日本公衆衛生看護学会誌
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活動報告
市町村に所属する保健師による精神障害者地域生活支援の内容
嶋澤 順子
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2016 年 5 巻 3 号 p. 250-258

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Abstract

目的:市町村保健師による精神障害者地域生活支援内容を明らかにし支援方法への示唆を得ることである.

方法:4市町村の精神保健福祉担当課に所属する保健師4名に半構造的面接調査を実施し,質的記述的分析を行った.

結果:支援内容は,ニーズの顕在化による支援の開始や集中,医療継続の確認と調整,当事者の主体的な精神病症状管理促進による悪化の予防と対策,家族の助力の確認と維持,世帯の経済的安定維持に向けた親族・専門機関との調整,在宅ケアサービスの適用とモニタリング,生活者である本人と周囲の人々との関係性把握と調整,主体的に自立していくことへの支持と促進,の8カテゴリーであった.

結論:支援は,多様な相談経路からの導入に続き医療と地域生活継続の基盤形成,次いで生活者として地域に生きる力の獲得というプロセスであった.方法として,プライマリレベルの多様な相談を受けて医療につなげる,他機関からのサービスと協働し補い合いながら家族を支える,障害者がその人らしく生きていける居場所を地域の中につくる,という示唆を得た.

I. はじめに

精神障害者の地域生活への移行と地域生活継続支援の一層の推進は,わが国の重要な施策として実施されている.精神障害者の地域生活継続の要件には,本人の意向に応じた生活支援サービスを受けながら社会参加すること等が挙げられている(厚生労働省,2009).しかし,在宅精神障害者をとりまく現状には,就労や住む場所の確保など対応急務な課題が山積している.具体的には,一般雇用の促進・公営や民間の賃貸住宅の入居促進・高齢精神障害者の生活の場の確保・未治療や治療中断者への支援強化などである.これらの課題に対して,地域の実情に即した障害福祉サービス整備が求められる一方で,自治体間におけるサービス内容の格差が生じている(矢島ら,2005).

精神障害者支援に関する先行研究は,当事者のニーズや社会参加について報告されたものが多い(関根ら,2008安保,2004Tempier, 1998).支援方法に関しては,病状が不安定な精神障害者のための退院支援ケアマネジメントモデルの開発やAssertive Community Treatment(以下ACT)の取り組みなどがある(宇佐美,2009).看護援助に着目した報告では,精神科訪問看護師のケア内容を詳細に調べ,活動評価の視点となるケアリストや家族ケアの方法,特徴等を示した報告がある(角田ら,2012瀬戸谷ら,2011吉田ら,2011吉田ら,2013).精神障害者支援が入院医療中心から地域生活中心へ移行する中において,地域生活継続をきめ細やかに支える看護支援へのニーズは,今後ますます高まると考えられる.

在宅精神障害者支援における保健師活動は,自治体におけるサービス提供の担い手として住民の潜在的なニーズを引き出しプライマリレベルの相談に応じるという特徴がある(嶋澤,2009).また,保健師は,公的機関に所属する看護専門職として個別のニーズを施策に反映させることで公益性の高い支援ニーズを充たす等の機能を持つ(宮崎ら,編,2007).平成18年度の障害者自立支援法施行後は,市町村の障害福祉担当課に配属された保健師が精神障害者支援を担当するなど,保健師の活動体制は大きく変化した.このような状況の中,市町村の保健師による精神障害者支援には,多様化する一次的相談・継続支援のみならず地域ケア体制づくりの推進などさらなる支援技術の強化が求められている.地域精神保健活動の第一線機関と位置づけられてきた保健所保健師の支援については,精神障害をもつ母親への支援(蔭山ら,2013)や医療中断のおそれのある精神障害者への支援(吉岡ら,2010)等いくつか報告がある.しかしながら,市町村保健師による支援に関しては,現状報告(姉歯,2011)がわずかにみられるのみである.現状に即した支援方法の蓄積は,障害者自立支援法施行後の地域精神保健福祉活動における保健師の役割を確認し活動評価の観点を示すために必要と考える.

