2021 Volume 5 Article ID: 2021-012
これまでの薬学教育研究の成果の多くは,大学単位で実施された研究成果に基づくものであり,測定方法や評価基準が大学ごとに異なることから,複数の研究成果を比較検討することが困難である.本プロジェクトでは,薬剤師に求められる基本的資質のうち「コミュニケーション能力」について,学習成果の測定方法および評価基準の統一化と大学間での測定結果の比較,さらには各大学における研究成果を用いたコンピテンシーへの到達度に関するメタアナリシスおよびシステマティック・レビューの作成を目指している.この総説では,オーガナイザーからシンポジウム開催の経緯を述べたのち,シンポジストより教育や内部質保証における「測定と評価」の意義と要点,教育を支えるメタアナリシスを目指す意義について述べたうえで,シンポジウム当日の議論について読者と共有したい.
Most of the results of pharmaceutical education research are based on the reports of individual outcomes from university to university, making it difficult to compare the results because the measurement methods and evaluation criteria differ among them. In this research project on “communication ability,” which is a basic quality of pharmacists, the measurement method and evaluation criteria of learning outcomes were standardized for comparison between universities. Furthermore, it aimed to create a meta-analysis and a systematic review on the attainment of competencies. In this review, the organizers introduced the background of this symposium, and the symposiasts explained the significance and key points of “measurement and evaluation” in education and internal quality assurance, and the importance of aiming for meta-analysis to support education. The explanation was followed with a discussion from the symposium.
2006年度の改正学校教育法および改正薬剤師法により,薬学を履修する過程のうち,臨床に係る実践的能力を培うことを主たる目的とした薬学教育の修業年限が6年間に延長された.これに先立ち,薬学教育モデル・コアカリキュラムが制定され,6年制薬学部を有する大学は,このモデル・コアカリキュラムに沿った教育を進めてきた.平成25年12月には改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムが提示され,6年制薬学部を卒業時に必要とされている資質である「薬剤師として求められる基本的な資質」が示された1).すなわち,薬剤師養成課程は,従来までのプロセス基盤型学習から,学習成果基盤型学習へ移行したと言える.
また,2017年度の学校教育法施行規則の改正により,卒業認定・学位授与の方針である「ディプロマ・ポリシー」,教育課程編成・実施の方針である「カリキュラム・ポリシー」,入学者受け入れの方針である「アドミッション・ポリシー」の三つの方針を一貫性のあるものとして策定し,公表することが義務付けられ,大学が自律的な組織として,その使命や目的を実現するために,自らが行う教育および研究,組織および運営,ならびに施設および設備の状況について継続的に点検・評価し,質の保証を行うとともに,絶えず改善・向上に取り組むことが求められている2).
これらの背景から,薬学教育におけるInstitutional Research(IR)を見据えた教育効果の測定,すなわち,教育,研究に関する大学の活動についてのデータを収集・分析するといった薬学教育研究が進められている3).
しかしながら,これらの研究成果は,大学単位で実施された研究結果に基づくものであり,測定方法や評価基準が大学ごとに異なることから,複数の研究成果を比較検討することが困難であることが言える.永田らは,早期臨床体験の教育効果に関するシステマティック・レビューおよびメタアナリシスを行った結果を報告しているが,早期臨床体験に関する研究間での研究手法や検討項目の違いにより,メタアナリシスが困難という問題点を提示している4).
2019年8月,第4回日本薬学教育学会大会にあわせて開催された第2回薬学教育研究ユニット交流フォーラムにて,「教育コンピテンシーの全国測定―大学横断的な教育成果の測定研究会」が発足した.この研究会では薬剤師に求められる基本的資質のうち「コミュニケーション能力」について,学習成果の測定方法および評価基準の統一化と大学間での測定結果の比較,さらには各大学における研究成果を用いたコンピテンシーへの到達度に関するシステマティック・レビューの作成を目指しており,6年制薬学教育に関して全国区で学習成果を比較検討し,質の高い教育成果を検証することで,質の高い薬学教育研究の成果を社会に発信することを目的としている.本研究に関する先行研究として,米国における薬学生のコミュニケーションスキルに関してルーブリックを用いて評価している報告5) や韓国における薬学教育のコミュニケーションスキルに関するメタアナリシスを実施した報告6) などが挙げられる.本研究においては,研究への参画を予定している薬学部教員によって「コミュニケーション能力」のアウトカムあるいはコンピテンシーの定義,さらに共通の評価基準や測定方法について議論し,これに基づく各大学での測定とこれらを統合したメタアナリシスを目指しているが,2019年12月に出現した新型コロナウイルスの影響を受け,本稿作成時点においてもこれらを議論するワークショップが開催できていない.
