Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Review Article
Education and research activity status of young members in the faculty of pharmacy
Takamasa SakaiTomoyo KameiTohru Nagamitsu
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2023 Volume 7 Article ID: 2023-017

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抄録

大学教員にとって,研究活動と教育活動は相互に密接に関連しており,その両立が必要となる.加えて,若手教員には,結婚・妊娠・育児などのライフイベントを伴うことも多いため,職務に生活の要素も加えてマネジメントしていく必要がある.一方で,薬学部の教員には担うべき多様な業務が存在し,研究・教育活動の遂行は年々厳しさを増している.そうした状況下においても,発展途上にある若手教員は,自身の研究・教育に関する能力を積極的に高めていく必要がある.そこで我々は,薬学部における若手教員の教育・研究活動の現状を共有し,その活動を活性化することを目的にシンポジウムを企画した.本総説では,各若手教員の教育・研究活動における活動の実態や,具体的な取り組みについて報告する.

Abstract

For university faculty members, research and educational activities are closely related and a balance between the two is required. In addition, young faculty members are often also experiencing life events such as marriage, pregnancy, and childcare, and thus there is a need to also achieve a balance between work and personal life events. However, pharmacy faculty members have a variety of responsibilities, and the demands on their research and educational activities increases yearly. Young faculty members who are still in the development process must actively improve their research and educational abilities. The aim of this symposium is to share the current status of the education and research activities of young members in the faculty of pharmacy. This is accomplished by evaluating each young faculty members progress and specific efforts in their education and research activities.

本シンポジウム開催の経緯

現在,薬学部では薬学領域の幅広い知識と経験を修め,様々な領域で活躍できる人材を養成し,社会に輩出することを目的とした教育活動と一人の研究者としての研究活動の両立を進めている.

研究面では,大学教員であることから一定の研究業績を求められると同時に,研究活動そのものは,どんな領域の仕事においても必要な能力である課題発見・問題解決能力を養う教育の場としても重要であるため,学生と共に行う研究活動も重要となる.教育面では,各教員は自分の専門分野に関する講義や実習に加え,他分野の講義や実習,薬学共用試験であるComputer Based Testing(CBT)やObjective Structured Clinical Examination(OSCE)のサポート,その他にも学生が学生生活を日々うまく送れるように心身のケアサポートなど,業務を列挙すれば枚挙にいとまがない.

このように,薬学を取り巻く社会情勢を含めた様々な要因から,薬学部における研究・教育活動の遂行は年々厳しさを増している.そうした中でも,キャリアアップを目指す若手教員においては,業務の遂行と同時に自身の研究・教育に関する能力を高め,より成果が得られるよう,不断の努力が必要となる.しかし,大学教員のそうした努力の方向性は,第三者から提示されるのではなく,各自の自律性に依存するものであり,各々で最適と考える活動を行っていくほかない.職務経験の浅い若手教員にとって,活動事例を共有することは,自身の活動の振り返りを促し,それぞれの研究・教育活動の促進に貢献することが期待される.加えて,若手教員本人のみならず,周囲の教員に対しても波及効果が得られる可能性も考えられる.そこで,特に若手教員に注目したシンポジウムを2022年8月20日,第7回日本薬学教育学会大会にて行い,各若手教員の教育・研究活動における取り組みなどをご紹介いただいた.本総説では,その内容について報告する.

薬学部若手教員の研究・教育活動に加えてワークライフマネジメントについても考える(酒井隆全)

1. 大学教員の研究活動と教育活動

文部科学省では,大学等における研究者の活動の実態を把握し,研究や教育等にかける時間の利用実態を調査することを目的に,研究時間の実態について,統計法に基づく一般統計調査として経済協力開発機構(OECD)の基準に従った調査を5年毎に実施し,報告している.その平成30年度の結果報告1) において,保健分野における大学教員の職務活動時間のうち研究活動が29.8%と報告され,平成14年度では46.0%であったものが,平成20年度には38.8%,平成25年度31.9%と,徐々に研究活動の占める割合が徐々に減少していることが指摘されている.この割合は,若手教員の多くが属するであろう助教,講師といった職位であっても,平成30年度の調査でそれぞれ31.9%,27.6%と報告されており,大学教員全体の割合とほとんど変わらないことも示されている.加えて,同調査における教員全体の平均年間総職務時間は2,565時間であった一方で,薬学は総職務時間が3,103時間と教員の中でも最も長いことも示されている.このように,我々は苛酷な状況下において研究・教育活動を展開していることが統計上からも伺い知ることができる.

