Japanese Journal of Pharmaceutical Education
Online ISSN : 2433-4774
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ISSN-L : 2433-4774
Original Article
The relationship between performance proficiency and rubric evaluation of clinical pharmacists in non-professional competencies
Yusuke TsuchiyaWataru AraiMasaki TsukadaYoshihiko MatsukiYuichi Masuda
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2024 Volume 8 Article ID: 2023-045

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抄録

臨床薬剤師のルーブリック評価の有用性について第一報で報告を行った.その中で,パフォーマンスの習熟度を可視化することや,非専門的な能力を評価することが課題となった.ルーブリック評価表に習熟度を設定し,社会人基礎力とメタ認知能力の関係性を検証した.2021年4月に入職した15病院,35名を対象とし,改訂した評価表を用いて2年間で評価した.改訂後の評価表は信頼性と妥当性が示された.習熟度を含めた評価では,2年後の総得点は中央値66.2点(四分位範囲(IQR):55.4–72.8)であった.社会人基礎力の総得点は中央値148点(IQR:134.5–157),メタ認知能力の総得点は中央値113点(IQR:104.5–126)であった.重回帰分析により,臨床薬剤師としてのパフォーマンスにはメタ認知的コントロールが強く関連していることが示された.習熟度の設定により個々の能力の差が適切に評価された.個人の資質や特性も含めて非専門的な能力を広く育成していくことが求められる.

Abstract

This study focused on using a rubric to evaluate the performance of clinical pharmacists. The challenges lay in setting proficiency levels for performance and assessing non-professional competencies. The rubric needed proficiency levels that examined the relationship between basic social skills and the metacognition of working adults. Thirty-five participants from 15 hospitals joined the study in April 2021 and were evaluated for two years to demonstrate reliability and validity. The total score for proficiency had a median of 66.2 points (interquartile range (IQR): 55.4–72.8). The average total scores were 148 points (IQR: 134.5–157) for basic social skills and 113 points (IQR: 104.5–126) for metacognition. A multiple regression analysis revealed that metacognitive control strongly correlated to the performance of clinical pharmacists. The creation of proficiency levels enabled an appropriate evaluation of individual differences in ability. Therefore, various non-professional competencies should take into consideration personal qualities and characteristics.

緒言

2013年の薬学教育モデル・コア・カリキュラム改訂により学習成果基盤型教育が導入され,2019年度の実務実習からルーブリックによるパフォーマンス評価が開始された.このルーブリックはあらかじめ評価基準を共有することで,研修者と評価者が統一した観点で評価でき,目指すべき目標が明確化される明示的学習効果が利点とされている1).ルーブリック評価を卒後の教育に用いた報告はなく,上尾中央医科グループ(以下AMG)では2018年度より「AMG臨床薬剤師ルーブリック評価表」を用いて,多施設において系統的な卒後教育方法を導入した.ルーブリック評価については,医師の臨床研修制度や米国のレジデンシープログラムなどを参考に2年間で評価することを設定した.求められるパフォーマンスレベルが明示されることで,その成長過程が可視化され,卒後教育の臨床能力の評価方法として有用性が示された.その結果については2021年に報告した2).多施設共通の新たな卒後教育方法として有用ではあるが,いくつかの課題も明らかになった.

一つ目は,臨床現場でパフォーマンスを評価する特性上,その「できる」と判断するレベルの習熟度が適切に評価できていない可能性が指摘された.つまり,「おおむねできる」のか「いつでも確実にできる」のか,「できる」と判断されたレベルにおいて,そのパフォーマンスが求める水準よりも高く追求されていた場合に,両者を区別できないことが指摘された.ルーブリックの特性として,本来は習熟度を含めた質的変化をレベル別に表記するため,レベルが高くなるにつれてその項目の習熟度も高くなるはずである.しかし,臨床薬剤師の職能を評価する上では,設定されたレベルの能力を順番に習得していくだけでなく,その標準的な能力をより確実に追求することも重要である.現行のルーブリック評価では,認定できる標準的なレベルの習熟度は評価できるが,さらに高い水準を追及した付加価値については評価できていなかった.

