目的:保健師の事例検討における質問の特徴からみた高齢者のアセスメントの視点を明らかにする.
方法:新任期・プリセプター・管理期の保健師25名を対象に,高齢者5例の事例検討における質問を質的記述的に分析した.
結果:質問の特徴として,《本人・家族の生活力》には【暮らしの中で必要な生活動作】,【社会生活の営みの中の困りごと】,【高齢世帯を支える家族の構造とつながり】,【家族の問題認識と対応力】,【暮らしを支える環境とのつながり】が挙げられた.《健康維持力》は【食べる力】と【健康状態の経過】,【医療につながり途切れない力】,【主治医の判断】をみて,《支援の方向性》として【在宅生活の見通し】を検討していた.
考察:生活力と健康維持力を関連させ,今後の在宅生活の見通しを立てることが高齢者のアセスメントの視点として示された.これらの視点の活用を促すことが,新任期保健師のアセスメント力向上につながると考える.
Purpose: This study aims to identify perspectives on Assessment of Older Adults from the Characteristics of Questions in case discussions by public health nurses.
Methods: We conducted a qualitative descriptive analysis of questions regarding five older adult cases posed by 25 newly appointed, preceptor, and management level public health nurses.
Results: The analysis identified the following characteristics of questions: “Livelihood skills of the older adults and their families” that includes “usual activities necessary in daily living,” “problems related to social life,” “family structure and connections to support the household of the older adults,” “awareness and coping skills for family problems,” and “integration of the environment that supports daily living.” Public health nurses assessed the “Ability to maintain health” that includes “ability to eat”, “progress of health status,” “ability to build and maintain the connection with medical care,” and “decisions by an attending physician,” while evaluating “prospects for life at home” as the “Purpose of the support.”
Discussion: As a perspective to assess older adults, public health nurses need to make assessments focused on the prospect for life at home while considering both their livelihood skills and ability to maintain health conditions. The findings reveal that encouraging newly appointed public health nurses to use these perspectives may improve their assessment skills.
保健師の個別支援における看護過程の研究では,看護問題の特定に向けた多面的な情報収集と包括的アセスメントの難しさが明らかになっている(塩川ら,2021).また,就業1年目の保健師の家庭訪問能力において,アセスメントの「情報を関連付けた総合的な判断」,訪問場面の「健康課題の特性と優先性の判断」は高度な思考を必要とし到達度が低いとされる(佐伯ら,2021).
厚生労働省(2011, 2013)は「新人看護職員研修ガイドライン~保健師編~」や「地域における保健師の保健活動について」を示し,現任教育の体系化を推進している.特に,新任期保健師の個別支援のアセスメントは課題であり,現任教育において重視されている.
丸谷(2018)は,保健師は多分野に渡る健康問題に対して予防的に関わるジェネラリストの能力が求められると述べており,多様で複雑な問題を抱えた人々への個別支援能力の向上は急務である.特に高齢化が進む現代において,高齢者は手続きの難しさやサポート不足から,支援が途切れやすいことが課題となっている(鈴木ら,2012).他者の介入を拒否する一人暮らし高齢者には,関係構築とリスクアセスメントの技術が必須(岡本ら,2017)とされ,高齢者の支援に向けたアセスメントは重要である.
個別支援能力の向上には事例検討が有効とされ,アセスメントの言語化,事例の整理,生活状況や思いの確認,将来を見通した支援等が学べる(古塩ら,2019).さらに,事例検討において質問を重ねることは,事例提供者が支援のプロセスを振り返り,深く思考する場面をサポートする(足立,2015)と言われている.質問にはアセスメントに必要な情報を集めていくものと,事例提供者の持つ情報を引き出し,課題の判断を促す意図的な質問がある(上原,2012).事例提供者自身の事例への思いや印象,支援の評価について表出を促すことが重要(佐藤,2021)とされ,事例検討における質問の役割は大きい.質疑応答を重ねることで情報が整理され,質問を介して事例提供者と参加者の相互作用からアセスメントの視点が見出されていくと考える.
