薬学教育
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誌上シンポジウム:地域の健康支援活動を薬学教育へどう取り入れるか
地域と繋がる薬学教育:SRHRと健康支援活動
西村 亜佐子
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2025 年 9 巻 論文ID: e09034

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抄録

本発表では,薬学生が地域の健康支援活動を学ぶ機会を提供するために実施している取り組みを紹介する.学内では,高学年の薬学生と共に「女性ヘルスケアカフェ」を開催し,健康に関する講義や骨密度などの測定会を通じて,大学生に向けて正しい健康情報の提供と実践的な学びの場を提供している.また,がん患者会と薬剤師のオンライン交流会を実施した経験をもとに,薬学生に “地域の薬剤師が患者にとって信頼できる身近な医療者であることの重要性” を伝えている.さらに,Sexual reproductive health and right(SRHR,性と生殖に関する健康と権利)に関する講義では,薬剤師が地域健康支援に携わる上で重要なのは,住民一人ひとりが自身の価値観や状況に応じて適切な選択ができるようエンパワメントすることであると強調している.これらの活動を通じて,病気があっても地域住民が安心して暮らせる社会の実現と,それに貢献する薬剤師の役割を伝えていくことを目指している.

Abstract

I introduced initiatives designed to provide pharmacy students with opportunities to learn about community health-support activities. On campus, senior pharmacy students participated in the Women’s Healthcare Café, which offers health-related lectures and bone density measurement sessions and provides university students with accurate health information and practical learning experiences. Based on the experience of conducting online exchange meetings between groups of patients with cancer and pharmacists, the program emphasized the critical role of local pharmacists as trusted and accessible healthcare providers. Furthermore, in lectures on Sexual and Reproductive Health and Rights (SRHR), the importance of empowering individuals to make informed health choices based on their own values and circumstances is a key aspect of pharmacists’ involvement in community health-support. Hence, the initiative aims to promote the realization of a society in which individuals can live with confidence in their health, despite managing illnesses, and highlights the essential role of pharmacists in contributing to such a society.

 はじめに

本稿は,第9回日本薬学教育学会大会「シンポジウム7:地域の健康支援活動を薬学教育へどう取り入れるか」にて報告したものである.薬学教育の中で,薬学生が薬剤師による地域の健康支援活動の重要性を学ぶ機会を作ってきた実践例を紹介する.

 健康を考える場を学内に

1. 女性ヘルスケアカフェ開催への想い

まずは,ゼミ活動の一環として行っている女性ヘルスケアカフェについてである1).近年,健康のためには,個人の努力だけでなく,その人が暮らす地域の豊かさや教育環境,福祉や医療のインフラなど,周囲の環境が重要であることが知られるようになっている2).こうした背景から,多くの地方自治体では,行政や企業が連携し,健康な社会環境の整備に取り組み,健康寿命の延伸を目指している3).これを踏まえ,私たちは,「大学に通っていたら自然と健康になれるような環境を作ることができないか」と考え,ゼミ活動の一環として, “女性ヘルスケアカフェ(カフェ)” を行っている.

2. 女性ヘルスケアカフェの内容

内容は次の通りである.取り組みの様子を図1に示す.本写真掲載にあたっては,写真に写っている方から事前に承諾を得ている.

図1

女性ヘルスケアカフェの紹介

①ミニレクチャー:カフェ開催中の90分間のうち20分間は,学生に知っておいてほしい健康に関する簡単な講義の時間としている.これまでに,月経痛の対処法,子宮頚がん検診とHPVワクチン,ダイエットと健康,低用量ピル,緊急避妊薬などのテーマを扱った.

②骨密度,貧血度チェック:測定を通して,自分の健康について考えるきっかけを提供することが目的である.特に,若年時から気を付けることが大事な骨密度と貧血について,希望者に無料測定を実施している.

③月経ケア用品の展示:紙ナプキン,吸水性ショーツや月経カップなどを展示し,それぞれの長所や短所を紹介している.ライフスタイルに合わせて,色々な選択肢があることを知ってもらうことが目的である.

④体験講座:女性特有の心身の不調への対処方法として,ヨガやアロマセラピーなどがあることも紹介している.これまで実際に,初心者向けヨガ体験,アロマハンドクリーム作成を行ってきた.

