薬学教育
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誌上シンポジウム:薬学部学生における研究志向のマインドセット醸成を目指して
臨床的課題解決を目指した研究を行う次世代リーダーの養成
~持続可能な研究活動を行うため~
河添 仁
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2023 年 7 巻 論文ID: 2022-047

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抄録

薬学教育モデル・コア・カリキュラムの「薬剤師として求められる基本的な資質」の1つに「研究能力」がある.しかしながら,臨床現場にはギャップが存在するものと思われる.薬剤師は実臨床で生じた「臨床的疑問」を「研究的疑問」に変換して,臨床的課題解決を目指した研究に取り組むことができる.我々はこれまでに,臨床現場と薬学部が連携する研究環境を構築し,医療薬学研究のエビデンスを世界へ発信してきた.筆者は,学生や大学院生には「研究を行う意義」と「rationale」を自らの言葉で説明できるように指導している.すなわち,自らが行う研究成果を未来の患者へ還元する使命感や社会貢献のマインドセットを持つことが重要と考える.本稿では,我々が臨床的疑問から想起した臨床・基礎研究を紹介するとともに,臨床的課題解決を目指した研究を行う次世代リーダーの養成と持続可能な研究活動を行うための秘訣を述べる.

Abstract

“Research skills” is the basic qualities required of a pharmacist in the revised model core curriculum for pharmacy education in 2013. However, there is a gap in the reality of clinical practice. Pharmacists can translate “clinical questions” that arise in clinical practice into “research questions” and conduct research aimed at solving clinical problems. We have been building a research environment in which institutions and a pharmacy school collaborate to disseminate evidence of medical-pharmaceutical research to the world. The author instructs pharmacy students and graduate students to be able to explain the “significance of conducting research” and “rationale” in their own words. In other words, I trust it is important to have a mission and a mindset to return research results to future patients as a scientist. In this review, I will introduce clinical and basic researches that I based on my clinical questions and describe the training the next generation of leaders to conduct research aimed at solving clinical problems and to conduct sustainable research activities.

はじめに

薬学教育モデル・コアカリキュラムには,薬剤師として求められる基本的な資質が10項目ある1).その1つである「研究能力」では,「薬学・医療の進歩と改善に資するために,研究を遂行する意欲と問題発見・解決能力を有する」とされる.そのため,全国の薬系大学は卒業研究を通し,問題発見・解決能力を有する人材を育成している.

「研究能力」と「臨床能力」の関係を考えると,池村らは大学の研究室での活動を通して,社会人マナー,文献検索能力・英語論文読解力,問題解決能力・論理的思考力,プレゼンテーション能力・ディスカッション能力などが身に付き,それらはチーム医療だけでなく,他の薬剤師業務においても必要と述べている2).もちろん,卒業研究を通した「研究能力」の涵養が「臨床能力」に繋がることに異論はない.しかしながら,薬学教育モデル・コア・カリキュラムが掲げている「研究能力」は,より高い次元での臨床的課題解決を目指したものなのではないだろうか.

そのような中,日本学術会議「持続可能な医療を担う薬剤師の職能と生涯研鑽」の提言では,(3)卒前教育と卒後教育の調和として,「臨床マインドと研究マインドをバランスよく兼ね備えたpharmacist-scientistsの養成が望まれる」とされた3).すなわち,臨床現場にはギャップが存在するものと思われる.

臨床系教員による研究指導

本項では,臨床系教員による研究指導の1例を述べる.まず,「あなたはなぜ研究を行うのか?」の問いに対して,自らの答えを持っておくことは大切である.筆者は,「卒業研究の単位のため」,「専門・認定薬剤師の認定条件のため」あるいは「学位取得のため」という「自分のため」の答えではなく,「患者さんのため」の答えが持続可能な研究活動の秘訣と考える.さらに,研究を最後まで成し遂げる覚悟も大切であり,論文にならない研究成果は,患者さんを救えないことも事実である.すなわち,卒業論文の提出で終わりではなく,研究成果を学術雑誌へ掲載することを目標に指導を行っている.また,学生や大学院生には「研究を行う意義」と「rationale」を自らの言葉で説明できるように指導している.すなわち,自らが行う研究成果を未来の患者へ還元する使命感や社会貢献のマインドセットを持つことが重要と考える.

