日本公衆衛生看護学会誌
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研究
保健師が認識する学童期の発達障がい児支援の必要性
當山 裕子桃原 のりか小笹 美子宇座 美代子
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2016 年 5 巻 1 号 p. 21-28

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Abstract

目的:本研究の目的は,学童期の発達障がい児支援の必要性について保健師の認識を明らかにすることである.

方法:市町村保健師を対象とした自記式質問紙調査を実施した.「保健師による学童期の発達障がい児の支援は必要だと思いますか」という問いに「はい」と回答し,その理由を記載していた85名の自由記述を,質的帰納的研究法で分析した.

結果:発達障がい児の学童期支援が必要と思う保健師は,支援が必要となる背景として,『学童期に新たなニードが現れることがある』『学校外の支援者が必要である』『多職種が連携した支援が必要である』と認識していた.そして発達障がい児の『親・家族支援によって児の発達を助ける』ことや,『地域での育ちを保障する』ことを支援の目的と保健師は認識していた.

結論:発達障がいを持つ児の地域での育ちを保障するという長期的な視点で保健師による発達障がい児への学童期支援の必要性が示唆された.

I. 緒言

保健師は乳幼児やその保護者に対し,乳幼児健康診査(以下,健診)や家庭訪問,教室活動などを通し,様々な母子保健サービスを展開している.1980年代は保健事業全体に占める母子保健の割合が高く,予防接種や健診に多くの時間が費やされていた.健診では,脳性まひや先天性股関節脱臼がスクリーニングの対象であり,スクリーニングを通しての早期発見や保健から福祉・教育へとつなぐことが保健師の重要な役割であった(西牧,2005).しかし,1990年代には小児肥満の問題,そして最近10年間では発達障がいの問題と母子保健における課題は移り変わってきた(平岩,2011).

2005年4月に施行された発達障害者支援法では,健診時に発達障がいの早期発見に励むとともに,乳幼児期から成人期までの地域における一貫した支援の促進や関係者の緊密な連携などが明記されている.杉山(2009)によれば,児は成長に伴って保育園や幼稚園から小学校に入学し,集団の中で生活の方法を学ぶが,多くの発達障がい児は集団での活動を苦手とし,孤立感,ストレス,自尊感情の低下を経験する.このような経験は発達の妨げになり,二次的な障がいを引き起こすことになりかねない.発達障がいを持つ児にとってその後の社会生活の基礎を築くうえで学童期は重要な時期である.

しかし,保健師は健診などで発達に遅れのある児を発見し療育機関等に通園するようになった後は,福祉や教育分野の担当者に支援を引き継ぎ,保健師の支援は途絶えることが多く,学校教諭・養護教諭と連携していない保健師も多い(筒井ら,2006).また保健師の中には保健師の役割終了時期は対象児の就学時期であると考える人も多い(高見,2008).

発達障害者支援法では,ねらいの一つとして乳幼児期から成人期までの地域における一貫した支援の促進が期待されているが,保健師による学童期の発達障がい児支援について明確な指針等はない.また先行研究においても,就学前の発達障がい児やその特性を持つ児の発見や支援に関する研究は多くみられるが,学童期の発達障がい児支援における保健師の役割や機能等を検討している研究はみあたらない.

そこで,本研究では保健師の学童期の発達障がい児支援について検討するために,発達障がい児に対する学童期の支援の必要性について保健師の認識を明らかにすることを目的とした.

II. 方法

1. 調査対象

対象者はO県内の市町村保健師である.県内の全市町村(41市町村)の統括的立場の保健師に口頭で研究の趣旨や方法を説明し,全市町村から研究参加への同意が得られた.調査対象者は保健師319名である.

2. 調査方法

調査は無記名自記式質問紙を用いて行った.調査票は,自治体ごとに調査の窓口を担う保健師(窓口保健師)へ届け,所属の各保健師へ配布した.調査票に回収用の封筒を添付し,回答者各自で密封した後,窓口保健師へ提出し,調査者が回収した.調査期間は,2012年4月から5月である.

