日本公衆衛生看護学会誌
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研究報告
保健師基礎教育における学校保健実習のあり方
―自治体に勤務する保健師の視点から―
廣金 和枝三森 寧子岡本 玲子髙田 恵美子
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2024 年 13 巻 2 号 p. 108-117

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Abstract

目的:保健師基礎教育で学校保健実習を経験した自治体保健師の捉える学校保健実習の実習意義,望ましいと考える学校保健実習の到達目標と実習内容を明らかにする.

方法:学校保健実習を経験した自治体保健師8名を対象に半構造化面接法によるデータ収集および質的記述的分析を行った.

結果:実習意義は,【基礎教育での実施が有益】,【就業してからの子どもの支援実施に有益】の2カテゴリー,望ましい実習到達目標は,【学校における健康に関する活動の実際を理解(実践)できる】,【学校診断からの活動の展開プロセスを理解(実践)できる】などの6カテゴリーが抽出され,実習到達目標の達成を可能にする実習内容として,22コードが抽出された.

考察:学校保健実習を経験した自治体保健師は,地域単位で学校を捉え,健康課題の抽出による活動や,特別な支援の必要な子どもの理解や支援など,より実践に寄与する実習到達目標とその達成を可能にする実習内容を望んでいた.

Translated Abstract

Objective: To clarify the significance of practical training as perceived by municipal public health nurses who have completed school health training in basic PHN education, as well as the attainment targets and items of practical training experience that they consider desirable.

Methods: Data were collected using the semi-structured interview method from eight municipal public health nurses with school health training, which were analyzed using qualitative descriptive analysis.

Results: For the significance of practical training, two categories were extracted: “It is beneficial to implement in basic education” and “It is beneficial to provide support to children,” and for desirable attainment targets, six categories were extracted, including “To understand (practice) the actual activities related to health in schools” and “To understand (practice) the process of developing activities from the school diagnosis.” To meet the practice experience items that help achieve the practice attainment targets, 22 codes were extracted.

Discussion: After completing school health training, public health nurses anticipated having more achievement targets and exposure to resources that would help them achieve those targets, like activities that involved identifying health challenges by considering the school as a regional unit, as well as understanding and supporting children who require special support.

I. 緒言

近年,『看護学教育モデル・コア・カリキュラム』(大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会,2017),『看護学士課程教育におけるコアコンピテンシーと卒業時到達目標』(日本看護系大学協議会,2018)がまとめられ,看護基礎教育において,活動の場の広がりに対応できる看護実践能力の育成が課題であることが示された.それに伴い,その上乗せである保健師基礎教育にも,多様な場で活動を展開できる実践能力の育成が求められ,『保健師に求められる実践能力と卒業時の到達目標と到達度』の改正(全国保健師教育機関協議会,2021)では,保健師の活動の場として産業保健・学校保健が改めて追記された.また,保健師学生の実践能力を育成する「活動の場に応じた実習」として,保健所,市町村,産業,学校の4つの場が明記された(全国保健師教育機関協議会,2018).

臨地実習は,看護の方法について「知る」「わかる」段階から「使う」「実践できる」段階に到達させるために不可欠な過程(大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会,2017,p. 4)であるが,保健師基礎教育における学校を場とした実習(以下,学校保健実習)の導入率は低く,その内容的な充実についても,多くの教育機関の教員が課題と認識しながらも困難感を抱いている現状が明らかになっている(廣金ら,2017岸ら,2018).

これまでの学校保健実習の導入やその展開方法の調査研究は,学校保健実習を導入済みの教育機関の教員を対象に,その意義や実習展開について教育機関側の視点で検討が行われてきた(廣金ら,20172020a2020b).しかしながら,保健師として就業した際に,学校保健実習が実際にどのような利益をもたらしているかについては明らかにされていない.

そこで,学校保健実習を経験した自治体に勤務する保健師の視点から,学校保健実習の職務上の有益性と保健師基礎教育で学校保健実習を経験する意義について明らかにし,それらを担保する自治体保健師が望ましいと考える実習到達目標およびその実習内容を明らかにすることを目的に調査を行うことにした.

本研究から得られる知見は,保健師基礎教育において学校保健実習を経験することの意義を改めて整理し,実習導入の根拠を再整理することに貢献するものである.また,自治体保健師の職務上,有益となる学校保健実習を検討するための重要な基礎資料となる.

II. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,質的記述的研究を採用した.

2. 調査対象

対象は,保健師基礎教育で学校保健実習を経験した卒後5年以内の自治体保健師である.調査対象候補者は,学校保健実習を導入している保健師基礎教育課程の教員を通して,または,研究者が所属する保健師基礎教育課程の実習施設の自治体保健師およびその保健師からの紹介を受けて抽出し,研究協力の同意が得られた8名を対象とした.学校保健実習を導入している保健師基礎教育課程の教員は,研究者またはスノーボール式に紹介を受けた教員であり,連絡可能な卒業生である自治体保健師を抽出してもらった.

3. 調査期間

2020年11月~2021年1月である.

4. データ収集方法

調査は,Web会議システムZoomまたはコミュニケーションアプリLINEを使用して実施し,対象の了解を得てインタビュー内容を録音した.データは,インタビューガイドを用いた半構造化インタビューにより収集した.

インタビュー時間は,それぞれ30分~45分で,全員,勤務時間外にインタビューを実施した.

5. 調査項目

インタビュー開始にあたり,対象の属性に関するフェイスシート項目について聞き取りを行った.収集した項目は,年齢,保健師経験年数,所属自治体の種類(設置主体),現在の所属部署,これまで担当した業務,学校との連携・協働経験の有無,卒業した保健師基礎教育課程の種類,経験した学校保健実習の日数・実習校校種・実習内容である.

調査内容は,「経験した学校保健実習は保健師の職務上,有益でしたか」について「非常に有益だった」から「全く有益ではなかった」の6段階評価で,「保健師基礎教育で学校保健実習を行う意義があると考えますか」については「非常にそう思う」から「全くそう思わない」の6段階評価で回答を求め,その回答理由について自由に語ってもらった.また,保健師基礎教育の学校保健実習として望ましいと考える実習到達目標およびその達成を可能にする実習内容,望ましいと考える実習校校種・実習日数についても自由に語ってもらった.

6. 分析方法

対象の同意を得てインタビュー内容をICレコーダーに録音し,録音した内容を逐語録に起こした.語られた内容は,意味内容を切片化してコード化し,類似性に基づきコードを集約してサブカテゴリーとした.さらにサブカテゴリーを集約して抽象度を上げ,カテゴリー化を行った.

コード化された実習内容については,コード化された実習到達目標の達成を可能にする実習内容として位置づけることが可能であるか,逐語録を元に分析し,位置づけることが可能であった場合は,コード化された実習到達目標の下にコード化された実習内容を配し,実習到達目標と実習内容の対応関係を示した.

カテゴリー化,およびコード化された実習到達目標とコード化された実習内容の対応関係は,質的研究に精通した公衆衛生看護学分野の研究者2名が妥当性の確認を行った.

本文中では,コードを“ ”,サブカテゴリーを《 》,カテゴリーを【 】で示した.

7. 倫理的配慮

調査対象に対して,研究目的,方法及び自由意思の尊重と個人情報保護について書面と口頭で説明し,書面による同意を得た.本研究は,畿央大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号R2-14,2020年9月24日承認).

8. 用語の定義

学校保健アセスメントは,「地域や学校,児童生徒などの健康状態に関する情報から,児童生徒の健康状態の課題とそれに影響する要因や関連する要因を見いだし,健康課題の解決・改善のための計画に反映させるための段階」(荒木田,2022)とする.

学校保健アセスメントを起点に,健康課題を抽出,学校における健康に関する活動を計画・実践し,評価・改善のPDCAサイクルを展開する一連の地域診断と同様の過程を,本研究では「学校診断」と定義して用いた.

III. 研究結果

1. 対象の基本属性

対象の年齢は,23~29歳で,すべて女性であった.

対象が卒業した保健師基礎教育課程は,短期大学専攻科2名,4年制大学2名,大学院4名であり,経験した学校保健実習の日数は1~5日(平均3.25日)で,実習校の校種ののべ数は,特別支援学級を含む小学校2校,中学校3校,高等学校3校,特別支援学校4校であった.対象の保健師経験年数は1年~5年で,現在の所属部署は,保健センター4名,子ども(福祉)課2名,障がい福祉課1名,予防対策課1名であった.これらは表1に示した.