二つ目は,臨床薬剤師のパフォーマンスには個人の潜在的な能力や資質,コンピテンシーなど,目に見えない非専門的な能力が関連している可能性が示唆された.ルーブリックでは目に見えない能力を他者が評価することは困難であり,潜在的な能力はルーブリック以外の方法で総合的に評価していくことが課題となっていた.

そこで今回は,新たにルーブリック評価表の各項目に習熟度の評価を設け,評価方法の妥当性やパフォーマンスの付加価値について検証を行った.さらに個人の潜在的な非専門的能力を測定し,パフォーマンスレベルとの関係性についても検討を行った.

方法

1. 対象と期間

ルーブリック評価の導入は,薬学教育6年制課程を卒業後,2021年4月の新入職薬剤師35名(15病院)を対象とし,2023年3月までの2年間を評価期間とした.なお,中途入職者は除外し,入職1年以内に病棟業務を開始する臨床薬剤師を対象とした.

2. ルーブリック評価表の習熟度による階層の設定

AMG臨床薬剤師ルーブリック評価表は,重要項目として,「倫理と姿勢」「臨床」「教育」「研究」を掲げ,それに付随する大項目を9つ設定し,臨床薬剤師に必要なコンピテンシーとして16項目を設定している.また,臨床薬剤師の基盤を2年間で育成すると仮定し,病棟業務開始前,病棟業務開始1カ月後,薬剤師経験1年間,薬剤師経験2年間で到達することを目標とした4段階の設定と,キャップストーンを加えた計5段階のパフォーマンス評価としている2).習熟度については評価項目の例示文に含めず,新たに各レベルの下層に習熟度評価を設定した.習熟度は「I-初めてできた(Rarely)」「II-時々できる限定した患者でできる(Sometimes)」「III-多くの場合,多くの患者でできる(Usually)」「IV-いつでも確実にできる(Consistently)」の4段階とした.本来I~IIIまでは,評価者が評価する際に考慮しておくべき内容ではあるが,今回はあえて評価方法を統一化するために設定し,習熟度IIIに到達した場合にそのレベルを認定することを明示した.また習熟度IVについては,付加価値の評価としてレベルの認定とは別に設定した.なお,習熟度については定性的な評価であり,評価者と対象者で十分に協議をした.

3. ルーブリック評価と評価者

ルーブリック評価については入職後半年時点,1年時点,1年半時点,2年時点で実施した.評価者は日本薬剤師研修センターの定める認定実務実習指導薬剤師が評価を行うこととした.また,施設や実務の状況に応じて,認定実務実習指導薬剤師と薬局長の判断の上で,対象者の業務や態度を十分に観察できる,より適した役職者や業務の責任者を任命することも可能とした.対象者には一律に説明会を実施し,評価者には評価の注意点や評価方法,ルーブリック評価の目的と共育の姿勢について評価者マニュアルを作成し,各薬局長からその内容を伝達講習した.

4. 調査内容

4.1.基本属性

対象者の臨床経験として,薬剤管理指導の指導人数,薬剤管理指導の指導件数,薬剤管理指導の疾患領域数,プレアボイド件数を調査した.プレアボイドはそれに向けて行動した結果を量で評価し,その内容について評価者の合意を得た件数とした.また教育環境として,病床数,薬剤師数(常勤,非常勤含む),認定薬剤師の延べ取得数を調査した.なお,疾患領域数は一般社団法人日本医療薬学会医療薬学専門薬剤師認定制度で定められている16領域(表2)とした.

