日本公衆衛生看護学会誌
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研究
定年退職した男性の地域の自主グループ参加による変化:社会参加を促進するために
鈴木 良実麻原 きよみ
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2021 年 10 巻 3 号 p. 103-111

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Abstract

目的:地域づくりを目的とした自主グループ参加による,定年退職した男性の自身の生活や考え方の変化を明らかにし,これらの人々の自主グループ参加を促進する支援方法を検討する.

方法:自主グループに参加する定年退職男性6名を対象に半構造化インタビューをし,質的な内容分析を実施した.

結果:男性は自主グループ参加により【グループの成長のために仲間と互いに自主性を生かして活動するようになった】り,【地域の役に立つためにグループの一員として活動するようになった】ように,グループの仲間と共に地域の役に立つために活動するようになった.

考察:定年退職した男性は自主グループでの活動目的が,自分の欲求を満たすためだけではなくグループの仲間や地域の人々に役立つために変化した.参加促進の支援として,住民が地域課題について話し合い,地域づくりを目的した自主グループ参加や発足につながる地区活動事業の実施が大切と考えられた.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to examine the changes in retired men’s lives after participating in community voluntary groups, and identify ways to promote their participation in these groups.

Methods: A qualitative descriptive study was conducted using semi-structured interviews. Data were collected from six retired men.

Results: Retired men participated voluntarily with group members to extend the group’s activities and contribute to their communities.

Discussion: Retired men participated in groups not only to satisfy their desire but also to contribute to the groups and their community. To promote retired men’s participation in community voluntary groups, it is important to carry out community health projects where people can discuss their communities’ problems, as well as join or launch community voluntary groups.

I. 緒言

わが国の全人口に対する65歳以上の高齢者の割合が増加する中,厚生労働省は高齢者が可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,地域包括ケアシステムの構築を推進している(地域包括ケア研究会,2010).また高齢者のスポーツ関係・ボランティア・趣味関係のグループなどへの社会参加の割合が高い地域ほど,転倒や認知症,うつのリスクが低い傾向がみられることから,高齢者の社会参加を通じた介護予防も進められている(厚生労働省,2021b).さらに高齢者の早期死亡や身体機能低下のリスクを低減するなど,社会活動への参加の効果は女性よりも男性に顕著だと報告されている(岸ら,2004).加えて女性に比べて男性は,社会的役割を担うことや遂行することが社会的存在感を保持させ,自己効力感や充実感などを高めることにより,精神的健康を高めると言われている(青木,2014).

しかし,地域において社会参加する高齢男性の割合は高齢女性に比べて低く,またその割合は退職の前後でほとんど変化がないことが報告されている(杉澤ら,2001).そして,高齢男性が社会参加をしない要因としては,特に60歳代など比較的若い年齢層が,社会参加への必要性を感じずむしろためらいを感じていることが挙げられている(矢野ら,2008).また,男性は退職直後に生産的活動や趣味活動を見出すことができず,戸惑いのある生活を過ごすことも報告されている(河津ら,2012).これらのことから,定年などで退職した男性の社会参加を促進させる支援は,これからの介護予防において重要だと考えられる.

社会参加には趣味の活動や自治会,法的根拠に基づく民生委員活動など様々な方法があるが,その中でも厚生労働省(2021c)は,地域介護予防支援事業としてボランティア育成や自主グループ活動支援などを挙げている.特に自主グループ活動については多様なとらえ方があり,例えば星(2010)は,住民グループを「同じ目的を共有し,その目的を達成するための活動を自主的,主体的に継続する,経済活動を主目的にしない,家族以外の2人以上の仲間」ととらえており,活動意義を「住民同士が相互に関係しあい,主体性が発揮され,具体的な問題解決や自信獲得につながること」としている.また,厚生労働省(2021a)は,地域力強化推進事業として住民が主体的に地域課題を把握して解決を試みる体制づくりを支援することを挙げており,実際に自治体では試行錯誤しながら地域づくりを目的とした自主グループを育成している.地域保健対策におけるソーシャルキャピタルの活用のあり方に関する研究班(2015)は,住民組織活動を,「それぞれの活動目的があり,めざすものは様々であるが,最終的には住民自らが地域のことを考え,自らの手で治めることである住民自治の実現とコミュニティ・エンパワメントをめざしている」としている.

