日本公衆衛生看護学会誌
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研究
自治体に勤務する保健師の活動経験の実態と「活動の成果を見せる行動」との関連
長野 扶佐美小出 恵子岡本 玲子
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2022 年 11 巻 2 号 p. 108-116

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Abstract

目的:自治体に勤務する保健師の活動経験の実態と「活動の成果を見せる行動」との関連を明らかにする.

方法:対象は中国地方5県の自治体に勤務する保健師である.基本属性,活動の成果を見せる行動,活動経験(努力経験・省察経験・職場被支援経験)についてMann-WhitneyのU検定,Kruskal-WallisのH検定で分析した.

結果:活動の成果を見せる行動では,経験年数・設置主体・職位のいずれも関連はなかった.努力経験有無別活動の成果を見せる行動得点では,経験あり群がなし群に比較して5分野で有意な差が見られた.省察経験との関連でも同様に有意な差が見られ,職場被支援経験との関連では内省支援,精神支援に有意な差が見られた.

考察:自治体に勤務する保健師の活動の成果を見せる行動の向上には,PDCAサイクルを丁寧に回すこと,省察経験を多く積むこと,職場として内省支援・精神支援ができる環境を整える必要がある.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify the relationship between the status of “action to show the results of activities” and the experience of the activities of public health nurses working for a municipal government.

Methods: The participants comprised public health nurses working in municipalities in five prefectures in Chugoku region, Japan. Basic attributes, action to show the results of activities, and experiences with activities (i.e., effort- related experience, experience with reflection, and experience with workplace support) were analyzed using the Mann-Whitney U and Kruskal-Wallis H tests.

Results: There was no relationship between years of experience and the organization responsible for establishment or that between job position and action to show the results of activities. A significant difference was observed in the score for action to show the results of activities between the group with effort-related experience and that with no experience, with regard to the five fields. Similarly, a significant difference existed regarding experience with reflection. Finally, a significant difference between reflection and mental support in relation to experience with workplace support was noted.

Discussion: For public health nurses working in a municipality to improve “action to show the results of activities”, it is necessary to carefully implement the plan-do-check-act cycle, to gain substantial experience with reflection, and to create a workplace support environment that incorporates reflection and mental support.

I. 緒言

自治体に勤務する保健師が対応する健康課題は,複雑化,深刻化しており,保健師には,高い実践能力が求められている.とりわけ,課題解決に向けて計画を立案し,実施した後,どのような成果があったのかを関係者や住民に見せ,その評価に基づいて次の活動を展開することが重要であり,一連の実践能力の開発が急務である.なかでも,保健活動の成果を見せることは,評価を見せることに他ならず,保健活動を展開するうえで重要な実践能力と考えられる.

保健師の活動の成果を見せる実践能力に関連する先行研究では,施策化立案,施策・事業評価,情報を資料に加工する能力について,十分あると回答した者が15%から17%と低い状況であった(佐伯ら,1999).今特に強化が必要な行政保健師の能力について,6段階の到達度で問うた実態調査では,保健師には活動の成果を見せる実践能力が求められているものの,その能力は低い現状にあることが分かっている(岡本ら,2007).評価によって果たせる住民に対する「説明する責任(accountability)」にも課題があることが示唆されている(中板,2009).これらより,活動の成果を見せる実践能力の実態に即して,それを高めるための方向性を明らかにすることが急務と考える.

保健師の経験学習に関する研究では,困難事例の対応,地域支援,研修会への参加,管理職の経験をしたことによって,地域・他者との連携,寄り添いと関係構築,保健師としての専門性,マネジメント力,保健師の役割等の学びが得られたとされている(松尾,2010).これは,保健師の実践能力の向上が経験の積み方に関連していることを示しており,保健師は実践を積上げながら熟達していく可能性を示唆している.また,様々な活動中でも課題が適度に難しく,明確であることが個人を成長させる条件の一つである(Ericsson et al., 1993),との報告からも,保健師の実践能力を高める経験の積み方に努力を要した経験があるのではないかと考える.しかし,活動の成果を見せる実践能力を向上するために,どのように経験が関連しているかについての調査はなされていない.

