日本公衆衛生看護学会誌
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研究
就業1年目保健師の家庭訪問能力の発達
―指導者の評価による縦断調査―
佐伯 和子水野 芳子平野 美千代本田 光
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2021 年 10 巻 2 号 p. 43-52

詳細
Abstract

目的:就業1年目保健師の家庭訪問能力の発達過程を明らかにした.

方法:指導保健師が新人保健師の家庭訪問能力36項目を1年間に3回の縦断調査で評価した.

結果:12か月後に各項目で自立レベルと評価された新人の割合の平均は37%であった.信頼関係構築の項目の評価は高く,総合的な判断の項目,近隣地域など複雑な要素の項目,家庭訪問の本質的意義の理解などの項目の評価は低かった.4か月後と12か月後の36項目の評価の相関は高かった.自立レベル割合は1年間で多くの項目に有意差があり,4か月後から8か月後の変化は大きく,12か月後へは緩やかだった.

考察:家庭訪問能力の発達は,項目により異なることを前提に指導をすること,項目の到達レベルは就業初期と1年後の相関が高いことから基礎教育での基本的な訪問技術の強化が示唆された.また,12か月後の到達レベルは要指導段階であり,2年目も継続した現任教育が必要である.

Translated Abstract

Purpose: This study observed the development of novice public health nurses’ (N-PHN) home-visiting skills for a year.

Methods: The PHN preceptors evaluated N-PHNs’ home-visiting skills with 36 items three times in a one-year longitudinal study.

Results: Based on the average of 36 items, 37% of the N-PHNs were evaluated as “independent level: being self-supporting” after 12 months of employment. The items that were evaluated as “high” focused on establishing a relationship of trust. The items that were evaluated as “low” concerned comprehensive judgment, including complicated elements (e.g., about community) and interpretation of the value of home visits. The ratio of items that were rated as “independent level” among the 36 items between 4 and 12 months was highly correlated. There were many significant differences in the ratio of “independent level” of each item in a year, particularly from months four to eight. However, there were fewer differences between the eighth and twelfth months.

Discussion: As the development of N-PHNs’ home-visiting skills varied across items, the preceptors may give instructions according to the level of each item. The high evaluation at the time of employment resulted in a high evaluation one year later. It was suggested that strengthening basic home-visiting skills in school education before employment is necessary.

I. 緒言

家庭訪問は,生活の場に出向き直接本人や家族と会うことにより,健康状態の観察だけでなく,住居や地域の環境も把握でき,実際の生活に即した支援ができる有効な支援方法である(大木ら,2014下村ら,2016).保健師は活動の基本を家庭訪問を通して形成してきた(北岡,2004).しかしながら,行政保健師の家庭訪問へのかかわりは減少傾向にある(厚生労働省,20132019).

就業初期の新任期の保健師にとって,家庭訪問を通しての学びは大きい(仲村ら,2012).新任期に同行訪問による指導を受けた保健師は,集団・地域を対象とした実践能力の到達度が高い(松田ら,2018)という報告から,新任期に丁寧な家庭訪問の指導を行う重要性が示唆される.人材育成における家庭訪問の意義は実践の場でも認識され,新任研修でも家庭訪問の技術習得が取り上げられ(鈴木ら,2012),研修の充実が図られている.一方で,新任期保健師の個人・家族支援の自己評価が低いこと(大西ら,2013佐伯ら,2016)などの課題が明確になっている.背景には,保健師自身の対人関係能力の課題が指摘されている(藤井ら, 2016近藤ら,2007).

行政保健師が行う家庭訪問の特徴は,医療保険や介護保険などの契約に関連して技術やサービスを提供する訪問看護や介護とは異なり,支援の必要な人に契約によらず,無料の原則で予防の視点を持って医療職として支援を行う点である.個別支援では,虐待予防や精神障害を持ちながら育児を行う事例など,社会的な格差と関連する複雑な課題を抱える事例への対応が求められている(吉岡,2018).

このような現場の状況下において,新任期は基礎教育での学びを現実社会で活動を一人でできるレベルへと移行する過程にある重要な時期である.新人保健師の就業前の家庭訪問の経験は明確ではないが,保健師助産師看護師学校養成所指定規則で保健師教育課程においては,個人・家族・集団・組織の支援実習の備考欄に「継続した指導を含む」と明記されており,家庭訪問は実習での必須体験ではない.市区町村の公衆衛生看護学実習での家庭訪問の経験は,2例以上の見学訪問は46.1%,1例以上の主体的な継続訪問は30.4%であった(表ら,2019).経験の少ない新任期の保健師をどのように育成するのが良いのか,指導者の悩みは大きい(嶋津,2017).

