Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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ISSN-L : 2433-4774
Original Article
A comparison of attitudes toward practical training under the revised model core curriculum by preceptors and student pharmacists
Aki HisamatsuTomoya TachiHitomi TeramachiTetsuo AdachiToshiyuki Matsunaga
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2023 Volume 7 Article ID: 2022-056

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抄録

改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムに準拠した実務実習では,新たに大学・薬局・病院の連携,8疾患の体験,体験型実習の実施およびルーブリック評価を行っている.そこで,指導薬剤師および実務実習生の実務実習の実態や取り組みの意識などを把握し,比較して違いを明らかにすることを目的に,2019年度および2020年度の岐阜薬科大学実務実習生受入れ施設の指導薬剤師および本学実務実習生を対象にアンケート調査を行った.大学と実習施設との連携に関しては,連携できていたとの回答が指導薬剤師に比して学生の方が有意に高かった.8疾患の体験については,病院実習では糖尿病以外で,薬局実習では感染症が,また体験型実習では,薬局の「在宅(訪問)医療・介護への参画」を除くすべての項目で,学生の方が体験できたとの回答が有意に高かった.今後両者の意識の差がなるべく小さくなり,より有意義な実務実習を行えるようにしていく必要がある.

Abstract

According to the revised Model Core Curriculum for Pharmaceutical Education, the student’s practical training should include collaboration among universities, pharmacies, and hospitals for creating experiences with eight common diseases, hands-on training, and a rubric evaluation. A questionnaire targeting preceptors and student pharmacists of Gifu Pharmaceutical University in 2019 and 2020 was conducted to compare and clarify the differences between the actual practical training and the efforts made. The students were significantly more likely than their preceptors to say they had good cooperation between the university and the training facility. Except for diabetes in the hospital training and infectious diseases in the pharmacy training, a higher percentage of students answered that they had experience in the eight medical conditions and home healthcare. Therefore, it is necessary to understand the differences in responses between the two groups to develop more meaningful practical training.

目的

2013年度に改訂された「薬学教育モデル・コアカリキュラム」(改訂モデル・コアカリキュラム)には実務実習を適正に実施するための指針が示されており,2019年度からそれに準拠した薬学実務実習が開始された.そこでは大学・薬局・病院の連携,代表的な8疾患(がん,高血圧症,糖尿病,心疾患,脳血管障害,精神神経疾患,アレルギー,感染症)の体験学習,体験型実習の実施およびルーブリック評価を行うこととなった1,2)

薬学実務実習に関するガイドライン(2015年2月10日薬学実務実習に関する連絡会議)では,大学が主導的な役割を果たし,実務実習を行う病院および薬局と円滑に連携して実務実習が実現されるよう,実務実習の水準の確保・向上のための様々な工夫が書かれている2)

また,ガイドラインには「大学は,実習に関わる薬剤師の指導能力の向上,実習施設の指導内容改善等に積極的に関与する必要がある」とあり,大学は改訂モデル・コアカリキュラムに則った実務実習の現状や実務実習施設および学生の取り組みの意識などを把握して,充実した実務実習を効果的に行っていく必要がある.

これまでに,大学における実務実習教育の方法構築,実習施設の取り組みや調査,代表的な8疾患の体験学習に関する薬局と病院間の連携,大学と実習施設の連携ツールの開発などが報告され37),その後も学修効果の報告8) や大学附属薬局に特化した実務実習状況9) など,改訂モデル・コアカリキュラムに準拠した実務実習を効果的に行いより良いものとするために,様々な報告がなされている.

しかしながら,実務実習生を受け入れた指導薬剤師と実習履修後の学生の意見を比較して,連携の意義や代表的な8疾患の体験学習の実施状況などを調査した報告はまだない.改訂モデル・コアカリキュラムに対応した実習状況および両者の意識を明確にしてその差を少なくして取り組むことは,今後より充実した実務実習を行うためにも重要である.

そこで,岐阜薬科大学生を実務実習生として受け入れた改訂モデル・コアカリキュラムに則った実務実習を行う薬局ならびに病院の指導薬剤師,および実務実習を履修した岐阜薬科大学生を対象にアンケート調査を実施した.実務実習における指導薬剤師および実務実習生の意識,大学・薬局・病院の連携,ルーブリック評価実施の実態,代表的な8疾患の体験学習,体験型実習の実施についての実態を把握し両者を比較することにより,両者の実態を把握して意識の差の有無を明らかにすることを目的とした.