実践から効果的な学びを可能にする方法には,実践を振り返りよりよい在り様を探っていく省察的実践(Reflective Practice)(Burns et al., 2000)がある.また,健康学習支援における保健師の力量形成過程の調査では,他者視点を獲得することで,個々の保健師の学習能力に依拠する経験依存型の力量形成のみに頼るのでなく,自分の体験や経験を同僚・同業者や専門の研究者,あるいはベテラン保健師に語る営みをとおして,自分の保健師活動の内実(その意義と課題)に気づくことが必要であるという報告がある(村松,2001).しかし,保健師の実践能力に関する先行研究では(佐伯ら,199920032004野中ら,2009岡本ら,2007),実践能力と省察的実践や対話による気づきの経験との関連は調査されていない.

民間企業における職場での他者からの支援に関する研究では,他者から受けている支援は,業務支援,内省支援,精神支援の3タイプがあり,誰からどのタイプの支援を受けることが能力の向上と関連があるかを明らかにしていた(中原,2010).自治体保健師の施策化能力の向上には,主体的な事業立案の経験と内省支援を得やすい職場環境が重要であることが報告されている(渡部ら,2017).これらから,能力向上には職場での他者からの支援の内容が関係するということが示唆され,保健師の実践能力にも様々な活動経験が関連しているのではないかと考えた.

そこで,本研究の目的を自治体に勤務する保健師の活動経験の実態と活動の成果を見せる行動との関連を明らかにすることとした.本稿における「活動の成果を見せる行動」とは,活動の目標達成度の分析・評価や,改善点・今後の方向性等について,意思決定者や住民に公表・説明をすることである.また,「保健師の活動経験」とは,経験は「人間と外部環境との相互作用」(Dewey, 1938)と言われている.この経験は,外部の客観的な事象に関与する「外的経験」と,関与する事象を解釈する「内的経験」に分類される(松尾,2006).本稿では,保健師の成果を見せる行動に影響する外的経験として,「それまで以上に努力を要した保健師活動の経験(以下,努力経験)」,内的経験として,「省察経験」があると考えた.また,職場で他者から支援を受けるという職場被支援経験は,職場そのものが同僚や上司との相互作用における対話や教えあい,情報のやりとり等により,保健師自身に外的経験を与え,内的経験を引き出すと考えた.この職場被支援経験には,内省支援に加え,業務支援や精神支援を受ける経験も,関与する事象を解釈する経験につながると考え含めた.これら三つの経験を保健師の活動経験とした.

II. 研究方法

1. 調査対象

調査対象は,病院,施設に勤務する者を除き,中国地方5県の県庁(5か所),保健所・保健所支所(40か所),精神保健福祉センター(6か所),児童相談所(14か所),市町村(104か所)に勤務する保健師であり,系統抽出法で抽出した常勤保健師の1/2にあたる1,191人であった.

2. 調査方法

調査方法は無記名の自記式質問紙調査を用いた郵送法であり,調査期間は2012年2月から3月であった.なお,系統抽出法とするため,偏りがないように,保健師を経験年数順に並べた時,年齢の低い方から奇数番号の人に配布するよう,保健師の代表者に依頼した.

3. 調査内容(図1

調査内容は,基本属性3項目(保健師経験年数,所属の設置主体,職位)と活動の成果を見せる行動(保健師の保健活動の成果を見せる行動実践尺度18項目),活動の成果を見せる行動に影響する外的経験として「努力経験」,内的経験として「省察経験」,外的経験を与え,内的経験を引き出す支援として,職場で他者から受ける経験である「職場被支援経験」とし,あわせて活動経験を問う項目40項目とした.筆者らが作成した質問紙は,質問項目の内的整合性を示すクロンバックα係数の値が高いことを確認して用いた.なお,活動を問う40項目については,各変数を得点化し,得点が高いほど経験があるとした.

