日本公衆衛生看護学会誌
Online ISSN : 2189-7018
Print ISSN : 2187-7122
ISSN-L : 2187-7122
研究
中壮年期のソーシャルキャピタルの構成要素と地域共生意識との関連
大西 恵理後閑 容子石原 多佳子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 5 巻 1 号 p. 37-46

詳細
Abstract

目的:中壮年期を対象にソーシャルキャピタルの構成要素と地域共生意識との関連を明らかにし,地域における中壮年期からの社会参加を促進するための資料を得ることを目的とする.

方法:A県Y市に住所を有する日本人40歳代,50歳代のうち1,020名を対象に郵送による無記名自記式質問紙調査を行った.

結果:有効回答295名を解析対象者とした.ソーシャルキャピタルは【信頼】と【つき合い・交流】間のみ関連が認められた.地域共生意識に影響を与えているソーシャルキャピタルの項目は『一般的な信頼』『近隣でのつき合い』〈職場の同僚とのつき合いの頻度〉(F(3.260)=51.77 p<0.01)であった.

結論:中壮年期世代のソーシャルキャピタルの「構成要素」は【信頼】,【つき合い・交流】間にのみ関連があり,【社会参加】との関連は認められなかった.地域共生意識と近隣や職場の同僚とのつき合いに関連が認められたことから,中壮年期世代が従来から活動している身近な場所において社会参加への支援を行うことは,地域における中壮年期からの社会参加活動支援に対し有効である.

I. 緒言

わが国は世界一の長寿国であり,65歳以上の高齢者人口は3,079万3千人(2012年10月1日現在)(総務省統計局,2013),5人に1人が高齢者という本格的な高齢社会を迎えている.多くの高齢者は健康で就労意欲も高く,家族や地域とのつながりを持ち生活をしている.しかしその一方で,高齢者の単身世帯割合は上昇を続け,日常的に人との交流をもたない社会的に孤立した生活を送る高齢者もいる(内閣府,2010).内閣府が,60歳以上の男女を対象に実施した「高齢者の生活実態に関する調査」(内閣府,2008),「高齢者の地域におけるライフスタイルに関する調査」(内閣府,2009)によると,日頃の会話について「2~3日に1回以下」と回答した高齢者は,単身世帯では3割以上となっている他,「友人とのつき合いが少ない」,「近所とほとんどつき合いがない」と答える人は1~2割程度と,他の世帯構成よりも高い割合となっている.こうした「友人・近隣・親族との交流頻度が少ない」といった高齢者の生活は,閉じこもり状態を発生させる1つの要因として報告されている(渡辺ら,2007).高齢者の閉じこもり状態は年齢とともに上昇し(渡辺ら,2005),要介護移行や死亡の発生を高めるリスク因子であると指摘されている(新開ら,2005).しかし,高齢者が積極的に地域活動へ参加することにより,健康障害や死亡を低減させることが報告されており(杉澤,1994),早期からの地域活動参加支援は閉じこもり予防に対する1つの重要な施策であるといえる.

また近年,「人と人の支え合い」の基礎ともなる資本をさす,ソーシャルキャピタルが注目されている.ソーシャルキャピタルとは,Robert・D・Putnamが提唱し,人々の協調行動を活発にすることにより,社会の効率性を高めることができる「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴をさすものであり,ソーシャルキャピタルが豊かな地域は市民活動が活発であり,また反対に,市民活動が活発であればソーシャルキャピタルが豊かであることが報告されている(内閣府,2003).しかし,ソーシャルキャピタルを効率よく醸成していく方法は明らかにされていない.

