Japanese Journal of Pharmaceutical Education
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Special Topics | Paradigm Shift Required for Pharmaceutical Education: How to Use the Revised Model Core Curriculum for Pharmacy Education
How to connect pharmaceutical education at universities to education provided in the medical field
—Considering pharmacy practical training as part of university education—
Tadashi Suzuki
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2024 Volume 8 Article ID: 2024-018

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抄録

令和4年度改訂薬学教育モデル・コア・カリキュラムの「F 臨床薬学」では,薬剤師が実践する薬物治療の個別最適化の学修目標が提示されている.さらに,その学修を進めるための3つのフェーズが提示された.フェーズ1では大学で実務実習にて円滑に患者・生活者を担当して学ぶための十分な準備教育を行うことが求められており,フェーズ3では実習終了後も実習体験を省察して臨床薬学の学修を深めることが求められている.フェーズ2の実務実習は「F 臨床薬学」の重要な学修の場であり,その充実はこれからの薬剤師育成に関わる重要な課題である.薬剤師育成教育では,急速に変化する社会のニーズに対応するために,課題を発見し解決する能力の向上を目指さなければならない.そのためにどのような学修を行うべきか,新しいコアカリの指針とともに論じる.

Abstract

“F. Clinical Pharmacy” of the Model Core Curriculum for Pharmacy Education 2022 version presents learning objectives for individual optimization of drug treatment practiced by pharmacists. Three phases were presented to advance the learning. In Phase 1, students are required to receive sufficient preparatory education to be able to smoothly take care of patients and consumers through practical training at university. In Phase 3, students are required to reflect on their training experience and deepen their learning in clinical pharmacy after the training ends. The practical training in Phase 2 is an important learning opportunity for “F. Clinical Pharmacy,” and its enrichment is an important matter related to the future development of pharmacists.

Pharmacist education must aim to improve the ability to discover and solve problems in order to respond to the rapidly changing needs of society. I will discuss what kind of learning should be done to achieve this, along with the new model core curriculum.

新しいモデル・コア・カリキュラムにおける「F 臨床薬学」

令和4年度改訂「薬学教育モデル・コア・カリキュラム」1) (新コアカリ)では,平成25年度改訂「薬学教育モデル・コアカリキュラム」2) (現行コアカリ)で「F 薬学臨床」という領域名であった領域は「F 臨床薬学」という領域名に変更され,現行コアカリが実務実習の到達目標に近い形になっていたのに対し,新コアカリでは,個別最適な薬物治療の実践的能力を主とした薬剤師が身に付けるべき総合的な能力を学修目標として記載しており,「C 基礎薬学」,「D 医療薬学」,「E 衛生薬学」という領域で学ぶ知識や技能を基礎として,「B 社会と薬学」で学ぶ社会規範や心構えを活かして社会で患者・生活者個々の医療,介護,福祉に関する課題を解決していく能力を修得していくことを目指す領域となった.

「F 臨床薬学」は,〈薬物治療の実践〉〈多職種連携における薬剤師の貢献〉〈医療マネジメント・医療安全の実践〉〈地域医療・公衆衛生への貢献〉〈臨床で求められる基本的な能力〉の5つの中項目から成っている.〈薬物治療の実践〉では,患者・生活者の薬物治療の個別最適化を実践することを,〈多職種連携における薬剤師の貢献〉では,多職種連携に参画してどのような心構えでどのような行動をとればよいかを,〈医療マネジメント・医療安全の実践〉では,医療職として病院や薬局でどのような貢献が必要かを,〈地域医療・公衆衛生への貢献〉では,薬局・病院だけでなく広く地域住民の衛生環境や健康維持・増進にどのように寄与すればよいかをそれぞれ記載している.〈臨床で求められる基本的な能力〉では,知識の活用だけでなく,医療人としてどのように考え,どのように行動すべきかの規範が総合的に示されており,すべての中項目の学修目標に関与している.