方法

1. 対象と調査方法

2019年度および2020年度に岐阜薬科大学生を実務実習生として受け入れた薬局および病院の指導薬剤師,ならびに2020年度に実務実習を履修した岐阜薬科大学生を対象とした.薬局および病院から指導薬剤師,および学生の全員に対する悉皆調査とした.指導薬剤師へは岐阜県薬剤師会を通して,回答フォームURLとQRコードを明示したアンケート実施案内および回答の依頼をFAXで送信した.学生へは2020年度長期実務実習終了後の講義および学内専用掲示板においてアンケート実施の説明および回答フォームURLとQRコードを掲出した.両者とも2020年度長期実務実習終了後に行った.アンケート内容を図1および図2に示す.

図1

(指導薬剤師対象)アンケート調査内容

図2

(学生対象)アンケート調査内容

2. 調査項目

大項目として,指導薬剤師にのみ職種,性別,薬剤師の経験年数および学生の態度に関することを,学生にのみ薬局・病院実習の状況および実務実習の満足度について質問した.共通の質問項目は,「大学・薬局・病院の実習内容の連携について」,「ルーブリック評価について」,「代表的な8疾患の体験学習および体験型実習の実施について」とした.

3. 解析

指導薬剤師,学生に共通の質問項目について,両者の回答を比較した.統計解析にはMann-WhitneyのU検定およびFisherの直接確率計算法を用いた.なお,p < 0.05を有意差ありとした.回収率は十分で統計解析も十分できると想定した.

4. 倫理的配慮

本アンケートの回答は任意によるもので,回答しない場合でも不利益を被ることは一切ないこと,氏名,メールアドレス等の回答者の情報は送信されず回答のみが送信されることをアンケートフォームに明記した.本研究は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守して実施し,岐阜薬科大学倫理審査委員会の承認(承認番号:2-33,2-34)を得て実施した.

結果

指導薬剤師のアンケート回収率は100%(66人/66人),有効回答率は97.0%(64人/66人)であった.職種は薬局薬剤師が65.6%(42人),病院薬剤師が34.4%(22人)であり,薬剤師の経験年数は「5年以上10年未満」が9.4%(6人),「10年以上20年未満」が50.0%(32人),「20年以上」が40.6%(26人)であった.学生のアンケート回収率は80.0%(72人/90人),有効回答率は100%(72人/72人)であった.

指導薬剤師による学生の評価を表1に示す.指導薬剤師と学生のコミュニケーションについて,「良好であった」または「どちらかといえば良好であった」の回答は,薬局薬剤師が92.8%,病院薬剤師が 100%であり,「良好でなかった」の回答は両者とも0%であった.

表1 (指導薬剤師)学生とのコミュニケーション・学生の態度について
①指導薬剤師と学生のコミュニケーションについて
n(%)
良好であった どちらかといえば良好であった どちらともいえない どちらかといえば良好でなかった 良好でなかった 無回答
薬局薬剤師 24(57.1) 15(35.7) 1(2.4) 2(4.8) 0(0.0) 0(0.0)
病院薬剤師 10(45.5) 12(54.5) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
②学生の態度について
n(%)
良好であった どちらかといえば良好であった どちらともいえない どちらかといえば良好でなかった 良好でなかった 無回答
薬局薬剤師 25(59.5) 14(33.3) 2(4.8) 1(2.4) 0(0.0) 0(0.0)
病院薬剤師 10(45.5) 10(45.5) 2(9.1) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)

学生の態度について,「良好であった」または「どちらかといえば良好であった」の回答は,薬局薬剤師が92.8%,病院薬剤師が 91.0%であり,「良好でなかった」の回答は両者とも0%であった.

学生に対して質問した薬局実習および病院実習の状況,および学生の実務実習の満足度を表2にまとめて示す.「毎日の実習前に実習内容の予習をした」および「毎日の実習後に実習内容の復習をした」の質問に対し,「あてはまる」または「どちらかといえばあてはまる」の回答は,薬局実習がそれぞれ61.1%および76.3%であり,病院実習がそれぞれ66.7%および82.0%であった.また,「質問をするなど積極的に実習に参加した」および「薬局・病院の薬剤師業務(実習内容)を理解することができた」の質問に対し,「あてはまる」または「どちらかといえばあてはまる」の回答は,薬局実習がいずれも95.8%,病院実習がそれぞれ95.9%および98.6%であった.学生の実務実習の満足度について,「満足であった」または「どちらかといえば満足であった」の回答は,薬局実習に対してが93.1%,病院実習に対してが95.9%であり,全体を通してが95.8%であった.