厚生労働省「新人保健師研修」の技術指導例において家庭訪問の到達目標は,「担当地区の基本的な事例の訪問支援を一人で行うことができる」とされている(厚生労働省,2011).新任期の保健師の現任教育や成長発達については,多くの研究がなされてきた.新任期の保健師のキャリア発達に関しては新任期を3年目もしくは5年目までなどとして,就業後複数年の保健師を一集団として扱い,横断研究による調査はされてきた(藤井ら,2016松田ら,2018佐伯ら,2016).しかし,就業1年目に限定した縦断調査はあるが(千葉ら,2017山田ら,2020),家庭訪問に限定して詳細に能力を測定したデータは見当たらない.

本研究の目的は就業1年目保健師の家庭訪問能力の発達過程を明らかにすることであり,その過程を客観的に示すために数量データを用いて縦断調査を行った.また,できるだけ客観的に評価を行うため,家庭訪問能力を新人保健師の指導者からの評価とした.

なお,本論文では就業1年目の保健師を新人保健師と記載し,中堅期に入る前の時期を新任期とした.

II. 方法

1. デザイン

本研究は記述観察研究である.指導保健師が就業1年目の新人保健師の家庭訪問能力の評価を行い,3回の縦断調査を行った.なお,本研究は「新人保健師の家庭訪問の実態」に関する研究プロジェクトの一環であり,本調査と並行して新人保健師に対しても同様の調査を実施した.本稿では指導保健師の調査結果を用いて,新人保健師の家庭訪問能力の評価を行った.

2. 対象

本調査の対象は,新人保健師の指導を担当する指導保健師である.新人保健師は非常勤を含め保健師経験がないことを要件とした.

調査の依頼は,最初に,機縁法により調査の協力が得られた4つの都道府県(以下,県とする)内の県庁及び指定都市の保健師業務管轄部署に口頭及び書面で研究概要を説明した.新人保健師のいる自治体への協力意思の確認は県及び指定都市の本庁の意向に従い,本庁から協力依頼と参加の意思確認を行った自治体と,研究者が直接連絡を行った自治体があった.協力可能な自治体に所属し,要件に該当した新人保健師は119名であった.

対象者への依頼は研究概要を文書で説明し,書面による参加の同意を得た.新人保健師にも同じ研究概要の説明文を送付し,研究参加への同意を得た.両者には別々に依頼と参加の同意を確認した.研究参加の同意が得られた新人保健師は80名,指導保健師は76名であった.

3. 調査内容

指導保健師の個人属性は,性別,年齢,所属機関,保健師経験年数,教育背景,指導者経験を聞いた.

新人保健師の家庭訪問能力は,家庭訪問の基盤となる信頼関係構築3項目,実施過程として①訪問前アセスメント7項目,②訪問計画4項目,③実施場面14項目,④訪問後4項目,⑤家庭訪問の意義の認識として訪問の意義4項目の計36項目を,「助言されてもできない」「多くの助言でできる」「少しの助言でできる」「ほぼ一人でできる」「安定してできる」の5段階で評価した.家庭訪問能力は,現地に赴くこと,信頼関係の構築,優先順位の決定,ニーズをとらえて保健指導を実施するなどの要素が抽出されている(大木ら,2014大西ら,2012高橋,2010田村,2008).そこで,新人保健師の家庭訪問能力の調査項目と評価尺度は,これらの文献と,新人看護職員研修ガイドライン~保健師編~技術指導の例(厚生労働省,2011),及び先行研究(Benefield, 1996Byrd, 1995Davis, 1993兼平ら,2016鈴木ら,2012)を参考に作成した.質問紙の内容は,保健師経験のある複数の公衆衛生看護学研究者で検討し,妥当性を確認した.

4. データ測定と収集

調査は2016年7月末,11月末,2017年3月末の3時点で評価を行い,調査票はIDにより管理した.調査票は個別に郵送による配布と回収を行った.

5. 分析

指導保健師による3回すべての調査データが得られた新人保健師63名分の評価を分析対象とした.

