日本公衆衛生看護学会誌
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研究
保健分野で予防的に支援が必要な親の子どもへの不適切な関わり
―子どもの虐待問題に携わる専門職へのインタビューをとおして―
松原 三智子岡本 玲子和泉 比佐子
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2015 年 4 巻 2 号 p. 121-129

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Abstract

目的:保健分野で予防的に支援が必要な親の子どもへの不適切な関わりを明らかにすることである.

方法:子どもの虐待問題に携わっている専門職24人に,半構造化面接を実施しデータを得た.分析は,要約的内容分析を参考にした.

結果:不適切な関わりは,「希薄な関わり」として【親が自身のことを優先して考え,親役割や責任に欠ける】【子どもの生活リズム・生活習慣・衣食住などが整えられない】【子どもの発達に合わせた対応・時間共有ができない】【子どもの意図・サイン・気持ちがくみ取れず,寄り添うことができない】が生成された.また,「過剰な関わり」として【力をもって制する】【子どもを否定・否認する態度を示す】【子どもに過剰な干渉,理想や期待を押し付け一体化する】【威圧的な言葉掛け・叱責・怒りを子どもにぶつけて制御する】が生成された.

結論:不適切な関わりにおける「希薄な関わり」はネグレクトと心理的虐待の,「過剰な関わり」は身体的虐待と心理的虐待の前段階の状態であることが示唆された.

I. 緒言

近年,児童虐待の問題がクローズアップされており,虐待への取り組みが重要視されている.虐待には,加害者である親と虐待を受ける被害者である子どもの両者が存在する.その中で福祉分野は保健分野に比べて,虐待の程度がより重篤であるため,主として子どもへの危害および弊害に視点を当てて支援している.一方,保健分野は福祉分野に比べて重篤な虐待のレベルまでには至っていない「親の子どもへの不適切な関わり」に焦点を当てて支援することが求められる.そのため保健分野では,子どもの受ける不利益を考慮することは無論であるが,予防の観点から親に視点を当てて支援していくことが重要である.

しかし,親の子どもへの不適切な関わりと措置レベルの児童虐待の境界を引くことはとても難しいと考える.先行研究において,久保山ら(2009)は親の子どもへの不適切な関わりを,子どもへの躾や関わりが気になる,子どもに無関心・放任である,意図が伝わらないなど,親の特徴を示している.また,松原ら(2007)は関わりが薄い,躾をしない,威圧する,責任を負わない,乱暴な扱い,考えを押し付けるなどの親子関係と親の特徴を示している.これらの研究は,幼稚園教諭,保育士,保健師を対象として明らかにされている.

しかし,予防的な支援を行うためには,既に虐待として措置された事例に多く関わる経験をもつ,幅広い分野の専門職の視点から捉えた親の子どもへの不適切な関わりについても明らかにする必要があると考える.

したがって,本研究では保健分野とは異なる医療,福祉,法律などで虐待問題に携わる専門職を対象に,虐待として措置された親子に関わった経験から,予防的に支援が必要な親の子どもへの不適切な関わりについて明らかにすることを目的とする.

不適切な関わりを明らかにすることで,乳幼児健康診査などで予防的に支援が必要な親子をアセスメントする際の一助となる可能性がある.

II. 研究方法

研究デザインは質的記述的研究法を用いた.

1. 用語の定義

親の子どもへの不適切な関わり:専門職が虐待として措置する段階までには至っていない,気になる親の様子や違和感とし,関わりが薄い,躾をしない,威圧する,責任を負わない,乱暴である,考えを押し付けるなどの親が子どもに対する関わり合いとした.

予防的な支援:親の子どもへの不適切な関わりが見られる親子に対して,虐待で措置される状況に至らぬよう,個別相談や訪問,親子教室などの介入を行うこととした.

2. 対象

研究参加者は,子どもの虐待防止に関わる学会や研究会で発表している医療,福祉,法的機関に所属する専門職で,個別に依頼し同意を得た人とした.さらに,それらの参加者から推薦してもらい,機縁法で研究参加者を募った.

3. データ収集方法

データ収集方法は,インタビューガイドを用いた半構造化面接とした.面接時に対象者の同意を得てICレコーダーに録音し,録音内容は逐語録を作成してデータとした.面接時間は,概ね一人1時間程度とした.インタビューはプライバシーが確保できる場所で行った.