図1 

概念枠組み

1) 活動の成果を見せる行動

長野ら(2011)が作成し,後に信頼性と妥当性が検証された(鳩野ら,2014)の保健活動の成果をみせる行動実践尺度(Scale of Action Implementation to Show Results of Health care-activities,以下SRHと略す)は,「この1年間,保健師として行っている担当業務や地区活動において,あなたは,どの程度次の仕事を実施していますか」と問い,活動の成果を見せる一連の行動を評点化する尺度であり,内的整合性と基準関連妥当性が検証されている.得点の範囲は0から90点であり,選択肢は,全くそうでない,2割くらいそうである,4割くらいそうである,6割くらいそうである,8割くらいそうである,ほとんど10割そうである,であり,順に0から5点を配し,本来あるべき到達点を十割として,対象に最も該当する回答を1つ選択するよう求めた.保健活動の成果を見せる行動を実施している者ほど高い得点を示す尺度である.

2) 保健師の活動経験

(1) 努力経験

努力経験については,先行研究(岡本ら,2007佐伯ら,199920032004)や保健師の教科書をもとに,代表的な分野が網羅されるように共著者間で検討し,7分野16項目を設けた.7分野は,個人・家族への支援,集団への活動,地域への活動,施策化にむけての活動,地域の健康危機管理,人材育成,実践研究である.設問は「あなたが保健師として経験したことの中で,難易度が高いと感じ,今までのやり方以上に努力を要した経験すべてを選んでください」であり,「該当する」,「該当しない」,または「経験自体なし」のいずれか1つを選択するよう求め,該当するを選択した者を「努力経験あり」,該当しない,または経験自体なしを選択した者を「努力経験なし」とし,経験の有無でSRH得点の差を分析した.

(2) 省察経験

省察経験を行動単位で測るため,主要な省察過程を含むGibbs(1988)の省察的実践の6段階(体験の説明・記述,感情,評価,分析,結論・推論,アクションプラン)の項目をもとに共著者間で協議して,文言を精錬し,次の6項目を設けた.「私はいつも自分が実施したことについて,①何のために何をしたかを記述して確認している,②何を考え,どう感じていたかを記述して思い起こしている,③何が良くて,何が良くなかったかを記述して評価している,④どのような意味があったかを記述して分析している,⑤もっと良い手だてがあったとすれば,それが何かを記述して備えている,および⑥私はいつも,もしもう一度同じような状況になったら,どのように行動するかを記述して備えている」である.選択肢は「1ほとんどあてはまらない」から「7たいへんよくあてはまる」の7段階とし,各点数を合計した.7段階とした理由は,省察行動の程度は多様であり,少ない選択肢では答えにくいと考えたためである.内的整合性を示すクロンバックα係数は0.899であり,合計点で評価する質問紙として一定の信頼性を確認した.

(3) 職場被支援経験

本稿では中原(2010)の業務支援6項目,内省支援3項目,精神支援5項目に,保健師の実践活動に沿うよう,共著者間で検討した内省支援3項目(下記④⑤⑥),精神支援1項目(下記⑥)を追加し,計18項目を設けた.業務支援は「①自分にはない専門的な知識・スキルを提供してくれる,②仕事の相談にのってくれる,③仕事に必要な情報を提供してくれる,④仕事上の必要な他部門との調整をしてくれる,⑤自分の目標,手本となってくれる,⑥自律的に働けるよう,まかせてくれる」である.内省支援は「①自分について客観的な意見を言ってくれる,②自分自身を振り返る機会を与えてくれる,③自分にない新たな視点を与えてくれる,④仕事の目的・目標を確認してくれる,⑤仕事について,説明する機会を与えてくれる,⑥仕事について,修正する機会を与えてくれる」である.精神支援は「①精神的な安らぎを与えてくれる,②仕事の息抜きになる,③心の支えになってくれる,④プライベートな相談にのってくれる,⑤楽しく仕事ができる雰囲気を与えてくれる,⑥やる気があがるような声掛けをしてくれる」である.選択肢は「1全くあてはまらない」から「5よくあてはまる」の5段階とし各点数を合計した.内的整合性を示すクロンバックα係数は,職場被支援経験合計0.982,業務支援0.851,内省支援0.894,精神支援0.921であり,合計点で評価する質問紙として一定の信頼性を確認した.