家庭訪問能力の評価は各時期で5段階の単純集計を行った.次に,5段階による評価を,多助言レベル(「助言されてもできない」と「多くの助言でできる」),少助言レベル(「少しの助言でできる」),自立レベル(「ほぼ一人でできる」と「安定してできる」)の3つの段階による評価に再編した.その理由は,5段階の分布で「助言されてもできない」が非常に少なかったこと,新人保健師の到達目標は「一人でできる」であることに拠った(厚生労働省,2011).

指導の観点からの意味付けとして,自立レベルに到達すると濃厚な指導から見守る指導へと指導体制を転換できると考えられる.そこで,新人保健師の到達状況は,4か月時,12か月時に自立レベルと評価された割合を用いた.四分位を目安に,75%以上が自立レベルであれば,その項目は高い到達レベルにあると判断した.また,各項目は4か月時と12か月時の到達レベルが関連するのかについて,多助言レベル割合並びに自立レベル割合をPearsonの相関係数を用いて検討した.

1年目における変化は,項目ごとに自立レベルの割合をCochranのQ検定で3時期の比較を行い,さらに,4か月時と8か月時,8か月時と12か月時の変化はMcNemar検定を行った.すべての統計学的検定は,IBM SPSS Ver25を使用し,有意水準は5%とした.

6. 倫理的配慮

本研究は北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号16-38,承認日2016年7月19日).調査開始前に,研究参加は自由意志に基づき,不参加や中断による不利益はないこと,データは統計的に処理し,個人が特定されないこと,公表に際して個人や組織が特定されないことを研究概要に記載し,書面で説明した.研究参加の同意は,書面により得た.研究参加者の個人情報保護のため,調査票の送付を行う名簿管理担当と,調査票の受け取り及びデータ管理担当を分け,名簿と調査票を突合できないようにした.

III. 結果

指導保健師の調査票は,4か月時72部(94.7%),8か月時71部(93.4%),12か月時68部(89.5%)回収され,3回の有効回答は63部(82.9%)であった.

1. 回答者の概要

指導保健師の実数は60名で,表1のとおりである.女性が96.7%,年齢は25~63歳,保健師経験年数は平均15.8±10.2年,所属は県36.7%,職位はスタッフ68.3%,指導者経験あり58.3%であった.

表1  回答者(指導保健師)の概要(N=60)
%
性別 女性 58​ 96.7
男性 2​ 3.3
年齢 最小~最大(歳) 25~63​
平均 39.6±10.1​
保健師従事年数 最小~最大(年) 2~41​
平均 15.8±10.2​
自治体 都道府県 22​ 36.7
指定都市,中核市,政令市 8​ 13.3
市町村 30​ 50.0
職位 スタッフ 41​ 68.3
係長,課長 19​ 31.7
保健師教育 養成所 33​ 55.0
短期大学 5​ 8.3
大学 22​ 36.7
指導者経験 あり 35​ 58.3
なし 25​ 41.7

2. 各期の全体的な到達状況

家庭訪問能力36項目に対する指導保健師による5段階評価の割合は表2のとおりである.

表2  指導保健師による新人保健師の家庭訪問能力36項目の評価の割合
4か月   8か月   12か月
延数 %(範囲) 延数 %(範囲) 延数 %(範囲)
多助言レベル 786​ 34.7%   542​ 23.9%   492​ 21.7%
 助言してもできない 7​ 0.3%(0~1.6%)   11​ 0.5%(0~3.2%)   11​ 0.5%(0~1.6%)
 多くの助言でできる 779​ 34.4%(1.6~67.0%)   531​ 23.4%(1.6~50.8%)   481​ 21.2%(6.3~38.1%)
小助言レベル
 少しの助言でできる
1062​ 46.8%(22.2~67.0%)   1052​ 46.4%(31.7~63.5%)   932​ 41.1%(11.1~52.4%)
自立レベル 419​ 18.5%   673​ 29.7%   844​ 37.2%
 ほぼ一人でできる 339​ 15.0%(3.2~49.2%)   503​ 22.2%(9.5~44.4%)   651​ 28.7%(11.1~50.1%)
 安定してできる 80​ 3.5%(0~15.9%)   170​ 7.5%(1.6~30.2%)   193​ 8.5%(0~30.2%)
2267​a 100.0%   2267​a 100.0%   2268​ 100.0%

新人保健師63人×36項目

範囲:一項目における該当者の割合の最小と最大

a:欠損1

就業4か月時,8か月時,12か月時の各時期での新人保健師の到達状況は,36項目を平均すると,多助言レベルの割合は34.7%,23.9%,21.7%であった.同様に,少助言レベルの割合は46.8%,46.4%,41.4%,自立レベルの割合は18.5%,29.7%,37.2%であった.

