を行った.
アドバンスセミナーIIIの実務実習前の参加型学修のオンライン授業におけるタイムスケジュール
対面授業とオンライン授業との対応,および工夫点を以下の表4に示す.
学修内容 | 対面授業 | オンライン授業での代替法 | 工夫点 |
---|---|---|---|
モラルジレンマ事例の紹介 | SGD | manabaのレポート相互閲覧機能によりグループ内でレポートを相互閲覧 | manabaを通して提示 [授業3日前] ・当日の授業の流れ ・班分け表 ・manabaでのディスカッションへの参加方法 [当日] 担当教員のメールアドレスを明示し,質問に素早く対処 |
検討事例の決定 | SGD | Teamsの小会議室にてグループメンバーによるディスカッション | manabaを通して提示 [授業3日前] ・Teamsでのマイク通話テストの方法の説明PPTの提示 [授業前日] ・会議室への入室方法 ・授業前日に,テスト会議室を開室し,テレビ会議システムの会議室への入室が不安な学生に対応 ・班分け表 ・Teamsの小会議室のラベルには学籍番号を明示 [当日] 担当教員のメールアドレスを明示し,質問に素早く対処 |
グループで臨床倫理4分割表による検討事例の整理,問題点抽出,必要な情報の確認,薬剤師としての対応を考える. | SGD | 1.個人レポートとして検討事例を臨床倫理の4分割表で事例の整理を行い,manabaからレポートとして提出 2.Teamsの小会議室にてグループメンバーにより検討事例の4分割表による事例整理についてディスカッション.個人レポートは,ファイル共有機能によりメンバー内で共有. 3.ディスカッション後,追加すべき点をレポートに加え,個人レポートとしてmanabaから提出 |
|
グループ発表 | Teamsの大会議室にて,グループの代表者が自分のレポートを元に,グループとしての成果物として発表.その後質疑応答. | ファイルの共有方法について,事前に視覚的に理解できる説明PPTを提示 | |
相互評価 | 用紙投票manabaによる学生相互評価 | manabaによる投票と,学生相互評価 | 学生相互評価については,視聴と同時に,スマートフォンなど他のデバイスからの投票も可とした. |
SGDの代替法として,Teamsを用いたことにより,manabaでのレポート相互閲覧,レポートへの相互コメント投稿と比較すると,より,対面でのSGDに近い形で授業運営ができたと考えられる.なお,Teamsを活用してのSGD実施には,学生の通信環境が大きく左右する.そこで,事前にmanabaを通して通信環境についてのアンケートを行い,その結果,学生が大きな問題なく参加できることを確認した上での実施であった.
しかし,当日学生全員が自宅から問題なくアクセスできるのか,マイクやカメラの作動に問題はないかといった懸念は払拭できなかった.そこで事前に,視覚的に理解できるようなTeamsの会議室への入室方法を説明したPPT資料や,カメラマイクテストの方法を提示した.さらに前日にテスト会議室を開室し,当日のライブ形式でのオンライン授業への参加に不安を抱える学生への対処を行った.当日は,担当教員がメールアドレスを開示し,受講中のトラブル発生時にはメールのやりとりを通して迅速に対応するよう心がけた.また,教員のオンラインでのライブ授業におけるスキル不足も懸念されたため,授業当日は担当教員が同室に集まり,互いに協力できるような体制で臨んだ.
Teamsのテレビ会議システムを利用してSGD,発表を経験した学生にアンケートを実施した.なお,アンケート実施にあたっては,学生に対して,「アンケート結果を,学会への発表や,学術雑誌への投稿論文に使う可能性があること,ただし,回答は統計的に処理し,自由記述については個人名を明かすことは一切ない」ことをアンケートの冒頭に明示し,承諾,不承諾の意思表明を求めた.受講学生31名中28名から回答が得られ,1名を除いた27名から承諾を得た.本報告では27名の回答結果を示す.
1.質問内容質問は以下の通りである(図4).
