日本公衆衛生看護学会誌
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研究
介護支援専門員の飲酒問題を持つ高齢者とその家族への関わり
清水 めぐみ原田 小夜
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2021 年 10 巻 3 号 p. 94-102

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Abstract

目的:介護支援専門員の高齢者の飲酒問題に対する認識と飲酒問題を持つ本人,家族への関わりを明らかにする.

方法:介護支援専門員24人の面接内容を質的統合法(KJ法)により分析した.

結果:介護支援専門員は【飲酒問題に対する学習機会の不足と飲酒に寛容な地域の中で飲酒問題を抱える高齢者を支援する難しさ】と【家族の揺れ動く気持ちを理解することの難しさと支援がうまくいかなかったことへの不全感】を認識しており,【飲酒に向き合う本人の気持ちに寄り添いながら介入のタイミングを見極め,本人の気づきを促す姿勢】で【介護サービスを利用した家族支援と飲めない環境づくり】を行っていた.【専門外の内科医の熱心な指導と専門医との協働】と【本人・家族の学習の場となる断酒会の存在】を望んでいた.

考察:介護支援専門員は飲酒問題の学習不足を感じつつ,介護サービスを活用し,医師や断酒会と連携して本人,家族を支援していたと考える.

Translated Abstract

Objective: We aim to clarify care managers’ recognition of alcohol-related problems and approaches to support elderly residents with such problems and their families.

Methods: Interview data with 24 care managers were analyzed using a qualitative integrative approach (the KJ method).

Results: The care managers realized [lack of learning opportunities about alcohol-related problems and difficulty in supporting the elderly in communities overlooking such problems] and [difficulty in understanding families’ wavering emotions and self-insufficiency for not being able to provide proper support]. With [the attitude of determining appropriate timings for intervention and promoting awareness among elderly residents facing alcohol-related problems, while respecting their emotions], the care managers adopted various approaches, such as [providing family support utilizing care services and making environmental arrangements to prevent drinking]. In such a situation, the care managers desired [earnest guidance by physicians, not specializing in these problems, and collaboration with specialists] and [peer groups where elderly residents/families can study alcohol-related problems].

Discussion: While realizing that they lacked sufficient knowledge of alcohol-related problems among elderly residents, the care managers supported them and their families by utilizing care services to resolve these problems, and through collaboration with doctors and peer groups.

I. 緒言

わが国は高齢化率が上昇し,介護が必要な高齢者が増加することから,介護負担を地域全体で支え,住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることができるよう,地域包括ケアシステムの構築が進められてきている(厚生労働統計協会,2017).平成28年の国民生活基礎調査によると,介護が必要となった原因疾患では認知症が最も多く,次いで脳血管疾患である(厚生労働省,2017a).長年の大量飲酒は脳の委縮をもたらし認知症になる危険度が高くなること,またアルコール依存症の高齢者は60歳代で50%に脳梗塞がみられ,健常な高齢者の3~4倍の頻度になることなどから,高齢者の健康寿命には,飲酒が大きく関与している(松井ら,2015).しかし,わが国は飲酒や酔いに寛容で,飲酒が人々を結びつける手段として社会的に受け入れられており,飲酒は男性がストレス解消のためにとる最もポピュラーな対処行動のひとつである(清水,2003,p. 44).また,アルコール依存症が精神疾患であると認識されず,本人の意思の弱さによって問題を起こすというアルコール依存症に対する誤った認識が,本人や家族の否認を生み,治療の障壁となっている(樋口ら,2003).特に高齢者の場合,家族は「余命が長い訳ではないから少しくらいなら飲んでもよい」と,本人の飲酒に寛容になり過ぎる傾向にあるとの指摘がある(アルコール保健指導マニュアル研究会,2012,p. 95).大阪府下で行われた調査では,高齢者の介護現場において利用者の飲酒による問題に遭遇した経験のある従事者は79.1%と多く(関西アルコール関連問題学会,2009),2012年に実施された北海道立精神保健福祉センターの調査では,高齢者の飲酒問題は,長期化・複雑化するにもかかわらず支援者間のネットワークが不十分であると報告されている.