そこで,本研究では市町村に所属する保健師による精神障害者の地域生活支援の内容を明らかにし支援方法への示唆を得ることを目的とした.本研究において精神障害者の地域生活支援とは,精神疾患を持つ人が生活者として地域で生きていくことを促すために,時間経過において複数回行われる継続した関わり,とした.

II. 方法

1. 研究デザイン

自治体に所属する保健師による精神障害者地域生活支援内容を明らかにするため,半構造的面接調査を実施し,質的記述的分析を行った.

2. 調査対象者と選定方法

調査対象者は,自治体の精神保健福祉担当部署に所属する保健師4名である.

4名は,常勤職員であり,責任を持って精神障害者支援に従事しているとして管轄の保健所保健師および地域看護学の研究者から調査対象候補者として推薦を得た.

3. 調査方法と調査内容

調査対象者各々に60~90分の半構造的な面接調査を実施した.面接回数は2回を基本とし,追加や確認したい内容がある場合はあらためて面接を設定するか電話で話を聞いた.

調査対象者である保健師に,担当する個別支援事例のうち「地域生活支援を継続している」と考える事例の選定を依頼し,分析対象事例とした.分析対象事例への関わりの初めから調査時点まで,精神障害者が生活者として地域で生きていくことを促すためにどのような出来事において誰に対し何を行ったかを時間経過に沿ってインタビューした.分析対象事例の概要は,面接調査開始時に調査対象者から説明を受けた.必要に応じて援助記録や関連の資料を調査対象者の了解を得て閲覧した.

4. 調査期間

2010年1月~3月.

5. 分析方法

1)精神障害者への地域生活支援として特に内容が豊富と調査時に推測された事例を分析の1例目とした.逐語録を熟読し,精神障害者の地域生活支援に関連すると考えられる事象に着目し,意味のある文脈としてひとまとまりの記述を抽出しデータとした.データは,内容の類似性に沿って分類し,同類のものでサブカテゴリーを生成した.

2)2例目以降も1)の手順で分析を行い,1例目で生成した項目の類似例を確認して,関連するデータを既にあるサブカテゴリーに追加した.関連が確認できないデータは新たなサブカテゴリーとして生成した.

3)生成したサブカテゴリーをさらに類似性に沿って分類し,カテゴリーを生成した.

4)生成したカテゴリー各々について,地域生活支援の内容として,その意味と関係を検討した.

6. 真実性の確保

データの解釈においては,状況とのずれが生じないように,何度も逐語録を読み返した.事実を正確に表す言葉を吟味することでその性質を最も適切に表すサブカテゴリーおよびカテゴリーの決定および典型的なデータの詳細な記述を行った.さらに,調査対象者である保健師には解釈内容を提示し,その内容が妥当であるか確認してもらい,必要に応じて修正を加えた.

7. 倫理的配慮

調査対象候補者に対し,調査の目的・方法・研究参加への任意性を説明し,調査協力の可否についての了承を本人から直接得た.調査対象者が所属する部署の管理責任者からも調査協力について了承を得た.

面接は,可能な限り業務に支障を来たさない時間と,プライバシーの確保が十分できる場所を設定し,実施した.また,個別援助事例内容は,面接および援助記録閲覧時いずれも連結不可能匿名化とした.

収集したデータは厳重に管理し,分析終了後は情報の保護に留意して,裁断等して廃棄した.

東京慈恵会医科大学倫理委員会にて承認を得た(承認番号21-120).

III. 結果

1. 調査対象者と分析対象事例の概要(表1参照:記載の人口統計データは調査当時である)

調査対象者である保健師は,50代女性1名と40代女性3名であり,保健師経験年数は14年~30年であった.

