薬学教育
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実践報告
タブレット端末による解剖動画の視聴を併用した生物系解剖実習の実践報告
西崎 有利子吉田 林五十鈴川 知美浅井 将牛久保-酒井 裕子速水 耕介黒岩 美枝川嶋 芳枝金子 正裕
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電子付録

2023 年 7 巻 論文ID: 2022-053

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抄録

生体の構造と機能を理解する生物系機能形態学実習では,動物愛護や新型コロナウイルス感染症拡大下での教育という社会的要請に応えつつ,優れた医療人・薬剤師を育成することを目指している.今回,タブレット端末を用いた “バーチャル” な解剖とラットの観察を併用した対面形式による解剖実習を行い,スケッチ課題を課した.以前の従来型のラット解剖実習の課題得点と比較したところ,“バーチャル” な解剖実習の得点が有意に高かった.実習後,教育効果を検討・改善するために,受講学生にアンケート調査を実施した.多くの学生がデジタル教材の利点を活かして一時停止や反復観察をしており,概ねわかりやすく満足できる実習であったと回答があった.今回の試みにより,動物愛護や感染症対策等の社会的要請にも応えられたと考えられる.今後,臨床系科目との連携を目指して動画内容や題材をさらに改善し,優れた医療人・薬剤師の育成に寄与する実習につなげていきたい.

Abstract

Practical courses in anatomy and physiology typically include cadaveric dissections of animals to understand the structure and function of living organisms. Alternative educational methods in human anatomy were necessary because of ethical concerns regarding animal welfare and the limited practice conditions due to the coronavirus disease 2019 (COVID-19) pandemic. Using a combination of “virtual” dissection video clips and observations of dissected rats, students completed a sketching assignment on tablets. The virtual training scores were significantly higher than the task scores from conventional hands-on training prior to the pandemic. After completion of the course, a questionnaire was conducted to examine and improve educational outcomes. The results showed that many students made repeated use of the digital teaching materials and observational procedures. Their feedback indicated that the videos assisted in understanding the content, which led to satisfaction with this teaching method. This new approach met social demands regarding animal welfare and COVID-19 countermeasures. Improvements to the video content and subject materials by linking them with clinical subjects may also contribute to future training of excellent medical professionals and pharmacists.

序論

6年制薬学部において,文部科学省が発表している薬学教育モデル・コアカリキュラムにより「実験動物・人体模型・シミュレーター等を用いて各種臓器の名称と位置を確認できる」“技能” を身につける教育が,生物系機能形態学実習で求められている1).生物系機能形態学実習は,病態や薬理作用の理解に必要な基礎的学習項目として,体内の臓器や組織について深く理解し,ラットやマウス等の動物解剖によって臓器の特徴や臓器間のつながりを理解する体験を通して知識を定着させる重要な教育要素である.本学では創立以来,2年次の生物系実習1の機能形態学実習では,ラットを用いた解剖実習を行ってきた.ラット解剖実習は,教育効果は高いが,動物愛護の観点からは社会的理解が得られにくい.2005年以降「動物の愛護及び管理に関する法律」2) の改正及び施行に伴い,動物実験の国際的な基準理念である3Rの理念に則った教育が求められてきた1,2).3Rの理念とは,(1)代替方法への置き換え:Replacement,(2)動物数の削減:Reduce,(3)動物の苦痛低減:Refinementである3).薬学教育の現場でも,模型やシミュレーターを用いた動物の代替方法や匹数削減等の検討と取り組みが行われている.さらに,2019年に発生した新型コロナウイルス感染症に対する感染予防対策を施した教育方法が求められ,特に対面実習では,密集・密閉・密接を回避する工夫が必要となっている.

本研究では,動物愛護の観点と新型コロナウイルス感染症拡大下での教育という2つの社会的要請に応えつつ,薬学教育モデル・コアカリキュラムの目的に適う生物系実習を行うことを目指して,タブレット端末を用いた “バーチャル” な解剖と実際のラットの観察を併用した対面形式による解剖実習を行った.実習ではスケッチ課題を課し,新型コロナウイルス感染症拡大下以前の従来型ラット解剖実習の課題得点と比較解析した.実習後,教育効果の検討・改善のために,受講学生にアンケート調査を実施し,今回の実習の効果と課題について考察したので報告する.

