Japanese Journal of Public Health Nursing
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Review Articles
Literature Review on the Self-Care of Family Caregivers in Japan
Chikako Takabayashi
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2024 Volume 13 Issue 2 Pages 66-74

Details
Abstract

目的:日本の家族介護者のセルフケアに関する国内文献を整理し,家族介護者のセルフケアの内容と関連要因,予測される成果を明らかにする.

方法:医中誌Webを用いて2023年9月までに登録されている文献から17件を選定し,分析した.

結果:セルフケアの内容は【健康に暮らしていく土台づくり】【抱え込まない介護】【暮らしの質の充実】の3カテゴリー,関連要因は【心身の不調や病気】【介護負担の重さ】【ソーシャルサポートの有無】の3カテゴリー,予測される成果は【健康とメンタルヘルスの向上】【在宅療養・介護の継続】【主観的幸福感の向上】の3カテゴリーが抽出された.

考察:家族介護者のセルフケアの実践は家族介護者自身の身体的・精神的健康の維持や在宅介護の継続につながるだけでなく,家族介護者が身近にある幸せを感じられることにつながることが考えられる.看護職は家族介護者の心身の不調や病気の程度,介護負担の重さ,ソーシャルサポートの有無の状況を多角的にアセスメントし支援することが重要である.

Translated Abstract

Objective: This study aims to review domestic literature on self-care among family caregivers in Japan and elucidate family caregiver self-care behaviors, related factors, and anticipated outcomes.

Methods: We selected and analyzed 17 articles indexed on Ichushi-Web up to September 2023.

Results: The content of self-care can be categorized into three themes: “Building a Foundation for Healthy Living,” “Avoiding Burdening Care,” and “Enhancing the Quality of Life.” The related factors can be categorized into three themes: “Physical and Mental Health Issues,” “Intensity of Care Burden,” and “Availability of Social Support.” Anticipated outcomes can be categorized into three themes: “Improved Physical and Mental Health,” “Continuation of Home-based Care,” and “Enhanced Subjective Well-being.”

Discussion: The practice of self-care among family caregivers is not only conducive to the maintenance of their own physical and mental well-being and the sustainability of home care but is also believed to contribute to the caregivers experiencing a heightened sense of happiness in their immediate surroundings. Nursing professionals play a crucial role in conducting a multidimensional assessment of the physical and mental well-being of family caregivers, the severity of their illnesses, the extent of the caregiving burden, and the availability of social support, and providing support is essential.

I. 緒言

わが国では,超高齢社会の到来とともに,健康で豊かな人生をより長く送るために,要介護状態の発生をできる限り防ぎ,遅らせることが社会的課題となっている.2013年度から2023年度を計画期間とする健康日本21(第二次)においても,健康寿命の延伸を中心課題におき,介護予防の取組を推進している(厚生労働省,2022).しかし,介護保険制度が創設されて以来,要介護(要支援)認定者数は右肩上がりに推移し(内閣府,2022),家族介護者も一貫して増加傾向で推移している(総務省,2017).

日本の家族介護者は,身体的,精神的負担が大きく(高橋ら,2011),何らかの健康問題(森ら,2016)を抱えている.さらに仕事を持つ家族介護者では,自分の健康管理が後まわしになる(越智ら,2011)ことが報告されている.こうした問題を抱える家族介護者は,要介護状態のリスクに直面する可能性が高いと考えられ,要介護状態にならないためには,家族介護者が日頃からセルフケアを実践し,継続していくことが重要である.

Orem(2001)はセルフケアを「個人が生命,健康および安寧を維持するうえで自分自身のために,積極的に行なう諸活動の実践」と定義していることをふまえると,日本の家族介護者のセルフケアに関する研究は,家族介護者のセルフケア(宮林ら,2014)のほか,家族介護者のヘルスケア(中井ら,2018),健康管理行動(安部ら,2012),予防的健康行動(横山ら,2009),病気対処行動(藤内ら,2002)に着目した研究が報告されている.これらの研究はいずれも在宅介護の継続と家族介護者自身の健康を維持していくことの重要性を強調し(安部ら,2012宮林ら,2014中井ら,2018藤内ら,2002横山ら,2009),家族介護者が良い生活習慣を維持していくための行動,もしくは必要な治療を継続していくための行動について分析している.