表1  調査対象者と分析対象事例の概要
分析対象事例 1 2 3 4
自治体
(人口;人)
A市
(約80,000)
B市
(約221,000)
C市
(約251,000)
D市
(約60,000)
調査対象者
年代・性別
(保健師の経験年数)
50代・女性
(30年)
40代・女性
(14年)
40代・女性
(22年)
40代・女性
(17年)
個別援助事例
年代,性別,診断名,家族
40代女性
統合失調症
実母と二人暮らし
40代男性
統合失調症
独り暮らし
20代女性
統合失調症
父母,兄と四人暮らし
50代男性
統合失調症
独り暮らし
支援継続期間 2年6か月 7年 1年 7年
関わりのきっかけ 作業所指導員からの相談 作業所指導員からの相談 市役所内ほかの部署から紹介 両親が利用する介護事業所からの相談
相談の経緯 20代で発病後結婚し妊娠した際に陽性症状が顕著になり離婚.作業所利用後,郵便局の障害者雇用の採用となり職を得たが症状が不安定となった.母親は認知症のため対応できず,かつて通っていた作業所が相談を受け,対応しきれないと判断し,市役所に相談が持ち込まれた. 家族から市役所のある関係部署に入院中に相談があり,障害福祉課に紹介された.両親が働いているため,日中本人1人で家に居ることが心配なのでどこか居場所がないか,という相談が持ち込まれた. 20代で発病した.その後,もともと通っていたデイケアに通えなくなったので,自宅から近い市内の作業所を利用するにあたり遠方にある都の施設と作業所職員の関わりだけでは不安なため市役所の障害福祉も関わって欲しいと相談が持ち込まれた. 強迫症状が40年以上,そのうち引きこもり30年以上と長い経過を辿っている中,母親が利用している介護保険サービスの事業者が市役所の介護保険係に本人のことを相談することで持ち込まれた.

分析事例として選定した精神障害者4名は,全員が統合失調症の診断を受けており,40代と20代の女性2名と40代と50代の男性2名であった.保健師が関わっている期間は,1~7年であった.

2. 保健師による精神障害者の地域生活支援内容

分析の結果,精神障害者の地域生活支援内容として,124のデータから29サブカテゴリーを生成し,8カテゴリーを抽出した.以下に,各カテゴリーについて,カテゴリーを生成するサブカテゴリーとその内容により説明した.

本文中,カテゴリーは1)~8)のタイトルに,サブカテゴリーは〈 〉で示した.カテゴリー,サブカテゴリーおよびサブカテゴリーごとの代表的データの一覧は表2に示した.