4.2.習熟度を含めたパフォーマンスレベルの評価と検証

ルーブリック評価のレベルを1~5の順序尺度とし,それぞれ1点~5点で算出した.16項目の合計点をルーブリック評価の総得点とした.さらに,今回は各レベルの下層に習熟度を設けており,レベルを認定する習熟度IIIと付加価値として設定した習熟度IVを層別する必要がある.ただし,習熟度の点数が1~5のレベルの評価点を超えないようにするため,習熟度IVに到達した項目にはそのレベルに0.2点を加点することとした.つまり,レベル4までをすべて通常評価の習熟度IIIで計算した場合は4点,レベル4をすべて習熟度IVで評価した場合は0.2点×4=0.8点を加算した4.8点となり,レベル5の評価を超えないように設定した.各項目の最高点はレベル5点+0.2点×5=6点であり,16項目のすべてにおいて習熟度IVまで到達した場合の最高得点は96点となる.本研究では2年間でレベル4の到達を目標としており,レベル4点×16項目での64点が到達目標として設定した.

なお,以下習熟度IVを含めた評価を習熟度評価と記載し,その習熟度を含めた全項目の総得点を「臨床薬剤師としての目的をもった実践的な能力や行為」すなわち「臨床薬剤師のパフォーマンス」と定義した.習熟度評価の総得点,加点分の総得点,基本属性について記述統計を行い,相関係数を算出した.

4.3.新ルーブリック評価表の妥当性の検証

改訂後のルーブリック評価表における評価の信頼性の検定としてCronbach’s α係数を算出した.また改訂に伴う併存的妥当性を評価するため,習熟度の設定前後での得点を比較検討した.なお,設定前のデータについては土屋ら2) が実施した2019年度の総得点を引用し,本研究において同じ評価基準で総得点を比較した.

4.4.社会人基礎力の測定とメタ認知能力の測定

2006年に提唱された働く人が必要とされる能力としてのUSEMモデル3) や,山田の「薬剤師の基本的資質」としての概念4) では,「人間性・個人の資質」,「知識」,「ジェネリックスキル」,「メタ認知」が双方に関係することを提唱している.ルーブリックでは「知識」における内容知と方法知をパフォーマンスレベルとして可視化しているが,人間性やジェネリックスキル,メタ認知などのいわゆる非認知能力は測定できない.また,これらの教育的な概念を薬剤師で検証した報告も乏しく,関連性も明らかではない.そこで,それらの能力を可視化するための試みとして,ジェネリックスキルとメタ認知能力の測定を行った.なお,本研究ではこれらの能力の総称として臨床薬剤師の非専門的能力と定義した.

ジェネリックスキルの一つとして,経済産業省が2006年に提唱した「社会人基礎力」がある5).社会人基礎力は,「前に踏み出す力」,「考え抜く力」,「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成されており,社会で必要となる基礎的な力と定義されており,北島らは社会人基礎力の尺度を作成した6).本研究においても社会人基礎力を同様に定義し,北島らの尺度を用いて測定した(表1).