データ収集期間は2009年1月~9月であった.

面接内容は研究参加者の経験年数,職種などの基本的属性についてと,親の子どもへの不適切な関わりとした.不適切な関わりの例として,関わりが薄い,躾をしない,威圧する,責任を負わない,乱暴である,考えを押し付けるなどを示した.面接内容で不明瞭な部分については,随時,焦点化や確認のための質問を行った.

4. データ分析方法

分析方法は,要約的内容分析(Mayring, 2004)を参考にした.この方法は重要でない文章や同じ意味の言い換えを削除し,主観や解釈を除いたデータそのものを要約的に説明できる(Flick, 2010)ことから選択した.データから「親の子どもへの不適切な関わり」に関する記述を文脈ごとに抽出し,記述内容を読み取りながら要約してコード化し,類似する内容の共通性についてサブカテゴリー,カテゴリーを生成した.分析の妥当性については,研究者間で確認した.さらに,協力の得られた研究参加者に対して,抽出されたカテゴリーやサブカテゴリーについて,違和感や疑問がないか確認を得て妥当性を確保した.

5. 倫理的配慮

研究参加者には,本研究の主旨,目的,方法,倫理的配慮などについて文書と口頭で説明した後,文書により同意を得た.倫理的配慮は,対象者に対する負担のないこと,調査に対する参加・拒否・中断の自由,データの厳重な管理,個人や所属の匿名性とプライバシーの保護について保証した.また,研究を実施するにあたり所属機関の倫理委員会の承認を得た.

III. 結果

1. 対象者の概要(表1

研究参加者は24人で性別は,男性13人,女性11人であった.子どもの虐待事例を取り扱った経験年数は,4~9年が11人,10~14年が7人,15~19年が1人,20~24年が2人,25年以上が3人で,範囲は4~35年,平均経験年数は13.1年であった.職種は,児童相談所および福祉施設などに勤務している児童福祉司,ケースワーカー,相談員と称する福祉職7人,福祉施設や病院などに勤務する心理職7人,医師2人,保健師3人,保育士2人,法律事務所に所属する弁護士3人であった.

表1  対象者の概要
人(%)
性別 男性 13(54.2)
女性 11(45.8)
経験年数 4~9年 11(45.8)
10~14年 7(29.2)
15~19年 1 (4.2)
20~24年 2 (8.3)
25年以上 3(12.5)
所属機関 児童養護施設 3(12.5)
児童相談所 3(12.5)
障害児入所施設 4(16.7)
保育所 2 (8.3)
児童発達支援センター 2 (8.3)
小児専門病院 7(29.2)
法律事務所 3(12.5)
職種 福祉職 7(29.2)
心理職 7(29.2)
保育士 2 (8.3)
保健師 3(12.5)
医師 2 (8.3)
弁護士 3(12.5)

N=24

2. 親の子どもへの不適切な関わり

親の子どもへの不適切な関わりとして,8つのカテゴリーと18のサブカテゴリーが生成された.さらにこれらのカテゴリーは「希薄な関わり」と「過剰な関わり」に分類できた(表2).以下,【 】はカテゴリーを,《 》はサブカテゴリーを,〈 〉はコードを示す.