このように,家族介護者のセルフケアの重要性は謳われているが,セルフケアを促進する効果的な支援方法は体系化・具体化されていない.そこで,本研究は,家族介護者がセルフケアを実践・継続していくための支援を検討するため,日本の家族介護者のセルフケアに関する国内文献を整理し,家族介護者のセルフケアの内容と関連要因,予測される成果を明らかにすることを目的とする.

II. 用語の操作的定義

本研究におけるセルフケアとは,Orem(2001)のセルフケアの定義を参考に,「家族介護者が自身の生活や健康,安寧を維持するために,自分でその必要性を感じ自律的にしている行動であり,ヘルスケア,健康管理行動,予防的健康行動,病気対処行動も含む」とした.関連要因は,「家族介護者がセルフケアを実践もしくは継続するようになった主要な原因もしくはきっかけ」とした.予測される成果は,「家族介護者がセルフケアを実践もしくは継続することで得られた良い結果」とした.

III. 研究方法

1. 対象文献の選定および分析方法

本研究では,医中誌Webを使用し,「自己管理/TH orセルフケア/AL」or「保健行動/TH orヘルスケア」or「健康管理行動/AL」or「予防的健康行動/AL」or「疾病行動/TH or病気対処行動/AL」and「家族介護者」and「原著論文」で検索した(2023年9月30日).検索期間は医中誌Webの最大範囲年の1946年以降とした.抽出された110件のうち,タイトルが文献検討であった2件,並びに,タイトルと抄録から家族介護者のセルフケアに関連がないと判断した93件の計95件を除き,さらにハンドサーチとして,検索した文献の引用文献のタイトルから目的に合致すると判断した8件を追加し,計23件を精読した.その結果,家族介護者のセルフケアに関連がないと判断した6件を除外し,最終的に残った17件を分析対象とした(図1).分析は,各文献の内容から,セルフケアの内容と関連要因,予測される成果に関する内容を抽出し,文献著者の意図することを充分に読み込み,記述内容の意味を変えないようにコード化し,エクセルシートを用いて整理した.コードの意味内容の類似性と相違性を検討し,類似するコードを複数集めて抽象度を上げサブカテゴリー,同様の方法でサブカテゴリーから抽象度を上げ,カテゴリーとした.

図1. 

文献選定の手順

2. 倫理的配慮

対象文献からデータを抽出する際には,著者の意図や意味が損なわれないよう配慮した.

IV. 結果

対象とした17文献の年次推移を見ると2002年から始まり,2000年代は4件,2010年代前半は8件,2010年代後半は3件,2020年以降は2件であった.最も多かったのは2012年と2014年の各3件であった.また,対象文献の研究方法は,量的研究が10件,質的研究が7件であった.研究対象となる家族介護者の続柄は,息子1件,配偶者1件,特に限定のない文献は15件であった.さらに,要介護者の疾患・状態では,がん終末期が3件,認知症,医療依存度が高い状態,脳卒中片麻痺が各1件,特に限定のない文献は11件であった(表1).

表1. 

