薬学教育
Online ISSN : 2433-4774
Print ISSN : 2432-4124
ISSN-L : 2433-4774
誌上シンポジウム:各領域のスペシャリストによる社会ニーズからの薬学教育への提言(2)
基礎薬学研究が薬学教育に求めること
―有機合成を基軸とした核酸化学研究を例として―
張 功幸
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2025 年 9 巻 論文ID: e09009

詳細
抄録

薬剤師養成のために臨床に係る実践的な能力を培うことを主たる目的として,6年制薬学教育が2006年に開始され,臨床薬学教育の充実が図られてきた.一方で,多様化している創薬モダリティを理解するために,基礎薬学教育の重要性も増している.さらに,薬剤師の活躍できる場所は,病院,薬局に加えて,製薬会社,行政など多岐にわたる.著者は6年制薬学部において,これまで基礎薬学教育ならびに核酸化学を専門とした基礎薬学研究を行ってきた.本稿では,私の研究室で得たオリゴ核酸創薬の発展に資する最近の成果を例に挙げて,この分野で中心的役割を担っていくために必要な能力について言及したい.さらに,その能力を身に付けるための教育についての私見を述べる.その能力は基礎薬学領域に限らず,臨床の現場をはじめとする多様な分野においても必要であろう.

Abstract

A six-year pharmaceutical training program, the major purpose of which was to cultivate practical clinical abilities, admitted its inaugural class in 2006. Thereafter, education programs in clinical pharmacies have become well-established. As the array of drug modalities is being expanded, the importance of basic pharmaceutical science is also increasing. Niches for pharmacists’ skills are now wide-ranging, including hospitals, pharmacies, pharmaceutical companies, and administrative offices. To date, I have taught a basic pharmaceutical science education and conducted basic pharmaceutical research on nucleic acid chemistry in a six-year pharmaceutical training program. In this review, using recent research results contributable to oligonucleotide therapeutics as examples, I describe the skills necessary to play a central role in basic pharmaceutical research and express my opinion on the preferred education for skill development. These skills are essential not only for basic pharmaceutical sciences but also for various fields, including clinical settings.

 はじめに

薬学部の6年制教育は,薬剤師養成のために臨床に係る実践的な能力を培うことを主たる目的としている.それゆえ,臨床薬学教育の重要性は言うまでもない.しかし,日本薬剤師会が制定した薬剤師綱領には,「薬剤師は国から付託された資格に基づき,医薬品の製造,調剤,供給において,その固有の任務を遂行することにより,医療水準の向上に資することを本領とする.」,「薬剤師は広く薬事衛生をつかさどる専門職としてその職能を発揮し,国民の健康増進に寄与する社会的責務を担う.」とあり,薬剤師の職能は極めて広範であることが分かる.すなわち,薬学部は4年制から6年制に移行して臨床薬学教育の比重が増したものの,決して基礎薬学教育の重要性が低下した訳ではない.むしろ,創薬モダリティが多様化している昨今,薬剤師は化合物である医薬品を扱う専門家として,それらを分子レベルで理解することが求められており,今まで以上に基礎薬学教育の重要性が増している.さらに,今後も新たな医療の高度化や多様化により,薬剤師に求められる能力はさらに高くなっていくものと推測される.それゆえ,今後の薬学教育に求められることは,6年間といった限られた時間の中で,多岐にわたるそれぞれの職種において中心的な役割を担うことができる人材をどのように輩出していくかということが大切になってくると考えられる.

著者はこれまで国立,公立,私立大学の3大学の薬学部での教員経験があり,現在徳島文理大学薬学部において,基礎薬学教育ならびに核酸化学を専門とした基礎薬学研究を行っている.本稿では,基礎薬学研究者の立場として,私の研究室で得たオリゴ核酸創薬の発展に資する最近の成果を例に挙げて,この分野で中心的役割を担っていくために必要な力について言及したい.さらに,そのような力を身に付けるためにはどのような教育が好ましいかについても私見を述べたい.