チーム医療における薬剤師の役割は,薬学的見地から有効かつ安全な薬物療法に貢献する必要がある4).薬剤師は「エビデンス」の使い手で終わるのではなく,「エビデンス」の創り手として,実臨床で生じた「臨床的疑問」を「研究的疑問」に変換して,臨床的課題解決を目指した研究に取り組むことができる.

臨床的疑問から想起した臨床研究

我々はこれまでに,臨床現場の薬剤師と研究室の学生が連携する研究環境を構築し,医療薬学研究のエビデンスを世界へ発信してきた.本項では,事例を2つ挙げる.臨床研究では,末梢血リンパ球数が免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連副作用発症を事前に察知できること見出した5).また,治療開始時の特定の種類の併用薬と好中球/リンパ球数比を組み合わせた指標を用いることで,免疫チェックポイント阻害薬治療の予後を予測できることを見出した6).これらの研究成果は国際学術雑誌に掲載され,学生が筆頭著者となった.

臨床的疑問がなく,研究テーマが浮かばないという薬剤師の声をよく耳にする.筆者がそのことを知人の医師に相談したところ,「臨床的疑問が全くない,思い浮かばない薬剤師は,もう少し真面目に臨床業務を行うこと」と言われた.筆者はこの言葉を我々薬剤師に対するエールとして受け取っている.筆者はどの領域であれ,それぞれ専門性を高め,患者中心のチーム医療を実践し,患者の声を真摯に受け止めることができれば,臨床的疑問は自ずと思い浮かぶと信じている.

点と点を結ぶ研究展開

我々は「臨床現場と薬学部を結ぶ」,「臨床現場と臨床現場を結ぶ」,「臨床薬剤師と基礎研究者を結ぶ」を意識している.薬学部の教員となって感じたことは,患者が遠いことである.臨床系教員としては,臨床現場との繋がりを構築し,臨床研究を通して,研究の種を見つけたい.本項では,事例を1つ取り上げる.「胃酸分泌抑制薬は免疫チェックポイント阻害薬の治療効果に影響を及ぼすのか?」という臨床的疑問から,慶應義塾大学病院など国内6施設による多施設共同後方視的観察研究を実施した.本研究は現在,論文投稿中のため詳細は伏せるが,免疫チェックポイント阻害薬の治療を受けた非小細胞肺がん患者において,胃酸分泌抑制薬の併用あり群は,併用なし群と比較して全生存期間が有意に短縮した.表現型だけの研究は臨床現場で行えるため,当該研究における薬学部の存在意義はないと考える.すなわち,表現型の機序を基礎研究によって明らかにすることは薬学部の存在意義に繋がる.胃酸分泌抑制薬と免疫チェックポイント阻害薬の相互作用の機序として,腸内細菌叢の関与が考えられ,我々は慶應義塾大学薬学部創薬研究センター金倫基教授との共同研究を行い,マウスを用いた動物実験を展開している.

グローバルな視野

我々はアジアをZoomで繋いで,オンライン抄読会を2019年から現在まで継続している7,8).日本,タイ王国,韓国,台湾及び米国から学生,薬剤師及び教員が自由参加で,発表者が英語で学術論文を紹介し,参加者と総合討論を行う.我々日本人にとって,英語の発表や質疑応答はハードルが高いかもしれないが,研究成果を世界へ発信するために必要なスキルであり,国を超えた情報交換はグローバルな視野を持つことに繋がると考える.

最後に

チーム医療における薬剤師の役割は,薬学的見地から有効かつ安全な薬物療法に貢献する必要がある.「エビデンス」の創り手として,臨床的疑問から想起した臨床・基礎研究に取り組むことができる.「臨床現場と薬学部」を結ぶことで,臨床で得られた知見からリバース・トランスレーショナルリサーチを展開できる.グローバルな視野で,研究マインドと臨床マインドを兼ね備えた次世代リーダーを養成していきたい.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
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