そこで,本研究は,新任期保健師研修において,参加者全員が質問を考え,アセスメントの思考プロセスの共有をねらいとし事例検討を企画した.質問の内容が何を表しているのか解釈することで,質問の特徴からアセスメントの視点を見出す意義がある.
本研究は,事例検討における質問の特徴からみた高齢者のアセスメントの視点を明らかにすることを目的とする.さらに,新任期保健師のアセスメント力向上に対する示唆を得る.
本研究では,新任期保健師は保健師経験年数1~3年目とし,プリセプターは新任期の指導を担当している保健師,管理期は係長職以上の保健師とする.
2. 研究デザイン本研究は,質的記述的研究デザインとした.
3. 対象対象は機縁法により新任期保健師の個別支援能力育成を目的に研修を開催している都道府県型保健所に依頼し,承諾の得られたA保健所管内(5市町村を管轄)をフィールドとした.新任期保健師研修は市町村・保健所に勤務する保健師経験年数1~3年目の新任期保健師とプリセプターおよび管理期保健師に案内した.そのうち,新任期保健師研修の事例検討に参加した者に研究の説明を行い,同意が得られた者を研究参加者とした.
4. 新任期保健師研修の概要A保健所では,管内市町村の保健分野と地域包括支援センター(以下,地域包括)に配置された保健師がともに学ぶ研修を開催してきた経過がある.管内市町村は個別支援能力の育成方法に悩みを抱え,A保健所に相談が寄せられていた.組織体制への働きかけも考慮し,ともに育ちあう場が必要と考え,新任期とプリセプターおよび管理期の保健師が参加する研修企画に至った.
本研究は新任期保健師の個別支援におけるアセスメント力向上を目指すものであり,A保健所の研修企画担当保健師(以下,研修企画担当者)3名と研究者が共同で新任期保健師研修の企画会議を行い,研修目標や事例検討の構成を検討し運営した.研修の概要を表1に示す.
新任期保健師研修の概要
企画意図 | 保健師の看護過程に基づく個別支援力の向上 キャリア別グループ討議で深める相互学習 支援の振り返りによる判断力の向上 事例検討の日常業務定着への促し |
研修目標 | 〈新任期〉 保健師の基本となる個別支援の力量形成を図る |
〈プリセプター・管理期〉 新任期の個別支援の力量を高めるために必要な育成ポイントを理解する |
運営 | ・集合研修2の事例検討:新任期全員の事例を検討するため,原則,1事例50分(3年目保健師は30分)で運営 ・集合研修4の事例検討:新任期全員の事例を検討するが,最初の1事例のみ60分とし,他は1事例30分で検討 ・事例検討のグループワーク:保健師経験年数別グループごとに質問を検討し,全体討議でアセスメントを共有 ・保健所の研修企画担当保健師の役割:研修全体の企画および事例検討の司会進行,板書を担当 ・研究者の役割:全ての集合研修に参加し,事例検討は管理期グループに所属し,スーパーバイズを担当 |
年度 | 形式 | 研修内容 | 研修参加者 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
新任期 | プリセプター | 管理期 | |||||
2018 | 集合 研修1 |
前期 | 講義「保健師が行う個別支援」(家族看護,看護過程,事例管理) | 聴講 | 聴講 | 聴講 | |
所属別 | 中期 | 事例検討(職場内研修) | 事例提供 | 助言 | 助言 | ||
集合 研修2 |
後期 | 事例検討8事例(高齢者2事例) | 事例提供 | 助言 | 助言 | ||
グループワーク | ・質問を考える | 対象理解を深める質問 | アセスメントを深める質問 | ||||
全体討議 | ・質問への回答を重ねアセスメントを共有する | 事例提供者が回答 アセスメントの共有 |
アセスメントの共有 | ||||
よい視点のコメント | スーパーバイズ | ||||||
2019 | 集合 研修3 |
前期 | 講義「個別支援から地域の健康課題をみる視点,継続支援の判断」 | 聴講 | 聴講 | 聴講 | |
所属別 | 中期 | 事例検討(職場内研修) | 事例提供 | 助言 | 助言 | ||
集合 研修4 |
後期 | 事例検討7事例(高齢者3事例) | 事例提供 | 助言 | 助言 | ||
グループワーク | ・質問を考える | 対象理解を深める質問 | アセスメントを深める質問 | ||||
全体討議 | ・質問への回答を重ねアセスメントを共有する | 事例提供者が回答 アセスメントの共有 |
アセスメントの共有 | ||||
よい視点のコメント | スーパーバイズ | ||||||
※ | 分析データ |
2018~2019年度の2年間で前期・後期研修として計4回の集合研修と,中期には所属別に事例検討を実施した.研修企画にあたり,研修企画担当者に個別支援の課題をインタビューしたところ,行政保健師が行う家庭訪問の意味や家族と生活をみるアセスメントの視点の弱さ,継続支援の判断の難しさが挙げられた.そのため,基礎講義は保健師が行う家庭訪問や家族看護に関する内容とし,事例検討は継続支援事例を選定し実施した.なお,研究者が講義を担当し,事例検討のスーパーバイザーとしてすべての集合研修に参加した.