日本の家族介護者のセルフケアに関する文献リスト

番号 表題 著者 出典 発行年 研究方法 家族介護者の続柄 要介護者の疾患・状態
1 在宅療養における主な介護者の健康状態と受診行動の実態調査 酒井博子,小濱優子 東京純心大学紀要,5,35–42. 2021 量的
2 終末期がん療養者の在宅看取りに求められる家族介護者の特徴―訪問看護師の視点から― 伊藤絵梨子,田高悦子 横浜看護学雑誌,14(1),19–26. 2021 質的 がん終末期
3 家族介護者の予防的健康行動と関連する要因 横山芳子 松本短期大学研究紀要,29,3–14. 2019 量的
4 医療依存度の高い療養者とともに生活する家族のヘルスケア機能 中井美喜子,瓜生浩子,長戸和子 高知女子大学看護学会誌,43(2),70–80. 2018 質的 医療依存度が高い
5 終末期がん療養者の配偶者による在宅看取り実現のためのセルフマネジメントに対する支援方法の検討 尾形由起子,櫟直美,小野順子,吉田恭子,杉本みぎわ,阿部久美子,岡田麻里 福岡県立大学看護学研究紀要,14,41–47. 2017 質的 配偶者 がん終末期
6 がん終末期療養者を自宅で看取った家族介護者のセルフケアに関する研究 宮林香奈子,古瀬みどり 家族看護学研究,19(2),150–160. 2014 質的 がん終末期
7 東日本大震災後の岩手県A市における介護家族の健康セルフケアマネジメント支援 新沼剛,山本加奈子,村田美和,村田由香,眞崎直子,三味祥子,佐々木亮平,菅野わか,佐藤咲恵,迫田綾子 日本赤十字広島看護大学紀要,14,95–102. 2014 質的
8 認知症高齢者の在宅介護をしている家族介護者の自分らしい生き方を支える要因 横山慎一郎,西田佳世 ホスピスケアと在宅ケア,22(3),282–290. 2014 質的 認知症
9 医療的ケアの必要な在宅療養者の家族が行う生活上の取り組み 吉野歩,下藤若菜,谷内沙也佳,廣瀬祥乃,山口夏実,川上理子 日本看護学会論文集:地域看護,43,7–10. 2013 質的
10 主介護者の健康管理行動と食品群摂取バランスとの関連 安部聡子,小西かおる,大中佳子 昭和大学保健医療学雑誌,9,59–70. 2012 量的
11 在宅介護をする息子介護者の健康習慣指数(HPI)の実態 草刈由美子 獨協医科大学看護学部紀要,5(2),139–146. 2012 量的 息子介護者
12 通所リハビリテーションサービスを利用している在宅高齢脳卒中片麻痺者の家族介護者のQOLとその関連要因について 武政誠一,中越竜馬,村上雅仁,上杉雅之,井上由里,小枝栄輝,成瀬進,後藤誠,嶋田智明 理学療法科学,27(1),61–66. 2012 量的 脳卒中
片麻痺
13 九州農村部における女性介護者の健康習慣と心理的健康に関する研究 平川仁尚,安井浩樹,青松棟吉,益田雄一郎,植村和正 ホスピスケアと在宅ケア,19(3),324–329. 2011 量的
14 女性介護者における心身の健康的特性 星野純子,堀容子,近藤高明,前川厚子,玉腰浩司,榊原久孝 日本公衆衛生雑誌,56(2),75–86. 2009 量的
15 介護度の変化による家族介護者の予防的健康行動の特徴やその影響要因について 横山芳子,上原ます子,征矢野あや子 日本看護学会論文集:地域看護,40,178–180. 2009 量的
16 在宅介護における主介護者の生活習慣と精神的健康に関する研究 森千佐子 日本在宅ケア学会誌,10(2),51–58. 2007 量的
17 中山間地域における家族介護者の病気対処行動 藤内美保,小野美喜,加藤さゆり,加藤嘉子,高屋弘美 日本看護学会論文集:老人看護,32,128–130. 2002 量的

文献毎にセルフケアの内容と関連要因,予測される成果を整理した結果,セルフケアの内容,関連要因,予測される成果について,それぞれ3カテゴリーが抽出された.以下,分類された各項目別にカテゴリーを【 】でサブカテゴリーを〈 〉で示し,説明する.