3. 倫理的配慮

調査票に調査依頼書を添付し,研究の目的と方法,匿名性,研究参加の自由,回答を拒否する権利,回答が困難な場合には回答しなくてもよい事を記載し,調査票の項目の最前列に研究参加の同意の有無を選択できる項目を設けた.なお,本研究は琉球大学疫学研究倫理審査委員会の承認(2012年2月15日付)を得て行った.

4. 調査項目

調査項目に,「発達障がい児の支援において,保健師による学童期の支援は必要だと思いますか.」という問いを設け,「はい」「いいえ」から選択してもらった.引き続き「なぜそう思うのか理由を教えて下さい.」と記載し,自由記載欄を設けた.また基本属性(年齢,性別,保健師としての勤務年数)に関する項目を設けた.

5. 分析方法

調査票が回収できたのは210名(回収率66.7%)であった.

「発達障がい児の支援において,保健師による学童期の支援は必要だと思いますか.」という問いへの回答者は193名であった.この問いに「はい」と選択した者100名のうち自由記載欄に記入のあった85名の記載内容をデータとして使用した.

記載された自由記述について,支援が必要な理由に着目し,質的帰納的研究法を用いて分析した.自由記述の全回答にデータ番号をつけ,素データ一覧表を作成した.その中からデータの意味内容の類似性や相違性を検討しながら分類し,データの集合体をサブカテゴリーとした.サブカテゴリーも同様にその意味内容の類似性・相違性に着目しカテゴリーを生成し,保健師が支援する必要性を表現するカテゴリー名を命名した.分析過程において質的研究の専門家からスーパーバイズを受けた.

6. 用語の表記

発達障がいの表記について,論文中では「発達障がい」を用い,法律名は「発達障害」,保健師が記述したデータや引用文献は記載されたままで表記するという方法で統一した.

III. 結果

1. 対象者の概要

保健師による学童期の発達障がい児の支援は必要だと思いますかという問いへの回答者は193名であり,平均年齢36.7歳,保健師としての経験年数別では5年以下(新任期)が60名(31.4%),6~20年(中堅期)が113名(58.2%),21年以上(管理期)が20名(10.3%)であった.

保健師による学童期の発達障がい児の支援は必要だと思いますかという問いに「はい」を選択した者は100名(51.8%),「いいえ」を選択した者が93名(48.2%)であった.勤務年数別にみると5年以下(新任期)は「はい」39名(65.0%),「いいえ」21名(35.0%),6~20年(中堅期)では「はい」52名(46.0%),「いいえ」61名(54.0%),21年以上(管理期)では「はい」9名(45.0%)「いいえ」11名(55.0%)であった.

自由記載欄に記入のあった分析対象者85名の性別の内訳は女性74名(87.1%),男性11名(12.9%),平均年齢35.5歳(標準偏差7.9歳),保健師としての勤務年数別では新任期が31名(36.5%),中堅期が46名(54.1%),管理期が8名(9.4%)であった.

2. 保健師が捉える発達障がい児の学童期支援の必要性

分析対象者85名の自由記述を質的帰納的に分析した結果を表1に示した.自由記述から,91のデータが得られ,そのデータから15のサブカテゴリーが得られた.それからさらに5のカテゴリーが生成され,保健師が捉える発達障がい児の学童期支援が必要となる背景,支援の目的に分類された.

表1  発達障がい児の学童期支援が必要と考える保健師の認識
分類 カテゴリー サブカテゴリー









学童期に新たなニードが現れることがある 成長に伴い新たな課題が出て来る
乳幼児期に発見できないケースがいる
学校外の支援者が必要である 学童期は保護者へのサポートが少ない
教員の理解や支援体制が不十分である
学校側が支援していても補助的にかかわる必要のあるケースがいる
保健師は地域で関われる数少ない専門職である
多職種が連携した支援が必要である 療育や福祉サービスが必要である
乳幼児期の支援で形成された信頼関係がある
多職種が連携して支援する




親・家族支援によって児の発達を助ける 親への支援で児の発達を助ける
親や家族支援が必要である
地域での育ちを保障する 地域で生活しているので支援対象である
ライフサイクルに応じた途切れない支援が必要である
乳幼児期の情報を次の支援者へ引き継ぐ
地域で支える仕組みを作る必要がある

発達障がい児の学童期支援が必要と思う保健師は,支援が必要となる背景として,『学童期に新たなニードが現れることがある』『学校外の支援者が必要である』『多職種が連携した支援が必要である』と認識していた.

