2024 Volume 8 Article ID: 2024-038
本稿は第8回日本薬学教育学会大会シンポジウム「薬学教育研究を論文へ昇華するためには何が必要なのか?」の冒頭のイントロダクションの内容をまとめたものである.日本薬学教育学会が2016年に設立され,各大学において様々な教育実践や教育研究が推し進められている.しかし,2023年度までのポスター発表総数は814件である一方で,総説を除いた学会誌への掲載論文数は110件に留まっている.そこで,本シンポジウムでは,教育研究成果を論文に発展させることを目的とし,1)薬学教育研究を始めて論文執筆に至るまでの経緯,2)論文化が可能な研究をデザインするコツ,3)研究の遂行に必要な環境の3点をテーマとして議論した.今後,教育研究を実践する研究者が育ち,一人でも多く論文投稿を進められることを願っている.
This article summarizes the contents of the symposium at the 8th Annual Meeting of the Japan Society for Pharmaceutical Education, “What is Needed to Elevate Pharmaceutical Education Research into Academic Papers?” The Japan Society for Pharmaceutical Education was established in 2016, promoting educational practice and research. At academic conferences, many posters are presented, and discussions on research topics are extensive. However, the number of published papers remains lower than the number of poster presentations. Therefore, this symposium aimed to develop educational research results into publications. The themes discussed included: 1) the journey from initiating pharmaceutical education research to writing a paper, 2) tips for designing research that can be published, and 3) the necessary environment for conducting research. It is hoped that researchers practicing educational research will grow, leading to more paper submissions.
本稿は第8回日本薬学教育学会シンポジウム「薬学教育研究を論文へ昇華するためには何が必要なのか?」の冒頭のイントロダクションの内容をまとめたものである.
薬学教育を実践,研究する団体として日本薬学教育学会が2016年に設立され,毎年,学術大会の開催と学会誌「薬学教育」の発行により薬学教育学の確立を目指した活動が行われている.学術大会は教育実践や研究を議論する場であり,学会誌は専門家の査読を経た学術論文として発信する場として存在している.学術大会では,学会誌編集委員が中心となって研究デザインや研究倫理などの研究を始めるためのポイントを議論するシンポジウムやワークショップが開催されている.さらに,2021年の第6回大会では論文執筆を目指すワークショップが設けられ,教育のエビデンスとして論文の発信を推進する取り組みもある.以上のように,学会員は,教育研究の手法やデザインを学習する機会があることから,毎年の学術大会では図1に示すようにポスター発表が行われ,2023年度までの発表総数は814件である(図1).その一方で,総説を除いた学会誌への掲載論文数は110件とポスター発表数の14%に留まっている(図2).その要因は様々であるが,薬学に限らず研究者の研究時間が不足していることが挙げられており1),その影響からか薬学においても基礎研究含めた論文生産性は低下していることが報告されている2).
各大会のポスター発表件数
年次別論文報告数
海外の医学教育領域では,総合内科学会で発表された医学教育研究144件のうちの64件(44%)が論文として発表されているとの報告3) がある一方で,日本の医学教育論文の海外雑誌への投稿数は少ないとの指摘がある4).このため,医学教育学会でも,学会主導の支援体制として研究推進委員会が「医学教育研究技法ワークショップ」や「医学教育研究メンタリングプログラム」を提供している5).医学教育研究技法ワークショップでは,参加者が作成した研究計画をたたき台として,① 研究目的の明確化,② 先行研究に基づくリサーチクエスチョンや仮説の設定,③ 適切な研究方法の選択,④ 倫理的配慮などについての議論が行われ,研究計画のブラッシュアップに繋げている.必要に応じて,講師陣からのミニレクチャーも行われる.医学教育研究メンタリングプログラムでは,医学教育研究に関心のある学会会員が,医学教育研究に精通した多施設の学会員と一対一で研究テーマや研究方法などについて個人的に相談する機会を提供している.研究初心者となるメンティーと経験豊富なメンターとのマッチングのきっかけ作りとなっている.
薬学教育学会は,前者のような取り組みを行っている一方で,後者のような取り組みはない.そのため,一対一のメンタリングではないものの,薬学教育研究を実践するシンポジストの経験を共有することは,研究実践を始める方にとって有益な場となると考え本シンポジウムを企画した.
本シンポジウムは,研究成果を論文にするための方法を模索するための企画であり1)薬学教育研究を始めて論文執筆に至るまでの経緯,2)論文化が可能な研究をデザインするコツ,3)研究の遂行に必要な環境の3点をテーマとした.それぞれのシンポジストのお話を通して,参考になるところは取り入れ,不要なところは捨て,今後の教育研究を発展させるヒントとなれば幸いである.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.