 オリゴ核酸創薬に資する最近の研究成果

1. アンチセンス核酸創薬への活用が期待できる架橋型核酸Me-TaNAの開発

新たな創薬モダリティとして核酸医薬品は注目を集めており,中でもアンチセンス核酸は化学修飾核酸を利用しやすいことから,創薬研究対象としてこれまで数多くの修飾核酸が報告されてきた1).とくに,核酸の糖部立体配座をN型(C3'-endo)に固定した2',4'-架橋型核酸は,オリゴ核酸に導入することで,RNAと形成した二重鎖核酸を大きく安定化する.そのため,2',4'-架橋型核酸はmRNAを標的とするアンチセンス核酸の材料として期待され,実際に,LNA,ENA,S-cEtが臨床利用されてきた(図1),それ以外にも多くの2',4'-架橋型核酸が開発され,私も幾つかの開発に携わってきた2,3).しかし,当時報告された2',4'-架橋型核酸の構造を見ると4'位炭素原子に結合した架橋部の原子は全て炭素原子に限られ,ヘテロ原子の例は皆無であった.その理由としては,酸素原子を例にとると,連続アセタール構造を構築する難しさや最終生成物の化学安定性の懸念から合成ターゲットとして全く考えられていなかったのではないかと推測される.しかし,酸素原子を導入した2',4'-架橋型核酸を開発できれば,物理的な配座固定に加えて,水素結合による水分子のネットワークの構築が期待できるため,それを導入したオリゴ核酸はRNAとより安定な二重鎖形成が可能になることが期待される(図2).そこで,著者らは連続アセタール構造を持つ架橋型核酸の開発に着手した4).結果,最初の連続アセタール構造を持つ架橋型核酸としてEoNAを設計し,Base部がチミン塩基を有するEoNA(EoNA-T)の開発に成功した(図3a)5).さらに期待通りに,EoNA-Tは同じ架橋環サイズの他の2',4'-架橋型核酸と比べて,オリゴ核酸導入時により安定性な二重鎖核酸を形成できること並びに核酸分解酵素に対する抵抗性が向上することを見出した.本成果は,アメリカ化学会の雑誌J. Org. Chem. のEditorialにおいて,核酸化学研究のexciting papersの1つとして紹介された6).その後,連続アセタール構造を持つ2',4'-架橋型核酸として複数のアナログを報告した710)

図1

アンチセンス核酸材料として臨床利用されている2',4'-架橋型核酸

図2

従来の2',4'-架橋型核酸の構造をヒントに設計した連続アセタール構造を有する2',4'-架橋型核酸

図3

連続アセタール構造を有する2',4'-架橋型核酸.(a)EoNA.(b)Me-TaNA.

さらに,よりユニークな分子設計へと展開し,最近3連続アセタール構造を持つ架橋型核酸Me-TaNAを開発した(図3b)11,12).Me-TaNAのアンチセンス核酸材料としての有用性を調べるため,融解温度(Tm)測定によりRNAとの二重鎖形成能評価を行った結果,Me-TaNA修飾オリゴ核酸は実用されているLNAやENAを導入したオリゴ核酸と比べて,標的RNAとのTm値がより高くなることが示された(図411).例えば,4か所修飾の場合,Me-TaNAを含むオリゴ核酸のTm値は79°Cであり,天然(未修飾体)のTm値(52°C)より大きく安定化した.その安定化は,1修飾あたり6.8°CのTm値の上昇であった.それに対して,LNA,ENAではそれぞれ1修飾あたり6.0°C,6.3°CとMe-TaNAより若干低いTm上昇であった.核酸分解酵素に対する安定性に関しても,Me-TaNA ≈ ENA > LNAとなり,Me-TaNAは核酸分解酵素に対する十分な安定性を示すことが明らかとなった.これらのことから,Me-TaNAはアンチセンス核酸材料として有望であることが示された.なお,Me-TaNAに関しては,チミン塩基以外の他の天然核酸塩基を持つアナログについての合成法もすでに確立していることから12),今後Me-TaNAのアンチセンス核酸材料としての創薬展開が期待できる.

