2025 年 9 巻 論文ID: e09053
我が国の医療は医師の長時間労働に支えられてきた.医師の利他的姿勢は長時間労働により培われ,国民からの信頼を得るに至った.様々な知識や経験の蓄積が医療プロフェッショナリズムの醸成に繋がる.薬剤師も医療プロフェッショナリズムを修得し,国民からの信頼を獲得しなければならない.2024年4月,医師の働き方改革がスタートし,時間外勤務に上限が設けられた.医師の負担軽減を目的に薬剤師によるタスクシフト/シェアが推し進められ,薬剤師業務の効率化が求められている.しかし,この効率性重視の業務姿勢は薬物治療の有効性の確保と安全性の担保に影響を及ぼしかねない.また,一方で医療プロフェッショナリズムの要素は多岐にわたり,その修得にはある程度の時間が必要となる.業務の効率性とプロフェッショナリズム修得の間に存在する歪みの中で,薬剤師はこれから本格的にプロフェッショナリズムを身につけなければならない.
Japan’s healthcare system has long relied on physicians’ extended working hours. Their altruistic attitudes, cultivated through such dedication, have earned the trust of the public. The accumulation of clinical knowledge and experience has been essential to the development of medical professionalism. Pharmacists, likewise, must acquire comparable professionalism to gain public confidence. In April 2024, Japan implemented a work style reform for physicians, introducing legal limits on overtime work. To reduce physicians’ burden, task shifting and task sharing with pharmacists have been promoted, accompanied by increasing demands for efficiency in pharmacy practice. However, excessive emphasis on efficiency may compromise the effectiveness and safety of pharmacotherapy. Moreover, professionalism encompasses diverse elements—ethical judgment, reflective practice, and patient-centered care—that require sufficient time and experience to develop. Pharmacists now face a critical challenge: to foster genuine professionalism while balancing it with the growing pressure for operational efficiency. Navigating this tension will be essential for pharmacists to contribute meaningfully to team-based healthcare and to maintain public trust in an evolving healthcare environment.
医療プロフェッショナリズムとは,医療の専門家としての専門的知識や技能に加え,社会からの信頼に応えるための倫理観や価値観,さらにそれらに基づく言動などの総体を示しており,特に絶対的な定義は存在しない.それぞれの時代や社会背景,さらに文化や医療制度によってその位置付けや重要性は変化するものである.医師や薬剤師などの医療職は社会との契約によって成り立つ職業であることから,その時代の社会が医療に期待することや,近年急速に進化しているAIやICTなどによる医療分野の技術革新が医療形態の変化が,各医療者の専門性や倫理観にも影響している.それでもなお,利他主義や尊厳の尊重,社会や患者に対する責任などについては,医療プロフェッショナリズムの普遍的価値として位置付けられている.
2002年に世界医師会が策定した「新ミレニアムにおける医のプロフェッショナリズム:医師憲章」を図1に示す.これは医療の商業化や政府などによる干渉,社会の変化に対応するために医師が守るべき規範,「現代版ヒポクラテスの誓い」として位置付けられ,3つの基本原則と10の専門的責任を掲げ,新時代における医師の責務を明確にしたものである1).一方,Sternらは医療プロフェッショナリズムを概念化し構造的に可視化した「神殿モデル」を提唱した(図2)2).神殿の土台部分に,臨床能力(医学の知識):Clinical Competence(Knowledge of Medicine)とコミュニケーションスキル:Communication Skills,さらに倫理的・法的理解:Ethical and Legal Understandingを据え,その上に柱として,卓越性:Excellence,ヒューマニズム:Humanism,説明責任:Accountability,利他主義:Altruismを配置し,プロフェッショナリズム:Professionalismを屋根として,医師のプロフェッショナル・アイデンティティを表現した.この概念は決して単一の技能から出来上がるものではなく,様々な能力と倫理的基盤によって支えられていることを示している.これら医師憲章や神殿モデルは,日本をはじめ世界中の医療者育成のためのプロフェッショナリズム教育に広く利用されている.

新ミレニアムにおける医のプロフェッショナリズム:医師憲章.筆者作成.