5. データ収集本研究のデータ収集期間は2018年7月から2020年2月であった.A保健所管内新任期保健師研修の集合研修における事例検討場面に焦点を当てて,高齢者5事例の質問の内容を分析した.なお,データ収集は事例検討を集積して分析するため,表1の集合研修2と4で行った2回分を分析対象とした.
事例検討は,新任期保健師による事例提供,保健師経験年数別グループワーク(新任期,プリセプター,管理期)で事例の質問を検討し,その質問を活用した全体討議を行った.事例提供者は,事例概要としてテーマ,事例の選定理由,家族構成等の基本情報,アセスメント,課題,支援方針,検討事項等を記載した資料を事前に作成し,提出した.研修企画は,日本看護協会(2014)の実践力UP事例検討会の手法を参考にし,特に情報整理とアセスメントを重点とした.事例に対する質問を考えるグループワークでは,参加者の経験知を考慮し,新任期保健師には事例の対象理解を深める質問,プリセプターと管理期にはアセスメントを深める質問を意識して検討するよう提示した.なお,事例検討の会話内容は研究参加者の承諾を得てICレコーダーに録音した.
研究参加者の属性として,性別,年齢,所属,職位,保健師経験年数,保健師教育の出身校,看護師経験の有無等を把握した.
6. 分析方法分析は,安梅(2010)の質的研究における複数のグループを統合してまとめる統合分析の方法を参考とした.新任期,プリセプター,管理期の3グループの逐語録からグループ毎に質問を抽出してコード化,意味内容の類似性からサブカテゴリを生成した.さらに,3グループのサブカテゴリから共通点を見出すとともに保健師経験年数ごとのアセスメントの特徴を比較しながら,類似するものをまとめて中位カテゴリを生成,その共通性から抽象度を上げカテゴリ,さらにコアカテゴリを生成した.なお,分析は公衆衛生看護学の複数の教員等で繰り返し検討するとともに,メンバーチェッキングによる内容の確認を得て,真実性の確保に努めた.
7. 倫理的配慮本研究は「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に沿って倫理的配慮を行った.研究参加者に対し,研究目的と方法,研究参加の自由意志,不参加により不利益を被ることはないこと,匿名性の確保,結果の公表等について文書及び口頭で説明し,同意書により承諾を得た.また,事例検討を行う事例については,事例提供者が所属長の許可を得て,個人が特定されないよう匿名性を保った資料を提供し,終了後は資料を回収した.旭川医科大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号18052,2018年7月5日承認).