3. 家庭訪問能力の項目別の到達状況

各項目について,多助言レベルの新人保健師の割合は表3に,自立レベルの割合は表4に示した.結果の記述では各項目名は短縮形とした.

表3  新人保健師の家庭訪問能力項目の多助言レベルの割合(N=63)
4か月 12か月
項 目  省略形 % %
関係構築
  訪問目的の明確化と説明 目的説明 19.0 14.3
  傾聴の姿勢 傾聴 1.6 7.9
  共に考えようとする姿勢 共感姿勢 6.3 9.5
訪問前アセスメント
  個人の身体的医学的アセスメント 身体アセス 9.5 14.3
  個人の心理的アセスメント 心理アセス 30.2 19.0
  個人の生活のアセスメント 生活アセス 33.3 22.2
  家族関係のアセスメント 家族アセス 42.9 27.0
  近隣地域のアセスメント 近隣アセス 61.0 38.1
  社会資源のアセスメント 資源アセス 66.7 41.3
  情報を関連づけた総合的な判断 総合アセス 52.4 38.1
訪問計画
  個人・家族の健康課題の予測 課題予測 28.6 17.5
  健康課題の優先性の判断 優先予測 28.6 27.0
  短期目標と長期目標の設定 目標設定 44.4 28.6
  支援計画の立案 計画立案 39.7 23.8
訪問場面
  個人・家族の身体的・医学的な観察と情報収集 身体観察 11.1 12.7
  個人・家族の心理的な側面の観察と情報収集 心理観察 33.3 20.6
  個人・家族の生活に関する観察と情報収集 生活観察 27.0 17.5
  家族関係に関する観察と情報収集 家族観察 27.0 19.0
  情報を関連づけた総合的な判断 総合判断 54.0 31.7
  健康課題の特定と優先性の判断 優先判断 42.9 28.6
  訪問場面での対象に合わせた計画の再調整 再調整 47.6 31.7
  正確な技術や知識の提供 技術提供 46.0 17.5
  生活に即した具体的な支援・保健指導 保健指導 55.6 25.4
  社会資源の活用 資源活用 65.1 33.3
  関係機関への連絡,紹介 連絡紹介 52.4 25.4
  支援の継続性の判断 継続判断 31.7 23.8
  対象者の価値観や信念の尊重 価値尊重 20.6 12.7
  対象者の主体性を尊重 主体尊重 15.9 12.7
訪問後
  簡潔で正確な記録 記録 19.0 12.7
  目標の到達状況と次回計画 次回計画 27.0 15.9
  自己の支援内容の評価 自己評価 34.9 19.0
  上司への迅速な報告 報告 19.0 14.3
訪問意義
  家庭訪問の意義の理解 意義理解 14.3 7.9
  事例にとっての家庭訪問の必要性の理解 必要性理解 15.9 11.1
  家庭訪問事例と地区活動の関連の理解 地区関連 65.1 33.3
  保健師のセーフティネット機能の理解 安全網機能 58.7 25.4
表4  新人保健師の家庭訪問能力項目の自立レベルの割合(N=63)
4か月
(A)
8か月
(B)
12か月
(C)
P
McNemar検定 CochranQ検定
項 目 % % % A・B B・C A・B・C
関係構築
  訪問目的の明確化と説明 19.0 46.0 46.0 <.001 1.000 <.001
  傾聴の姿勢 63.5 74.6 81.0 .118 .424 .024
  共に考えようとする姿勢 44.4 65.1 73.0 .011 .359 <.001
訪問前アセスメント
  個人の身体的医学的アセスメント 23.8 34.9 50.8 .143 .041 .001
  個人の心理的アセスメント 17.5 27.0 30.2 .180 .791 .125
  個人の生活のアセスメント 9.5 23.8 30.2 .035 .424 .003
  家族関係のアセスメント 6.3 22.2 27.0 .006 .581 .001
  近隣地域のアセスメント 6.5 14.3 23.8 .016 .146 .005
  社会資源のアセスメント 3.2 12.7 15.9 .031 .754 .018
  情報を関連づけた総合的な判断 6.3 12.7 11.1 .344 1.000 .368
訪問計画
  個人・家族の健康課題の予測 11.1 27.0 33.3 .041 .424 .006
  健康課題の優先性の判断 11.1 17.5 25.4 .454 .227 .079
  短期目標と長期目標の設定 7.9 17.5 23.8 .180 .344 .032
  支援計画の立案 12.7 22.2 34.9 .210 .115 .008
訪問場面
  個人・家族の身体的・医学的な観察と情報収集 41.3 44.4 52.4 .824 .383 .328
  個人・家族の心理的な側面の観察と情報収集 14.3 27.0 36.5 .077 .286 .010
  個人・家族の生活に関する観察と情報収集 19.0 25.4 38.1 .454 .134 .024
  家族関係に関する観察と情報収集 15.9 33.3 36.5 .003 .815 .003
  情報を関連づけた総合的な判断 7.9 19.0 23.8 .092 .508 .012
  健康課題の特定と優先性の判断 11.1 17.5 22.2 .344 1.000 .143
  訪問場面での対象に合わせた計画の再調整 11.1 31.7 31.7 .001 1.000 .001
  正確な技術や知識の提供 12.7 25.4 31.7 .077 .344 .009
  生活に即した具体的な支援・保健指導 7.9 14.3 27.0 .344 .021 .003
  社会資源の活用 3.2 12.7 17.5 .070 .508 .015
  関係機関への連絡,紹介 4.8 19.0 27.0 .012 .267 <.001
  支援の継続性の判断 14.3 23.8 36.5 .210 .077 .003
  対象者の価値観や信念の尊重 33.3 36.5 52.4 .824 .031 .018
  対象者の主体性を尊重 31.7 38.1 57.1 .503 .012 .001
訪問後
  簡潔で正確な記録 28.6 42.9 49.2 .022 .454 .006
  目標の到達状況と次回計画 12.7 25.4 38.1 .077 .096 .002
  自己の支援内容の評価 14.3 27.0 30.2 .077 .791 .042
  上司への迅速な報告 49.2 54.0 58.7 .664 .581 .381
訪問意義
  家庭訪問の意義の理解 36.5 54.0 63.5 .027 .286 .002
  事例にとっての家庭訪問の必要性の理解 28.6 44.4 54.0 .031 .327 .005
  家庭訪問事例と地区活動の関連の理解 12.7 14.3 25.4 1.000 .143 .058
  保健師のセーフティネット機能の理解 11.1 20.6 22.2 .180 1.000 .104

