2025 年 9 巻 論文ID: e09031
生涯研修では個人の学修継続態度を評価するため,学修態度が受動的になりやすい.能動的学修態度を導くため,現状の能力を知り,到達目標までに必要な学修が把握できるよう,実務でのパフォーマンスを表すコンピテンシーの自己評価ルーブリックを開発し,妥当性を検証することを目的とした.自己評価ルーブリックの開発は,薬物治療評価および文献評価の能力獲得を目指すワークショップの認定指導者の協力を得て行った.ワークショップ参加者16名は自己評価ルーブリックにて,自己評価とルーブリック記述内容の認識度評価を行った.これらの評価と学修行動を解析した.自己評価は学修前後で正の変化を示した.自己評価および内容認識度の事後の伸び率と事前課題の完成度においては,半数以上で中程度以上の相関係数を示した.自己評価ルーブリックの妥当性および能動的な学修行動を促進するツールとしての有用性を概ね期待できる結果と考えた.
Since lifelong training assesses an individual’s attitude toward continued learning, the attitude toward education often remains passive. We hypothesized that understanding current competencies and the study needed to achieve attainment goals could foster an active attitude toward learning. This study aimed to develop a self-assessment rubric for competencies reflecting practical performance and to verify its validity. A self-assessment rubric was created with input from a certified instructor for a workshop focused on pharmacotherapy assessment and literature review. Sixteen workshop participants used the rubric to evaluate their competencies and understanding of its descriptions. These evaluations and learning behaviors were analyzed. Self-assessments indicated positive changes from before to after the study. Although characteristics differed between the courses, more than half of the participants showed moderate to high correlations between self-assessment and post-assessment growth rates in understanding content and completing pre-assignments. The results suggest the rubric’s validity and its potential to promote active lifelong learning behaviors.
「患者のための薬局ビジョン」(2015)1) で「かかりつけ薬剤師・薬局」のあり方が示され,2019年の薬機法の改正では,薬局の定義を「調剤の業務並びに薬剤及び医薬品の適正な使用に必要な情報の提供及び薬学的知見に基づく指導の業務を行う場所」2) とし,急性期から慢性期を分断することなく最適な薬物療法を提供する担い手として,薬局薬剤師に高い臨床能力が求められた.2013年の薬学教育モデル・コア・カリキュラム(以下,コア・カリ)3) では,求められる基本的な資質として「薬物療法における実践的能力」が明記され,実践能力の獲得に視点を置く学修成果基盤型教育(Outcomes-based Education:以下,OBE)4) に力点を置き,2022年のコア・カリ5) の改訂ではさらにOBEが強化された.OBEは,何ができるようになることが重要であるかを明確に把握することから開始し,最終的に学修が達成されるように,カリキュラム,指導,評価を構成する4,6).公益社団法人薬剤師認定制度認証機構が認証する卒後薬剤師を対象とした研修制度では,「薬剤師生涯研修プロバイダー評価基準チェックリスト」7) において習得度評価を実施することを求めてはきたが,その方法は研修団体に委ねられ,実践能力が獲得できたかの評価を行う研修は,2024年4月現在,確認できていない.薬物療法を実践する能力を獲得できたか否かは,明確な基準なく個人の主観に委ねられている.
日本アプライド・セラピューティクス(実践薬物治療)学会(以下,アプセラ学会)は,「薬物治療を評価する能力」「文献を批判的に吟味する能力」の獲得を到達目標とした,事前課題とSGDを含むワークショップ(以下,WS)8) を2010年より開催してきたが,COVID-19パンデミックによりオンライン化を余儀なくされた.ホームページに公開されているパンデミック以前の受講者アンケート6) の再集計結果では,事前課題は70%以上が取組み不十分と回答し,SGDは殆どの者が実務に活用できると回答するも,約60%は内容が難しいと回答していた.事前課題への取組み不足が,SGDでの学修を困難にすると考えられた.