表1. 

調査対象の基本属性

対象 卒業教育課程 勤務する自治体 現在の所属部署 保健師経験年数 年齢 実習日数 実習校の校種
小学校 中学校 高校 特別支援学校
A 学部 子ども課 2年 24 5 ○(特別支援学級) ○(肢体不自由・病弱)
B 短大 中核市 障がい福祉課 5年 28 1 ○(知的)
C 短大 保健センター 5年 29 1 ○(知的)
D 学部 指定都市 保健センター 1年 23 3 ○(知的)
E 大学院 特別区 保健センター 2年 24 4
F 大学院 指定都市 子ども家庭支援課 2年 24 4
G 大学院 特別区 予防対策課 1年 23 4
H 大学院 特別区 保健センター 1年 23 4

対象のこれまで担当した業務は,母子保健対策,健康増進,がん対策,自殺対策,感染症対策などさまざまであった.学校との連携・協働経験については,あるもの2名,ないもの5名のほか,先輩保健師に帯同のみのためほとんどないと回答したものが1名であり,あるもの2名は,ともに保健師経験年数が5年の対象であった.

2. 経験した実習内容

学校保健実習で経験した実習内容は20コードが抽出され,それらを類似性で分類した結果,【学校保健の対象について学ぶ】,【学校のしくみと役割と機能について学ぶ】,【養護教諭の役割と機能について学ぶ】,【学校診断から保健活動の展開の過程について学ぶ】,【学校における保健教育について学ぶ】,【学校における対物管理について学ぶ】,【特別な支援の必要なレベルに応じた教育・支援システムについて学ぶ】,【特別な支援の必要な子どもに対して行われている校内支援について学ぶ】,【学校健康危機管理について学ぶ】の9カテゴリーに分けられた(表2).

表2. 

自治体保健師が経験した学校保健実習の実習内容

カテゴリー コード
学校保健の対象について学ぶ 子どもたちの一日を体験する(クラス・部活配当など)
現代の子どもたちの健康課題について説明を受ける
学校のしくみと役割と機能について学ぶ 学校における健康にかかわる教員・関係者から説明を受ける
学校における組織活動を見学する
学校における保健行事を経験する
養護教諭の役割と機能について学ぶ 養護教諭の一日を見学する
環境づくりを含めた保健室経営を考察する
学校診断から保健活動の展開の過程について学ぶ 学校区の地域診断を含めた学校診断から健康課題を抽出する
学校診断から健康課題を抽出する
抽出した健康課題から健康教育(保健教育)の計画を立案する
学校における保健教育について学ぶ 保健教育を見学する
地域との連携による保健教育を見学する
保健教育の媒体(保健だより・掲示物)を作成する
保健教育を対面で実施する
学校における対物管理について学ぶ 環境測定などの学校環境管理を経験する
特別な支援の必要なレベルに応じた教育・支援システムについて学ぶ 地域の学校における教育・支援システムを見学する
特別支援学校における教育・支援システムを見学する
特別な支援の必要な子どもに対して行われている校内支援について学ぶ 地域の学校における校内支援を見学する
特別支援学校における校内支援を見学する
学校健康危機管理について学ぶ 学校防災計画の説明を受ける

【特別な支援の必要なレベルに応じた教育・支援システムについて学ぶ】,【特別な支援の必要な子どもに対して行われている校内支援について学ぶ】は,実習校が特別支援学校であった場合に実施される場合が多く,その他の学校では,【養護教諭の役割と機能について学ぶ】,【学校診断から保健活動の展開の過程について学ぶ】,【学校における保健教育について学ぶ】,【学校における対物管理について学ぶ】,【学校健康危機管理について学ぶ】が実施される場合が多い傾向にあったが,【学校保健の対象について学ぶ】,【学校のしくみと役割と機能について学ぶ】は,実習校の校種で違いは認められなかった.

また,コードの約半数が“保健教育を見学する”,管理職やカウンセラーなど“学校における健康にかかわる教員・関係者から説明を受ける”など,受動的な実習内容であった.

3. 学校保健実習経験の職務上の有益性

「学校保健実習の経験は保健師の職務上,有益でしたか」について,全員が「非常に有益だった」「有益だった」と回答した.