表2  精神障害者の地域生活継続を促すための保健師の支援内容 ( ):事例番号
カテゴリー サブカテゴリー データ:代表的なものを選択して掲載
ニーズの顕在化による支援の開始や集中 他施設職員からの依頼により支援を開始する ・もう作業所だけで対応できないということで,市役所の障害福祉課に相談があった.(2)
・母親と事業者が本人を伴って障害年金の申請のために来所した際に障害福祉につながり保健師と会った.(4)
家族からの相談により市役所内他課を経由して支援を開始する ・家族から市役所内他課に相談があり,保健師のいる障害福祉課に紹介された.(1)
家族形態や生活上の変化によって顕在化する生活上の課題にこれまでよりも集中して対処する ・母親が認知症のため病院に入院している間に,80代の父親が急逝し,一人では金銭管理ができないなどの状況があり関わりが濃厚になった.(3)
優先度の高いニーズに着目して支援を開始する ・仕事量についてどうしてよいかわからず追いつめられている市内郵便局の仕事については,とにかく一緒に郵便局の人に相談に行きましょうということで合意し相談に同行する日を決めるということから始めた.(2)
医療継続の確認と調整 主治医の見立てを確認する ・主治医の先生からの意見でもやっぱり病識がないので,どう治療を継続するか,その辺の支援をお願いしますといわれている.(4)
通院治療の状況を把握し継続を促す ・処方薬が出ているが,全然飲んではいないことを把握した.(3)
本人・家族と主治医の適切なやり取りの実現を促す ・ノートに主治医に伝えたいことを書いてもらい渡すように促している.(1)
・ジスキネジアの治療の主治医が市役所職員の付き添いを求めるため,毎回通院につきそっている.(3)
中断していた治療の再開を促す ・生活上の困難が症状によって生じ,生保のお金でやりくりしていく中で生活費を圧迫している事実から,「すぐには効かないかもしれないけどもう一度治療に行ってみないか」と提案した.(4)
当事者の主体的な精神病症状管理促進による悪化の予防と対策 継続した服薬治療の必要性を認識するようはたらきかける ・日々電話とかあったりとかする中で,やっぱりちゃんと薬を続けて飲んでいるから家で生活できるんだよと繰り返し伝えている.(4)
精神病症状による生活上の困難を把握する ・ネピアのキッチンペーパーじゃなきゃだめで,ひどいときはキッチンペーパーを1日16ロール使っているなど様々あり,ごみ袋もすごくお金がかかってしまったりする.(4)
仕事量の調整を本人・関係者らと相談しながら行う ・郵便局(ハローワークからの紹介)の採用担当の雇用担当者に連絡をとって,仕事量の調整などについて郵便局の職員さん・私・作業所の指導員・本人と4人で話し合いをした.(2)
主治医からの具体的な指示を本人と母親両者に理解してもらうようはたらきかける ・主治医の意見を聞き,本人に指導したことを母親にも共通認識してもらわなければと考え,指示内容をA3に大きく印刷をし“これはY先生の指示ですよ”と本人・母親の見えるところに張っておくようにした.(2)
精神病症状の変化を早期に把握し柔軟に対応する ・生活保護のワーカーも4月とかに担当がかわったりするので,その都度やっぱり本人が不安になったりとか,新しいケースワーカーになれるまでちょっと揺れたりするんですけど,その辺は支えながら.(4)
医療保護入院になった場合の対処の方法をあらかじめ決めておく ・医療保護入院の適用になったときに,遠方にいる兄以外に保護者になる方がいるかどうか兄に確認する.(2)
家族の助力の確認と維持 家族員の健康課題や相互の立場から助力関係を見極める ・お父さんもちょっと病気をしたりお母さん自身もうつ病を発症したりという状況もあり,なかなか本人の入浴の手助けなどができなくなった.(1)
遠方にいる家族と情報を共有し助力を得る ・兄に本人とお母さんの近況を報告した.海外在住者とのメール交換については市役所の総務に許可を得た.兄とメールのやりとりをしながら共通認識するようにしていた.(2)
世帯の経済的安定維持に向けた親族・専門機関との調整 世帯の経済的状況や管理状態を具体的に把握している ・生活費を兄の妻からお母さんの口座に,必要な分だけ毎月振り込んで,その範囲内で本人がおろして生活費に充てるというやり方をしていた.(2)
本人の金銭管理能力を具体的に把握しトラブルを予防する ・不動産の査定を進めてしまうなど,自分自身で金銭管理することが困難であることを把握している.(3)
・遺産相続のために成年後見人制度を利用するために裁判所から鑑定に適した医師を選択してもらう.(3)
在宅ケアサービスの適用とモニタリング 生活上必要と判断したサービスを提案し導入する ・ごみに出しても分別ができていないという理由で持っていってくれなかったゴミが物置の中に山積みされていたのを見つけた.ヘルパーが入って,ごみ出しの援助が必要と判断したきっかけとなった.(2)
利用中の在宅ケアサービスの適切な利用継続を本人・家族に意識づける ・移動支援を利用し,休日の買い物など本人が行きたい場所に外出をすることを支えるサービスを使っている.(1)
ホームヘルパーから報告を受け相談に応じる ・ヘルパーさんからいろんな状況の報告があり,お母さんにとても気を使っているんだっていうようなことはヘルパーさんからも連絡があった.(1)
住民グループ支援を適用する ・本人が気軽にその生活のことを聞けるっていうのはすごく敷居の低い感じのグループ.まずそういう方を導入した.(4)
生活者である本人と周囲の人々との関係性把握と調整 本人と家族の関係性が精神症状に及ぼす影響をふまえてはたらきかける ・本人がすごく母親のことを気にして話をしている様子をみて別々に話を聞いたほうがいいと判断することもあった.(1)
本人・家族と周囲の人々の関係性をふまえてはたらきかける ・以前父親が入っていた家族会スタッフと連絡をとり合っている.(3)
本人と関係ある周囲の人々に本人とのかかわり方を具体的に説明する ・本人に了解をとった上でピアノの先生に具体的な症状を伝え,ピアノのレッスンで励ますときには保健師にも連絡をいただけないかと申し出た.(2)
地区の民生委員を含めた近隣住民からの相談を受け,対応する ・本人がよく行くスナックに立ち寄り本人の様子を聞く.(3)
・近所から苦情も出る.何とかしてやってくんねえかみたいな感じのやわらかい苦情なんですけどね.(4)
主体的に自立していくことへの支持と促進 精神科疾患以外の身体の調子や生活習慣を確認する ・やっぱりこのうち独特な味つけとかあるみたいで,昔,入っていたヘルパー業者の方とかからちょっと話を聞くと,例えば野菜いために砂糖を入れるとか,何かすごく甘党で.(4)
本人なりの自立への方向性を見据え本人の強みを活かしてできることを確認する ・将来的に就労することを目指しつつ,ヘルパーと共にお菓子をつくるなど自分でやれることがふえるといいと考える.(1)
・彼女にとっては特技でありライフワークともいえるピアノ.それをいいように活用すれば精神安定につながるし,使い方を間違えればストレスにもなるという,難しいところ.(2)
本人の希望に即した生活目標を明確化し行動範囲を拡げるような居場所や活動を提案する ・本人が目標ないところで生活するのは非常につらいと思ったので障害者職業センターで職業相談とか適性検査を受けてみることを提案した.主治医にも相談.(2)
・家事を行った経験が少ない様子であったため,今は家にいる状況だからやれることをふやしていきましょうと伝えた.(1)

