2021 年 10 巻 3 号 p. 112-120
目的:地域包括支援センターにおける多職種連携による支援を促すための基準を用いた研修を実施し評価することである.
方法:研修は,地域包括支援センターのケースカンファレンスの基準を用い,全3回(210分)で構成した.対象は,A市の委託型地域包括支援センター7か所の専門職30名と委託元の保健師3名とし,研修後の対象の認識とケースカンファレンスの実施状況により研修の効果を評価した.
結果:専門職は,研修の内容を理解して各々の専門職の役割と多職種の専門性を認識し,ケースカンファレンスの基準をもとに実施して,多職種連携の必要性と支援の方向性の統一,多職種連携への進展につながった.また,A市保健師は,研修での学びを確認し,地域包括支援センター内の連携を促せた.
考察:本研修は,地域包括支援センターの多職種連携による支援とA市保健師による地域包括支援センター支援を促すと考える.
少子高齢化,核家族化に伴い,地域包括支援センター(以下,センター)には,独居高齢者や身寄りのない高齢者あるいは,家族がケア機能を発揮していない事例の相談が増加している.そのため,センター職員は,利用者の安否確認,生活支援,緊急対応など複雑化・広範囲化した支援にかかわり,長い時間と労力を要している(三菱総合研究所,2015).
センターには,保健師,社会福祉士,主任介護支援専門員の三職種の配置が義務づけられている.三職種それぞれの専門性に基づく多角的な視点でアセスメントし,それらのアセスメント結果を集約し,支援方針を決定するなど,多職種連携による支援の質を総合的に担保させることが求められている.多職種連携による支援の質を向上させるには,互いに他の職種を尊重し,専門的技術を効率よく提供することが重要であり,議論・調整の場であることを認識したケースカンファレンスを充実させる必要がある(厚生労働省,2011).そこで,研究者らは,センターの各専門職が自身の役割を認識し,効果的に相互の役割を遂行するようにケースカンファレンス基準(以下,基準)を開発し,1か所のセンターにおいて活用し,多職種連携による支援に対する有用性を検証した(水村ら,2014).今回,より多くのセンターで,基準を活用して,多職種連携による支援を推進するには,基準に沿ってケースカンファレンスを実施できるような学習の機会が必要と考え,研修を企画した.また,研修を地域のセンターの多職種連携による支援の質向上のためのしくみとして機能させるには,以下に示すような,センターの設置主体の状況に即して,委託元の担当部署の役割遂行が重要と考えた.
センター設置は市町村直営と,社会福祉法人等への委託があり,全国のセンターの75.0%が委託である(三菱総合研究所,2017).委託する場合,市町村の役割として,①センターの役割が阻害されることのないようセンターと連携してその活動をサポートする,②行政責任を果たすため,適切に権限を行使して地域住民の保健福祉の促進を担う,③設置主体として,センターの人材育成の責任を担う,の3つが挙げられる(長寿社会開発センター,2011).
センターのこうした背景をもとに,本研究の目的を,委託型センターの三職種と委託元の市町村の関係部署職員を対象に,センターの多職種連携による支援を促すための基準を用いた研修を実施し,評価をすることとした.
研修プログラムの受講および研修の評価のための調査対象者は,A市(人口16万人,高齢化率26%)の7か所の委託型センターの専門職30名(以下,専門職)と,委託元の関係部署保健師(以下,A市保健師)3名とした.
2. 研修プログラムの作成基準は,各専門職が自身の役割認識と効果的な役割行動により,利用者のQOL向上を目指してケースの情報を共有し,専門職間で課題および課題解決の方針を検討し,支援の結果を評価するための諸ルールである.基準は,ケースカンファレンスの事例の選定,ケースカンファレンスの準備と実施,ケースカンファレンスの記録,ケースカンファレンスで検討した目標・支援方針の評価に関する内容と方法,および基準活用のための書式で構成した(表1).