そして,地域には地域特有の地域共生意識というものが存在し,地域コミュニティの形成に影響を与えることがわかっている(田中ら,1978).高齢化が進む現在,自宅で最期を迎えたいという希望も,地域への愛着や日常的に関係を持っている組織や人の存在が影響することから,その地域に住み続けたいと思える方策の重要性が指摘されている(島田,2014).地域で暮らす人々が,高齢になっても健康で豊かな生活を送るためには,市民活動の活発化及び地域コミュニティ活性化のための社会参加支援を行うことが有効であると考える.しかし,地域で暮らす中壮年期を対象としたソーシャルキャピタルに関する研究及び,社会参加支援方法について記した研究は見当たらない.そこで,地域で暮らす中壮年期のソーシャルキャピタルの構成要素と地域共生意識との関連を明らかにし,地域における中壮年期からの社会参加を促進するための資料を得ることを目的とし調査を行った.

II. 研究方法

1. 調査対象者,調査方法,調査期間

本研究では,中壮年期を,持ち家所有率が半数を超える40歳から退職までの59歳とし(総務省統計局,2008),2011年4月1日現在,A県Y市に住民登録をしている40歳代3,534人,50歳代4,206人の日本人を対象とした.Y市は2003年に2町1村が合併して出来た市であり,住宅が密集する市街地と山間部で過疎化が進行する地域とが混在し,高齢化率及び単独世帯が増加傾向にあるだけでなく,地縁活動が薄まりつつある地域である.そのため抽出に際しては,各地域から抽出できるよう地域(旧町村)別,男女別,年代別(40歳代,50歳代)に層化し,市の住民基本台帳から無作為抽出した.調査人数は,最小地域の人口数と市で過去に実施されたアンケート回収率などから勘案し,各群(地域,男女,年代別)85人からなる合計1,020人とした.調査期間は2011年8月から9月末までとし,郵送法による無記名自記式質問紙調査により行った.

2. 調査項目

1) ソーシャルキャピタルに関する調査項目について

本研究では,2003年内閣府において実施された「市民活動とソーシャルキャピタルの定量的把握」(内閣府,2003)に関する調査項目を使用した.この調査項目におけるソーシャルキャピタルの構成要素は,Putnamの概念に基づき「人々の信頼」,「ネットワーク」,「互酬性の規範」である.本研究では「人々の信頼」,「ネットワーク」,「互酬性の規範」をそれぞれ【信頼】,【つき合い・交流】,【社会参加】として分析し把握した.ソーシャルキャピタルの構成要素を表1に示す.以下,ソーシャルキャピタルの構成要素について,【 】は大項目,『 』は中項目,〈 〉は調査項目を表す.

表1  ソーシャルキャピタルの構成要素
大項目 中項目 調査項目
信頼 一般的な信頼(2~20点) ・一般的な人への信頼(1~10点)
・見知らぬ土地での人への信頼(1~10点)
相互信頼相互扶助(4~20点) ・近所の人々への期待・信頼(1~5点)
・友人・知人への期待・信頼(1~5点)
・親戚・親類への期待・信頼(1~5点)
・職場の同僚への期待・信頼(1~5点)
つき合い・交流 近隣でのつき合い(2~8点) ・隣近所とのつき合いの程度(1~4点)
・隣近所とつき合っている人の数(1~4点)
社会的な交流 ・友人・知人とのつき合いの頻度(1~5点)
・親戚・親類とのつき合いの頻度(1~5点)
・職場の同僚とのつき合いの頻度(1~5点)
・スポーツ・趣味・娯楽活動への参加頻度(1~6点)
社会参加 地縁的活動への参加(1~6点) ・地縁的活動への参加頻度(1~6点)
ボランティア・NPO市民活動への参加(1~6点) ・ボランティア・NPO・市民活動への参加頻度(1~6点)

【信頼】は2つの中項目から構成され調査項目は6項目である.『一般的な信頼』は,「一般的に人は信頼できると思いますか」,「見知らぬ土地で出会う人についてはどうですか」と質問をした.回答は,「ほとんどの人は信頼できる」を1として,「中間」を5,「注意するにこしたことはない」を9,「わからない」を10とする順序尺度で得た.『相互信頼相互扶助』は,特定の人を対象として相互に信頼し相互に助け合うことをさすため,本調査においては近所の人々,友人・知人,親戚・親類,職場の同僚を特定の人として,「日常生活の問題や心配ごとについて,相談したり頼ったりする人や組織がありますか」と質問をし,回答は「近所の人々」,「友人・知人」,「親戚・親類」,「職場の同僚」に対する思いをそれぞれ,「大いに頼りになる」,「ある程度頼りになる」,「どちらともいえない」,「あまり頼りにならない」,「全く頼りにならない」の5件法で得た.