薬物治療の個別最適化

「F 臨床薬学」の主幹となるのが,〈薬物治療の実践〉に示された学修目標である.現行コアカリの「F 薬学臨床」に掲げられている〈処方箋に基づく調剤〉と〈薬物療法の実践〉の一部は,新コアカリでは「D 医療薬学」の学修目標の中に記載されており,「F 臨床薬学」では,「D 医療薬学」で学ぶ医薬品や疾病に関する基本的知識,薬剤の調製や服薬指導に必要な基本的知識や技能をベースに,臨床で患者・生活者を担当して個々の患者・生活者に最適な薬物治療について考察し実践することが目標となっている.例えば,一般的な糖尿病の治療知識は「D 医療薬学」で学ぶが,臨床では,個々の糖尿病患者の体調や体質また性格や希望等も様々なので,その条件に合わせた最適な薬物治療案いくつも検討して,最も良さそうだという案を提案し実践することが「F 臨床薬学」の目標となる.ただ,知識を学んだだけでいきなり患者・生活者を担当することは難しく,医療安全も確保できないので,〈薬物治療の実践〉に記載された学修目標の1)~5)は「D 医療薬学」の学修を受けて大学で典型的な症例などを題材にシミュレーション等でしっかり訓練を積んで医療現場での学修に臨むことを想定した学修目標となっている.学修目標の6)には,大学で学んだ基本的な調剤業務から服薬指導を薬局・病院で実践する目標が,学修目標の7)~11)でいよいよ薬物治療の個別最適化を医療現場で実践して能力を深めていく目標が掲げられている.

「F 臨床薬学」を学修する3つのフェーズ

新コアカリから「薬学実務実習」は「臨床における実務実習」と改名され,薬剤師の業務を修得する学修という位置づけから,臨床での医療職として適切な対応,実践を身に付ける学修という位置づけがより明確となった.現行コアカリでは,参加・体験型の実習の推進を進めてきたが,今後さらに,参加・体験するだけでなく「患者・生活者を担当する」実習を推進していくこととなる.実務実習は,薬学部の学修の中で,唯一医療現場で学修する貴重な機会であるので,貴重な実習期間中に学生が十分な学修効果をあげられるよう大学でしっかり事前の準備を行う必要がある.そのため,新コアカリに準拠した「臨床における実務実習に関するガイドライン」 3) (ガイドライン)では,「F 臨床薬学」を学修する3つのフェーズを提示している.

フェーズ1:大学で行う患者個別の薬物治療を中心とした学修

典型的な疾患(「D 医療薬学 D-2薬物治療につながる薬理・病態」1) を参照)の具体的な症例や事例を題材とした講義,演習等を行い,患者個別症例に適応し,最適化する訓練を行う.その際,B,C,D,E領域の学修を振り返り,症例と関連する今まで大学で学んできた知識とのつながりを再確認する.

フェーズ2:医療現場等で患者・生活者から学ぶ臨床での実務実習

大学で学んだ事を医療現場で患者・生活者を担当する経験,個別最適化の実践等の中から学修目標の意味をさらに深く理解し,複数の症例,事例を関連付けながら体系化を進める.さらに,医療人としての適切な行動・態度を身に付ける.

フェーズ3:実習終了後各大学が行う卒業に向けた総合的・体系的な臨床薬学教育

実務実習で学生が体験した様々な症例や事例を省察・振り返り,協議等を通して深化・一般化を進めることで臨床薬学の総合的な理解を深め,卒業時の到達点を目指す.

この3つのフェーズの中で,新しい臨床上の課題の発見などがあれば,臨床薬学として「G 薬学研究」へとむすびつけていくことも想定される.3つのフェーズで最も重要なことは,大学で実習前の準備を十分に行って,実習で円滑に患者・生活者との対応ができるレベルまで学修を進めておくことであり,実習後も実習中様々な環境で体験した内容を無駄にせず,学生自ら振り返り,グループで再検討し,それらを教員や指導薬剤師がサポートすることで,薬物治療の実践的能力を深めていくことである.

大学での教育を医療現場で行う教育にどのようにつなげるか

臨床薬学の学修では,C,D,E領域の知識の活用とB領域の知識や行動・態度の修得が統合されてはじめて学修目標に到達できる.現在,多くの薬学部で実施されている授業は,薬剤学,薬理学などの従来の学問領域毎に専門の教員が講義することが主であるが,臨床薬学の学修目標では,分割した知識の教授では理解が一定以上に深まらないと考えられる.また,学生からみると基礎として教えられている知識が臨床でどのように役に立つのか理解しにくく,知識修得の意欲につながりにくいと考えられる.いくつかの薬学部で試みられているような科目横断的な新しい授業もさらに開拓して実施していく必要があると思う.例えば,「薬」という観点で〈薬を創る・薬を探す〉〈薬の効果を解明する〉〈薬を効果的に安全に使う〉などを授業目標として掲げた科目横断的な授業であれば,基礎薬学がどのように臨床につながっていくのかを理解しやすいのではないかと考える.