表2 (学生)実務実習の状況
①薬局・病院実習の状況に関する各質問項目について,該当するものをお答えください.
n(%)
あてはまる どちらかといえばあてはまる どちらともいえない どちらかといえばあてはまらない あてはまらない 無回答
毎日の実習の始めに実習内容の主題や項目について説明があった 薬局実習 39(54.2) 21(29.2) 6(8.3) 5(6.9) 1(1.4) 0(0.0)
病院実習 48(66.7) 18(25.0) 3(4.2) 3(4.2) 0(0.0) 0(0.0)
実習に対する指導薬剤師の熱意を感じた 薬局実習 47(65.3) 20(27.8) 4(5.6) 1(1.4) 0(0.0) 0(0.0)
病院実習 52(72.2) 17(23.6) 2(2.8) 1(1.4) 0(0.0) 0(0.0)
質問のしやすい実習の雰囲気であった 薬局実習 53(73.6) 14(19.4) 2(2.8) 1(1.4) 1(1.4) 1(1.4)
病院実習 51(70.8) 15(20.8) 4(5.6) 1(1.4) 1(1.4) 0(0.0)
指導薬剤師は明瞭で聞き取りやすい話し方であった 薬局実習 51(70.8) 16(22.2) 4(5.6) 1(1.4) 0(0.0) 0(0.0)
病院実習 54(75.0) 15(20.8) 2(2.8) 1(1.4) 0(0.0) 0(0.0)
指導薬剤師からの配布資料は適切であった 薬局実習 51(70.8) 17(23.6) 2(2.8) 2(2.8) 0(0.0) 0(0.0)
病院実習 53(73.6) 17(23.6) 1(1.4) 0(0.0) 1(1.4) 0(0.0)
薬局・病院の薬剤師業務(実習内容)は以前から興味があった 薬局実習 31(43.1) 25(34.7) 8(11.1) 4(5.6) 3(4.2) 1(1.4)
病院実習 47(65.3) 16(22.2) 3(4.2) 2(2.8) 4(5.6) 0(0.0)
毎日の実習前に実習内容の予習をした 薬局実習 14(19.4) 30(41.7) 16(22.2) 7(9.7) 5(6.9) 0(0.0)
病院実習 22(30.6) 26(36.1) 14(19.4) 6(8.3) 4(5.6) 0(0.0)
毎日の実習後に実習内容の復習をした 薬局実習 23(31.9) 32(44.4) 12(16.7) 2(2.8) 3(4.2) 0(0.0)
病院実習 30(41.7) 29(40.3) 8(11.1) 2(2.8) 3(4.2) 0(0.0)
質問をするなど積極的に実習に参加した 薬局実習 44(61.1) 25(34.7) 3(4.2) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
病院実習 49(68.1) 20(27.8) 2(2.8) 1(1.4) 0(0.0) 0(0.0)
薬局・病院の薬剤師業務(実習内容)に興味を持った 薬局実習 40(55.6) 20(27.8) 8(11.1) 4(5.6) 0(0.0) 0(0.0)
病院実習 49(68.1) 15(20.8) 3(4.2) 2(2.8) 3(4.2) 0(0.0)
薬局・病院の薬剤師業務(実習内容)を理解することができた 薬局実習 42(58.3) 27(37.5) 1(1.4) 1(1.4) 0(0.0) 1(1.4)
病院実習 55(76.4) 16(22.2) 1(1.4) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
薬局・病院の薬剤師業務(実習内容)を数多く体験することができた 薬局実習 47(65.3) 15(20.8) 5(6.9) 3(4.2) 0(0.0) 2(2.8)
病院実習 54(75.0) 15(20.8) 2(2.8) 1(1.4) 0(0.0) 0(0.0)
②実務実習の満足度について該当するものをお答えください.
n (%)
満足であった どちらかといえば満足であった どちらともいえない どちらかといえば満足でなかった 満足でなかった 無回答
薬局実習 49(68.1) 18(25.0) 2(2.8) 3(4.2) 0(0.0) 0(0.0)
病院実習 56(77.8) 13(18.1) 1(1.4) 1(1.4) 1(1.4) 0(0.0)
実習全体 54(75.0) 15(20.8) 3(4.2) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)

