薬学教育
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総説
認定薬剤師として取り組む救急医療に携わる薬剤師育成の実践
瓦 比呂子
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2025 年 9 巻 論文ID: e09030

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抄録

現在薬剤師は多職種が交わるチーム医療の中で高い専門性が求められており,ジェネラリストであると同時にスペシャリストとしての分野をもつ薬剤師が増えてきている.このような時流の中,様々な団体による専門・認定薬剤師制度が設けられている.「救急医療」もそれら専門・認定制度が設けられている分野の一つである.しかし,その認定者数は感染分野やがん領域に比べるとまだまだ少ないと言える.地域性や施設間の違いが多くみられる「救急医療」に携わる薬剤師業務は,各施設の薬剤師がそれまでに積み重ねてきた知識と経験を基に業務を担っている現状がある.令和7年2月1日に日本病院薬剤師会と日本臨床救急医学会による「救急外来における薬剤師業務の進め方」が発表され,今後の薬剤師業務の推進が期待されている.本稿では「救急医療」に関わる薬剤師業務とその教育体制について,京都岡本記念病院と近畿救急薬剤師検討会の取り組みについて報告する.

Abstract

At present, pharmacists are required to have a high level of expertise in multidisciplinary team care, and the number of pharmacists who are generalists and specialists in particular fields is increasing. In this situation, various organizations have established certified pharmacy specialist and certified pharmacist systems. “Emergency medical care” is a field in which certified pharmacy specialist and certified pharmacist systems have been established. However, the number of certified pharmacists in this field remains lower than that in the field of infectious diseases and oncology. In “emergency medical care,” which varies greatly depending on the region and facility, pharmacists currently provide services based on their knowledge and experience accumulated at each facility. On February 1, 2025, the Japanese Society of Hospital Pharmacists and the Japanese Society for Emergency Medicine published the “Guidelines on Emergency Outpatient Pharmacist Services,” which is expected to promote pharmacist services in the future. This paper reports on the efforts of Kyoto Okamoto Memorial Hospital and the Kinki Emergency Pharmacist Study Group regarding pharmacist services related to “emergency medicine” and the educational system for such services.

 はじめに

薬学教育モデル・コア・カリキュラム令和4年度改訂版には医学・歯学・薬学教育の3領域で統一したキャッチフレーズとして「未来の社会や地域を見据え,多様な場や人をつなぎ活躍できる医療人の養成」が掲げられている1).また,「医療者としての根幹となる資質・能力を培い,多職種で複合的な協力を行い,多様かつ発展する社会の変化の中で活躍することが求められる.」とも記載されている1).つまり,薬剤師は薬学という専門知識を備えつつ,医療に関わるあらゆる職種と交わり,より広い視野を持ち活躍していくことが,これまで以上に求められていると言える.

現在,薬剤師が担う役割は調剤室や病院の一般病棟にとどまらず,在宅で行われる訪問薬剤指導,外来化学療法室や薬剤師外来などの外来部門,集中治療室や救命救急センター,手術室といった特殊部門に至るまで,多岐にわたっている.

多職種が交わるチーム医療の中で高い専門性を発揮するために,ジェネラリストであると同時にスペシャリストとしての分野をもつ薬剤師も増えてきており,現在様々な団体による専門・認定薬剤師制度が設けられている.代表的な制度は,日本医療薬学会による「医療薬学専門薬剤師制度」「がん専門薬剤師制度」「薬物療法専門薬剤師制度」「地域薬学ケア専門薬剤師制度」や日本病院薬剤師会による「専門薬剤師・認定薬剤師制度」などが挙げられる2,3)

本稿では,現在専門・認定制度がある分野の一つである「救急医療」に関わる薬剤師業務とその教育体制について,京都岡本記念病院と近畿救急薬剤師検討会の取り組みについて報告する.

 救急医療における薬剤師業務

救急医療における薬剤師に関わる代表的な専門・認定制度は,日本臨床救急医学会が2011年より認定している「救急専門・認定薬剤師」や同じく2011年より日本中毒学会が認定している「認定クニリカル・トキシコロジスト」が挙げられる.