研究参加者は保健師25名であった(表2).保健師経験別グループでは,新任期11名(44.0%),プリセプター7名(28.0%),管理期7名(28.0%)であった.所属は,市町村18名(72.0%)のうち保健分野12名,直営型地域包括6名であり,保健所7名(28.0%)であった.性別は男性1名,女性24名であった.年齢は20歳代9名(36.0%),30歳代7名(28.0%),40歳代6名(24.0%),50歳代3名(12.0%)であった.保健師経験年数の平均は新任期2.2年,プリセプター10.1年,管理期23.8年であった.保健師教育の出身校は専門学校16名(64.0%),大学(統合カリキュラム)が7名(28.0%),大学(学部選択制)1名(4.0%),大学院1名(4.0%)であった.集合研修における事例検討の参加回数は1回が14名(56.0%),2回が11名(44.0%)であった.
対象者の属性(N=25)
新任期 | プリセプター | 管理期 | n | % | ||
---|---|---|---|---|---|---|
総数 | 11 | 7 | 7 | 25 | ||
所属 | 市町村 | 9 | 5 | 4 | 18 | 72.0 |
(内訳)保健分野 | 7 | 3 | 2 | 12 | 66.7 | |
地域包括支援センター | 2 | 2 | 2 | 6 | 33.3 | |
保健所 | 2 | 2 | 3 | 7 | 28.0 | |
性別 | 男性 | 1 | 0 | 0 | 1 | 4.0 |
女性 | 10 | 7 | 7 | 24 | 96.0 | |
年齢 | 20歳代 | 7 | 2 | 0 | 9 | 36.0 |
30歳代 | 4 | 3 | 0 | 7 | 28.0 | |
40歳代 | 0 | 1 | 5 | 6 | 24.0 | |
50歳代 | 0 | 1 | 2 | 3 | 12.0 | |
保健師経験年数 | 平均経験年数 | 2.2 | 10.1 | 23.8 | ||
看護師の職歴 | なし | 6 | 4 | 6 | 16 | 64.0 |
あり | 5 | 3 | 1 | 9 | 36.0 | |
平均経験年数 | 4.4 | 1.4 | 5.0 | |||
保健師教育の出身校 | 専門学校 | 5 | 4 | 7 | 16 | 64.0 |
大学(統合カリキュラム) | 4 | 3 | 0 | 7 | 28.0 | |
大学(学部選択制) | 1 | 0 | 0 | 1 | 4.0 | |
大学院 | 1 | 0 | 0 | 1 | 4.0 | |
事例検討の参加回数 | 1回 | 5 | 3 | 6 | 14 | 56.0 |
2回 | 6 | 4 | 1 | 11 | 44.0 |
高齢者5事例を検討した.事例の年齢は70歳代後半2例,80歳代3例で,性別は男性1名,女性4名であった.主な疾患等は認知症(疑い含む)3例,喪失体験による精神的な落ち込み1例,骨折後の介護予防1例,であった.事例検討の概要について,テーマと検討結果等を表3に示す.なお,事例提供者は新任期保健師3名でそのうち2名は事例提供を2回行っていた.
事例検討の概要
事例概要 | 事例提供者 | 事例検討の参加者 | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
事例NO | 年齢 | 性別 | 家族構成 | テーマ | 事例検討の結果 | 保健師 | 所属 | 経験年数 | 新任期 | プリセプター | 管理期 | 計 |
1 | 70歳代後半 | 女性 | 独居 | 認知症疑いがあるが受診につながらず家族からの支援も難しい高齢者への今後の支援 | 受診につながらないが保健師は本人と関係ができていることが強み.本人は認知症様の症状と不安があり1人で受診行動をとることが難しいため,家族に受診同行を依頼,医師との連携が必要である. | A | 地域包括 | 2 | 9 | 6 | 6 | 21 |
2 | 70歳代後半 | 女性 | 独居 | 認知症があり介護サービスを拒否している独居高齢者への今後の関わり方 | 認知症の進行により独居生活に困難さが出現.サービス拒否の背景に家族や近隣との関係性が希薄で支援につながる力の弱さが窺える.生活の自立度から病状進行を予測し,見守り支援体制を作る必要がある. | A | 地域包括 | 3 | 7 | 5 | 2 | 14 |