1. 家族介護者のセルフケアの内容(表2

【健康に暮らしていく土台づくり】には,1日3回食事をとる(森,2007横山,2019)などの〈健康的な食事〉,定期的に運動する(星野ら,2009森,2007)などの〈適度な運動〉,1日7時間以上睡眠をとる(横山,2019)などの〈十分な睡眠・休息〉,喫煙・飲酒しない(星野ら,2009草刈,2012横山ら,2009)の〈禁煙・禁酒〉,規則正しい生活を送る(森,2007)の〈規則正しい生活リズム〉,定期的に健診・検診を受ける(星野ら,2009)などの〈疾病の早期発見〉,薬を服用する(星野ら,2009)などの〈治療の継続〉の7つのサブカテゴリーが含まれた.【抱え込まない介護】には,在宅サービスを利用する(尾形ら,2017酒井ら,2021武政ら,2012)などの〈社会資源の活用〉,家族内で介護の役割分担をする(宮林ら,2014中井ら,2018)などの〈家族との支え合い〉,専門職に相談する(藤内ら,2002吉野ら,2013)の〈他者への相談〉,介護に役立つ情報を集める(尾形ら,2017)などの〈知識・技術・情報の収集〉,無理のない介護方法で行う(中井ら,2018)の〈無理をしない介護〉の5つのサブカテゴリーが含まれた.【暮らしの質の充実】には,気分転換を行う(伊藤ら,2021森,2007吉野ら,2013),などの〈気持ちの切り替え〉,他者と交流する(新沼ら,2014横山ら,2014)の〈人との交流〉,自分の時間を作る(伊藤ら,2021横山ら,2014)などの〈自分のための時間〉,ストレスを発散する(横山ら,2014)の〈ストレス対処〉の4つのサブカテゴリーが含まれた.

表2. 

日本の家族介護者のセルフケアの内容

カテゴリ サブカテゴリ コード 文献
健康に暮らしていく土台づくり 健康的な食事 1日3回食事をとる 森(2007)p. 53,横山(2019)p. 6
規則正しい食事をとる 横山ら(2009)p. 179
朝食をとる 平川ら(2011)p. 326,草刈(2012)p. 142
栄養のバランスのとれた食事をする 安部ら(2012)p. 67
欠かさず野菜をとる 横山ら(2009)p. 179,平川ら(2011)p. 327,横山(2019)p. 6
間食や夜食を控える 草刈(2012)p. 142
動物性脂肪を控える 横山ら(2009)p. 179,横山(2019)p. 6
適度な運動 定期的に運動する 森(2007)p. 53,星野ら(2009)p. 80
1回30分以上,週2回程度,運動する 星野ら(2009)p. 80
体力をつける 伊藤・田高(2021)p. 22–23
家事など身体を動かすことで活動量を増やす 新沼ら(2014)p. 97
十分な睡眠・休息 1日に7時間以上睡眠をとる 横山(2019)p. 6
疲労を感じたら休息をとる 横山ら(2009)p. 179
禁煙・禁酒 喫煙・飲酒しない 星野ら(2009)p. 80,横山ら(2009)p. 179,草刈(2012)p. 143
規則正しい生活リズム 規則正しい生活を送る 森(2007)p. 53
疾病の早期発見 定期的に健診・検診を受ける 星野ら(2009)p. 81
がん検診を受ける 横山ら(2009)p. 179
体調不良時には早めに病院を受診する 中井ら(2018)p. 77
治療の継続 薬を服用する 星野ら(2009)p. 80
継続受診をする 安部ら(2012)p. 65,酒井ら(2021)p. 38
抱え込まない介護 社会資源の活用 在宅サービスを利用する 武政ら(2012)p. 62,尾形ら(2017)p. 43,酒井ら(2021)p. 38
専門職を活用する 中井ら(2018)p. 75–76
家族の会に参加する 新沼ら(2014)p. 96–98,横山・西田(2014)p. 285
周りの人に協力を頼む 吉野ら(2013)p. 8
家族との支え合い 家族内で介護の役割分担をする 宮林・古瀬(2014)p. 155,中井ら(2018)p. 75
家族の協力を得る 吉野ら(2013)p. 8
他者への相談 専門職に相談する 藤内ら(2002)p. 130,吉野ら(2013)p. 8
知識・技術・情報の収集 介護に役立つ情報を集める 尾形ら(2017)p. 43
専門職の介護の方法を学び,積極的に取り入れる 宮林・古瀬(2014)p. 155
自ら進んで介護に必要な知識や技術を獲得する 中井ら(2018)p. 76
近所とのつきあいの中で介護の経験談を聞く 尾形ら(2017)p. 43
無理をしない介護 無理のない介護方法で行う 中井ら(2018)p. 76
暮らしの質の充実 気持ちの切り替え 気分転換を行う 森(2007)p. 53,吉野ら(2013)p. 8,伊藤・田高(2021)p. 23
外出する 新沼ら(2014)p. 99
人との交流 他者と交流する 新沼ら(2014)p. 99,横山・西田(2014)p. 286
自分のための時間 自分の時間を作る 横山・西田(2014)p. 289,伊藤・田高(2021)p. 23
趣味を持つ 横山・西田(2014)p. 286,伊藤・田高(2021)p. 22
ストレス対処 ストレスを発散する 横山・西田(2014)p. 288

