日本公衆衛生看護学会誌
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研究
未就学児を持つ父親の育児参加とその関連要因
―地方都市に公務員として就労する父親に焦点を当てて―
深川 周平佐伯 和子
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2016 年 5 巻 1 号 p. 2-10

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Abstract

目的:公務員として働く父親の育児参加の実態とその関連要因を明らかにすることを目的とした.

方法:本研究は,未就学児を持つ正規職公務員として就労する父親を対象とした.無記名自記式質問紙を用い,父親の基本属性と生活時間,育児参加,職場の環境に対する認識を調査した.関連要因の分析は,t検定,一元配置分散分析,重回帰分析を用いた.

結果:質問紙は414名に配布し,346名から回収し,有効回答率は83.6%だった.父親の育児参加測定得点の平均値は,20.8±7.6点(40点満点)だった.父親の育児参加は配偶者の労働形態,未就学児の数,父親の労働時間と強く関連していた.父親の育児支援制度の利用意向の高さに反して,育児参加の頻度や配偶者出産休暇以外の制度の利用経験は低かった.

考察:父親の育児参加の促進のためには,短期間でも育児休業を取得すること,さらには物理的な育児参加の必然性が高い時期のみならず,試行的に父親が育児休業を取得することが重要である.育児支援制度の利用実績を積み重ねることが,父親の育児支援制度の利用に対する職場の理解を高め,父親の育児参加を促進すると考えられる.

I. 緒言

近年,父親が育児に参加する姿勢や役割が変化してきている.日本における「男性が外で働き,女性は家庭を守るべきである」という性別役割観は,伝統的な考え方から徐々に平等的な考え方へと変化してきた(内閣府,2012).その結果として,乳幼児健康診査への同伴や両親教室への参加など,より主体的に育児に関わろうとする育児参加意識の高い父親が増加している.しかし,子育て世代にあたる30~40歳代男性の4人に1人は労働時間が週に60時間を超えており(厚生労働省,2007),長時間労働のために父親は自分自身で希望するほど育児に参加できていない.日本の父親は1週間あたりに子どもに33分しか関わっておらず,アメリカやイギリスなどの欧米諸国と比較してその時間は少ない(湯沢ら,2008).しかしながら,未就学期の子どもは身体的な世話としての育児ニーズが高く,父親の量的な育児参加が重要な時期である.

父親の量的な育児参加に関連する要因は3つの枠組みに分類できる.第一に,育児休業を取りたいと思う条件として調査された職場の雰囲気(森田,2004)などの「父親の育児参加に配慮した職場の環境」,第二は,男性は外で働き,女性は家庭を守るべきであるとする伝統的な「父親の性別役割観」(尹ら,2011),そして第三に,父親の就労時間や子どもの数(Ishii et al., 2004)などの「父親の個人・生活環境」である.

父親の育児参加には職場における育児支援制度の状況も大きく影響すると考えられる.育児支援制度を規定した育児・介護休業法は2010年に改正となり,2012年7月1日から全ての中小企業でも施行されることとなった(厚生労働省,2009).これにより,労使協定によって専業主婦の夫などを育児休業の対象外とできる法律の規定が廃止されるなど全ての父親が必要に応じて育児休業を取得できるような法律へと改正された.中小企業における父親の育児支援制度は整備されたが,その歴史は浅く,制度が職場に浸透していない可能性がある.一方で,日本の公務員の職場は民間の大多数を占める中小企業の職場に比べ,育児支援制度を1970年代から導入しているため,職場に制度が浸透している.

父親の育児支援制度の実際の利用について,公務員および民間企業を合わせた育児休業の取得率は2011年度調査で2.63%と調査開始以降最も高かった(厚生労働省,2012).一方,人事院による2012年度一般職の非現業国家公務員を対象とした調査は,男性職員の育児休業の取得率が3.7%だった(人事院,2012).

育児支援制度が整備された公務員の職場であっても,育児支援制度を利用した父親の育児参加は少ない.まずは,育児支援制度が職場に整った公務員の職場の父親の育児参加を明らかにすることが,父親の育児参加の要因を明らかにするために重要であると考えられる.