3 | 80歳代前半 | 男性 | 高齢夫婦世帯 | 妻が夫の認知症を受け入れていくための家族支援 | 妻は本人が周囲に迷惑をかけることを心配しながらもこの地域で夫婦で暮らし続けたい思いがあった.認知症を受け入れるには揺らぎもあり,受容プロセスに寄り添うことが大切である. | B | 地域包括 | 2 | 9 | 6 | 6 | 21 |
4 | 80歳代前半 | 女性 | 独居 | 家族との死別から精神的落ち込みが見られていた高齢者への支援 | 高齢者の喪失体験への支援として思いを傾聴し,死別による生活の変化を捉え,生活の中でできていることを支持しながら,どんな風に生活していきたいか一緒に考えていく. | B | 地域包括 | 3 | 7 | 5 | 2 | 14 |
5 | 80歳代前半 | 女性 | 独居 | 骨折後の身体機能低下で今後の生活への不安を感じている高齢者の介護予防支援 | 骨折後のADL・IADLを判断し,できていることと支援が必要なことの整理が本人の不安を和らげる支援になる.介護予防やフレイルの視点を持ち,本人の望む生活とすり合わせながら支援の方向性の検討が必要である. | C | 保健 | 2 | 7 | 5 | 2 | 14 |
高齢者5事例の事例検討における保健師経験年数別グループの質問から新任期34コード,プリセプター25コード,管理期27コードが生成された.さらに,3グループの統合分析から29中位カテゴリ,10カテゴリ,3コアカテゴリが生成された(表4).
高齢者の事例検討における質問内容
コアカテゴリ(3) | カテゴリ(10) | 中位カテゴリ(29) | 新任期 | プリセプター | 管理期 |
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本人・家族の生活力 | 暮らしの中で必要な生活動作 | 生活に必要な運動機能 | ○ | ||
家での生活能力 | ○ | ○ | |||
社会生活の営みの中の困りごと | 金銭管理の状況 | ○ | |||
運転免許更新状況 | ○ | ||||
人間関係や趣味などの社会生活状況 | ○ | ||||
認知症の周辺症状による影響 | ○ | ||||
生活の困りごと | ○ | ○ | ○ | ||
高齢世帯を支える家族の構造とつながり | 家族構成や生活状況 | ○ | ○ | ○ | |
高齢介護者の健康状態 | ○ | ○ | |||
主介護者を支える家族の状況 | ○ | ||||
家族との関係性 | ○ | ○ | ○ | ||
家族の問題認識と対応力 | 家族の本人把握状況 | ○ | ○ | ○ | |
一人暮らし継続への家族の心配 | ○ | ||||
家族の認知症の受け入れ背景 | ○ | ○ | |||
本人の困り感に合わせた家族の対応 | ○ | ○ | ○ | ||
暮らしを支える環境とのつながり | 家族以外の支援者とのつながり | ○ | ○ | ○ | |
近隣とのトラブルや関係性 | ○ | ○ | |||
サービス利用への思い | ○ | ○ | ○ | ||
健康維持力 | 食べる力 | 体重の推移 | ○ | ||
栄養状態 | ○ | ||||
健康状態の経過 | 基礎疾患の有無と経過 | ○ | ○ | ||
医療につながり途切れない力 | 受診状況 | ○ | ○ | ||
内服自己中断の状況 | ○ | ○ | |||
疾患の受け入れ状況 | ○ | ||||
主治医の判断 | 主治医の見解の把握 | ○ | ○ | ||
主治医との連携状況 | ○ | ||||
支援の方向性 | 在宅生活の見通し | SOS発信能力 | ○ | ||
生活上のリスク予測 | ○ | ○ | ○ | ||
めざす生活の見通し | ○ | ○ | ○ |
以下,コアカテゴリを《 》,カテゴリを【 】,中位カテゴリを〔 〕,コードを「(斜体文字)」で示す.
高齢者の事例検討における質問内容を分析した結果,《本人・家族の生活力》,《健康維持力》,《支援の方向性》の3コアカテゴリが生成された.
