2023 Volume 7 Article ID: 2023-014
本稿は,令和4年8月に行われた第7回日本薬学教育学会大会のシンポジウム4において「6年制課程薬学部学生の研究活動について―医療系総合大学薬学部教員としての一考察―」という題目で行った講演内容をまとめたものである.演者は大阪医科大学と大阪薬科大学との大学統合により2021年に新たに始動した大阪医科薬科大学薬学部に所属している.この大学統合により,本学は医・薬・看の三学部を擁する医療系総合大学となり,三学部間で教育研究に協同して取り組む機会が増えている.薬学部の強みとして位置付けられてきた研究活動を6年制薬学教育課程にも効果的に組み込む必要性に関する考えについて,多職種連携教育や医学部学生の研究活動にも触れながら紹介する.
This article summarizes the contents of a presentation entitled “Research activities of undergraduate students during the 6-year pharmaceutical education curriculum—Perspective of a faculty member of pharmacy in a university integrating medicine, pharmacy and nursing—” in symposium 4 of the 7th Japan Society for Pharmaceutical Education (August, 2022). I am a member of the Faculty of Pharmacy, Osaka Medical and Pharmaceutical University (OMPU), which was established in 2021 through the integration of the Osaka Medical College and Osaka University of Pharmaceutical Sciences. Post this integration, OMPU consisted of three faculties: Medicine, Pharmacy, and Nursing, resulting in greater opportunities among the three faculties for collaborative engagement in education and research. I present my perspective for the necessity to effectively incorporate the research activities of pharmacy undergraduate students in the 6-year pharmaceutical education curriculum into this collaborative environment and describe the interprofessional education and research activities of medical undergraduate students.
それぞれ100年前後の歴史を有していた大阪薬科大学と大阪医科大学は,2021年4月に大阪医科薬科大学(以下,本学)として大学統合を果たした.大阪医科大学は看護学部を2010年に設置していたことから,大学統合によって本学は医・薬・看の三学部からなる医療系総合大学という位置づけになった.大学統合に際して設定した本学のビジョンとして6項目を掲げているが,「医薬看連携教育」に加えて,「基礎⇔臨床研究の橋渡しとOnly Oneの研究拠点の形成」もビジョンの一つとして加えられている.なお,本学薬学部(以下,本学部)は6年制薬学科のみの入学者を受け入れている.大学統合に伴い,医薬看の三学部の各センターや委員会の関係者が集まって協議や意見交換する会議体として「教育機構」,「学生生活支援機構」,「研究機構」などが組織され,三学部間で教育研究に関する情報共有や合同事業が積極的に行われつつある.
本学部プログラムを学部生の研究活動という点に重きを置いて話を進めるにあたって,関連法令との関係性から考えてみたい.まず,学校教育法第83条第2項には,「大学は,その目的を実現するための教育研究を行い」と規定されている1).これは当然ながら薬学部にも当てはまり,大学では,教育に加えて,研究を行うことが求められる.また,大学設置基準において卒業要件を定める第32条第3項では,薬学に関する学科のうち臨床に係る実践的な能力を培うことを主たる目的とするものに係る要件,すなわち6年制薬学教育課程の学生に対しては,薬学実務実習に係る単位を20単位以上修得することとなっており,原則22週の薬学実務実習が現在実施されている2).
さて,現行の「薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年度改訂版)」において提示されている卒業時に修得しておくべき「薬剤師として求められる基本的な資質」では,大項目として「研究能力」が設定されており3),6年制薬学教育において研究能力を学生に身に付けさせることが求められている.しかし,6年制薬学教育課程修了者に対して,どの程度までの研究能力の修得を目指すのか,従来主流であった旧4年制薬学教育課程卒業後の修士課程修了者と比べて(ともに6年間という意味で)どのように考えるのかなど,このあたりがこれまで6年制薬学教育が2014年にスタートした後,17年以上にわたって,多くの薬学系教員が悩み,模索し続けてきたところではないかと思われる.
現行の本学部ディプロマ・ポリシーには,「薬学・医療の進歩と改善に役立てる研究を遂行する意欲と科学的根拠・研究に基づく問題発見・解決能力を有していること」を設定している4).また,現行の本学部カリキュラム・ポリシーでは,ディプロマ・ポリシーで掲げている「研究」に関係する項目を修得させるための一つとして,4年次から研究室配属して行う卒業研究を設定している4).
