2023 年 7 巻 論文ID: 2021-044
プロフェッショナリズム教育には,アンプロフェッショナルな行為をしないという最低限の目標と,常に高みを目指すという向上心的目標の2つの学修目標を見据える必要がある.向上心的目標のためには,規範に基づいた教育からナラティブに基づいた教育への視点の転換が重要であり,これにはロールモデル,自己の気づき(省察),ナラティブ能力,コミュニティ・サービスが挙げられる.学修者には,これらにより,実際の臨床経験を通じて患者・住民・社会の期待を実感することが求められ,このことがプロフェッショナルとしてのアイデンティティ形成につながる.また,社会のニーズに応えるという社会的説明責任を学んでいくことにもつながる.そして,個人・対人・社会レベルにおけるプロフェッショナリズムを考え,複雑で混沌とした医療状況の中で悪戦苦闘しながら課題解決に当たる省察的実践家である真のプロフェッショナルを養成することを,医療専門職教育者は考える必要がある.
Professionalism education requires two learning goals: the minimum goal of not doing unprofessional acts and the aspirational goal of always aiming for heights. A shift in perspective from normative professionalism education to narrative-based professionalism education is important for aspirational goals, including role models, self-awareness (reflection), narrative competence, and community services. Through these, learners are required to realize the expectations of patients, residents, and society through actual clinical experience, which leads to the professional identity formation. It also leads to learning social accountability to meet the needs of society. Then, considering professionalism at the individual, interpersonal, and social levels, the medical professional educators need to think to train true professionals who are reflective practitioners who can solve problems while struggling in a complicated and chaotic medical situation.
プロフェッショナリズムとは,ひと言で言えば,医療専門職が専門家(プロフェッショナル)・専門職集団(プロフェッション)としてどのように振舞うべきか,ということである.これまでは,このようなものは個々の学修者が医療専門職集団の仲間入りをしたのちに,ロールモデルの背中を見て暗黙のうちに徐々に身につけるものと考えられてきた.
ところが,近年,医療現場を取り巻くさまざまな状況の変化や社会状況の変化によって,これまでには取り上げられなかったような患者・住民・社会からの医療専門職に対する要請や医療専門職自身が抱えるさまざまな課題が生じてきている.これらの要請や課題に適切に対処するために,我々医療専門職は何を備えてどう行動すべきなのか,プロフェッショナリズムを暗黙的にではなく,明示的に教え,学ぶ必要がある.ただ黙ってロールモデルの背中を見ているだけでは,プロフェッショナリズムを身につけることが難しくなってきている.
プロフェッショナリズムを定義するのは難しい.時代,文化,地理によって異なり,また個人,さらには個人の状況によっても異なる.しかし,プロフェッショナリズムの基盤となる一般的合意事項は次のようなものである.
「公衆が医療専門職に対して抱く信頼を裏付ける一連の価値観,行動,関係性」1)
ここで鍵となるのは信頼である.
他者を監視したりコントロールしたりできるかどうかに拘わらず,信頼を置こうとしている者にとっての重要なことを,他者は行ってくれるだろうという期待のもと,他者によって及ぼされる可能性のある被害のリスクも快く受け入れようとする意欲,のことである2).医療専門職の知識・技能・態度を患者は十分に知ることが不可能であり,また医療は不確実性に満ちているため,安心・安全な医療が行われるためには両者の間に信頼関係があることが前提となっていなければならない.
2. 患者の医療専門職に対する信頼の2つの要素3)・知的信頼:科学的/臨床的卓越性を医療専門職が十分に追求し続けていること.
・道徳的信頼:医療専門職個人として,また医療専門職集団全体として,患者の利益を優先していること.
これら2つの要素を医療専門職が担保していることを何らかの形で示し,それについて患者が十分信頼できると感じられるという相互関係が医療実践には必要である.
3. 信頼性の3要素信頼の2つの要素を説明する概念は,能力(ability),善意(benevolence),誠実さ(integrity)であり,これらを持ち合わせていることがプロフェッショナリズムを備えていることと言えるだろう.
医療専門職の知識・技能・態度を計り知ることのできない患者・住民・社会が,医療専門職に全幅の信頼を寄せて心身を委ねるために,患者・住民・社会は医療専門職にさまざまな特権を与えているとされる.自己統制,自身での標準設定(専門資格取得など),医療における自律性などがそれである.医療専門職には,この特権の付与にプロフェッショナリズムで責任を持って応答する義務がある.この相互関係を無書面の社会契約と呼ぶ(図1)4).プロフェッショナリズムが維持されなければ,医療専門職に与えられている特権は第三者に委ねられることになり,医療専門職にはさまざまな制約が課せられることになる.