4. 倫理的配慮

対象者ならびに所属部署に対して,調査の主旨,個人情報の匿名化,データの保管・処理方法,研究協力と拒否・中断の自由,調査にかかる負担(時間や手間)について文書により説明した.また,質問紙は無記名とし,保健師の代表者宛てに郵送し,回収は返送用封筒にて,対象者個々からの投函とし,返送をもって調査協力の承諾と同意を得たものとした.なお,本研究は,岡山大学大学院保健学研究科看護学分野倫理審査委員会の承認を得て実施した(T11-02,2011年9月24日).

5. 分析方法

統計解析は,SPSS version18を使用し,SRHと各変数間の関連は,正規性の検定(Kolmogorov-Smirnovの正規性の検定,Shapiro-Wilk)を行った結果,正規分布していなかったため,代表値として中央値を,ばらつきを四分位で見ることにした.Mann-WhitneyのU検定,Kruskal-WallisのH検定を用い,有意水準5%とした.

1) 対象者の基本属性

対象者の基本属性については,基本統計量を求めた.経験年数の群分けは,5年以下群,6年以上15年以下群,16年以上25年以下群,26年以上群の4群とした.設置主体は都道府県・政令市等・市町村の3群別とし,職位については,職位に応じた保健師活動の成果の見せ方があると考え,職位を一般スタッフレベルの係員と管理職ではない役職としての主任級と係長以上の3区分とした.

2) 活動の成果を見せる行動

経験年数4群別,設置主体3群別,職位3群別で,それぞれ活動の必要性と活動の成果を見せる行動の統計量(中央値,四分位点)を求め,各群間の検定には,Kruskal-WallisのH検定を用いた.

3) 保健師の活動経験の状況

(1) 努力経験

努力経験は,分野別の経験の有無別にSRHの中央値と四分位点を求めた.2群間の差の検定には,Mann-WhitneyのU検定を用いた.分野別の経験の有無別にSRHの中央値と四分位点を求めたのは,努力経験の違いによりSRHに差が出るかどうかを確認するためである.

(2) 省察経験・職場被支援経験

省察経験および職場被支援経験との関連は,SRHの中央値を境に2群に分け,高低2群間の差の検定をMann-WhitneyのU検定を用いて行った.省察経験および職場被支援経験をSRHの2群に分けたのは,たとえ同じ経験をしたとしても,その経験がSRHの得点の高群と低群で差が出るかどうかを確認するためである.

III. 結果

対象者1,191人のうち,回収数は520人(43.7%)であり,うち有効回答数は505人(有効回答率42.4%)であった.

1. 対象者の基本属性(表1

保健師の経験年数の平均は,17.8年(標準偏差10.4),最小値1,最大値38であった.

表1  対象者の基本属性(N=505)
項 目 平均(標準偏差)範囲 %
保健師経験年数a 17.8(10.4)1–38
経験年数群 5年以下群 96 19.0
6年以上15年以下群 131 25.9
16年以上25年以下群 123 24.4
26年以上群 155 30.7
所属の設置主体 都道府県 90 17.8
政令市等b 135 26.7
市町村c 280 55.5
職位 スタッフ 194 38.4
主任級 126 25.0
係長以上 185 36.6

a.平均経験年数(標準偏差)最小値-最大値の範囲

b.政令市等:政令指定都市,中核市,保健所政令市

c.市町村:政令指定都市等を除く市町村

その他の基本属性は表1のとおり,5年以下群が96人(19.0%),6年以上15年以下群131人(25.9%),16年以上25年以下群123人(24.4%),26年以上群155人(30.7%)であった.所属の設置主体別では都道府県が90人(17.8%),政令市等135人(26.7%),市町村280人(55.5%)であった.職位別ではスタッフ194人(38.4%),主任級126人(25.0%),係長以上185人(36.6%)であった.

