2021 Volume 5 Article ID: 2020-060
北里大学メディカルセンターでは,薬学実務実習に関するガイドラインを基に実践的な臨床対応能力が修得できる実習プログラムを考案し,2018年度より実習を開始した.本研究では,2018~2019年度に行った計6回のプログラムについて,教育効果に与えた影響を評価した.教育効果として,薬局および病院実習ともに終了した実習生62名を対象としたパフォーマンス評価の推移,アンケート調査結果を用いた.パフォーマンス評価11項目全てにおいて,評価は段階的に上昇し,11週目では,実習生の80%以上が,9項目で「3」または「4」の評価であった.病棟業務実践で主に評価する項目については,実習生の90%以上が,「3」または「4」の評価であった.アンケートより,各実習項目の満足度が95%以上で得られ,病棟業務については100%であった.今後は,得られた課題についての対策を具体的に検討し,実習生の臨床対応能力の向上に資するプログラムを構築していきたい.
A hospital practical training program, initiated in 2018, enabled Kitasato University Medical Centre students to acquire practical clinical skills based on the Practical Pharmacist Training Guidelines that the Council on Pharmaceutical Education developed. In this study, the program’s educational effectiveness was assessed from 2018 to 2019 based on changes in the performance of 62 students who completed both the pharmacy and hospital training and the students’ questionnaire responses. The performance ratings gradually increased in 11 of the rubric items. In the final week of training, more than 80% of the students were rated as a “3” or “4” in nine of the items. In addition, more than 90% of the students received ratings of a “3” or “4” for their ward training. According to the questionnaire responses, more than 95% of the students were satisfied with the training, and 100% were particularly satisfied with the ward training. In the future, specific measures will be considered to address the issues raised and develop a program that will improve the students’ clinical ability.
2019年度より改訂薬学教育モデル・コアカリキュラム1) (以下,改訂コアカリ)に準拠した薬学実務実習が導入され,2015年に提示された「薬学実務実習に関するガイドライン」 2) (以下,ガイドライン)は,大学が主導的な役割を果たし,実習を行う病院および薬局施設と円滑に連携して,臨床実習を適切に実施するための指針となっている.ガイドラインでは「薬学実務実習の在り方・目標」として,1)薬剤師として求められる基本的な資質の修得,2)公平で幅広く参加・体験できる実習,3)大学,病院,薬局の連携が挙げられており,また実習内容として,「病院での望ましい参加・体験型実習(ガイドライン別添4)」 2) が例示されている.これら改訂コアカリに基づく新たな実務実習は,2018年度から各施設で先行実施され,大学・施設間の情報共有や多施設を対象とした概略評価の実施と運用に関する取り組みについての報告がされているが3,4),詳細な実習プログラムの組み立てとそれに対する評価については報告されていない.北里大学メディカルセンター(以下,当院)では,大学における事前実習や病院での実務実習,臨床業務に従事している北里大学薬学部の臨床系教員が,実習プログラムを作成している.事前実習で行う症例はモデル症例であり,患者のプロブレム抽出や解決方法が比較的理解しやすい状況で実習を行っている.しかし臨床現場における複雑な症例では,実習生が自らプロブレム抽出や解決方法を見出すことが困難であることを経験している.そのため,改訂コアカリに準拠した実習プログラム作成にあたり,「病院での望ましい参加・体験型実習」を基に実践的な臨床対応能力が修得できる実習プログラムを考案し,病院職員との協働のもと2018年度より実習を開始した.本研究では,2018~2019年度に行った計6回の実習プログラムについて,教育効果にどのような影響を与えたかを評価した.