基準項目 | 基準の内容 | 基準活用のための書式 |
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ケースカンファレスの事例の選定 | 多職種連携による検討および支援が必要なケースを複合するケアニーズおよび個別性を加味した一定の方法で選定する | ・虐待スクリーニングシート ・担当者別分類表 |
ケースカンファレンスの準備と実施 | 効率的なケースカンファレンスを行うための主担当の準備内容および実施における検討方法・方針の決定方法を規定する | ・地域包括支援センター共通アセスメントシート |
ケースカンファレンスの記録 | ケースカンファレンスの記録の書式および共有方法を規定する | ・ケースカンファレンス個人記録票 |
ケースカンファレンスで検討した目標・支援方針の評価 | ケースの支援に関する評価時期および評価の書式を規定する | ・ケースカンファレンス個人評価票 |
研修プログラムは,基準をもとに各センターがケースカンファレンスを実施し,センター内の多職種連携が図れることを目指して作成した.研修は,全3回(210分)で構成し,第1回は全センター職員合同の講義,第2回,第3回は,センター別のケースカンファレンス演習とした(表2).
テーマ | 目標 | 学習内容 | 次回までの課題 |
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第1回:合同講義 | |||
・基準の背景と効果 ・ケースカンファレンスの準備 |
・基準の内容を理解できる ・センター内で検討,支援が必要なケースで複合するケアニーズおよび個別性を加味した一定の方法でケースを選定することができる ・効果的なケースカンファレンスを実施する準備ができる |
・基準の背景と内容・効果 ・各書式の目的と使用方法 担当者別分類表 虐待スクリーニングシート 地域包括支援センター共通 アセスメントシート ・ケースカンファレンスの運営 方法 ・ケースカンファレンスの準備 |
・センター長を中心に担当者別分類表を使用し,ケースを選定する ・選定したケースの主担当職員は,虐待スクリーニングシート,地域包括支援センター共通アセスメントシートを使用し,事前の準備をする ・センター長は,事例提供する主担当職員への準備の支援をする ・主担当職員以外の職員は主担当職員が作成したシートを確認し,専門職としての意見を述べる準備をする |
第2回:センター別の演習 | |||
・ケースカンファレンスの試行 | ・ケースカンファレンスで多職種が選定したケースの目標・支援方針を検討し,決定ができる ・ケースカンファレンスの記録の方法が理解できる |
・前回の振り返り ・ケースカンファレンス演習 ・支援の評価方法の説明 |
・ケースカンファレンスを試行し検討した目標・支援方針の評価のためのケースカンファレンスの実施の準備をする |
第3回:センター別の演習 | |||
・支援の評価のケースカンファレンスの試行 | ・多職種で支援した結果の評価の方法が理解できる ・ケースカンファレンスの評価の記録の方法が理解できる |
・支援の評価のケースカンファレンス演習 | ・センター長を中心にセンター内のケースカンファレンスの継続を検討する |
第1回は,7つのセンター合同の講義を行い,基準の背景と内容・効果,各書式の目的と使用方法,ケースカンファレンスの運営方法を理解し,効果的なケースカンファレンスの準備をすることを目標とした.研修終了時に各センター長へ,第2回ケースカンファレンス演習にむけて,演習に使用する事例の選定と事例を提供する主担当職員への準備の支援を依頼した.
第2回は,各センターが個別に,自組織で支援している1事例についてケースカンファレンスを試行し,選定したケースの目標・支援方針を検討し,決定すること,および記録の方法を理解することを目標とした.
第3回は,支援した結果を評価するためのケースカンファレンスを試行し,多職種による評価方法,および評価の記録の方法を理解することを目標とした.
研修では,基準活用のための書式を配布し,使用した.
3. 研修の実施A市主催の研修として毎月1回,3ヶ月間実施した.
第2回,第3回の演習では,研究者が随時,必要な支援を行い,A市保健師はケースカンファレンス参加者の一人として参加し,意見を述べた.
4. 研修プログラムの評価:調査データ収集と分析方法(図1)研修の実施と評価の概要
(1)調査対象者:専門職30名
(2)調査目的:①各回の研修内容の理解度と業務への有用性,②研修による多職種連携の理解,および業務への研修の活用に関する認識の内容を明らかにする.
(3)調査方法:自記式質問紙調査
(4)調査内容及び分析方法:①1回目のみ,回答者の属性を調査した.②研修内容を「理解できたか」,「業務に役立つか」,「業務に必要か」,「専門職として適切か」について,4段階リッカート尺度(「そう思う」,「どちらかというとそう思う」,「どちらかというとそう思わない」,「思わない」)により回答を得て,「そう思う」と「どちらかというとそう思う」を合わせた数と割合を算出した.③各回の研修内容の理解,活用に関する認識について自由回答を得て,意味を損なわないよう要約して,類似性に基づき分類し,カテゴリーを作成した.