方法

1. 対象と教育方法

従来型の解剖実習は,2019年度横浜薬科大学薬学部6年制学科2年次の生物系実習1履修学生349名を対象に実施した.生物系実習室にて,動物実験倫理教育講義およびラット解剖動画を用いた学修ポイントの解説を合計約50分行った.その後,学生は4人1班となり,4人でラット1体を解剖し,解剖中に各自ラットの解剖スケッチを行った.

タブレット端末とラットを用いた2021年度の実習は,横浜薬科大学薬学部6年制学科2年次の生物系実習1第1クールの学生(56名)を対象として対面で実施した.第1クール56名の学生には対面実習を実施したが,残り7クールの学生には,緊急事態宣言の発出によりオンライン実習となり,解剖実習を実施できなかった.学生のクール分けはランダムに行った.生物系実習室にて,2019年度と同様に,動物実験倫理教育講義および “「ラット解剖動画」を用いた学修ポイントの解説” を合計約50分間行った.その後,「ラット解剖動画」(mp4形式,2ギガバイト)を事前にインストールしたHUAWEI Media Pad AGS-L09 16G Androidタブレットを学生1人に1台配布した.学生は,各自タブレットで約30分の動画を観察しながらラットの解剖スケッチを行った.このタブレット端末を用いた解剖動画視聴を,本稿では “バーチャル” な解剖と呼ぶ.補完教材として,教員が別途解剖したラット数匹を教卓に展示し,実物の形態観察の機会も設けた.

前述の「ラット解剖動画」には,形態観察としてラットの解剖の全様子と機能観察として肺にゾンデとシリンジで空気を入れて膨らませる様子が収録されている.この動画は音声なしの動画である.この動画を映写しながら,教員が臓器の形態的特徴や機能について解説をしたものが各実習の最初に実施した “「ラット解剖動画」を用いた学修ポイントの解説” である.

2. 実習課題評価と実習方法の違いによる教育効果の比較・統計解析

スケッチ課題は,実習終了時に回収し,あらかじめ学生に提示した採点評価表(S1)に従い,複数の教員で採点した.2019年度349名,2021年度56名の実習受講学生のスケッチ課題得点を比較した.評価点数が2019年度は11点満点,2021年度は6点満点であった(S1).これは,2021年度が,緊急事態宣言発出によりオンライン実習への途中切り替えとなり,課題数と課題ウェイトを変更する必要が生じたことによる.そのため,2019年度の点数を6点満点に換算(0.55倍)し,2群間の得点の比較を,Mann-Whitney U testで行った.

3. アンケート調査

2021年度の対面によるタブレット端末を用いた解剖実習を受けた第1クールの学生(56名)を対象に,任意のアンケート調査を行った.アンケートは,Microsoft社のアプリケーションFormsを用いて作成し,実習受講学生にメールで回答を依頼した.アンケートは,学籍番号や氏名等の情報を取得しない設定で,選択形式と自由記述式を併せて実施した(S2).

4. 倫理的配慮

本研究実施にあたり,横浜薬科大学倫理委員会の審査,承認を受けた(承認番号:C21008).実習実施にあたり,横浜薬科大学動物実験委員会の審査,承認を受けた(承認番号:2020-020).2年次学生に対しては,動物実験についての倫理教育講義を行った上で実習を実施した.アンケートの目的と方法を依頼メールと質問用紙に記載し,対象学生の同意を得て実施した.

課題得点の比較解析では,個人が特定されない形で集計・統計処理を行った.解析対象学生には,課題得点を解析に使用することの了解の可否をオプトアウト方式(学内電子掲示板への掲示)で確認した.了解しない場合は,研究責任者に申し出れば採点結果を集計に使用しないこと,了解の可否により不利益を被ることはないことを実習責任者から学生に説明した.