図4

Me-TaNA修飾オリゴ核酸とRNAからなる二重鎖核酸のTm測定による熱安定性評価とLNAおよびENA修飾オリゴ核酸との比較

2. オリゴ核酸合成用ユニバーサル固相担体フェナントレン型リンカーの開発

オリゴ核酸は上記で述べた核酸医薬品をはじめ遺伝子診断や生命科学研究など多方面で利用されている.その合成は通常,核酸自動合成機を用いた固相合成により行われる.その合成を図5に示す.まず,合成したいオリゴ核酸の3'末端のヌクレオシドを担持した固相担体を用いて,3'→5'方向に1塩基ずつ伸長サイクル(脱DMTr化→カップリング→キャップ化→酸化)を繰り返すことで目的の配列からなるオリゴ核酸を構築していく.この際,3'末端が非天然型ヌクレオシドや非ヌクレオシド構造の場合,そのアナログ毎に固相担体を準備する必要がある.それゆえ,その解決策として,ユニバーサルリンカー(UL)を担持した固相担体が開発された13).ULを用いたオリゴ核酸合成により,ULとカップリングする最初のユニットがオリゴ核酸の3'末端となる(図6).現在では,図7aに示すマレイミド構造を有する7-オキサビシクロ[2.2.1]へプタ-1,2-ジオール型UL(マレイミド型UL)が頻用されている(図7a)14).しかし,このULはオリゴ核酸合成後の塩基処理によりマイレイミド環の開裂や,不十分な塩基処理により生じるオリゴ核酸-UL付加体がオリゴ核酸の精製を困難にする場合がある.それゆえ,著者らは,オリゴ核酸合成に使用する様々な条件に安定かつ高脂溶性ユニットからなるULを開発できれば,従来のマレイミド型ULのこれら欠点を克服できると考えた.その考えのもと,新たなULの開発研究を行い15),最近,フェナントレン構造を有する7-オキサビシクロ[2.2.1]へプタ-1,2-ジオール型UL(フェナントレン型UL)を開発した(図7b)16,17).固相担体としてCPG(controlled pore glass)を用い,フェナントレン型ULを担持したもの(フェナントレン型UL CPG)を使ってオリゴ核酸を合成し,その後塩基処理によるフェナントレン型ULからのオリゴ核酸の放出試みたところ,従来のマレイミド型ULの推奨条件[55°C下8時間の28%アンモニア水処理,65°C下1時間の28%アンモニア水/40%メチルアミン水溶液(1:1)処理等]を利用でき,効率的に目的のオリゴ核酸を得ることができた.さらに,フェナントレン型ULはマレイミド型ULと異なり,塩基処理による分解(開環)が生じないため,オリゴ核酸-UL付加体のピークが複雑化せず,その高い脂溶性によりHPLC上での保持時間がオリゴ核酸と大きく異なり分離が容易になった.また,フェナントレン部のUV吸収により,オリゴ核酸放出後のUL由来物質の検出も可能であるなど,高純度のオリゴ核酸を得るために好都合な特性を有している.現在,フェナントレン型UL はPTリンカー CPGとして上市されており,今後マレイミド型ULに代わるオリゴ核酸合成用担体として主流になる可能性を秘めている.

図5

オリゴ核酸の化学合成法

図6

ULを用いて合成したオリゴ核酸と塩基処理によるオリゴ核酸-UL付加体からオリゴ核酸の放出

図7

CPGに担持したUL.(a)現在利用されているマレイミド型UL.(b)フェナントレン型UL.

3. オリゴ核酸合成におけるUL担体とヌクレオシドO-アルキルホスホロアミダイトの併用

今日では,ULはオリゴ核酸の3'末端の種類にかかわらず広く利用されている.しかし,ULから目的のオリゴ核酸が放出されるには,加温下での塩基処理などの強い塩基条件を要する.それゆえ,塩基に弱い修飾核酸やRNAを含むオリゴ核酸の合成に適用することは難しい.ULからオリゴ核酸の放出は図6に示すとおり,まずリン酸部のシアノエチル基が除去された後,生成したリン酸ジエステルの環状リン酸化により起こる.この反応機構から,シアノエチル基が除かれる前のリン酸トリエステルに対して環状リン酸化が起これば,温和な条件でオリゴ核酸を放出できることが推測される.そこで,ULとカップリングする1つ目のヌクレオシドホスホロアミダイトとして,シアノエチル基の代わりに脱保護されにくいアルキル基に置き換えたヌクレオシドO-アルキルホスホロアミダイトを用いることを考えた.マレイミド型ULをはじめとする市販されているULを用いて検討した結果,イソプロピル基やネオペンチル基をもつホスホロアミダイト体を用いることで,オリゴ核酸合成後の塩基処理に用いられる代表的な温和な条件[室温下2時間の28%アンモニア水処理,室温下5分の28%アンモニア水/40%メチルアミン水溶液(1:1)処理,室温下4時間の50 mM炭酸カリウム/メタノール溶液処理]18) 下,オリゴ核酸-UL付加体から9割以上のオリゴ核酸が放出されることを確認できた19).さらに本手法は,私たちが開発したフェナントレン型ULにも適用可能であった20)