2) ケースカンファレンス演習の実施の評価(1)調査対象者:専門職30名
(2)調査目的:各センターにおいて,基準をもとにケースカンファレンスを試行できたか,書式を用いることができたかを明らかにする.
(3)調査方法:参加観察法
(4)調査内容及び分析方法:研究者が第2回,第3回の研修でのケースカンファレンス演習中の専門職の意見や様子を観察し,個人情報を保護して,記録した.
3) 第3回終了時点の専門職の実践および多職種連携の状況に関する認識(1)調査対象者:①専門職27名,②A市保健師3名
(2)調査目的:ケースカンファレンス演習結果をもとに,支援を評価し,センター内の専門職としての役割と多職種連携の変化を明らかにする.
(3)調査方法:専門職に対しセンター別のグループインタビュー,個人インタビューを行った.
(4)調査内容及び分析方法:研修に参加した内容を収集し,研修の効果や有用性について要約した.
4) 研修終了1ヶ月後の専門職の実践および多職種連携の状況(1)調査対象者:①センター長7名,②A市保健師3名
(2)調査目的:研修実施による専門職の変化とセンター内の多職種連携の変化を明らかにする.
(3)調査方法:①センター長,②A市保健師,それぞれにグループインタビューを行った.
(4)調査内容及び分析方法:研修終了1ヶ月後にセンター職員の変化およびセンター内の多職種連携の変化等についての意見を収集し,研修の効果や有用性について要約した.
5) 研修終了3ヶ月後のケースカンファレンスの継続および多職種連携の状況(1)調査対象者;センター長7名
(2)調査の目的:各センターにおけるケースカンファレンスの継続状況と多職種連携の変化について明らかにする.
(3)調査方法:グループインタビュー
(4)調査内容及び分析方法:ケースカンファレンスを実施しているか等,研修後の状況を収集し,研修の効果や有用性について要約した.
2)~5)のインタビューでは,各調査対象者の同意を得て録音し逐語録を作成してデータ源とした.
5. 調査期間2017年12月から2018年6月であった.
6. 倫理的配慮研究協力機関および研究協力者に研究の趣旨,概要とデータの使用方法,研究協力の任意の保証,個人情報の保護等について口頭と文書で説明し,同意を得て実施した.千葉大学大学院看護学研究科の倫理審査委員会(承認番号:28-101,承認日:2018年8月28日)の承認を得て実施し,利益相反はない.
専門職は全体人数30名のうち,第1回,第2回研修は30名が受講した.第3回研修は,業務の都合から不参加者が生じ,27名が受講した.A市保健師は3名のうち,第1回研修では1名が参加し,不参加の2名に研修内容を伝達した.第2回,第3回研修では,3名各々が自身の担当する地区のセンターの演習に参加した(表3).
専門職30人 | A市保健師3人 | |
---|---|---|
第1回 | 30 | 1 |
第2回 | 30 | 3 |
第3回 | 27 | 3 |
専門職の属性は,年代は40代(13名)が多く,ついで30代(7名)が多かった.各センターにおける三職種の配置は1職種1~3名であった.専門職30名の内訳は,保健師・看護師8名,社会福祉士11名,主任介護支援専門員9名,介護支援専門員2名であった.センター経験年数は,1年未満が11名,1年以上3年未満が8名であり,3年未満の者が19名であった(表4).
項目 | n | (%) | |
---|---|---|---|
年代 | 20代 | 1 | (3.3) |
30代 | 7 | (23.3) | |
40代 | 13 | (43.3) | |
50代 | 5 | (16.7) | |
60代 | 3 | (10.0) | |
未回答 | 1 | (3.3) | |
性別 | 男性 | 12 | (40.0) |
女性 | 18 | (60.0) | |
職種 | 保健師・看護師 | 8 | (26.7) |
社会福祉士 | 11 | (36.7) | |
主任介護支援専門員 | 9 | (30.0) | |
介護支援専門員 | 2 | (6.7) | |
経験年数 | 1年未満 | 11 | (36.7) |
1年以上3年未満 | 8 | (26.7) | |
3年以上5年未満 | 2 | (6.7) | |
5年以上10年未満 | 5 | (16.7) | |
10年以上 | 3 | (10.0) | |
未回答 | 1 | (3.3) |
第1回実施時点では,全センターが毎朝ミーティングでケースの情報共有をしていたが,多職種連携によるケースカンファレンスは行っていなかった.センター内の多職種でケースの検討や合意ができずにセンター長または,個人の判断に任せられていた.