これらのことから,本研究では,行政が立ち上げた地域づくりを目的とした自主グループへの,定年退職した男性の参加を促進する支援方法について検討したいと考えた.そのためにはまず,実際に定年退職した男性が自主グループに参加することで,どのように生活や考え方などが変化したかを明らかにすることが重要である.

よって,本研究では地域づくりを目的とした自主グループ参加による,定年退職した男性の自身の生活や考え方の変化を明らかにして,これらの人々の自主グループ参加を促進する支援方法を検討することを目的とした.

II. 研究方法

1. 用語の定義

住民グループに関する星の定義,及び地域保健対策におけるソーシャルキャピタルの活用のあり方に関する研究班(2015)の住民組織活動に関する定義を踏まえ,地域づくりを目的とした自主グループ(以下,自主グループ)は,「活動のきっかけは行政が地域づくりのために立ち上げたものであるが,参加した住民が地域づくりのために主体的な活動を行う住民組織」と定義した.また,定年退職した男性は,「定年または再雇用制度の利用後に退職した60歳以上の男性」と定義した.

2. 研究デザイン

定年退職した男性の自主グループへの参加による自身の思いや生活といった経験やその意味を探究するために,インタビューによる質的記述的研究を行った.

3. A市,研究参加者及び自主グループの概要

A市は政令指定都市に隣接する市で,2015年10月1日現在の国勢調査による人口は167,210人,高齢化率は26.3%であり全国平均26.0%とほぼ同じである.市の産業は地場産業である繊維産業に加え,近年では金属,自動車,楽器などの工業や,農・水産物の産出も盛んであり,都市部と農村部が均衡ある発展を遂げている地域である.

A市には居場所づくりや体操など約60個の自主グループが活動している.研究参加者はA市の自主グループを育成するための地区活動事業から発足した自主グループに参加している,定年または再雇用制度の利用後に退職した60歳代後半から70歳代前半の男性6名である(表1).研究参加者の選定は,まず定年退職した男性が自主的な活動を行う自主グループを,A市の住民組織活動をよく知るA市の保健師と検討し,選定した.次いで研究参加者について,選定基準(①グループの立ち上げから関わっている,②自主グループを保健師と打ち合わせながら一緒に作り上げたメンバーである,③説明能力がある,④インタビューに協力可能)に基づき,各自主グループの活動に関わる地区担当保健師などと検討し,選定した.研究参加者の職歴は会社員5名,公務員1名である.家族構成は夫婦のみ3名,3世代2名,2世代1名である.

表1  研究参加者の概要
年齢 退職年齢 職歴 世帯構成 活動内容 地区活動事業
参加期間(回数)
自主グループ
参加期間(回数)
A 70歳代前半 60歳 会社員 夫婦世帯 地図づくり 2か月(3回) 7か月(7回)
B 60歳代後半 59歳 公務員 夫婦世帯 居場所づくり 2か月(3回) 7か月(7回)
C 60歳代後半 64歳 会社員 3世代同居世帯 料理 1.5か月(6回) 3か月(3回)
D 70歳代前半 64歳 会社員 3世代同居世帯 そばづくり 1.5か月(6回) 3か月(3回)
E 60歳代後半 65歳 会社員 夫婦世帯 料理 1.5か月(6回) 3か月(3回)
F 60歳代後半 65歳 会社員 2世代同居世帯 料理 1.5か月(6回) 3か月(3回)

自主グループごとの参加者数は,料理3名,地図づくり1名,居場所づくり1名,そばづくり1名である.参加期間は7か月が2名,3か月が4名である.参加頻度は6名とも原則月1回だが,その他,グループ発足前の地区活動事業にも参加し,グループ発足後も必要時に保健師やグループメンバーなどと連絡や打合せを行っているため,計9回以上の活動を行っている.参加のきっかけは,保健師からの勧誘が3名,交流センター長からの勧誘が1名,友人からの勧誘が1名,チラシを見たが1名であった.自主グループの概要は表2のとおりである.