そこで,本研究の目的は,公務員の父親の育児参加の実態を明らかにすること,および,父親の育児参加に関連する要因を明らかにすることとした.

II. 研究方法

1. デザインと対象

本研究は,量的記述的研究デザインである.対象者は,地方都市で非現業の公務員として就労している事務職の正規職員であり,未就学児の父親であるという条件を満たす者とした.対象となる未就学児の出生順位は問わなかった.対象施設の選定は大都市とその近隣にある自治体およびそれに準ずる公的機関であり,研究協力の承諾が得られた施設とした.

調査票は無記名自記式質問紙を用いて,2012年5月から8月の期間に承諾が得られた9機関へ配布と回収を行った.研究依頼は機関の長と担当者に行った.各機関の担当者に該当者全員へ,研究依頼文と調査票が入った返送用封筒の配布を依頼した.研究の説明は同封した依頼文によって行い,研究への参加は調査票の回答と調査票の投函,もしくは,提出をもって同意とみなした.調査票の回収は,原則的に郵送法を用いたが,4機関では希望により留置法を用いた.

2. 調査項目

調査項目は,父親の基本属性と生活時間,父親の育児参加,父親の育児参加に配慮した職場の環境,育児支援制度の認知度,利用意向,利用経験とした.

未就学児を持つ「父親の育児参加」は,「父親の育児参加測定尺度」(朴ら,2011)により測定し,尺度は連絡先著者の承諾を得て使用した.尺度を構成する10項目に対して「0点:やらない」から「4点:毎日・毎回している」の5段階で回答を得た.尺度得点は最低0点,最高40点である.

父親の育児参加に配慮した職場の環境要因を,森田(2004)の育児休業を取りたいと思う条件を参考に,「職場の育児支援制度利用に対する認識」,「職場の雰囲気に対する認識」という2つの視点から6つの項目を作成した.これらの項目は,4件法によって回答を得た.

育児支援制度の認知度,利用意向,利用経験の3つの質問は,配偶者出産休暇,育児時間,育児休業,育児短時間勤務,所定外労働の制限の5つの制度それぞれに対して回答を得た.

育児支援制度の認知度は,「あなたは,これらの育児支援制度があなたの職場にあることを知っていましたか」という質問に対して,「知らなかった」,「聞いたことがある」,「内容も知っている」,「ない」の4択とした.ただし,事前に調査対象の職場に5つの制度があることを確認していたため,認知度で「ない」を選択した回答は「知らなかった」として集計した.さらに,関連要因の分析では,「聞いたことがある」と「内容も知っている」を「知っていた」に統合し,変数の再割り当てを行った.

利用意向は「あなたは,職場の環境を考えない場合,育児をするために育児支援制度を利用したいと思いますか」という質問に対して,「利用したくない」,「利用したい」の2択とした.

利用経験は「あなたは,あなたの職場でこれまでに,育児をするために育児支援制度を利用したことがありますか」という質問に対して,「利用したことがない」,「利用したことがある」の2択とした.

3. 分析方法

調査票で選択肢と選択肢の間に回答しているデータや,回答すべき項目に記載がないデータは無効回答として扱った.さらに,年齢,子どもの数,労働時間,父親の性別役割観の項目に欠損値がある調査票は無効調査票とし,全ての分析から除外した.

尺度に回答した者のうち,尺度の10項目全てで欠損値を含まない完全回答が得られた266人について,父親の育児参加測定尺度得点を算出した.

父親の育児参加測定尺度得点を算出できた266人のデータを分析の従属変数として用いた.なお,分析に使用した266人と欠損値があり除外した80人について,尺度の回答が得られた項目のみで平均点を比較したところ,除外した80人の項目平均点が有意に低かった.また,属性の差をχ2検定により検証した結果,分析に使用した266人は除外した80人に比べ,配偶者が就労している者が多く,未就学児の数が多く,保育施設に通っている子を持つ父親が多かった.

