2022 年 11 巻 3 号 p. 163-171
目的:看護学生が保健師の職業選択を強化した要因を明らかにする.
方法:勤務経験3年までの保健師8名に半構造化面接を行いKJ法により統合分析した.インタビュー内容は公衆衛生看護学実習を中心とした保健師になりたい気持ちを強化した出来事とした.
結果:【周囲からの支え】【住民の日常に関わりたい】【地域の多様性】【理想像の具現化】【保健師の奥深さ】【環境全体を統合してみる力】【保健師の関係づくりの姿勢】【住民も保健師も生き生き】の8つの島に集約された.
考察:予防活動等で日常生活に関わりたいという気持ちの芽生えにより保健師への関心が高まり,仕事の奥深さを感じることや理想となる保健師との出会い,住民が生き生きしている姿を感じることで職業選択が強化されており,効果的な実習体験を準備する必要がある.教員の支えによる影響も大きく,教員が学生に親身に肯定的な声かけを積極的に行っていくことも必要である.
Objective: To identify the reasons which influenced the occupational selection of public health nurses among nursing students.
Methods: Semi-structured interviews were conducted with eight public health nurses who had worked in local government agencies for a maximum of three years. The interviews were then analysed using the KJ method. The main content of the interview was related to the events that may have influenced the interviewee’s desire to become a public health nurse.
Results: Answers were sorted into eight groups: (1) support from surroundings, such as teachers; (2) desire to be involved in the daily lives of people; (3) diversity of public health nursing activities; (4) meeting a role model; (5) depth of public health nursing activities; (6) seeing not only the individual, but the whole; (7) positive attitude towards building relationships with residents; and (8) feeling the health of the residents.
Discussion: Interest in public health nursing increased due to the growing desire to be involved in the daily lives of people through preventive activities. The choice of occupation was then strengthened by understanding the depth of the work, meeting a role model, and feeling the liveliness of the residents. Therefore, it is necessary to create effective nursing practices. Additionally, the support of teachers has a great influence on nursing students, and it is necessary for teachers to affirm the students.
近年,様々な制度改正に伴い,保健師の活動の場は保健(衛生)部門のみならず,医療,介護,福祉部門等にも拡大してきた.地方公共団体(都道府県,市町村,特別区)の保健師数は,地域保健法が改正された1994年には約21,000人だったが,2020年には約36,000人と約1.7倍に増加しており,これは,保健師の活動領域が変化・拡大する中で,その存在意義が再確認され,保健師が地域において住民の健康を守るという重要な役割を担い,各地方公共団体で必要とされていることの表れと言える(厚生労働省,2021;地域における保健師の保健活動に関する検討会,2013).2020年からの新型コロナウイルス感染症の拡大においては,相談対応,受診調整,疫学調査,健康観察等,感染拡大を防止する上で中心的な役割を担っている.今後,急激な少子高齢化の進行や保健医療サービスの需要の拡大等,社会環境の変化が更に進み,保健師の仕事はより一層多様化し,その必要性も益々増していくものと思われる.
一方,看護を学ぶ学生にとって,看護師は出会う機会のある身近な存在であるが,保健師については,一般的に出会うことや,その仕事を知る機会はほとんどなく,活動が見えづらいと考えられる.保健師養成課程のある看護系大学,短大専攻科,専修学校の学生を対象とした調査によると,保健師を希望するようになったきっかけは,大学では半数以上が入学後に実習によって動機づけられていた(平野ら,2005)との報告もある.保健師を知る機会が少ないことから,学生と保健師が学内で交流できる機会を持ち,その効果を検証する研究も取り組まれている(布花原ら,2017;大野ら,2010).
看護師においては,既に,実習達成感は看護職の職業的アイデンティティと関連があること,看護職の職業的アイデンティティは志望動機よりも実習達成感の影響のほうが強い(清水ら,2015)ことが示されている.また,実習において「臨地実習指導者が何を考え,行為しているのかということを単に学生に見せるだけでなく,看護師としての考え方や行為の意図を言葉にして伝えていくことで,学生は看護実践というものを理解し,習得していくことができる」(新井,2015)「臨地実習の場に卓越した看護職者のロールモデルがいることが学生に良い影響を与える」(文部科学省,2002)と述べられているように,実習の職業選択に及ぼす効果が具体的に証明されている.保健師においても,実際の保健師と出会え,現場で学べる公衆衛生看護学実習は,学生にとって保健師の職業選択に大きく影響を及ぼすと考えられる.しかし,その具体的効果を検証したものはみられない.