成人期のアルコール依存症者に対する相談支援活動は,保健所や市町村の保健師などの精神保健専門職が断酒会,アルコール依存症専門医療機関と連携して行っている.高齢期に入り要介護状態となった場合,相談支援活動の主体が介護支援専門員に移行する.介護支援専門員は介護サービスの導入を考えながら生活の場に入ることで,利用者の潜在化していた飲酒問題に直面する.介護支援専門員は介護保険サービス,保健医療サービス,福祉サービス,地域の自発的活動によるサービスなどの利用を含めてサービス計画を策定することとされている(厚生労働省,1999).しかし,介護支援専門員はアルコール依存症を含む高齢精神障害者のケアマネジメント経験は少なく,精神保健医療福祉関係者との連携の難しさを感じている(原田ら,2018).地域包括支援センターの開催する地域ケア会議には,介護支援専門員が飲酒による問題行動に振り回され,対応に苦慮している事例が提出されている(原田ら,2017).介護支援専門員への支援を担う地域包括支援センター職員もアルコール依存症を含む高齢精神障害者支援の支援経験が少なく,対応に苦慮している(原田ら,2019).高齢者の飲酒問題に関する先行研究では,高齢者の飲酒問題の特徴(木村,2015松井ら,2015)や実態把握(北海道立精神保健福祉センター,2012)の研究が散見されるが,介護関係者のアルコール依存症や飲酒問題に関する認識や対応について検討された報告は見られない.

今後,高齢者のアルコール依存症や飲酒問題が増加することが予測される中,高齢者の地域包括ケアの推進には介護支援専門員が高齢者の飲酒問題を認識し,適切に対応をすることが重要である.本研究の目的は,介護支援専門員の飲酒問題を持つ高齢者とその家族への関わりおよび飲酒問題に対する認識とその背景を明らかにすることであり,本研究の結果は介護現場における高齢者の飲酒問題への対応を考える基礎資料となる.

本研究では,飲酒問題をアルコールに関連した肝障害などの身体的影響,アルコール依存症など心理・精神的な影響,飲酒運転,虐待,失業など多様な問題を含むもの(白倉,2003)とし,関わりは高齢者やその家族との直接的な相談,関係機関との連絡調整などの間接的な相談を含むことと定義した.

II. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,質的記述的研究デザインを用いた.

2. 研究協力者

A県にある2市1町の居宅介護支援事業所,地域包括支援センターに勤務する介護支援専門員で,飲酒問題を持つ高齢者と家族を支援している者,または支援経験のある者で,支援事例数は問わなかった.都市近郊のB市,C市と田園部のD町の人口は2万~13万人,高齢化率は20~24%で,2次医療圏にはアルコール治療専門病院を有し,高齢者を対象とした昼間断酒会が開かれている.

研究者らは介護支援専門員の集まりに参加し,研究協力者を募った.また,C市内の主任介護支援専門員が在籍している居宅介護支援事業所9か所に,研究協力依頼を行った.研究協力に同意が得られた介護支援専門員は24名であった.

3. データ収集方法

データ収集は,グループインタビューと個別インタビューを実施した.インタビューの実施期間は2017年3月~4月である.相互の会話が活性化し,多くの意見を引き出すことができる(安梅,2001)ことからグループインタビュー法を選択したが,研究協力者からの個別で意見を聴いてほしいという希望やグループインタビューへの参加が難しい場合に個別インタビューを実施した.インタビューは,アルコール依存症者やその家族に関する先行研究(越智ら,2007新井ら,2013)を参考にインタビューガイドを作成した.研究協力者に自分の支援経験を想起してもらいながら,「飲酒問題を持った利用者や家族に対しどのように支援しているのか,また,その理由について」をテーマにインタビューを行った.インタビューの回数は各介護支援専門員1回とし,3~5名のグループインタビューを5回,個別インタビューを5回行った.1回の所要時間は30分から1時間程度とした.インタビューは,研究者2名で行い,1名がインタビュー,1名が記録を担当した.インタビュー内容はICレコーダーに録音し,フィールドノーツを作成した.

4. データ分析方法

山浦(2012)の開発による質的統合法(KJ法)を用いて分析した.質的統合法(KJ法)はバラバラな質的データをもとに実態把握から論理の抽出を行い,事例を蓄積していくことで,事例間に共通する論理を抽出し理論化をはかる方法である.本研究は,個々の介護支援専門員の飲酒問題を持つ事例に対する介護支援専門員の関わりや,その背景にある介護支援専門員自身の高齢者の飲酒問題に対する認識から事例に共通する論理を検討することから,質的統合法(KJ法)を用いた.