次に【つき合い・交流】は2つの中項目から構成され調査項目は6項目である.『近隣でのつき合い』は近所の人とのつき合い方について,つき合いの程度とつき合いの頻度について質問をした.つき合いの程度は,「互いに相談したり日用品の貸し借りをするなど,生活面で協力しあっている人もいる」,「日常的に立ち話をする程度のつき合いはしている」,「あいさつ程度の最小限のつき合いしかしていない」,「つき合いは全くしていない」の4件法で回答を得た.つき合っている人の数は,「近所のかなり多くの人と面識・交流がある(概ね20人以上)」,「ある程度の人との面識・交流がある(概ね5~19人)」,「近所のごく少数の人とだけと面識・交流がある(概ね4人以下)」,「隣の人が誰かも知らない」の4件法で回答を得た.『社会的な交流』は,友人・知人,親戚・親類,職場の同僚との普段のつき合いの頻度について,「日常的にある(毎日~週に数回程度)」,「ある程度頻繁にある(週に1回~月に数回程度)」,「ときどきある(月に1回~年に数回程度)」,「めったにない(年に1回~数年に1回程度)」,「全くない(もしくは友人・知人はいない)」の5件法で回答を得た.また,〈スポーツ・趣味・娯楽活動への参加頻度〉については,「年に数回程度」,「月に1日程度」,「月に2~3日程度」,「週に1日」,「週に2~3日」,「週に4日以上」の6件法で回答を得た.

次に【社会参加】は2つの中項目から構成されており調査項目は2項目である.『地縁的活動への参加』,『ボランティア・NPO・市民活動への参加』は,それぞれ,「年に数回程度」,「月に1日程度」,「月に2~3日程度」,「週に1日」,「週に2~3日」,「週に4日以上」の6件法で回答を得た.

2) 地域共生意識に関する調査項目について

本研究における地域共生意識とは,「地域で暮らす個々人が,地域の諸問題,諸課題に対し,個々で,あるいは同時代を生きる近隣の人々と手を携えて解決し,共にその地域で生きていこうという意識」である.この意識は,田中ら(1978)が開発した尺度をもとに,金ら(2004)が,地域中高年者の地域共生意識を測ることを目的に構成した5項目「町内会や自治会の世話をしてくれと頼まれたら,引き受けてもよいと思う」,「地域の生活環境をよくするための公共施設の建設計画がある場合,自分の所有地や建物の供出にはできるだけ協力したい」,「自分の近所に1人暮らしの老人がいたら,その老人のために日常生活の世話をしてあげたい」,「地域の人々と何かをすることで,自分の生活の豊かさを求めたい」,「今住んでいる地域に,誇りとか愛着のようなものを感じている」を使用し,「そう思う」,「どちらかといえばそう思う」,「どちらともいえない」,「どちらかといえばそう思わない」,「そうは思わない」の5件法により回答を得た.

3) 基本属性に関する調査項目について

性別,満年齢,婚姻状況,職業,最終学歴,居住年数,居住のきっかけ,居住形態について質問し回答を得た.