女性ヘルスケアカフェが,学生が自分のライフプランを考える上で必要な健康知識を楽しく学べるきっかけになることを願う.また,この活動の運営に関わる薬学生が,将来,女性の健康支援に積極的に携われる薬剤師となることに繋がることを期待している.

 がん患者とのオンライン交流会

これまで紹介した内容は,疾病予防を目的とした健康情報の提供が中心であった.しかし,どれだけ予防に努めていても,誰もが病気になる可能性がある.そのため,病気を抱えながらも幸せに生きることが当たり前にできる社会を実現することも,予防と同じくらい重要である.そこで新たに取り組み始めたのが,がん患者と薬剤師のオンライン交流会である4).

1. 交流会のきっかけ

オンライン交流会を開催するきっかけとなったのは,がんと診断された母親の会 “がんママカフェ5) ” の代表である井上文子氏から,患者が直面するさまざまな問題についてのお話を伺ったことだった.その中には,薬局で薬剤師に相談することで軽減できるのではないかと思われるものもあった.そのことを井上さんに伝えたところ,「薬剤師さんにそういうことまで相談していいんですね.目からウロコです.私たちの患者会に来る方の多くも,それを知らないと思います.」との言葉をいただいた.この経験を通じて,薬剤師が困ったときの相談先の1つとして認識されることが重要だと考え,がんママカフェの皆さんとともに,薬剤師とのオンライン交流会を実施することとなった.

2. オンライン交流会の実施とその意義

オンライン交流会は2021年8月に初めて開催され,毎年実施して,これまでに3回行われた.患者側の参加者は “がんママカフェ” を通じて募集され,薬剤師側の参加者は京大SPH薬局情報グループに所属する企業や薬局の薬剤師たちが務めている.これまで3年間で,22人の患者が参加し,薬剤師は同じメンバーが継続して参加している.

この交流会では,患者が薬剤師を身近に感じ,普段利用する薬局を気軽に相談できる場所として認識してもらうことを目的としている.そのため,特に自己紹介に時間をかけているのが特徴である.薬剤師側の自己紹介では,あえて「実は〇〇が苦手なんです」という話題を取り入れ,医療や健康以外の話題でアイスブレイクを行っている.例えば,「薬剤師だけど,粉薬を飲むのが苦手です」といったエピソードを共有することで,患者との距離が縮まり,場の雰囲気が和らぐことが実感された.

3. 交流会の内容(表1)

 

表1

がんママカフェの皆さんと薬剤師のオンライン交流会のスケジュールと内容(2023年度の例)

14:00~14:05 趣旨説明
14:05~14:25 薬剤師が果たす幅広い役割を紹介(講義):20分
講義では,薬剤師が処方薬を交付する業務に加えて,日常的な健康相談に応じたり,軽微な症状に対するセルフケアの選択肢(市販薬の活用や養生法など)について助言する実践例についても取り上げた.
14:25~15:05 自己紹介:40分
患者は自己紹介に際し,これまでに抱いていた薬局や薬剤師に関する印象についても言及した.
薬剤師は,ニックネームの使用や苦手なことの共有などアイスブレイク的要素を交え,参加者との心理的距離を縮めることを意図した自己紹介を行った.
15:05~16:00 質疑応答:55分
事前に寄せられた参加患者からの質問に複数の薬剤師が対応し,患者の抱える課題やその背景にある心理的要因への理解を試みた.

交流会前半では,薬剤師の多様な役割について紹介した.処方箋に基づく調剤や服薬指導だけでなく,以下のような役割もあることを紹介した.

・軽微な症状がある際に病院を受診すべきかの相談対応

・テレビやインターネットで見聞きした健康情報の正しい解釈

・学校薬剤師などの活動(地域の小中学校でのプール水質調査など)

交流会後半では,事前に募集した質問に薬剤師が回答する形式をとった.「薬局で薬をもらう際にいろいろ質問されるのはなぜ?」や「話した内容は記録されているの?」などの薬剤師の業務に関するものから,健康食品やサプリメントの使用,治療に伴う副作用,複数の薬を服用することや長期に渡る服薬への不安など,多岐にわたった.さらに,薬に対する質問だけでなく,体調不良時や気になる症状がある際にメモをとることの重要性についても話題となった.