表1

社会人基礎力の尺度と成人用メタ認知尺度の詳細

社会人基礎力の尺度
設問内容(6段階評価) 能力要素 能力
01. グループでの取り組みで,自分の役割は何かを見極めている 主体性 アクション
02. 困難なことでも自分の強みを生かして取り組んでいる
03. 自分の役割や課題に対して自発的・自律的に行動している
04. メンバーの協力を得るために,協力の必要性や目的を伝えている 働きかけ力
05. 状況に応じて効果的な協力を得るために,様々な手段を活用している
06. グループの目標を達成するために積極的にメンバーに働きかけている
07. 目標達成に向かって粘り強く取り組み続けている 実行力
08. とにかくやってみようとする果敢さを持って課題に取り組んでいる
09. 困難な状況から逃げずに目標に向かって取り組み続けている
10. 目標達成のために現段階での課題を的確に把握している 課題発見力 シンキング
11. 現状を正しく認識するための情報収集や分析をしている
12. 課題を明らかにするために,他者の意見を積極的に求めている
13. 目標達成までのプロセスを明確化し,実現性の高い計画を立てている 計画力
14. 目標達成までの計画と実際の進み具合の違いに留意している
15. 計画の進み具合や不測の事態に合わせて,柔軟に計画を修正している
16. 複数のもの・考え方・技術等を組み合わせ,新しいものを作り出している 創造力
17. 従来の常識や発想を転換し,新しいものや解決策を作り出している
18. 目標達成を意識し,新しいものを生み出すためのヒントを探している
19. グループでの取り組みで,メンバーに情報をわかりやすく伝えている 発信力 チームワーク
20. メンバーがどのような情報を求めているかを理解して伝えている
21. 話そうとすることを自分なりに理解したうえでメンバーに伝えている
22. 内容の確認や質問等を行いながら,メンバーの意見を理解している 傾聴力
23. 相槌や共感等により,メンバーに話しやすい状況を作っている
24. 先入観や思い込みをせずに,メンバーの話を聞いている
25. 自分の意見を持ちながら,メンバーの意見も共感を持って受け入れている 柔軟性
26. なぜそのように考えるのか,メンバーの気持ちになって理解している
27. 立場の異なるメンバーの背景や事情を理解している
28. 周囲から期待されている自分の役割を把握して,行動している 状況把握力
29. 自分にできること・他のメンバーができることを判断して行動している
30. 周囲の人間関係や忙しさを把握し,状況に配慮した行動をとっている
31. メンバーに迷惑をかけないように,ルールや約束・マナーを理解している 規律性
32. メンバーに迷惑をかけたとき,適切な事後の対応をしている
33. 規律や礼儀が求められる場面では,礼節を守ったふるまいをしている
34. グループでの取り組みでストレスを感じる時,その原因について考えている ストレスコントロール力
35. 人に相談したり,支援を受けたりして,ストレスを緩和している
36. ストレスを感じても,考え方を切り替え,コントロールしている

全体のCronbach’s α係数0.94,12の能力要素のCronbach’s α係数0.60~0.80

 

成人用メタ認知尺度
設問内容(6段階評価) 下位尺度
 1. 答える前に,問題に対する別の答えについても検討している メタ認知的モニタリング
 7. 問いに対して考えられる選択肢をすべて考慮したかどうか,自問している
10. 学んでいるとき,教える人がどんなことを自分に期待しているのか,わかっている
11. 課題の中の重要な関連性を理解しようと,繰り返し振り返っている
12. 課題が終わったら,自分が学んだことを要約している
13. 課題に取り組んでいる最中も,自分のやり方が上手くいっているか,自分で分析している
15. 学んだことを,どれぐらい理解しているか,正確に判断できる
16. 意識的に立ち止まり,自分の理解を確認する
17. 課題が終わった時点で,自分の立てた目標の達成度を,評価している
19. 課題や問題が解決した後,すべての選択肢を考慮したかどうか,振り返っている
27. 課題が終わった時点で,できる限り学んだかどうか,振り返っている
14. 新しい知識や情報について,その意味や重要性に注意を向けている メタ認知的コントロール
18. 学ぶときに,自分の理解を助けるために,絵や図表を描く
20. 初めて聞く情報や知識は,自分の言葉に置きかえてみる
21. 理解できないときには,やり方を変えてみる
22. 自分の理解の助けになるようテキストの構成や目次を利用している
23. 課題をはじめるとき,説明をよく読み,理解してから始めている
24. 読んでいることが,自分の知っていることと関連していないか,考えながら読んでいる
25. 頭が混乱したときは,今までの考えを白紙に戻して,新たに考え直す
28. 読んでいてわからなくなったときには,一時中断して読み返してみる
 2. 過去に上手くいったやり方を試みている メタ認知的知識
 3. 学ぶために十分な時間をかけるようにする
 4. 自分が何が得意で何が不得手かをわかっている
 5. テストが終わった時点で,テストの出来具合を判断できる
 6. 重要なことがらがでてきたときには,ペースを落として課題に取り組む
 8. 重要なことがらに対して,意識的に注意を向けている
 9. そのテーマについて何らかの知識があるときに,もっともよく学べる
26. 自分の興味があることについては,より深く学んでいる

※成人用メタ認知尺度の設問の順番は下位尺度ごとに入れ替えた

 