オンライン環境での実施となれば,学修効果のさらなる低下が懸念された.そのため,SGDでの学修の準備として,基本知識の獲得と課題症例の理解を目的とした事前課題に,学修者が十分に取組めるよう,支援の方法を検討した.OBEと同義あるいはその一つとされるコンピテンシー基盤型教育(Competency-based Education:以下,CBE)9,10) に基づき,到達目標としてコンピテンシーを提示し,現状の能力から到達目標に到達するまでの差,すなわち,何を学ぶことが必要であるかを学修者自らが認識することができれば,到達目標までの差を埋めようと,能動的な学修態度を導くことができると考えた.そして,CBEの評価はルーブリックにより行われるべき10) とされることから,自身の能力を認識するためのツールとして,コンピテンシー自己評価ルーブリックを開発することとなった.
本研究は,アプセラ学会WSに参加する卒後薬剤師を対象としたコンピテンシー自己評価ルーブリックの開発と,開発したルーブリックの妥当性を検証することを目的とする.
Voorheesら10) が定義するCBEの設計原理を参考に,コンピテンシー自己評価ルーブリックを次の方法で開発した.
1) コンピテンシー案の策定アプセラ学会の「ワークショップ指導者認定制度規定」11) に示される,獲得すべき能力に関する文章を引用し,症例解析および文献評価それぞれのコースコンピテンシーを策定した.さらに,認知プロセスを6階層で説明し,教育目標の分類として教育現場で広く採用される改訂版Bloom’s Taxonomy12) を参考に,WSで獲得できる能力を階層化した下位項目のコンピテンシー案を作成し,同領域の先行事例となる米国ACCP(American College of Clinical Pharmacy)が定める臨床薬剤師のコンピテンシー(ACCP Clinical Pharmacist Competencies)13) に照らし,その記述内容が同様であることから,コンピテンシー案として妥当であることを確認した.
2) ルーブリック案の開発到達度を確認しながら継続的に学修を進められるよう,自己評価を可能にすること,評価基準の妥当性を担保することを目的に,まず,改訂版Bloom’s Taxonomyを参考に,5段階のルーブリックを記述するための共通基準として,「0:WSの学修経験がない薬剤師が達成できる」「1:事前視聴講義で学んだ知識を活用し,必要な情報を収集できるレベル」「2:演習およびSGDを経験して,思考プロセスがどの様なものかを認識したレベル」「3:SGDを体験して,思考プロセスを理解し習得したが,一人では結果を出すのに躊躇するレベル」「4:SGDを経験して,思考プロセスを理解し習得したが,一人では結果を出すのに躊躇するレベル」「5:ワークショップで習得した思考プロセスを振返り,自身で再現し,結論を出せるレベル」を定めた.次に,その基準を満たせるように,下位項目のコンピテシーごとに,5段階のルーブリック案を具体的に記述した.
3) コンピテンシー自己評価ルーブリック案の妥当性の評価と改善内容の妥当性評価は,コンピテンシー案とルーブリック案に「5段階の共通基準」を併せて記載したコンピテンシー・レビューシートを用い,アプセラ学会の「ワークショップ認定指導者制度規定」に基づき指導者として認定された薬剤師4名が評価を行い,改善の後にコンピテンシー自己評価ルーブリック(図1)とした.

ワークショップで用いたコンピテンシー自己評価ルーブリック
コンピテンシー・レビューシートは,ルーブリックの記載内容に対して,「行動に繋がる具体的な文書で記述されている.」「自己評価を容易にする明確な記述となっている.」「ルーブリックの設定の基準に合致している.」「ワークショップで学習する内容のみが書かれている.」の4つの評価項目を設定したもので,それぞれの評価項目に対して7件法(1.全く合致しない~7.良く合致する)での評価と,自由記述によるフィードバックを記録できる.そして,7件法の評価で,1および2の評価を受けたものを改善の対象とした.