3. 分析方法

分析は,各調査項目の内容に対して,頻度の多い方または,認識の程度が高い場合を最も高い得点とし,「わからない」と無回答は欠損値扱いとした.表2は,ソーシャルキャピタルを構成する大項目ごとに中項目,そして中項目ごとに調査項目を示し,それらの信頼性分析結果を示したものである.その結果,『一般的な信頼』(α=0.796)と『相互信頼相互扶助』(α=0.682),『近隣でのつき合い』(α=0.676)について内的一貫性を示す十分な値が得られたため,分析にはそれぞれの調査項目の合計得点を用いた.『社会的な交流』(α=0.486)と【社会参加】(α=0.366)については,内的一貫性を示す十分な値が得られなかったため,分析には調査項目をそのまま用いた.同様に地域共生意識(5項目)についてはα=0.791であったため合計得点を用いた.次に,ソーシャルキャピタルの3つの大項目間の関連をみるため『一般的な信頼』と『相互信頼相互扶助』,『近隣でのつき合い』,〈友人・知人とのつき合いの頻度〉,〈親戚・親類とのつき合いの頻度〉,〈職場の同僚とのつき合いの頻度〉,〈スポーツ・趣味・娯楽活動への参加頻度〉,〈地縁的活動への参加頻度〉,〈ボランティア・NPO・市民活動への参加頻度〉についてSpearmanの順位相関分析を行った.また,地域共生意識に影響を与えている要因を抽出するため,地域共生意識を従属変数とし『一般的な信頼』,『相互信頼相互扶助』,『近隣でのつき合い』,〈友人・知人とのつき合いの頻度〉,〈親戚・親類とのつき合いの頻度〉,〈職場の同僚とのつき合いの頻度〉を独立変数として重回帰分析ステップワイズ法を実施した.統計解析ソフトは,SPSS Ver.20.0 for Macintoshを使用し,統計学的有意水準は両側検定でp<0.05とした.

表2  ソーシャルキャピタルを構成する項目の信頼性分析
大項目 中項目 調査項目 n 平均(SD) Cronbachのα n 平均(SD)
信頼 一般的な信頼 ・一般的な人への信頼 285 5.14(2.32) 0.796 282 9.40(4.22)
・見知らぬ土地での人への信頼 284 4.25(2.31)
相互信頼相互扶助 ・近所の人々への期待・信頼 282 3.28(0.93) 0.682 259 12.48(3.41)
・友人・知人への期待・信頼 285 3.77(0.84)
・親戚・親類への期待・信頼 285 3.68(0.98)
・職場の同僚への期待・信頼 260 3.13(0.99)
つき合い・交流 近隣でのつき合い ・隣近所とのつき合いの程度 292 3.07(0.72) 0.676 292 6.13(1.26)
・隣近所とつき合っている人の数 293 3.07(0.73)
社会的な交流 ・友人・知人とのつき合いの頻度 292 3.45(0.92) 0.486 274 9.55(2.07)
・親戚・親類とのつき合いの頻度 292 3.35(0.85)
・職場の同僚とのつき合いの頻度 274 2.77(1.15)
・スポーツ・趣味・娯楽活動への参加頻度 90 3.12(1.26) 90 3.12(1.26)
社会参加 地縁的活動への参加 ・地縁的活動への参加頻度 199 1.44(0.67) 0.366 199 1.44(0.67)
ボランティア・NPO・市民活動への参加 ・ボランティア・NPO・市民活動への参加頻度 67 1.97(1.30) 67 1.97(1.30)

※信頼性分析:クロンバックのα係数.

※n=295 無回答・欠損値等は各項目ごとに除外したため,n数は各項目によって異なる.

4. 倫理的配慮

調査の実施にあたっては,調査用紙の表紙に調査の趣旨を記し,調査は無記名であり個人のデータを扱うものではないことを示したうえで,同意の場合のみ記入して返送することを求めた.また,収集したデータは鍵のかかる場所に保管し,研究目的以外には使用しないこととした.なお,岐阜大学大学院医学系研究科看護学専攻修士論文倫理審査小委員会の承認を受け実施した(承認日: 2011年8月8日).