下位尺度のCronbach’s α係数0.749~0.878
【メタ認知の下位尺度の定義】
(1)メタ認知的モニタリング:
課題遂行中から課題終了後までの認知活動について,自らを振り返り,チェックと評価を通して省察的にモニタリングをする能力
(2)メタ認知的コントロール:
課題遂行前から課題遂行中の認知活度において,行きつ戻りつ計画や方略を修正し,より良く課題を達成しようと自らの認知活動をコントロールしようとする能力
(3)メタ認知的知識:
方略についての知識や人間についての知識そして課題についての知識に関する能力

いずれの尺度も「1点:全くあてはまらない」「2点:あまりあてはまらない」「3点:ややあてはまらない」「4点:ややあてはまる」「5点:だいたいあてはまる」「6点:とてもよくあてはまる」の6段階で回答した.

また,阿部らは,メタ認知を「自らの認知過程をひとつ高い次元から知覚,記憶,学習,思考すること」と定義し,成人メタ認知尺度を作成した7).阿部らの尺度ではメタ認知を「メタ認知的モニタリング」,「メタ認知的コントロール」,「メタ認知的知識」と3つの下位尺度で定義しており,詳細は表1に示した.本研究においてもメタ認知を同じく定義し,阿部らの尺度を用いて測定した.

2023年6月に全対象者を一堂に集め,社会人基礎力の尺度と成人用メタ認知尺度について共通の説明を行い,各20分間の回答時間を設けて自記式質問紙による調査を行った.尺度の詳細については表1に示す.いずれも信頼性と妥当性が検証された尺度であり,回答は6段階のリッカート尺度で評価し,これらの合計点を社会人基礎力やメタ認知能力の得点とした.

4.5.パフォーマンスレベルと非専門的な能力の関連性の調査

個人のパフォーマンスレベルである2年間の習熟度評価の総得点を目的変数とし,基本属性,社会人基礎力の得点,メタ認知能力の得点を説明変数として相関係数を算出した.また説明変数の中から相関関係のある項目を抽出し,重回帰分析を行った.

5. 解析方法

2群間のデータの比較検討はMann–Whitney U検定を行い,相関についてはSpearmanの順位相関係数(rs)を算出した.相関係数(rs)は0.2 < |rs| < 0.4を弱い相関あり,0.4 < |rs| < 0.7を相関あり,0.7 < |rs| < 1.0を強い相関ありと定義した.また,重回帰分析は変数減数法を用いた.いずれも有意水準は5%とし,エクセル統計Ver. 4.05(BellCurve株式会社社会情報サービス社)を用いて解析した.

6. 倫理的配慮

本研究は,「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を遵守して実施し,当院倫理委員会の承認を得て実施した(受付番号:1176).なお,対象者には個人情報を保護した上で,研究目的で利用する旨について同意を取得した.

結果

1. 新ルーブリック評価表の妥当性の検証

新たに改訂したルーブリック評価表は図1に示す.改訂後のCronbach’s α係数は0.970であった.設定前の2019年度の総得点は中央値58点(IQR:55.5–59.0点),本研究の同じ条件での総得点は中央値58点(IQR:49.0–62.5点)であり,併存的妥当性として前後比較すると,統計学的に有意な差はみられなかった(P = 0.741).データのばらつきを示すIQRを比較すると2019年度は55.5–59.0点の3.5点の間に対象者の半数が集約していたが,本研究では49.0–62.5点の13.5点の範囲に広がっていた.

図1

臨床薬剤師ルーブリック評価表の習熟度の設定.習熟度はI II III IVで設定しており,次のレベルに進める条件はIIIの達成である.付加価値として習熟度IVを設定した.