2. WS参加者のコンピテンシー自己評価および学修行動の解析による自己評価ルーブリックの妥当性の検討開発したコンピテンシー自己評価ルーブリック(図1)を,WS参加者が使用し,その結果を用い妥当性を検討した.
1) 研究対象者研究対象者は,アプセラ学会ホームページの公開募集を通して2021年2月23日のWSに参加し,研究への同意を得たものとし,前後の自己評価,アンケート回答の全てを満たした参加者を解析対象とした.研究参加の同意は,事前課題,自己評価ルーブリック,アンケートを提供するために利用する学修支援システム(以下,LMS)のテスト機能を利用し,同意の撤回を随時可能とした.また,研究参加の有無により,参加者間の利益に差が生じないよう配慮した.
2) 研究期間LMS上で行う事前学修は,2021年1月26日~2月22日とし,WSは2021年2月23日に実施した.
3) コンピテンシー自己評価ルーブリックの提供方法LMS上でコンピテンシー自己評価ルーブリックを提示し,実際の回答はLMSのアンケート機能を用いた.また,事前学修の開始前とWS終了後の自己評価実施の遵守を目的に学修順序を制御するシーケンス機能を用いた.
4) 評価項目とデータ収集方法参加者の属性に関するアンケート項目(勤務先の種別/診療および治療ガイドライン活用経験/論文抄読経験)と,事前学修開始前とWS終了後の2回測定するコンピテンシー自己評価(ルーブリックによる5段階評価)および認識度(5段階評価)は,LMSのアンケート機能を用い,個人を特定できる情報を含まないIDとパスワードによりLMSにログインすること,LMSに個人を特定できる情報を保存しないことで,匿名化し収集した.
学修行動の評価指標として,提出された事前課題の完成度(進捗,内容)と,SGDでの発言頻度(自発的発言,意見,質問)および発言内容の質(意見,質問)とした.評価基準の客観性および再現性を担保するため,「事前課題の完成度」「SGDでの発言頻度および発言内容の質」を評価する2つのルーブリック(5段階評)を作成し,評価に用いた(図2).なお,科学的な薬物治療の実践能力獲得を目指すには,批判的思考能力の獲得が前提となるため,事前課題の内容の完成度および発言内容の質については,ルーブリックの評価基準の妥当性を担保するため,平山ら14) の日本語版批判的思考態度尺度の4要因「論理的思考への自覚」「探究心」「客観性」「証拠の重視」を参考に,コンピテンシー自己評価ルーブリックの5つの共通基準に沿って内容を定めた.

事前課題用およびSGDにおける発言を評価するルーブリック
提出された事前課題の完成度は研究実施者である筆者が評価を行い,SGDでの発言頻度および発言内容の質は,WS指導者18名(2名 × 9グループ)がそれぞれの担当グループの参加者について観察評価を行った.
5) 統計解析の方法コンピテンシー自己評価ルーブリックの妥当性の検討は2つの観点から行った.まず,現状の能力を自己認識することが可能かを検証するため,WS後にコンピテンシー自己評価と認識度が上昇するかを確認した.次に,現状の能力を認識することで到達目標までに必要な学修内容が特定され能動的な学修を導くという仮定が成立するかを検証するため,コンピテンシー自己評価と学修行動に関連性が認められるかを確認した.
コンピテンシー自己評価および認識度の前後の比較は,Wilcoxonの符号順位検定15,16) (MS Excel ver.16.79.2使用)を行い,判定は対象者が少ないことから小標本(25名以下)の場合の方法13) に従った.p値は算出せず,求められた統計量(T)を統計表のサンプル数ごとに示される限界値と比較し,限界値以下の場合に帰無仮説を棄却する方法である.
コンピテンシー自己評価と学修行動の関連性を確認するため,コンピテンシーの自己評価および認識度における事前課題開始前の「事前」の評価点数およびワークショップ終了後の「事後の伸び率」と,事前課題の完成度として「進捗」・「内容」の2項目,SGDでの発言頻度として「自発的発言」・「意見」・「質問」の3項目,SGDでの発言内容の質として「意見」・「質問」の2項目の評価点数との間のSpearmanの相関係数を算出した(JMP17.0.0使用).