そして発達障がい児の『親・家族支援によって児の発達を助ける』『地域での育ちを保障する』ことを支援の目的と保健師は認識していた.

以下,カテゴリー『』ごとにサブカテゴリー《》やデータ〈〉を用いてカテゴリー化の過程を説明する.

1) 支援が必要となる背景

(1) 『学童期に新たなニードが現れることがある』

発達障がい児は〈発達段階に応じてそれぞれの課題,問題がある〉〈その後のひきこもり,子の社会性の遅れが予測される〉〈学童期に二次障がいとして不登校や非行など起こした時に本人への理解がされにくい〉ので〈本人の状況を確認する〉必要があり,発達障がい児は《成長に伴い新たな課題が出て来る》と保健師は認識していた.

また,〈乳幼児期健診が未受診で障がいの発見のできなかった子どもがいる〉ことや〈乳幼児期に把握できないことも多い〉ので〈学童期や青年期になって発覚する事例も多々ある〉ことから発達障がい児は《乳幼児期に発見できないケースがいる》と保健師は認識していた.

このように発達障がい児には《成長に伴い新たな課題が出て来る》や,《乳幼児期に発見できないケースがいる》ことから,保健師は発達障がい児には『学童期に新たなニードが現れることがある』と捉えていた.

(2) 『学校外の支援者が必要である』

〈支援が就学するとはなれてしまうケースの場合,保護者が相談できる人がなく,悩んでいることが多い〉ことや〈就学すると児は特別支援等を受けた場合,親へのサポートや関わりが少ないように思う〉などから発達障がい児の《学童期は保護者へのサポートが少ない》と保健師は認識していた.

〈教員の発達障害に対する捉え方がまだ不十分だから〉,〈校内の環境整備〉が必要であり,〈学校の職員は異動が多いため,保護者との間に入って情報の共有が必要〉なことなどから,発達障がい児に対する《教員の理解や支援体制が不十分である》と保健師は認識していた.

〈特に気にかかるケースは養護教諭や担任と情報を把握し合って経過を見ていく〉ことや〈学童期は主は学校保健の部分で行っていくべきだと思うが,補助的に保健師の支援を必要とするケースもある〉こと,〈学校でカバーできる部分は学校に任せ,支援が必要な時には連携をとる〉から,発達障がい児は《学校側が支援していても補助的にかかわる必要のあるケースがいる》と保健師は認識していた.

〈発達障害についての啓発普及がまだ進んでいない〉ことや〈離島のため,現状として関われる専門職種が他にいない〉ことなど地域の状況を保健師は把握していた.また発達障がい児やその家族が〈役場に相談に来る〉ため,〈ご両親や本人の相談窓口〉として〈保健師は専門職として支援できる存在〉となっている.このように学童期の発達障がい児支援において《保健師は地域で関われる数少ない専門職である》と保健師は認識していた.

以上のように発達障がい児の《学童期は保護者へのサポートが少ない》《教員の理解や支援体制が不十分である》,《学校側が支援していても補助的にかかわる必要のあるケースがいる》や,学童期の発達障がい児の支援に《保健師は地域で関われる数少ない専門職である》ことから,保健師は発達障がい児の学童期は『学校外の支援者が必要である』と捉えていた.

(3) 『多職種が連携した支援が必要である』

発達障がい児は学童期も〈適切な療育の継続支援〉や〈福祉サービスの活用〉があることから,《療育や福祉サービスが必要である》と保健師は認識していた.また保健師は〈児とその家族との信頼関係が形成されている場合が多い〉ことや,〈乳幼児からの関わりで母との信頼関係ができている〉ことから,児やその家族と《乳幼児期の支援で形成された信頼関係がある》と保健師は認識していた.