そのため,本研究では,新人保健師のインタビューにより,公衆衛生看護学実習を中心に看護学生が保健師の職業選択を強化した要因を明らかにすることを目的とする.その結果,保健師志向を強化する体験およびその支援についての示唆を得たので報告する.本研究で導かれた知見は,基礎教育における公衆衛生看護学実習のあり方や保健師の職業選択への動機づけを強化するための方法を検討する一助となり得る.
A県内の行政機関で働く保健師としての勤務経験3年までの者8名.新任期の方が保健師の職業選択に及ぼした経験を比較的鮮明に覚えていると考え,「保健師の人材育成計画策定ガイドライン」(奥田,2016)の新任期の基準(1~3年)に基づき,選定条件を設定した.
2. 研究デザイン本研究は,KJ法による質的帰納的研究である.
3. データ収集方法1)A県内の行政機関に依頼文書を発出し,選定条件を満たす者を募集した.
2)連絡のあった者に文書および口頭で研究の趣旨,面接の日時,場所,人数は参加者の意向に沿いグループでも実施できることを説明し,内諾が得られた者と日程調整を行った.なお,連絡があった者すべてを対象とした.
3)当初より同一所属から同時参加の意向が複数あり,希望に沿えない場合参加が難しかったこと,参加者の不利益を生じない配慮が必要であったことから,2名ずつのインタビューとなった.インタビューは,参加者自身の経験および主観的なもので他者が話した内容について是非を判断するものではないことを説明し,予めインタビュー内容を伝え,意見交換は求めず,個人への質問を同時に実施した.面接回数は1回,90分程度とした.
4)研究参加者に面接内容を録音,メモすることの許可を得た.
5)インタビューの主な内容は,①最初に保健師になりたいと思ったきっかけと理由,②公衆衛生看護学実習で,保健師になりたい気持ちを強化した出来事,③その他の保健師になりたい気持ちを強化した出来事,④②及び③の中で保健師に就職する際に決め手となったこと,とし,時間的経過も把握できるものとした.
4. 調査期間調査期間は,2020年6月~7月である.
5. 統合分析の方法8名から集めたデータを合わせてKJ法を用いて全体分析を行った.個人への質問のインタビューであったことから,個人を対象とした分析と同様に行った.KJ法は渾沌としたデータを,全体感を背景として質の近さを吟味しながら統合していくことでデータの意味や構造を明らかにする方法である(川喜田,1986).そのため,本研究方法は,看護基礎教育における保健師の職業選択に及ぼす影響を明らかにし,その構造化ができ有効と考えた.KJ法は,研究者複数が以下の手順で行った.3名のうち2名はKJ法の研修修了者である.
1) 逐語録のラベル化録音したインタビュー内容を逐語録に起こし,そのデータを研究参加者の保健師になりたい気持ちを強化した要因に着目しながら抽象化しすぎないよう参加者の言葉を出来るだけ用いて抽出し,一枚のラベルに一つの〈志〉が入るようにラベル化した.総ラベルは87枚であった.
2) ラベルの精選多段ピックアップ法でラベルの精選を行った.全てのラベルをよく読み,同じ内容のラベル等の選別する作業を行った.最終的に41枚のラベルを精選した.
3) 狭義のKJ法上記2)でピックアップされた41枚を元ラベルとして狭義のKJ法を行った.まず,ラベル群の全体背景として,KJ法で言う〈志〉の近さを吟味して元ラベルのグループ編成を行った.グループになったラベル群には,それぞれ「表札」と呼ばれる概念を文章として与えた.この統合(グループ編成)をラベル群が10束以内になるまで繰り返した.そして,最終統合の結果(島)を空間配置し,図解化した.それぞれの島も内部もすべて元ラベルまで図解上に配置して展開し,最終統合の島には,それぞれ島のイメージを象徴的に表現する「シンボルマーク」を与え,島同士の関係を関係線で図示して図解化を完成させた.また,その統合の過程を段階別に表化した.