父親の育児参加測定尺度得点の平均値の差をt検定,一元配置分散分析により,検定した.父親の育児参加のモデルの予測は重回帰分析を用いた.

重回帰分析は,t検定や一元配置分散分析の結果をもとに投入する変数を決定した.モデル1では,父親の個人・生活環境の要因である父親の年齢,配偶者の労働形態,配偶者と子ども以外の同居家族の有無,未就学児の数,労働時間,通勤時間の6つの独立変数を強制投入によって,父親の育児参加測定尺度の合計得点を予測するモデルを作成した.また,モデル2では,モデル1に父親の性別役割観を追加した7つの独立変数を強制投入したモデルを作成した.そして,モデル3では,モデル2に上司の理解と良好な関係という父親の育児参加に配慮した職場の環境に対する認識の2項目を追加した9つの独立変数を投入したモデル3を作成した.

4. 倫理的配慮

回答内容は研究目的以外に使用しないことを書面で対象者に説明した.調査票の回収は,原則的には郵送法を用いて個人による調査票の投函を依頼した.留置法の回収は,各機関の担当者へ事前に配布した回収用封筒への提出を依頼したが,強制力が働かないように自由参加であることを十分説明した.本調査については,北海道大学大学院保健科学研究院の倫理委員会の承認(承認番号12-2)を得た.

III. 研究結果

調査票は配布414部に対し,回収347部(回収率83.8%),主要な個人属性に欠損値が見られた1人を除外し,有効回答346部(有効回答率83.6%)だった.

1. 父親の基本属性と生活時間

父親の基本属性と生活時間を表1に示した.父親の平均年齢は,37.2±4.6歳,子どもは平均1.8±0.8人,未就学児は平均1.3±0.5人だった.育児時間は,0–77時間/週,労働時間は,30–80時間/週,通勤時間は片道で5–120分/日だった.

表1  父親の基本属性と生活時間(N=346)
n (%)
父親の年齢 20–29歳 15​ (4.3)
30–39歳 232​ (67.1)
40歳以上 99​ (28.6)
配偶者との同居 同居している 340​ (98.3)
同居していない 6​ (1.7)
配偶者の労働形態※1
 配偶者と同居している者のみ回答
フルタイム労働 99​ (29.5)
パートタイム労働 37​ (11.0)
無職 200​ (59.5)
配偶者以外の同居者※2 いる 28​ (8.1)
いない 317​ (91.9)
子どもの数 1人 142​ (41.0)
2人以上 204​ (59.0)
未就学児の数 1人 239​ (69.1)
2人以上 107​ (30.9)
保育所・幼稚園への通園状況 通っている 246​ (71.1)
通っていない 100​ (28.9)
父親の性別役割観 平等的 236​ (68.2)
伝統的 110​ (31.8)
育児の時間(週当たり) 10時間以下 137​ (39.6)
11–20時間 93​ (26.9)
21–30時間 60​ (17.3)
31時間以上 56​ (16.2)
労働時間(週当たり) 45時間以下 217​ (62.7)
46時間以上 129​ (37.3)
通勤時間(日当たり) 30分以下 253​ (73.1)
31分以上 93​ (26.9)

※1 n=336 ※2 n=345

2. 父親の育児参加測定尺度得点

「父親の育児参加測定尺度」の非該当もしくは無効回答となる欠損値を除外した有効数に対して,それぞれの回答の内訳を表2に示した.父親は育児参加測定尺度の項目のうち,「子どもと一緒に室内で遊ぶ」,「子どもを風呂に入れる」,「子どもをあやす」の参加頻度が高かった.