また,2007年に実施されたChanging Academic Profession Studyという国際調査2) によると,日本では「教育と研究の両立は困難である(Teaching and research are hardly compatible with each other)」という設問に対してそのように感じているパーセンテージが諸外国と比べて高く(52%),特に若手教員では更に高値(61%)であったことも報告されている.その一方で,日本では「研究活動は教育を強化する(Your research activities reinforce your teaching)」について諸外国と日本にほとんど差を認めず,高いパーセンテージ(78%)を示しており,研究と教育の両立が重要であることを認識しながらもその両立に困難さを覚えていることが示されている.ただし,この状況への対策として単に研究活動の割合を増やすことのみが適切な対策とは限らず,中央教育審議会大学分科会では大学,部局,教員それぞれのレベルで教育と研究のバランスは異なるものとしており,教育と研究を両輪とする高等教育の在り方について検討されている3).このように多くの大学教員において,教育活動と研究活動のバランスは絶対的な正解が存在せず,各自で模索を続けている問いと言える.

教育活動と研究活動の両立のための工夫の一例として,著者は研究室での知識伝達に屋根瓦方式の知識伝達を取り入れている.薬学教育における屋根瓦方式教育の有用性はこれまでにもいくつか事例が報告されており4,5),研究室という教育活動と研究活動とが密接に関わる場面においてもこの方式を活用することとした.当研究室では様々な情報源を研究活動に使用しており,利用するソフトウェアは多岐にわたる.したがって,それらの取り扱いを配属学生の全員に対して教員自らが一人ひとりに事細かに教育することは難しい.そこで,屋根瓦方式の知識伝達として,先に研究室に配属されている上級生から下級生への講習会を開催する形をとっている.この取り組みでは,教授者である上級生もまた,レジュメの作成から演習用の資材を作成するなどのプロセスを経ることで,自身の知識の整理を行うことができ,下級生への指導を通して,後進への指導能力を身に着けることができる.特に若手教員は,研究活動における基本的な知識・技能を学生に習得させるために多くの時間や労力を割くことになりがちであるため,こうした細かな工夫を重ねていくことが重要と考える.

2. 職務と生活の両立

若手教員は,生活面においても結婚や自身またはパートナーの妊娠・出産,子育てといった重大なライフイベントを伴いやすい世代であることも注視すべき点である.厚生労働省の令和元年人口動態調査において,平均初婚年齢は夫で31.2歳,妻で29.6歳であり,第一子出生時の平均年齢は父で32.8歳,母で30.7歳と報告されている6).助教・助手等の職位で働く多くの若手教員がこれらに近い年代であると考えられ,教育活動,研究活動に生活を加えた三者のバランスについても慎重に考えなくてはならない実情がある.

職務と生活の両立は決して女性教員のみが考えるべき問題ではなく,男性教員にも密接に関連するものである.一般社団法人Lean In Tokyoが実施した,男性が職場や学校,家庭で感じる生きづらさに関する意識調査では,生きづらさや不便さを感じる場面として,「育児休業・育児休暇の取得しにくいこと」や「働きながらも,家庭(家事・育児)へのコミットを求められること」,「仕事中心の生活で,育児に存分に関与できないこと」等が挙げられている7).現代社会において,男性教員における職務と生活の両立もまた無視することのできない重要な問題となっている.

職務と生活の両立について考える際,社会においてワークライフバランスという単語は広く認知されてきている.しかし,雇用者が労働者の働き方を考慮する意味合いが強く,近年では労働者がライフステージに応じて,自ら能動的にマネジメントするという認識で「ワークライフマネジメント」という言葉を用いることが提唱され8),徐々に浸透しつつある.大学教員においては職務内容に裁量が効く場合も多いという面からは,自身で職務内容のマネジメントを行っていくという考えは適用しやすく,積極的に取り入れるべき概念と考える.当然ながら,職務と生活の両立を考慮すべきは若手教員のみならず,人生において様々な場面で様々なライフイベントが起こりうるものであり,全ての教員で考慮してくべき事項であろう.