結果

1. 対象と実習実施状況

2019年度の従来型の解剖実習は,2年次生物系実習1の履修学生349名を4クールに分けて2019年4月23日~7月5日にかけて実施した.2021年度のタブレット端末を用いた解剖実習は,2021年4月15日に2年次の生物系実習1第1クールの学生56名に行った.実習受講学生は,1人1台配布されたタブレットで,一時停止や拡大を繰り返し,個人のペースで観察してスケッチに取り組んでいた(図1A,B).

図1

実習中の様子.(A, B)2021年度の実習中の様子.

2. 実習課題評価と従来の実習方法との比較・統計解析

タブレットと動物を併用した “バーチャル” な解剖実習の教育効果について,客観的な解析を行う目的で,ラット解剖実習のスケッチ課題の得点を2019年度(新型コロナウイルス感染症拡大以前)と2021年度で比較した.2019年度の解析学生数は349名,平均点は4.65点,2021年度の解析学生数は56名,スケッチ課題平均点は5.21点であった(図2).この2群間でMann-Whitney U testを行ったところ,p値は0.0002であった(図2).これらの結果から,2019年度の従来型のラット解剖実習よりも2021年度のタブレット動画とラットを併用した解剖実習の方がスケッチ課題平均点が約0.56点高く,その差は有意であった.

図2

スケッチ課題の得点比較.2019年度の従来型の解剖実習(左側)と,2021年度の “バーチャル” な解剖実習(右側)の,ラット解剖スケッチ課題の得点の比較は,Mann-Whitney U testで行った.2019年度の平均点は4.65点,2021年度の平均点は5.21点であった(◇印).

3. “バーチャル” な解剖実習を受講した学生へのアンケート調査

アンケートは,2021年11月26日~2021年12月15日に実施した.2021年度の実習受講者56名にアンケートの依頼メールを送り,33名(59%)より,同意と回答を得た.動画視聴状況と実習内容の理解度について質問した.「タブレット端末でラットの解剖動画を,繰り返しや一時停止・拡大等をして見た」と回答した割合は,いずれも95%以上であった(図3A,B).理解度については,「ラットの動画をタブレットで見ながら行う実習は,体内の臓器の理解につながったか」の問いに,「5(大変理解につながった)」及び「4」と回答した割合が合計60%と過半数であった(図3C).実際には解剖しない “バーチャル” な経験でも,繰り返し再生や拡大等を行えるデジタル教材の特性によって,概ね良好な理解につながったと考えられた.

図3

アンケート結果.ラットとタブレット端末を併用した対面型の “バーチャル” な解剖実習を受講した2021年度薬学部6年制学科2年生56名に対してアンケートを行い,33名より回答を得た.(A, B)タブレット端末を用いて行った操作(設問2,3)と(C)その効果(設問4)についての集計結果を示す.(D)ラットを観察したかどうか(設問6)と(E, F)ラットを併用した効果(設問7,4)についての集計結果を示す.(G)実習内容への興味・関心について(設問8)の集計結果と(H)その記述回答(設問9)を示す.*印:実際には,実物のラットを用いてシリンジを使って肺を膨らませることは行っておらず,動画で視聴した内容である.(I)実習内容の分かりやすさについて(設問10)の集計結果と(J)その記述回答(設問11)を示す.(K)実習の満足度について(設問12)の集計結果と(L)その記述回答(設問13)を示す.(M)実際に解剖をしたかったか(設問15)についての集計結果を示す.(N)アレルギー(設問14),(O)動物愛護(設問16),(P)新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大防止対策について(設問18)の集計結果と,(Q)記述回答(設問19)を示す.