大学・薬局・病院の連携に関するアンケート結果を表3に示す.薬局と病院の実習内容の連携について,指導薬剤師に比して学生は有意に「連携できていた」と回答した(p < 0.001).実務実習の順番は学習効果の観点からみてどうかについての質問では,「良かった」の回答は薬局薬剤師が31.0%,病院薬剤師が50%,「どちらかといえば良かった」は,薬局薬剤師が45.2%,病院薬剤師が31.8%であった.自身の薬局で実務実習を履修した学生からの病院実習修了後の報告への対応に関して,薬局薬剤師のみに質問した.「学生からの病院実習の報告のメールに対して返信したか」についての質問に対し,「返信した」が57.1%,「返信しなかった」が42.9%であった.「学生の病院実習後,Webシステムにより病院実習の一週間振り返り(全体の振り返り)を確認したか」についての質問に対し,「確認した」が61.9%,「確認しなかった」が38.1%であった.

表3 薬局・病院・大学の連携について
①薬局と病院の実習内容の連携ができていたかについてお答えください.
n(%)
連携できていた どちらかといえば連携できていた どちらともいえない どちらかといえば連携できていなかった 連携できていなかった 無回答 p
薬局薬剤師 1(2.4) 3(7.1) 19(45.2) 9(21.4) 10(23.8) 0(0.0) <0.001*
病院薬剤師 2(9.1) 5(22.7) 6(27.3) 4(18.2) 5(22.7) 0(0.0)
学生 29(40.3) 27(37.5) 12(16.7) 2(2.8) 2(2.8) 0(0.0)

*Mann-Whitney U検定,指導薬剤師の値は薬局薬剤師と病院薬剤師を合わせた数で学生と比較解析した.

②薬局実習の後に病院実習を実施するという順番は,学習効果の観点から良かったかどうかをお答えください.
良かった どちらかといえば良かった どちらともいえない どちらかといえば良くなかった 良くなかった 無回答
薬局薬剤師 13(31.0) 19(45.2) 10(23.8) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
病院薬剤師 11(50.0) 7(31.8) 4(18.2) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
③学生の実務実習記録ポートフォリオ(他県の学生は連携ノートブック)を見て,大学での学習内容を確認したか,また実習の参考としたかについてお答えください.
確認し,実習の参考とした 確認したが,実習の参考としなかった 確認しなかった 無回答
薬局薬剤師 14(33.3) 22(52.4) 6(14.3) 0(0.0)
病院薬剤師 7(31.8) 7(31.8) 6(27.3) 2(9.1)
④学生からの病院実習の報告メールに対して返信したかについてお答えください.
項目 返信した 返信しなかった 無回答
薬局薬剤師 24(57.1) 18(42.9) 0(0.0)
⑤学生の病院実習後,Webシステムにより病院実習の一週間振り返り(全体の振り返り)を確認したかについてお答えください.
項目 確認した 確認しなかった 無回答
薬局薬剤師 26(61.9) 16(38.1) 0(0.0)

ルーブリック評価に関する質問の回答を表4に示す.指導薬剤師と学生との面談のタイミングについて,薬局実習では指導薬剤師と学生との間で「適切であった」または「どちらかといえば適切であった」についての回答の割合に有意な差は認められなかったが,病院実習では指導薬剤師に比して学生の方が「適切であった」または「どちらかといえば適切であった」との回答が有意に高かった.指導薬剤師が学生との面談時に評価過程のフィードバックを実施したかについて,薬局・病院ともに指導薬剤師と学生との間に有意な差は認められなかった.

表4 ルーブリック評価
①ルーブリック評価の項目の評価しやすさについて,お答えください.
n(%)
評価しやすかった どちらかといえば評価しやすかった どちらともいえない どちらかといえば評価しづらかった 評価しづらかった 無回答
薬局薬剤師 5(11.9) 12(28.6) 13(31.0) 11(26.2) 1(2.4) 0(0.0)
病院薬剤師 3(13.6) 7(31.8) 6(27.3) 3(13.6) 2(9.1) 1(4.5)
②指導薬剤師と学生との面談のタイミング(4週・8週・11週)について,お答えください.
適切であった どちらかといえば適切であった どちらともいえない どちらかといえば適切でなかった 適切でなかった 無回答 p
薬局実習 指導薬剤師 20(47.6) 14(33.3) 7(16.7) 1(2.4) 0(0.0) 0(0.0) 0.155
学生 44(61.1) 17(23.6) 9(12.5) 1(1.4) 0(0.0) 1(1.4)
病院実習 指導薬剤師 6(27.3) 7(31.8) 7(31.8) 2(9.1) 0(0.0) 0(0.0) 0.001*
学生 45(62.5) 16(22.2) 10(13.9) 0(0.0) 0(0.0) 1(1.4)