薬剤師が救急医療に関わるようになり少なくとも10年以上が経過し,日本臨床救急医学会が認定している救急認定薬剤師数は令和7年3月1日現在333名で,専門薬剤師数は23名である4).日本病院薬剤師会が認定している感染制御認定薬剤数が令和6年10月1日時点で1,084名,感染制御専門薬剤師数が令和6年4月1日時点で345名であることと比べるとまだまだ少ないと言える2)

京都岡本記念病院の薬剤部では2003年以降,徐々に救急分野での薬剤師業務を拡充してきた.最初に介入を開始したのは薬物中毒対応である.薬物中毒対応では,原因物質が体内に入ってからの経過時間と原因物質の薬物動態を考えて治療にあたる必要がある5).薬剤師は原因物質についてあらゆる手段を用いて情報収集を行う.例えば,医薬品であれば添付文書やインタビューフォームはもちろん,論文や書籍,日本中毒情報センターへ問い合わせなどの手段を活用し,中毒に関わる具体的な症状や今後の悪化の可能性の有無,解毒薬の使用の適否,追加治療の必要性の検討など,治療をサポートする情報を医師や看護師へ提供している.

現在,薬物中毒対応以外に気管内挿管が必要な症例,心肺停止症例,高エネルギー外傷症例にも介入を拡大し,救急搬入例だけではなく,院内発生の急変症例についても同様に対応を行っている.

薬剤師が担っている役割は,現場にない薬剤の運搬と投与される薬剤の管理,時間経過を含めた経過記録のサポートである.

気管内挿管に用いられる筋弛緩薬や麻薬は,多くの施設で病院内の限られた場所にしか配置されていない.実際に,京都岡本記念病院においても両薬剤が揃って配置されている部門は手術室のみである.そのため,麻酔科医師の提案により気管内挿管を行う時には薬剤師にコールがかかり,想定される薬を持って駆けつける業務が開始となった.ただ薬を運搬するだけではなく,対応時の時間経過を含めた記録のサポートを行うことで,薬剤師として薬の投与間隔の管理や指示された薬剤の投薬漏れの防止も行っている(図1).

図1

初療室及びカテーテル室での薬剤師による救急対応の様子

また,救急現場で使用される薬剤の中には,投与までの時間をより短くすることが求められる薬剤がある.例えば,脳梗塞の治療に使用されるt-PA製剤や出血症例に用いられることがある直接作用型第Xa因子阻害剤の中和薬などが挙げられる.これらの薬剤は投与量の設定や投与方法が複雑であり,患者に投与されるまでに時間と人手を要する6,7).さらに非常に高額な薬剤であり,安易な使用や薬剤調整後の投薬中止は避けなければならない.例えば直接作用型第Xa因子阻害剤の中和薬の投与方法の一つであるB法は1回の投与で薬剤価格が約300万円にも上る7).そのため,医師だけではなく薬剤師も適応及び禁忌事項の確認を行い,用法・用量を医師と共にチェックし,さらに薬剤溶解・調整も担うことで正確性を担保しつつ人的なサポートを実現している.

 業務として成り立たせるためのOn the Job Training

救急対応を薬剤部の業務として担う為には,24時間365日同じ対応が提供できる事が必要となる.その為には,限られた薬剤師だけが対応できる体制では不十分である.少なくとも当直に入る薬剤師は全員,この救急対応を実践できるスキルを持つことが求められる.

新人薬剤師が実際に救急現場に行く前には,まず日本臨床救急医学会が認定している救急認定薬剤師による座学形式の講義で基本を学ぶことにしている.講義内容は「気管内挿管に用いられる薬剤」や「中毒対応の流れと採用している解毒薬」,「心停止治療のアルゴリズム」である.心停止治療のアルゴリズムはJapan Resuscitation Council8) やAmerican Heart Association9) の蘇生ガイドラインに沿った内容になっており,使用する薬剤だけではなく,治療の一連の流れも含めて講義を行っている.