保健師が学童期の発達障がい児を支援するには〈養護教諭との連携〉や〈専門機関の紹介など,学校現場との連携〉が必要である.発達障がい児の支援は〈各専門視点での介入やその介入により対象者の安心した生活につなぐことが出来る〉ので〈多くの職種でかかわったほうがよい〉と考え,保健師は学童期の発達障がい児支援は《多職種が連携して支援する》と認識していた.

以上のように,学童期も発達障がい児には《療育や福祉サービスが必要である》が,保健師には《乳幼児期の支援で形成された信頼関係がある》という特性を生かした支援ができ,また,発達障がい児には学校や療育関係者など《多職種が連携して支援する》必要があるので,学童期の発達障がい児は『多職種が連携した支援が必要である』と保健師は捉えていた.

2) 支援の目的

(1) 『親・家族支援によって児の発達を助ける』

発達障がい児の支援において〈障がいの受容から育児不安への支えなど特に保護者への支援が必要〉である.〈親への介入により,児への関わりの重要性や親の行動を促せる〉ことや〈発達障がい児支援には親子関係の構築が最重要と痛感したことが多い〉経験から,《親への支援で児の発達を助ける》と保健師は認識していた.

また,学童期にも発達障がい児の〈母親に対してのサポート〉や〈親の心の支援〉が必要であり,〈対象者への直接的な支援と同じくらい親への支援が必要〉で,〈家族にどう関わったらよいかを助言し,支えることは必要〉なので《親や家族支援が必要である》と保健師は認識していた.

以上のように,発達障がい児の《親への支援で児の発達を助ける》ことや,学童期も《親や家族支援が必要である》ことなどから,学童期の発達障がい児の『親・家族支援によって児の発達を助ける』と保健師は捉えていた.

(2) 『地域での育ちを保障する』

発達障がい児も〈地域で生活していることに変わりはないので,支援は必要〉であり,〈地域で支援していくためには発達の段階で区切ることはできないので,すべて支援する必要がある〉など,学童期の発達障がい児も《地域で生活しているので支援対象である》と保健師は認識していた.

発達障がい児は卒業して〈学校を離れたら地域での支援は必要〉であり,〈ライフサイクルに応じて途切れない支援が必要〉である.保健師は〈生涯を通して支援するもの〉であり,〈途切れない支援をコーディネートする役割は保健師〉にあることなどから,保健師は発達障がい児に対して《ライフサイクルに応じた途切れない支援が必要である》と認識していた.

発達障がい児の〈学童期の支援において乳幼児期の生育歴や支援の状況などの情報は必要〉であり,〈保健師はこれまでの経過を把握している〉ので,〈最も関わりが深くなるであろう機関へのつなぎや情報提供の部分で支援が必要〉であることなどから,保健師は《乳幼児期の情報を次の支援者へ引き継ぐ》ことが必要であると認識していた.

発達障がい児がいる〈対象世帯の支援を地域で可能にするため〉,〈その子がその地域でうまく適応できるようサポートが必要〉であり,〈地域での支援ネットワークをつくっておく〉ことが必要である.保健師が関わることで〈地域への理解や関係者間の連携を作っていける〉,〈学童期より先(将来)まで含めた支援が可能になる〉など,保健師は〈一貫したサポート体制確立のため〉,発達障がい児を《地域で支える仕組みを作る必要がある》と認識していた.

以上のように,学童期の発達障がい児も《地域で生活しているので支援対象である》ため,健全な発達を助けるには《ライフサイクルに応じた途切れない支援が必要である》.そのためには保健師が持っている《乳幼児期の情報を次の支援者へ引き継ぐ》ことが必要であり,発達障がい児やその家族を《地域で支える仕組みを作る必要がある》ことから,保健師は学童期に支援することによって発達障がい児の『地域での育ちを保障する』と捉えていた.

IV. 考察

1. 発達障がい児の学童期支援が必要となる背景

健康診査などの母子保健事業の中で発達障がいの課題に対応する際の留意点として,児の臨床像が年齢や療育・生育環境によって変化するため,「気づきの難しさ」と「フォローアップの大切さ」が言われている(小枝,2011).保健師による発達障がい児の学童期における支援が必要と思う保健師は,発達障がい児に関して学童期に新たなニードが現れることを認識していた.発達障がいの特性を理解し,学童期に達した児の学校生活への適応を確認することや,学校関係者から発達障がいが疑われる児に関する情報を収集しアセスメントすることは,発達障がい児に対する個の支援だけでなく,保健事業の評価に資すると考える.