*施設ごとにMann-Whitney U検定

③(学生)指導薬剤師との面談の満足度について,お答えください.
満足であった どちらかといえば満足であった どちらともいえない どちらかといえば満足でなかった 満足でなかった 無回答
薬局実習 29(40.3) 27(37.5) 12(16.7) 2(2.8) 2(2.8) 0(0.0)
病院実習 54(75.0) 15(20.8) 3(4.2) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
④指導薬剤師との面談で,指導薬剤師による評価の過程のフィードバックの実施についてお答えください.
実施した 実施しなかった 無回答 p
薬局実習 指導薬剤師 34(81.0) 8(19.0) 0(0.0) 0.053
学生 67(93.1) 4(5.6) 1(1.4)
病院実習 指導薬剤師 19(86.4) 3(13.6) 0(0.0) 0.717
学生 63(87.5) 8(11.1) 1(1.4)

*施設ごとに2群間比較にFisherの直接確率計算法

代表的な8疾患の体験学習および体験型実習の実施について,指導薬剤師と学生の両者に質問した.代表的な8疾患の体験学習については表5に,体験型実習については表6に示す.病院実習においては,がん,高血圧症,心疾患,脳血管障害,精神神経疾患,アレルギー,感染症について,薬局実習においては感染症について,指導薬剤師に比して学生の方が「体験できた」の回答が有意に高かった.それ以外では有意差は認められなかった(表5).体験型実習について,薬局実習の「在宅(訪問)医療・介護への参画」を除くすべての項目で,指導薬剤師に比して学生の方が「体験できた」の回答が有意に高かった.病院実習では,すべての項目で指導薬剤師と学生との回答に有意な差が認められた(表6).

表5 8疾患の体験
n(%) p
体験できた どちらかといえば体験できた どちらともいえない どちらかといえば体験できなかった 体験できなかった 無回答
がん 薬局実習 指導薬剤師 11(26.2) 12(28.6) 4(9.5) 11(26.2) 4(9.5) 0(0.0) 0.261
学生 32(44.4) 11(15.3) 6(8.3) 14(19.4) 9(12.5) 0(0.0)
病院実習 指導薬剤師 16(72.7) 2(9.1) 3(13.6) 1(4.5) 0(0.0) 0(0.0) 0.007*
学生 66(91.7) 4(5.6) 1(1.4) 0(0.0) 0(0.0) 1(1.4)
高血圧症 薬局実習 指導薬剤師 31(73.8) 10(23.8) 1(2.4) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 0.349
学生 59(81.9) 10(13.9) 3(4.2) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)
病院実習 指導薬剤師 13(59.1) 7(31.8) 2(9.1) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 0.012*
学生 59(81.9) 9(12.5) 1(1.4) 1(1.4) 0(0.0) 2(2.8)
糖尿病 薬局実習 指導薬剤師 30(71.4) 11(26.2) 0(0.0) 0(0.0) 1(2.4) 0(0.0) 0.120
学生 61(84.7) 7(9.7) 3(4.2) 1(1.4) 0(0.0) 0(0.0)
病院実習 指導薬剤師 14(63.6) 5(22.7) 3(13.6) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 0.093
学生 57(79.2) 11(15.3) 2(2.8) 1(1.4) 0(0.0) 1(1.4)
心疾患 薬局実習 指導薬剤師 23(54.8) 13(31.0) 4(9.5) 2(4.8) 0(0.0) 0(0.0) 0.994
学生 41(56.9) 19(26.4) 5(6.9) 5(6.9) 2(2.8) 0(0.0)
病院実習 指導薬剤師 12(54.5) 5(22.7) 4(18.2) 0(0.0) 0(0.0) 1(4.5) 0.027*
学生 56(77.8) 11(15.3) 2(2.8) 1(1.4) 0(0.0) 2(2.8)
脳血管障害 薬局実習 指導薬剤師 18(42.9) 16(38.1) 5(11.9) 3(7.1) 0(0.0) 0(0.0) 0.513
学生 34(47.2) 14(19.4) 9(12.5) 8(11.1) 7(9.7) 0(0.0)
病院実習 指導薬剤師 10(45.5) 6(27.3) 6(27.3) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 0.004*
学生 55(76.4) 8(11.1) 5(6.9) 2(2.8) 0(0.0) 2(2.8)
精神神経疾患 薬局実習 指導薬剤師 18(42.9) 17(40.5) 6(14.3) 1(2.4) 0(0.0) 0(0.0) 0.067
学生 45(62.5) 17(23.6) 4(5.6) 3(4.2) 2(2.8) 1(1.4)
病院実習 指導薬剤師 7(31.8) 6(27.3) 9(40.9) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 0.002*
学生 48(66.7) 12(16.7) 6(8.3) 4(5.6) 0(0.0) 2(2.8)
アレルギー 薬局実習 指導薬剤師 27(64.3) 13(31.0) 1(2.4) 1(2.4) 0(0.0) 0(0.0) 0.229
学生 56(77.8) 8(11.1) 4(5.6) 3(4.2) 1(1.4) 0(0.0)
病院実習 指導薬剤師 8(36.4) 7(31.8) 6(27.3) 1(4.5) 0(0.0) 0(0.0) 0.002*
学生 52(72.2) 9(12.5) 6(8.3) 3(4.2) 0(0.0) 2(2.8)
感染症 薬局実習 指導薬剤師 17(40.5) 14(33.3) 6(14.3) 5(11.9) 0(0.0) 0(0.0) 0.005*
学生 49(68.1) 14(19.4) 4(5.6) 4(5.6) 1(1.4) 0(0.0)
病院実習 指導薬剤師 13(59.1) 6(27.3) 3(13.6) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 0.010*
学生 59(81.9) 9(12.5) 2(2.8) 0(0.0) 0(0.0) 2(2.8)