その理由について,16コードが抽出され,《学校との心理的距離の短縮》,《学校の役割と現状の理解》,《子どもや親の理解》,《大人の支援対象のこれまでの歴史の理解》,《子どもへの接し方の理解》,《健康教育の実践力向上》,《障がい児支援の実践力向上》の7サブカテゴリーに分類することができた.さらにサブカテゴリーは,【学校理解の促進】,【対象理解の向上】,【支援技術の向上】の3カテゴリーに統合することができた(表3).

表3. 

学校保健実習は職務上,どのように有益だったか

カテゴリー サブカテゴリー コード
学校理解の促進 学校との心理的距離の短縮 学校に敷居の高さを感じずに済んだ
学校の役割と現状の理解 担任・学校との連携方法が理解できていた
性教育の課題とそれに応じた学校の教育実践を理解できていた
学校の現状(マンパワーとできる支援など)が理解できていた
学校での先生の対応がイメージできていた
対象理解の向上 子どもや親の理解 障がいのある子をもつ家庭の過酷さを推し量ることができた
学齢期の子どもの理解を親の支援に生かすことができた
大人の支援対象のこれまでの歴史の理解 大人の健康問題と学校時代の経験との関係に気づくことができた
大人になった障がい者のされてきた支援が理解できた
支援技術の向上 子どもへの接し方の理解 子どもの発達段階に応じた接し方を理解できていた
健常な子どもと支援の必要な子どもの分け隔てない接し方の見本にできた
健康教育の実践力向上 地域の人材を生かした健康教育について理解できていた
子どもの発達段階に合せた健康教育ができた
障がい児支援の実践力向上 障がいのレベルに応じた教育があることを理解できていた
就学相談(指導委員会)で様子がわかって意見を述べることができた
学校選択の相談で自信を持って特別支援学校を勧めることができた

これらは,実習校の校種や現在の所属部署,これまで担当した業務,学校との連携・協働経験の有無で違いは認められなかった.

4. 保健師基礎教育において学校保健実習を経験する意義

「保健師基礎教育において学校保健実習をおこなう意義があると考えますか」について,全員が「非常にそう思う」「そう思う」と回答した.

その理由について13コードが抽出され,《基礎教育の段階で全ての年代,領域について学ぶ機会が必要である》,《基礎教育の実習であるからじっくり学ぶ機会が確保できる》,《子どもや子どもを取り巻く環境の理解が深まる》,《学齢期の子どもへの支援を体験を通してイメージできる》,《学校との連携がスムーズになる》の5サブカテゴリーに分類することができた.さらにサブカテゴリーは,【基礎教育での実施が有益】,【就業してからの子どもの支援実施に有益】の2カテゴリーに集約することができた(表4).

表4. 

保健師基礎教育において学校保健実習を経験する意義があると考える理由

カテゴリー サブカテゴリー コード
基礎教育での実施が有益 基礎教育の段階で全ての年代,領域について学ぶ機会が必要である 全ての年代について学ぶ機会が必要である
いろんなところでの実習経験で安心して保健師になれた
基礎教育の実習であるからじっくり学ぶ機会が確保できる 就職してからでは,学ぶ機会の確保が難しい
実習なのでみっちり体験させてもらえた
就業してからの子どもの支援実施に有益 子どもや子どもを取り巻く環境の理解が深まる 小学校からはどんなことが課題になるかを知る経験ができる
子どもたちがどんな生活をしているかを目の当たりにできる
学齢期の子どもへの支援を体験を通してイメージできる 実習での健康教育の企画経験が現在生きている
子どもの将来の見通しをつけて支援が行えるようになる
子どもたちへの支援をイメージできる
学校との連携がスムーズになる 連携において教員に対して壁がなくなる
生徒だったときは見えなかった先生の役割や仕事が見える
学校内での具体的連携方法が理解できる
学校の先生の動き方をわかって連携を依頼できる

これらは,実習校の校種や現在の所属部署,これまで担当した業務,学校との連携・協働経験の有無で違いは認められなかった.