表2  自主グループの概要
地図づくりグループ
目   的 子育て世代に役立つような,地区内で利用できる地域の資源の場所をわかりやすく示した地図を作る.
参 加 者 高齢者,子育て中の親とその子ども(計14名)
頻   度 原則月1回
活 動 施 設 交流センター
発足の背景 一緒に地域の健康を考え解決していくために活動することを目的とした地区活動事業内であがった,子育て中の親が利用できる地区の資源の場所がわからないという課題に対して活動するために発足した.
活 動 内 容 地区内にある誰もが利用できる資源の中で,特に子育て世代に役に立つような資源をわかりやすく示した,地区の地図を作成する.作成した地図を子育てをする家族に配布する.利用者の意見をもとに改善点を明らかにし,内容に応じて地図を改変する.
成 熟 度 「地図をつくる」という目標が形になり新たな目標が設定され,運営メンバーや参加者が増え,活動に新たな広がりが見られる状態.
 
居場所づくりグループ
目   的 地域の誰もが参加でき,多世代が交流できる居場所を作る.
参 加 者 高齢者,子育て中の親とその子ども(計6名)
頻   度 月1回
活 動 施 設 公会堂,交流センター
発足の背景 一緒に地域の健康を考え解決していくために活動することを目的とした地区活動事業内であがった,誰もが立ち寄りおしゃべりをすることができる居場所が欲しいという願いに対して活動するために発足した.
活 動 内 容 住民同士が自由に交流し,時間を過ごすことのできる居場所を開放する.決まったプログラムは無いため,立ち寄った住民たちが自主的に絵本の読み聞かせや,あやとりやおはじきを使った遊びをしている.子どもと高齢者との世代間交流や,子育て中の親同士の交流が自然と行われている.
成 熟 度 「居場所をつくる」という目標が形になり新たな目標が設定され,運営メンバーや参加者が増え,活動に新たな広がりが見られる状態.
 
料理グループ
目   的 料理初心者の男性が,自分たちで様々な料理に挑戦していく.
参 加 者 男性高齢者(計7名)
頻   度 原則月1回
活 動 施 設 交流センター
発足の背景 男性の地域に出るきっかけづくりを目的とした地区活動事業の中で,料理に挑戦したいという参加者が集まり発足した.
活 動 内 容 料理初心者の男性たちが試行錯誤しながら料理を作る.料理の勉強のために外食をする.地域のレシピサミットへの参加に向け,オリジナルのレシピを考案する.
成 熟 度 自分たちが楽しむという目標だけではなく,地域づくりをするという目標をどのように達成するのかを試行錯誤しながら活動している状態.
 
そばづくりグループ
目   的 種からそばを育て,最後は地域の住民とともにそば打ちをし,試食会を行う.
参 加 者 高齢者,働いている住民(計20名程度)(うちコアメンバー男性高齢者3名)
頻   度 原則月1回
活 動 施 設 交流センター
発足の背景 男性の地域に出るきっかけづくりを目的とした地区活動事業の中で,そばづくりに挑戦したいという参加者が集まり発足した.
活 動 内 容 そばの種まきから試食会に至るまでの活動に向けてグループの年間計画を作成し,そばづくりに関する知識やそば打ちの技術を身に着ける.
成 熟 度 目標であるそばづくりに必要な知識や資源を集める中で,参加者や協力者が増加し,具体的な目標達成に向けてスケジュールを管理しながら取り組んでいる状態.

4. データ収集方法

自主グループへの参加前の状況と参加の目的,参加後の自身の健康や生活の仕方,地域の活動への意識やそれに伴う行動の変化について,半構造化インタビューを行った.内容は研究参加者本人の許可を得て録音し逐語録を作成した.インタビューは各参加者に対して個別に1回ずつ,平均時間62分,交流センター及び役所内で実施した.調査期間は2017年10月16日~24日であった.