本学部では,卒業研究にあたる「特別演習・実習」を4年次前期~6年次前期にかけて設定している.これと併行して,5年次には「病院実務実習」と「薬局実務実習」が割り当てられている.
本学部における研究(室)活動の一例として,筆者が所属している薬剤学研究室(以下,当研究室)の状況を紹介する.当研究室は,現在(2022年度),大学院生は0名であり,学部生は6年生が16名,5年生が13名,4年生が14名で2022年度の学部生の配属生総数は43名になる.これらの配属学生を3名の研究室スタッフ(教授,准教授,助教各1名)で研究指導を行っている.研究室配属時には研究室ごとに研究室紹介を行うが,その際に紹介している「薬剤学研究室の基本方針」では「研究面」のみだけでなく,集団生活の場でもあることを踏まえて,「生活面」についても強調するようにしている.「医療人」を目指す上で,講義では身に付けにくい態度面の醸成が必要であるが,こうした態度面の醸成には研究(室)活動は重要なウェイトを占めていると考えている.また,コロナ禍では実施を控えているが,研究室旅行,新歓・追い出しコンパ,花見などといった研究室イベントが研究室における学年縦断的・横断的な人間関係を構築する上でいかに重要な役割を果たしていたかを改めて実感している.
当研究室活動の実施においては,先輩が後輩を指導する,その後輩がそのまた後輩を指導するといった体制,いわゆる「屋根瓦方式の体制を基本」としている.これは旧来から薬学部の多くの研究室で行われてきた指導体制であるが,医学部教員が臨床現場における指導方法を説明する際にも,この「屋根瓦方式」という言葉をしばしば耳にする.
いわゆるラーニングピラミッドにおいて「他の人に教える」行為が最も学修定着率が高いと示されているように5),これは筆者も実体験として大いに自覚するところである.当研究室では,研究テーマごとにユニットを設定し,そのユニットには4~6年次の各学年から2名程度所属(1ユニット計5~8名程度)する構成としている.このユニットを中心として屋根瓦式での体制を取るようにしている.しかし,このユニット制も毎年配属してくる学生数が多少変動するため,調整が難しい点もある.また,限られた教員だけでは配属学生すべてを直接指導することは難しく,屋根瓦式を取らざるを得ないということも否めない.
屋根瓦式での研究室活動において考慮すべきなのが,研究室活動期間と重複する実務実習との関係性である.実務実習に出向く時期によっては実験手法などの伝達が難しい場合も出てくる.その一方で,多くの学生は卒業研究が一段落して卒業や国家試験に向けて注力する時期になっても,後輩のために時間を割いて実験日にサポートしてくれる場合がほとんどである.その後輩をサポートする学生も自分自身が先輩から同様に実験指導を受けた経験を有していることから,カリキュラム上での卒業研究の時期を終えていたとしても後輩のために実験の指導を行ってくれている.こうした状況を見るにつけて,学部生における研究室活動において最も重要なことは何かと考えさせられる.医療人に必要な利他的なマインドの醸成にも研究活動はつながっているようにも感じられる.
研究室への帰属意識を高める上でも配属学生が一堂に会する機会は重要と考えている.研究室と疎遠な状況が続けば,当然ながら研究活動にも大きく影響する.そこで,ほぼ週ごとに行う研究室セミナーは研究室内での交流を深める上でも重要な位置づけにあり,実務実習中以外の研究室配属学生は全員参加を基本としている.研究室セミナーでは「研究論文紹介」と「研究進捗報告」を中心に行っているが,前期であれば実務実習を終えた6年生が主な担当となる.配属したばかりの4年生は比較的プレゼンテーションの経験を積んだ6年生の発表に触れた後に,発表を担当するようにしている.また,論文紹介時の質疑応答の際には,発表者のプレゼン後に各学年が混在するスモールグループで意見交換した後に,グループの代表者が質問を行う形式を取っている.この際の議論は,先輩と後輩が会話する重要な機会になっている.学会発表リハーサルや実務実習の報告会も研究室セミナーの一環として行うことで,プレゼンテーションの機会を見たり,聞いたり,実際に行ったりする機会を出来るだけ増やすようにしている.コロナ禍でリモートや参加する学年を制限することもあったが,現時点ではほぼコロナ前の状況で実施できている.6年制薬学における研究室活動では,こうしたプレゼンテーションやコミュニケーションを高める取り組みがより重要になるものと考えている.ただ,実際に自らの手を動かして,新しい知見を見い出す喜びに加え,失敗する,予想通りに行かずに壁にぶち当たるといった経験を実験などで積ませることは,問題発見解決能力を醸成する上では不可欠である.こうした経験をやらされている意識ではなく,いかに自らの意思で取り組んで積ませていけるかが,研究活動を指導する側として最も重要で難しい点であると感じている.