5. 自治体保健師が考える望ましい実習到達目標とその達成を可能にする実習内容

本研究対象者が保健師基礎教育の学校保健実習として望ましいと考える実習到達目標は,19コードが抽出され,それらは【学校のしくみと機能が理解できる】,【学校保健の支援対象について理解できる】,【学校における健康に関する活動の実際を理解(実践)できる】,【学校診断からの活動の展開プロセスを理解(実践)できる】,【学校における特別な支援について理解できる】,【学校と地域の連携を理解することができる】の6カテゴリーに集約された.本研究では,“学校保健活動の実際を理解(実践)できる”,“学校安全活動の実際を理解できる”,“学校危機管理の実際を理解できる”の3つのコードのカテゴリー化にあたり,これらの意味するところを包含するため,学校保健という用語を用いず,学校における健康に関する活動という包括した表現を用いることにした.科目としての学校保健実習という実習名との整合性は薄れるものの,本研究対象者である自治体保健師が望ましいと考える実習到達目標とその実習内容の含意を明確に示すことができると考え,【学校における健康に関する活動の実際を理解(実践)できる】というカテゴリーを作成した.

さらに,それらの実習到達目標の達成を可能にする実習内容は22コードが抽出された.抽出された実習内容は,それぞれに対応すると考えられる実習到達目標のコードの下位に配し,表5に示した.

表5. 

自治体に勤務する保健師が考える望ましい学校保健実習の実習到達目標とその達成を可能にする実習内容

実習到達目標のカテゴリー 実習到達目標のコード 実習内容のコード
1.学校のしくみと機能が理解できる 学校組織の役割と構造が理解できる 養護教諭以外(教頭・保健体育教員など)からの講話を聴く
子どもたちの能力に応じた学校種別が理解できる 校種による違いに関する講話を聴く
校種による学べること(就労支援を含め)の違いを聴く
通常の公立学校と特別支援学校で実習する
実習終了後,発表会で様々な校種のことを知る機会を設ける
学校における健康に関する活動の意義を考えることができる
学校における健康に関する活動(学校保健・学校安全・組織活動)のしくみが理解できる 学校保健が組織的に行われている状況を見学する
養護教諭の職務と果たしている役割が理解できる 保健室の一日を経験する
養護教諭の対応についてシャドーイングを行う
2.学校保健の支援対象について理解できる 子どもそのものの特徴を理解できる クラスに入って子どもたちの一日の様子をみる
子どもの健康課題・発達課題を理解できる 子どもたち健康状態や心身の発達をみる機会をもつ
子どもたちの学校生活を含めた生活がイメージできる クラスに入って子どもたちの一日の様子をみる
3.学校における健康に関する活動の実際を理解(実践)できる 学校保健活動の実際を理解(実践)できる アセスメントをもとに保健だよりを作成する
健康教育(保健教育)を実施する
学校安全活動の実際を理解できる
学校危機管理の実際を理解できる
4.学校診断からの活動の展開プロセスを理解(実践)できる 地域単位で学校を見ることができる
学校診断を通して学校の健康課題を抽出できる 学校情報のアセスメントから健康課題を抽出する
質的情報から健康課題を導き出す
健康課題に応じた活動を計画できる 健康課題をもとに学校保健(年間)計画を立案する
5.学校における特別な支援について理解できる 特別な支援の必要な子どもを理解できる 特別支援学校で子どもに合せたコミュニケーションを学ぶ
保護者の話を聴く機会を設ける
特別な支援の必要な子どもの学校生活を含めた生活を理解できる 子どもの将来を思い描けるような機会をもつ
特別な支援の必要な子どもへの支援の実際を理解できる どういう支援を受けているのかを見る
6.学校と地域の連携を理解することができる 学校と連携する地域の職種・機関を理解できる 保健師が連携して活動している場を見る
学校と地域の連携の実際を理解できる 地域と学校が連携した保健活動の説明を受ける

望ましい実習校の校種(のべ数)は,特別支援学級を含めた公立小学校を4名,知的障害の特別支援学校を3名,公立小・中学校を1名,公立中・高等学校を1名,私立小・中・高等学校を1名,全ての校種を1名が回答した.その他に,保健所保健師を目指すならば肢体不自由,市町村保健師を目指すならば知的障害の特別支援学校が実習校の校種に望ましいという意見もあった.