III. 結果

1. 調査対象者の属性

対象者数1,020人(内宛先不明2人)のうち,回収数は300人(回収率29.5%)であった.このうち性別の記載がない回答不備を除く295人(有効回答率29.0%)を有効回答標本として分析した.

調査対象者の基本属性を表3に示す.調査対象者295人の性別は,男性118人(40.0%),女性177人(60.0%)であり,平均年齢は50.7(標準偏差0.6)歳であった.婚姻状況は,既婚254人(86.1%),未婚20人(6.8%),既婚(離・死別)18人(6.1%)であった.平均居住年数は,29.2年(標準偏差15.3年)であり,10年以上居住している人は272人,全体の92.2%を占めた.居住のきっかけは,生まれ故郷137人(46.4%)が最も多く,次いで結婚67人(22.7%),親が近くに住んでいる37人(12.5%)であった.居住形態は,289人(98.0%)が持ち家(1戸建て)であった.

表3  調査対象者の基本属性(n=295)
項目 人数 割合
性別 男性 118 (40.0%)
女性 177 (60.0%)
年齢 平均(SD) 50.7歳 (0.6歳)
40–49歳(39歳1名含む)男性43,女性84 127 (43.1%)
50–59歳(60歳6名含む)男性75,女性93 168 (56.9%)
婚姻状況 既婚 254 (86.1%)
未婚 20 (6.8%)
既婚(離・死別) 18 (6.1%)
不明 3 (1.0%)
職業 民間企業・団体の勤め人 76 (25.8%)
臨時・パート勤め人 73 (24.7%)
自営業,またはその手伝い 50 (16.9%)
公務員・教員 30 (10.2%)
専業主婦・主夫 29 (9.8%)
無職 14 (4.7%)
民間企業・団体の経営者,役員 12 (4.1%)
その他 11 (3.7%)
最終学歴 小中学校卒 17 (5.8%)
高等学校/専修学校,各種学校 198 (67.1%)
高専,短期大学/大学/大学院 80 (27.1%)
居住年数 平均(SD)range: 1–59 29.2年 (15.3年)
10年未満 23 (7.8%)
10~19年 72 (24.4%)
20~29年 64 (21.7%)
30年以上 136 (46.1%)
居住のきっかけ(重複回答) 生まれ故郷 137 (46.4%)
結婚 67 (22.7%)
親が近くに住んでいる 37 (12.5%)
地価が安い 34 (11.5%)
行政サービスが充実している 1 (0.3%)
生活子育てに便利 15 (5.1%)
通勤に便利 14 (4.7%)
転勤 7 (2.4%)
その他 26 (8.8%)
不明 7 (2.4%)
居住形態 持ち家(1戸建て) 289 (98.0%)
住み込み,寄宿舎,独身寮等 2 (0.7%)
民間の借家 1 (0.3%)
公営の借家 1 (0.3%)
借間,下宿 1 (0.3%)
その他 1 (0.3%)

2. ソーシャルキャピタルの3つの大項目間の関連について

【信頼】の『一般的な信頼』の調査項目に対する回答の平均値は,〈一般的な人への信頼〉は5.14であり,〈見知らぬ土地での人への信頼〉は4.25であった.『相互信頼相互扶助』の調査項目に対する回答の平均値は,〈友人・知人への期待・信頼〉が3.77と最も高かった.【つき合い・交流】の『近隣でのつき合い』の調査項目に対する回答の平均値は,〈隣近所とのつき合いの程度〉,〈隣近所とつき合っている人の数〉はともに3.07であった.【つき合い・交流】の『社会的な交流』の調査項目に対する回答の平均値は,〈友人・知人とのつき合いの頻度〉が3.45と最も高かった.【社会参加】の『地縁的活動への参加』,『ボランティア・NPO・市民活動への参加』の調査項目に対する回答の平均値は,〈地縁的活動への参加頻度〉は1.44,〈ボランティア・NPO・市民活動への参加頻度〉は1.97であった(表2).