そこで本シンポジウムでは,基調講演として名古屋市立大学の山田勉先生に教育や内部質保証における測定の重要性についてご講演いただいたのち,摂南大学の安原先生から本研究の意義,ワークショップで議論を予定していた内容と本研究の計画をご報告いただき,本研究で焦点を当てている「コミュニケーション能力」のアウトカム,コンピテンシー,測定方法および評価基準ならびにこれらに関連する事項に関して議論した.
今日の大学教育には,教員が何を教えたかではなく,学生が何を学んだのかに焦点が当てられつつある7).しかも最近は,これからの不確実な時代を生き抜くために,未来の創り手となるためのコンピテンシーを育成することが重要な課題となっている.知識は使える形で身につけ,またそのことに価値をおいて複雑な要求にいつでも対応できる状態にあることが求められている8).測定したデータをもとに,学生が何をどの程度身につけたのかを評価することが重要なのは,そのためである.
とりわけ,現行の薬学教育モデル・コアカリキュラムでは,プログラムレベルの学修成果を測定し評価することは不可欠であると思われる.というのも,「薬剤師として求められる基本的な資質」を身につけるための一般目標(GIO)を設定し,GIOを達成するための到達目標(SBO)が明示されてはいるものの1),その細分化されたSBOを網羅することによってなぜGIOに達するのか,さらには学生が実際に何を学び得たのかが必ずしも判然としないからである.
すなわち,ここで第一に着目すべきポイントは「教授デザインにおける双子の過ち」9) である.学生が何を学んだのかは関係なく,教科書をすべて教えきることに執着する「網羅主義」に対して,学生が何かを切実に考えるということがなくても,活動しさえすればよいとするのが「活動主義」である.教員が教えさえすれば,あるいは学生が活動しさえすれば,何らかの学習を行っているだろうと想像するのは誤りである.両者に共通する問題点は,学生が何を学び得たのかにとどまらず,教員が何を身につけさせようとしているのか(教育目標)も判然としないことである.学習を教員がデザインするために,また学生に「教育目標」を提示するために,パフォーマンス課題が必要なのである.
また,その設計と評価にあたっては,プログラムを貫く「本質的な問い」によって,各科目や単元レベルにおいて何を重点的に指導すべきかを明確にすることが求められる.例えば,ある高校の保健体育では,偶然ではなく考えて得点するために,「相手コートにボールを落とすためには,どのようにチームで攻撃すればよいか」「自コートにボールを落とさないために,どのようにチームで守備をすればよいか」という本質的な問いをもとにバレーボールの授業が行われている.さらに,ミスと原因を振り返るワークシートも用意されている10).こうした取り組みは,チーム医療の実践に関するパフォーマンス課題と評価をデザインする際に参考になるだろう.また,設計にあたっては,本質的な問いと課題を相互にブラッシュアップしていくことにも留意する必要がある.
2.教育か内部質保証か,二項対立を超えてところで,本シンポジウムのオーガナイザー要旨に沿って,本稿でも「教育や内部質保証」と一括りに記していることに,違和感を持った方がいるかもしれない.
つまり,両者の目的の差異は,評価主体や方法等に影響する.教育における形成的評価(学習の支援)が目的なら学生も評価に参加すべきであるし,フィードバック時期も考えなければならない.内部質保証におけるアカウンタビリティが目的なら標準化を志向することになる.間主観性を基準とするパフォーマンス評価などの質的評価とどのように折り合いをつけるのだろうか.いずれにせよ,どちらかの目的に重点をおくことがむしろ望ましいのではないだろうかという疑問である.
ここで第二に着目すべきポイントは,本研究会の最終的な目的が,各大学における研究成果を用いたコンピテンシーへの到達度に関するシステマティック・レビューの作成であるということである.