望ましい実習日数については,5~7日間の間を回答したものは3名,3~4日の間を回答したものは4名,2週間と回答したものは1名であった.5~7日間の間を回答したものは,2つの校種を挙げたものが多かった.2週間と回答したものが卒業した教育課程は大学院であった.

IV. 考察

1. 学校保健実習経験の職務上の有益性

本研究対象者である自治体保健師は,保健師基礎教育における学校保健実習経験の職務上の有益性を高く評価していた.

その有益性は,3つのカテゴリーに集約されたが,サブカテゴリー《学校との心理的距離の短縮》,《学校の役割と現状の理解》は,具体的に“学校に敷居の高さを感じずに済んだ”,“学校での先生の対応がイメージできていた”が示すように,職務上学校とかかわる際に,【学校理解の促進】に有益であったと捉えられていた.

また,サブカテゴリー《子どもへの接し方の理解》,《健康教育の実践力向上》は,“子どもの発達段階に応じた接し方を理解できていた”,“地域の人材を生かした健康教育について理解できていた”ことが示すように,保健師活動の実践に必要な【支援技術の向上】に直接つながったと実感されていた.サブカテゴリー《障がい児支援の実践力向上》では,“就学相談(指導委員会)で様子がわかって意見を述べることができた”,“学校選択の相談で自信を持って特別支援学校を勧めることができた”ことが述べられており,障がい児支援の【支援技術の向上】に直接つながったことが認識されていた.

一方,【対象理解の向上】においては,サブカテゴリー《子どもや親の理解》という直接的な有益性のほかに,《大人の支援対象のこれまでの歴史の理解》が抽出された.具体的には,“大人の健康問題と学校時代の経験との関係に気づくことができた”,“大人になった障がい者のされてきた支援が理解できた”ことが語られており,支援対象の現在の姿から過去の学校時代の経験を推し量る視点を得ることにつながったことが示されていた.つまり,単にその当該年代の対象の支援に限定した【対象理解の向上】のみならず,成人以降の対象の人生を縦断的に捉えた視点による【対象理解の向上】につながっていた.

公衆衛生看護学教育モデル・コア・カリキュラム(2017)(全国保健師教育機関協議会,2018)は,公衆衛生看護の対象や対象の特性に応じた活動方法の理解,公衆衛生看護活動が行われる場の特性や場に応じた活動の理解を公衆衛生看護活動の基盤と位置づけており,これらを保健師としての資質・能力を獲得するための重要な学習内容として提示している.抽出された3つのカテゴリーは,学校保健実習が実際にこのような実習となっていたことを示すものであり,学校の役割と現状などの【学校理解の促進】,健常児だけでなく障がいのある子どもや親の【対象理解の向上】,障がい児支援を含めた【支援技術の向上】を志向した実習内容を検討していくことは,学校保健実習の経験を自治体保健師の職務上の有益性につなげることを可能にすると考える.

2. 保健師基礎教育において学校保健実習を経験する意義

保健師基礎教育において学校保健実習を経験する意義は,保健師基礎教育課程の教員を対象にした研究(廣金ら,2017)(以下,教員を対象にした先行研究)でも高く評価されており,学校保健実習を経験した自治体保健師を対象にした本研究でも高い評価が得られた.

本研究では,サブカテゴリー《基礎教育の段階で全ての年代,領域について学ぶ機会が必要である》,《基礎教育の実習であるからじっくり学ぶ機会が確保できる》で構成される【基礎教育での実施が有益】が抽出された.これは,教員を対象にした先行研究では抽出されておらず,学ぶ機会の現状を鑑みて表現された自治体保健師特有の認識であると考える.

また,【就業してからの子どもの支援実施に有益】では,《子どもや子どもを取り巻く環境の理解が深まる》ことや《学齢期の子どもへの支援を体験を通してイメージできる》こと,《学校との連携がスムーズになる》ことに意義を感じており,これらは前項の学校保健実習経験の職務上の有益性で得られた結果と共通していた.