5. 分析方法

逐語録を繰返し読み,自主グループへの,1.参加前の状況,2.参加の目的,3.参加後の変化の計3項目に関して得られた発言から,各項目に直接関係していると考えられた個所を選択し,意味のあるまとまりごとに文章や区切りとなる部分でコード化した.次にコード化した文章などに対して現象にふさわしいラベルを付けサブカテゴリを抽出した.その後,それらサブカテゴリに対し,類似性と差異を関連付けながらカテゴリを作成した.

分析はグレッグ(2016)の方法を参考に行った.また原則毎月開催される研究室の検討会と質的研究の経験を有する研究者より個別に,カテゴリとサブカテゴリの抽出及びカテゴリ・サブカテゴリ間の関係性の意味解釈の適切性,他のカテゴリ抽出の可能性などについて示唆を得た.また,A市の地区担当保健師などに対象者の選定方法と結果の概要を提示し,承認を得ることで厳密性を高めた.

6. 倫理的配慮

研究参加者には,研究の目的・方法,調査への協力は自由意思によること,データは個人が特定されないよう匿名化し暗証番号付きのファイルに保存すること,本調査で得られたデータは研究以外に使用しないこと,いずれの時点でも同意を撤回することができ,それにより不利益がないことについて文書と口頭で説明し,文書で同意を得た.本研究は2017年度聖路加国際大学研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号17-A059,承認日2017年9月12日).

III. 研究結果

研究結果では,定年退職した男性の自主グループへの1.参加前の状況,2.参加の目的,3.参加後の変化において得られたカテゴリとサブカテゴリについて表3にまとめた.また本文では以後,カテゴリを【 】,サブカテゴリを〈 〉で示し各カテゴリを説明する.各カテゴリの内容を表している研究参加者の発言の一部を「斜体……(参加者記号)」で引用し,内容の理解が困難と思われる部分は( )で補足した.

表3  参加前の状況,参加の目的,参加後の変化
参加前の状況
カテゴリ サブカテゴリ
1.自分に合った活躍の場が手の届く場所にない 1)就業時のように自分が必要とされない生活を受容できない
2)シルバー人材センターでは今まで自分が培った能力を生かせない
3)時間とエネルギーを注ぐ先が見つからずもどかしい
参加の目的
カテゴリ サブカテゴリ
1.これからの人生を輝かせるために自分の欲求を満たしたい 1)これからの人生を楽しむために生きがいとなる活動を始めたい
2)健康に生きていくために人から刺激をもらいたい
3)時間を浪費している状況からとにかく抜け出したい
4)地域という新天地で活動を共にする仲間が欲しい
5)自分が培った能力を地域のために生かしたい
参加後の変化
カテゴリ サブカテゴリ
1.グループ活動や関連事項に自発的に取り組むようになった 1)グループ活動に取り組むことが楽しいと思うようになった
2)グループ活動の関連事項に意識を向け情報を得るようになった
3)グループ活動内容に関連する新たな活動の場を得たいと思うようになった
2.グループの仲間と活動することで退職後の生活を前向きに考えられるようになった 1)グループの仲間と一緒だから活動を楽しく続けられると思うようになった
2)グループの仲間と交流することが心の健康につながると思うようになった
3)グループの仲間の姿を見て自分を成長させる生き方を考えるようになった
3.グループの成長のために仲間と互いに自主性を生かして活動するようになった 1)自分に無理のない範囲でグループの仲間のために活動するようになった
2)仲間と一緒にグループ活動を作り上げていると実感するようになった
4.地域のつながりの中で生きていると気づいた 1)地域の情報が次々と入ってくるようになった
2)グループ活動を発展させるために地域の住民が持つ知恵を借りるようになった
3)地域での人の輪が広がる面白さを実感するようになった
5.地域の役に立つためにグループの一員として活動するようになった 1)地域に貢献するためのグループの活動方法を模索するようになった
2)グループ活動が地域住民の役に立つことをうれしく思うようになった

1. 参加前の状況

参加前の状況には3サブカテゴリから1カテゴリが作成された.定年退職した男性は退職後から自主グループ参加前までの間は【自分に合った活躍の場が手の届く場所にない】状況におり,〈就業時のように自分が必要とされない生活を受容できない〉でいた.地域での活躍の場を探した者もいたが,〈シルバー人材センターでは自分が今まで培った能力を生かせない〉や,〈時間とエネルギーを注ぐ先が見つからずもどかしい〉といった思いを抱いていた.