プロフェッショナリズムの概念図・神殿モデル2)
また,我が国では日本薬剤師会が「薬剤師職能の基本原則に立ち戻り,その社会的使命,責任等を踏まえ,薬剤師の在り様を指し示す規範となることを目指し(「薬剤師行動規範」の制定にあたって,一部抜粋)として,2018年に薬剤師行動規範を制定した(図3).この前文で薬剤師と社会との関係性や倫理性を明示し患者や国民に対する責任を全うするとしている.また,本規範はSternらの示す神殿モデルの内容を概ね反映していると考えられる.

薬剤師行動規範(日本薬剤師会)
D. Schönは従来の専門職教育は理論を現場に適用する教育,すなわち技術的合理性に基づく教育に偏っており,特に医療のような理論通りにはいかず,不確実な文脈に満ちた領域では,マニュアル的な実践ではなく,状況に応じて判断を変化させる熟達した省察的思考が重要であり,行為の中や後で省察をし内省的な学びが不可欠であることを提唱した(図4)3).さらに医療は患者の生命や尊厳に直接関わるため,自分が行ったことが本当に正しかったのか,なぜその選択をしたのかと,省察する姿勢が専門職の倫理観を育むための基盤となる.また,チーム医療を実践するためには多職種の意見を柔軟に受け入れたり,自他の考え方や感情の背景を丁寧に振り返ることでお互いの理解が深まり多職種協働が促進し,結果としてチーム医療の質の向上繋がる.

真のプロフェッショナルに必要な省察的実践家の側面3)
我が国の少子高齢化は世界的にも他に類をみないペースで進んでおり,労働人口の急速な減少が問題となっている.医療業界においても例外ではなく,急激に増大する医療・介護需要に対応するために,効率的かつ持続可能な医療提供体制の構築が急務となる.具体的には,①地域医療構想の実現,②医師の働き方改革(時間外労働の削減など),③医師の偏在対策を一体的に進める,いわゆる三位一体の改革である(図5).特に医師の働き方改革は,単に医師の長時間労働を是正して健康を守るというだけでなく,医師の地域あるいは診療科間の偏在を是正することや適正な労働時間の中でも医療を維持する体制づくりなど,医療提供体制全体の再設計に深く関わる総合的な政策課題である.そして,この医師の働き方改革が,医療人のプロフェッショナリズムの醸成に及ぼす影響について注視していきたい.

医療提供体制の三位一体の改革
医師や看護師,薬剤師などの医療従事者は,「なぜ国民から信頼されるのか」について,概念的な視点で考察してみよう.誰しも体の調子が悪い時や入院が必要と判断された際に,多少なりとも精神的に不安定になる.特に医療特有の言い回しや専門用語を用いた病状説明や治療方針,予後予測など,普段の生活ではおよそ聞くことのない言葉が使われ,時に専門知識がないと到底理解し難い内容に直面した時は,医療従事者たる専門職種にお任せしたくなるのも容易に理解できる.仮に医療者との信頼関係が構築できていないと,医療を受ける当事者として治療の選択など医学的に重要な決定を下すことが困難になる事は想像に難くない.それでは,医療者はどのように国民から信頼されてきたのか.国民が医療従事者を信頼する背景には,おそらく多くの医療人が有する利他的な姿勢や圧倒的な人間力を,通常の社会生活を送る中で目の当たりにしてきたことが影響していると考えられる.例えば,24時間365日,救急車を要請すれば救急隊員が約10分で現場に到着し4),搬送先の医療機関では医師や看護師が全力で対応してくれる.また入院中に容態が悪化した際も同様に,夜中であろうが明け方であろうが,医療者が駆けつけ治療を施してくれる.国民は自身の実体験としても,新聞やテレビなどのメディアを通じても,医療従事者は全身全霊を傾け患者のために尽くしてくれることを知っている.そこには赤ひげ先生やドクターコトーなど,ドラマなどで誇張されて伝わっている部分もあるかもしれないが,「ヒポクラテスの誓い」を原点としたジュネーブ宣言として,医師を中心とした医療専門職にはその精神が受け継がれていることも事実である5).特に医師は日常的にM&Mカンファレンス(合併症&死亡カンファレンス)やCPC(臨床病理検討会)などを通じて症例を振り返り,さらにより多くの症例から診断や手術,治療などの医療技術を取得・経験するために,自身の所属医療施設にとどまらず,外勤や当直等の時間外勤務を積極的に行ってきた.その圧倒的な症例数の裏打ちの中で多くの看取りや治療の撤退などの苦渋の決断を経験し,命の尊さや医療倫理,医療の可能性と限界などを実体験として学び,医師としての力や利他的姿勢,ひいては医療プロフェッショナリズムを醸成してきた(図6).医局の制度を基にした医師の外勤や派遣などが,地域の医療の下支えとなり,とりわけ地方の医療の質の維持・向上に貢献していることは疑いの余地がない.このような状況が長年続いてきたことで,医師に対する国民からの信頼が確固たるものになったと考えられる.そして現在,医師の働き方改革により医師の就業環境が大きく変わり,これまで培われてきた地方の医療の質や多数の症例経験に基づく医師教育の質が担保されるのか,分からない状況にある.そして時折懸念の声が聞こえてきている6).