一方,教員を対象にした先行研究(廣金ら,2017)では,その意義の理由について,カテゴリー〔学校看護活動の役割・機能の学びとしての意義〕,〔学校看護実践における学びとしての意義〕,〔公衆衛生看護活動の展開方法の理解に関する意義〕,〔養護教諭2種免許取得の教育実習としての意義〕,〔保健師基礎教育の規定からの意義〕が挙げられていた.前者3カテゴリーは本研究対象者である自治体保健師が考える意義と共通するものの,後者の2カテゴリーは,本研究対象者である自治体保健師には認識されていない意義であった.これは,教員が保健師助産師看護師学校養成所指定規則などの保健師基礎教育の規定や免許制度の側面を視野に入れ,実習を計画する立場にあることを改めて示すものであると考える.

以上のことから,養護教諭2種免許取得の意義だけでなく,【就業してからの子どもの支援実施に有益】という意義を自治体保健師が見いだすことのできる学校保健実習の検討が必要であることが改めて示された.

3. 自治体保健師が考える望ましい実習到達目標とその達成を可能にする実習内容

学校保健実習を導入している保健師基礎教育課程の教員対象の研究(廣金ら,2020a)では,教員が考える学校保健に関する看護実践能力の卒業時到達目標として,〔子どもの理解〕,〔子どもの健康課題の理解〕,〔学校保健の人的資源の理解〕,〔学校保健のしくみと活動の理解〕,〔学校看護技術の実践〕,〔専門職としての資質の獲得〕が挙げられており,前者3カテゴリーでは,本研究対象者である自治体保健師が望ましいと考える実習到達目標およびその実習内容と同じような内容が数多く認められた.

しかし,同じような内容ではあるものの,本研究のカテゴリー【学校のしくみと機能が理解できる】では,“校種による学べること(就労支援を含め)の違いを聴く”,“校種による違いに関する講話を聴く”,【学校における特別な支援について理解できる】では,“特別支援学校で子どもに合せたコミュニケーションを学ぶ”,“(特別な支援の必要な子どもの)保護者の話を聴く機会を設ける”,“(特別な支援の必要な)子どもの将来を思い描けるような機会をもつ”ことなどが挙げられていた.これらは,特別支援教育の対象の子どもたちの理解や支援にかかわることを重視した自治体保健師としての職務に根ざした望みであると考えられ,その実現方法を検討していく必要がある.

また,【学校における健康に関する活動の実際を理解(実践)できる】では,“アセスメントをもとに保健だよりを作成する”,“健康教育(保健教育)を実施する”が挙げられたが,実際に本研究対象者である自治体保健師が経験した実習内容には,保健教育の媒体(保健だより・掲示物)作成や保健教育を対面で実施することが含まれていた.その他に経験した実習内容は,保健教育に関する授業などの見学,管理職やカウンセラーなどの教員・関係者からの説明など,受動的な内容が多い傾向があったが,保健師は保健指導を業とする職種である.実際に保健教育を対面で実施した本研究対象者は,実習前から複数回の実習指導者からの指導を要しており,対面での実施は現実的には難しいと考えられる.しかし,これらの一部である保健教育の媒体(保健だより・掲示物)作成などの経験は可能と考えられ,工夫が望まれる.

教員対象の研究(廣金ら,2020a)では,〔学校看護技術の実践〕で学校救急や学校精神保健の技能の獲得が挙げられていたが,自治体保健師を対象とした本研究では,そのような項目は挙げられなかった.先行研究(廣金ら,2017)では,教員は学校保健実習の意義に〔養護教諭2種免許取得の教育実習としての意義〕を挙げていた.このことから,教員は〔養護教諭2種免許取得の教育実習としての意義〕が果たされるよう実習を計画するが,自治体保健師はこれに実習意義をおいておらず,そのため,そのような項目が挙がらなかったと推察された.これは,教育者と実践者のギャップと考えられる.

逆に,自治体保健師を対象にした本研究で抽出されたにもかかわらず,教員対象の研究(廣金ら,2020a)で抽出されなかったのは,【学校における健康に関する活動の実際を理解(実践)できる】での“学校安全活動の実際を理解できる”,“学校危機管理の実際を理解できる”,【学校診断からの活動の展開プロセスを理解(実践)できる】での“地域単位で学校を見ることができる”,“健康課題に応じた活動を計画できる”,【学校と地域の連携を理解することができる】に関する実習到達目標とその達成を可能にする実習内容であった.学校防災計画の説明を受けることができた本研究対象者もあったことから,学校を拠点にした健康に関する多様な活動として,学校安全活動や学校危機管理を実習内容に含めていくことは可能であると考える.