6. 倫理的配慮本研究は,鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認(整理番号19A192:2020年3月6日)を受けて実施した.
研究参加者には,研究者から口頭と文書を用いて研究の主旨・方法,看護上の貢献やプライバシーの厳守,録音の許可,研究への協力は自由意思によるものであり拒否しても何ら影響はないこと,インタビューの日時,場所,人数は参加者の意向に沿いグループでも実施できることを説明した.また,インタビュー内容は,研究参加者自身の経験および主観的なもので,研究者がその内容について是非を判断するものではないこと,話された内容についても個人が特定できるような公開はしないため,何を話しても不利益を被ることがないこと,他の人から聞いた内容について口外および是非を判断しないこと,研究結果を学会または論文等で発表することも説明した上で署名をもって同意を得た.
対象者は8名(男性1名,女性7名),年齢は平均24.25歳(最小24歳,最大25歳),保健師の経験年数は平均1.63年であった.看護教育背景は対象者全員が大学で,うち半数は大学入学後に保健師を志望しており,8名中5名は保健師教育が必修の大学であった.
2. 看護学生が保健師の職業選択を強化した要因元ラベルは3段階の統合を経て8つの島に集約された(表1:表は元ラベルと2段目以降を表示).本論文において,KJ法で用いる表記は,「 」は元ラベル,〈 〉は2段目表札,『 』は最終表札,【 】は島を表すシンボルマークとする.以下,各島について叙述する.
元ラベル(語り)「 」 | 2段目表札〈 〉 | 最終表札『 』 | シンボルマーク【 】 | |
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1 | 先生がすごく親身になってくださり応援してくださった | 実習や就職試験など大変なことがあっても寄り添い支えてくれた存在(先生)がいることで,くじけず頑張れた | 親身な励ましや保健師の良いところアピールに支えられ,保健師になりたい気持ちを維持することができた | 周囲からの支え |
実習・授業時間が少なく保健師になって大丈夫か不安があったが,先生の日々の声かけが心強く保健師になりたい気持ちがブレなかった | ||||
実習しながら試験勉強が大変で先生が個別に声を度々かけてくれ,すごい励みになった | ||||
実習保健師が楽しいから是非やってみてねとアピールポイントをたくさん話してくださり,いいなという気持ちが折れずにこれた | 実習指導者,先生,先輩など周りから保健師についての肯定的な話を聞き,よいイメージを持ち続けられた | |||
あまり否定的なことを話す先輩がいなかったので,前向きな気持ちで実習に取り組めた | ||||
大学の先生がいろんなお母さんのつながりをつくっていくのも保健師しかできないし楽しいよとか言ってプラスなイメージが強くなった | ||||
大学の先生が保健師のいきいきしたところしか言わなかった | ||||
2 | 保健師は病院と比べて生活に関わるところが良い | 病院ではなく,地域で生活する人の日常に関わり支援がしたい | 同左 | 住民の日常に関わりたい |
もともと保健師が魅力的と思っていたので,一番住民の身近にいられる保健師がいいなと目指した | ||||
臨床で働く中,この方退院したらこういうこと困るんだろうなとか,そういったことに関わりたいと思い保健師を目指した | ||||
保健師と住民さんの関わりの方が病院と比べ近いなと感じた | ||||
地域に出向いて支援の必要な方に気付いたり,病院ではできない仕事と思い保健師が魅力的と思った | ||||
基礎実習で受け持ち患者や家族の辛そうな様子をみて早めにわかっていたらとか,できることもあったと思い予防に興味を持った | ||||
闘病記等をいくつか読んで病気になってからでは大変なことばかり,ならないようにするのが一番と感じ予防がしたくなった | ||||
住民さんがどんな生活をしているだとか聞いて,こういう暮らしをしているのだと感じるのが楽しかった | ||||
先生が生活背景やどういう暮らしをしているのか見るのが大事とずっと教えてくださったのが一番大きかった | ||||
実習で病院に行った時,あの窓のない感じ,ナースステーションの感じ,私こんなところで働けないと思った | ||||
3 | インターンシップ等で自治体を訪問させてもらい,それぞれの特色があっておもしろいと思った | 同左 | 同左 | 地域の多様性 |