無書面の社会契約
プロフェッショナリズムには唯一の定義はなく,すべての要素が含まれ,かつ広く合意の得られた定義は提示されていない5).比較的よく引用されるのは,Arnold とSternによって提示された定義(図2)6) や新ミレニアムにおける医のプロフェッショナリズム:医師憲章7)(表1)である.これらも,プロフェッショナリズムのすべての要素を包括的・網羅的に示したものではない.
ArnoldとSternによるプロフェッショナリズムの概念図
3つの基本的原則 | |
(1) | 患者の福利優先の原則 |
(2) | 患者の自律性に関する原則 |
(3) | 社会正義の原則 |
プロフェッショナルとしての10の責務 | |
① | プロフェッショナルとしての能力に関する責務(常に学び続け,最善の能力を維持し続ける) |
② | 患者に対して正直である責務 |
③ | 患者の秘密を守る責務(守秘義務) |
④ | 患者との適切な関係を維持する責務 |
⑤ | 医療の質を向上させる責務 |
⑥ | 医療へのアクセスを向上させる責務(地域医療など) |
⑦ | 有限の医療資源の適正配置に関する責務 |
⑧ | 科学的な知識に関する責務(医学・臨床研究) |
⑨ | 利害の衝突の管理により信頼を維持する責務(利益相反.製薬会社との適切な関係維持など) |
⑩ | プロフェッショナルの責任を果たす責務(仲間や後進を育成する義務.自己規制) |
これらの定義で示されているものは具体的にどのようなことか,指導者・学修者が定期的に考える機会を設け,個々の文脈に合致したプロフェッショナリズムの定義,プロフェッショナリズムの要素・課題について探索することが,プロフェッショナリズムを身につけるためには重要である.例えば,表1の定義では,ある程度具体的なコンピテンシーが示されているので,この内容について話し合い,学修者の状況に合わせた行動目標を設定することができるであろう.
プロフェッショナリズムの要素として,説明責任が挙げられる6).これは社会的説明責任(social accountability)と考えて良いだろう.社会的説明責任とは,医療専門職個人または医療専門職集団全体として患者・住民・社会のニーズに応えることである6).これらのニーズに応えず自分の持つ知識・技術を単純に適用することを繰り返すだけの者は,単なる技術屋(エキスパート)であり,いわば自分勝手な医療者である.このような者は真のプロフェッショナル・プロフェッションではない.公共の善のために尽くすという公共的・社会的意思を持ち合わせているのが,プロフェッショナル・プロフェッションである8).
社会的説明責任は医学教育の文脈において以前から強調されている.高い技術を持つテクニシャンは養成しているが,社会に対する責任を理解する真のプロフェッショナルを養成していない9),或いは,社会のヘルスケア・ニーズに応えることを怠っている,公民の責任性の共有センスの欠如である10),という医学教育に対する痛烈な批判がそれである.また,医学校の教育・研究・奉仕活動を,奉仕する委託を受けたコミュニティ・地域・国の重要な健康問題に言及する方向に向かわせる義務がある,というWHOからの提言もある11).近年の地域医療・地域包括ケアや医療専門職の生涯教育・資格制度の問題などは,社会的説明責任が問われるプロフェッショナリズムに関わる顕著な事例といえるだろう.
患者・住民・社会からの信頼を得るためには,以下の3つのレベルで求められるプロフェッショナリズムを考慮して教育・学修する必要がある12,13).
(1)個人レベル:個々の資質,価値観,行動,能力.
(2)対人レベル:患者,同僚,チームメンバー,診療の現場,施設との関わり.
(3)社会・制度レベル:患者・医療を取り巻く社会状況・社会制度との関わり.
教育者・学修者は,社会・制度レベルまでのプロフェッショナリズムについて考慮することは難しいことが多いが,目の前の患者に対するプロフェッショナリズムとともに,より広い視点からのプロフェッショナリズムを考えるべきである.
不平等に苦しむ世界では,医学は社会正義の仕事と見なすことができる,という考えがあり14),社会正義のレンズという概念が提唱されている15).これに基づき,以下の3つのレベル,特に3番目までの社会的説明責任を考慮するプロフェッショナリズム教育が求められる(図3).