一方,本研究で抽出された“健康課題に応じた活動を計画できる”では,“健康課題をもとに学校保健(年間)計画を立案する”ことが挙げられ,“地域単位で学校を見ることができる”も抽出された.これらは,地域において公衆衛生看護活動を行う自治体保健師として,地域住民が生活を送るひとつの場として学校を捉え,その中での学校の役割と機能,それらを地域社会の枠組みの中で捉える必要性を認識していることを示すものである.これらの項目は,教員対象の研究(廣金ら,2020a)では挙げられなかったことから,自治体保健師ならではの認識であると考えられた.実際に,本研究対象者である自治体保健師が経験した実習内容には,学校診断から健康課題を抽出することや,学校区の地域診断を含めた学校診断から健康課題を抽出すること,抽出した健康課題から健康教育の計画を立案することが含まれており,これらは他の保健師基礎教育課程でも導入可能な実習内容であると考える.

教員対象の研究(廣金ら,2020a)で挙げられなかった実習到達目標【学校と地域の連携を理解することができる】については,地域にある学校も活動の場とする自治体保健師にとって,欠かせない項目として認識されていることを示すものである.本研究対象者である自治体保健師が実習内容として挙げたように“保健師が連携して活動している場を見る”こと,それが叶わなければ “地域と学校が連携した保健活動の説明を受ける”ことを通して,その目標の達成が可能であると考える.

以上のように,教員対象の研究(廣金ら,2020a)と共通したカテゴリーが抽出された他に,学校保健実習を経験して職務に就いている自治体保健師ならではの実習到達目標,およびその達成を可能にする実習内容が挙げられていた.これらの知見をもとに学校保健実習の実習プログラムを検討することにより,より自治体保健師の実践能力の向上に寄与する学校保健実習の提供が可能になると考える.

望ましい実習到達目標を達成するための実習日数は,全員が3日以上と回答したが,先行研究(廣金ら,2017)では,学校保健実習実施校の実習日数は,1日から5日の範囲で平均2.58日(SD=1.27)であった.また,本研究では,望ましい実習校の校種について,特別支援学級を含めた複数校種を挙げたものが多かったことからも,望ましい実習到達目標を達成するためには,公衆衛生看護学実習全体との調整や実習受け入れ校の調整も含めた検討が不可欠であると考えられた.

V. 研究の限界と今後の課題

本研究では,さまざまな部署に所属する,これまでに担当した業務もさまざまな自治体保健師を調査対象としたため,どのような業務において学校保健実習での学びがどのように有益に働くのか,その傾向を明らかにすることはできなかった.今後,調査対象を増やし,学校保健実習を経験した自治体保健師について,所属部署別あるいは業務別に学校保健実習の貢献の特徴を明らかにし,学校保健実習の推進に寄与できる意義の根拠を整理していくことが課題である.

本研究では,保健師基礎教育の学校保健実習として望ましいと考える実習到達目標およびその達成を可能にする実習内容について,実習日数の制限を考えずに,自由に語ってもらった.そのため,現実に行われている実習日数で実施可能とは言いがたい実習内容も抽出されたが,これらは自治体保健師がどのような学校保健実習が望ましいと考えているのかを示す貴重な知見である.これから増えていくであろう大学院教育からミニマムリクワイアメンツによる実習となりがちな統合カリキュラムまで,実習内容の必須度を層化した学校保健実習プログラムを検討するための基礎資料として,これらの知見を活用してくことは今後の課題である.

これまで,看護系大学における養護教諭養成教育が検討されるとともに(日本看護系大学協議会,2017),養護教諭が十分な職務を果たすことのできる能力の育成を志向した実習の検討が進められている(齋藤ら,2020).それらも踏まえ,本研究で明らかにした知見をもとに,自治体保健師が保健師活動を展開する上で有益となる保健師基礎教育における学校保健実習の具体的な実習内容およびその展開方法を検討することが課題である.

謝辞

本研究にご協力いただいた自治体保健師の皆様に,深く感謝申し上げます.

本研究は,JSPS科研費 19K11237の助成を受けて実施した.

本研究に開示すべきCOI状態はありません.

文献
 
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