「実践的な臨床対応能力を身に付ける」を全実習における学習目標とした.さらに病棟実践においては,「代表的疾患を網羅し,総合的な臨床対応能力が身につくよう,担当患者の入院から退院まで継続的に関与し,病棟薬剤師業務や疾患,薬物療法について理解する」,「患者とコミュニケーションを形成し,一貫したファーマシューティカルケアの実践を目指す」を学習目標として方略を作成した.実習方略およびスケジュールについて図1に示す.本プログラムの特徴として,代表的疾患および5~10例の患者を担当できるよう病棟業務実践を3病棟全9週間で実施した.また実習生が自らプロブレムを抽出し,解決する方法を見出すことで,プロブレムの解決手法を身に付けることができるよう,1病棟ごと(3週間ごと)に小目標を設定した(図1A).小目標は,「病棟薬剤師の役割を理解し,患者応対を通して情報収集や提供,教育の経験を積む」,「患者応対を引き続き経験し,エビデンスを考慮したプロブレムの解決を目指す」,「患者の病態を考慮し,総合的に薬物治療を評価する」 と段階的に設定した(図1A).また3病棟目からは,「病院での望ましい参加・体験型実習(病棟実習)」の「学生の行動指針」 2) の実践を目指した.各病棟での実習最終日には,小目標に沿った報告会を実施し,様々な疾患の薬物治療と幅広い観点からのプロブレム抽出や解決方法について,実習生全員で共有した.実習期間中は,設定した各目標が達成できるよう臨床系教員が学習効果や進行状況について,週1回実習生と面談を実施した.その結果を指導薬剤師にフィードバックし,臨床系教員と指導薬剤師が連携して実習を円滑に進めるための体制を確保した.また概略評価として,日本病院薬剤師会が作成した「病院実務実習の評価基準(原案)」 5) を用いた.病棟業務実践以外については実習項目ごとに,病棟業務実践については週1回ルーブリックによる評価を指導薬剤師が実施した.指導薬剤師と実習生が共通の目標到達度となるよう,評価した内容について実習生に提示し,実習の振り返りを行いながらフィードバックを行った.
実習プログラム.A 実習方略,B 実習スケジュール例,「病院実習導入」「医薬品の調製」「医薬品管理」:2週間(各項目 実習生2~3名),「病棟業務実践」:9週間(各病棟 実習生2~3名配属),対象病棟:整形外科・婦人科病棟,泌尿器科・腎臓内科病棟,小児科・消化器内科・総合内科・耳鼻科病棟,脳神経内科・脳神経外科・眼科病棟,外科・形成外科病棟,循環器内科・膠原病感染内科・内分泌代謝内科病棟(6病棟).
薬局および病院実習ともに終了した実習生62名(男性16名,女性46名)を対象とした.実習プログラムの教育効果として,学習効果を高め,実習生が実習期間を通して成長することができたかについて,実習生の学習成果をもとに評価した.学習成果の評価は多様であるが,松下6,7) は学習成果の可視化として,直接評価–間接評価,量的評価–質的評価という2軸に分類している.直接的なエビデンスに基づいて評価できる直接評価は,学習成果の主である.そのため直接評価であり,かつ量的評価と質的評価の橋渡し的役割に該当する7),指導薬剤師によるパフォーマンス評価の推移を調査した.間接的なエビデンスに基づく間接評価は,実習生による過大または過小評価の可能性があり8),間接評価だけでは学習成果を把握することはできない.しかし実習内容に対する満足度や成長することができたという実感などの実習生自身の認知は,間接評価によって把握される7).そのため実習生自身の認知については,間接評価であるアンケート調査を実務実習終了後に無記名自記式で実施した.アンケート内容は,実習内容に合わせた7項目(調剤,医薬品管理,医薬品情報,製剤・無菌調製,抗がん剤調製,病棟業務,チーム医療)と,薬剤師として特に重要な責務の一つである「医療安全」を加えた計8項目の満足度について,4段階の選択式回答とした.また自由記載として,「病棟実習を3病棟で行うことと実施方法について,感想や意見を記入してください」,「病棟実習の目標および目標に沿った報告会の実施方法について,感想や意見を記入してください」について回答を求めた.代表的疾患およびSBOs実施状況についても調査した.SBOごとの評価は必須ではないが,指導薬剤師への指導内容の明示に利用した.代表的疾患については,実習生が当該疾患についての実習を行ったと認識した場合に実施とした.
3.倫理的配慮本研究の実施にあたり,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守し,事前に北里大学メディカルセンター倫理委員会にて承認(承認番号:3834-1)の後に研究を行った.本アンケートを実施するにあたり,実習内容の評価や問題点を明らかにし,実習が円滑に進むよう実習プログラムを構築することが目的であることを実習終了時に臨床系教員が口頭で説明し,所定の場所に提出してもらい回収した.本研究ではオプトアウトを採用し,学習成果およびアンケート結果を用いて,実習内容の評価や問題点を明らかにすること,収集した情報から対象学生を直接同定できる個人情報が匿名化されていること,調査結果は学会や学術雑誌で発表されること,研究への参加はいつでも撤回できることを北里大学薬学部情報ポータルへ掲載し,拒否の機会を担保した.