2. 家族介護者のセルフケアの関連要因(表3

【心身の不調や病気】には,何らかの疾病や症状がある(草刈,2012酒井ら,2021武政ら,2012藤内ら,2002)などの〈身体の病気〉,介護でストレスフルな状態が継続する(新沼ら,2014吉野ら,2013)などの〈精神的ストレス〉,運動不足である(新沼ら,2014)の〈運動不足〉の3つのサブカテゴリーが含まれた.【介護負担の重さ】には,働きながら介護をしている(草刈,2012)などの〈介護をし続ける難しさ〉,介護に負担を感じている(武政ら,2012)などの〈大きい介護負担〉の2つのサブカテゴリーが含まれた.【ソーシャルサポートの有無】には,家族のサポートが少ない(草刈,2012)などの〈サポートを得る機会の少なさ〉,健診の受診をすすめてくれる人がいる(横山ら,2009横山,2019)の〈支援者の存在〉の2つのサブカテゴリーが含まれた.

表3. 

日本の家族介護者のセルフケアの関連要因

カテゴリ サブカテゴリ コード 文献
心身の不調や病気 身体の病気 何らかの疾病や症状がある 藤内ら(2002)p. 128–129,草刈(2012)p. 143,武政ら(2012)p. 65,酒井ら(2021)p. 38
血圧が高い 星野ら(2009)p. 79
医療的ケアを要する 吉野ら(2013)p. 7–8,中井ら(2018)p. 71–72
精神的ストレス 介護でストレスフルな状態が継続する 吉野ら(2013)p. 10,新沼ら(2014)p. 99
自分の健康・病気に対するストレスがある 星野ら(2009)p. 81
運動不足 運動不足である 新沼ら(2014)p. 99
介護負担の重さ 介護をし続ける難しさ 働きながら介護をしている 草刈(2012)p. 141
在宅介護を継続していくことに困難さを感じる 宮林・古瀬(2014)p. 154
大きい介護負担感 介護に負担を感じている 武政ら(2012)p. 63
介護の負担が重い 星野ら(2009)p. 82
ソーシャルサポートの有無 サポートを得る機会の少なさ 家族のサポートが少ない 草刈(2012)p. 142
介護の協力者がいない 酒井ら(2021)p. 38
健康のための教育を受けていない 安部(2012)p. 65
支援者の存在 健診の受診をすすめてくれる人がいる 横山ら(2009)p. 179–180,横山(2019)p. 8

3. 家族介護者のセルフケアの予測される成果(表4

【健康とメンタルヘルスの向上】には,身体的・精神的健康が保たれる(中井ら,2018),口腔の健康が維持される(新沼ら,2014),精神的健康が良好に保たれる(森,2007新沼ら,2014)の〈体と心の健康維持〉の1つのサブカテゴリーが含まれた.【在宅療養・介護の継続】には,介護者としての距離感を得る(横山ら,2014)の〈療養者との程よい距離感〉,介護負担が軽減する(中井ら,2018)の〈介護負担の軽減〉,在宅介護が継続できる(星野ら,2009中井ら,2018尾形ら,2017吉野ら,2013)の〈在宅介護の継続〉の3つのサブカテゴリーが含まれた.【主観的幸福感の向上】には,身近にある幸せに気づく(横山ら,2014)などの〈幸せの実感〉の1つのサブカテゴリーが含まれた.

表4. 