図3

アンケート結果.ラットとタブレット端末を併用した対面型の “バーチャル” な解剖実習を受講した2021年度薬学部6年制学科2年生56名に対してアンケートを行い,33名より回答を得た.(A, B)タブレット端末を用いて行った操作(設問2,3)と(C)その効果(設問4)についての集計結果を示す.(D)ラットを観察したかどうか(設問6)と(E, F)ラットを併用した効果(設問7,4)についての集計結果を示す.(G)実習内容への興味・関心について(設問8)の集計結果と(H)その記述回答(設問9)を示す.*印:実際には,実物のラットを用いてシリンジを使って肺を膨らませることは行っておらず,動画で視聴した内容である.(I)実習内容の分かりやすさについて(設問10)の集計結果と(J)その記述回答(設問11)を示す.(K)実習の満足度について(設問12)の集計結果と(L)その記述回答(設問13)を示す.(M)実際に解剖をしたかったか(設問15)についての集計結果を示す.(N)アレルギー(設問14),(O)動物愛護(設問16),(P)新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大防止対策について(設問18)の集計結果と,(Q)記述回答(設問19)を示す.

本実習では,補完教材として,教員が解剖したラットを教卓に展示したが,その補完効果を検証するための質問を行った.その結果,「展示してある本物の臓器を見た」と回答したのは,24名(73%)であった(図3D).この24名のうち,「直接本物の臓器を見る事は,体内の臓器の理解に大変つながった」と回答したのは16名(67%)であった(図3E).「ラットを用いた実習は,体内の臓器の理解につながったか」の質問には,「5(大変理解につながった)」及び「4」と回答した割合が合わせて66%と過半数であった(図3F).これらの結果から,実際の動物の臓器を観察することで,タブレットよる動画視聴だけでは得られない補完的な理解につながったと考えられた.

さらに,今回の実習に対する興味・関心,わかりやすさ,満足度について質問を行った.「この実習は,興味深い内容だったか」という問いに対して,「5(大変興味深い)」の回答が64%(図3G)と過半数であった.「どのような点が興味深い(または,興味がない)と感じたか」,という問いに対しては,色,密度,肺の動き,立体的な理解等について言及しており(図3H),この実習を通して体内の臓器について興味深く学んだことが推察された.次に,今回の実習内容のわかりやすさについて質問をした.その結果,この実習は「5(大変わかりやすかった)」及び「4」と回答した割合が66%と過半数であった(図3I).わかりやすかった点は,「対面実習で質問がしやすかった」「画像をスケッチしやすかった」等があった.一方,わかりにくかった点は,「解剖動画の画質が荒くわかりにくかった」「実体験をしたかった」という声があった(図3J).画質の向上についてはタブレット容量の制限があるが,体内の臓器を詳細に観察したいという学生の学習意欲の表れであると推察された.次に,この実習に「5(大変満足した)」及び「4」と回答した割合は,合計66%と過半数であった(図3K).「どのような点が満足できた(または,できなかった)か」を問うと,肯定的な声が1件あった一方で,実際に解剖をしたかったという声が4件あった(図3L).また,「動画ではなく,実際にラットを用いて解剖実習をしたかった」と答えた割合は60%と過半数であった(図3M).これらのことから,“バーチャル” な解剖による利点もあったものの,実際に解剖を経験できなかったことは学生の満足度を下げていることがわかった.

アンケートでは,具体的な改善点のヒントを得るために,動物愛護,動物アレルギーや新型コロナウイルス(コロナ)対策についても質問した.動物アレルギーは,5名(15%)が「ある」と回答し(図3N),一定の割合で動物アレルギーを持つ学生がいることがわかった.「動画を用いた実習方法は動物愛護の観点から望ましいと考えるか」という質問に対し,15名(45%)が「はい」,1名(3%)が「いいえ」,17名(52%)が「わからない」と回答した(図3O).

「動画やタブレットを用いた実習方法は新型コロナ対策に有効であると思うか」という問いには,81%が「5(有効である)」及び「4」と回答した(図3P).過半数が今回の方法は概ね有効であると考えていることがわかった.続いて,新型コロナウイルス感染拡大防止対策として不十分だと感じたことや望むことを記述回答してもらった.その結果,「フェイスシールドは見えづらくなるため必要ないのでは」といった声や,「実習は新型コロナ対策よりも優先して行うべきだ」という声があった(図3Q).これらの声に対しては,フェイスシールドではなく,安全メガネまたはアイシールドを用いることや,1クールの学生数を減らしクール数を増やす等,改善の余地があると考えられた.

