ファーマシスト・サイエンティストの養成
―大阪大学薬学部の取り組み―
論文ID: 2023-018
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論文ID: 2023-018
大阪大学薬学部は，平成31年度より，これまでの6年制薬学科と4年制薬科学科の2学科を発展的に融合させた，新しい6年制学科を新設した．この「研究型全6年制」薬学教育システムでは，3つの特徴的なコースを設置している．【先進研究コース】は，大学院薬学研究科と一体となり，特有の10年一貫研究教育により，世界基準を凌ぐ研究力を養い，国際舞台で活躍する薬剤師博士を養成する．【大阪大学Pharm. Dコース】は，早期から臨床や医療を中心とした研究教育を行い，未来医療の実現を目指して「研究型高度薬剤師」を養成する．【薬学研究コース】は，臨床での経験を有し，かつ基礎研究から創薬研究へと応用展開できる能力を養う研究教育を行い，「薬剤師創薬研究者」を養成する．また，大学院薬学研究科は，創成薬学専攻の博士課程（前期2年制・後期3年制）と6年制薬学科を基礎とする医療薬学専攻の博士課程（4年制）を設置している．
Osaka University, Faculty of Pharmaceutical Sciences, has established a new six-year department, which is a developmental fusion of the existing two departments, the six-year Pharmacy Department and the four-year Pharmaceutical Sciences Department, starting in the academic year 2019. This “research-based, all six-year pharmacy education system” offers three distinctive courses. The “Advanced Research Course” is integrated with the Graduate School of Pharmaceutical Sciences, and through its unique 10-year integrated research education, cultivates research capabilities that surpass global standards and nurtures pharmacists who will be active on the international stage. The “Osaka University Pharm. D. Course” provides research education focusing on clinical and medical care from early on and cultivates “research-oriented advanced pharmacists” aiming to realize future medicine. The “Pharmaceutical Research Course” provides research education that cultivates the ability to apply and expand from basic research to drug discovery research with clinical experience, and trains “pharmacist-drug discovery researchers”. The Graduate School of Pharmaceutical Sciences offers two doctoral programs: a two + three-year doctoral program in the Pharmaceutical Sciences and a four-year doctoral program in the Medical Pharmaceutical Sciences, which is based on the six-year PharmD program.
本学部は，2019年度から薬学科（6年制）のみの1学科になり，研究型全6年制薬学教育システムによる人材育成を推進している1)．すなわち，本学部の教育システムでは，高い資質を有する薬剤師を養成するために，臨床の第一線で活躍する薬剤師・医師にも参画いただき，充実したカリキュラムを提供している．
さらに，論理的で柔軟な思考力や豊かな創造性を身に付けるために，研究に打ち込む時間を十分に確保している．薬剤師養成のための教育と研究力の涵養とを両輪として（図1），薬学研究，医療，医薬品開発，医薬保健行政などの分野におけるグローバル人材の育成を目指している．
ファーマシスト・サイエンティスト
本学科では，先進研究コース，大阪大学Pharm. Dコース，薬学研究コースの3コースを設定している（図2）．コースの選択は3年進級時に行う．学校推薦型選抜による入学者は先進研究コースに進学し，一般選抜による入学者は，他の2コースのいずれかを選択する．なお，学校推薦型選抜による入学者が先進研究コース以外のコースに進学することは想定してない．また，一般選抜による入学者が先進研究コースを選択する場合はコース編入試験を行う．ここではこれら3つのコースの概要を説明する．
大阪大学薬学部の2つのコース
先進研究コースは，大阪大学薬学部･薬学研究科が「Pharmacist-Scientist（薬剤師博士）」を養成するうえで理想とする教育･研究の在り方を具現化したプログラムである．Pharmacist-Scientist（薬剤師博士）とは，国際的に通用する創薬研究者のことである．現在，薬の知識を持った創薬研究者，臨床現場を知っている創薬研究者は極端に不足しており，研究機関や大学をはじめ，製薬企業，医療機関，行政機関など産学官の各方面から有望な人材が求められている．
そうした社会のニーズを踏まえて誕生したのが先進研究コースである．世界水準を凌ぐ研究力を養成するため，薬学部と大学院が一体となった10年一貫の独自プログラムを新たに導入した．学部を一旦休学して大学院博士課程に飛び入学することで，核となる研究活動を中断することなく継続できる体制を整えるとともに，薬剤師国家試験の受験資格も取得できるようにスケジュールが組まれている．なお，大学院博士課程（4年間）在学中は，経済的な負担を軽減するための支援がある．
【特徴】・創薬研究者としてPharmacist-Scientist（薬剤師博士）を養成
・研究活動を継続できる学部･大学院が一体となった10年一貫体制
・大学院修了（博士）と薬剤師国家試験の受験資格を取得
大阪大学Pharm. Dコースは，世界に通じる「研究型高度薬剤師」を育成するコースである．Pharm. D（大阪大学）は，グローバルで通用する職能として大阪大学が独自に呼称するものである．「全6年制教育」に先駆けて2013年度から導入されているコースであり，すでに豊富な教育実績を有している．
研究型高度薬剤師に求められるのは卓越した臨床力と研究力である．そのためPharm. Dコースでは，医療や臨床の早期体験を可能にし，3～4年次には医学部や歯学部，附属病院，臨床や医療に特化した薬学部の研究室などに配属して横断的な教育を実施する．実務実習が実施される前の3年次から臨床を体験し患者さんと触れあう機会を設けている．関連部局や連携医療機関に加えて，PMDA（独立行政法人 医薬品医療機器総合機構）や製薬会社を招いた講義も実施している．
卒業後のキャリアパスとしては，大学や臨床（医療機関）で活躍する薬剤師のリーダー，厚生労働省などの官公庁がめざせるほか，製薬会社の臨床開発部門や信頼性保証部門での活躍も期待される．大学院博士課程に進み，薬学的視点からの臨床創薬研究で成果を上げてPharmacist-Scientist（薬剤師博士）をめざす道も考えられる．
【特徴】・医療や臨床の早期体験が可能な独自のプログラム
・医学部や歯学部，附属病院，関連病院と連携した教育･研究
・研究型高度薬剤師としての職能，Pharm. D（大阪大学）
薬学研究コースの目的は，基礎薬学研究を通じて社会に貢献する「創薬研究者」を養成することである．そのため，化学薬学や生命薬学，医療･衛生学などの基礎薬学の教育･研究を中心に据えたプログラムを編成している．6年間で学会発表や論文発表レベルまでの教育･研究を行い，創薬基盤技術力を養成．大学院博士課程に進んで創薬研究者をめざせるタイムテーブルが用意されている．
薬学研究コースの教育ベースは，従来の［薬科学科4年制+大学院修士課程］であるが，大きく異なるのは，これまでの薬学教育で課題とされてきた研究の連続性が確保されていること．薬剤師国家試験の受験資格に必要となる事前学習や実務実習を5年次後半から6年次前期へと1年遅らせて実施することで，研究室配属後の2年半，連続して研究活動ができるようになり，就職活動にも影響されなくなった．
臨床･医療の第一線にも触れ，薬剤師国家試験の受験資格を取得し，合格することで「薬剤師の資格･職能を持った創薬研究者」としての姿が具体的に見えてくる．
将来は，公的な研究機関，企業の研究部門，大学教員，医療機関，薬事行政に関わる官公庁などでの活躍が期待される．
【特徴】・基礎薬学研究や創薬研究を中心とした教育･研究体制
・実務実習を遅らせることで研究活動に連続性を確保
・薬剤師国家試験の受験資格を取得
発表内容に関連し，開示すべき利益相反はない．