「シルバー人材センターに行っても(職場の経験を生かせるような)仕事はないし,掃除をしたりね,草刈りやったりね.それじゃ自分の今まで働いてきた仕事が生かせないね(E)」

2. 参加の目的

参加の目的には5サブカテゴリから1カテゴリが作成された.定年退職した男性は【これからの人生を輝かせるために自分の欲求を満たしたい】と思い,自主グループに参加していた.具体的な欲求としては〈これからの人生を楽しむために生きがいとなる活動を始めたい〉,〈健康に生きていくために人から刺激をもらいたい〉,〈時間を浪費している状況からとにかく抜け出したい〉,〈地域という新天地で活動を共にする仲間が欲しい〉,〈自分が培った能力を地域のために生かしたい〉といった欲求を抱きながら自主グループに参加していた.

「もうちょっと,もうちょっとと思ってここ(自分の人生の目標)まで到達するか,それで人生良かったなと死ねるかなと思って.まだ俺はこの(目標と現状との)ギャップがあるかな,どうしたら埋められるかなっていうのがこういう交流に活動に,考えが向いてくるんですね(A)」

3. 参加後の変化

参加後の変化には13サブカテゴリから5カテゴリが作成された.

1) 【グループ活動や関連事項に自発的に取り組むようになった】

このカテゴリには3サブカテゴリが含まれた.定年退職した男性は自主グループに参加することで,次第に〈グループ活動に取り組むことが楽しいと思うようになった〉.また,グループ活動内容に個人的にも取り組むようになり,〈グループ活動の関連事項に意識を向け情報を得るようになった〉.さらに,自主グループに参加する一方で,〈グループ活動内容に関連する新たな活動の場を得たいと思うようになった〉.

「あっちこっちで(料理教室を)やるんですよ.昔はそういうのに全然興味持ってなかったんだけど,今はそういうのが出てくると,ここなんかこういうのあるじゃん,やってみよっかってね,そういうのに積極的に興味を持って,できるものは参加したりとかね(F)」

2) 【グループの仲間と活動することで退職後の生活を前向きに考えられるようになった】

このカテゴリには3サブカテゴリが含まれた.定年退職した男性は自分ひとりではなく,〈グループの仲間と一緒だから活動を楽しく続けられると思うようになった〉.また,活動内容に取り組むだけではなく,自分と同じく退職を機に地域での活動を始めた〈グループの仲間と交流することが心の健康につながると思うようになった〉.さらに,〈グループの仲間の姿を見て自分を成長させる生き方を考えるようになった〉.

「年取ってもみんながんばっとうじゃん,とかね,そういうところを見ながら自分ももっと頑張らないかんってとこに帰ってくるんかな(E)」

3) 【グループの成長のために仲間と互いに自主性を生かして活動するようになった】

このカテゴリには2サブカテゴリが含まれた.定年退職した男性は自分が活動を楽しむためだけではなく,〈自分に無理のない範囲でグループの仲間のために活動するようになった〉.また,地域づくりという目標のために,グループの仲間それぞれができることを出し合い,協力することで〈仲間と一緒にグループ活動を作り上げていると実感するようになった〉.