2. 活動の成果を見せる行動

1) 経験年数群・所属の設置主体・職位別の活動の成果を見せる行動得点(表2
表2  経験年数・所属の設置主体・職位別の活動の成果を見せる行動得点(N=505)
項 目 n 平均値(標準偏差) SRH得点(0–90点) Pa
中央値 第1四分位点 第3四分位点
活動の成果を見せる行動得点 34.4(19.7) 34.0 19.0 50.0
経験年数群 5年以下群 96 31.5 18.0 48.8 0.815
6年以上15年以下群 131 33.0 19.0 50.0
16年以上25年以下群 123 35.0 19.0 52.0
26年以上群 155 36.0 19.0 51.0
所属の設置主体 都道府県 90 33.5 9.0 49.0 0.056
政令市等b 135 38.0 25.0 54.0
市町村c 280 33.0 17.0 50.0
職位 係員(スタッフ) 194 33.5 18.8 50.0 0.841
主任級 126 34.0 18.0 52.0
係長以上 185 36.0 19.0 50.5

a.群間比較:Kruskal-Wallis検定

b.政令市等:指定都市・中核市・保健所政令市

c.市町村:政令市等を除いた市町村

経験年数群別では,SRH得点の中央値は,5年以下群が31.5点,6年以上15年以下群が33.0点,16年以上25年以下群が35.0点,26年以上群が36.0点と,経験年数が上がるほど高くなっていたが,有意な差は見られなかった.

設置主体別では,SRH得点の中央値は都道府県33.5点,政令市等38.0点,市町村33.0点であり政令市等が最も高く,次いで都道府県,市町村の順に低くなっていた.有意な差は見られなかった.

職位別では,SRH得点の中央値は,係員(スタッフ)33.5点,主任級34.0点,係長以上36.0点であり,職位があがるほど得点は高くなっていたが有意な差は見られなかった.

3. 保健師の活動経験と活動の成果を見せる行動得点

1) 保健師の活動経験(努力経験有無別)の活動の成果を見せる行動得点(表3

SRH得点について,努力経験あり群の得点が高かったのは,活動経験7分野のうち,個人・家族への支援を除く6分野であり,その得点の範囲は,経験あり群が34.5点から38.0点,経験なし群が24.0点から34.0点であった.うち有意な差は集団への活動を除く5分野で見られた(P<0.05).一方,経験なし群の得点が高かった個人・家族への支援は積極的経験あり群が34.0点,なし群が37.0点であったが,有意な差は見られなかった.

表3  保健師の活動経験(努力経験有無別)の活動の成果を見せる行動得点(N=505)
努力経験 n SRH得点(0–90点) Pa
中央値 第1四分位点 第3四分位点
個人・家族への支援 あり 396 34.0 18.0 50.0 0.066
なし 109 37.0 22.5 53.5
集団への活動 あり 412 34.5 18.0 50.8 0.628
なし 93 34.0 20.0 50.0
地域への活動 あり 451 35.0 21.0 51.0 0.034*
なし 54 28.5 11.5 42.0
施策化にむけての活動 あり 444 35.0 20.0 51.0 0.013*
なし 61 24.0 12.5 46.0
地域の健康危機管理 あり 269 38.0 23.0 54.0 <0.001***
なし 236 29.0 15.0 46.0
人材育成 あり 301 37.0 22.0 53.0 0.003**
なし 204 29.5 17.0 47.8
実践研究 あり 265 37.0 23.0 53.0 <0.001***
なし 240 30.0 15.3 47.0

a.群間比較:Mann-WhitneyのU検定

*P<0.05,**P<0.01,***P<0.001

2) 保健師の活動経験(省察経験得点)と活動の成果を見せる行動高低2群比較(表4

SRH得点高群・低群の省察経験の中央値は,順に28.0点,25.0点と高群の方が高く,有意な差が見られた(P<0.001).

表4  保健師の活動経験(省察経験得点)と活動の成果を見せる行動高低2群比較(N=505)
SRHb
高群 低群
n 251 254
省察経験 中央値 28 25
平均ランク 303.27 203.32
順位和 76121.5 51643.5
 Pa p<0.001

a.群間比較:Mann-WhitneyのU検定

b.高低2群:中央値を境に分類

***P<0.001

3) 保健師の活動経験(職場被支援経験得点)と活動の成果を見せる行動高低2群比較(表5

SRH得点高群・低群の職場被支援経験のうち,業務支援得点は高群・低群ともに24.0点であり有意な差は見られなかった.内省支援得点はSRH高群・低群ともに24点であったが,有意な差が見られた(P<0.01).精神支援得点はSRH高群・低群は順に24.0点,23.0点であり有意な差が見られた(P<0.05).