この時,自己評価および認識度は,全項目の平均値を参加者ごとに算出した値を用いた.自己評価と認識度の伸び率は,事前課題開始前(以下,事前)の値を分母,ワークショップ終了後の値から事前課題開始前の値を引いた値(以下,前後の差)を分子として算出した.
3. 倫理的配慮この研究は,熊本大学大学院人文社会科学研究部倫理委員会の審査と研究実施の許可を受けて実施した.(受付番号 第60号)
開発したコンピテンシーは,症例解析コースの「科学的・合理的な視点から薬物治療の妥当性を評価できる」,文献評価コースの「臨床医学文献の批判的評価ができる」を親コンピテンシーに,下位項目として,症例解析コースは「情報収集」「評価」「EBM」「投与設計」「治療目標設定」「モニタリング計画」に関する6項目,文献評価コースでは「論文抄読の基礎」「統計学的データの解釈」「結果の限界点」「結果の評価」「症例への適用」に関する5項目となった(図1).
2. コンピテンシーの自己評価および認識度の前後比較42名のワークショプ参加者のうち,解析対象となった16名(症例解析コース:7名,文献評価コース:9名)の属性を表1に示す.
参加者属性
| 属性 | 症例解析コース(N = 7)人数(%) | 文献評価コース(N = 9)人数(%) | ||
|---|---|---|---|---|
| 勤務先 | 病院 | 2(29) | 6(67) | |
| 薬局 | 5(71) | 1(11) | ||
| その他(大学・企業・回答なし) | 0 | 2(22) | ||
| 最も経験年数の長い勤務先の経験年数 | 病院 | 1年未満 | 0 | 0 |
| 1年以上3年未満 | 0 | 0 | ||
| 3年以上5年未満 | 2(29) | 1(11) | ||
| 5年以上10年未満 | 0 | 2(22) | ||
| 10年以上 | 0 | 3(33) | ||
| 薬局(調剤業務あり) | 1年未満 | 0 | 0 | |
| 1年以上3年未満 | 0 | 0 | ||
| 3年以上5年未満 | 0 | 0 | ||
| 5年以上10年未満 | 1(14) | 0 | ||
| 10年以上 | 4(57) | 1(11) | ||
| 病院+薬局(調剤業務あり) | 両方の勤務経験を有する参加者 | 3(43) | 4(57) | |
| ガイドライン活用状況 | 日常的に業務で参照している. | 2(29) | 1(11) | |
| 日常的には参照しないが,必要があれば確認している. | 3(43) | 6(67) | ||
| 勉強会参加や個人の勉強でのみ参照している. | 0 | 2(22) | ||
| 殆ど利用していない. | 2(29) | 0 | ||
| 文献抄読習慣 | 臨床業務で日常的に論文を読んでいる. | 0 | 0 | |
| 臨床業務ではないが日常的に読んでいる. | 0 | 1(11) | ||
| 勉強会に参加した時のみ読んでいる. | 2(29) | 1(11) | ||
| 気になる論文を見つけたときのみ読んでいる. | 3(43) | 7(78) | ||
| 全く経験がない. | 2(29) | 0 | ||
| 文献抄読数 | 週に1本以上 | 0 | 2(22) | |
| 週に1本程度 | 0 | 2(22) | ||
| 月に1本程度 | 1(14) | 1(11) | ||
| 2・3か月に1本程度 | 1(14) | 2(22) | ||
| 半年に1本程度 | 2(29) | 1(11) | ||
| 年に1回程度 | 1(14) | 1(11) | ||
| 全く読まない | 2(29) | 0 | ||
各コンピテンシーの自己評価および認識度の前後を比較した結果を表2に示す.サンプル数が少ないため,中央値に加えて最小値と最大値をカッコ内に併記した.