本学部の卒業研究発表会は,コロナ禍前までは,体育館などで一斉に行うポスター発表会にて実施していた.しかし,コロナ禍により,大人数のポスター発表会が出来なくなったために,少なくとも2名の評価者(助教以上の教員)が同席する口頭発表会に切り替えた.パワーポイントによる口頭発表とその後の質疑応答については,ポスター発表よりも緊張感を持って臨む学生がほとんどであり,発表時の態度面は向上したと感じている.また,ルーブリックによるプレゼンテーション能力のパフォーマンス評価も比較的行いやすくなったと感じている.
また,本学部では,卒業発表に加えて,卒業論文を作成し提出することを求めている.プレゼテーション能力については,学生もアクティブ・ラーニングなどを取り入れた授業を受講する機会が増えているためか,以前と比べて修得が早い学生が多いと感じる.一方で,卒業論文のような体裁を整えた文書の作成は最終学年の6年生であっても不慣れな者が多いように感じる.行ってきたことを目に見える形として残す卒業論文を作成することの意義は非常に大きいと感じる.加えて,適切な引用方法など,研究倫理についても改めて考えさせる大切な機会にもなる.卒業発表や卒業論文に関する取り組みは,社会に出てからの適切な情報発信の礎になるものであることからも,その学修機会をカリキュラムに含めることの意義は大きいと感じる.
次に,本学部卒業生が大学における卒業研究についてどのように考えているかについて触れる.本学部では,卒業生に対して定期的にアンケートを行っており,その結果を大学ホームページなどでも公表している6).そのアンケートにおいて卒業研究に関連する結果の概要を紹介する.ここでの回答者は薬学6年制1期生の2011年度以降の卒業生で,アンケート実施時点で卒業後3年以上が経過した者を対象としている(本対象者全員は大学統合前の卒業者).なお,対象者総数の約32%から回答が得られた結果である.まず,「実社会において必要と考える能力」では,「問題発見・解決能力」は16項目中2番目に位置していた.「論理的思考力」は7番目,「文章表現力」,「語学力・国際感覚」はそれぞれ12,13番目と低い順位であったが,将来的に業務上において発表や論文執筆などの機会がより増えることになれば,これらの項目はより上位に来るものと考えている.次に,「学生生活を通じて人間形成のために大学が何に力を入れることが望ましいか」というアンケートでは,「研究室活動」は9項目中5番目と中間に位置していた.また,「今後充実させて欲しい教育分野」では,「卒業研究」は「その他」を除外すれば8項目中最下位であった.この結果はより詳細な分析が必要と思われるが,「卒業研究」が在学中に十分であったので「現状で良い」ということなのか,それとも別の要因なのかを検証していく必要があると思われる.
6年制薬学教育における「研究能力」を考える上で,卒業生の進路や就職先も重要な要素になる.2021年度本学部卒業生の就職先としては,病院,薬局,ドラッグストアの区分でそれぞれ26.2%,33.8%,25.8%で,これら3業種で8割以上を占めており,本学部では薬剤師資格を使って働く卒業生がほとんどである.卒業生アンケートからも「問題発見解決能力」は重要視されていることから,それを踏まえた「研究活動」のあり方を考えていく必要がある.
大学統合前からすでに医薬看の三学部合同による多職種連携教育IPEが実施されていたが,大学統合に伴い,より連携が具体的かつ密接になっている.三学部合同で行われているIPE科目についての詳細については本学ホームページをご参照頂きたいが7),学部横断的および学年縦断的にIPE科目を設定している.IPE科目においては,それぞれの学部の立場で学生が意見を述べることが求められる.例えば,「多職種連携カンファレンス」では,医学部,薬学部,看護学部の三学部の学生が合同で同じ患者事例について討議する.IPE科目では,薬学部として,患者の治療に対して,どのような問題点を提起するのか,それをどのように解決するのかを薬学的視点で意見する必要が求められる.こうした場面では,単に知識を修得しているだけでは対応が難しく,その知識を適切にアウトプットできる能力や議論における「場慣れ」が重要であると感じる.「専門知識の統合的理解」や「場慣れ」という意味でも,研究室活動は大きな意味を持つものと思われる.