インタビューデータは,研究協力者個々に個別分析後,総合分析を行った.個別分析は,研究協力者個々に,語られた内容をそのままもれなく記述した逐語録を精読し,逐語録の文章を訴える内容が1つになるよう単位に区切って,1つのラベル(以下,元ラベル)をつくるという作業を繰り返した.似ている内容の元ラベルを集めてグループを編成し,集まった元ラベルの内容を一文にまとめた.これを下位ラベルとし,さらに下位ラベルをグループ編成する作業を繰り返し,6枚前後の最終ラベルにまとめた.総合分析は,研究協力者個々の最終ラベルを元ラベルとして,個別分析と同様の手順でグループ編成を繰り返し,6枚の最終ラベルにまとめた.最終ラベルの内容を集約した表現でシンボルマークを作成した.そしてラベル間の関係性を明らかにした見取り図を作成した.関係記号を用いてラベル同士の関係性を示し,「添え言葉」という接続詞的な言葉を加えて見取り図の全体像を説明する文章を作成し,分析結果をストーリー化した.

分析の真実性を確保するため,質的統合法(KJ法)の研修を受講した.また,分析の全過程において質的統合法(KJ法)の研究者のスーパーバイズを受けるとともに,見取り図の作成段階で山浦氏のスーパーバイズを受けた.

5. 倫理的配慮

研究協力者に対し,研究の目的と意義,調査内容,拒否の権利,匿名性の確保,研究結果の公表方法などについて文書と口頭で説明し,文書で同意を得た.個人情報の保護のため研究協力者を匿名化し,収集したデータは専用のUSBメモリに保存すること,鍵のかかるキャビネットに保管し,録音データは研究終了後消去することを説明した.本研究は聖泉大学人を対象とする研究倫理委員会の承認を受けた.(承認番号015-019,承認日2016年4月11日).

III. 研究結果

1. 研究協力者の概要

研究協力者24名の内訳は,男性2名,女性22名,年齢は30歳代1名,40歳代13名,50歳代9名,70歳代1名で,介護支援専門員としての平均経験年数は9.5年で,最短1年,最長17年であった.基礎となる資格は介護職(介護福祉士など)9名,医療職(看護師・保健師・歯科衛生士など)13名,福祉職(社会福祉士など)2名であった.

2. 分析結果

研究協力者24名の個別分析の最終ラベル128枚を総合分析に用いた.4回のグループ編成を繰り返し,6つのシンボルマークに統合した.シンボルマークにより構成される,介護支援専門員が高齢者の飲酒問題や,飲酒問題を持つ高齢者とその家族への対応についてどのように認識しているかを図1のように示した.【 】はシンボルマーク,〈 〉内は最終ラベル,各シンボルマークを支持している元ラベルは ‘ ’,下位ラベルは[ ]で示す.

図1 

介護支援専門員の高齢者の飲酒問題に対する認識と飲酒問題を持つ本人とその家族への関わり

介護支援専門員の高齢者の飲酒問題に対する認識は,【飲酒問題に対する学習機会の不足と飲酒に寛容な地域の中で飲酒問題を抱える高齢者を支援する難しさ】と【家族の揺れ動く気持ちを理解することの難しさと支援がうまくいかなかったことへの不全感】があいまっていた.しかしそんな中で,飲酒問題を持つ高齢者の生活を支えるために【飲酒に向き合う本人の気持ちに寄り添いながら介入のタイミングを見極め,本人の気づきを促す姿勢】で,【介護サービスを利用した家族支援と飲めない環境づくり】を行っており,介護支援専門員は【専門外の内科医の熱心な指導と専門医との協働】と【本人・家族の学習の場となる断酒会の存在】の両面からの支援を望んでいた.

1) 【飲酒問題に対する学習機会の不足と飲酒に寛容な地域の中で飲酒問題を抱える高齢者を支援する難しさ】について

研究協力者は,‘(アルコールを)嗜好品として日常的に飲んでいることとアルコール依存症の境目に誰が気づけるのだろうか’ や ‘アルコール依存症が精神疾患であり,認知症も混ざっていることを知る機会があると意識が変わる’ ので,‘飲酒問題のケースを抱えているときは研修にも参加したい’ のように,[困っている利用者を抱えているときは研修に参加したいと思う]が,[飲酒問題の知識を得る機会はない]と研究協力者自身の飲酒問題に対する学習機会の不足が語られた.また,〈飲酒に寛容で,飲酒問題の解決に協力を得にくい地域であり,介護支援専門員はアルコールで困っているときは研修会に参加したいと思うが,アルコールの知識を得る機会はあまりない〉と語った.‘何か行事があるとお酒を勧めるのが礼儀のようになっている’し,‘「飲めない人はあかん」的なことを言うのがこのあたりの地域性である’ と[飲酒に寛容で,飲酒問題の解決に協力を得にくい地域である]と地域の特性を語った.