4. 交流会の効果と今後の展望

交流会後の患者からの感想を通じて,薬剤師がより身近な存在として認識されるようになったと実感している.同時に,薬剤師同士もお互いの対応から多くを学ぶ機会となった.多くの患者は,薬局を「処方薬を受け取る場所」と認識しているが,副作用や治療薬に関する不安を相談する場所としては認識していないのが現状である6).また,薬剤師側もがん患者への対応に不安を抱えていることが少なくない.特に,抗がん剤の取り扱いが少ない薬局では,知識や対応方法に自信を持てない薬剤師も多い.しかし,外来がん化学療法を受ける患者が増加する中で,薬局薬剤師は,患者の不安を理解し,信頼できる情報源を提供し,適切な相談先へ繋ぐ役割が求められる7).地域医療を支える薬局薬剤師が,患者の不安や孤独に寄り添い,前向きに治療にのぞめるようエンパワメントすることが重要である.医療への信頼を維持しながら,患者の健康を支え,不安を和らげる役割が,これからの薬局薬剤師に強く期待されている.

 薬学部でSexual reproductive health and right(SRHR)について考える場を作る

1. 地域で求められる薬剤師とSRHRの重要性

「地域で求められる薬剤師」としての重要な視点の1つに,Sexual reproductive health and right(SRHR)があると考えている.本学では現在,講義の中にSRHRの考え方を学べる機会を取り入れ始めている.SRHRは国際的には基本的人権の1つとされ, “自分の体や自分のあり方,自分の人生は自分のもので,誰かに強制されるものでもないし,誰かのためにささげるものでもない” ということを当たり前に保証しよう,という理念の1つである8).ヘルスケアに携わる上で,当事者のSRHRを尊重する視点は,女性の健康のみならず,すべての人に関わる重要な要素である.また,薬局は患者を教育する場ではなく,専門知識を提供することで自己決定を支援する場である.そのため薬学部においても,SRHRの理念に触れる機会を作り,学生自身が “身体も心も自分のものである” という基本的かつ大切な認識を見つめ直せる場が必要である.

2. 地域と繋がる活動の紹介

SRHRの理念を実践する場として,地域と連携した活動も行っている.その一例として,地域の子ども食堂で「女性ヘルスケアカフェ」を開催した.こども食堂とは,地域住民が無料または安価で栄養のある食事や温かな団らんを提供する取り組みで,地域の子どもたちや親子,その地域に暮らす方々が集う場である.大阪府枚方市で実施されているこども食堂で,食堂の利用者やスタッフを対象に,骨密度やヘモグロビン値の無料測定を実施し,薬学生が結果の説明や健康に関するアドバイスを提供した.これにより,参加者の健康意識を高めると同時に,薬学生にとっても地域貢献と実践的な学びを同時に経験できる貴重な機会となった.

また,学内で開催されたスポーツフェスティバル(スポフェス)においても健康促進活動を実施した.本学のスポフェスは,学生が運動を楽しむイベントであり,そこに健康チェックブースを設置.骨密度やヘモグロビン値の無料測定に加え,企業と連携し「おりものについて知ろう」のコーナーを設置した.このコーナーでは,おりものの基礎知識や,色や匂いの変化など注意すべきケースについて学ぶ機会を提供した.この取り組みを通じて,学生自身が健康管理の重要性を再認識し,日常生活における健康習慣を見直すきっかけとなることを期待している.

3. 新たな取り組み:保健所見学と性感染症検査の学び

昨年度,新たな活動として,近隣の保健所見学を実施した.薬学生と共に本学の近隣にある山城北保健所を訪れ,性感染症の無料検査について取材し保健師の方々から直接話を聞く機会を得た.学生たちは,性感染症の予防や検査の重要性について学び,その内容をまとめて「女性ヘルスケアカフェ」で発表した.この取り組みは,学生たちにとって地域の健康福祉に貢献する保健所の役割を理解する貴重な機会となった.

 おわりに

今後も,地域に根ざした活動を継続し,薬学生が実践的な学びを通じて,地域に求められる薬剤師としての役割を深く理解できる機会を提供していきたい.

 謝辞

女性ヘルスケアカフェの活動運営に協力いただいた本学薬学部医療製剤学研究室の皆様および,オンライン交流会に参加くださった患者の皆様,がんママカフェ代表の井上文子氏,薬剤師として参加くださった,一ノ瀬照子氏,梅垣真紀子氏,沖崎歩氏,戸倉なおみ氏,松澤京子氏,山下恵氏,山城北保健所の皆様ら関係者各位に感謝の意を表する.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
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