表2  父親の育児参加
毎日・毎回 3–4回/週 1–2回/週 1–2回/月 していない 有効
回答
n (%) n (%) n (%) n (%) n (%)
子どもと一緒に室内で遊ぶ 116​ (33.6) 103​ (29.9) 114​ (33.0) 11​ (3.2) 1​ (0.3) 345
子どもに絵本を読み聞かせる 29​ (8.4) 43​ (12.5) 119​ (34.6) 96​ (27.9) 57​ (16.6) 344
子どもと一緒に外で遊ぶ 7​ (2.1) 22​ (6.7) 219​ (67.2) 65​ (19.9) 13​ (4.0) 326
子どもを寝かしつける 65​ (19.0) 54​ (15.7) 83​ (24.2) 60​ (17.5) 81​ (23.6) 343
子どもを風呂に入れる 95​ (27.5) 88​ (25.5) 117​ (33.9) 34​ (9.9) 11​ (3.2) 345
子どもに食事をさせる 88​ (26.2) 60​ (17.9) 104​ (31.0) 40​ (11.9) 44​ (13.1) 336
子どもの下着等を替える 77​ (22.4) 92​ (26.8) 90​ (26.2) 39​ (11.4) 45​ (13.1) 343
子どもをあやす 137​ (40.2) 86​ (25.2) 64​ (18.8) 16​ (4.7) 38​ (11.1) 341
保育所や幼稚園の送り迎えをする 62​ (21.5) 7​ (2.4) 11​ (3.8) 34​ (11.8) 175​ (60.6) 289
看病をする/病院に連れて行く 66​ (21.0) 4​ (1.3) 13​ (4.1) 158​ (50.2) 74​ (23.5) 315

さらに,346人の回答者のうち,10項目の全てで欠損値を含まない266人の父親の育児参加測定尺度得点を算出した.

父親の育児参加測定尺度の平均得点は,20.8±7.6点だった.尺度の10項目について,Cronbachのα係数は0.81であり,十分な内的整合性を有していた.

3. 父親の育児参加に配慮した職場の環境に対する認識

父親の育児参加に配慮した職場の環境に対する認識は表3に示した.

表3  父親の育児参加に配慮した職場の環境に対する認識(N=346)
そう思う ややそう思う あまりそう思わない そう思わない
n (%) n (%) n (%) n (%)
職場の育児支援制度利用に対する認識
 育児のために休暇や制度を利用することは自分の評価や昇進には影響しない※1 86​ (25.0) 104​ (30.2) 117​ (34.0) 37​ (10.8)
 育児のために制度を利用することについて上司の理解がある※1 72​ (20.9) 150​ (43.6) 97​ (28.2) 25​ (7.3)
 パートナーの出産時に制度を利用して休むことができる※1 262​ (76.2) 59​ (17.2) 18​ (5.2) 5​ (1.5)
職場の雰囲気に対する認識
 有給休暇は職場のメンバーに遠慮せず取得できる※2 109​ (31.6) 134​ (38.8) 76​ (22.0) 26​ (7.5)
 業務が終われば周囲に気兼ねなく帰ることができる 123​ (35.5) 137​ (39.6) 60​ (17.3) 26​ (7.5)
 各自の事情を理解し,良好な関係を築いている※2 150​ (43.5) 160​ (46.4) 28​ (8.1) 7​ (2.0)

※1 n=344 ※2 n=345

父親の育児参加に配慮した職場の環境について,回答内容を「思う」と「思わない」の2群に再分類すると,6項目のいずれでも半数以上の父親が育児参加に対して肯定的な職場であると回答していた.

4. 職場における育児支援制度の状況

職場における父親の育児支援制度の認知と利用の状況について,表4に結果を示した.父親の60%以上が5つの制度のいずれについても知っていた.配偶者出産休暇制度の利用経験は70%を超えていた一方で,その他の4つの制度は利用経験が5%を超えるものはなかったが,利用意向は50%を超えていた.