社会正義のレンズ 3つのレベルの社会的説明責任
(1)ミクロ:臨床環境; 個々の医師と患者の関係,専門家間のチームベースのケア.
(2)メゾ:地域社会;臨床および学術医療業務が置かれている地理的状況に対処する.後進の育成という医学教育も含まれる.
(3)マクロ:政策のより広い領域と,それが住民と公衆衛生に与える影響.医療専門職者は健全な公共政策の擁護者として行動する.
ミクロレベルのプロフェッショナリズム教育・学修にしか焦点が当てられていないことが多いかもしれない.しかし,地域社会にどのような形で貢献するか,そして良質な医療専門職教育によって良い医療者を育成することもプロフェッショナリズムの重要な要素である.学修者自身が後進の教育に当たることも考えなければならない.また,マクロレベルの課題の教育はこれまであまり取り上げられてこなかったが,例えば近年注目を集めつつある健康の社会的決定要因は,これに相当する重要な学修課題である.
プロフェッショナリズムは以下の3つの枠組みでも考えることができる16).
(1)美徳(Virtue)としてのプロフェッショナリズム:内的習慣と考える.この場合,心,モラル,ヒューマニズム(ケア,共感)などに焦点が当たる.この場合,価値観の内在化・修得が重要となる.
(2)行動としてのプロフェッショナリズム:コンピテンシー(観察可能な具体的な能力),マイルストーン(一つ一つのコンピテンシーの実践レベルを示す行動を記載したもの),観察可能な行動の測定などに焦点が当たる.この場合,目標を明確化し,修得・評価すべきコンピテンシーを設定することが重要である.
(3)専門家のアイデンティティ形成(Professional Identity Formation: PIF, professionalization):良い医療者になっていくための成長プロセスと捉える.所属する医療専門職集団の世界の中でのアイデンティティの進展,変化,社会化である.この場合ロールモデルへの曝露が重要である.
行動としてのプロフェッショナリズムとして,患者が研修医に信頼を置いて医療提供を受けるための実践的な枠組みとして,米国医科大学協会は2017年にcore entrutable professional activities for residencyとして13の項目を設定し,その内容を詳細に定義した.平成28年度改訂版の医学教育モデル・コア・カリキュラムにもEPAが提示されている.これは,患者からの信頼を担保するために,医学教育者が学修者に委託できる業務内容のリストである.これらは実践的行動のリストとなっており,患者からの信頼,また教育者から学修者への信頼(学修者の能力が不十分である場合,業務を委託した教育者はその責任を負う可能性があるという不確実性がある)が患者の安全につながるという考え方から設定されている.
個々の専門職集団,医療施設において,学修者に求められるEPAを設定していくことが重要である.
これまでのプロフェッショナリズム教育は,主に行動に焦点を当てて行われてきた.コンピテンシーに基づくプロフェッショナリズム教育は,学修者の評価においてある程度有用であった.一方で,“行うこと(doing)” から “あり方(being)”18) に焦点を当てたプロフェッショナリズム教育の重要性が高まってきており,プロフェッショナリズムの概念はPIFへと進化してきている12).このことは,良い医療者に求められる行動を表面上行えるだけであることから,その価値観を内在化することで,自分で考え,判断して実践できること,そして多様な状況に対応できるようになること,を意味している.これは専門職としての継続的な成長を期待しているものである.
学修者がPIFを適切に行うことができるようになるために,教育者はPIFに及ぼす要因を調整・整備しておく必要がある.これらはプロフェッショナリズム教育の重要な側面である.
(1)学習・職場環境:劣悪な環境では価値観に基づいた行動をしようと思ってもそうできないというプロフェッショナリズムからの逸脱(プロフェッショナリズム・ラプス)が生じる.
(2)医療専門職者の破壊的行動20):ネガティブなロールモデルによる影響は大きい.その存在は認識されていても,改善されないままになっていることが多い.
(3)バーンアウト(ストレス・マネジメント,ワークライフ・バランス):バーンアウトは,プロフェッショナリズム・ラプス,アンプロフェッショナル行動につながる可能性が高い.個人的・対人的・環境的要因によって,潜在的に燃え尽きている医療者が多いことを認識すべきである.その対応は,あまりなされていないことが多い.
(4)レジリエンス(セルフケア,省察,マインドフルネス,人間関係)
燃え尽きを防ぐために,近年,さまざまなセルフケアを含めてのレジリエンスの強化が議論されてきている.