4 | 実習で保健師が,最近どう,みたいな普通の日常会話から健康につないでいて,すごいなと思った | 理想とする保健師の姿を具現化できた | 同左 | 理想像の具現化 |
先生が住民から健康相談を受けている姿をみてかっこいいという風に思った | ||||
保健師が住民さんとすごく楽しそうにしているのをみて,自分もいいな,こんな感じでしてみたいなと思った | ||||
実習で健康教室に行き,住民が保健師の名を呼び,頼られていて,そういう人に関われる仕事いいなと思った | ||||
インターンシップで住民さんから声を覚えられていたり,この人を頼りにすれば大丈夫みたいな住民さんの思いが,なんか伝わった | ||||
実習で保健師の活動を見て,住民から慕われているなとか,楽しそうだな,保健師いいなというふうに感じた | ||||
5 | 実習で保健師さんと直接関わりあって現場の話を聞けたのがすごく良かった | 学習が進み,今まで知らなかった保健師の世界が見えてきた | 保健師の世界の奥深さを感じ興味・関心が高まる | 保健師の奥深さ |
授業で保健師が講義してくれ,具体的な仕事のイメージがついて身近に感じられた | ||||
思ったより幅広い分野で活躍されていると思った | ||||
実習先で生徒同士で意見交換したり自分たちの意見をまとめ,保健師観を作る手助けとなった | 同じ立場の仲間と語り合うことで保健師への職業意識が高まった | |||
保健師を目指す先輩の話を聞け,背中を押され,保健師になりたい気持ちが強まった | ||||
6 | 保健師が住民個人だけでなく,家族や親戚等,環境全体をみて,いろんなことを統合して話していて印象に残った | 同左 | 同左 | 環境全体を統合してみる力 |
7 | 保健師がひとりひとりの関わりをすごく大切にしている様子を見て,住民に対する姿勢が大事だと思った | 住民との関係を大切につくりあげている保健師の姿勢はいいなと思った | 同左 | 保健師の関係づくりの姿勢 |
すごく顔のわかる関係というか,そういう関係を築く保健師をみて自分もそうなりたいと強く思った | ||||
8 | 実習で保健師からアドバイスを受け一緒に健康教育を作ったのが楽しくやりがいを感じた | 地域の人々の中で共に頑張った達成感を共有したい | 住民が元気で生き生き達成感を感じられるような仕事がしたい | 住民も保健師も生き生き |
保健師と地域の健康づくりの委員が一緒にミニ健康測定会を運営している様子がすごい楽しそうでいいなと思った | ||||
研究でいきいきされている住民さんから声をかけてもらい,一緒に頑張りたいと強く思い,馴染みのあるところで保健師として頑張りたいと再確認した | ||||
実習の体操教室で,全然できなかった人がいきいきとできるようになった.集まりが地域の人にとって生きがいになっていることを身をもって知り楽しかった | ||||
サークルの三年間の関わりで住民さんの変化がすごく見えて,一緒に喜びを共有できたことが魅力的だった | ||||
実習先の保健師が,強みはなんだろうという風に考え事業に繋げていたので,そういった発想で考えれるのはいいなと思った | 地域の個別性を考慮し,住民のエンパワメントを意識して活動する保健師の姿に魅力を感じた | |||
実習先で保健師がその地区の特性をいかした事業をされていて,とてもいきいきされていたのが印象的だった | ||||
住民のいい所を見つけて引き出してあげるみたいなお話をされていて,いいなと思った | ||||
実習指導者が地域の方が元気で過ごしていける支援ができることについて熱い思いを語っておられいいなと思った | 同左 |
この島は,主に教員など周囲の支えが大きかったという語りから集約された.最終表札『親身な励ましや保健師の良いところアピールに支えられ,保健師になりたい気持ちを維持することができた』は,2つの表札から構成された.表札〈実習や就職試験など大変なことがあっても寄り添い支えてくれた存在(教員)がいることで,くじけず頑張れた〉は,「実習・授業時間が少なく保健師になって大丈夫か不安があったが,先生の日々の声かけが心強く保健師になりたい気持ちがブレなかった」「実習しながら試験勉強が大変で先生が個別に声を度々かけてくれ,すごい励みになった」などから構成された.表札〈実習指導者,教員,先輩など周りから保健師についての肯定的な話を聞き,よいイメージを持ち続けられた〉は「実習保健師が楽しいから是非やってみてねとアピールポイントをたくさん話してくださり,いいなという気持ちが折れずにこれた」「大学の先生が保健師のいきいきしたところしか言わなかった」などから構成された.