表2  親の子どもへの不適切な関わり
【カテゴリー】 《サブカテゴリー》 〈コード例〉
希薄な関わり 親が自身のことを優先して考え,親役割や責任に欠ける 親としての役割を果たさず,自分のやりたいことを優先させる 親が自分の仕事や趣味を優先させ,親としての役割・責任・使命感をもたない
親が遊びのために保育を延長してズルズルと子どもを預け続ける
親が始終,携帯電話やメール,ネットに夢中で,子どものことをおざなりにする
親の役割を子どもに転嫁させる 3歳の子どもに1歳の子どもの面倒を見させる
親がすべき役割(食事の準備や掃除など)を小さな子どもに転嫁させる
子どもの生活リズム・生活習慣・衣食住などが整えられない 衣食住への配慮ができない 親が子どもに伝えるべき衣食住への配慮ができない
季節に応じた衣服,年齢に応じた食事内容や量を考えられない
ゴミが捨てられていない,洗濯がされていないなど,清潔な環境が整えられていない
生活リズム・生活習慣が整えられない 就寝時間が深夜で昼夜逆転している
子どもが寝ていれば起こさずにずっと寝かせておく
夜遅くに,居酒屋,ファミリーレストランに子どもを連れて行っている
子どもの発達に合わせた対応・時間共有ができない 子どもの発達に合わせた対応ができない 子どもへの愛情はあるが発達に合わせた言葉掛けや説明ができない
子どもの個性やペースに合わせた関わりができない
子どもとの時間の過ごし方がわからない 子どもと遊んでいて時間が余って仕方がない
子どもと本を読んだり話をしたりしない
子どもと一緒に過ごす方法がわからない
子どもの悪い行動に無関心で躾けられない 子どもが悪いことをしても無関心で躾ができない
日によって同じことをしていても,かわいがったり厳しく突き放したりして一貫性のない対応をする
子どもの意図・サイン・気持ちがくみ取れず,寄り添うことができない 子どもの気持ちの理解,受け止めができない 子どもの気持ちを察する・受け止めることができない
子どもの気持ちを理解できない,キャッチできない
子どもの気持ち・情緒面に合わせて,共感することができない 子どもと一緒に喜んだり,悲しんだり情緒面を大切にできない
子どもを褒める,よく頑張ったと共感することができない
過剰な関わり 力をもって制する 叩く・抑制するなど,力をもって制しようとする 躾として叩くなど体罰を伴う
子どもをバギーや椅子に抑制する
子どもを否定・否認する態度を示す 子どものことに対してネガティブな発言をする 子どもに対して「かわいくない」「きらい」と言う
親が子どもの希望や考えを常に否定する
親が子どもの失敗を受け入れないで評価的に捉えている 子どもの失敗を受け入れず,小言を言う・叱責する
子どもがやったことを下手だと否定し評価的に捉えている
きょうだい間で比較し,特定の子どもを傷つける発言をする きょうだい間で能力・外見・性別などを比較して子どもを傷つける
自分に似ている,ムスッとしていてかわいくないなど,きょうだいに対する気持ちが異なる
子どもに過剰な干渉,理想や期待を押し付け一体化する 親の過剰な理想や期待を子どもに押し付ける 子どもの能力以上のことを求める・期待する
親の考え,期待,理想の範囲から外れることを容認しない
子どもを独立した一人の存在として扱わず,所有化する 子どもの髪型・毛染めなど親の思い通りにする
親の都合で子どもを外で遊ばせない
子どもの権利や利益よりも親の体裁を気にする
経験する機会を与えず親が代替してしまう(過保護) 親が子どものことを代行して経験させない
子どもの自己主張に応じず親が全てをやってしまう
威圧的な言葉掛け・叱責・怒りを子どもにぶつけて制御する 威圧的な言葉掛け・叱責などで感情的な圧力をかける 怒鳴るなど威圧的な言葉掛けをする
親の意に沿わないと叱責して感情的に圧力をかける
感情的な怒りや起伏が激しい 感情の起伏が激しく豹変する
感情的な怒りが止まらなくなる

1) 希薄な関わりについて

(1) 親が自身のことを優先して考え,親役割や責任に欠ける

〈親が自分の仕事や趣味を優先させ,親としての役割・責任・使命感をもたない〉〈親が遊びのために保育を延長してズルズルと子どもを預け続ける〉などから《親としての役割を果たさず,自分のやりたいことを優先させる》が生成された.また,〈3歳の子どもに1歳の子どもの面倒を見させる〉〈親がすべき役割(食事の準備や掃除など)を小さな子どもに転嫁させる〉などから,《親の役割を子どもに転嫁させる》が生成された.これらから,【親が自身のことを優先して考え,親役割や責任に欠ける】というカテゴリーが生成された.

(2) 子どもの生活リズム・生活習慣・衣食住などが整えられない

〈季節に応じた衣服,年齢に応じた食事内容や量を考えられない〉〈ゴミが捨てられていない,洗濯や掃除がされていないなど,清潔な環境が整えられていない〉などから,《衣食住への配慮ができない》が生成され,〈就寝時間が深夜で昼夜逆転している〉〈子どもが寝ていれば起こさずにずっと寝かせておく〉などから《生活リズム・生活習慣が整えられない》が生成された.これらから,【子どもの生活リズム・生活習慣・衣食住などが整えられない】というカテゴリーが生成された.