1) 多助言レベルと評価された割合

4か月時に多助言レベルの新人保健師が50%以上かつ12か月時に25~50%未満の項目は,訪問前のアセスメントでは,「近隣アセス」,「資源アセス」,「総合アセス」の3項目,訪問場面では「総合判断」,「保健指導」,「資源活用」,「連絡紹介」の4項目,訪問意義では,「地区関連」,「安全網機能」の2項目で計9項目であった.

12か月時に多助言レベルの新人保健師が25%以上の項目は上記のほか,訪問前のアセスメントでは,「家族アセス」,計画立案では「優先予測」,「目標設定」,訪問場面では「優先判断」,「再調整」の項目があった.

多助言レベルの新人保健師の割合は,4か月時と12か月時の相関係数はr=0.906だった.

2) 自立レベルと評価された割合

4か月時に自立レベルの新人保健師が50%以上かつ12か月時に75%以上の項目は,関係構築の「傾聴」1項目だった.4か月時に自立レベルの新人保健師が25~50%未満かつ12か月時に50~75%未満の項目は,関係構築では「共感姿勢」1項目,訪問前アセスメントは0項目,訪問計画0項目,訪問場面「身体観察」,「価値尊重」,「主体尊重」の3項目,訪問後は「報告」1項目,訪問意義は「意義理解」,「必要性理解」の2項目で合計7項目が該当した.

4か月時と12か月時ともに自立レベルの新人保健師が25%未満の項目は,訪問前アセスメントでは「近隣アセス」,「資源アセス」,「総合アセス」の3項目,計画立案では「目標設定」,訪問場面では「総合判断」,「優先判断」,「資源活用」,意義では「安全網機能」の計8項目であった.自立レベルの新人保健師の割合は,36項目の4か月時と12か月時の相関係数はr=0.938だった.