2. 基本属性と習熟度を含めたパフォーマンスレベルの評価

対象者の基本属性と2年間のルーブリック評価の総得点は表2に示す.対象者1名に対する評価者は1~4名であり,中央値2名(IQR:1–3名)であった.また,基本属性と習熟度評価の総得点の相関関係では,個人の薬剤管理指導件数,所属施設の病床数,所属施設の各種認定薬剤師取得数に有意な正の相関がみられた.その中でも薬剤管理指導件数は強い正の相関がみられた.プレアボイド件数については加点分のみ弱い正の相関がみられた.

表2

対象者の基本属性とルーブリック評価表の得点

対象者の基本属性(N = 35) ルーブリックの総得点との相関係数(rs
習熟度評価 加点分
性別,n 男性7:女性28
対象者の2年間の業務実績(N = 35)
 薬剤管理指導件数(件) 1360(825–1922) 0.757** 0.690**
 経験疾患領域数※)(領域) 15(13–16) 0.189 0.206
 プレアボイド件数(件) 30(10–81) 0.311 0.367*
対象者の所属施設の状況(15施設)
 所属施設の病床数(床) 289(250–733) 0.656** 0.631**
 各種認定薬剤師取得数(延べ取得数) 13(8.5–99) 0.573** 0.591**
2年間のルーブリック評価の得点(N = 35)
 習熟度評価の総得点 66.2(55.4–72.8)
 加点分の総得点 8.2(5.2–11.0)

値は中央値(四分位範囲)で表記

有意水準 *P < 0.05,** P < 0.01(太字は有意な相関)

※16領域(1. 精神疾患,2. 神経・筋疾患,3. 骨・関節疾患,4. 免疫疾患,5. 心臓・血管系疾患,6. 腎・泌尿器疾患,7. 産科婦人科疾患,8. 呼吸器疾患,9. 消化器疾患,10. 血液および造血器疾患,11. 感覚器疾患,12. 内分泌・代謝疾患,13. 皮膚疾患,14. 感染症,15. 悪性腫瘍,16. その他)

ルーブリック評価の16項目のコンピテンシーについては,図2に示す.2年間の得点の中央値が,到達目標となる4点に達しなかった項目は「⑧感染管理」「⑨抗菌薬の適正使用」「⑫薬剤管理指導」「⑬病棟薬剤業務」「⑯臨床研究」であった.その中でも「⑯臨床研究」についてはいずれも4点に到達した者がいなかった.

図2

2年間のルーブリック評価総得点における16項目のコンピテンシーの箱ひげ図.左側(白)の図は加点分を除いた点数,右側(灰)の図は習熟度評価(加点分を含む)の点数を示す.◆は中央値.

3. 非専門的な能力の評価とパフォーマンスレベルとの相関関係

本研究における社会人基礎力とメタ認知能力の詳細については表3に示す.社会人基礎力では規律性が最も高く,創造力が最も低い点数であった.メタ認知能力ではメタ認知的知識が最も低かった.パフォーマンスレベルとの相関係数については,チームワーク,ストレスコントロール力,計画力,主体性,メタ認知能力全体とメタ認知的コントロールに有意な正の相関がみられた.

表3

社会人基礎力とメタ認知能力のルーブリック評価との相関関係

能力尺度 下位尺度 能力要素 中央値(点) 四分位範囲(点) パフォーマンスレベルとの相関係数(rs
社会人基礎力 Cronbach’s α係数0.916 148 134.5–157 0.333
アクション 36 31.5–38 0.109
主体性 12 11–13 0.340*
働きかけ力 12 10–13 0.115
実行力 12 10.5–13.5 –0.044
シンキング 31 30–36 0.168
課題発見 12 11–13.5 0.256
計画力 11 10–12.5 0.345*
創造力 9 7–11 –0.051
チームワーク 80 74–86 0.400*
発信力 12 11–13 0.266
傾聴力 13 12–15 0.291
柔軟性 14 12–14 0.197
状況把握力 13 12–14 0.255
規律性 15 14–15.5 0.238
ストレスコントロール力 13 11–14 0.397*
メタ認知能力 Cronbach’s α係数0.910 113 104.5–126 0.349*
メタ認知的モニタリング 39 35–44.5 0.252
メタ認知的コントロール 39 35–42 0.345*
メタ認知的知識 36 32.5–38 0.253