2) 【家族の揺れ動く気持ちを理解することの難しさと支援がうまくいかなかったことへの不全感】について

本人の飲酒への家族の対応について,〈多くの家族は本人に酒を買い与えるので,本当にやめさせたいと思っているのか疑問に思い,飲酒問題への関わりの難しさを感じるし,解決しないまま関わりが終わってしまうと後悔や不全感が残る〉と語った.‘本人はお酒がないと正常に戻るので,家族はお酒を飲むことがアルコール依存症だと認められない’,‘家族はアルコール依存症を知られたくないという思いがある’ のように,[家族にはアルコール依存症とは認めたくない気持ちがある]と理解していた.また ‘妻は,お酒はだめだと言いながら,1杯だけならいいだろうとあげたりする’ ので,[家族は本当にやめさせたいのかと思う]と家族の行動に対する疑問を語った.さらに,‘子どもに援助を頼んだが,今まで両親が子どもを助けたことがないのを理由に断られる’ のように[本人との今までの関係から協力を得るのが難しい]と,本人,家族の関係を理解したうえで飲酒問題にアプローチしなければならないことの困難さを語った.また,[断酒会や介護サービスを勧めるが,本人の気持ちに沿っているとは言えず,飲酒問題の解決は難しく,対応方法について後悔したり,反省したりする]や,[本人が入所したりして介護支援専門員の役割が終わると飲酒問題への関わりもなくなってしまい,その後どうなったかわからない]と問題が未解決のまま関わりが終わってしまうことへの不全感を語った.

3) 【飲酒に向き合う本人の気持ちに寄り添いながら介入のタイミングを見極め,本人の気づきを促す姿勢】について

介護支援専門員の本人への対応について,〈飲酒で家族や社会に迷惑をかけないうちは介護支援専門員もやめろとは言えないが,アルコールの害が大きくなったことに介護支援専門員が気づいたり,本人が飲酒はよくないと思った時は本人や家族と話し合い,どうしたらよいか本人が決めることがよいし,それ以前に酒量が増えないよう趣味を持つことなども必要だと思っている〉と語った.研究協力者は,‘デイサービスの時に酒臭い状態であるが,特に問題が起きているわけでなく,飲んではだめと言えない’ と[飲酒していても問題が表面化していなければやめるように言う理由がない]ことを語った.‘素面のときに本人とどうしたらお酒をやめられるか話し合い,専門の医療機関を受診する’,‘大腿骨骨折後,よくないと自分でわかり,飲むのをやめた’ のように,[社会生活や身体面に問題が生じたとき,介護支援専門員が本人,家族とどうしたらいいか話し合う]と本人と飲酒について考える機会を持ったことを語った.また,‘アルバイトのあるときは酒量を制限できる’,‘朝から飲まないように定年後を見据えて趣味などを持つ必要がある’ など,飲酒問題を起こさないために[酒量が増えないよう,お酒以外の趣味を持つ]高齢者の生活のあり方について語った.

4) 【介護サービスを利用した家族支援と飲めない環境づくり】について

介護サービスの利用について,〈介護サービスの利用や家族の金銭管理による「飲めない環境」づくり,家族と距離をおくことによる介護負担軽減などを図り,飲酒問題の解決に至ることがある〉と介護支援専門員としての経験を語った.‘お酒で体調を悪くしても,介護保険のヘルパーの支援やデイサービスの利用による飲まない環境づくりなどにより,最後はお酒をやめることができる’‘ヘルパーの訪問によって寂しさや不安が取り除かれ,お酒の量が減っていった’ と[介護サービスを利用すると飲まない環境が作れ,飲酒量の減少や家族との程よい距離の保持に役立つ]ことを語った.

また,‘お金の管理を妻がしているのでお酒を買えない’,‘息子がお酒を管理し量は抑えられるようになった’ のように,[家族の目が届き,お金の管理も家族がするようになると適度な飲酒に収まる]ことを語った.