*施設ごとにMann-Whitney U検定

表6 体験型実習
①体験型実習について(薬局)
体験できた どちらかといえば体験できた どちらともいえない どちらかといえば体験できなかった 体験できなかった 無回答 p
地域におけるチーム医療 指導薬剤師 14(33.3) 11(26.2) 10(23.8) 5(11.9) 2(4.8) 0(0.0) 0.007*
学生 44(61.1) 12(16.7) 7(9.7) 2(2.8) 6(8.3) 1(1.4)
在宅(訪問)医療・介護への参画 指導薬剤師 23(54.8) 10(23.8) 6(14.3) 2(4.8) 1(2.4) 0(0.0) 0.479
学生 45(62.5) 14(19.4) 3(4.2) 3(4.2) 6(8.3) 1(1.4)
地域保健(公衆衛生,学校薬剤師,啓発活動)への参画 指導薬剤師 23(54.8) 12(28.6) 3(7.1) 2(4.8) 2(4.8) 0(0.0) 0.034*
学生 53(73.6) 11(15.3) 4(5.6) 1(1.4) 2(2.8) 1(1.4)
プライマリケア,セルフメディケーションの実践 指導薬剤師 10(23.8) 12(28.6) 12(28.6) 7(16.7) 1(2.4) 0(0.0) <0.001*
学生 43(59.7) 18(25.0) 5(6.9) 4(5.6) 1(1.4) 1(1.4)
災害時医療と薬剤師 指導薬剤師 7(16.7) 6(14.3) 15(35.7) 7(16.7) 7(16.7) 0(0.0) <0.001*
学生 35(48.6) 18(25.0) 8(11.1) 6(8.3) 4(5.6) 1(1.4)

*Mann-Whitney U検定

②体験型実習について(病院)
体験できた どちらかといえば体験できた どちらともいえない どちらかといえば体験できなかった 体験できなかった 無回答 p
医療機関におけるチーム医療 指導薬剤師 12(54.5) 3(13.6) 2(9.1) 4(18.2) 0(0.0) 1(4.5) 0.001*
学生 60(83.3) 9(12.5) 1(1.4) 0(0.0) 0(0.0) 2(2.8)
地域におけるチーム医療 指導薬剤師 4(18.2) 4(18.2) 8(36.4) 4(18.2) 1(4.5) 1(4.5) <0.001*
学生 45(62.5) 19(26.4) 4(5.6) 2(2.8) 1(1.4) 1(1.4)
災害時医療と薬剤師 指導薬剤師 6(27.3) 2(9.1) 6(27.3) 7(31.8) 0(0.0) 1(4.5) <0.001*
学生 47(65.3) 15(20.8) 7(9.7) 1(1.4) 1(1.4) 1(1.4)