次に,ソーシャルキャピタルの3つの大項目間においてSpearmanの順位相関分析を行った結果を示す(表4).

表4  ソーシャルキャピタルを構成する中項目又は調査項目間の関連
大項目 信頼 つき合い・交流 社会参加
中項目 一般的な信頼 相互信頼相互扶助 近隣でのつき合い 社会的な交流 地縁的活動への参加 ボランティア・NPO・市民活動への参加
調査項目 友人・知人とのつき合いの頻度 親戚・親類とのつき合いの頻度 職場の同僚とのつき合いの頻度 スポーツ・趣味・娯楽活動への参加頻度
n数 相関係数 n数 相関係数 n数 相関係数 n数 相関係数 n数 相関係数 n数 相関係数 n数 相関係数 n数 相関係数 n数 相関係数
信頼 一般的な信頼 250 .230** 281 .208** 281 .067 281 .118* 264 .062 89 .069 191 .093 65 .018
相互信頼相互扶助 257 .330** 257 .233** 257 .299** 255 .120 79 .108 177 .138 55 .226
つき合い・交流 近隣でのつき合い 291 .397** 291 .330** 273 .146* 90 .243* 196 .029 67 .057
社会的な交流 友人・知人とのつき合いの頻度 292 .318** 274 .265** 90 .203 196 –.009 67 .121
親戚・親類とのつき合いの頻度 274 .129* 90 .151 196 .061 67 –.110
職場の同僚とのつき合いの頻度 86 .111 182 .070 60 .205
スポーツ・趣味・娯楽活動への参加頻度 74 .004 30 .350
社会参加 地縁的活動への参加 56 .27*
ボランティア・NPO・市民活動への参加

※Spearmanの順位相関分析 両側検定 *p<0.05,**p<0.01

※n=295 無回答・欠損値等は各項目ごとに除外したため,n数は各項目によって異なる.

1) 【信頼】と【つき合い・交流】について

『一般的な信頼』と『近隣でのつき合い』において弱い正の相関(r=0.208, p<0.01)が認められた.そして,『一般的な信頼』と〈親戚・親類とのつき合いの頻度〉においては非常に弱い正の相関(r=0.118, p=0.049)が認められた.また,『相互信頼相互扶助』と『近隣でのつき合い』(r=0.330, p<0.01)においてはある程度の正の相関が,〈友人・知人とのつき合いの頻度〉(r=0.233, p<0.01),〈親戚・親類とのつき合いの頻度〉(r=0.299, p<0.01)においてはそれぞれ弱い正の相関が認められた.

2) 【社会参加】と【信頼】,【つき合い・交流】について

【社会参加】と【信頼】,【社会参加】と【つき合い・交流】においては,全ての項目間において有意な相関は認められなかった.

3. 地域共生意識とソーシャルキャピタルの3つの大項目との関連について

地域共生意識とソーシャルキャピタルの3つの大項目を構成する各項目間におけるSpearmanの順位相関分析の結果は,『一般的な信頼』(r=0.299, p<0.01),〈親戚・親類とのつき合いの頻度〉(r=0.257, p<0.01),〈職場の同僚とのつき合いの頻度〉(r=0.206, p=0.01)において弱い正の相関が,『相互信頼相互扶助』(r=0.303, p<0.01),『近隣でのつき合い』(r=0.543, p<0.01),〈友人・知人とのつき合いの頻度〉(r=0.313, p<0.01)においてある程度の正の相関が認められた(表5).

