Japanese Journal of Pharmaceutical Education
Online ISSN : 2433-4774
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Practice of activities for learning from drug injury and practical training
Yuki Nakamura
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Article ID: e09014

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抄録

シンポジウムでは「薬剤師としての使命と責任について自覚した行動」を考える時,改訂コアカリでの薬害・医療安全の位置づけと課題,薬害・医療事故防止から学ぶ活動,薬剤師研修の実践,薬害被害者が薬学教育に期待することを各シンポジストにお話しいただき,この領域の学びの構築を目標とした.TAYA研究会は中高生を対象に「薬害被害者の声を聴き,繰り返さないためにできること」「医療人の資質を考える」などの活動を実践してきた.また実務実習では「薬害被害を繰り返さないという薬剤師の責務」を考え,聴いて,体験して,実践できることに取り組んでいる.これらについて具体的に紹介し考察する.

Abstract

In the symposium, each symposiast spoke about the positioning and issues of drug injury and medical safety in the revised Core Curriculum, activities to learn from drug injury and medical accident prevention, practice of pharmacist training, and what drug injury victims expect from pharmacy education when considering “actions with an awareness of the mission and responsibility as a pharmacist”. The goal was to build learning in this area. The TAYA Research Group has been practicing activities such as “Listening to the voices of victims of drug-related accidents and what we can do not to repeat them” and “Considering the qualities of medical professionals” for junior high and high school students. In practical training, the students are engaged in thinking, listening, experiencing, and being able to put into practice “the pharmacist’s duty of not repeating the harm caused by drugs. These activities will be introduced and discussed in detail.

改訂コアカリキュラム1) において「B社会と薬学」はC~Gのすべての学修の基盤となる領域として位置づけられています.では「薬剤師の責務」は何かと問われた場合には,一番は「薬害を繰り返さない,医療事故を起こさない」「医薬品の使用で辛い思いをする人をださない」ではないでしょうか.これは行政,製薬会社,医療従事者と立場の違いがあっても,薬剤師としての使命と責任の根幹にあると考えます.また国民に医薬品の使用における「国民の役割」2) を伝えつづけることも重要で,薬剤師の責務でもあります.

小学生のお薬教室では「国民の役割」をふまえて,すべきことは何かを伝えています.中高生に薬害被害を伝え,国民としてできることはなにかを考える機会を実践してきました.また 医療人を目指した中高生には「医療人の資質」を考えて進学してほしいと考えています.

また薬学部実務実習が,社会の中で「薬剤師としての使命と責任について自覚した行動をどのように実践し責務を果たしているのか」を聴いて体験し,薬剤師としてのプロフェッショナリズムを深く育む機会になると考え取り組んでいます.

 実践の概要

 1)薬害被害から「国民の役割」をふまえた小学6年生へのお薬教室(実務実習生参加)

薬機法には「国民の役割」があり,薬害肝炎最終提言で薬事法の目的規定等の見直し3) から設けられたものです.私たちは,「自身の症状にあった薬をもらい,安全に正しく使用することができる」ことを教育目標にしています.日本薬剤師会学術大会2024大宮にポスター発表をしました.もうすぐ大人になる6年生は,ペアで症状を丁寧に聴きとる,伝えるという体験より,医療者とのコミュニケーションを体感しています.実務実習生は当日事前アンケートの質問に答えています.「国民の役割」については大学での学びを深めて理解する機会になり,薬教育の発達段階でのプログラムの違いについて考えています.

 2)薬害被害を知り,できること(中高生の公開講座)

2013年度厚生労働省が全国の中学生に「薬害を学ぼう」冊子4) の配布を開始し,これまで教員用の指導の手引き,被害者の声の映像教材などを作成しています.公益社団法人甲府市薬剤師会として中高生を対象としたワークショップを開催し報告書5) を提出しています.このプログラムでは代表的な薬害について調べ,SGDで「薬害はなぜ起きたのか」をプロダクトにまとめ,被害者の声を聴き,SGDで行政・製薬・医療従事者・国民の立場になり「薬害を繰り返さないためにできること」をプロダクトにまとめて全体討議します.

学部授業においても,冊子の活用を行い,薬害被害を知り,立場を変えて薬剤師としてできることを考え,被害者の声を聴き薬剤師としての使命と責務を考える機会を検討いただきたいと考えます.

 3)医療を目指す高校生に,薬害被害を知り,医療人の資質を考える

医療系学部への進学を考えている高校生を対象に実施しています.薬害被害者の声を映像で聴き,SGDで「医療人として求められる資質」をプロダクトにまとめて,全体討議を行います.高校生は具体的に医療者としての責任,患者を尊重する行動など意見を寄せ合います.「良き医療人になる」ことを初心として言葉に表現し使命感を考えています.

学部授業においても,薬害被害者の声を聴く機会はあるかと思いますが,早期学習として学生が自分自身の初心を言葉にし,使命をもって学び続けてほしいと考えます.薬害被害者の方々は「被害者にも加害者にもなってほしくない」と訴えています.

このTAYA研究会の取り組みは日本薬剤師会学術大会2019山口においてポスター発表6) をしています.

 4)薬学部実務実習での実践

あおぞら薬局富士見店は実務実習を継続して受け入れています.日報では動いた感情も併せて記載することを指導し,指導者も薬剤師としての考えと行動を言葉で伝えています.薬害被害から創設された制度についても具体的な行動を下記の事例より体験しています.

・PMDAから添付文書を調べること,合わせてRMP,再審査結果など調べること

・服薬指導と薬歴記載では,RMP資材を活用し,記録として残し,フォローアップを行う

・お薬手帳から,重複・相互作用を調べ,疑義照会する

・ソリブジン事件について調べ,お薬手帳の意義,国民の役割を考える

・「国民の役割をふまえた,お薬教育」に参加する

・新型コロナワクチン,HPVワクチン接種後,フォローアップシートの活用

・新型コロナ感染症治療薬より,新薬承認審査,最新で最善な医療を提供することを考える

・ソコーバ投与患者の妊娠判明事例について調べ,できることを考える

実務実習では患者さんを目の前になにをどうしたらよいのか考え,その体験がプロフェショナルとしての自覚につながると考えています.

 まとめ

薬害は繰り返されており,薬害被害者の思いは「薬害を繰り返さない・薬害を忘れない」であり,薬害は過去のことではなく,現在も多くの被害者の方々が苦しく思うようにならない日常を過ごしています.そのことを薬剤師が心にとめて責務を果たすことこそが「使命」「何のために」だと考えます.「B社会と薬学」において,薬害被害者の声を聴き使命感を醸成し,薬害事件の項では行政・製薬会社・医療従事者・国民の立場に立ち,できることを考え,医療現場で実践されていることを踏まえた学修を期待しています.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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