(3) 子どもの発達に合わせた対応・時間共有ができない

〈子どもへの愛情はあるが発達に合わせた言葉掛けや説明ができない〉〈子どもの個性やペースに合わせた関わりができない〉などから《子どもの発達に合わせた対応ができない》が生成され,〈子どもと遊んでいて時間が余って仕方がない〉〈子どもと本を読んだり話をしたりしない〉〈子どもと一緒に過ごす方法がわからない〉などから《子どもとの時間の過ごし方がわからない》が生成された.また,〈子どもが悪いことをしても無関心で躾ができない〉〈日によって同じことをしていても,かわいがったり厳しく突き放したりして一貫性のない対応をする〉から《子どもの悪い行動に無関心で躾けられない》が生成された.これらから,【子どもの発達に合わせた対応・時間共有ができない】というカテゴリーが生成された.

(4) 子どもの意図・サイン・気持ちがくみ取れず,寄り添うことができない

〈子どもの気持ちを察する・受け止めることができない〉〈子どもの気持ちを理解できない,キャッチできない〉などから《子どもの気持ちの理解,受け止めができない》が生成された.また,〈子どもと一緒に喜んだり,悲しんだり情緒面を大切にできない〉〈子どもを褒める,よく頑張ったと共感することができない〉から《子どもの気持ち・情緒面に合わせて,共感することができない》が生成された.これらより,【子どもの意図・サイン・気持ちがくみ取れず,寄り添うことができない】というカテゴリーが生成された.

2) 過剰な関わりについて

(1) 力をもって制する

〈躾として叩くなど体罰を伴う〉〈子どもをバギーや椅子に抑制する〉などから,《叩く,抑制するなど,力をもって制圧しようとする》が生成され,【力をもって制する】というカテゴリーが生成された.

(2) 子どもを否定・否認する態度を示す

〈子どもに対して「かわいくない」「きらい」と言う〉〈親が子どもの希望や考えを常に否定する〉などから《子どものことに対してネガティブな発言をする》が生成された.また,〈子どもの失敗を受け入れず,小言を言う・叱責する〉〈子どもがやったことを下手だと否定し評価的に捉えている〉などから,《親が子どもの失敗を受け入れないで評価的に捉えている》が生成された.さらに,〈きょうだい間で能力・外見・性別などを比較して子どもを傷つける〉などから《きょうだい間で比較し,特定の子どもを傷つける発言をする》が生成された.以上から,【子どもを否定・否認する態度を示す】というカテゴリーが生成された.

(3) 子どもに過剰な干渉,理想や期待を押し付け一体化する

〈子どもの能力以上のことを求める・期待する〉〈親の考え,期待,理想の範囲から外れることを容認しない〉から,《親の過剰な理想や期待を子どもに押し付ける》が生成された.また,〈子どもの髪型・毛染めなど親の思い通りにする〉〈親の都合で子どもを外で遊ばせない〉〈子どもの権利や利益よりも親の体裁を気にする〉などから《子どもを独立した一人の存在として扱わず所有化する》が生成された.また,〈親が子どものことを代行して経験させない〉〈子どもの自己主張に応じず親が全てをやってしまう〉から,《経験する機会を与えず親が代替してしまう(過保護)》が生成された.以上より,【子どもに過剰な干渉,理想や期待を押し付け一体化する】というカテゴリーが生成された.

(4) 威圧的な言葉掛け・叱責・怒りを子どもにぶつけて制御する

〈怒鳴るなど威圧的な言葉掛けをする〉〈親の意に沿わないと叱責して感情的に圧力をかける〉などから《威圧的な言葉掛け・叱責などで感情的な圧力をかける》が生成され,〈感情の起伏が激しく豹変する〉〈感情的な怒りが止まらなくなる〉から《感情的な怒りや起伏が激しい》が生成された.これらから,【威圧的な言葉掛け・叱責・怒りを子どもにぶつけて制御する】というカテゴリーが生成された.

IV. 考察

1. 対象について

本研究における対象者は,保健分野とは異なる医療,福祉,司法などに従事している専門職24名で,虐待事例を取り扱った経験年数は4年以上であった.Benner(1984)は3~5年の中堅(Proficient)段階では,専門職として経験に基づき全体状況が認識できると述べており,対象として適切なデータを得ることができたと考える.また,対象者は子どもの虐待防止に関わる研究会や学会などで発表している専門職と,その人たちから推薦してもらった専門職であったことから,虐待の問題に対する関心はより高いという,バイアスがあったと考える.