ルーブリックを用いたパフォーマンス評価の推移を図2に示した.評価対象11項目全てにおいて,パフォーマンス評価は経時的に上昇した.「F(2)②処方せんと疑義照会」(図2B)と「F(2)⑥安全管理-感染管理」(図2G)以外の9項目において,実習11週目では,パフォーマンス評価が「3」または「4」の実習生が80%以上であり,最頻値は「3」または「4」であった.特に「F(1)②臨床における心構え」(図2A),「F(2)③処方せんに基づく医薬品の調製」(図2C),「F(2)④患者・来局者応対,服薬指導,患者教育」(図2D),「F(2)⑤医薬品の供給と管理」(図2E),「F(3)①患者情報の把握」(図2H),「F(3)③処方設計と薬物療法の実践(処方設計と提案)」(図2J)および「F(3)④処方設計と薬物療法の実践(薬物療法における効果と副作用の評価)」(図2K)の7項目については,実習生の90%以上で,実習11週目のパフォーマンス評価が「3」または「4」であった.一方で,「F(2)⑥安全管理-感染管理」(図2G)については,11週目の評価が「3」または「4」の実習生が7%であり,最頻値は「2」であった.
実習2週目から11週目までの各週末のパフォーマンス評価推移.
アンケート回収率は100%であった.実習8項目の満足度についての結果を図3Aに示す.8項目全てにおいて,満足度が「かなりある」,「ある」,「少しある」と回答した割合は95%以上であった.病棟業務については,満足度が「かなりある」,「ある」,「少しある」と回答した割合は100%であった.自由記載による感想,意見の中から2名以上の回答を図3Bにまとめた.同様の内容はまとめて記載した.「病棟実習を3病棟で行うことと実施方法について」は,「いろいろな疾患や患者,薬物治療に関わることで,幅広い知識を身につけることができた」との記述が多くみられた.一方,「1病棟の実習を3週間より長く実施したかった」という意見もみられた.「病棟実習の目標および目標に沿った報告会の実施方法について」は,「目標に沿って,段階的に薬剤師業務や薬物療法,患者さんへの接し方について理解を深めることができた」,「配属病棟以外の症例についても学ぶことができた」との記述が多くみられた.
実習生に対するアンケート結果.A 実習8項目の満足度,B 自由記載.
代表的疾患への関わりについては,8疾患が85%,7疾患が10%,6疾患が5%であった.病院実習のみでは,8疾患が34%,7疾患が21%,6疾患が10%,5疾患が19%であり,4疾患以下は16%の実施であった.病院実習で関わりが最も多かった疾患はがん(100%)であり,次いで糖尿病と感染症(84%)であった.最も関わりが少なかった疾患は,精神神経疾患(50%)であった.
4.SBOs実施状況病院でどのように実習を進めるかについて,ガイドラインに例示されている「その施設で主に実施すべき」または「その施設で実施する内容を含む」に該当するSBOs 84項目のうち,71項目が実施率100%であった.実施率が100%未満であった13項目のうち,「その施設で主に実施すべき」または「その施設で実施する内容を含む」が病院に該当し,かつ薬局では「その施設で関連する内容を含む」または「その施設で直接関係しない」に該当するSBOsは6項目であった(表1).その中で実施率が50%未満と低かったSBOは「SBOs984臨床検体・感染性廃棄物を適切に取り扱うことができる」,「SBOs985院内での感染対策(予防,蔓延防止など)について具体的な提案ができる」,「SBOs1033医師・看護師等の医療スタッフと連携して退院後の治療・ケアの計画を検討できる」であった.