学修前後のコンピテンシーの変化(Wilcoxon符号順位検定)
| ワークショップ参加で獲得できるコンピテンシー(1を上位とする) | コンピテンシーの自己評価 | コンピテンシーの認識度 | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 事前 | 事後 | 前後の差 | T | 事前 | 事後 | 前後の差 | T | |||
| 中央値(最小値–最大値) | 中央値(最小値–最大値) | |||||||||
| 症例解析コース(N = 7)科学的・合理的な視点から薬物治療の妥当性を評価できる | ||||||||||
| 薬学的管理 | 1 | 個々の患者の状況に応じた治療モニタリング計画を立案できる. | 3(1–4) | 4(3–4) | 1(0–2) | 0.00* | 4(3–5) | 4(2–5) | 0(–2–1) | 1.00* |
| 2 | 個々の患者の状況に応じた治療目標を設定できる. | 3(1–4) | 4(2–4) | 1(–1–2) | 2.50 | 4(2–5) | 4(2–5) | 0(–2–1) | 4.00 | |
| 投与設計 | 3 | PK/PD理論に基づき,患者の生理機能に応じて用法用量の設計ができる. | 2(1–4) | 3(2–5) | 1(0–2) | 0.00* | 4(2–5) | 4(2–5) | 0(–2–1) | 3.00 |
| EBM | 4 | ガイドラインや文献等を引用し,根拠に基づいた薬剤選択ができる. | 2(1–4) | 3(1–5) | 1(–1–2) | 2.00* | 4(1–5) | 4(2–5) | 0(–1–1) | 2.00* |
| 情報収集と評価 | 5 | 自他覚症状や検査データ(臨床検査,生理検査,画像検査など)から患者の病態を適切に評価することができる. | 3(1–4) | 4(2–4) | 1(0–1) | 0.00* | 4(2–5) | 4(2–5) | 0(–2–1) | 1.00* |
| 6 | 患者の抱える問題点を,生活および社会的背景を含め把握することができる. | 3(1–4) | 4(2–5) | 1(0–2) | 0.00* | 4(1–5) | 4(2–5) | 0(–2–1) | 3.00 | |
| 文献評価コース(N = 9)臨床医学文献の批判的評価ができる | ||||||||||
| 症例への適用 | 1 | 臨床研究論文の結果を症例解析コースの課題症例に適用可能かを検討できる. | 2(1–3) | 3(2–5) | 1(0–2) | 0.00** | 4(1–5) | 4(2–5) | 0(–1–2) | 4.00* |
| 批判的吟味 | 2 | 臨床研究論文を読み,研究結果の妥当性・信頼性を評価できる. | 2(1–4) | 2(1–4) | 1(–1–2) | 1.50* | 3(1–5) | 4(2–5) | 1(–1–2) | 6.00 |
| 3 | 臨床研究論文を読み,研究結果の限界点を読み取ることが出来る. | 2(1–3) | 3(2–5) | 1(0–2) | 0.00** | 3(1–5) | 4(2–5) | 0(–1–2) | 4.00* | |
| 4 | 臨床研究論文を読み,統計学的視点を含めデータを正しく読み取ることができる. | 2(1–3) | 3(2–4) | 1(0–2) | 0.00** | 3(2–5) | 4(2–5) | 0(–1–2) | 5.00* | |
| 5 | 臨床研究論文を読む際に注目すべきポイントを,チェックシートを用いて説明できる. | 2(1–3) | 3(1–5) | 1(–1–2) | 4.00* | 3(1–5) | 4(2–5) | 0(–1–2) | 6.00 | |
Willcoxon signed-rank test T:統計量(n ≤ 25の場合).α = 0.05,* p < 0.05,** p < 0.01.
症例解析コースでは「治療目標設定」を除く5項目において,また,文献評価コースは全ての項目において,統計量(T)が学修の前後で差があることを示す値となり,自己評価の上昇傾向を示す結果を得た.
認識度については,症例コースの「評価」「EBM」「モニタリング計画」の3項目と,文献評価コースの「統計学的データの解釈」「結果の限界点」「症例への適用」については統計量(T)より前後で差があることを示す結果を得たが,文献コースの「結果の評価」を除きすべての項目で,前後の差の中央値が0となったことから,WSの前後で,認識度の変化に一定の特徴を見出すことはできない結果となった.
