薬学教育
Online ISSN : 2433-4774
Print ISSN : 2432-4124
ISSN-L : 2433-4774
誌上シンポジウム:データベース研究を臨床での武器とする教育
データベース研究の魅力と教育の重要性:
学生の視点から
坂﨑 友香
著者情報
キーワード: データベース研究, 学生
ジャーナル フリー HTML

2025 年 9 巻 論文ID: e09054

詳細
抄録

データベース研究は学生にとって非常に魅力的な分野である一方で,研究を行っていく上で固有の壁が存在する.適切なデータベースの選定や専門的な解析スキルの習得といった知識的な障壁に加え,定義や解析手法,そしてその結果の臨床的意義を理解することに苦労する学生も少なくない.これらの困難は,有意義な研究の遂行において大きな障壁となり得る.こうした課題に対処するためには,データベース研究だけでなく臨床現場に精通した先生方による支援が不可欠である.そこで先生方には,変数の定義や手法の選択,結果の解釈に至るまでの思考過程を学生と積極的に共有し,対話を通じて理解を深めていくことを求める.さらに,学会や関連イベントを通じて多様なデータベース研究に触れる機会を提供することで学生の視野を広げ,研究能力の向上に繋がることが期待されるため,積極的にそういった機会を作っていただきたい.

Abstract

While database research holds considerable appeal for students, it also presents unique challenges that may impede their academic development. In addition to cognitive barriers, such as selecting an appropriate database or acquiring specialized analytical skills, students often struggle to grasp key concepts including variable definitions, analytical methodologies, and the clinical relevance of their findings. These challenges can pose significant obstacles to conducting meaningful research. To address these issues, mentorship from faculty with expertise in both database research and clinical practice is essential. In particular, instructors are encouraged to engage in active dialogue with students, sharing the reasoning behind decisions related to variable definition, methodological choices, and result interpretation. Furthermore, creating opportunities for students to explore a wide range of database studies—especially through academic conferences and related events—can broaden their perspective and enhance their research capabilities.

 学生がデータベース研究を行う中でぶつかる壁

私がデータベース研究の世界に飛び込んだのは研究室に配属された大学3年生の時である.当時の私がデータベース研究を選んだ理由としてこれといって明確なものがあったわけではなく,「医療ビッグデータってなんかかっこいい!」という漠然とした憧れがきっかけだった.これは珍しいことではなく,私が現在所属している研究室でも多くの学生が同様の理由でデータベース研究の世界に飛び込んでいる.

一方で,大学の講義等ではデータベース研究について触れられる機会が少ないため,実際に研究を行うには学生にとって大きな壁が多数存在する.その1つとして「データベースの特徴を正しく理解すること」である.データベース研究を行う上で,どうしてこのデータベースを選択したのか,このデータベースで何ができて何ができないのかなど扱うデータベースの特徴をつかむことは必須要件である.一方で,データベース研究で使用できるデータベースは本邦だけでも多岐にわたり,それぞれの特徴を正しく理解することは容易ではない.さらに,学生は臨床経験が少ないため,レセプトや有害事象自発報告制度,DPC制度などの理解が乏しいことが多く,データベースの特徴をつかむことがより難しく感じることがある.

また,医療ビッグデータを解析するには「専門的な知識が必要なこと」も学生にとって壁となる.一般的に臨床研究で用いる医療ビッグデータはデータ数が膨大なものが多く,解析にはRやPython,JMP等の解析ツールを用いることが多い.これらの解析ツールでは専門のコードが必要になることが多く,苦手意識を持つ学生も少なくない.

一方で,これまであげた壁は知識面の壁であるため,学生自身で突破することは不可能ではない.特にデジタルネイティブ世代の学生にとってはインターネットでの検索のみならず生成AI等をうまく使うことで突破できるケースも少なくない.実際に私自身も必要な解析用コードを生成AIに提案してもらうことで解析における壁を突破したことがある.

一方で,特に学生に大きく立ちはだかる壁として「研究の臨床的妥当性を考えること」があげられる.解析技術を身に着けることができたとしても,研究デザインや定義が臨床的に妥当なのかといった臨床的感覚が分からず躓くことも多い.これは知識だけでどうにかなる壁ではなく,学生自身で考えることも難しい.実際にデータベース研究を行っている学生の中でも,データベース研究において「臨床的意義を理解すること」について大切だとは理解しているが,実際に行うにあたり特に難しいと感じている学生が多い.

 学生視点でデータベース研究の教育に求めること

この壁を突破していくには,データベース研究だけでなく臨床経験のある先生のサポートが必要不可欠である.そこで,これまでデータベース研究を行ってきた中で自分がしていただいたサポートをふまえて,学生の立場からデータベース研究教育に求めることをいくつかあげる.

まず,研究を行うにあたり先生方がどのような思考プロセスで研究を行っているかを伝えていただきたい.データベース研究を行うにあたり,定義や解析手法など適切な手法の選択には特に注意が必要なことが多い.研究を円滑に進める上では,学生自身に考えさせるよりも,定義や手法等の決定事項を提示して研究を進める方が研究としては生産性が高いかもしれない.一方で,全て与えられるだけだとデータベース研究を作業としてしまい,解析を行っている中での疑問点などもスルーしてしまうことがある.手取り足取りすべて教えていただく必要はないと思うが,先生方が普段研究を行う上で考えるプロセスを共有していただくだけでも学生には大きな学びとなる.

次に,可能な限り多くのデータベース研究に触れる機会を作っていただきたい.データベースは様々な種類が存在し,その特徴や活用方法は多岐にわたる.近年,様々な学会でデータベース研究が盛んに発表されており,シンポジウムや一般演題の発表だけでなく,質疑からも研究を行う上での注意点などを学ぶことができる.私自身も研究室内で様々なデータベースを扱うだけでなく,実際に臨床現場で活躍している先生方と議論や共同研究する機会を作っていただいている1–4).

一方でこれはデータベース研究に限った話ではないが,学生によって研究に対する姿勢や特性が異なるため,一貫して同じ指導を行うことや他者と比較するというよりは,それぞれの学生にしっかりと向き合っていただきたい.

 学生が感じるデータベース研究の魅力

このようにいろいろなサポートを受けながら約6年間データベース研究を行ってきて,データベース研究は学生にとっても魅力的な研究の1つだと感じている.例えば,(例外はあるが)基礎研究とは異なり,研究を行う上で大きな設備等が必要ではなく,時間や場所を問わず研究を行うことができる.例えば本邦の有害事象自発報告データベースであるJapanese Adverse Drug Event Report(JADER)は学生が持つ一般的なパソコンでも解析が可能である.データベース研究は解釈にはとても注意が必要な場合が多いが,学生のうちからデータベース研究を行うノウハウを取得することで,卒業して臨床現場に出た際に,臨床の疑問について自分で検討する力を身につけられる.また,臨床現場の疑問を解決していく上では,様々な論文やガイドラインを参照する機会が多く,その中にはデータベース研究も多く存在する.実際にデータベース研究に触れていることで,他のデータベース研究の内容を理解・吟味する手助けとなる.

このようにデータベース研究は学生にとっても魅力があるが,実施するにはぶつかる壁が多いため,先生方のサポートが必要不可欠である.ぜひ1人1人の学生とよく向き合っていただき,今後のデータベース研究の世界を盛り上げていけたらと思う.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

文献
 
© 2025 日本薬学教育学会
feedback
Top