*Mann-Whitney U検定

考察

本研究では,改訂モデル・コアカリキュラムに則った実務実習を行う病院および薬局の指導薬剤師,ならびに実務実習修了生を対象に,実務実習における大学・薬局・病院の連携,8疾患の体験,ルーブリック評価実施の実態,指導薬剤師および実務実習生の意識を把握し,両者を比較することを目的として,アンケート調査を実施した.両者の意識の違いの有無を明らかにして差を少なくしてよりよい実務実習を行うために有意義なものである.

指導薬剤師と学生のコミュニケーションについて,「良好であった」または「どちらかといえば良好であった」は薬局薬剤師が92.8%,病院薬剤師が100%と高かったことから,指導薬剤師は学生とコミュニケーションを良好にとれていることが分かった.また,学生の態度について「良好であった」または「どちらかといえば良好であった」が90%以上と高かったことから,学生の態度を良好であると捉えていることが分かった.

学生の実務実習全体を通しての満足度は,「満足であった」または「どちらかといえば満足であった」が95.8%と高かったことから,学生は実務実習に満足していることが分かった.

薬局・病院実習の履修態度に関する質問のうち,実習前の予習の実施では,「あてはまる」または「どちらかといえばあてはまる」の回答は,薬局実習が61.1%,病院実習が66.7%,実習後の復習の実施については,薬局実習が76.3%,病院実習が82.0%であったが,「質問をするなど積極的に実習に参加した」の質問に対して,薬局・病院実習ともに95%以上であることから,学生は積極的に実務実習に取り組んだことが分かった.実習施設の中には,実習時間中の復習時間に翌日の予習に充当している可能性があり9),効率的に学習していることが考えられる.「薬局・病院の薬剤師業務(実習内容)は以前から興味があった」および「薬局・病院の薬剤師業務(実習内容)を理解することができた」の質問に対し,「あてはまる」または「どちらかといえばあてはまる」がそれぞれ77.8%から95%以上と高かったことから,実務実習前より薬剤師業務に興味を持ち,かつ薬剤師業務を理解することができたとする学生が多かったことが分かった.学生が積極的に実務実習に参加したことにより,薬剤師業務の興味や理解につながったと考える.

薬局と病院の実務実習内容の連携に関して,「連携できていた」の回答が指導薬剤師に比して学生の方が有意に高かった.指導薬剤師は実務実習のうち薬局・病院それぞれの立場で指導しており,実務実習全体を通しての連携は実感しにくいと考えられる.実務実習の順番については,学習効果的に「良かった」または「どちらかといえば良かった」は薬局薬剤師が76.2%,病院薬剤師が81.8%と,学習効果があると感じていることが分かった.薬局実習後に病院実習を行うことでコミュニケーションスキルが段階的に向上したことが明らかにされていることから8),指導薬剤師は学生の様子を見て学習効果があったと感じていることも考えられる.

実務実習支援システムであるWebシステム「【薬学】実務実習指導・管理システム」(富士フイルムシステムサービス株式会社,東京)上で,学生は病院実習完了報告メールを先に実習した薬局に対して送信しているが,薬局薬剤師が報告メールに対し返信しなかったの回答が42.9%であった.Webシステムで行える病院実習の内容の確認も38.1%が確認していなかったと回答している.大学・薬局・病院が連携するためのシステムが有効に活用されていない実習施設があることが示唆された.

「薬学実務実習に関するガイドライン」には,「病院,薬局は,実習施設間で実習生の実習した内容やその評価等を共有することで,重複する目標の指導を分担し,「代表的な疾患」の体験等を連携して実施し,実習生に効果的で効率的な実習を行う」,「実習施設とも情報を共有して充実した実務実習に向けて改善に努める」とある2).「指導する薬剤師への指針」にも,施設間の連携について「病院や薬局が連携して実習を行うことが原則である」とある2).また,これまでにも,大学病院が使用してきた実務実習ツールを薬局実習と連携して使用することで継続疾患数を有意に増加させるなどして代表的な8疾患の体験学習実施率と継続率の向上への有用性が明らかにされており5),大学・薬局・病院が連携して実務実習を行うことの重要性は示されている.いま一度「病院や薬局が連携して実習を行うこと」について理解を深め,大学・薬局・病院での情報共有を密に行うこと2) により,効果的な実務実習を行いたい.