3. コンピテンシーの自己評価および認識度と学修行動との関連性コンピテンシー自己評価および認識度と,学修行動(事前課題の完成度,SGDでの発言頻度,SGDでの発言内容の質)とのSpearmanの相関係数を算出した結果を表3に示す.
コンピテンシーの自己評価および認識度と学修行動との相関(Spearmanの順位相関係数)
| コース | コンピテンシー中央値(四分位範囲) | 事前課題の完成度中央値(四分位範囲) | SGDでの発言頻度中央値(四分位範囲) | SGDでの発言内容の質中央値(四分位範囲) | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 症例 | 進捗(p値)5.00(5.00–5.00) | 内容(p値)4.00(4.00–4.50) | 自発的発言(p値)2.00(1.50–2.00) | 意見(p値)3.00(3.00–3.00) | 質問(p値)2.00(2.00–2.00) | 意見(p値)5.00(4.00–5.00) | 質問(p値)1.00(1.00–3.00) | ||
| 自己評価 | 事前2.83(2.08–3.08) | –0.62(0.139) | –0.17(0.714) | –0.16(0.733) | 0.62(0.139) | 0.67(0.097) | –0.06(0.898) | –0.29(0.526) | |
| 事後の伸び率0.44(0.24–0.53) | 0.62(0.139) | 0.07(0.881) | 0.160(0.733) | –0.62(0.139) | –0.67(0.097) | –0.06(0.898) | 0.00(1.000) | ||
| 認識度 | 事前4.00(3.33–4.50) | –0.52(0.232) | –0.56(0.193) | –0.24(0.602) | 0.52(0.232) | 0.48(0.280) | 0.12(0.795) | –0.29(0.522) | |
| 事後の伸び率0.00(–0.03–0.17) | 0.00(1.000) | 0.58(0.173) | 0.49(0.173) | 0.00(1.000) | 0.42(0.353) | 0.31(0.499) | 0.45(0.312) | ||
| 文献 | 進捗(p値)5.00(5.00–5.00) | 内容(p値)4.50(3.50–5.00) | 自発的発言(p値)2.00(2.00–3.00) | 意見(p値)3.00(3.00–5.00) | 質問(p値)2.00(1.00–3.00) | 意見(p値)4.00(3.00–4.00) | 質問(p値)2.00(1.00–3.00) | ||
| 自己評価 | 事前2.00(2.00–2.20) | –0.02(0.962) | –0.20(0.603) | 0.59(0.091) | 0.12(0.750) | 0.33(0.380) | 0.67(0.046) | 0.81(0.009) | |
| 事後の伸び率0.47(0.23–0.87) | 0.64(0.064) | 0.53(0.139) | –0.11(0.770) | 0.34(0.378) | 0.35(0.360) | 0.29(0.446) | 0.21(0.583) | ||
| 認識度 | 事前3.20(3.00–4.20) | –0.05(0.906) | –0.42(0.263) | 0.18(0.646) | 0.19(0.625) | 0.31(0.420) | 0.39(0.300) | 0.47(0.203) | |
| 事後の伸び率0.06(0.09–0.67) | 0.53(0.145) | 0.84(0.004) | –0.09(0.822) | 0.01(0.981) | 0.00(0.991) | 0.04(0.925) | –0.05(0.900) | ||
※文献評価コースの事前課題は2課題のため各参加者の平均値を用いて算出
Spearman’s rank correlation coefficient
症例コースでは,全ての組合せで有意な相関係数は示されなかった.正の相関が期待できる相関係数0.5以上は,自己評価の「事後の伸び率」と事前課題の完成度の「進捗」,認識度の「事後の伸び率」と事前課題の完成度の「内容」,「事前」の自己評価とSGDでの発言頻度,「事前」の認識度とSGDでの発言頻度の「意見」において見られた.負の相関が期待できる相関係数–0.5以下は,「事前」の自己評価と事前課題の完成度の「進捗」,「事前」の認識度と事前課題の完成度,自己評価の「事後の伸び率」とSGDでの発言頻度において見られた.