項目 | SBOs | 薬局 | 病院 | 実施率(%) | |
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(2)処方せんに基づく調剤 | 924 | 薬歴,診療録,患者の状態から判断して適切に疑義照会ができる.(技能・態度) | ◎ | ◎ | 81.5 |
934 | 適切な手順で後発医薬品を選択できる.(知識・技能) | ◎ | ○ | 53.6 | |
936 | 錠剤の粉砕,およびカプセル剤の開封の可否を判断し,実施できる.(知識・技能) | ◎ | ○ | 44.9 | |
984 | 臨床検体・感染性廃棄物を適切に取り扱うことができる.(技能・態度) | ◎ | 19.4 | ||
985 | 院内での感染対策(予防,蔓延防止など)について具体的な提案ができる.(知識・態度) | ◎ | 21.2 | ||
(3)薬物療法の実践 | 1010 | アドヒアランス向上のために,処方変更,調剤や用法の工夫が提案できる.(知識・態度) | ◎ | ◎ | 75.0 |
1011 | 処方提案に際して,医薬品の経済性等を考慮して,適切な後発医薬品を選択できる. | ◎ | ◎ | 21.2 | |
1012 | 処方提案に際し,薬剤の選択理由,投与量,投与方法,投与期間等について,医師や看護師等に判りやすく説明できる.(知識・態度) | △ | ◎ | 59.4 | |
1022 | 薬物治療の効果,副作用の発現,薬物血中濃度等に基づき,医師に対し,薬剤の種類,投与量,投与方法,投与期間等の変更を提案できる.(知識・態度) | ◎ | 81.7 | ||
(4)チーム医療への参画 | 1032 | 医師・看護師等の医療スタッフと連携・協力して,患者の最善の治療・ケア提案を体験する.(知識・態度) | ◎ | 67.4 | |
1033 | 医師・看護師等の医療スタッフと連携して退院後の治療・ケアの計画を検討できる.(知識・態度) | ◎ | 45.3 | ||
1037 | 地域における医療機関と薬局薬剤師の連携を体験する.(知識・態度) | ◎ | ○ | 3.3 | |
(5)地域の保健・医療・福祉への参画 | 1060 | 災害時における病院・薬局と薬剤師の役割について討議する.(態度) | ○ | ○ | 50.0 |
◎:その施設で主に実施すべきSBO,○:その施設で実施する内容を含むSBO,△:その施設で関連する内容を含むSBO,無印:その施設で直接関係しないSBO
改訂コアカリでは,卒業時までに修得すべき「薬剤師として求められる基本的な資質」に基づいた学習成果基盤型教育が主体となっている.また基本的な資質を修得するために,臨床対応能力を身に付けることが求められている.そのため,臨床系教員として,現在も臨床業務に従事しつつ,大学での事前実習と病院での実務実習の両方を担っている経験をもとに,実践的な臨床対応能力を身につけることを目標とした実習プログラムを考案して実施し,学習成果をもとに実習プログラムの教育効果を評価した.その結果,本実習プログラムにより概略評価11項目全てにおいて,パフォーマンス評価は実習経過とともに上昇し,実習生自身からも高い満足度が得られた.特に病棟業務実践で主に評価する項目については,高いパフォーマンス評価に到達しており,本実習プログラムは実践的な臨床対応能力の修得に効果的であることが示唆された.
間接評価は,実習生自身の認知であるとともに,成果につながる教育の過程を評価する機能を伴っている9).病棟業務実践で高いパフォーマンス評価となった理由として,アンケート結果をもとに考察すると,臨床対応能力を修得するためのプロセスを段階的にわけ,各段階を到達すべき小目標として設定し実施したことで,実習生は小目標に集中して実習に臨むことができたと考えられる.その結果,臨床対応能力が徐々に定着し,学習成果につながったのではないかと考えられる.さらに3病棟で実習を行い,目標ごとに設定した報告会を通して,様々な疾患やプロブレム解決方法について実習生全員で共有したことも影響したと考えられる.小林らの報告10) によると,病棟実習における指導薬剤師と教員によるサポートチームの指導は,実習生の満足度が高く有用であったという結果が得られている.そのため指導薬剤師に加え,臨床系教員が実習生と面談して学習効果や進行状況について指導薬剤師と連携し,不足している部分を明確にして,「病棟業務実践」の小目標に到達できるようサポートしたことも,最終的なパフォーマンス評価や満足度の結果につながったと考える.また学生の自己評価による習得度や理解度と満足度は関連することが報告されていることから11,12),パフォーマンスの上昇が成長の実感をもたらし,満足度が向上した可能性も推察される.