考察

本研究では,新型コロナウイルス感染症拡大下において身体の形態と機能を学ぶための新たな “バーチャル” な解剖実習方法を試み,その教育効果を検討した.アンケート結果から,学生は解剖動画の利点をよく理解し,途中停止や繰り返し視聴,拡大等を行いながら,じっくりと観察してスケッチしたことや,動画だけでは不十分な点を本物のラットを観察することで補完していたことが確認できた.

スケッチ課題得点の比較では,2021年度の “バーチャル” な解剖実習の平均点が,従来型実習よりも約0.56点有意に高かった.2019年度の中央値が2021年度の25パーセンタイル値に相当しており,2019年度の中央値より上に2021年度の75パーセンタイルが含まれている.デジタル教材を用いた実習は,学修効果が高かったことがわかる.2019年度は,得点3点以下の外れ値(図2●印)が5名おり,これは2021年度には見られない傾向である.その理由として,1.課題に対しての意欲不足,2.三次元のラットを平面に描写することが苦手,3.匂いや恐怖心によって実際の動物の解剖を直視できない,などが考えられる.2021年度は,タブレットによる動画視聴により,2や3に該当するケースが解消され,どの学生も比較的均質で得点の高いスケッチを提出できたのではないかと推測された.

動物倫理の観点からも,今回の実習は有効であったと考えられた.4人で1匹のラットを用いる従来型の解剖実習では,56名の学生に14匹のラットを使用する計算となるが,“バーチャル” な解剖実習では,56名の学生に対して展示用3匹のみの使用にとどまり,動物倫理の3Rの原則に則った実習であったと考えられた.しかしながら,“バーチャル” な実習が動物倫理の観点から望ましいかどうか「わからない」と答えた学生が半数以上いた(図3O).実習前の動物実験倫理教育講義で3Rの理念や,機能形態学実習の目的を説明しているが,機能形態学実習の教育目的や “バーチャル” 解剖実習の教育効果,動物倫理に対する学生の理解が十分ではなかった可能性が考えられた.アンケートの結果で「実際に解剖をしたかった」という感想が多く寄せられていた(図3M).実際に学生が解剖して得た知識と経験は他に変え難い価値がある.しかし,薬学教育モデル・コアカリキュラムでは,解剖の技術や実施については求めていない1).動物を用いた解剖を実施する実習は,動物倫理を含めたAdvanced教育として学生に伝えることが必要である.改善案として,「解剖済みの動物で,各臓器の名称と位置を確認する動画」を使用することも有効と考えられる.今後,さらに丁寧な動物倫理教育と,実習目的及び “バーチャル” な実習の教育効果の十分な説明が必要である.

また,新型コロナウイルス感染拡大防止対策としては,従来の実習では密集・密接が避けられなかったが,今回の実習では1人で1台のタブレットを使用し,密集・密接する心配はなかった.従って,タブレット動画とラットを併用した今回の実習方法は,動物倫理や新型コロナウイルス感染拡大防止対策という社会的要請に対して,概ねその目的を達成したと考えられた.

医療人・薬剤師の育成という観点からは,動物ではなく,ヒトの身体を題材にして実習を行うことも一つの視点である.薬学部でヒトの解剖実習を実施することは難しいが,デジタル教材を用いれば可能である.医学部では,人体解剖実習の際にCTスキャンを行い,人体解剖と画像診断を融合させたより深い教育を行う試みが報告されている4).薬学部では,基礎系科目である生物系実習で,ヒトの身体を題材としたデジタルアトラス等を用いて身体の各部位を確認し,その経験と知識を土台として,臨床系科目のフィジカルアセスメント実習5) で,患者の身体状況のモニタリングをより深く理解することが期待される.優れた医療人・薬剤師の育成に寄与するためにも対面実習の実施形態を社会の要請や実情に合わせて工夫し,デジタル教材を取り入れて実施することは必要となる.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

この論文のJ-STAGEオンラインジャーナル版に電子付録(Supplementary materials)を含んでいます.

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