「(グループ活動は)自分ひとりじゃ絶対できないから,仲間がいないと.企画したり予算立てたりしてくれる人がいるもんだからできるんだけど.だからそういう人たちと知り合って,一緒に活動してるっていうのはすごくうれしいことだなって思うね(D)」

4) 【地域のつながりの中で生きていると気づいた】

このカテゴリには3サブカテゴリが含まれた.定年退職した男性はグループ活動に参加したことで,地域とのかかわりが増え,地域の活動に興味を持つようになり,〈地域の情報が次々と入ってくるようになった〉.また,〈グループ活動を発展させるために地域の住民が持つ知恵を借りるようになった〉.そして,グループの仲間や地域の住民,行政職員や団体職員などとの交流が次々と生まれ,深まる体験をすることで,〈地域での人の輪が広がる面白さを実感するようになった〉.

「いろんな人と知り合えたっていうのがよかったですね.他地区の知らない人がいたけど,その人らとも同じテーブルで結構話し合いしたんですよ.(今まで交流)しなかった,若いお母さんや赤ちゃんもいましたね(A)」

5) 【地域の役に立つためにグループの一員として活動するようになった】

このカテゴリには2サブカテゴリが含まれた.研究対象としたすべての自主グループは,活動目標の1つとして地域貢献を掲げていた.そのため定年退職した男性は,活動を継続する中で〈地域に貢献するためのグループの活動方法を模索するようになった〉.また,実際に活動が住民に役立った体験をした際には,〈グループ活動が地域住民の役に立つことをうれしく思うようになった〉.

「(グループの目指すところは)どっかのお祭りじゃないですけど,交流センター祭りとかに参加して料理を提供するとか……ボランティアでどっかで提供できればいいかな(C)」

IV. 考察

本研究は,地域づくりを目的とした自主グループ参加による,定年退職した男性の自身の生活や考え方の変化を明らかにして,これらの人々の自主グループ参加を促進する支援方法を検討することを目的とした.

1. 定年退職した男性が自主グループに参加したことによる変化の特徴

男性は自主グループに参加することで,【グループの成長のために仲間と互いに自主性を生かして活動するようになった】り,【地域の役に立つためにグループの一員として活動するようになった】.このように,グループの仲間と一緒に地域の役に立つために活動するようになったことが明らかとなった.

【地域の役に立つためにグループの一員として活動するようになった】というカテゴリから,定年退職した男性は自主グループに参加するうちに,活動する目的が自分の欲求を満たすことだけではなく,グループの仲間や地域の人々の役に立つことに変化したと考えられた.

その理由としては,自主グループが誰かに活動を強制されない活動形態であり,地域づくりという目的のために,仲間とともに自主性を生かしながら前向きに意見交換ができ,男性を受け入れてくれる環境であったことが考えられる.大森(2004)は,高齢者のとらえる健康とは自分の誇りを持ち続けられることであり,仲間との結びつきは誇りを支える心のよりどころとなっていると述べている.また,長徳ら(2007)は,健康づくり活動を行う退職後の男性にとっては,目標を持ち,挑戦・成長していくという刺激がサクセスフルエイジングの要因の一つになると指摘している.さらに,大嶋ら(2015)は,人との関係性や自分の役割を持つことで,ここは自分の居場所だと実感することを社会参加の継続要因として示している.これらのことから,自主グループに参加した男性は仲間や目標を得たことで,自らの欲求を満たすことができる活躍の場を獲得したと考えられる.

また,男性は自主グループ活動を通して,グループの仲間や地域の人々と協力したり感謝される体験を繰り返すことで,グループの仲間や地域に暮らす人々のために活動することにやりがいを感じ,活動をさらに広げていくようになったと考えられた.秋山ら(2004)によると,在宅支援のボランティア活動に所属する住民は,活動に参加し,自らの生き方を再考し方向づけたことにより,視野の広がりがおきたことが示されている.視野の広がりとしては,家庭から組織全体へ,組織全体からコミュニティへ,さらには制度へと大きくなっていたとしている.また,住民は自己を満足させる活動ではなく,広い視野から物事をとらえるようになっていたとしており,これについても本研究結果と一致する.このことから,男性は自主グループで活動することで,地域の役に立つという,退職後を楽しく生きるひとつの方法を得ることができたと考えられた.