2. 研修各回の実施直後における研修内容の理解度と業務への有用性に関する認識 1) 研修内容の理解度と業務への有用性に関する自記式質問紙調査(表5)人数 N |
理解度 | 業務への有用性 | ||||||||||
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必要か | 役立つか | 専門職として適切か | ||||||||||
n | (%) | n | (%) | n | (%) | n | (%) | |||||
第1回 | 30 | 25 | 83.3 | 25 | 83.3 | 28 | 93.3 | 27 | 90.0 | |||
第2回 | 30 | 30 | 100.0 | 29 | 96.7 | 29 | 96.7 | 29 | 96.7 | |||
第3回 | 27 | 27 | 100.0 | 25 | 92.6 | 27 | 100.0 | 27 | 100.0 |
注)4段階で評価し,「そう思う」と「どちらかというとそう思う」を合わせたものの数と割合を算出
第1回研修では,研修内容を「理解できたか」に関し,「どちらかというとそう思う」以上は,25名(83.3%)であった.「理解できなかった」との回答は,1年未満の職員5名であった.その理由は,「知識不足」,「それぞれのレベルに合っている研修内容と思えない」であった.第2回,第3回研修のケースカンファレンスの演習に関し,全員が研修内容を「理解できた」と回答した.
第3回研修終了後,業務への有用性に関する「業務に必要か」に対し,「どちらかというとそう思う」以上の回答は25名(92.6%)であった.「業務に役立つか」,「専門職として適切か」に関して,全員が「どちらかというとそう思う」以上の回答であった.
2) 研修受講による多職種連携に関する学びと意欲の高まり,および研修の有用性(表6)第1回 | 第2回 | 第3回 | ||
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研修受講による多職種連携に関する学びと意欲の高まり | 自己の役割が明確になった | ・自分の職種の知識を深められる ・支援能力・アセスメント能力の向上につながると期待できる |
・各専門職としての自覚を持つことが大切 ・それぞれの専門的立場での見解を言うことは個人のスキルアップになる ・自分の専門職としての意見が言えるようになりたい |
・チーム内で情報を共有し目標に向けて取り組むべき課題に対するそれぞれの役割が明確になった ・ケース支援で気づかない部分や足りない部分がわかった ・自分の専門職としての立場を客観視できる良い機会であった |
多職種連携のイメージが具体化できた | ・センター内の協働がはかれるようになる ・ケースの緊急性,多職種の支援の違いが理解できる |
・専門職としての意見を聞くことの重要性がわかった ・他の職種の考え方や方針が理解できた |
・センターに専門職が配置されている理由が今回の研修で認識できた ・センター内の専門職間の連携は,どのように行うか具体的にイメージができるようになった ・他の専門職の持っている力を知る機会にもなり,連携や協力を促進させる ・共通の課題を持ったケースに直面した時に応用できる | |
ケースカンファレンスの実施意欲が向上した | ・日頃ケースカンファレンスがあまりできていないため,自分たちのものにする手がかりになる | ・判断,支援のほとんどが個人に委ねられているため,不安があるので研修内容をとりいれたい ・ひとつの事例を皆で考えることができ,良い場となった ・ケースカンファレンスで連携の必要性(チーム対応)を学んだ ・今までやってきた方式に加えて活用したい |
・通常業務に必要 ・一人で抱え込まずに包括内でも協力を求めることが重要だと理解できた ・チーム力を上げていくためにも専門職間の合意を得るケースカンファレンスのプロセスは必要 ・すべてのケースにできるわけではないが重要度が高いものは行いたい ・時間を作るところから取り組みたい ・形は工夫するかもしれないが研修内容を取り入れたい | |
有用であった研修内容および方法 | 有用であった研修内容および方法 | ・業務をしながら(研修の)課題に取り組める | ・研修は,スーパービジョンとしての機能を持つと思うので個々のスキルアップにつながる ・これまでにも研修は多くあるが,センター職員一緒に同じ内容を学べるという機会はなかった |
・センター別のケースカンファレンスの実施が有効だった ・事例の選定からケースカンファレンスの実施評価の方法が実践的だった ・センター内の専門職間の連携は他では受けられない研修内容である |
自由回答の内容は,「研修受講による多職種連携に関する学びと意欲の高まり」と「有用であった研修内容および方法」の二つの大項目に分類できた.