2) 住民の日常に関わりたいこの島は,主に生活の場に関心や予防活動等で日常に関わりたい気持ちが出てきたという語りから集約された.最終表札『病院ではなく,地域で生活する人の日常に関わり支援がしたい』は,10の元ラベルから構成された.元ラベルの中には,「保健師は病院と比べて生活に関わるところが良い」「基礎実習で受け持ち患者や家族の辛そうな様子をみて早めにわかっていたらとか,できることもあったと思い予防に興味を持った」「闘病記等をいくつか読んで病気になってからでは大変なことばかり,ならないようにするのが一番と感じ予防がしたくなった」「先生が生活背景やどういう暮らしをしているのか見るのが大事とずっと教えてくださったのが一番大きかった」という語りがみられた.
3) 地域の多様性この島は1つの元ラベル「インターンシップ等で自治体を訪問させてもらい,それぞれの特色があっておもしろいと思った」による単独の島であった.
4) 理想像の具現化この島は,目指したい理想像を実際に目の当たりにして影響されたという語りから集約された.最終表札『理想とする保健師の姿を具現化できた』は6つの元ラベルから構成された.元ラベルの中には,「実習で保健師が,最近どう,みたいな普通の日常会話から健康につないでいて,すごいなと思った」「実習で健康教室に行き,住民が保健師の名を呼び,頼られていて,そういう人に関われる仕事いいなと思った」という語りが見られた.
5) 保健師の奥深さこの島は,よく知らなかった保健師について徐々にわかってくる中でなりたい気持ちが強まったという語りから集約された.最終表札『保健師の世界の奥深さを感じ興味・関心が高まる』は,2つの表札から構成された.表札〈学習が進み,今まで知らなかった保健師の世界が見えてきた〉は,「実習で保健師さんと直接関わりあって現場の話を聞けたのがすごく良かった」などから構成された.表札〈同じ立場の仲間と語り合うことで保健師への職業意識が高まった〉は,「実習先で生徒同士で意見交換したり自分たちの意見をまとめ,保健師観を作る手助けとなった」などから構成された.
6) 環境全体を統合してみる力この島は1つの元ラベル「保健師が住民個人だけでなく家族や親戚等,環境全体をみて,いろんなことを統合して話していて印象に残った」による単独の島であった.
7) 保健師の関係づくりの姿勢この島は,保健師の住民との関係作りの姿勢に影響を受けたという語りから集約された.この最終表札『住民との関係を大切につくりあげている保健師の姿勢はいいなと思った』は,「保健師がひとりひとりの関わりをすごく大切にしている様子を見て,住民に対する姿勢が大事だと思った」「すごく顔のわかる関係というか,そういう関係を築く保健師をみて自分もそうなりたいと強く思った」の2つの元ラベルから構成された.
8) 住民も保健師も生き生きこの島は,主に保健師も住民も生き生きしている様子に影響を受けたという語りから集約された.最終表札『住民が元気で生き生き達成感を感じられるような仕事がしたい』は,2つの表札と1つの元ラベルから構成された.表札〈地域の人々の中で共に頑張った達成感を共有したい〉は,「実習で保健師からアドバイスを受け一緒に健康教育を作ったのが楽しくやりがいを感じた」「保健師と地域の健康づくりの委員が一緒にミニ健康測定会を運営している様子がすごい楽しそうでいいなと思った」「実習の体操教室で,全然できなかった人がいきいきとできるようになった.集まりが地域の人にとって生きがいになっていることを身をもって知り楽しかった」などから構成された.表札〈地域の個別性を考慮し,住民のエンパワメントを意識して活動する保健師の姿に魅力を感じた〉は,「住民のいい所を見つけて引き出してあげるみたいなお話をされていて,いいなと思った」などから構成された.1つの元ラベルは「実習指導者が地域の方が元気で過ごしていける支援ができることについて熱い思いを語っておられいいなと思った」という語りであった.特にこの島の中には,保健師になりたい気持ちを強化した出来事の中でも,保健師に就職する際に決め手となったことなどが含まれた.