表5  地域共生意識とソーシャルキャピタルを構成する各項目との関連
ソーシャルキャピタル構成要素 n数 相関係数
項目名
信頼 一般的な信頼 278 .299**
相互信頼相互扶助 256 .303**
つき合い・交流 近隣でのつき合い 288 .543**
友人・知人とのつき合いの頻度 288 .313**
親戚・親類とのつき合いの頻度 288 .257**
職場の同僚とのつき合いの頻度 271 .206**
スポーツ・趣味・娯楽活動への参加頻度 90 .015
社会参加 地縁活動の頻度 197 .103
ボランティア活動の頻度 66 .172

※Spearmanの順位相関分析 両側検定 **p<0.01

※n=295 無回答・欠損値等は各項目ごとに除外したため,n数は各項目によって異なる.

4. 地域共生意識に影響を与えている要因について

地域共生意識に影響を与えている要因を抽出するため,地域共生意識を従属変数とし『一般的な信頼』,『相互信頼相互扶助』,『近隣でのつき合い』,〈友人・知人とのつき合いの頻度〉,〈親戚・親類とのつき合いの頻度〉,〈職場の同僚とのつき合いの頻度〉を独立変数として重回帰分析を実施した.その結果,地域共生意識に影響を与えている要因として『一般的な信頼』,『近隣でのつき合い』,〈職場の同僚とのつき合いの頻度〉(F(3.260)=51.77 p<0.01)が抽出された(表6).

表6  地域共生意識に影響を与えているソーシャルキャピタルの要因
従属変数 独立変数 標準化係数(β) p値
地域共生意識 一般的な信頼 0.18 0.001
近隣でのつき合い 0.52 <0.001
職場の同僚とのつき合いの頻度 0.13 0.007
R2 0.37

※重回帰分析ステップワイズ法.

IV. 考察

1. 中壮年期世代のソーシャルキャピタルの特徴

空閑(2010)の報告によると,ソーシャルキャピタルを構成する3つの大項目は,【信頼】,【ネットワーク】,【互酬性の規範】のいずれかが増えると,他のものも増えるという相互強化的な関係をもっている.また本研究と同様に,ソーシャルキャピタルの3つの構成要素を【信頼】,【つき合い・交流】,【社会参加】としてとらえ,各構成要素間の関連を調査した内閣府(2003)の「市民活動とソーシャルキャピタルの定量的把握」調査においても,ソーシャルキャピタルの各構成要素(【信頼】,【つき合い・交流】,【社会参加】)の程度が高い集団ほど,他の構成要素(【信頼】,【つき合い・交流】,【社会参加】)でも高い回答割合となる傾向が確認されている.ゆえに,ソーシャルキャピタルの3つの構成要素【信頼】,【つき合い・交流】,【社会参加】間には相互波及的な影響を及ぼす可能性が示されている.しかし,本研究における中壮年期のソーシャルキャピタルの3つの大項目【信頼】,【つき合い・交流】,【社会参加】間においては,【信頼】と,【つき合い・交流】を構成する項目との間にしか有意な関連は認められなかった.その理由の1つとして,本調査紙の【つき合い・交流】及び【社会参加】を構成する『社会的な交流』や『地縁的活動への参加』及び『ボランティア・NPO・市民活動への参加』に関する調査項目が,内的一貫性を示す充分な値を得ていないため,調査項目そのものに問題があった可能性も考えられる.今回の調査は,2003年内閣府において実施された「市民活動とソーシャルキャピタルの定量的把握」に関する調査項目をそのまま使用しているため,現時点において調査項目の構成に関して言及することはできないが,調査項目については今後更なる研究調査が必要と考える.