発達障がいを持つ児にとって学童期の過ごし方は,後の青年期への準備のためにも重要であると言われている(杉山,2009).学校側が地域保健との連携を必要としているのは,課題のある子どもへの対応や課題のある家庭への働きかけであり,学校は乳幼児期に子どもや家庭に密接にかかわることの多い地域保健に,就学前や家庭に関する情報・対応の仕方に関する助言を求めている(松田ら,2007).学校が家庭に直接介入することは難しいが,地域保健と連携することで,家庭への介入を分担して対応できたという報告もある(松田ら,2007).今回の結果からも,発達障がい児の《学童期は保護者へのサポートが少ない》ことや《学校側が支援していても補助的にかかわる必要のあるケースがいる》,《教員の理解や支援体制が不十分である》ことなど保健師は学校側の実情や保護者側のニーズを捉え,学校外の支援者が必要であると認識していることが分かった.発達障がい児が学童期に達しても学校関係者だけでは支えられない部分もあり,また児や家族の状況から保健師の支援が有効な場合もある.発達障がい児が学童期を健康的に過ごすためにも学校外の支援者である保健師の関わりが必要とされていると考える.

学童期は,通学する学校の教員だけでなく,療育を提供する機関の関係者や福祉サービスの提供者など多くの関係者が児の生活や発達に関わる.つまり発達障がい児やその家族は『多職種が連携して支援する』必要性があり,保健師は乳幼児期の関わりから児やその家族と信頼関係ができている支援者の一人である.連携にはシステムの中で個人が緩やかにヘルスケアのニーズに対応するLinkageからCoordinationを経て,多様なシステムからの様々な新しいサービスを作り出す完全な統合を示すFull integrationまでの構造があるという(筒井,2013).保健師は多職種と連携して児を支援していく中で,常に児やその家族へ中心的にかかわるということではなく,学童期の新たなニードの出現や関係者の状況などをアセスメントし,その状況に合わせて強弱をつけた関わりをする必要がある.

2. 発達障がい児への学童期支援の目的

発達障がい児への学童期支援を必要と思う保健師は,親・家族支援によって児の発達を助けることを支援の目的としていると捉えた.

保健師は発達障がい児支援において小学校入学後のフォローアップ期には「保護者を支援すること」「保育園,小学校と連携する」「間接的に支援する」役割を担っており,就学準備期からフォローアップ期まで継続的で一貫性のある支援が有用であると報告されている(高橋ら,2008).また,発達障がいを持つ子どもを持つ親は就学後も支援体制の整備や個別性に応じた支援,親同士のつなぎなどを希望しており,将来の不安への支援を求めている(中井ら,2012).本研究にも〈障がいの受容から育児不安への支えなど特に保護者への支援が必要〉や,〈発達障がい児支援には親子関係の構築が最重要と痛感したことが多い〉という保健師の経験,〈対象者への直接的な支援と同じくらい親への支援が必要〉であるなど,親や家族支援が必要であることが記述されていた.これは先に述べた保健師が学童期の発達障がい児支援に関わる必要性の背景として捉えた,発達障がい児は《成長に伴い新たな課題が出てくる》ことや《学童期は保護者へのサポートが少ない》ことに対応できる支援であると考える.また虐待のリスク要因として子の育てにくさや,親の社会的孤立などがある(社会福祉法人恩賜財団母子愛育会日本子ども家庭総合研究所,2014)が,保健師が発達障がい児を持つ親の相談相手になることや,社会的孤立を防ぐ親同士のネットワーク形成支援を行うことによって虐待のリスク軽減にもつながると考える.