5) 【専門外の内科医の熱心な指導と専門医との協働】について

医師の本人への指導について,〈アルコール依存症は専門的な治療が必要であるが,そこで必ずしも治療がうまくいくとは限らず,内科医であっても飲みすぎないように言うだけで,飲酒のことには触れないこともあるが,内科医の熱心な指導で飲まなくなる場合もある〉と飲酒問題に対する医師の関わりを語った.研究協力者は,‘(本人は)飲酒について後ろめたい気持ちがあり,自分から言わないので主治医はアルコールのことは知らない’,‘主治医に飲んでよいか尋ねると,あかんとは言わなかった’,‘主治医はお酒を控えるようにとしか言わない’ のように[本人は自分に都合のよいように主治医に話すため,主治医は飲みすぎないように言うだけである]こと,内科医については,‘主治医は精神疾患などややこしい者に関わりたくないと思っている’,‘お酒は嗜好品であるが,問題行動があれば嗜好品でなくなることを主治医が理解していない’ と[主治医はアルコール依存症に関する意識が低く,精神疾患などややこしい者には関わりたくないと思っている]と語った.その反面,‘内科医から厳しく指導されて断酒につながることもある’,‘専門病院への紹介はないが,主治医は親身になってくれた’,のように[内科の主治医の熱心な指導によって飲まなくなることもある]ことが語られた.また,専門医に繋がった場合,‘専門医にかかっても抗酒剤を飲んだふりをして捨てていた’,‘家族は専門医のアドバイスを素直に聴けなかった’こともあれば,‘入院時の主治医は時間をかけてアルコールのことを説明してくれたので今は飲まずに生活している’,‘(専門医の)診察に同行すると対応について相談することができた’ と[アルコール依存症の専門病院では必ずしも適切な医療を受けられるとは限らないが,治療がうまくいき,介護支援専門員の力になってくれることもある]のように,医師との協働について語った.

6) 【本人・家族の学習の場となる断酒会の存在】

介護支援専門員と断酒会との関わりについて,〈本人,家族は断酒会につながりにくいが,介護支援専門員として断酒会を知っておくことは必要であり,ピアカウンセリング的な会が身近にあると行きやすく,力になってくれるので,参加しやすいよう,「断酒会」でなく,「アルコールの勉強会」というほうがよいと思っている〉と語った.研究協力者は ‘断酒という名目では飲みたい人には響かず,家族にも勧めにくい’,‘(本人は)断酒会に行ったらアルコール依存症というレッテルを貼られるのでいや’,‘断酒会を家族に提案するが,意欲のない人は連れていけない’ と[断酒会というとアルコール依存症と決めつけられる印象を受ける]と語った.一方では,‘以前(研修会で)聞いた断酒会の方の依存症に至る成育歴などが印象的で,背景や問題となっていることを考えないといけないと思ったし,断酒会例会に出席し,断酒会のメリットであるピアカウンセリング的なことを体験するのがよいと思う’ や‘飲酒者にとって断酒と言うやめさせられる前提の勉強会より,アルコール一般についての勉強会の方が参加しやすい’ ので[介護支援専門員自身が断酒会を知って勧めるほうがよいし,アルコールについて勉強する会というほうがよい]と断酒会で本人・家族に飲酒問題について学習してほしいと語った.

IV. 考察

1. 介護支援専門員の飲酒問題についての気づきの難しさと学習機会の不足について

2016年国民生活基礎調査では65歳以上の男性の31.2%が毎日飲酒しており,生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者は9.3%である(厚生労働省,2017b)ことから,多くの介護保険の利用者が潜在的に飲酒問題を有していると考えられる.しかし,【飲酒問題に対する学習機会の不足と飲酒に寛容な地域の中で飲酒問題を抱える高齢者を支援する難しさ】では,介護支専門員のアルコール依存症に対する知識や学習機会の不足が語られた.‘(アルコールを)嗜好品として日常的に飲んでいることとアルコール依存症の境目に誰が気づけるのだろうか’ のように,介護支援専門員は,本人の飲酒についてアルコール依存症か適正飲酒かの判断が難しいことが推察される.加えて[困っている利用者を抱えているときは研修に参加したいと思う]のように,自分が飲酒問題の利用者を持った時に初めて知識の必要性を感じる状況になる.介護支援専門員のアルコール依存症者のケアプラン作成経験は2割程度(原田ら,2019)と少なく,アルコール依存症と診断された事例の支援経験が少ない.したがって,介護支援専門員は飲酒問題が潜在化している段階では,飲酒問題に気づくことが難しく,問題行動として表面化した段階で対応に苦慮する状況が推察される.わが国は飲酒や酔いに寛容であり(清水,2003,p. 33),必要な医療に結びついていないアルコール依存症の人が多い(尾崎,2015)との指摘があるが,本研究においても飲酒に対して寛容な地域の特徴が語られた.したがって,高齢者の飲酒問題に対する早期介入には,介護支援専門員の高齢者の飲酒問題に対する関心を高める必要がある.アルコール依存症は身近な疾患であり,利用者の中にアルコール依存症の予備軍が潜在化していることを積極的に伝えていく必要がある.