しかしながら,今回の調査結果からは【信頼】と,【つき合い・交流】を構成する項目との間に有意な関連がみられていることから,人への信頼や相互扶助が高い人は,近隣や友人,親戚とのつき合いが活発であるということが示唆された.このことは,本研究における中壮年期世代のソーシャルキャピタルの特徴といえる.小手川ら(2005)は中壮年期の老後に向けた準備行動として,老後を豊かにするために,友人や地域の人たちとのつき合いを大切にすると答えている人が多いことを報告している.福間ら(2002)も,壮年期から高齢期にかけて「友人・地域社会」という社会的なネットワークの形成に関して,絶えず努力している様子がうかがえたと報告している.本研究の対象者も,持ち家率が98%であり,かつ自営業者,専業主婦・主夫,無職の者が全体の約 3 割を占めていることから,比較的安定して地域で生活し,友人関係や近隣関係を活用して地縁活動やボランティア活動に参加しやすい集団であると思われる.そして,金ら(2004)は,65歳以降の男性は社会・奉仕活動に高い得点を有していたことを報告していることから,今後,この地域において中壮年期世代のソーシャルキャピタルの3つの大項目間を互いに関連させながら各々の要素を強めていくためには,地縁活動やボランティア活動といった社会参加活動に関心が芽生える退職時期にあわせ,中壮年期世代において既に構築されている個人レベルでの友人関係や近隣関係を活用し,地縁活動やボランティア活動への参加方法を提案していくことが重要といえる.

2. 地域共生意識と『ソーシャルキャピタルの「構成要素」』との関連について

地域共生意識と関連が認められた『ソーシャルキャピタルの「構成要素」』は,【信頼】と【つき合い・交流】を構成する項目であった.また,地域共生意識に影響を与える要因として『一般的な信頼』,『近隣でのつき合い』,〈職場の同僚とのつき合いの頻度〉の3項目が抽出された.これらの結果から,地域共生意識は,人への信頼,互いに助けあう気持ちのもち方,近隣や友人,親戚や職場の同僚等,生活や職場を共にする仲間とのつき合い方により影響を受けていると考える.谷垣ら(2002)は,中高年者の老後の生活に対する意識は,地域社会に対して愛着のある人,気の合う友人のいる人,つながりを大切にしている人,学区内の活動や行事に参加している人ほど高い傾向が認められたと述べている.そして小籔ら(2006)は,居住地域と一般的な人への信用との関係性は相対的に低いことを報告し,日本における一般的な人への信用は,ある特定の人々に対する信頼が基盤となって構成されている可能性を指摘している.以上のことから,近隣や職場など頻回に顔を合わせる場や機会を持つ人々はそこに関連する人への信頼や助け合いの精神を抱くだけでなく,その人々がいる地域への愛着をももちやすいことがわかる.そのため,中壮年期に対する社会参加活動支援を行うにあたっては,中壮年期が従来から活動している身近な場所において事業展開を行う方が,社会参加活動の発展に繋がりやすいと考えられ,有意義であるといえる.

3. 研究の限界

本研究では,中壮年期からの地域における社会参加活動への支援の方向性について一定の示唆は得られたが,地域特性として,都市部に比較し地縁関係が深い1つの特定された地域の住民から得たデータによる結果であるため,本研究で得られた結果を一般化するには限界がある.また,有効回答数は295人(29.0%)であり,家族形態や居住形態等の違いによる詳細な分析をするまでには至らなかったことからも,社会的・文化的背景の異なる集団に対するさらなる調査研究を行い,再現性を確認する必要がある.

V. 結論

本研究の中壮年期世代を対象とした『ソーシャルキャピタルの「構成要素」』は【信頼】,【つき合い・交流】間にのみ関連があり,【社会参加】との関連は認められなかった.

地域共生意識と関連が認められたソーシャルキャピタルは,【信頼】と【つき合い・交流】を構成する項目であり,そのうち『一般的な信頼』,『近隣でのつき合い』,〈職場の同僚とのつき合いの頻度〉は,地域共生意識に影響を与えていることから,中壮年期世代が従来から活動している身近な場所において社会参加への支援を行うことが,地域における中壮年期からの社会参加活動支援に対し有効であるといえる.

謝辞

本研究において,研究調査にご協力いただきましたA県Y市民の皆様に心より感謝申し上げます.

※本論文は,2012年度岐阜大学大学院修士課程に提出した論文の一部を加筆修正したものである.

文献
 
© 2016 日本公衆衛生看護学会
feedback
Top