一つ目の大項目「研修受講による多職種連携に関する学びと意欲の高まり」を示す内容は,「自己の役割が明確になった」,「多職種連携のイメージが具体化できた」,「ケースカンファレンスの実施意欲が向上した」であった.
「自己の役割が明確になった」に関し,第1回目は,「自分の職種の知識を深められる」と研修への期待を示し,第2回目は,「各専門職としての自覚を持つことが大切」,「それぞれの専門的立場での見解を言うこと事は個人のスキルアップになる」,第3回目は,「チーム内で情報を共有し目標に向けて取り組むべき課題に対するそれぞれの役割が明確になった」,「ケース支援で気づかない部分や足りない部分がわかった」と多職種連携によるケース支援を実現するための自己の課題がより具体化していた.
「多職種連携のイメージが具体化できた」は,第1回目は,「センター内の協働がはかれるようになる」,第2回目は,「専門職としての意見を聞くことの重要性がわかった」,「他の職種の考え方や方針が理解できた」,第3回目は,「センターに専門職が配置されている理由が今回の研修で認識できた」,「センター内の専門職間の連携は,どのように行うか具体的にイメージができるようになった」,「他の専門職の持っている力を知る機会にもなり,連携や協力を促進させる」と第1回から第3回目にかけて多職種連携のイメージを具体化していた.
「ケースカンファレンスの実施意欲が向上した」は,第1回目は,「日頃ケースカンファレンスがあまりできていないため,自分たちのものにする手がかりになる」,第2回目は,「判断,支援のほとんどが個人に委ねられているため,不安があるので研修内容をとりいれたい」,「ひとつの事例を皆で考えることができ,良い場となった」,「ケースカンファレンスで連携の必要性(チーム対応)を学んだ」,第3回目は,「通常業務に必要」,「一人で抱え込まずに包括内でも協力を求めることが重要だと理解できた」,「チーム力を上げていくためにも専門職間の合意を得るケースカンファレンスのプロセスは必要」とケースカンファレンスの必要性と効果の認識の高まりを示していた.
二つ目の大項目,「有用であった研修内容及び方法」は,第1回目は,「業務をしながら(研修の)課題に取り組める」,第2回目は,「研修は,スーパービジョンとしての機能を持つと思うので個々のスキルアップにつながる」,「これまでにも研修は多くあるが,センター職員一緒に同じ内容を学べるという機会はなかった」,第3回は,「各センター別のケースカンファレンスの実施が有効だった」,「事例の選定からケースカンファレンスの実施評価の方法が実践的だった」,「センター内の専門職間の連携は他では受けられない研修内容である」と実践的な内容の効果を認識していた.
3. ケースカンファレンス演習の実施状況全センターが,第2回目のケースカンファレンス演習までに,基準に沿ってケースを選定することができた.各センターが選定したケースは,複合的なケアニーズがあった.第2回のケースカンファレンス演習では,各々の専門性を発揮した意見を述べ,支援目標と方針を検討できた.その際,参加した各センター担当のA市保健師1名は,検討結果に行政の立場としての意見を述べた.第3回のケースカンファレンス演習では,検討した支援目標と方針に沿って,1か月間の支援結果の評価を実施し,各々の専門性を発揮した意見を述べ,支援の結果を評価できた.全センターの専門職が基準に沿って,各々の専門性を発揮しながら多職種連携によるケースカンファレンスを実施できた.全センターの専門職が基準活用のための書式を用いて,ケースカンファレンスによる検討を共有することができた.
4. 第3回終了時点の専門職の実践および多職種連携の状況に関する認識 1) 専門職ケースカンファレンス演習の実施により,「センターが支援するケースは複合的な課題をひとつずつ分析することがわかった」,「情報を整理してセンター内で共有しながらケースを見極める必要性がわかった」,「1か月では変化がみられないと思われるケースを選定したがケースが動き出した」,「ケースを可視化して支援ができた」とケースカンファレンスを実施し,目標,支援方針に沿って支援した結果,ケースに対する支援方法の理解にもとづく支援の変化と効果を認識した.