(5)組織の義務
上記のような要因を学修者個人だけが対応するのではなく,組織全体が課題として取り上げて対応する必要がある.これは組織のプロフェッショナリズムともいわれている21).
患者・住民・社会から求められる最低限の能力がなければプロフェッショナルとは呼べない.最低限の達成目標をクリアしていることはプロフェッショナルな医療者としての必要条件である.アンプロフェッショナルな行動をしないこと,最低限の知識・技能・倫理的・法的理解があることなどがそれに当たるであろう.
2. 向上心的目標最低限の達成目標を修得しただけではプロフェッショナリズムを学修したことにはならない.プロフェッショナリズムには,常に高みを目指し続ける姿勢が求められる.向上心的目標を掲げ,継続的にそれを追求するように学修し続ける必要がある.向上心的目標とは何か,それ自体を考え,自らがそれを設定することがプロフェッショナリズム教育の目標にもなる.プロフェッショナリズムを考え続け,追い求め続けることに意義がある.これが2つ目の学修目標であり,より重要な目標である.
社会化によるPIF,向上心的目標としてのプロフェッショナリズム教育を考える際には,規範(~すべき)に基づいた教育からナラティブ(物語り,心揺さぶられる)に基づいた教育への視点の転換が有用である23).これには以下のようなものが提示されている.
(1)ロールモデル:ロールモデルの背中をただ見るのではなく,ロールモデルの特性と価値観を積極的に観察し,その原則を行動に移すようにしていく.
(2)自己の気づき(省察):体験を深く振り返り,体験をどう考えるか,そこから何が学べるのか考え,学びを概念化し,次の行動につなげる.
(3)ナラティブ能力:医療を物語と捉え,病体験を理解,尊重し,共感する.このことが,利他的行動,向社会行動につながる.
(4)コミュニティ・サービス:医療に恵まれない人々に対する活動に参加する.このことは,健康の社会的決定要因など,より広い視点からのプロフェッショナリズムを考えることにつながる.
そのほかにもさまざまなPIFを促す教育方略が実践されており,以下のようなものが挙げられる24).正式な倫理・プロフェッショナリズム教育,非公式・隠れたカリキュラムの認識,学習環境整備,シンボリック相互理論による社会化,医療人文学,省察的実践,物語・語り,メンターシップ,ロールモデル,医療・医学以外からの影響(家族,これまでの体験,医療ドラマ,社会からの期待など).
現在の医療現場には複雑で混沌とした難しい課題が溢れており,これらの社会の課題やニーズに対処しようとするとき,医療者は困惑を覚えるかもしれない.しかし,このような混沌とした場で社会に貢献できる者こそが真の専門家である.
“専門的知識が求められるのは,非常にごちゃごちゃした混乱した場であり,技術的にきれいに問題解決可能なものはそもそも社会的問題とならない.専門的知識が求められるのは,技術的合理性(単純な知識や技術がうまく機能する状況)と区別された知識の領域である.その特徴とは,不確実性,独自性,価値の相克に満ちている世界であり,いつでも,どこでも,一つの手段を適応すれば片付くという合理性を持たない,ごちゃごちゃした,あらかじめ教えることができないというような知的作業を求められる領域である”25)
このような困難な臨床のケースは医療専門職の強力な学修機会となる.自分が取り組むことができる困難さ,複雑さ,曖昧さの上限で問題に取り組むために,快適領域(comfort zone)から外に出たときに実践家は専門技能を発展させる(図4)26).苦労なく簡単に処理できる業務だけをこなしていたのではプロフェッショナルとしての成長が得られない.どうすればよいのか悩み,苦労しながら問題をなんとか解決していけるような学修機会を重ねることがプロフェッショナルの成長につながっていく.臨床現場での技術的な問題だけでなく,心理的,社会的,倫理的問題も含めた困難な臨床状況を絶好の学修機会と捉えるべきである.
不快適領域での学習
高度の複雑さと曖昧さを泥臭く扱いながら,その中で自分の行為と決断を省察(深く振り返り,そこから学びを得る)しながら問題に取り組む姿勢が専門家には求められる.このような実践が行える者を省察的実践家(reflective practitioner)と呼び,これが現代のすべての専門領域において求められる真の専門家である.プロフェッショナルには省察の能力が備わっていなければならず,省察はプロフェッショナリズムの重要な要素であり(表2)8),有力な学修方略でもある.