一方で,「F(2)⑥安全管理-感染管理」については,パフォーマンス評価の最頻値が「2」であった.SBOs実施状況の調査結果からも,「SBOs984 臨床検体・感染性廃棄物を適切に取り扱うことができる」,「SBOs985 院内での感染対策(予防,蔓延防止など)について具体的な提案ができる」は,実施率が50%未満であった.この原因として,日常業務で,当院薬剤師が臨床検体や感染性廃棄物を扱う機会が少ないことが考えられる.日本病院薬剤師会の平成29年度「病院薬剤部門の現状調査」13) によると,薬剤師が臨床検体を扱う主な業務であるTDMについて,薬物血中濃度を薬剤部門で測定している施設は,当院に該当する500病床未満では10.9%未満となっており,多くが検査部門または外注で測定している.当院においても測定は検査部門で実施しているため,臨床検体や感染性廃棄物を扱う機会が少ない.しかしながら,病棟においては,多くの臨床検体や感染性廃棄物が存在している.そのため,病棟内で行われている感染管理の現状を指導薬剤師が説明することで,問題点の指摘や感染対策の提案まで実施できることを試みたが,通常の業務内で薬剤師の関わりが少ない内容を説明するだけでは,限界があることを実感した.感染管理に対する教育効果を向上させるためには,薬剤師だけではなく,医療スタッフや院内感染防止に対する取り組みを行う感染管理室と連携した実習を取り入れ,院内感染への意識を高める必要がある.一方で,ルーブリックの記載内容に当院の現状とのズレがあるため,施設の現状に合わせたルーブリック自体の見直しが必要であるが,今後の薬剤師に求められている業務や役割を反映した内容に業務内容を見直すことも必要であろう.またSBOs実施状況の調査より「SBOs1033医師・看護師等の医療スタッフと連携して退院後の治療・ケアの計画を検討できる」については,治療・ケア計画立案のカンファレンスに同席することで,医療スタッフと連携することを試みたが,実施率が45.3%であった.実施率が低かった原因については,今回の結果から推測することが困難であり,詳細な検討が必要である.改訂コアカリでは,SBOごとの評価はせず,パフォーマンスレベルを評価するためのポイントとなっており,SBOs1033が含まれる「F(4)①医療機関におけるチーム医療」では,SBOs1032,1033以外のSBOsは100%の実施率であった.しかし,実習生も医療チームの中で他職種と情報共有し,退院後まで薬物治療に関わりを持つことは,薬剤師として担当患者の薬物療法について責任をもたなければならないという,患者の治療に関わる薬剤師としての責任感を培う上でも重要である.医療スタッフと連携した退院後の治療・ケアに実習生がより積極的に参画できるよう検討することで,さらにパフォーマンスの質が向上し,より高い臨床対応能力が修得できると考える.
代表的疾患については,薬局・病院実習を通して,実習生全員が6疾患以上に関わることができた.一方で,病院実習における精神神経疾患の関わりは50%であった.日本病院薬剤師会では精神神経疾患の具体例として,統合失調症,てんかん,不眠,睡眠覚醒リズム障害などが示されている14).当院に精神科病棟はなく,また精神神経疾患を入院目的とする患者は少ない.しかしながら,入院患者では生活環境の変化や身体的・精神的ストレスによる睡眠障害を訴えることが多く,睡眠薬の服用を開始する場合が多い15).そのため不眠や睡眠覚醒リズム障害を合併している入院患者が一定数存在していると推測される.病院実習導入にて疾患例を提示しているため,他疾患と同様に関わることができると推測していた.さらに多くの実習生が,これらの入院患者に関わる機会は十分にあると考えられることから,実習生が睡眠薬の適正使用に関する薬学的介入に関わることができるよう,薬学的介入の具体例を明示するなどサポートする必要がある.
本研究の限界として,本実習プログラムの評価は,プログラムを実施した実習生のみを対象としており,実施していない実習生との比較解析を行っていないため,真の教育効果を評価できていないことが挙げられる.しかしながら,実際の教育現場で比較を実践することは困難であることから,今後,本結果より得られた課題をもとに実習プログラムの改善・工夫を行い,その効果を時系列で測定し評価を継続することで,本プログラムの教育効果を相対的・間接的に評価できると考えられる.
本実習プログラムは,実習生のパフォーマンス評価を実習経過とともに上昇させ,特に病棟業務実践では,小目標を設定して段階的に実施したことで,高い学習成果を得ることができた.さらに,実習生自身による認知である満足度においても高い評価を得ることができた.一方,当院薬剤師が通常業務として実施していない内容については,一部代替案を提示して実施したが,高いパフォーマンス評価に到達することができなかった.薬剤師だけではなく,他職種と連携していく事,施設にあったルーブリックに修正していく事が必要であるが,今後の薬剤師業務の展開を見据えて,業務の改善や見直しをすることも必要であろう.本結果をもとに,実習プログラムを改善し,実習環境を再度整備して,実習生の実践的な臨床対応能力のさらなる向上に資する実習プログラムを構築していきたいと考えている.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.