2. 希薄な関わり

本研究で示された4つの希薄な関わりについて考察する.

まず,【親が自身のことを優先して考え,親役割や責任に欠ける】という状況は,松原ら(2007)が示した「親が責任を負わないこと」,久保山ら(2009)の「子どもより自分(保護者)が中心」と類似する状況であった.

伊藤(2000a)は子育ての中でよく行われる,親の都合で子どもが話しかけても無視する,うるさいなどと叱咤する,病気の子どもを保育園や学校に送り出すなどの些細な行為の積み重ねを「小さなネグレクト」と呼び,ネグレクトと同様の問題を引き起こす例を示している.したがって,【親が自身のことを優先して考え,親役割や責任に欠ける】ことは,先々重篤なネグレクトに移行するサインであることを踏まえて支援する必要があると考える.

親が仕事や趣味,遊びなどを優先し,子どもの面倒を見ないことが助長されると,「ネグレクト」やネグレクトに関連した「心理的虐待」に至るため,予防的な支援が重要と考える.

【子どもの生活リズム・生活習慣・衣食住などが整えられない】という状況は,松原ら(2007)が捉えた「親の育児・生活能力として示された食生活や保健行動の状況」と類似する結果であった.また,コードで示されていたごみが捨てられない,洗濯や掃除ができないなどは,家事遂行能力に問題がある可能性がある.田中(2009a)(2009b)は,大人であっても片付けられない,家事が効率よくできずに疲れる,衣食住を整えることが難しい場合,発達障害の一つである注意欠陥多動性障害(以下,AD/HDとする)である可能性を示唆している.したがって,母親自身の状況について理解し,具体的なスキルを伝えていくような支援が必要と考える.

【子どもの発達に合わせた対応・時間共有ができない】,【子どもの意図・サイン・気持ちがくみ取れず,寄り添うことができない】は,子どもが尊重できない状況であり,母親のコミュニケーション能力,生活能力などの影響を受けていたと考える.笠原(2009)は,対人関係技能の問題や注意力障害がある母親の中で,広汎性発達障害の診断が明確になった例を示し,育児困難感と支援の重要性を述べている.また,星野(2012)は,発達障害者自立支援法が施行され,支援体制の強化が図られているものの,米国の障害者法のように教育機関,職場まで拡大した支援体制ではないことを指摘している.そのため,今後は保健から教育,教育から労働における継続的な支援をつなげていけるように,保健分野における支援体制を改めて考えていく必要があると考える.

以上のことから,「希薄な関わり」とは,主にネグレクトや心理的虐待として措置される段階には至っていない,子どもを尊重しないあるいは尊重できない状況を捉えていたと考える.また,本研究で示された「希薄な関わり」は,親自身の発達上の課題により生じている可能性が示唆された.今後は,本研究で示された「希薄な関わり」を早期に把握して,個別の状況に合わせた訪問および,親子教室などで子育てスキルを伝えていくなど,より良い親子関係につながるための支援を構築していく必要がある.

3. 過剰な関わり

本研究で示された4つの過剰な関わりについて考察する.

まず,【力をもって制する】は,身体的虐待に至る前段階を捉えており,子どもの抑制と共に躾を含めた体罰を捉えていると考えられる.日本における躾で体罰を用いる割合は,10ヶ月で15%,1歳半で50%,3歳で65%と,子どもが成長するに従い増加傾向にあることが示されている(原田,2006).また,2014年12月現在,体罰を法的に禁止した国は44カ国に上り,欧州,アフリカ,南米に多い(子どもの権利を擁護・推進する子ども健やかサポートネット,2014).したがって,法的な体罰禁止には至っていない日本を含めたアジア諸国では,子育ての文化に体罰が受け継がれていることが予測される.日本の場合は民法820条において,親権を行う者は「子の利益のために子の監護および教育をする権利を有し,義務を負う」とされている.さらに,822条においてこの範囲内でその子を懲戒することができるとあり,「親の懲戒権(子どもを懲らしめ,戒める権利)」が合法的に認められている.しかし,日本も法改正に向けた動きが示されており,文化に溶け込んだ体罰の正当性や風習が変わることによって,虐待の範囲が変化していく可能性がある.体罰の法的禁止が進む中で,本研究の【力をもって制する】は,今後不適切な関わりの範囲を超えて,身体的虐待に移行する可能性も考えられる.しかし,子育てに日々奮闘している親の感情や立場を考えると,【力をもって制する】ことをすぐさまに虐待として捉えるのではなく,予防的支援の一つとして着目していく必要があると考えられる.