また,学童期支援が必要と思う保健師は,学童期も発達障がい児は地域で生活しているので支援対象であり,ライフサイクルに応じた途切れない支援や地域で支える仕組みを作ることなど,発達障がい児の『地域での育ちを保障する』ことを支援の目的としていた.青年期における広汎性発達障がい者や家族への個別支援として,保健師は「困っていることにそって一緒に考える」ことから支援が始まることが報告されている(塩川ら,2013).発達障がい児や家族が,学童期や青年期になって困ったことが起きた時に保健師が関わってくれるという保障はその後の生活に安心感をもたらし,生活の質を高める要因になると考える.

5歳児健診の発達スクリーニングの実施と健診後の情報提供を学校側と連携している事例から,子供の状況の把握と支援方法の引継ぎがスムーズに行われることでグレーゾーンを含めた子供たちを迎え入れる学校側の支援体制が整いやすくなるという報告(橋本,2011)がある.発達障がい児の《乳幼児期の情報を次の支援者へ引き継ぐ》ことが重要であり,保健師が乳幼児期の関わりを活かした支援を行うことで学童期の発達障がい児の支援体制が整い,より健康的で発達を助ける環境作りに寄与すると考える.

また今回の結果から保健師は個別支援に限局せず,学童期の発達障がい児支援を通して地域における支援ネットワーク形成や発達障がいに関する理解を促すきっかけとなるなど,支援の広がりや地域で支える仕組み作りを意図しており,これはヘルスプロモーションとして健康的な公共政策づくりや健康を支援する環境づくりと合致するものである.保健師は乳幼児期・学童期といった区分にとらわれず,ライフサイクルに応じた途切れない支援や学童期より先を含めた支援という長期的な視点で発達障がい児への支援のあり方を考える必要がある.

3. 発達障がい児の学童期支援に関する保健師経験年数による認識の相違

保健師は発達障がい児支援の終了時期が就学を境とすることが多いとの指摘があり(高見,2008本田,2012),今回の結果でも保健師による学童期の発達障がい児の支援が必要だと思いますかという問いに「はい」を選択した者は約半数であった.選択した保健師を経験年数別にみると学童期の保健師の支援が必要かという問いに「いいえ」と選択した者は「はい」を選択した者より中堅期以降の保健師が多い結果であった.中堅期の保健師が抱える困難さに,地域に活動を広げることや関係者とのネットワークを構築していくことがあると言われており,これには自己の実践の評価の低さや自信のなさが関連すると指摘されている(佐伯ら,2004平野ら,2007).また,発達障害者支援法は2005年施行であり,管理期の保健師にとって学童期の発達障がい児は新たな支援対象者として馴染みのない存在となっている結果とも考えられる.加えて,近年の自治体における保健事業は法令・通知などによって義務化された事業が多数下りてきているが,保健師の増員や現任教育体制も不備な状態の中で活動していることの報告もある(公益社団法人日本看護協会事業開発部,20112012).個別支援にとどまらず発達障がい児の地域での育ちを保障する地域活動を展開するには,保健師の人員確保や現任教育の充実が欠かせないと考える.

4. 本研究の限界と今後の課題

今回の研究は,保健師による学童期の発達障がい児の支援の必要性を一県内の市町村保健師から回収した自記式調査用紙の自由記載から検討した結果であり,市町村保健師が捉える学童期の発達障がい児支援の在り方について一定の知見を示すことが出来たと考えるが,一般化するには地域を変えたさらなる調査が必要である.また,学童期の発達障がい児に保健師による支援が必要であると考える保健師の,その理由を記述する欄のデータのみを用いたため学童期の発達障がい児支援における保健師の認識が十分に反映できているとは言えない.今後,支援経験のある保健師へのインタビュー調査等を重ね,学童期の発達障がい児への支援内容や役割の検証を深めることが課題である.

V. 結語

発達障がい児に対する学童期の支援の必要性について保健師の認識を検討した.発達障がい児の学童期支援が必要となる背景として,発達障がい児は『学童期に新たなニードが現れることがある』『学校外の支援者が必要である』や『多職種が連携した支援が必要である』と保健師は認識していた.保健師は発達障がい児の『親・家族支援によって児の発達を助ける』『地域での育ちを保障する』ことを支援の目的としていた.発達障がいを持つ児の地域での育ちを保障するという長期的な視点で保健師による発達障がい児への学童期支援の必要性が示唆された.

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