また,オンラインでの講義なども普通になった現在,講義形式で学生に教科書の内容を教えるような方法は,少なくとも臨床薬学の学修では効果的でない.教員や指導薬剤師が必要な知識を与えるという学修形式ではなく,自主的に考え,経験する中から,自分で何ができたか何ができなかったかを考察して課題は何かを知るという過程が重要であり,指導者はその過程を進めるサポート役,コーチ役となる必要がある.特に実務実習では,継続的に患者・生活者を担当する経験から学修目標の深い意味に気づき,向上するにはどうすれば良いか省察するところから学んだ内容の深化,一般化が進められる.そのような学修を進めていくための新しい方法もどんどん採り入れていくことが望まれる.また,薬剤師に求められるニーズも高度化,多様化する中,ICTを採り入れた学修方法など社会の変化に呼応した学修方法の開拓も急務である.

薬学教育全体に言える事であるが,学修で重要なのは,知識を覚え,それを使えるようになるだけでなく,医療現場等での正解が分からない(正解は無い)課題に対して,解決策の案をいくつも提示して,その中から最もその課題に適していると考える策をその合理的な理由とともに説明・提案して,実際にその策を実践してみる,その実践の評価からまた新しい解決策を検討していくという体験を数多く行う中から学ぶことである.課題発見・解決能力の向上は,激しく変化する社会情勢に合わせた的確な対応ができるためには必須であり,10年後,20年後に活躍する薬剤師に最も求められることである.課題発見・解決能力とは,「G 薬学研究」で特に醸成される能力である.研究では,新しい課題を探し,その課題の解決に仮説を立て,その仮説を証明するためにはどのような方法をとれば良いか考察し,実際にその方法を実践してその仮説を実証していく.実証できなければ新しい仮説を立てて検証を繰り返す.このような道筋は課題発見・解決の科学的アプローチといえる.薬学部では卒業研究の重要性が叫ばれながらともすれば国家試験対策に終始するあまり十分な研究体験ができない環境も見受けられるが,10年後,20年後に活躍する薬剤師を育成するためには,「G 薬学研究」の学修目標の到達は必須である.研究能力を有したAcademic Pharmacistこそ,これからの薬剤師像であると思う.薬学領域では長い歴史に裏打ちされた重厚な基礎薬学の学問領域があり,そこには研究という文化も根付いている.その重厚な基礎薬学の研究を推進することももちろん重要であるが,今後は,医療現場や地域社会で課題を発見し解決に導くような医療や公衆衛生等に広く貢献する臨床薬学領域の新しい研究も是非推進して欲しい.単に症例の検討や調査に終わらない本格的な臨床研究が薬学領域で確立され発展していくことに期待する.

また,社会で薬剤師の活動が評価されるためには,多職種の中で確実に評価される行動をとることができることが要求される.確かに現行コアカリでもコミュニケーション能力の修得が掲げられているが,それだけでは十分とは言えない.コミュニケーション能力を駆使して人間関係を確実にしかも短時間で形成する能力の向上がなければ多職種連携では評価されない.チームの中で自分がどのように行動すれば役に立つのかを瞬時に理解し,適切な行動をとって円滑で効果的なチーム活動ができる,さらにはそのようなチーム活動をリードできるような人材こそこれからの薬剤師に望まれる人材である,このような能力を向上させる基礎も薬学部教育の中で採り入れて行く必要がある.そのためには,例えば,実務実習だけでなく,低学年から地域のコミュニティに自主的に参加してそのコミュニティの中で貢献する学修なども積極的に実施していく必要があると考えている.

今後の課題

新コアカリの「F 臨床薬学」領域の学修を確立していくためには「臨床における実務実習」の充実が何より重要である.新コアカリに準拠した実務実習のためのガイドラインでは,実習期間や実習期,実習順などは現行の制度・枠組みを踏襲しながらも,実習の標準的な内容,レベルを担保するための例示3) が出されている.新コアカリでは,学修目標は最終的なアウトカム,到達した姿(パフォーマンス)で記載されているので,各大学でその到達度や到達するための方略は決めて教育を行うわけであるが,複数の大学が同一施設で実務実習を行うこと,実習施設もそれぞれ多様な環境で同一でないことを鑑みて,全ての実習生が一定以上のレベルの実習を受けられるよう例示を基に標準的な実習内容をまず施設で実施していただくことをお願いすることになる.もちろん大学も実習施設もその特長を活かした学修を実施することは望むところであるが,実務実習は大学の授業であるので,公平かつ一定の水準を担保することが求められる.