【威圧的な言葉掛け・叱責・怒りを子どもにぶつけて制御する】は,身体に危害は加えずに言葉を用いて子どもを制する/躾ける場合を捉えており,心理的に親が子どもにプレッシャーをかけるという,不適切な関わりであると考える.これらは行き過ぎると心理的虐待で措置する域に移行すると考えるが,心理的虐待の措置基準は判断が非常に難しく境界が不明瞭である.厚生労働省(2007)は,心理的虐待の具体的内容を「ことばによる脅かし・脅迫」,「子どもを無視したり,拒否的な態度を示す」,「子どもの心を傷つけることを繰り返し言う」,「子どもの自尊心を傷つけるような言動」,「他のきょうだいとは著しく差別的な扱いをする」に加え,「子どもの面前で配偶者やその他の家族などに対し暴力をふるう」というドメスティック・バイオレンス(以下,DVとする)に関わることを示している.そのため,心理的虐待にDV目撃を含むようになった2007年の心理的虐待件数の割合の18.8%に比べて2012年では33.6%と,身体的虐待件数35.4%と同様に高い割合を示し(内閣府,2014),心理的虐待にDVが多く含まれている実情がわかる.つまり,DVを除く心理的虐待の判断は難しく,特に躾に伴う威圧的な親の態度は見過ごされがちである.伊藤(2000b)は厳しい躾が子どもに絶対服従を強いて,親への恐怖感,自分の意思が抑圧される無力感や絶望感をもたらすため「暴力の連鎖」と「強いものに屈するという無批判な体制順応」を示し,子どもが暴力で解決するようになる例を示している.

したがって,本研究から生成された【威圧的な言葉掛け・叱責・怒りを子どもにぶつけて制御する】は,先々心理的虐待に移行する可能性のある不適切な関わりであり,予防的支援が必要なサインとして認識していく必要があると考える.

次に,【子どもを否定・否認する態度を示す】では,《子どものことに対してネガティブな発言をする》が頻回になると,上記で示したDVを除く心理的虐待(厚生労働省,2007)の「子どもを無視したり,拒否的な態度を示す」,「子どもの心を傷つけることを繰り返し言う」,という虐待に至るものと考えられる.また,《親が子どもの失敗を受け入れないで評価的に捉えている》が行き過ぎると,「子どもの自尊心を傷つけるような言動」という虐待につながると考える.また,《きょうだい間で比較し,特定の子どもを傷つける発言をする》の頻度や程度が著しくなると「他のきょうだいとは著しく差別的な扱いをする」という虐待の域に至るものと考えられる.塩川(2007)は,心理的虐待は事実関係の確認が困難であり,育児支援の枠組みの中で治療,経過観察することが可能な虐待類型であると述べている.したがって,心理的虐待は明らかにDVを目撃した場合や他の虐待と重複する場合は,虐待としての認識がされやすいが,単独では虐待と前段階との境界線を引くことが難しいものと考える.そのため,心理的虐待については,保健分野で予防的に支援していく必要のある虐待として再認識していく必要がある.

最後に,【子どもに過剰な干渉,理想や期待を押し付け一体化する】は,上記の心理的虐待には示されていない新たなものが生成されたと考える.伊藤(2000c, 2000d)は親が子どもの全生活を支配しようとする「子どものペット化」や,「子どもに親自身の夢を託す」ことは歪んだ親子関係をもたらすと述べている.したがって,【子どもに過剰な干渉,理想や期待を押し付け一体化する】は,不適切な関わりとして新たな視点として捉えていくことが重要である.

4. 親の子どもへの不適切な関わりの実態

本研究結果を踏まえて,親の子どもへの不適切な関わりについて整理すると図1のとおりである.専門職が一般的と捉える親子の関わりを,「適度な関わり」として中心に据えると,その範囲から逸脱した関わりを「希薄な関わり」と「過剰な関わり」の2極化で捉えていた.また,これらは関わり方の程度や度合いが過ぎると,希薄な関わりはネグレクトという育児放棄や,心理的虐待における存在の無視などという虐待域につながる.一方,過剰な関わりの程度や度合いが過ぎると,子どもの身体にダメージを加える身体的虐待と,子どもに何らかの言葉を頻回に言うことで必要以上の心理的なプレッシャーを加えたりトラウマを起こしたりするような心理的虐待の域につながると解釈できる.