表5  保健師の活動経験(職場被支援経験得点)と活動の成果を見せる行動高低2群比較(N=505)
SRHb
高群 低群
n 251 254
業務支援 中央値 24 24
平均ランク 262.18 243.93
順位和 65,806.50 61,958.50
 Pa 0.157
内省支援 中央値 24 24
平均ランク 272.6 233.63
順位和 68,423.50 59,341.50
 Pa 0.002**
精神支援 中央値 24 23
平均ランク 267.73 238.45
順位和 67,199.00 60,566.00
 Pa 0.023*

a.群間比較:Mann-WhitneyのU検定

b.高低2群:中央値を境に分類

*P<0.05,**P<0.01

IV. 考察

1. 回収状況について

本調査の対象は,中国地方の自治体(病院,施設に勤務する者を除く)に勤務する常勤保健師の1/2(1,191人)であり,回収率は43.7%,520人であった.この人数は,平成22年度保健師活動領域調査(厚生労働省健康局総務課保健指導室調,2010)の結果が示す中国地方の常勤保健師数2,350人の約1/5であった.回答数は,500以上と中国地方の保健師数2,350人における信頼レベル95%,許容誤差5%,回答比率50%とした際の十分なサンプル数約330を上回っており一定の母集団の代表性を保つものと考える.

2. 活動の成果を見せる行動の特徴と実践への示唆

活動の成果を見せる行動に有意に関連した項目は,努力経験5項目,省察経験,職場被支援経験のうちの内省支援と精神支援であった.

一つ目の項目として保健師の活動経験(努力経験有無別)の活動の成果を見せる行動得点について,努力経験あり群となし群でSRH得点に有意な差があったのは,地域への活動,施策化に向けての活動,地域の健康危機管理,人材育成,実践研究であった.これらは事業の企画立案・施策化,評価(成果)に結び付くものとその基盤となるものであった.一方,有意差がでなかった個人・家族への支援,集団への活動についても有意差があったものと同様に事業の企画立案・施策化,評価(成果)に結び付くものではあると考えるが,差のあった経験より努力を要しているとの認識をしていなかった可能性もあると考える.これらのことから,保健師は事業展開においてPDCAサイクルを主体的に丁寧に回すことが活動の成果を見せる行動に結び付くと考える.また,成果を見せ実施している活動を継続させるためには,直接サービス提供者としての技術面だけでなく評価・施策化ができることが重要と考える.佐伯ら(2004)は管理能力に関する項目と保健福祉計画の立案および施策評価は,職業生涯を通して発達していたと述べている.このことからも,企画立案・評価・施策化に結び付く行動をすることが活動の成果を見せる行動の促進につながると考える.今後,活動の成果を見せる行動がどのような経過をたどっていくのかを調査することでより成果を見せるための行動促進を図るための方策が考えられる.成果を見せる行動を今以上に実践するためには,個々の活動経験を積み重ねること,また,同じ活動でも少し難しい経験をすることが,Ericsson et al.(1993)のいう様々な活動の中でも課題が適度に難しく,明確であることが個人を成長させる条件の一つであることに一致すること,および本調査の結果から,活動の成果を見せることに繋がっていると考える.

二つ目の項目として,保健師の活動経験(省察経験得点)と活動成果を見せる行動高低2群比較の結果から,高群は低群と比較してより多くの省察経験を積んでいることが示唆された.つまり,活動の成果を見せる行動には,保健師が活動を改善するために日常的に振り返る省察経験の積み重ねが必要と考えられた.つまり,管理者が「保健師等のコンピテンシーを高めるための学習創出型プログラム」(岡本ら,2011)を活用しての振り返りを実施することや経験学習サイクルを取り入れたアクションラーニング(川崎ら,2019)を活用することが期待される.また,看護の基礎教育現場にあっては,特に,実習の振り返りに本研究の省察経験を行動単位で測る項目を取り入れ,省察が習慣になるような教育を期待する.