【家族の揺れ動く気持ちを理解することの難しさと支援がうまくいかなかったことへの不全感】については,介護支援専門員の飲酒問題への知識や学習の不足と,アルコール依存症の高齢者の支援経験の不足が起因していると考えられる.研究協力者は,家族が本人に酒を買い与える行動への疑問を持っていた.また,[本人との今までの関係から協力を得るのが難しい]のように,長年にわたり本人の飲酒に苦しんできたという思いから飲酒問題の解決に協力しない家族に働きかけることの困難さを感じていたと考えられる.新井ら(2013)は本人のみならず,家族にも介入することが飲酒問題の深刻化を防ぐと報告している.飲酒問題を持つ高齢者の支援においては,介護支援専門員がアルコール依存症の家族の心理を理解し,家族全体を支援する必要がある.地域包括支援センターは,介護支援専門員に対するアルコール依存症に関する基礎知識の提供や支援事例に基づく事例検討会などの学習機会の提供を行うとともに,介護支援専門員への相談支援体制を整えておく必要があると考える.

2. 介護支援専門員の強みを活かした飲酒問題への対応

高齢のアルコール依存症者は内科的疾患,転倒による骨折や認知機能の低下などをきっかけに介護保険サービスにつながることが多い.そのため,未治療で継続的に支援している人がいない高齢者に関わることが多く,本人との信頼関係の構築が重要である.洲脇ら(2003)は,アルコール依存症の治療は「面接を通して治療者・患者間に率直で信頼し合える関係を築き,自ら進んで治療へ取り組んでいく動機づけを育むことが大切」と述べている.【飲酒に向き合う本人の気持ちに寄り添いながら介入のタイミングを見極め,本人の気づきを促す姿勢】として,[社会生活や身体面に問題が生じたとき,介護支援専門員が本人,家族とどうしたらいいか話し合う]のように,本人・家族と一緒に考える姿勢を大切にし,信頼関係の構築が重要であると考えていた.また,[酒量が増えないよう,お酒以外の趣味を持つ]ことのように生活を整えることや生きがいづくりが,断酒や節酒につながると捉えていたと考える.高齢者はアルコール問題に直面させるより,背景にある孤独や抑うつを重視して支持的にサポートする方法が重視されており(アルコール保健指導マニュアル研究会,2012,p. 97),介護支援専門員の関わりは高齢者のアルコール問題への適切な対応であったと考えられる.【介護サービスを利用した家族支援と飲めない環境づくり】は,介護サービスを活用し,介護サービス事業所や家族と連携して,本人が温かい気持ちで過ごせる環境をつくることで飲酒しない生活につなげる支援であった.介護支援専門員は介護サービス提供者と協働した生活支援が高齢者の飲酒問題の解決に効果があると捉えていた.介護保険サービスの導入は家族の介護負担の軽減だけでなく,飲酒問題に内在される高齢者の孤独感や不安感の軽減につながり,結果として飲まなくても過ごせる環境づくりにつながっていたと考えられる.飲酒問題に直面化させる支援ではなく,介護サービスのケアマネジメントによる環境調整は介護支援専門員でしかできない支援として重要であると考えられる.