「ケースカンファレンスをすれば,個人の判断でなく,みんなで話し合った結果の判断だからプレッシャーを感じなくなる」,「センターとしてみんなでケースにかかわっていると自覚ができた」,「自分の弱い部分を他の専門職から学ぶことができた」,「自分の専門性を顧みる機会となった」,「センター内で情報共有ができ,ケースの方向性が統一できた」,「普段から専門性を意識することを考えなければならないことが理解できた」とケースを支援する専門職としての自己の役割と多職種連携の必要性に関する認識が高まり,支援の方向性の統一等,多職種連携が進展したことを述べた.
2) A市保健師「センター内で事例のイメージができるように整理でき,利用者の強み弱みを意識して考える力がついた」,「センター内でケースカンファレンスの基本的な進め方の確認ができた」,「センター内でのケースカンファレンスにより,支援の目標に沿ってどこまで支援が進んだか,ケースを振り返って意識する大切さを学ぶことができた」,「センターの専門職の意見からそれぞれの経験値が上がり,スキルアップできた」,「センターの専門職みんなで実施した支援が進んだことを評価することが大切」と各センターにおける学びやケース支援の効果を認めていた.
5. 研修終了1ヶ月後の専門職の実践および多職種連携の状況 1) センター長センター内の専門職の変化として「幅広く物事を見ようと気づくことができた」,「経験の浅い職員がセンターの動きや支援の仕方を学んだ」,「自分の実践の振り返りができた」,「情報共有の方法が理解できた」,「改めて自分の専門性を考えている」と述べた.
センター内の多職種連携の変化として,「朝のミーティングで職員の意見が多くでるようになった」,「職員間のコミュニケーションがはかれるようになった」,「バラバラの動きだったがセンター内の動きが統一できた」,「センター全体で話し合いながら早期に適切な支援をしていくことを理解した」と述べた.
2) A市保健師「日々のセンターの中で意見を言い合える環境が整った」,「センター職員が研修で専門職の意識が高まった発言をした」,「ひとつの事例を丁寧にゆっくり,センターのメンバーと議論し合うことが少なかったが,経験が浅い職員も自分の専門職としての発言ができる機会になった」とセンターの専門職としての意識の高まりと意見交換が活性化したと述べた.
「ケースカンファレンスを実施し,A市保健師が認めたことでモチベーションがあがり,自分たちのチームワークはこれでいいんだと前向きになれた」,「センター職員は認めてもらえる機会が少ないので研修はモチベーションを高めることが出来た」とセンター職員のモチベーション向上に寄与したと述べた.
「研修終了後,一センター職員が個人で地区担当のA市保健師にケースの相談をしてきたので,研修で学んだことを確認し,センター内での連携を促せるようになった」とA市保健師が研修の学びを確認し,センター内の連携を促せたと述べた.
「(センターに)アドバイザーが必要なのかもしれない.立場が違うところでまた,(研究者が)包括の経験を持っているから思いが共感できるし,肯定的な助言をもらって(センター職員の)負担感が少し減ったのではないか」とセンター職員の立場から肯定的に支援する必要性と効果について述べた.
6. 研修終了3ヶ月後のケースカンファレンスの継続および多職種連携の状況7センターのうち3センターにおいて,ケースカンファレンスを継続していた.3センターでは,「事例の選定を確実に実施しており,ケース管理に使っている.全職員の担当ケースが理解できる」,「ミーティングで深める必要があるケースは,時間を作ってケースカンファレンスを行い,今後の方向性を共有する」,「ケースカンファレンスでそれぞれの専門職の判断を参考にし,ケース支援に活かしている」と各々のセンターに適した方法で研修内容を参考にしたケースカンファレンスを継続していた.
一方,4センターでは,朝のミーティングは継続していたが,ケースカンファレンスは実施していなかった.その要因は,ケースカンファレンスを実施する時間の確保が難しいことであった.4センターのうちの2センターでは,「職員の人数が少ないため,朝のミーティングの情報共有で十分であるが,職員には専門職の価値判断を継続して問いかけている」,「随時,困難ケースは時間をとって集まって話し合うようにしている.職員ひとりで抱え込まないようにしている.話し合いでは,専門職の意見を優先させる」と,センター長が研修内容を参考にミーティングでの多職種連携を推進していた.他の2センターでは,「A市からケースカンファレンスの実施の指導があったので意識はしていた」,「時間がもてない」と述べた.しかし,実施している3センターの取り組みを聞き,研修内容を振りかえることができ,「事例の選定から始めたい」と述べた.