三つ目の項目として,保健師の活動経験(職場被支援経験得点)と活動の成果を見せる行動高低2群比較では活動の成果を見せる行動をより実施している高群の保健師の方が,低群の保健師に比べ職場被支援経験のうち,「内省支援」と「精神支援」に有意な差が見られた.成果を見せる行動は,具体的な資料の作成や,説明することが多く,そのような作業を常に維持するためには,他者からの声かけ(内省支援,精神支援)が活動の成果を見せることの重要性を再認識させる上で有効だったのではないかと考える.このような職場での人材育成に関してEricsson(1996)は,各領域における熟達者になるには最低でも10年の経験が必要であるという10年ルールを提唱しているが,その10年間にいかに「よく考えられた練習(deliberate practice)」を積んできたかが重要になると述べている.その条件として①課題が適度に難しく,明確であること,②実行した結果についてフィードバックがあること,③何度も繰り返すことができ,誤りを修正する機会があることを挙げている(Ericsson et al., 1993).

以上から,努力経験,省察経験,内省支援,精神支援を現任教育に活かす必要性があると考える.しかし,保健師に対する現任教育については,公衆衛生看護における保健師に求められる能力調査から自治体保健師のキャリアラダーの作成や人材育成支援シートを用いて能力獲得状況等の見える化はされつつあるが,具体的な現任教育の方法には言及していない(加藤ら,2018).従って,活動の成果を見せるための行動の向上を目指す現任教育は,具体的に少し難しいテーマにチャレンジさせながら,活動実施中や後の振り返りのための対話やリフレクションシートの記入等の工夫による内省支援,安心して仕事ができるような声掛けができるような体制を築くことで精神支援ができるような環境を整えながら人材育成をする必要があると考える.

以上から,保健師は事業展開においてPDCAサイクルを主体的に丁寧に回すこと,省察経験を多く積むこと,職場として,内省支援・精神支援ができる環境を整えることが活動の成果を見せる行動を促進させる要因であることが示唆されたと考える.活動の成果を見せる行動得点が100点換算で35~42点という現状を改善するために,本調査で明らかになった要因を促進するよう,管理者は人材育成の観点から,OJTを実施し,職場環境を整え,事業企画時には,成果を見せる行動項目についてチェックする.事業評価時にはプレゼンテーションをさせる等具体的な指導を行い,成果を見せることが事業展開の一環となるよう習慣づけることが重要と考える,

3. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,中国地方という限局した地域の自治体に行った調査であること,一定の母集団の代表性を保ってはいるものの,設置主体別の人数割合について政令市等と市町村が中国地方と異なる割合となっていたため,所属別での分析に限界があったこと,また,努力経験,省察経験の測定には,信頼性と妥当性のある尺度を用いていなかったことは本研究の限界である.

今後の課題として,信頼性や妥当性のある尺度の利用や調査票,調査方法等調査のさらなる工夫が必要である.

V. 結語

本研究により,保健師が成果を見せる行動を促進するための経験について示唆を得ることができた.その経験は外的経験としての「努力経験」と内的経験としての「省察経験」,外的経験を促し,内的経験を引き出す職場被支援経験(内省支援・精神支援)であった.保健師個人は日ごろから丁寧な活動を重ねること,管理者が先導して職場として,その活動の意味を問い直すような,活動を励ますような職場環境を整えることが「活動の成果を見せる行動」の促進となる.活動の成果を住民や意思決定者に示すことは,根拠に基づいた活動を展開し,説明責任を果たすことであり,住民の健康課題のさらなる解決に寄与できることである.従って本研究により示唆された経験を積み,「成果を見せる行動」をとることが非常に重要と考える.

謝辞

ご多忙の中,本研究にご協力をいただき,貴重な時間を調査にご協力くださいました保健師の皆様に心から感謝申し上げます.本研究に関連し,開示すべきCOI関係にある企業・組織および団体等はありません.

文献
 
© 2022 日本公衆衛生看護学会
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