表4  育児支援制度の認知度・利用意向・利用経験
配偶者出産休暇 育児時間 育児休業 育児短時間勤務 所定外労働の制限
n (%) n (%) n (%) n (%) n (%)
認知度 内容も知っている 274​ (79.2) 175​ (50.6) 243​ (70.2) 195​ (56.4) 142​ (41.2)
聞いたことがある 46​ (13.3) 89​ (25.7) 81​ (23.4) 83​ (24.0) 80​ (23.2)
知らなかった 26​ (7.5) 82​ (23.7) 22​ (6.4) 68​ (19.7) 123​ (35.7)
   計 346​ 346​ 346​ 346​ 345​
利用意向 あり 321​ (93.9) 190​ (56.2) 184​ (54.0) 179​ (52.8) 205​ (60.5)
なし 21​ (6.1) 148​ (43.8) 157​ (46.0) 160​ (47.2) 134​ (39.5)
   計 342​ 338​ 341​ 339​ 339​
利用経験 あり 246​ (71.1) 8​ (2.3) 14​ (4.0) 2​ (0.6) 1​ (0.3)
なし 100​ (28.9) 338​ (97.7) 332​ (96.0) 344​ (99.4) 344​ (99.7)
   計 346​ 346​ 346​ 346​ 345​

5. 父親の育児参加測定尺度得点との関連要因

父親の育児参加測定尺度得点と関連要因を表5に示した.父親の育児参加測定尺度得点の高さに有意に関連した項目は,父親の年齢が若いこと,配偶者がフルタイム労働であること,配偶者と子ども以外の同居家族がいないこと,未就学児が2人以上であること,性別役割観が平等的であること,育児時間が31時間/週以上であること,労働時間が45時間/週以下であること,通勤時間が30分/日以下であることだった.父親の育児参加に配慮した職場の環境に対する認識では,いずれの項目でも有意差は見られなかった.

表5  父親の育児参加との関連要因(n=266)
n 尺度得点
(Mean±SD)
p
父親の基本属性 父親の年齢 39歳以下 187​ 21.7±7.4 0.002
40歳以上 79​ 18.5±7.8
配偶者の労働形態※1 フルタイム労働 82​ 25.9±6.7 <0.001
パートタイム労働 32​ 20.6±7.0
無職 145 18.1±6.6
配偶者以外の同居者※2 いる 25​ 17.1±6.2 0.011
いない 240​ 21.2±7.7
子どもの数 1人 88​ 21.2±6.8 0.528
2人以上 178​ 20.5±8.0
未就学児の数 1人 176​ 19.5±7.3 <0.001
2人以上 90​ 23.2±7.8
保育所・幼稚園への通園状況 通っている 226​ 21.0±7.8 0.172
通っていない 40​ 19.2±6.5
父親の性別役割観 平等的 178​ 21.8±7.5 0.002
伝統的 88​ 18.7±7.5
父親の生活時間 育児の時間(週当たり) 10時間以下 105​ 16.2±5.9 <0.001
11–20時間 68​ 21.2±6.5
21–30時間 48​ 23.6±6.5
31時間以上 45​ 27.7±7.3
労働時間(週当たり) 45時間以下 174​ 21.9±7.8 0.001
46時間以上 92​ 18.6±6.8
通勤時間(日当たり) 30分以下 196​ 21.3±8.1 0.034
31分以上 70​ 19.3±6.2
父親の育児参加に配慮した職場の環境に対する認識 育児のために休暇や制度を利用することは自分の評価や昇進には影響しない 思う 144​ 21.0±7.4 0.605
思わない 122​ 20.5±8.0
育児のために制度を利用することについて上司の理解がある 思う 172​ 21.2±7.5 0.201
思わない 94​ 20.0±7.8
パートナーの出産時に制度を利用して休むことができる※2 思う 246​ 20.8±7.5 0.853
思わない 19​ 20.4±9.4
有給休暇は職場のメンバーに遠慮せず取得できる 思う 191​ 21.0±7.6 0.383
思わない 75​ 20.1±7.8
業務が終われば周囲に気兼ねなく帰ることができる 思う 206​ 21.0±7.4 0.268
思わない 60​ 19.8±8.5
各自の事情を理解し,良好な関係を築いている 思う 240​ 21.0±7.4 0.144
思わない 26​ 18.2±9.3

※1 n=259 ※2 n=265

t検定,一元配置分散分析

6. 重回帰分析を用いた父親の育児参加に影響する要因

父親の育児参加に影響する要因を重回帰分析によって検討した結果を表6に示した.モデルの適合度は分散分析によって,モデル1,モデル2,モデル3のいずれについても有意確率は,p<0.001であり適合度の良さを確認したが,モデル2の決定係数が0.330で最も高かった.また,父親の育児参加に関連する要因の中で配偶者の労働形態が最も強く影響していた.