9) 看護学生が保健師の職業選択を強化した要因の構造化(図1)看護学生が保健師の職業選択を強化した要因(最終表札とシンボルマークを表示)
シンボルマークによって構造を示すと,時期や理由は様々であるが,保健師を職業選択した学生は,より住民の身近にいたい,病気になる前の予防活動を行いたいといった気持ちの芽生えがあり【住民の日常に関わりたい】と感じていた.そして,実習を体験し学習を重ねるうちに,【地域の多様性】を感じ,保健師への興味関心が高まり,【保健師の奥深さ】がわかりはじめ,理想となる保健師との出会いもあり【理想像の具現化】ができていた.また,すごいと思える保健師のスキルが理想像となり,それが【保健師の奥深さ】を感じるきっかけとなっていた.そして,自身がどうなりたいかを具体的に想像できるようになり,【住民も保健師も生き生き】と暮らしていけるよう支援する思いを少しずつ作りあげていた.【住民の日常に関わりたい】という思いが育まれていたため,その支援による住民も保健師も生き生きした姿は強く印象が残っていた.そして,その支援したい思いには,住民との【保健師の関係づくりの姿勢】や,保健師の幅広い視点で【環境全体を統合してみる力】を感じたことも影響していた.そして,それらに関し,看護学生は教員等による励ましや保健師の仕事のアピールが大きな【周囲からの支え】となり,保健師になりたい気持ちを維持,後押しされていた.
保健師を志向する動機として,インタビューから,何らかのきっかけで【住民の日常に関わりたい】気持ちの芽生えがあることが分かった.その内容は様々であり,漠然としたところから始まっている.大学入学前に闘病記を読んで予防活動をしたいと感じたものもあれば,入学後に基礎実習で患者や家族の辛そうな様子をみて予防に興味を持ったなど,病棟の看護と公衆衛生看護を比較することから,病気になる前の保健・予防活動が強化されたと考えられる.
その後,公衆衛生看護学の講義や実習等で実際の保健師と出会う中,その語りを聞き,保健師についてまだ分からないことや想像を超えることがあるという【保健師の奥深さ】を感じたことにより,職業選択を強化していたことが分かった.看護師志向の学生について,白鳥(2009)は,「看護についての学びはこれまでの乏しい体験や知識からは想像できない世界であったことが伺えた」と述べている.そのため,学生にとって,一般的に看護師より出会える機会の少ない保健師のイメージは,看護師のそれよりさらに漠然としていると考えられ,保健師の語りによって,より【保健師の奥深さ】を感じた可能性があると考えられる.そして,インタビューにより,保健師を職業選択した学生は,公衆衛生看護学実習で,現場の保健師の指導の様子や住民との関わりの姿をみて,保健師の【理想像の具現化】をしていたことが分かった.白鳥(2009)が,「理想とする役割モデルが存在することによって職業的価値が内在化されていた」「看護へと傾倒した体験からは専門職社会化を最も期待できるのは臨床実習であることが確認できた」と述べているが,役割モデルの存在についても,看護師と保健師は同様のことが言える.特にイメージが持ちにくいと考えられる保健師については,より保健師像を具体化できる公衆衛生看護学実習の影響は大きいと考えられる.そして今回,その実習で,学生が【住民も保健師も生き生き】することに関わり達成感を感じられることが保健師の職業選択を強化していることも分かったが,これらについても,清水ら(2015)の研究の,実習達成感が看護職の職業的アイデンティティと関連していたということと一致し,看護師志向の学生が看護師を職業選択するプロセスと,保健師志向の学生が保健師を職業選択するプロセスは同様であると考えられる.