確かに,形成的評価(学習の支援)か総括的評価(学習の確認)かによって,アセスメントの目的と方法は異なる.しかし,本研究会ではその両者のバランスのとれたアセスメントシステムを開発することが前提となっている.そのためには,包括性(様々な測定手法を使用する)・一貫性(共通の学習モデルに基づいて設計する)・連続性(時間経過に伴う学びの軌跡を測定する)が必要となる11).
このように考えると,薬剤師に求められる基本的資質をとりあげ,学習成果の測定方法および評価基準の統一化を図り,大学間での測定結果の比較を行うことによってメタアナリシスを追求する本プロジェクトの意義は,極めて大きいと言えるだろう.
3.コミュニケーション能力とは何かそこで,ワークショップなどが今後予定されていることから,測定と評価の対象となるコミュニケーション能力それ自体についても,言い添えておきたい.
一般にはコミュニケーション「スキル」と呼ばれることも多いが,ブルーム・タキソノミーでいえば,認知領域と精神運動領域の要素が含まれており12),単なるスキルではない.もちろん,他者との関係を含むので「態度」でもあり,対人関係スキルにつながる情意的領域と関わりが深いが,例えば,「表層的な知識に基づく浅薄な行動」などは日常生活においても容易に看取されるように,知識は発言などの行為としても現れる.
そうであれば,コミュニケーション能力はやはりコンピテンシーそのものであると捉えることが適切だろう.だからこそ「問題解決やコミュニケーションといった能力は,…個別特殊な文脈における具体的な行為の中で姿を現すにすぎない.多様な文脈を通してそのような具体的な行動が繰り返し行われたときに,その人には問題解決やコミュニケーションの能力があると判断されるのである.」13).
したがって,コミュニケーション能力があるというのは,「単に構成要素となるリソースをもっていることではなく,そうしたリソースを,複雑な状況のもとでそれにふさわしい時に,適切に『結集し』『統制する』ことができるということも意味」14) していることになるだろう(図1).
要求がコンピテンスの内的構造を定義する(出典:文献14,2006,p. 67,図1を一部改変)
さらに,「質の高い知識は,人々とのやりとり,相互行為,談話を通して社会的に共有され発展する.コミュニケーションと協働は,この知識にとって決定的に重要な側面である」15) ことから考えれば,コミュニケーション能力はそれ自体がコンピテンシーであるだけではなく,「チーム医療への参画」や「自己研鑽」における生涯学習能力など,他の薬剤師として求められる基本的な資質との関わりが深いことにも特に留意しておく必要があると思われる.
4.学習モデルによる測定・評価の設計(要点例)以上を前提に,今後の議論の「叩き台」として,共通の学習モデルに基づく測定・評価の設計について要点例をまとめておこう.(上記の「一貫性」である.このほか,「総括性」「連続性」も設計の要となる.)
まず,測定したデータの価値は,何らかの解釈を通して初めて生じることから,評価という解釈の枠組みに沿って考えてみよう.
①どのような能力を目標とするのか
「複雑な状況のもとでそれにふさわしい時に」,あるいはその「個別特殊な文脈における具体的な行為」とは何であろうか.調剤・疑義照会,服薬指導,薬物治療支援,医薬品安全管理,在宅医療支援,医療スタッフカンファレンスなど多様な文脈が想定される.また具体的行為には,地域医療への貢献や他職種連携などの現状や課題に関わる,雇用主等との情報のやり取りも含まれるだろう.
次に,当該能力に関する学習モデルの選択・設定が必要となる.様々なモデルが存在するが,コミュニケーション能力をコンピテンシーと捉える以上,知識の組織化に関わっては,静的な定義と分類,あるいは動的な手続的記述を超えて,薬学領域の概念的理解に基づくその道のプロらしい思考の枠組みの存在を前提とするモデル15,16) がふさわしいのではないだろうか.学生が複雑な状況でより深い説明を行うには,構築されつつある思考の枠組みを説明することが必要となるからである.
②どのようなパフォーマンス課題を設定するのか
前述の通り,薬学教育プログラムを貫く「本質的な問い」を立てて,課題と問いを相互にブラッシュアップする営みが,指導上は求められる.さらに本研究会では,パフォーマンス課題は,コンピテンシーとしてのコミュニケーション能力の測定方法であることから,「習慣的な行為と思考の仕方では習得できない実践的課題」15) であることが,真正の評価の視点から必要だと思われる.