以下,コアカテゴリごとに,カテゴリと中位カテゴリ,コードを用いて,高齢者の支援における質問の特徴からみたアセスメントの視点を述べる.
1) 本人・家族の生活力《本人・家族の生活力》は【暮らしの中で必要な生活動作】,【社会生活の営みの中の困りごと】,【高齢世帯を支える家族の構造とつながり】,【家族の問題認識と対応力】,【暮らしを支える環境とのつながり】の5カテゴリから生成された.
本人の生活力として,「骨折前は何ができてどのように生活していたのか,骨折後には何ができなくなったのか(新任期G,事例5)」といった〔生活に必要な運動機能〕や「身だしなみは整っているとの判断について,入浴状況と実際に見た様子を具体的に知りたい(管理期,事例1)」という〔家での生活能力〕をみることで【暮らしの中で必要な生活動作】を把握していた.さらに,〔金銭管理の状況〕,〔運転免許更新状況〕,〔人間関係や趣味などの社会生活状況〕をみており,認知症がある事例では「認知症の症状で感情コントロールが難しく,本人が娘に対して怒ることがあったのではないか(新任期,事例2)」というように〔認知症の周辺症状による影響〕をみていた.〔生活の困りごと〕は全グループから質問がなされ,高齢者の【社会生活の営みの中の困りごと】を捉えていた.
家族については「息子夫婦が住んでいる市との距離はどのくらいか(プリセプター,事例1)」といった〔家族構成や生活状況〕は全グループから質問がなされ,〔高齢介護者の健康状態〕はプリセプターと管理期から挙げられた.「近隣在住で交流のある姉妹も高齢で,他に支える家族などはいるか(新任期,事例2)」という〔主介護者を支える家族の状況〕は新任期から質問がなされていた.さらに,〔家族との関係性〕は全グループから挙げられ,【高齢世帯を支える家族の構造とつながり】をみていた.加えて,「娘は今の本人の状況をどの程度把握しているか(新任期,事例3)」といった〔家族の本人把握状況〕や〔本人の困り感に合わせた家族の対応〕は全グループから挙げられた.独居の場合は〔一人暮らし継続への家族の心配〕,認知症がある事例では「妻が夫の認知症を受け入れられないのは症状が認知症によるものと捉えられないのか,元々きちんとしていた夫の現在の姿を受け入れられないのか(新任期,事例3)」などの〔家族の認知症の受け入れ背景〕を捉え,【家族の問題認識と対応力】をみていた.さらに,「家族以外の支援者との関わりなど人間関係を立体的に知りたい(管理期,事例5)」といった〔家族以外の支援者とのつながり〕や〔サービス利用への思い〕は全グループから挙げられたが,〔近隣とのトラブルや関係性〕はプリセプターと管理期から問いかけ,【暮らしを支える環境とのつながり】を捉えていた.
これらの生活力をみる質問は新任期から多く挙げられ,プリセプターと管理期からも質問があり,全てのグループから質問が挙げられていた.
2) 健康維持力《健康維持力》は【食べる力】,【健康状態の経過】,【医療につながり途切れない力】,【主治医の判断】の4カテゴリから生成された.
高齢者の〔体重の推移〕と〔栄養状態〕から【食べる力】を捉えていた.また,「内科的な疾患は他になかったか(新任期,事例4)」,「最終的な死因は何だったのか(管理期,事例4)」といった〔基礎疾患の有無と経過〕をみることで【健康状態の経過】を把握していた.
また,「付き添いがないと病院受診を忘れる可能性はないか(プリセプター,事例2)」などの〔受診状況〕や〔内服自己中断の状況〕はプリセプターと管理期から出され,「本人が自分は認知症だと思っている時と医師がおかしいと言うこともあり認知症をどう捉えているのか(新任期,事例2)」といった〔疾患の受け入れ状況〕は新任期から挙げられ,【医療につながり途切れない力】を把握していた.