本手法により,これまでULを使ったオリゴ核酸合成に使用することが難しかった修飾核酸も利用できるようになった.そのため,通常ULが使用されるオリゴ核酸のハイスループット合成でより多様なオリゴ核酸の合成が可能になる等,その有用性は高いと考えられる.

 基礎薬学研究が求める薬学教育

基礎薬学研究で将来中心的な役割を担うことができる人材を輩出していくための薬学教育として,想像力や発想力,思考力といった能力を習得できる教育をより一層充実する必要があると考えている.実際,上記で幾つかの研究成果を紹介したが,その開発や発見はいずれも小さな気付きや疑問がきっかけであり,それらを生み出すためにはこれら能力が必要不可欠である.具体的には,4'-炭素原子にヘテロ原子が結合した2',4'-架橋型核酸の例がないことに気付き,開発に至ったのが3連続アセタール構造を持つMe-TaNAである.フェナントレン型ULの開発は,マレイミド型UL特有の問題があるにもかかわらず,マレイミド型ULのみがほぼ利用されている現状に疑問を持ち,その問題の解決を図ったことに起因する.また,オリゴ核酸合成に用いられるビルディングブロック(シアノエチル基を持つヌクレオシドホスホロアミダイト)はオリゴ核酸を伸長するためのカップリング材料として開発されたものであり,ULとのカップリングに適した材料として開発されたものではない.この気付きを基に見出したのが,ヌクレオシドO-アルキルホスホロアミダイトの利用である.これらを行った理由は,薬学部で学ぶ有機化学の知識があれば,分子レベルで十分理解できる.

一方で,様々な情報があふれている現在,学生は必要な情報を簡単に得ることができるため,以前よりも想像力や発想力,思考力を使う機会が少なく,考えたり,想像したりすることが苦手な学生が増えているように感じている.それゆえ,大学教育で意識的にこれら能力を習得する機会を教員が想定している以上に増やす必要があるかもしれない.これら能力をトレーニングするには,一つのことを時間をかけて深く追求することが効果的であると考えられるため,薬学教育では卒業研究のような機会を利用するのがベターかもしれない.その際,大学では教育と研究のように分けて考える傾向があるが,大学での研究は学生がこれら能力を習得する教育の場であることを再認識し,教員が学生と一緒になってより積極的に取り組んでいくことが重要であると考えている.

 おわりに

薬学教育は基礎薬学から臨床薬学まで広範な領域から成り立つ.本稿では,著者の専門とする基礎薬学領域において,将来中心的な役割を担うことができる人材を輩出していくために必要な薬学教育について個人的な考えを述べた.その教育によって身に付く能力は基礎薬学領域に限らず,臨床の現場をはじめとする多様な分野においても必要とされるであろう.今後到来するであろう予測困難な時代に対応するには,しっかりとした基礎力とここで述べた想像力や発想力,思考力などの能力を欠くことはできない.自律的な学修者を育成するためにも,学生がこれらを身に付けることができる教育がより一層充実されることを期待したい.

 謝辞

最後に本稿で紹介したMe-TaNA,フェナントレン型UL,UL担体とヌクレオシドO-アルキルホスホロアミダイトの併用に関する研究成果は,徳島文理大学薬学部放射薬品学教室のスタッフおよび配属学生の努力により得られたものであり,ここに感謝いたします.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
© 2025 日本薬学教育学会
feedback
Top