また,今後は医療人としての薬剤師養成の真価が問われることから,「行動に責任を持つこと,および自信・正直さ・誠実さがあること,倫理観を持つこと,変化に対して前向きな姿勢を示すこと」17) などのプロフェッショナルとしての資質にも目配りすることが望ましいだろう.
③どのような基準を設定するのか
測定・評価の対象とするためには,学習プロセスのスパンを限定する必要がある.したがって,統一化された評価基準では,医療人としての薬剤師に求められるコミュニケーション能力の定義を前提に,卒前・卒後の切り分けが必要である.
また,口頭コミュニケーションを例にとれば12),
・状況と文脈(対人か集団か,目的は説得か,情報提供か,関連づけか)
・話すスキル(基礎:指示を出したり,視点を表現する,上級:状況や文脈に合わせてメッセージを適応させる,適切な例を用いて,聞き手の関心を維持するための言葉を使う)
・聞くスキル(重要な問題点を特定し,相手のメッセージを理解する)
の3点はルーブリックに盛り込まれることになるだろう.
「薬学教育」という領域が確立しつつある.6年制への移行に伴い,学生へ提供しなければならない教育の質的・量的な増大と合わせて,カリキュラムという考え方が高等教育に定着し,教育をデザインすることにも高い専門性を求められるようになったことが一つのきっかけである.また一方で,基礎的な学習に困難を抱える学生の存在が増え,高くなり続ける6年制薬学部卒業生に求められる能力とのギャップを学部教育で埋めることが求められるようになったこともまた,きっかけの一つであろう.加えて,「学習成果基盤型教育」と「質保証」という言葉に代表される,高等教育に対する社会的な責任論にも後押しを受けて,ここ10年で一気に薬学部における「教育」はその存在感を増したことは間違いない.この領域を熟知した者による学部教育の統合的なデザインが必要だ,学士力のアセスメントは数年で担当者が変わる片手間の作業では到底その本質的な達成は不可能だ,という認識も生まれつつある.
そのような薬学教育に求められる専門性が高まると同時に,日本薬学教育学会のシンポジウムも回を重ねるごとに質・量ともに充実し,一般発表も盛り上がりを見せ,今まで孤軍奮闘をしていた教育部門の教員が,仲間と横の繋がりを得て,より良い方法と成果を求めて議論を重ねる姿は,まさに学問であり,学会本来の在り方としての発展が期待できるのではないかと感じている.
一方で,薬学教育研究の質的な頭打ちを感じる,と自戒も込めて言いたい.良質な教育の実践に適切な測定を行い,その成果をもって研究と成す.それが十分にできているのかという議論もあるが,たとえできていたとしてもそこで終わってよいとも思わない.すでに述べられているが,日本の薬学教育研究の中で早期臨床体験に関する論文のシステマティック・レビューを行ったが,目標や測定項目の幅が狭いと思われる早期臨床体験においても,測定の観点がそろっておらず,メタアナリシスが困難であった.必ずしも,測定を統一した研究が教育領域において適切であるとは限らないが,「やった,計った,よかった」という段階はそろそろ終わりにしたい.
我が国の薬学教育が総体として目指す学習成果とは何か.それが達成できたとどう判断し,その事実をどうやって他者に示していくのか.いわゆるアカウンタビリティの問題である.再現性や客観性という観点からは,基準の客観性を高め,薬学教育に携わる者でなくても,その意味を理解できる尺度で誰が行っても同じ結果を与える測定を行うことがよいと考えられがちである.しかし,我々が目指す成果は当然,薬剤師としての資質・能力であり,様々な患者がもつ文脈に対して個別にパフォーマンスを発揮する能力である.そのような,再現性や客観性を重視した評価尺度やチェックリストで,高度な文脈に対応する能力を評価できるのであろうか.細分化され過度に客観化された測定項目が,学習者の資質・能力の評価には役者不足であることは,我々はこれまでの経験に基づく実感として得ており,一定の共通理解となった.学生のパフォーマンスを評価するにあたっては,我々は,我々が薬剤師にふさわしいと信じる資質・能力を示した学生を高く評価したい.その思いも共有できている.しかし,その先の一歩を踏み出せない躊躇いも存在する.再現性や客観性を高く担保しない評価がはたして評価として適切なのだろうかと.この躊躇いを超えるための支えを,高度な文脈に対応するパフォーマンスを見る評価を行っても,学生の資質・能力を評価できているというエビデンスをこれからの薬学教育研究は示していかなければならない.その為には,これまでよりも「進んだ」教育研究を始める必要がある.教育研究には限界がある.研究的な価値よりも,学生の学びを優先させなければならない.