※パフォーマンスレベルは習熟度評価の総得点

有意な相関がある項目を太字で表記

4. パフォーマンスレベルとの重回帰分析

パフォーマンスレベルと相関がみられた項目を新たな説明変数とし,変数減数法で重回帰分析を行った.「メタ認知的コントロール」「薬剤管理指導件数」「所属施設の病床数」の3つの説明変数が抽出され,重相関係数Rは0.778,修正R2乗は0.567であり,その結果を表4に示す.「メタ認知的コントロール」と「薬剤管理指導件数」が影響しているが,偏回帰係数0.784,P = 0.026の「メタ認知的コントロール」が最もパフォーマンスに影響していることが示された.

表4

重回帰分析

重相関係数R 修正R 決定係数R2乗 修正R2乗 ダービン=ワトソン比 AIC
回帰式の精度 0.787 0.764 0.620 0.583 1.393 150.988
変数 偏回帰係数 標準誤差 標準偏回帰係数 下限値 上限値 F値 t値 P VIF
メタ認知的コントロール 0.784 0.335 0.263 0.100 1.468 5.467 2.338 0.026* 1.0320
薬剤管理指導件数 0.011 0.003 0.550 0.005 0.016 14.714 3.836 <0.001** 1.6765
所属施設の病床数 0.011 0.008 0.205 –0.005 0.026 2.061 1.435 0.161 1.6588
切片 13.924 12.887 –12.360 40.208 1.167 1.080 0.288

有意水準 *P < 0.05, **P < 0.01

VIF:Variance Inflation Factor(分散拡大係数)

AIC:Akaike’s Information Criterion(赤池情報量基準)

目的変数をルーブリック評価の総得点として,説明変数はメタ認知的コントロール,薬剤管理指導件数,所属施設の病床数を抽出した.

考察

本研究では,臨床薬剤師のルーブリックにおける評価方法の妥当性,習熟度を含めたパフォーマンスの付加価値の評価,非専門的能力の可視化とパフォーマンスとの関係性を明らかにした.習熟度を設定したことで評価の確実性が向上し,従来に比べてより高い水準の能力が評価できるようになった.必要最低限の水準にとどまらず,専門職として完成度の高いパフォーマンスを導くための教育にも活用できるようになった.さらに臨床薬剤師における非専門的な能力の実態やパフォーマンスとの関係性も明らかになった.その中でも特にメタ認知的コントロール力,すなわち「より良く課題を達成しようと自らの認知活動をコントロールしようとする力」については重要であることが示された.

本研究のルーブリック評価については,5段階の能力レベルについて,半年ごとに計4回の評価を行っている.現場でのパフォーマンスの成長を考慮すると,その評価方法は妥当と判断しているが,評価期間が長期になるため,わずかな個人の能力差が可視化されにくい状況になっていた.そこで現行の能力レベルと評価回数は変えずに,習熟度という形で評価の判断材料を設定した.習熟度I~IIIは前報との確認も含めてあえて設定を行ったが,過去の調査と乖離はなく,評価者の判断は一貫していたこともわかった.また,結果には直接反映されないが,実際のルーブリックでは対象者と評価者の「できる」と判断するレベルに乖離もみられていた.習熟度は定性的な評価であるが,ルーブリックの活用により双方で評価の是正ができ,本研究においても適切に能力評価ができていたと考える.

本研究では過去の調査2) と異なり,薬剤管理指導件数や病床数などにも正の相関がみられた.改めてその能力レベルに習熟度を追求したことで,研修する施設の状況が影響したものと思われる.施設の特徴により実践する機会や頻度,求める能力の水準も異なるため,ルーブリックを用いて広く共通の育成を行いながらも,個人の成長に合わせた研修の場を提供していく必要があると思われる.また弱い相関ではあるが,プレアボイド件数は習熟度の加点分のみに相関がみられた.質の評価は困難であり,施設や業務内容の関連も否定できないが,アウトカムを得るために,より確実に追求する姿勢が影響している可能性も考えられる.