① | 自己の利益よりも他人の利益を優先する. |
② | 倫理的・道徳的スタンダードを遵守する. |
③ | 社会的ニーズに応え,奉仕するコミュニティとの社会的契約を反映して行動する. |
④ | 慈悲的価値観(正直さと尊厳・ケアと思いやり・利他主義と共感・尊敬・信頼)を明示する. |
⑤ | 自己と同僚への説明責任を果たす. |
⑥ | 卓越さを常に追求する. |
⑦ | 学術活動と医学の進歩へコミットする. |
⑧ | 高度の複雑さと曖昧さを扱う. |
⑨ | 自分の行為と決断を振り返る. |
プロフェッショナリズム教育は省察を中心に据えるのが良い.省察にはSEAが有用である.学修者は図5の様式に従って事例と省察の内容を記載し,それをファシリテーターの元で同僚と話し合う協同学習を行う27).この協同学習の場では,自分の考え・感情を言語化できること,同僚・他職種の多様な見解を受け入れられること,結論を導くための議論(ディスカッション)ではなく,意義を創り出す対話(ダイアローグ)ができること,が重要である.そのための前提として,教育者は,どのような意見も受け入れられ批判を受けることがない学習環境(no blame culture)を保証する必要がある.SEAによって新たな気づきが生まれ,これまでとは異なる視点で医療に取り組むことができるようになることがある.これを変容学習という28)(図6).このような学習ができればプロフェッショナリズムが深まったことになるだろう.
Significant Event Analysis(SEA)の記載様式
変容学修の構造
医療専門職個人のプロフェッショナリズムにとどまらず,近年,医療組織のプロフェッショナリズムに注目が当てられるようになってきている.現在の医療状況は以前と大きく異なってきており,医療組織として社会にどのように対応していくべきかが問われている.
重要なのは,疾患を治療したり健康を回復したりすること以上のことを行うことが求められていることである.ヘルスプロモーション,疾患予防,価値に基づくケア,多職種間連携,地域との協働などへの対応が求められている.これらの医療組織のプロフェッショナリズムが,個々の医療専門職のプロフェッショナリズムに良くも悪くも大きな影響を及ぼす.また,組織のプロフェッショナリズムは,個々の医療専門職にはできない方法で健康の社会的決定要因にインパクトを与えることができる.
医療組織のプロフェッショナリズムとして,患者とのパートナーシップ・組織の文化・地域とのパートナーシップ・管理運営と経営実践,の4つの概念が挙げられており,それぞれに複数の要素が設定されている.これらについて,学修者も含めて医療組織全体で話し合いを重ねること自体がプロフェッショナリズム教育となるだろう.
施設や組織の構造や文化に埋め込まれており,明確に意図されていないのに学ばれるカリキュラムのことである.これは公式なカリキュラムよりも学修者への影響が強力である.教育者は不適切な隠れたカリキュラムを整備する必要がある.
2. ロールモデルロールモデルからの学びは強力である.教育者は,ロールモデル育成,ロールモデルからの学びの構造化,ネガティブな影響を及ぼすロールモデルの排除,の取り組みを行わなければならない.
3. 状況依存的なプロフェッショナリズムの考慮医療者の行動は個人的特性だけに依存するのではなく,状況に影響されることが多い22).理性的に正しく行うことは理解していても,そのように行動できないことも多い8).状況に特有なプロフェッショナリズム課題,ジレンマ,逸脱(lapse)という考え方をする方が,アンプロフェッショナルであると単純に考えるよりも良い場合があることを,教育者は理解しておく必要がある.
プロフェッショナリズム教育の重要性が急速に高まっている.しかし,プロフェッショナリズムの定義やその学修方略に定まったものはない.プロフェッショナリズム溢れる医療者とはどのようなものか,これを自分自身が,また,同僚とともに,そして組織全体で考え続けること,そのような学修機会を保ち続けること,これらが重要である.このような取り組み自体がプロフェッショナリズムであると言える.プロフェッショナリズムに最終の到達点はない.医療専門職教育者と学修者はともに,常に高みを目指し,追い求め続けていかなければならない.
患者・住民・社会のニーズを常に意識しながら,困難な臨床状況の中で省察を繰り返しながら変容し続けてプロフェッショナリズムを高めていくことが,現代の複雑な医療・社会状況の中での真の専門家には求められている.このような医療専門職を育成していくことを医療専門職教育者は心掛けなければならない.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.