テレビ会議システムを利用してのオンライン授業についての質問内容
回答は,問1~3および問5,問7については「まったく問題なかった」「まあ問題なかった」「やや問題があった」「問題があった」の4件法でたずね,問4については「あり」「なし」でたずねた.問6,問8,問10~12については自由記述回答とした.
2.結果 2-1.受講環境について受講環境についての質問への回答を図5に示す.通信環境,画像,音声いずれも「問題があった」と回答した学生はいなかった.音声については約4分の1の学生が「やや問題があった」と回答し,画像に対して問題を感じた学生より多かった.通信環境が影響しているのではないかと考えられるが,「やや問題があった」としながらも,受講は継続できていた.
受講環境
テレビ会議システムを利用してのオンライン授業についての質問への回答を図6に示す.
テレビ会議システムを利用してのオンライン授業についての質問への回答
テレビ会議システムへの参加は,半数以上の59%の学生が初めてであった.テレビ会議システムへの参加に「やや問題があった」という回答よりも,テレビ会議システムを利用してのSGDへの参加に「やや問題があった」と回答する学生のほうが多かったが,「やや問題があった」と回答した学生の通信環境に対する回答は一様ではなく,単純に通信環境の影響を受けての「やや問題があった」という回答ではないと考えられた.「テレビ会議システムでのSGD」に問題を感じた学生の自由記述回答は8件あり,「個人で作成した成果物を一気に見ることができないため情報がまとめづらい.話し出すタイミングがかぶってしまったり,誰が話しているのかわからない時があり,時間が通常よりかかる」,「聴き取りづらい」,「意思疎通がしにくいと感じた」というように,成果物の共有の問題,意思疎通の難しさといった点が挙げられていた.
対面のSGDと比較したとき,「対面よりよかった」と回答した学生はいなかった.半数以上の56%が,「対面のほうがいい」と回答し,「対面と変わりない」「まあ変わりない」の合計を上回った.「対面のほうがいい」と回答した理由として,自由記述回答は15件あり,「話すタイミングや意見のすりあわせが難しく感じた」,「対面のほうが気になったことをすぐに聞くことができたり,話し合いも進めやすいと思った」,「リモートでのSGDだと発言するタイミングをうかがってしまい,発言回数が少なくなってしまった」など,対面のほうがスムーズにディスカッションが進むと学生は感じ,話すタイミングが,スクリーン越しよりも対面のほうが図りやすいようであった.
テレビ会議システムを利用しての講義の感想には,20件の回答があった.「やりづらさは多少あったが,結果としては問題なく参加できたと思う」,「全体としては,特に問題なく講義を受けられたと思う」といった肯定的な意見,「SGDを行う時は対面が良いと思ったが,このような状況なので自分自身も慣れていくしかないと思った」,「積極的に発言しないと自分の考えや意見を言えないままになってしまうため自主的に発言する力が鍛えられると感じた」といった,状況に自らが適応することの必要性に言及する意見があった.そして,「資料の共有が同時に行えないため,対面のSGDよりも時間がかかる.そのため,タイムスケジュールにもう少し余裕が欲しい」,「対面でのSGDより時間がかかる.通常よりゆとりのある授業構成にしてほしい」といったように,タイムスケジュールの組み立て方への要望が聞かれた.
本報告は,実務実習前後に実施したオンラインによる参加型学修に焦点を当てたものである.試行錯誤の中,開始した授業プログラムであったが,改めて振り返ることで課題として以下の3点を挙げることができると考える.