ルーブリック評価を項目別にみると感染管理や病棟業務,臨床研究などの専門的な内容は,2年間で到達目標に達していないことも明らかになった.感染管理や病棟業務に関する項目については,求められる必要なレベルを設定しており,乖離を是正するための研修プログラムの見直しが必要であると思われる.臨床研究は必要な項目ではあるものの,業務に直接つながる内容ではないことから,評価者も含めて意識の低さが結果に表れている.2年間での醸成が困難であれば,ルーブリック評価表を改訂し,長期的な育成も必要であると思われる.

本研究では目に見えない非専門的能力の可視化を試み,パフォーマンスとの関係性を改めて調査した.メタ認知能力については一般的なモデルや概念が示す通りに相関がみられたが,社会人基礎力は下位尺度に相関があるものの,全体では相関がみられなかった.ジェネリックスキルの測定方法については課題も残るが,現場で働く薬剤師の非専門的な能力の可視化ができ,関連性を明らかにできたことは,本研究の新規性の一つと考えている.

社会人基礎力については,社会人経験を有する方が有意に高く,社会人としての就労により伸長する性質があると北島らは述べている6).本研究では特に対人業務を行う上で重要なチームワークについては,いずれも高い点数であり,現場での経験が反映されているものと思われる.一方,最も低い項目は「創造力」であり,ルーブリック評価の「臨床研究」と合わせて,新たな価値を見出す力の育成が課題である.リサーチマインドを育むためには,研究を独立して捉えるのではなく,現在の業務に関連付けた疑問や課題を発見していくことが必要である.業務を行いながら育成するためには,適切なメンターが個人の能力や特性に応じて支援していくことが重要であると考える.

メタ認知能力については,佐藤らの報告で医療系大学生によるメタ認知の差を検証しており,学科の特徴に差はあるものの,どの学科においても学年が進むにつれ高くなる傾向があることを示している8).今回の調査においては初年次医学生を対象とした野呂らの報告9) と比較すると低い結果であったが,薬剤師も同様に多くの経験を積み,それを他者と振り返ることでメタ認知能力の育成につながっていくと思われる.

重回帰分析の結果では,メタ認知的コントロールと薬剤管理指導件数に有意な相関が確認できたが,偏回帰係数からも強く関連している項目はメタ認知的コントロールであると言える.習熟度を付加価値として評価したことで,必要な能力が抽出されたと考えられるが,今回のモデルも十分とは言えず,能力の変化により違った結果も生じると思われる.一度の評価で完結するのではなく,今後も継続した評価が課題である.

本研究の限界としては,項目ごとの選択バイアスを避けるため,一律に習熟度を設定した.結果に差はないものの,必要性が乏しい項目にも習熟度が設定されている可能性は否定できない.また,本研究では非専門的能力の経時的な変化を調査できていない.過去の研究から社会人経験により成長すると言われているが,今回の研究ではもともとその薬剤師に身に付いていたものなのか,ルーブリック評価期間に医療現場で向上してきたものなのかは説明できないため,今後の課題と考えている.最後に,本研究では同一グループの多機関で調査しており,症例数は35名が限界である.症例数を増やすためには,さらに大規模な研究が必要である.また,理念や方針などの見えない外的要因が影響している可能性も否定できない.いくつかのバイアスを完全に除去することはできないが,本研究の結果に大きく影響を与えるものではないと考えている.

本研究により,ルーブリック評価の質を変えずにパフォーマンスの習熟度が可視化された.さらに非専門的な能力の実態やパフォーマンスとの関係についても新たな知見が得られた.臨床薬剤師のパフォーマンスには多くの因子が関連しており,実務の教育だけでなくメタ認知的コントロールなどの育成を促す,多角的な教育方策の検討が必要である.

今回得られた知見をもとに,臨床薬剤師のパフォーマンスの教育や非専門的能力の育成に活用し,さらに研究を進めていく.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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