ここで,本学医学部が導入している「学生研究プログラム」について紹介する.本学医学部の現行のカリキュラムでは,1年生の「学生研究1」,3,4年生の「学生研究2,3」といった研究に関する必修科目を導入している8).医学部科目「学生研究1」のシラバスには,「医学部学生がリサーチマインドを醸成し,自ら課題を発見し,それを解決する,という姿勢を身に付けるとともに,医師としてEBMを実践できることを目的としている」と記されている.この医学部の学生研究プログラムには,薬学部も配属先教室として,医学部生の研究指導に協力しており,医学部の基礎系や臨床系の研究室に加えて,薬学部のほぼすべての研究室は医学部生を受け入れる体制を取っている.さらに,医学部生配属先として関西大学化学生命工学部も加わっていることは,医工連携という点でも注目に値する.配属スケジュールは,医学部3年生の10月から1週間おき,11月下旬から1か月程度はコア期間として平日は毎日研究室にて研究を行うことになっている.4年生では,データのまとめやプレゼンテーションの準備を行い,最終的にはポスター発表を行うスケジュールになっている.薬学部の研究活動に比べれば,期間は限られたものであるが,医学部生の発表会に立ち会うと,高度な研究に発展しているものもあり,集中的に取り組むことで高い教育効果をあげているように感じている.学生研究を終えた医学部生はその後60週以上にわたる長期の臨床実習に入ることから,より臨床経験を積んでいる医学部生がこうした研究活動も行っていることは,将来同じ医療現場で働く薬剤師を輩出する薬学部も十分に認識しておく必要があると考えている.
本シンポジウムから遡ること9年前になるが,当時京都薬科大学学長の乾 賢一先生がファルマシアのオピニオンに投稿なされた寄稿文には,以下のように述べられている9).
「6年制薬学教育に伴うネガティブな側面は,研究力の低下である.大学院修士課程の学生が激減したために,研究の推進に支障をきたしていることは否めない.これは,大学のみならず薬学関連の学会にとっても由々しき問題である.学術研究の推進については,従来の既成概念にとらわれるのではなく,医学部の改革を参考にした展開など,発想の転換が必要であろう.問題発見,問題解決型の教育に力を注ぎ,science(科学),art(技術),humanity(人間性)のバランスのとれた教育の実践は,質の高い薬剤師の養成だけでなく,研究能力を持った薬剤師(pharmacist-scientist)の育成や薬学研究の画期的な発展につながると思う.20~30年後にはノーベル賞級の研究者が生まれるかもしれない」と記されている.9年以上前の寄稿文ではあるものの,まさに本シンポジウムのテーマに直接働きかける内容であると感じている.
さらに,米国にて薬学部教員を務めておられる藤原亮一先生がファルマシアに投稿された寄稿文には,アメリカ薬学教育における研究活動の問題点や必要性を述べられている10).その寄稿文では,米国では卒業研究の制度がないために研究活動を一切することなくPharm. Dを取得する学生が多い一方で,臨床において薬剤師が研究成果を論文としてまとめる能力が求められることを踏まえて在学中に研究経験を求める学生が多いことが紹介されている10).本邦における薬剤師養成教育を考える上で非常に示唆に富む内容であると思われる.
折しも,本稿執筆時に「薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度版)」の最終版が公開された11).令和4年度改訂版においても,その大項目に「薬学研究」が継続して設定されており,今後はその「学修目標」を踏まえつつ,各大学の独自性に沿って6年制薬学生に対する「研究を志向するマインドセット」の醸成を考えていくことになる.さらに,その改訂モデル・コア・カリキュラムでは,薬剤師として課題を見出し,解決に導くことで社会貢献につなげていくことを重視した「臨床薬学」が設定されている.したがって,6年制薬学教育に携わる教員は,薬剤師を輩出することを意識しつつ,学修者に「研究を志向するマインドセット」を醸成していくことが求められ,その醸成は薬剤師としての業務のみならず,次代の6年制薬学教育を担う人材育成にも強く結びついていくものと思われる.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.