2. 定年退職した男性の自主グループ参加を促進する支援方策

定年退職した男性は,自主グループへの参加前は〈就業時のように自分が必要とされない生活を受容できない〉という思いを抱えながら,〈時間を浪費している状況からとにかく抜け出したい〉と感じ,時間とエネルギーを注ぐ先を見つけるためにもがいていた.一方で〈自分が培った能力を地域のために生かしたい〉という思いもあり,就労の延長として依頼を受けて仕事をすることができるシルバー人材センターで仕事をしてみた.しかし,自分が培った能力を生かせないと感じ,参加を継続することができなかった.

定年退職した男性の特徴として,定年退職により安堵した一方で定年による喪失を体験し,思い通りにいかない現実に直面しながら,何とかしなければという思いはあるが行動を起こすことには躊躇いがあることが報告されている(塚本,2013).そして,この報告は本研究結果とも一致する.また小野寺ら(2008)は,高齢男性の社会活動への参加や継続要因には「退職を契機とした自己の課題の明確化」といった内面的動機づけと「参加行動を促す外的要因」といった外面的動機づけの2つがあると述べている.これについて本研究結果でも,男性は自らの生きがいや健康のために【これからの人生を輝かせるために自分の欲求を満たしたい】という内面的動機づけは持っていたが,外面的動機づけが十分でなかったのではないかと考えられた.また外面的動機づけとして,行政や各グループは活動紹介を行っているが,様々なグループがあるため,【自分に合った活躍の場が手の届く場所にない】というカテゴリから示唆されるように,男性はどのグループに参加すればいいのか戸惑い,参加を躊躇していたと考えられた.

そのため,定年退職した男性を地域の活動につなげるためには,グループ活動を紹介するだけではなく,【これからの人生を輝かせるために自分の欲求を満たしたい】という思いに応じる必要もある.これには男性が自らが住む地域の課題を知り,その課題について地域住民や行政とともに意見交換する場を,地区活動事業として設けることが重要であると考えられる.そして地域の課題について意見交換する過程で,男性にとって自分のできること又はやりたいことに合うグループが見つかれば,既存のグループに参加することができると考えられた.もしも見つからなければ,行政の支援を得ながら新たにグループを発足させることで,地域で活動することにつながるのではないかと考えられた.

滝澤ら(2013)は,退職男性のグループ活動を推進する参加者側の要因として,「肩書きにこだわらず互いをよく知ること」や「自分たちにできることへの挑戦とその成果の実感」,「縛られない自由と楽しさ」の3点を示している.そのため,まず地域の課題について地域住民同士で自由に意見交換することは,地域のためにグループで活動を続けていくための土台になると考えられる.

3. 本研究における課題と限界

本研究で得られた結果は,自主グループ発足後の比較的短い期間内の活動から抽出されたものであるため,活動期間が長くなった際に得られる結果とは異なる可能性がある.また,本研究は一地域の限られた研究参加者を対象に行われているため,本研究結果を定年退職した男性にそのまま一般化することはできない.今後は様々な地域や自主グループにおいて研究を行い,結果の検証をしていくことが課題である.

V. 結語

定年退職した男性は自主グループに参加することで,グループの仲間と一緒に地域の役に立つために活動するようになったことが明らかになった.

そして,これは自主グループに参加するうちに,自分の欲求を満たすためだけではなく,グループの仲間や地域の人々の役に立つためへと,活動する目的が変化したためと考えられた.

よって,定年退職した男性の自主グループ参加を促進する支援方策としては,住民が地域の課題について話し合い,地域づくりを目的とした自主グループ参加や発足につながるような地区活動事業を実施することが大切であると考えられた.

謝辞

本研究に御協力いただいたA市の自主グループメンバーの皆様,また,メンバーを紹介していただいたA市に関わる皆様に感謝申し上げます.本研究は,聖路加国際大学大学院修士課程に提出した課題研究論文の一部である.第7回公衆衛生看護学会学術集会で報告した.

利益相反

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
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