各回研修終了後の自由回答から,専門職は,センター別のケースカンファレンス演習を通じて,自身の専門職としての役割を顧みる機会となり,経験の浅いセンター職員は,専門職としての役割を認識していた.さらに,他の職種の考え方を聞くことの重要性に気づくことができた.ケースカンファレンス演習に向けて,各センターで選定し,準備した事例を第2回目の研修で,自組織の多職種で検討し,検討結果をもとに支援した.第3回目の研修で,支援した結果を評価するという一連の流れを経験した.その結果,センターの専門職全員で支援をし,事例の変化を確認できた.このことは,自身が主担当か否かに関わらず,自身の専門職としての役割を認識し,センター職員としての事例への責任を自覚したことが,多職種連携への動機づけとなったと考える.
基準を用いた本研修は,専門職として目指す支援の方向性を検討し,自身の役割を担うというケースカンファレンスの効果を高め,また,決められた基準活用のための書式を使用することで確実に専門職間での共有ができる.センター内の多職種で議論・調整の場であることを認識したケースカンファレンスを充実させる(厚生労働省,2011)ためには,日々の実践で専門職が実用可能と認めたルールが必要と考える.
第3回研修終了後や研修終了1か月後の調査結果では,事例の主担当職員が,一人で抱え込まずに他専門職に相談することに気づき,職員間で助け合うことができた.研修終了1か月後の調査では,センター長が,職員の成長やセンター内の変化を実感していた.したがって本研修は,センター職員への多職種連携による支援の質向上を促す効果があったと考える.
研修終了3か月後の調査では,7センター中,4センターが時間の確保ができずにケースカンファレンスを実施できていなかった.複雑化・広範囲化した支援を要する事例が増加し(三菱総合研究所,2015),多忙な中で,複数の職員の時間を調整し,ケースカンファレンスを実施することは容易ではない.そうした中で,経験年数が様々な多職種がケースカンファレンスで共に学び(橋本,2009),支援の負担を軽減し合い,センターとしてよりよい支援を提供できることを実感することは,ケースカンファレンスの実施を促すと考える.支援の結果の評価をもとに多職種連携による支援の成功体験を共有することやセンターの支援に対する委託元の担当保健師の承認等の評価的支援が必要であると考える.
また,ケースカンファレンスを実施することが形骸化しないように,ケースカンファレンスの目的及び実施方法をセンター長や担当保健師が確認し続ける必要があると考える.
2. 委託元である市町村における研修実施の効果今回,本研修をA市主催の研修として実施することにより,センターとA市が研修内容を共有し,ケース支援における相互の連携が円滑になることを期待した.
研修終了1か月後の調査結果では,A市保健師は,専門職個人からの相談に対して,研修での学びを確認し,センター内の連携を促していた.このことは,研修での学びを日常の支援と関係づけることでセンター職員の力量形成に寄与したと考える.設置主体である市町村は,センター職員に対し,知識の習得だけではなく,実践的な能力を身につけられるような人材育成のための研修プログラムの受講を保証することが必要である(田中,2012).本研修は,市町村がセンター職員の多職種連携による実践的な能力を身につけることを助け,設置主体の役割の一つであるセンター職員の人材育成における役割を遂行するために有効と考える.
3. 今後の課題今回,研究協力者の認識をもとに研修の効果を評価した.今後,各事例における支援の効果をもとに,支援の質改善に関する研修効果を評価する必要があると考える.
A市の全センターを対象に,基準を用いたケースカンファレンス研修を実施し,評価した.本研修により,各職種の専門性の自覚と多職種連携による支援を促したといえる.
今後の総合相談支援の多様性と件数の増加に備え,センターの多職種連携による効果的な支援を促すために,委託元の行政主導で本研修を実施することが期待される.
本研究にご協力くださいましたA市保健師の課長と保健師の皆様と地域包括支援センターの職員の皆様に心より感謝申し上げます.
本研究に開示すべきCOI状態はない.