日本の家族介護者のセルフケアの予測される成果

カテゴリ サブカテゴリ コード 文献
健康とメンタル ヘルスの向上 体と心の健康維持 身体的・精神的健康が保たれる 中井ら(2018)p. 77
口腔の健康が維持される 新沼ら(2014)p. 99
精神的健康が良好に保たれる 森(2007)p. 55,新沼ら(2014)p. 100
在宅療養・介護の継続 療養者との程よい距離感 介護者としての距離感を得る 横山・西田(2014)p. 288
介護負担の軽減 介護負担が軽減する 中井ら(2018)p. 77
在宅介護の継続 在宅介護が継続できる 星野ら(2009)p. 82,吉野ら(2013)p. 8,尾形ら(2017)p. 45,中井ら(2018)p. 78
主観的幸福感の向上 幸せの実感 身近にある幸せに気づく 横山・西田(2014)p. 286
肯定的な感情をもつ 安部ら(2012)p. 67
自分の居場所ができる 横山・西田(2014)p. 285–286
人間として成長したことを思う 横山・西田(2014)p. 285

V. 考察

本研究では,家族介護者のセルフケアに関する17文献を精読した.日本で初めて家族介護者のセルフケアの研究が報告されたのは介護保険法が施行された年の2年後にあたる2002年であった.その後2014年までは増加傾向にあったが,2015年以降は報告件数が減少しており,家族介護者のセルフケアに関する研究の進展が見られず関心が薄まってきていると考えられる.研究方法では,2002年から2012年までに8件が報告されているが,それらはすべて量的研究であった.2013年から2018年までは6件が報告され,それらはすべて質的研究であった.2019年以降は3件が報告されており,その内訳は量的研究2件と質的研究1件であった.日本では2021年における60歳以上の家族介護者が介護者全体の約5割を占めており(総務省,2022),近い将来,家族介護者自身が要介護者とならないためにも,家族介護者の主体的なセルフケアの実践を支えていく支援についての研究が望まれる.

1. 日本の家族介護者のセルフケアの内容と関連要因,予測される成果

日本の家族介護者のセルフケアの内容として3つのカテゴリーが抽出され,そのうちの1つは健康に暮らしていく土台づくりであった.その内容とは,食事,運動,睡眠・休息,禁煙・禁酒,生活リズム,血圧・体重管理,疾病の早期発見,治療の継続であり,これらはBreslow et al.(1980)が報告した7つの生活習慣や,健康日本21(第二次)に続いて新たに開始される健康日本21(第三次)での取組み内容(厚生労働省,2023)と類似している.このことから,本研究で明らかになったセルフケアの内容は,生活習慣病の発症予防や重症化予防,ひいては健康寿命の延伸のために必要な行動といえる.また,セルフケアの内容の残りの2カテゴリーとは,抱え込まない介護と,暮らしの質の充実であった.これらは,家族介護者が家族や他者といった社会資源を活用することによって介護や健康に関する知識や技術,情報を収集し,それらの情報を参考にすることによって一人で介護を抱え込まないようにする行動と,人と交流したり,自分の時間をもったりすることを通して,家族介護者自身の暮らしの質を充実させる行動といえる.中村ら(2011)は,家族介護者のよりよく生きる力を育む要因は,信頼できる専門職や自分を変えてくれる人との出会いや家族やサービスとつながりをもつことと述べているが,本研究で得られたセルフケアの内容からも,家族介護者が自分の家族を含めた他者とつながりを持つことが,在宅介護の継続を可能にしていくだけでなく,家族介護者自身の暮らしの質を向上させていくために不可欠なものになっていると考えられた.

セルフケアの関連要因では,抽出された3つカテゴリーのうちの1つはソーシャルサポートの有無であった.その内容とは,家族や他者によるサポートの機会が少ないことや,家族介護者自身の健康に対して助言をしてくれる人の存在であった.櫟ら(2018)は,自分が健康でないと感じている家族介護者は周囲に支援を求めにくい傾向があることを報告し,横山(2019)の調査では,家族介護者の生活習慣に対する助言をしてくれる人がいない家族介護者は49.9%を占めていることが明らかになっている.このため家族介護者が自身のセルフケアを実践していくためには,家族介護者にかかわる看護師をはじめ,介護支援専門員,介護福祉士,友人,家族など家族介護者の周囲にいる人が必要に応じて受診を勧めたり,家族介護者の健康増進や病気の予防行動を促したりするなど,健康行動を支援するソーシャルサポートを行っていくことが重要である.さらには,サポートを得る機会の少ない家族介護者にとっては自身の健康に関する不安や困っていることを安心して相談できる拠り所の存在が重要である.このため,家族介護者が自身の健康に関する不安や困りごとを解決もしくは軽減できるよう,家族介護者の健康を支える体制を整備していくことが必要である.