ルーブリック評価について,指導薬剤師は「評価しやすかった」と感じている割合が少なかった.今後も研修会等を行うことにより,指導薬剤師にルーブリック評価について理解を深めてもらう必要があると考える.面談のタイミングは,薬局実習では「適切であった」および「どちらかといえば適切であった」の回答が,指導薬剤師と学生との間に有意差は認められず,両者とも適切であったと感じていることが分かった.一方で病院実習では指導薬剤師に比して学生が有意に適切であったと回答している.面談時の指導薬剤師からの評価過程のフィードバック実施については,薬局実習・病院実習ともに指導薬剤師と学生との回答の間に有意差は認められず,ほとんどの実習施設でフィードバックが行われたことが分かった.実務実習に関するガイドラインには「認定指導薬剤師は,教育効果の高い実習を実施するために,モデル・コアカリキュラムの意義・目的・内容を十分に把握した上で,(中略)指導に当たる必要がある」としている1).今後もルーブリック評価への理解を深めてもらい,確実に行ってもらえるよう引き続き取り組みたい.

代表的な8疾患の体験学習は,病院実習におけるがん,高血圧症,心疾患,脳血管障害,精神神経疾患,アレルギー,感染症,および薬局実習における感染症において,「体験できた」の回答が指導薬剤師に比して学生の方が有意に高かった.病院実習では,7つの疾患について学生が「できた」と思っても指導薬剤師は「できた」と思っていなかったことが分かった.薬局実習では感染症以外では有意差は認められず,指導薬剤師と学生の意識の大きな乖離はなかったと言える.

指導薬剤師にとっては,疾患に関する内容を実習期間内に伝えきれなかったなどと感じて「あまり体験できなかった」と回答した可能性が考えられる.学生にとっては初めて現場に出て学んでいるため,全てが勉強であり,「体験できた」と捉えていることが考えられる.

体験型実習に関して,薬局実習の「地域におけるチーム医療」,「地域保健(公衆衛生,学校薬剤師,啓発活動)への参画」,「プライマリケア,セルフメディケーションの実践」,「災害時医療と薬剤師」,病院実習の「医療機関におけるチーム医療」,「地域におけるチーム医療」,「災害時医療と薬剤師」の項目で,指導薬剤師に比して学生は有意に「体験できた」と回答している.学生はたとえ実体験ができなくても,ロールプレイや座学でも「体験できた」と評価している可能性も考えられる.

早期体験実習において実習の効果度(学修目標達成に効果的であるかどうか)と満足度の比較検討に関する研究報告では,「効果度に比して満足度が高い実習」は「将来へ活かせる経験や達成感が得られた」,「効果度に比して満足度が低い実習」は「見学だけの実習,チームの一員として加わることがない」の特徴がみられた10).将来へ活かせる体験型の実務実習では,「満足度」は成長度を見る一つの指標にはなると推察される.そこで,学生の「実務実習の満足度」と「代表的な8疾患の体験学習」「体験型学習の実施」との相関係数を調べたところ,0.5から0.9の幅で有意差が出た(Spearmanの順位相関係数,p < 0.05.論文中ではデータ示さず).この結果から必ずしも学生の成長を評価できるものではないが,体験したと実感できた実習項目が多いことが満足度に関わっており,成長度にも影響してくることも推察される.実務実習において学生の満足度ひいては成長度につなげるためにも,薬剤師は体験型の実習を確実に実施し,学生にも体験したという認識を持ってもらうよう工夫することが重要だと考える.

今回の調査において,指導薬剤師と学生の回答で,代表的な8疾患の体験学習実施では病院実習において有意差が認められた項目が多かった.連携についても両者に有意差が認められた.この差が少ないことにより,効果的な実習ができていると考えられる.今後も大学・薬局・病院の連携を密にして,学生の成長につながる実務実習を行うことが重要である.

謝辞

アンケート調査にご協力いただいた薬局および病院の指導薬剤師の皆様に感謝申し上げます.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
© 2023 Japan Society for Pharmaceutical Education
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