2. 保健師志向を強化する体験佐藤(2012)の研究において,大学進学理由では「保健師として働きたいからと答えた学生は3.4%」,卒後進路について問う質問に対しては「9.9%の学生が保健師として就職すると回答した」,というデータに表されるように,大学進学時に保健師として働くことを考えていなかった学生の一定数は,その後の経験から保健師として就職すると回答しており,大学入学後の保健師養成課程での影響は大きいと考えられる.そして,黒田ら(2010)が,看護学生の自己成長に繋がった指導として経験の機会を設定することを挙げているように,保健師が住民とやりとりする場への参加や,保健師から具体的な活動等の語りを聞く機会を実習に組み入れてもらうなど,環境を意図的に作り上げる必要があり,保健師養成課程での教員,実習指導者の役割が重要となると考えられる.
1) 効果的な実習体験白鳥(2009)は,「学生の職業への関心の高さを維持するためには,その後の体験の質が問われている」「どんなに素晴らしい授業でも現実体験の機会がなければ理論と実践を統合することはできない」と述べている.そのため,それまでに抱いた関心を実習等の体験に繋げていく必要がある.保健師の行う公衆衛生看護の幅広さ,具体的で多様な活動を伝える【保健師の奥深さ】を感じてもらうことについては,学内で現場の保健師の話を聞く体験や公衆衛生看護学実習の中で保健師にインタビューを行える場などが効果的と考えられる.特に実習では参加できる事業に限界があるため,そのような機会を設け,保健師の地域に対する思いや活動の意図を含めて語ってもらうことで,事業の参加だけではわからない【保健師の奥深さ】を感じられ,さらに【住民も保健師も生き生き】し,達成感を感じられる仕事がしたいという島で表される「実習先で保健師がその地区の特性をいかした事業をされていて,とてもいきいきされていたのが印象的だった」「実習指導者が地域の方が元気で過ごしていける支援ができることについて熱い思いを語っておられいいなと思った」という語りにも繋がると考えられる.
併せて,白鳥(2009)が,「看護学生として重要な特徴は自己の振り返りから専門職性の発展がみられたことである」と述べているが,今回のインタビューにみられるように,実習での保健師の話やその他の実習体験から得た学びを,日々学生同士で語り,振り返る場を設けることが,さらに職業観を強めると考えられる.
【理想像の具現化】については,古城ら(2016)が,病棟実習に関し,「臨床実習現場でモデルとなる看護師に出会う体験は多くなかった」と述べており,公衆衛生看護学実習でもモデルとなる保健師に出会う体験が多くない可能性があることから,ただ実習で保健師に出会うだけでなく,モデルとして保健師の専門性,役割を発揮している姿を見せる場の設定を行う必要があると考えられる.特に保健師において,インタビューの結果から,住民から頼られている姿が学生のモデルとなっていたため,理想像を具現化するために,住民が保健師の名を呼び,困ったことや心配なことについて相談するなどの保健師が頼られている姿が見えやすい「家庭訪問」「健康相談」等の同行により,保健師の支援場面を見せることが有効であると考えられる.
そして,【住民も保健師も生き生き】し達成感を感じられるような仕事がしたいという思いを育むためには,インタビュー結果より,住民と保健師が協働している姿や,住民が主体となっていることが重要なことから,住民と保健師など関係者が共同で運営して作り上げている「子育てサークル」や,住民主体の活動である「自主グループ」「当事者団体」等の事業への参加が効果的と考えられる.その際,事業への参加が効果的となるよう,事前に学生に現場で保健師の住民との関わりと反応をよく見ておくようにとポイントを伝えておく必要があると思われる.そのうえで,保健師の支援の姿を見せること,そして事業参加後においても,質疑応答や学びの確認,振り返りの機会を設けることで,保健師になりたい気持ちの強化に繋がると考えられる.
また学生は,地域の人々の中で達成感を感じられることに保健師になりたい気持ちを強化されていた.仲里ら(2019)は,「学生は対象者の反応から感じた健康教育の手ごたえを経験する.」と述べている.このように公衆衛生看護学実習の中,実習指導者からアドバイスを受けて一緒に作り上げ,さらに住民と関わり反応を得ながら行える健康教育は,協働や達成感を感じやすいと考えられる.そして,健康教育に取り組むことで,学生自身も「地域の人とふれ合い楽しかった,住民だけでなく自分も元気をもらった」とコミュニティの力を肌で感じ,身体だけでない心理,社会的健康の大切さを体感できることから,その結果,健康をつくりあげる意識が個から集団へと変化し,保健師ならではのヘルスプロモーションや保健師を強く志向していくことに繋がると考えられる.