実習内容は,薬剤師業務の進展とともに変わってはいくが,現行コアカリで実施している実務実習の内容がすぐに大きく変更されるわけではない.実習で大きく変わるのが「評価」である.現行コアカリの「F 薬学臨床」は〈処方箋に基づく調剤〉など,薬剤師業務に則した形で目標が提示されているので,実習の評価も薬局・病院の業務の観点から評価しやすい形であるが,新コアカリの「F 臨床薬学」の学修目標は,薬剤師が修得すべき能力の観点が主となっているので,実習生が実際に行う考察や行動からその能力の到達度を〈評価の指針〉の観点から評価することになる.「評価」については,ガイドラインで,すべての小項目について概略評価(ルーブリック評価)の例示を掲げているが,今後,大学での学びであるフェーズ1,フェーズ3との関連も含め,どのように実務実習で評価を進めて行けばよいかを大学と実務実習指導薬剤師が一緒に検討していく必要があると考えている.

ガイドラインでは,今後の実務実習について大きな宿題も出されている.それは,「臨床に係る実践的な能力の更なる向上を図るため追加で行う学修」として臨地で行うさらなる追加の実習について検討するよう要望されている.現在の薬局11週,病院11週という実務実習で十分に薬剤師として必要な能力を修得することが可能なのか,薬学部全体であらためて考えてみる必要がある.医師,歯科医師,看護師など他の医療職の臨床現場での実習期間と比較すると,6年制薬学部の医療現場での実習が22週で十分といえるだろうか.もちろん,現行の実務実習にも課題が山積しており,その充実が急務であり最重要な課題であることは間違いないが,薬剤師という職種が医療職の中で評価されるためにも,医療現場での更なる学修を今後実施していくことは社会のニーズへの対応からも必須であると思われる.ただ,現行の実務実習をそのまま延長しても,拡大し多様化する薬剤師へのニーズに対応できるようには思えない.現在の実務実習で学修が不十分な内容や例えば行政や介護施設での体験,慢性期の在宅患者の継続的なフォロー,医療職の少ない地域での総合的な医療の体験など,追加の実習については大学,薬剤師会,病院薬剤師会など関係者で広く新しい検討が必要であると考えている,

6年制薬学部を卒業した後の生涯研鑽も大きな課題である.6年間の薬学部で学ぶことは「薬剤師に求められる基本的な資質・能力」1) の入り口でしかない.基本的な資質・能力に記載されている薬剤師としてのコンピテンシーに向けて生涯をかけて研鑽していくことは,変化の激しい社会の中では避けて通れない.現在,専門薬剤師,認定薬剤師など個々の領域で多くの研修が作られているが,医師と同様,医療現場や地域社会で薬剤師として継続的に貢献していくためには,しっかりした薬学部卒業後の研修の道筋も示し,充実させていく必要がある.今は薬剤師という資格に更新制等は課せられていないが,薬剤師という資格を社会に認めてもらうためにも生涯研鑽の明確化は必要だと考えている.

新コアカリの学修を薬剤師教育にどのように活かすのかについて論じてきたが,実務実習の充実一つとっても一定の水準を保った公平な実習の実施,それを支える指導薬剤師の資質向上など課題は多い.実務実習は,「F 臨床薬学」の重要な学修の場であり,実務実習の充実が薬学教育の充実につながることは明確である.さらに,医療現場で実施される本格的な薬剤師教育である実務実習は,そのまま卒後の薬剤師教育,生涯研鑽へとつながっている.実務実習の課題は,大学と実習施設だけでは解決できない.学会,協議会,薬剤師会,行政,企業などオール薬学で対応すべき課題である.なぜなら,薬学部から優秀な薬剤師が輩出されなければ薬剤師,薬学部,薬業界全体が衰退してしまうからである.薬学教育学会などの学会はオール薬学で意見を交換できる重要な場である.そのような場を十分に活かしていく必要がある.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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