研究・教育活動に向き合う姿勢(亀井智代)

1. 6年制薬学における研究活動と教育活動

薬学部では薬学領域の幅広い知識を学び技能や態度を身に付けることによって,くすりの専門職として様々な領域で活躍できる人材育成を行っている.実際,全国薬学部卒業生の就職先は,病院,薬局,企業,大学,行政と様々であるが,平成18年度入学生からは薬剤師の養成を主目的とする6年制薬学教育が始まり,就職動向は変化してきている.薬学教育協議会の令和4年度3月の6年制学科卒業生(約9,900名)の就職動向調査結果報告書9) によると,就職先として一番多いのは保険薬局で50%を占め,病院・診療所が20%となっている.研究職としては,大学や研究機関(研究生を含む)が1%,企業の研究・試験・製造が1.5%という状況である.著者の研究室でも就職状況は同様で,病院,薬局の就職率が高い傾向にある.結果として,基礎系分野の研究室の研究内容は将来の職種に直接的に関連する可能性は少なく,学生の研究に対する意欲の維持は難しいと感じることが多い.しかし,研究活動を通して課題を発見し試行錯誤する経験は,将来どのような職種に就職するとしても必要不可欠となる問題解決能力の醸成に寄与すると考え,学生の卒業研究指導にあたっている.意図的に行っていることとしては,問題が発生した場合,次の方向性を一方的に細かく示すのではなく,できるだけ学生自身が調査して考える時間を設けるようにすることで,試行錯誤する機会をつくるよう努めている.

また,薬剤師として求められる基本的な資質・能力10) に掲げられているように,生涯にわたってともに学ぶ姿勢は重要視されており,学生の頃から研究室というコミュニティーの中において,他者と研鑽し教え合う姿勢を身に付けることは重要である.この課題に対して工夫していることとして,器具の扱い方や一連の実験操作,機器の使用方法などについて,研究室の上級生から下級生,あるいは同級生同士で教え合うかたちをとっている.一例として,配属生の多くが共通して使用する機器については,学生達自身で使用マニュアルを作成してもらって代々引き継いでいき,必要に応じて情報を追加したりアップデートするようにしている.このサイクルが効果的に循環することによって学生同士の教え合いの場となると同時に,著者自身が毎年一から教えることも減り,有効な手段として機能している.

教育活動としては,上述した専門分野の卒業研究指導や実習,授業以外にも専門分野外の実習等を担当している.様々な分野へのかかわりは実習準備から実施までの時間を要することがある一方で,内容面や運用面において分野間のつながりを担う側面もあると認識している.

2. 研究と教育の時間のバランス

他のシンポジストも述べておられるように,大学等における研究や教育等にかける時間の実態調査報告1) では,保健分野の大学教員の研究活動時間割合は年々減少している一方で,社会サービス活動(その他)が増加傾向にあり,教育活動も微増を続けている.同時に,男女共同参画社会の実現が重要課題となっている昨今にあって,若手研究者や女性研究者が出産,育児,介護などのライフステージの変化に伴い就業継続に困難を抱える状況も明らかとなっている11).実際,授業以外での学習面や生活面等の学生個別対応,学部運営にかかわる委員会活動などに充てる時間の増加に伴い研究時間の確保が難しく,かつライフイベントとキャリア形成を同時進行している状況で,それぞれの時間のバランスは常に意識し,大学にいなければできない仕事か,自宅でもできる内容なのかを判断材料としてスケジュールしている.特にウェットな研究テーマの場合は大学でなければ実験は行えず,非常時を想定すると研究活動の時間帯はおのずと固定され,大学での日中の時間帯は,研究や学生とのディスカションなど対面での教育に時間をあてるように工夫している.

研究と教育のバランスの問題については,当事者が一人で抱え込む必要はなく周囲の方々と協同しながら,自分自身が何に注力すべきかを見極め,それぞれのステージに合わせたバランスをとれるようにできることが重要だと考える.

総括

本シンポジウムでは,各若手教員の教育・研究活動の実態や,具体的な取り組みの紹介などを通して,薬学部における若手教員の教育・研究活動の現状を概説した.このような場を通して,各自の考えや具体的な取り組み例を共有することは,若手教員の教育・研究活動における現在の問題点を明確化し,より良い解決策の提案に繋がると考えている.本稿をきっかけに,薬学部における若手教員全体の教育・研究活動が活性化されることを期待したい.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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