医師は国民からの信頼をどのように得てきたのか
薬学教育モデル・コア・カリキュラム令和4年度改訂版で提示された「薬剤師として求められる基本的な資質・能力」では,全10項目のうち9項目が医学教育及び歯学教育のモデルコアカリキュラムに掲げられた医師,あるいは歯科医師として求められる基本的な資質・能力と共通化された(図7).すなわち,上記3師には共通のプロフェッショナリズムの修得が求められていることを意味している.医療プロフェッショナリズムの要素やそれぞれの位置付けは,前掲の図2が象徴的で理解しやすい.医療プロフェッショナリズムを修得するには,これまでは個々の学修者が医療専門職集団の仲間入りをした後にロールモデルの背中をみて,暗黙のうちに身につけるものと考えられてきた.しかし,昨今の医療や医療教育を取り巻く環境下で,黙ってロールモデルの背中をみているだけでは,プロフェッショナリズムを身につけるのは困難であると考えられている(図8).プロフェッショナリズムを一律に定義するのが難しいことは既に述べたが,その基盤となる一般的合意事項は,公衆(国民)が医療専門職に対して抱く「信頼」であるとされることは非常に興味深い7).これまで長きに亘り医師が築いてきた国民からの信頼,それは自身の生活をも一部犠牲にして,長時間労働の中で培われてきたものであり,その構図が変化し始めている.