山田先生は「内部質保証におけるアカウンタビリティが目的なら標準化を志向することになる」と言われている.確かに,現状ではそうなることは否めない.しかし研究とは新たな価値の創造である.薬学教育研究によって高いエビデンスを示し,説得力のある新たな「標準」を創造し,アカウンタビリティを果たすこと,それをもって内部質保証を達成していく.
本シンポジウムはオンライン会議システムであるZoomを用いてライブ開催したため,総合討論は同システムのチャットへの書き込みや直接的な発言など,多様な形式で進められた.具体的な議論としては,今後予想される人工知能の発展とそれらが利活用される社会の中で求められる読解力,高大接続改革と今後の薬学教育で求められるコミュニケーション能力,薬学教育で育むべきプロフェッショナリズムと臨床および非臨床で求められるコミュニケーション能力,コロナ禍で急遽発展したオンラインでのコミュニケーション能力など多岐にわたるものであった.特に,職種に関わらず社会人として必須とされるコミュニケーション能力,すなわちコミュニケーションの基本となりスキルで補うことが可能なコミュニケーション能力と薬剤師というプロフェッショナルに求められる高度な文脈に依存するコミュニケーション能力,すなわち高度で複雑な文脈で自らの知識と技能と態度,さらにそれらを統合したパフォーマンスとして表現しうるコミュニケーション能力をそれぞれの方法とそれぞれの評価基準で測定することが必要であること,短期間で急激に発展を遂げた遠隔環境下でのコミュニケーション能力についても今後検討していく必要があるのではないかという意見が挙げられた.本研究は端緒についたばかりであるが,本シンポジウムで議論した点を踏まえて,本研究を推進していきたいと考えている.
医療の世界では,1992年に提唱された根拠に基づいた医療(evidence-based medicine, EBM)が浸透し,科学的な根拠を考慮しながら,患者や医療者のおかれた環境なども踏まえて治療方針を決定されている.この医療現場における変化は,薬学教育にも影響を与え,薬学教育モデル・コアカリキュラムにおいても求められるパフォーマンスとして記載されている1).
教育においても,根拠に基づいた教育(evidence-based education, EBE)が提唱され,その有力なエビデンスとして教育のメタアナリシスが求められている18).岩崎の報告によれば,教育のエビデンスは,1)説明責任根拠,2)政策評価根拠,3)政策立案根拠,4)予算獲得根拠の4つに分類されるとしている19).まず,本研究プロジェクトが目指す1つの目的は,統一評価基準を作成して,各大学での教育実践によるエビデンスを収集・統合し,各大学での実践や6年制薬学教育の効果を社会に説明するためのエビデンス,教育実践が学生に利益をもたらしたかを評価するエビデンスの集積することである.さらに,その集積の結果,新たな実践へと展開し,教育におけるエビデンスの創出と活用のサイクルを回すことで,日本薬学教育学会から根拠に基づいた教育政策立案(evidence-based policy making, EBPM)の発信へと展開されるものと期待している(図2).
教育におけるエビデンスの創出と活用のサイクル
また,本研究プロジェクトもう1つの目的は,薬学教育研究に携わっている我々が,科学的な薬学教育研究をデザイン・発信する方法論を皆で模索しながら体験的に学ぶ場であると考えている.日本薬学教育学会大会や日本薬学会年会において,多数の薬学教育研究の成果が報告されているにも関わらず,研究成果を論文として発信している数はまだ少ないように感じている.その要因を一概には特定できないが,自身の経験を踏まえると,研究開始時において科学的な研究デザインを行えておらず,場当たり的な研究を行っていたことで,毎回,論文化の段階で学会発表とのハードルの高さの差を感じている.多数の教育実践者の本プロジェクトへの参画が,障壁を乗り越えるきっかけとなり,良質な薬学教育研究成果の発信へと繋げて欲しいと考えている.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.