文献コースでは,認識度の「事後の伸び率」と事前課題の完成度の「内容」における相関係数が0.84(p = 0.004),「事前」の自己評価とSGDでの発言内容の質の「意見」および「質問」における相関係数が0.67(p = 0.046),0.81(p = 0.009)であった.また,自己評価の「事後の伸び率」と事前課題の完成度,認識度の「事後の伸び率」と事前課題の完成度の「進捗」,「事前」の自己評価とSGDでの発言頻度の「自発的発言」においては,有意ではないが正の相関が期待できる相関係数0.5以上であった.
全体では,自己評価および認識度と事前課題の完成度において,半数以上で中程度以上の相関(相関係数0.3以上)16) を示した.
症例コースの薬学的管理の下位項目のうち「治療目標設定」を除く全てと,文献コースの全てのコンピテンシーで自己評価がWSの学修を通して上昇することが示された結果は,参加者がルーブリックを用いることで,自身の能力を評価し,認識することができたことを示唆する.このことから,コンピテンシー自己評価ルーブリックの自身の能力を認識するためのツールとしての妥当性を示すことができたと考える.
自己評価および認識度と学修行動における中程度以上の相関の多くは有意ではなかったが,少ないサンプル数による検出力の低下を考慮すると,相関性は期待できる結果と考える.
症例コースの自己評価の「事後の伸び率」と事前課題の完成度の「進捗」,認識度の「事後の伸び率」と事前課題の完成度の「内容」,文献評価コースの自己評価および認識度の「事後の伸び率」と事前課題の完成度の間に正の相関が期待できる結果は,事前課題の取組みにより期待される学修が達成され,能力が向上するとともに理解も深まったと考えることができる.また,症例コースの「事前」の自己評価および認識度と事前課題の完成度との間に,負の相関が期待される結果は,自己評価において到達目標と参加者自身の現状の能力とのギャップが大きいほど,能力獲得を目指し能動的な学修が成立した可能性を示唆している.
症例コースの「事前」の自己評価および認識度とSGDでの発言頻度との間に正の相関が期待できる結果と,文献コースの「事前」の自己評価とSGDでの発言内容の質に有意な正の相関が示された結果は,参加者の既有の能力がSGDでの発言に影響していたと考えることができる.自己評価および認識度とSGDでの発言頻度および発言内容の質との間の相関に,両コース共通の傾向を読み取ることはできず,参加者の性格や場の状況が発言に影響する可能性を考慮すると,参加者の特性に依存するバイアスの存在は否定できないため,学修行動を評価する指標として,発言に関する項目は適していないと判断でき,コンピテンシー自己評価ルーブリックの妥当性を検証する上で影響を及ぼす結果ではないと考えた.
少ないサンプル数は結果の信頼性を示す上で限界点となるが,アプセラ学会WSでの学修は教育理論に基づき設計されており,想定通りに学修行動が促進されていれば,参加者のコンピテンシーが向上することが予測でき,十分なサンプル数を用いた調査においても同様の結果が期待できると考える.
以上のことから,コンピテンシー自己評価ルーブリックは,参加者の現状の能力を測るものとして妥当性が期待でき,ルーブリックを使用した評価により,到達目標とのギャップを知ることで,目標を目指し能動的な学修行動が促進されることが期待できると言える.
また,教育理論に基づく設計がなされたWSにおいて開発した評価ツールであることは,同じ領域の学修に活用できることを意味しており,生涯学習での継続的な自己評価により個人の学修状況に応じた段階的な成長を支援できる可能性や,研修評価における学修効果測定ツールとしての有用性も期待できる.
執筆にあたりご指導をくださいました昭和医科大学薬学研究科教授の岸本桂子先生に御礼申し上げます.また,ご協力をいただきました日本アプライド・セラピューティクス(実践薬物治療)学会および同学会前理事長の緒方宏泰先生,現会長であらせられる明治薬科大学教授の越前宏俊先生に御礼申し上げます.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.
この論文のJ-STAGEオンラインジャーナル版に電子付録(Supplementary materials)を含んでいます.