図1 

不適切な関わり

また,程度とは,「物事の質や量について,一定の基準と比べてどのくらい高いか低いかの度合い」を示し,度合いとは「物事の強弱・深浅・濃淡など一定の範囲内で大小さまざまに変化するものが,その範囲内で占める大きさの割合」を示している(柴田ら,2000).したがって,不適切な親子の関わりの程度や度合いとは,親子がお互いに心地よい距離感ではなく,ストレスを感じるくらい遠い・浅い・弱い・薄い関わりか,逆に,近い・深い・強い・濃い関わりを示していると考えられる.

さらに,玉水ら(2009)は,保健師は親子の関わりを観察する中で,親子の距離感を情動的なつながりとして感じ取っていたことを述べている.したがって,本研究の対象者もさまざまな親子の関わりを情動的つながりとして観察し,関わり方の程度や度合いを希薄と過剰な関わりの2方向で捉えていたものと考える.

また,「子どもへの不適切な関わり」の概念について,高橋ら(1995)はマルトリートメント(Child Maltreatment)という言葉を用いて示している.これは虐待の程度を要保護が必要な状態(レッドゾーン),社会的に支援が必要な状態(イエローゾーン),「気になる子ども」「気になる親」として啓発・教育が必要な状態(グレーゾーン)に3区分している.したがって,レッドゾーンは児童相談所が関わる保護が必要な状況であるが,イエローやグレーゾーンはレッドゾーンへの移行を防ぐために保健分野が特に支援を要する状況と考えられ,本研究結果の親の子どもへの不適切な関わりに一致するものと考える.

さらに,高橋ら(1995)は「身体的虐待と性的虐待を虐待(abuse)」,「不適切な保護・養育,無関心・怠慢をネグレクト(neglect)」,「心理的虐待,心理的ネグレクト,非器質的な発育障害を心理的に不適切な関わり(emotional maltreatment)」の3つに分類している.本研究の結果の「過剰な関わり」は,「身体的虐待」と「心理的虐待」に至る可能性のある状況に類似していたと考える.また,「希薄な関わり」は,「不適切な保護・養育,無関心・怠慢」と「心理的ネグレクト」に至る可能性のある状況であったと考える.

したがって,本研究における不適切な関わりは「希薄な関わり」として先々子どもへのネグレクトと心理的虐待につながる視点,「過剰な関わり」として先々子どもへの身体的虐待と心理的虐待につながる視点の2つから捉えられた.これは児童虐待防止等に関する法律で示されている子どもを軸とした4つの虐待の視点とは異なり,親を軸とした2つの虐待の概念として整理できたと考える.

5. 本研究における限界と今後の課題

本研究結果で示された不適切な関わりは,24名の限られた専門職からのインタビューであることから,一般化することの限界がある.また,インタビュー方法では,不適切な関わりについて過去の経験の記憶を想起して語ってもらったことから,その正確さと完全さにおいて限界がある.

今後の課題として,本研究で明らかになった保健分野で予防的な支援が必要な親の子どもへの不適切な関わりについて,乳幼児健康診査などの現場で活用できる工夫を検討していく必要がある.

謝辞

本研究の主旨をご理解いただき,インタビューにご協力くださいました専門職の皆様に,心よりお礼申し上げます.また,本研究は平成20~23年度文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(C))の助成を受けて実施した一部である.

文献
  • Benner P. (1984)/井部俊子,井村真澄,上泉和子,訳(1992):ベナー看護論―達人ナースの卓越性とパワー,10–27,医学書院,東京.
  • Flick U. (2010)/小田博志,山本則子,春日常,他訳(2011):質的研究入門―“人間の科学”のための方法論,395–397,春秋社,東京.
  • 原田正文(2006):子育ての変貌と次世代育成支援―兵庫レポートにみる子育て現場と子ども虐待予防,192-209,名古屋大学出版会,名古屋.
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  • 伊藤芳朗(2000b):知らずに子どもを傷つける親たち チャイルド・マルトリートメントの恐怖,74–99,河出書房新社,東京.
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