医師,歯科医師,薬剤師として求められる資質・能力

プロフェッショナリズム修得方法の誤解・過去から現在7)
ここで,薬剤師に目を転じてみると,一般に薬剤師は,症例を多数経験する目的で所属施設以外で外勤や当直をすることはなく,また,医師が医療人としての精神や基礎技術をみっちりと学ぶ期間としての卒後研修制度(医師臨床研修制度)もない.近年,病院において薬剤師が入院患者や外来患者の薬物治療の責任の一端を担い,その有効性や安全性を担保していることが認められ,薬剤管理指導料や病棟業務実施加算として診療報酬上の評価を得ている.しかしながら,自身の担当患者の看取りに立ち会うことを習慣としている薬剤師は,まだ稀であることも事実であり,患者の命に対する薬剤師の関わり方や責任,あるいはそれらを受け入れる覚悟について,それが医師と全く同質のものではないと予想される.このような状況下,薬剤師は国民に対して何をみせるのか.積極的に信頼を得るためにどのようにアピールしていくのか.特に薬剤師が国民から信頼されるためには,病院薬剤師のみならず,保険薬局やドラッグストアに就業している薬剤師も含めたオール薬剤師として信頼を得る必要があることも大変重要なポイントである.
医師の働き方改革を推し進めるためには,一部の医師業務を薬剤師を含む他の医療従事者にタスクシフト/シェアすることで,医師の業務負担を軽減する必要があるとされている8,9).このタスクシフト/シェアを単に医師の業務負担を軽減する目的で実施するのか,あるいは法改正をも見据えた薬剤師の職能拡大の布石とするのか.後者であればチーム医療における薬剤師の位置付けが変わり,より重積を担う職種となり,国民からの信頼をこれまで以上のものにすることが出来るであろう.
タスクシフト/シェアを推進するためには現行業務の整理と効率化が必要である.具体的には,薬剤師の増員や非薬剤師の活用,調剤業務や管理業務の機械化などにより業務の効率化を図ることで,タスクシフト/シェアのための時間を捻出することができるようになる.薬剤管理指導業務も例外ではなく,現在の診療報酬の算定要件を鑑みれば,1人の患者につき,週1回(月4回)が最も効率的であると言える.しかしながら,患者の状態は決して一様ではない.例えばハイリスク薬の投与量を変更した場合などは,患者によっては1日に複数回,あるいは毎日副作用のチェックをしつつ,適切に効果が発現しているかを確認する必要があるし,さらに急変時の対応を迫られる場合さえもある.このような業務に加え,タスクシフト/シェアに関わるPBPM(Protocol Based Pharmacotherapy Management)業務を遂行しなければならないのが現実である.責任と覚悟をもって患者の薬物治療に向き合わなければならず,時に時間外業務をせざるを得ないこともあろう.しかしながら,最近は世の中の流れとして,ワークライフバランスの充実が求められている.本来多くの症例を経験しなければならない若手の医療従事者でもプライベートを優先する傾向にある.バブル経済期の新人類や,就職氷河期の団塊ジュニア世代,さらにゆとり・さとり世代や,最近ではX・Y・Z世代,それぞれの世代によって仕事や生活に対する考え方にも差異が生じており,コスパ,タイパに象徴される社会の流れの中で,就業者が大切にするポイントはその時々で如何様にも変化する.今の時代はただ我武者羅に働けば良いわけではない.プロフェッショナリズムの醸成に必要な要素を一つひとつ丁寧に修得し,国民からの信頼を得る必要がある.では,「今,何をすべきか」.まさにプロフェッショナリズムの修得と業務効率化の間(ハザマ)にある “歪み” の中で,多くの薬剤師がもがいている.
プロフェッショナリズムを醸成するにはどうしたら良いか.これまでのプロフェッショナリズム教育は行為に焦点を当てて,コンピテンシーに基づく教育を行ってきた.ある意味,専門職が “何をするか” という行為について評価することが有用であった.一方,プロフェッショナリズム教育は, “行うこと” から “あり方” に,その重要性が変化してきており,プロフェッショナリズムの概念はプロフェッショナル・アイデンティティへと進化してきている.医療専門職は,求められる行動を表面的に行うだけでは不十分であり,物事の価値観やその本質,すなわち “あり方” を内在化することで,自ら考え,自身で判断し,実践できること,さらに多様な状況にも対応できるようにならなければならない10,11).そして,医療の専門職種として生涯学び続けることで,さらなる成長を期待されている.
薬剤師の身分法である薬剤師法第1条は「薬剤師は,調剤,医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって,公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保するものとする.」であり,医師法,歯科医師法のそれと条文の構成は同じである.それぞれの専門性から手段こそ異なるが,目的は「公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保するものとする.」と,同一である.これらは薬剤師,医師,歯科医師が有するそれぞれの使命と社会的役割を明示するものであり,医療だけでなく国民の健康な生活,すなわち公衆衛生全体に責任を有することを意味するものである.また,上記3師は,それぞれ自らの判断で専門職としての裁量を発揮できるものであり,相応の責任を有する.それゆえ,プロフェッションとしての “あり方” と覚悟が必要になる.特に現在の医療現場には様々な課題が山積しており,通常の対応では解決が困難なケースも多く見受けられ,我々専門職も悩み困惑する.しかし,この様な時こそ専門家としての真価を発揮しなければならない.プロフェッショナリズムを追求し続ける力と共に,省察する力を身につけることができれば,真のプロフェッショナリズムが間近に迫ることを最後に付け加えておく.
発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.