3. 専門外の内科医による飲酒問題に関する指導と専門医との協働

内科などの一般医療機関受診はアルコール依存症者を早期に発見し,早期治療に結びつける重要な機会になる(岩田ら,2008).しかし,本研究では飲酒に問題を持っている高齢者はアルコールのことは主治医に積極的に相談しないと語られた.木村(2015)は,高齢者にはアルコール依存症者は少ないという医療者の思い込みなどから飲酒問題が見過ごされやすい傾向にあると指摘している.主治医が飲酒問題に関心が低い場合がある一方,‘内科医から厳しく指導されて断酒につながることもある’のように,内科医の熱心な指導や,‘(専門医の)診察に同行すると対応について相談することができた’のように,専門医による適切なアドバイスがあると語った.介護支援専門員が飲酒問題を持つ高齢者の支援を進めるために,【専門外の内科医の熱心な指導と専門医との協働】が重要であり,介護支援専門員が本人・家族に適切に関わるには,医療のサポートが必要である.藤沼(2014)は,内科医がアルコール問題を含む複雑困難な事例に対応するために,助けになる地域の医療保健福祉,行政関係者を具体的に知り,事例に応じてチームを形成する必要があると述べている.介護支援専門員が高齢者の飲酒問題について対応できるよう,地域包括支援センターは,アルコール専門医療機関と内科医との連携,保健所などの行政機関とのネットワークを構築する必要があると考える.

4. 本人・家族が参加しやすい断酒会などピアグループの必要性

‘断酒会を家族に提案するが,意欲のない人は連れていけない’ と研究協力者は断酒会の存在は知っていても飲酒をやめる積極的な意思のない人は参加できず,本人・家族の参加には至らなかったことを経験していた.また,‘断酒という名目では飲みたい人には響かず,家族にも勧めにくい’ と語った.前田(2012)は,妻が先に断酒会につながり,後に本人が参加するケースが多く,夫婦での断酒会参加は本人の会への定着,断酒継続を促進させると述べている.しかし,高齢期になってから飲酒問題が顕在化した場合,家族にとっても断酒会に参加することは敷居が高いと考えられる.また,参加を勧める側の介護支援専門員自身が断酒会のことを理解していない場合,断酒会につながりにくい状況が推察される.大槻(2017)は,断酒会は自助団体中心の事業から脱皮して,地域連携による公益性の高い事業を目指すと述べている.本研究フィールドのように昼間に開催される高齢者向けの断酒会例会は,アルコール依存症と診断されていない飲酒問題を持つ高齢者の学習の場として期待されている(全日本断酒連盟,2015).【本人・家族の学習の場となる断酒会の存在】は,本人・家族が断酒会で飲酒問題について学習すること,学習の場に参加するための関わりであった.介護支援専門員は断酒会について,アルコール依存症と決めつけられる,参加するには敷居が高いところと捉えていた.高齢者本人も家族もアルコール依存症について学び,支え合う仲間を持てる高齢者向けの昼間の断酒会などの存在について介護支援専門員への情報提供が重要であると考える.

V. 研究の限界と今後の課題

本研究では,介護支援専門員が飲酒問題を持つ高齢者への関わりとその背景にある課題が明らかになり,介護支援専門員への相談・支援方法について示唆を得ることができた.

しかし,本研究は,限られた地域における調査であり,研究協力者である介護支援専門員の勤務場所,基礎資格,性別などに偏りがある.今後,他の地域で調査を実施する等,事例数を増やして検討することや,今回の研究を活かした量的調査を実施する必要性がある.

VI. 結論

介護支援専門員の飲酒問題を持つ高齢者と家族への支援への関わりは,【飲酒問題に対する学習機会の不足と飲酒に寛容な地域の中で飲酒問題を抱える高齢者を支援する難しさ】と【家族の揺れ動く気持ちを理解することの難しさと支援がうまくいかなかったことへの不全感】があいまっていた.しかしそんな中で介護支援専門員は,【飲酒に向き合う本人の気持ちに寄り添いながら介入のタイミングを見極め,本人の気づきを促す姿勢】で【介護サービスを利用した家族支援と飲めない環境づくり】を行っており,高齢者と家族の飲酒問題の解決のために,【専門外の内科医の熱心な指導と専門医との協働】と【本人・家族の学習の場となる断酒会の存在】を望んでいた.介護支援専門員の飲酒問題に対する学習機会の提供,専門医やピアグループとの連携体制の構築により,介護サービスを効果的に活用した支援を進める必要性があることが示唆された.

謝辞

本研究にご協力くださいました介護支援専門員の皆様に深謝いたします.また,分析過程においてご指導いただきました情報工房代表ならびに千葉大学大学院看護学研究科特命教授の山浦晴男氏,研究をご指導いただきました名桜大学名誉教授の稲垣絹代氏に深謝いたします.

なお,開示すべき,COI関係にあたる企業等はない.本研究は聖泉大学大学院看護学研究科修士論文の一部である.結果の一部を第7回日本公衆衛生看護学会学術集会にて発表した.

文献
 
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