表6  父親の育児参加に影響する要因
モデル1 モデル2 モデル3
非標準化係数 標準化係数 p 非標準化係数 標準化係数 p 非標準化係数 標準化係数 p
B SE B β B SE B β B SE B β
父親の個人・生活環境
 (定数) 13.16 4.02 15.40 4.10 16.71 4.84
 父親の年齢 –2.33 0.88 –0.14 ** –2.19 0.87 –0.13 * –2.24 0.88 –0.14 *
 配偶者の労働形態 3.93 0.44 0.47 ** 3.78 0.44 0.45 ** 3.79 0.44 0.46 **
 配偶者以外の同居者 2.30 1.36 0.09 2.41 1.35 0.09 2.48 1.36 0.10
 未就学児の数 2.77 0.78 0.19 ** 2.82 0.77 0.20 ** 2.88 0.78 0.20 **
 労働時間 –3.01 0.83 –0.19 ** –3.12 0.82 –0.20 ** –3.17 0.84 –0.20 **
 通勤時間 –0.20 0.91 –0.01 0.04 0.91 0.00 0.07 0.91 –0.00
  調整済み R2 0.319(p<0.01)
父親の性別役割観
 父親の性別役割観 –1.95 0.84 –0.12 * –1.977 0.84 –0.12 *
  調整済み R2 0.330(p<0.01)
父親の育児参加に配慮した職場の環境
 育児のために制度を利用することについて上司の理解がある –0.25 0.85 –0.02
 各自の事情を理解し,良好な関係を築いている –0.51 1.38 –0.02
  調整済み R2 0.326(p<0.01)

*: p<0.05, **: p<0.01

重回帰分析,調整済みR2は分散分析により評価

IV. 考察

1. 父親の育児参加の実態

本研究は調査票の回収率が80%を超えており,父親の育児参加というテーマに対する父親自身の関心の高さが反映されていたと考えられる.先行研究においても,父親の育児参加は,母親の主観的健康観との有意な関連(岡本ら,2002)や,子どもの成長・発達を促す役割(加藤ら,2002)がある一方で,父親自身にとっても,児の遊び相手をよくする父親は,親としての発達に関する自己抑制や視野の広がり,生き甲斐の項目の点数が有意に高いこと(日隈ら,1999)が報告されており,父親自身が育児参加する意義に注目が集まってきている.

父親の育児参加の特徴は,子どもの身体的な世話全般に関わる傾向にある妻に比べて,子どもから笑顔や反応が返ってくる楽しく喜びの伴う関わりへの参加が高いこと(中山ら,2003)が明らかにされている.父親は育児参加測定尺度の項目のうち,「子どもと一緒に室内で遊ぶ」,「子どもを風呂に入れる」,「子どもをあやす」の参加頻度が比較的高く,本研究でも同様の傾向が見られた.

父親の育児参加測定尺度は1因子構造であり,この因子構造は未就学児の父親の育児参加を調査した先行研究(朴ら,2011)に一致していた.また,育児参加測定尺度得点の平均値は20.8点で,保育所に通う未就学児を持つ父親の育児参加を調査した先行研究(朴ら,2011尹ら,2011)と同程度の得点だった.しかし,平均値は尺度の全項目で週に1–2回実施していると換算することができ,父親は量的にはあまり育児参加していなかった.

2. 父親の育児参加に関連する要因

重回帰分析で適合度が最も良かったモデル2より,父親の育児参加は特に配偶者の労働形態や未就学児の数,労働時間と強く関連していた.この結果は,父親の労働時間の長さが父親の育児参加を減少させている(水落,2006),配偶者の労働形態によって父親の育児参加が変化する(Falceto et al., 2008; Hofferth et al., 2010),子どもの数が多いほど父親の育児参加が増大する(Ishii et al., 2004)という先行研究の知見に一致していた.