新人薬剤師はこの座学の後に,先輩薬剤師と共にOn the Job Trainingの形で救急対応の現場を学んでいく.最初は先輩薬剤師の対応を見学する形となるが,徐々に薬剤投与の声掛けや投与薬剤の看護師とのダブルチェック,経過記録の記載などを実践し,最終的には先輩薬剤師が見守る体制に移行していく.当院では救急業務が独り立ちできた新人薬剤師から,当直業務が担当できるカリキュラムとなっている.

 薬剤師業務としての救急対応の実際

2021年度の月別救急業務対応件数を図2に示す.総対応件数は218件で,心停止と挿管対応症例が約7割を占めている.当時の救急対応を行っていた薬剤師数は22名であり,平均すると1人あたり年間約10件程度の対応を行っていることになる.実際,2023年度の薬剤師別対応件数グラフからも,多くの薬剤師が年間10件以上の救急対応を経験していることがわかる(図3).しかし,対応件数にバラつきがあることもグラフは示しており,経験と知識の共有のために,対応した症例について朝礼で報告する体制をとっている.報告内容によって救急認定薬剤師が,他職種にも症例に関わる情報を収集し,対応薬剤師にフォローアップを行っている.

図2

2021年度に対応した救急対応件数の種別及び月別グラフ

図3

2023年度に対応した心肺停止と薬物中毒対応の薬剤師別グラフ

 大学病院と市中病院で協力して運営している「近畿救急薬剤師検討会」による知識・技能の共有

近畿圏の救急認定薬剤師が中心となって2016年より「近畿救急薬剤師検討会」の運営を行っている.「近畿救急薬剤師検討会」は大学病院から市中病院まで幅広いメンバーが所属しており,主に救急領域で遭遇する事例をシナリオにし,ファーマシューティカルラリー形式で学ぶ研修会となっている10).これまでに近畿地区を中心に病院や研修施設で計12回開催し,東海地方と中国地方でもそれぞれ1回ずつ開催しており,2024年12月末時点で受講生は200名を超えている.

ファーマシューティカルラリーのシナリオは,救急室などで行われる初期診療での対応をメインとした症例,集中治療室での治療を想定した症例,病室での急変対応を想定した症例など様々な事例を取り上げている.

受講生3名もしくは4名を1チームとし,1回のラリーで4つもしくは5つのシナリオに挑戦する形式をとっている.1つのシナリオは約40分程度であり,スタッフが医師や看護師,患者役などに扮し,できる限り臨場感を演出できるよう工夫を行っている.各シナリオ内で薬学的ケアに関わる問いが出題されており,チーム毎に総合得点を競う形をとっており,ゲーム感覚で楽しめる要素も取り入れている.

実際に研修会でシナリオとして使用するまでには,運営メンバーだけでシナリオ発表会を開催し,シナリオとして適切か否か検証する工程を設けている.シナリオの質を担保すると同時に,シナリオを作成する側の薬剤師にとっても事例を共有して改善に繋げていける重要な交流の場になっている.

 最後に

本稿では,京都岡本記念病院の救急分野での薬剤師の取り組みと,近畿救急薬剤師検討会での取り組みについて紹介した.薬剤師の専門制度・認定制度の充実と共に薬剤師の活躍の場は確実に広がってきていると言える.

しかし,これからの薬剤師には臨床現場でただ活躍するだけではなく,臨床現場で感じた薬学的な課題を研究という形で明らかにし,社会貢献に繋げていくことも求められている1).そのためには教育機関でもあり研究機関でもある大学と臨床現場の連携,同職種間の連携をより一層強化していく必要性を感じている.

これからも薬剤師間はもちろん,教育機関も含めた施設間の連携体制を充実させることで,社会に貢献できる薬剤師育成に繋げていきたい.

 倫理的配慮

本稿に掲載した図1について,顔が映っている被写体となる人物から掲載について同意を得ている.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
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