4. 1年目における到達度の変化

各項目で3時期を比較して有意差があったのは,関係構築3項目,訪問前アセスメント5項目,訪問計画3項目,訪問場面12項目,訪問後3項目,訪問意義2項目で合計28項目であった.特に,18項目は有意差がP < 0.001であった.有意差がなかった8項目は2つのタイプがあり,「身体観察」など4か月時点で比較的高い自立割合の項目と,「総合アセス」など4か月時,12か月時ともに自立レベルが低い項目であった.

4か月時と8か月時の比較では,関係構築2項目,訪問前アセスメント4項目,訪問計画1項目,訪問場面3項目,訪問後1項目,訪問意義2項目の計13項目で有意差があった.

8か月時と12か月時では,訪問前アセスメント1項目,訪問場面3項目の計4項目で有意差があった.

IV. 考察

1. 対象集団について

指導保健師集団を嶋津の全国調査(2017)でのプリセプター集団と比較すると,嶋津の調査では平均年齢39.0歳(24~58歳),保健師経験14.9年(2~37年)で,本調査結果と大きな差はなかった.同全国調査のプリセプター経験2回以上が48.7%であり,本調査の指導者経験ありは58.3%であった.これらのことから,本調査の指導保健師の集団は平均的であり,妥当な評価ができる集団であったと考える.

2. 就業初期の評価

保健師教育課程の卒業時の到達目標の評価では,「身体的・精神的・社会文化的側面からのアセスメントをする」は「一人でできる」が基準とされている.保健師学生は92.5%が,指導保健師は65.3%が到達していたと評価していた(鈴木ら,2015).しかし,本調査の就業4か月時の時点で,訪問前の「身体的アセスメント」が「ほぼ一人でできる」以上は23.8%であり,健康課題の優先性の判断でも,保健師53.1%の評価(鈴木ら,2015)に対し,本調査では11.1%であった.

調査項目の設定の仕方に違いはあるが,学生と新人では大きな開きが認められた.目標表現が同様であっても,対象の成長段階により判断基準が異なることが背景にある.Benner(2001)はドレイファスモデルをもとに初心者から新人への過程について,初心者は状況の前後関係を必要としない原則を学び,新人は状況的局面に対してかろうじて及第点の業務をこなすレベルであると述べている.新人保健師は,より現実的な多様な状況に対応することを求められており,この求められるレベルの違いが,評価の違いになったと推察される.就業後4か月の時点では,新人保健師は多くの助言を要し,指導保健師は新人保健師への細やかな助言と行動確認が必要な状況である.

3. 項目別の評価

12か月時の到達状況と4か月時からの変化に着目して,家庭訪問能力の発達について述べる.注目した発達の仕方は4類型となった.

第1に,高い到達レベルであるが有意な変化がなかった項目は,実施場面での「身体の観察と情報収集」と「上司への迅速な報告」で,看護職としてまた組織人として基本的な内容であった.

第2に,高い到達レベルで有意な変化が認められた項目は,「傾聴」,「共に考えようとする姿勢」,「価値観や信念の尊重」であり,看護職の基本態度として教育されてきたものである.「身体的アセスメント」は,看護実践過程の第一段階であり,看護職として優先的に判断する事項であった.また,「家庭訪問の意義の理解」や「必要性の理解」は保健師としての実体験を踏まえて,原則的な教科書的な理解(Benner, 2001)をしていたことを実感として深めることができたと考えられる.

第3に,低い到達レベルであるが有意な変化が認められた項目は,アセスメントの「近隣地域のアセスメント」,「社会資源のアセスメント」,計画の「短期目標と長期目標の設定」,実施場面の「情報を関連付けた総合的判断」,「社会資源の活用」などであった.新人保健師にとって,近隣や社会資源をアセスメントするために,地域に目を向けるための意識と知識が不十分であると考えられる.種本ら(2017)も,社会資源活用に目を向けられるように支援する必要を述べている.継続的な家族支援では,家族アセスメントだけでなく,社会資源の利用も重要である(清水ら,2013).個別支援のための地域や近隣及び社会資源の基礎知識の不十分さが,アセスメント及びその活用を困難にしていると推察される.しかし,これらの項目は具体性があり,経験を積むことで成長が認められた.この部分に関しては基礎教育で強化する必要がある.