さらに,「主治医は本人の認知機能の状態をどのように捉えているのか(新任期,事例1)」,「主治医は本人の生活をどのように受け止めているのか(プリセプター,事例3)」と〔主治医の見解の把握〕は新任期とプリセプターから挙げられ,〔主治医との連携状況〕は「保健師は内科主治医とどのように連携しているのか(管理期,事例1)」といった質問から【主治医の判断】を捉えていた.
3) 支援の方向性《支援の方向性》は【在宅生活の見通し】の1カテゴリから生成された.
「本人からのSOS発信はどこまでできるのか(プリセプター,事例2)」という〔SOS発信能力〕をプリセプターが質問していた.また,「認知症進行と共に生活継続の難しさも出るなど予測しているか(プリセプター,事例2)」といった〔生活上のリスク予測〕,「本人の目指す生活とは何ができるようになりたいのか(新任期,事例5)」,「本人がこうありたいという姿とすり合わせるうえで保健師が目指したい姿はどんなところか(管理期,事例3)」という〔めざす生活の見通し〕から【在宅生活の見通し】を考える質問は,新任期,プリセプター,管理期の全てから挙げられていた.
本研究は,保健師経験年数別グループで検討した質問を活用し事例検討を行った.新任期には対象理解を中心とした質問,プリセプターと管理期にはアセスメントを深める質問を考えるよう提示したことから,各グループから出された質問の特徴をふまえ,保健師が高齢者を支援するためのアセスメントの視点について考察していく.
1. 質問の特徴からみた高齢者のアセスメントの視点 1) 高齢者本人・家族の力と困りごとを捉える事例検討において,【暮らしの中で必要な生活動作】や【社会生活の営みの中の困りごと】を捉える質問から高齢者の状態を捉えて生活力を明らかにしていく思考プロセスが示された.大野ら(2006)は地域で生活する高齢者に対し優先すべきアセスメントの視点に社会的側面と行動的側面を挙げており,本研究の社会生活の中で困りごとを捉える視点と一致する.
さらに,【高齢世帯を支える家族の構造とつながり】,【家族の問題認識と対応力】をみて,家族の力をアセスメントする視点が明らかになった.外部支援者を確保し,主介護者がゆとりを持ち状況を肯定的に捉える基盤作りが重要(長谷川,2003)と言われているように,家族が抱えこまず介護できる環境にあるかを捉える必要がある.【暮らしを支える環境とのつながり】の視点は,個人にとどまらず家族を含めた対応力と環境の判断を考えさせていたと言える.
新任期から出されなかった質問として,〔高齢介護者の健康状態〕,〔近隣とのトラブルや関係性〕が挙げられた.現代は高齢者を高齢者が介護する状態,いわゆる「老々介護」が多くみられ,介護者自身の健康状態の情報は家族介護の状況判断に不可欠と考える.プリセプターが不足する視点を補っており,新任期は個人だけでなく家族に視野を広げたアセスメントを促す必要性が示唆された.
また,鈴木ら(2011)は介護サービス導入が困難な高齢者にみられる生活上の課題に近隣住民との摩擦を挙げている.認知症が疑われる高齢者の支援では本人から希望やニーズを聞くことが難しく,言動や生活状況,本人を知る方からの情報収集でニーズを導き出す力量が求められる(岡野ら,2019).本研究においても,近隣トラブルを把握する質問が挙げられ,近隣との関係性の情報は支援の必要性を判断する一助になると考える.
保健師経験年数別グループの質問では,【社会生活の営みの中の困りごと】は新任期,プリセプター,管理期すべてが質問しており地域での生活を捉える基盤となると言える.
2) 健康維持力と医療的な判断を考える事例検討において,【食べる力】と【健康状態の経過】を確認し,高齢者の食に着目して健康状態の推移を捉えていた.さらに,【医療につながり途切れない力】や【主治医の判断】の質問が挙げられ,健康と医療を関連させて判断を問いかけていたと考えられる.
【医療につながり途切れない力】は新任期からの質問は少なく,プリセプターと管理期から質問が出されたことから,新任期には医療状況のアセスメントが課題であり,特に意識して思考を促していく必要がある.