1.対面授業よりゆとりあるタイムスケジュールでの進行の必要性オンライン授業のタイムスケジュールを作成するにあたっては,対面授業でのタイムスケジュールを参考にしながら組み立てたが,オンライン授業では,それではタイトになりすぎるため,対面授業よりもゆとりをもったタイムスケジュールを組み立てる必要がある.筆者らは,SGDの代替法としては,2つの方法を採用した.ひとつは実務実習前のオンライン授業で行った,個人レポートの提出,グループメンバー同士でレポートの相互閲覧とコメント投稿,個人レポートのブラッシュアップレポ-ト提出,という流れで行った「manaba上のディスカッション」である.もうひとつが実務実習後のオンライン授業で行ったTeamsのテレビ会議システムを利用してのSGD,グループ発表である.よりタイムスケジュールにゆとりをもたせたほうがいいのは,テレビ会議システムを利用してのSGDであろう.これは,学生へのアンケートからも明らかになったことでもある.教員は,可能な限り対面と同じ内容,同じスケジュールで行うことに重点を置きがちとなるが,学修の目的と照らし合わせ,内容,スケジュールの同等性よりも教育効果の同等性に焦点を当て,学生のシステムへの不慣れさに伴う負担を軽減させ,考えるための時間を確保するよう意識することが必要であろう.もちろん,学生がテレビ会議システムを利用したSGDに慣れていくことで,タイムスケジュールは変化していくとも考えられる.学生からも,コロナ禍においては対面でのSGDが難しい状況であるから慣れていくことが必要であるという意見も聞かれ,学生自身もシステムへの不慣れさについて認識している.しかし,オンライン授業のタイムスケジュールを組み立てる際には,意識的に対面授業よりゆとりあるタイムスケジュールで検討する必要があると考えられる.
2.対面授業以上の学生への配慮の必要性対面授業であれば,参加型学修において不明な点が生じた場合は,学生は教員,友人に気軽に質問することができる.しかしオンライン授業の場合は,一人ひとりがオンラインでつながっているのみで,リアルな「場」を共有していない.また学生のPCスキルにも差があり,通信環境も異なる.学生の学修環境を考慮し,対面授業以上に学生の授業参加に対して配慮する必要があると考える.
また,テレビ会議システムを利用してのSGDでは,学生に承諾を得た上で録画をしたが,録画されているという状況が教員に常に監視されているようであった,という記述が授業実施後のアンケートに寄せられた.SGDへの参加態度を評価対象とする場合を除き,録画は慎重に行う必要があるであろう.
授業準備は,対面授業以上に時間を費やすこともあるが,学生の意見を聴きながら,オンライン授業プログラムの構築プロセスに費やす教員の経験の蓄積は,より学修効果の高いオンライン授業のプログラム構築へと結びつくことが期待できると考えられる.
3.教員同士のオンライン授業に関する経験,知識の共有の促進ほぼすべての教員が試行錯誤の中でオンライン授業での参加型学修について実施したと考えられる.本学では,このセミナー科目の主担当教員が構成メンバーとなるセミナー委員会という委員会がある.セミナー科目はすべて,参加型学修を主軸として運営するため,オンライン授業への対応にあたっては,セミナー委員会で意見を交換し,経験や知識を共有することが重要であることは当初より認識していた.レポートの閲覧,コメント投稿という「manaba上でのディスカッション」への参加方法についても,筆者が作成したパワーポイントスライドを,各セミナー科目の担当教員がアレンジして使用するなどして,教員同士で授業運営にあたってのツールを含めた知識を共有したが,授業運営をともにする教員同士の経験,知識の共有を促進させることが,オンライン授業への対応においては重要な課題と考えられる.
新型コロナウイルス感染拡大に伴い,大学に限らず教育機関は短期間でオンライン授業を開始する必要性に迫られ,教員はその対応に追われた数ヶ月であったと考えられる.とりわけ参加型学修をどのように行うことが望ましいのか,その対応には筆者らも非常に苦慮した.今後は,対面授業とオンライン授業というハイブリッド型の授業プログラムの構築も視野に入れる必要がある.また,対面授業での参加型学修を予定しながらも,新型コロナウイルスの感染状況によっては,オンライン授業への急遽切り替えという事態が起こることが十分に考えられる.本報告は,本学のセミナー科目の中で,5年生を対象とした実務実習前後に行うアドバンスセミナーIII,およびIVにおける実践報告である.今後も,浮かび上がった課題に対して,学生の意見に耳を傾け,教員同士で意見を交換しながら,学生が学修効果を実感できるような参加型学修のオンライン授業について引き続き検討していきたい.そして学内のみならず,他大学との知識,経験共有を積極的にしていただきたいと考えている.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.