Goodman et al.(2008)は,父親が非支持的な職場環境であると認識していることが,父親の育児参加に否定的に関連することを指摘している.しかし,本研究は調査に回答した父親のほとんどが職場の環境を肯定的に捉えていたことにより職場の環境による有意差が検出されなかったと考えられる.職場の環境が肯定的であると父親が認識している状況では,育児に参加せざるを得ないという物理的な育児参加の必然性の高さが育児参加の促進要因となっていた.

父親の育児参加測定尺度で欠損値があり除外された80人は,分析対象となった266人に比べて有意に育児参加の項目平均点が低かった.80人の父親は,配偶者が就労している割合が低く,未就学児の数が少なく,保育施設に通っている子を持つ割合が少なかったが,これらの要因は266人の父親において育児参加測定尺度得点が低い要因に合致していた.したがって,分析に使用した266人の父親の特徴は346人の父親と同様の傾向を示していると考えられ,80人を分析から除外したことは結果に大きな影響を与えなかったと推察された.

3. 職場における育児支援制度の認知と利用の状況

5つの育児支援制度は十分認知され,いずれの制度も利用意向は50%を超えていたが,配偶者出産休暇制度以外の4つの制度の利用経験は著しく低かった.人事院による一般職の非現業国家公務員の育児支援制度に関する調査の概要に関するデータも同様に4つの制度の利用経験の低さを示していた(人事院,2010人事院,2012).多くの父親が配偶者出産休暇制度以外の育児支援制度を利用したくても利用できていなかったと考えられる.

配偶者出産休暇制度は,有給の休暇であることや配偶者の出産に伴う父親の協力の必然性が高い時期の取得であること,短期間で出産の前後という休暇の目処が付きやすい時期に取得可能であること,制度に対する職場の理解が高いこと,という特徴が利用経験の高さにつながっていたと考えられる.

4. 研究の強みと限界

本研究は調査票の回収率が高く,地方都市に公務員として勤務する父親の状況を反映していたと考えられる.一方で,父親の育児参加というテーマに対する父親自身の意識の高さを表しているとも考えることができる.

父親の育児参加測定尺度は,「父親が子どもと関わる頻度」を量的に測定した.しかし,Pleck et al.(2008)は父親の育児参加を父子の関係性の親密さや子どもを見守ること,父親として意思決定することという質的側面を調査していた.父親の育児参加は,父子で関わる時間や頻度が多いかという量的側面と,父親自身やその家族が父子の関わりに満足できるかという質的側面の2つがあり,今後は,父親の質的な育児の側面も合わせて調査していくことが重要である.

本研究は,父親が育児支援制度を利用しない理由や利用できない理由を調査しなかった.今後の研究でこれらの理由を分析し,職場環境の整備や職場風土の醸成を進めることが,父親の育児参加を促進するために重要と考える.

V. 結論

公務員として働く父親の育児参加は,特に配偶者の労働形態や未就学児の数,労働時間と強く関連しており,育児に参加せざるを得ないという物理的な育児参加の必然性の高さが促進要因となっていた.また,父親の育児支援制度の利用意向の高さに反して,配偶者出産休暇以外の制度は利用経験が著しく低かった.父親の育児参加を進めるためには,配偶者出産休暇制度のように短期間でも育児休業を取得すること,さらに配偶者の出産という育児参加の必然性が高い時期以外でも,試行的に育児休業を取得するという人が増加することが重要だろう.イノベーター理論では,ある一定層に行動が普及することにより,その行動が自己維持的に普及していくと言われている(Rogers, 2003).父親の育児支援制度の利用実績を積み重ねることが,制度の利用に対する職場の風土を変え,父親の育児参加を促進すると考えられる.

文献
 
© 2016 日本公衆衛生看護学会
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