第4に,低い到達レベルで有意な変化がなかった項目は,アセスメントの「情報を関連付けた総合的な判断」,訪問場面の「健康課題の特性と優先性の判断」であった.これらは予測を伴い,かつ,いくつかの情報を統合して判断するという高度な思考を必要とするものである.家庭訪問で優先度を判断することは,第三者からは把握できないことであり(田村,2005),多くの経験を重ねて獲得する能力である.訪問意義の「保健師のセーフティネット機能の理解」は,公衆衛生看護活動の意味や活動全体の中での家庭訪問の位置づけを理解することが必要であり,1年目の保健師には難しい内容であったといえる.

4. 1年目における相対的な変化

1年目における自立レベルと評価された割合の3時期の比較では,多くの項目で有意差があり,新人保健師の家庭訪問能力の発達は目覚ましいといえる.時期の比較では,4か月時と8か月時の自立レベルと評価された新人保健師の割合は,信頼関係やアセスメントの項目を中心に全体の36項目中13項目で有意差があった.また,多助言レベルと評価された割合の減少と自立レベルと評価された割合の増加が認められ,新人保健師は大きく成長したといえる.8か月時と12か月時では有意差は4項目で少なく,多助言レベルや自立レベルと評価された割合の増減も少なく,発達は緩やかになったことを示している.これらのことから,就業後の早期に新人は新たな体験を蓄積し,知識や技術を獲得しているといえる.先行研究(安孫子,2014)では,新人自身も就業初期には自信がなかったが振り返りの中で自己成長を感じ取っているという報告がある.

36項目について自立レベルと評価された割合は,4か月時と12か月時で高い正の相関を示していた.多助言レベルと評価された割合についても同様であった.4か月時に到達レベルが高い項目は12か月時にも高く,低い項目は低いという結果は,就業初期の状況が12か月時に反映されることを示唆している.

5. 示唆

家庭訪問は地域活動の方法としてだけではなく,保健師としての人材育成においてもその重要性は大きく,より効果的な現任教育と基礎教育が必要である.

4か月時,8か月時,12か月時の新人保健師の家庭訪問能力の程度には個人差があり,項目によって大きな幅があった.このことから,現任教育においては,新人保健師の家庭訪問能力のアセスメントを丁寧に行ったうえで指導をする必要性が再確認された.また,新人保健師にとって習得が容易な技術と困難な技術があり,習得が容易な態度項目や身体的側面の支援から確実に習得を促し,そして心理的側面や社会的側面のアセスメントや支援,社会資源の活用ができるよう徐々に複雑な内容へと,段階を追った新人保健師への指導が効果的と考えられる.

保健師活動全体の中での家庭訪問の本質的意義の理解は,事例検討の機会や訪問後のカンファレンスにおいて,事例と地域の健康課題との関連,その事例にとって訪問の果たす機能について丁寧なディスカッションを行うことで,新人保健師の理解を促すと考えられる.

さらに,12か月時でも家庭訪問は自立したレベルには至っていなかった.金藤ら(2017)は2年目も保健師の技術に自信が持てないなどの力量不足の自覚があることを報告している.個人差を考慮しつつ就業2年目も現任教育の指導体制を継続することが必要である.訪問後の確認と指導は,新人教育の観点から重要なだけでなく,新人保健師の訪問で事例への適切な支援が行われたかについて,支援の質を保証するためにも不可欠である.

一方,基礎教育では,学生の継続訪問は学びが大きく,自信をつけている(平澤ら,2017)ことが報告されており,家庭訪問による継続支援の確実な実施の必須化が望まれる.その中で,評価が低かった近隣地域のアセスメントと社会資源の活用に関連する教育を強化する必要がある.

6. 意義と限界

本研究は縦断調査により,新人保健師の1年目の家庭訪問能力の発達を時期別,また項目別に明らかにした.保健師未経験者のみを対象にしているので,4か月時のデータは比較的基礎教育終了時の状況を反映していると推察されるが,就業直後のデータがあれば,より基礎教育から継続した発達の実態を明らかにすることができる.

就業後の能力の発達は,職場での経験や指導体制及び指導のあり方にも影響されるが,本調査ではこれらの関連要因についての検討はできていない.調査票作成段階で,指導保健師の調査票には新人保健師の属性を入れなかったために,新人保健師の概要が不明であり,新人保健師に関連する要因分析ができなかった.また,家庭訪問能力の妥当な測定項目の開発は今後の課題である.

謝辞

本研究は科学研究助成基金助成金挑戦的萌芽研究(JSPS科学研究費16K15982)の助成を受けた.

利益相反

開示すべき利益相反はありません.

文献
 
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