以上のように,公衆衛生看護学実習の中でも体験する事業の違い,出会えた保健師により,学生が感じるもの,学べるものに違いがあり,その組み立てを上手く行う必要がある.また,堀ら(2013)の研究において,「実習指導者が,学生のモチベーションが向上していることを実感したり看護の初心を教えられるという体験をとおして学生の懸命さに喜びを感じていた.」と述べている.このことから,学生がカンファレンスや健康教育およびそのリハーサル等で,実習指導者とやりとりを行い積極的に質疑を行うことや,やりたいことがあればその意欲を伝えていくことなど,学生の一生懸命さが伝わる機会があることで,結果として実習指導者にとっても良い影響が期待できると考えられる.そして,学生も実習指導者の地域支援についての熱い思いを聞くことでモチベーションを向上させていることから,実習の質の向上は学生と実習指導者に相乗効果をもたらすことが期待できる.
2) 教員の支えインタビュー結果から教員が講義で熱心に教える姿が保健師志向の強化に繋がっていることが分かった.古城ら(2016)が看護職としての卒業後の進路への影響要因について,「講義の中で熱意溢れる教師の姿勢や,関心が深まる講義内容が影響を与えていた.」と述べているが,教員が地域住民の生活や保健師の魅力について学生に語る際,教員の経験等からリアリティをもって仕事のやりがいや楽しさを伝えていくことが必要と考えられる.
そして,全体を通じて,教員の支えが,学生の保健師志向を支える大きな基盤となっていることが分かった.合田ら(2011)が,「看護学生は理想の自己に対し満足に看護が行えない自己に直面化するため専門職としてのアイデンティティが脅かされやすい」と述べているが,特に保健師志向の学生は,公衆衛生看護学実習において見学が多く,理想の自己に対し満足に住民に関われる機会に恵まれず達成感が得られにくい可能性があること,看護師志向の学生と比べると少数派で求人数も多くないことから,保健師になりたいというアイデンティティが脅かされやすいと考えられ,支えの必要性が強い可能性がある.その支援において,既に先行研究で,川島ら(2020)が,「学生は,褒めてもらうことで心が落ち着いたなど,教員の存在を支えにしている」ことを明らかにしている.今回,「実習・授業時間が少なく保健師になって大丈夫か不安があったが,先生の日々の声かけが心強く保健師になりたい気持ちがブレなかった」という語りにみられるように,教員が親身に肯定的な声掛けを返していくことや保健師のアピールをしていくことも,学生の気持ちや,保健師の職業志向の支えに繋がると考えられる.併せて,川島ら(2020)は,看護師志望の学生について,「学生の頑張りを認めることが学生の心理的な支えになる『頑張ろう』という意欲を高めることに繋がる.」と述べているが,保健師志向の学生も公衆衛生看護学実習や就職試験の大変さを感じており,頑張りを認める声かけは保健師志向の学生にも効果があると考えられる.
そして,白鳥(2009)が,「学生の職業意識の変化や価値観の多様化に対応するために教師自身が魅力あるモデルとして存在感を示せることが求められる」と述べているが,いきいきとした保健師像を伝える教員自身も,学生との関わりの中でいきいきとしている姿を見せることが,学生の頑張る気持ちと,保健師志向の支えに繋がると考えられる.
3. 研究の限界と今後の課題本研究で看護学生が保健師になりたい気持ちを強化する体験について明らかにすることができた.しかし,この研究結果は想起法であること,データ収集時の他者からの影響の可能性は否めないこと等の研究の限界がある.今後は,より有効な学生へのアプローチおよび公衆衛生看護学実習のプログラム開発に取り組みたいと考える.
本研究の実施にあたり,ご協力いただきました研究参加者の皆様に謹んで感謝の意を表します.
なお,本研究に開示すべきCOI状態はない.