セルフケアの予測される成果の3カテゴリーからは,家族介護者のセルフケアの実践は家族介護者自身の身体的・精神的健康の維持や在宅介護の継続につながるだけでなく,家族介護者が身近にある幸せを感じられることにつながることが考えられる.

これらのことをふまえると,家族介護者自身が要介護状態とならず,在宅介護を継続し,家族介護者が幸福でいられるようにするためには,家族介護者がセルフケアを実践・継続することを支える支援,すなわち家族介護者が介護を抱え込むことなく,暮らしを充実させながら生活習慣病の発症予防や重症化予防,ひいては健康寿命の延伸のために必要な行動を実践・継続していくことを支えていくことが重要である.

2. 家族介護者がセルフケアを実践・継続していくための支援

櫟ら(2018)の調査では,家族介護者の67%は精神的負担感が大きく,54%の家族介護者は肉体的負担感が大きいことがと報告されており,このような介護負担感は家族介護者の身体的・情緒的健康への影響だけでなく,家族介護者の生活全般に支障を及ぼすことが明らかになっている(涌井,2021).本研究においても,家族介護者の介護負担感は重く,家族介護者自身も心身の不調や病気を持ち,サポートを得る機会が少ないことが明らかになった.しかしながら,そのような状況においても,食事や運動などの健康行動をとり,自ら進んで介護に必要な知識や技術を獲得し,社会資源を活用することで介護を一人で抱え込まないようにし,自分の時間を作るなど自分の暮らしの質を充実させている家族介護者の存在も明らかになった.このようなセルフケアの行動は,まず家族介護者が自分の健康を維持していく必要性を理解することが重要であり,健診の受診を勧めるなどのセルフケアにつながる支援を行うことが重要である.したがって,看護職は介護負担感の観点からの検討だけでなく,家族介護者の強みと弱みにも着目し(越智ら,2011),家族介護者の心身の不調や病気の程度,介護負担の重さ,ソーシャルサポートの有無の状況を多角的にアセスメントし支援することが重要である.このような支援を行っていくことは,家族介護者の健康とメンタルヘルスの向上のみならず,在宅療養・介護の継続や家族介護者の主観的幸福感の向上につながると考える.

Ⅵ. 研究の限界と今後の課題

本研究は,家族介護者のセルフケアについて,限られたキーワードでの文献検討としたため,偏りがあることは否めない.今後は,家族介護者のセルフケアの継続理由,中断理由,家族介護者が自身の強みや弱みとして捉えていることについても整理し,家族介護者のセルフケアを促進するモデルの構築を検討していく必要がある.

Ⅶ. 結論

日本の家族介護者のセルフケアに関する国内文献は17件抽出され,セルフケアの内容は【健康に暮らしていく土台づくり】【抱え込まない介護】【暮らしの質の充実】,関連要因は【心身の不調や病気】【介護負担の重さ】【ソーシャルサポートの有無】,予測される成果は【健康とメンタルヘルスの向上】【在宅療養・介護の継続】【主観的幸福感の向上】のカテゴリーが抽出された.

看護職は介護負担感の観点から支援を検討するだけでなく,家族介護者の心身の不調や病気の程度,介護負担の重さ,ソーシャルサポートの有無の状況を多角的にアセスメントし支援することが重要である.さらには,家族介護者が安心して介護を継続しながら日々の生活を送ることができるよう家族介護者の健康を支える体制の整備が必要である.

謝 辞

本研究はJSPS科研費20K11104の助成(R2–R5)を受けたものである.

利益相反の開示

本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
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