【主治医の判断】について,新任期は「主治医は本人の認知機能の状態をどのように捉えているのか」,プリセプターは「主治医は本人の生活をどのように受け止めているのか」と主治医の見解を確認する質問をしていた.管理期からは「保健師は内科主治医とどのように連携しているのか」と保健師の主治医との連携の意図について質問がなされた.高齢者の多くは基礎疾患を抱え医療との連携が求められるが,地域包括の保健師3年未満群では医療機関につなぐ働きかけが課題(岡野ら,2019)とされている.管理期の医療との連携における保健師の意図を考えさせる質問は,少し難しい課題に向き合うための教育的な関わりと考える.介護保険における高齢者のケアマネジメントは,自立支援を目指し生活を支える視点は強いが,医療に焦点を当てた疾患ケアの視点の強化が必要とされている(株式会社日本総合研究所,2021).地域包括の保健師は多職種と活動する中で,医療職という専門性に自身の役割を見出している(神戸ら,2021)という報告もみられる.保健師の専門性の原点である医療的判断は.高齢者が地域で望む生活を送るための見通しにも関連するため不可欠であり,より強化していく必要がある.
3) 在宅生活の見通しから支援の方向性を考える【在宅生活の見通し】については,新任期,プリセプター,管理期の全てから質問が出され,地域で生活する高齢者が在宅生活を継続していけるかを考える視点は共通で重視していた.川本ら(2012)は地域包括の保健師は家庭訪問を重ねるなかで看護職の専門性を生かし現状把握から見通しを立てて支援すると述べており,本研究の結果と一致する.さらに,管理期は,高齢者の近隣との関係性からも地域の中で生活していけるかを問いかけていた.平野(2016)は,昨今,誰もが支援を必要とする者となり,支援する者にもなる可能性があり支え合い健康で暮らせる地域を創る公共性の文化形成が保健師の役割と述べている.これらのことから,保健師は行政に所属する医療の専門職として自ら助けを求めることが難しい高齢者に関わり,地域の力を活用して支援の方向性を判断していく必要がある.
本研究の結果から,高齢者本人・家族の持つ力と起こり得る社会生活上の困りごと,その背景にある健康維持力を関連させ,医療的な判断につなげることで,今後の在宅生活の見通しを立てることが高齢者のアセスメントの視点として示された.
2. 新任期保健師のアセスメント力向上に対する示唆本研究では,多様な保健師経験年数の保健師が事例検討に参加する構成とした.このことで,新任期保健師が対象理解を深める質問を出し合い,プリセプターと管理期による判断に必要な情報や支援者の意図を考えさせる質問が加わることで,情報収集から判断を促すアセスメントの視点が明確になったと考える.さらに,高齢者をアセスメントするために生活,健康,医療を関連させる視点を活用して意見交換を行うことで新任期のアセスメント力向上につながると考える.新任期,プリセプター,管理期がともに事例検討を行う場を現任教育に位置付け,質問を活かした教育的な関わりが期待される.
3. 研究の限界と今後の課題本研究の結果から,保健師経験年数別グループの質問を活用した事例検討は,新任期保健師の情報整理とアセスメント力向上につながる可能性が示唆された.プリセプターと管理期にとっても事例検討しながらアセスメントの視点や思考プロセスを伝授する機会となることが推察された.一方,本研究では,新任期とプリセプター・管理期にそれぞれ質問のポイントを提示したため,各期から出された質問はその影響を受け,保健師経験年数による違いとは言い切れない可能性が考えられる.
今後の課題として,質問の特徴から見出された高齢者のアセスメントの視点の有効性は,家庭訪問の実践を通して検証していく必要がある.
本研究にご協力いただいたA保健所管内の研修企画担当者の方々および研修にご参加いただいた保健師の皆様に深く感謝申し上げます.
第10回日本公衆衛生看護学会学術集会(2022年1月,大阪市,オンライン開催)に本研究の一部を発表し,加筆修正を加えたものである.
本研究は2018~2023年度JSPS科研費18K10532の助成を受けて実施した.
本研究に開示すべきCOI状態はありません.