1) ニーズの顕在化による支援の開始や集中

4つのサブカテゴリーから生成された.支援の開始に関するものは,精神障害者の病状が悪化した際に,作業所の指導員が単独で支援できなくなり相談が持ち込まれる〈他施設職員からの依頼により支援を開始する〉であった.また,家族が直接相談した市役所内他課から保健師が所属する担当課に紹介される〈家族からの相談により市役所内他課を経由して支援を開始する〉であった.支援の集中に関するものは,親の死去によって顕在化した生活上の課題を補うため〈家族形態や生活上の変化によって顕在化する生活上の課題にこれまでよりも集中して対処する〉であった.

すなわち,このカテゴリーは,ニーズの顕在化によって多様な経路から持ち込まれる相談に対し,自治体の保健師として支援を開始する,あるいは,これまでより集中する,という支援であった.

2) 医療継続の確認と調整

4つのサブカテゴリーから生成された.すでに医療を受けている場合には,先ず,関わりの始めに〈主治医の見立てを確認する〉ことであった.次いで,服薬習慣や副作用,通院に関する在宅ケアサービスの利用状況から外来通院・治療状況をアセスメントする〈通院治療の状況を把握し継続を促す〉であった.これには,アセスメントの結果,本人に合った治療が継続できる病院を選定し転院を勧めるなどの支援があった.さらに,受診時の主治医とのコミュニケーション方法への助言,主治医への電話連絡,同行受診により〈本人・家族と主治医の適切なやり取りの実現を促す〉支援を行っていた.一方で,治療中断により医療再開の必要がある患者に受診を勧めるなどの方法で〈中断していた治療の再開を促す〉支援があった.

すなわち,このカテゴリーは,生活状況や精神病症状に合った医療が受けられているか確認し,必要な調整を行うことにより治療継続を促す支援であった.

3) 当事者の主体的な精神病症状管理促進による悪化の予防と対策

6つのサブカテゴリーから生成された.悪化の予防に関するものは,先ず,精神病症状の安定と日常生活の継続が連動していることを本人と共に確認することで〈継続した服薬治療の必要性を認識するようはたらきかける〉であった.また,日常的に起こる〈精神病症状による生活上の困難を把握する〉,仕事や作業所での活動について〈仕事量の調整を本人・関係者らと相談しながら行う〉があった.主治医からの指示を実行可能な具体的表現に直して示す〈主治医からの具体的な指示を本人と母親両者に理解してもらうようはたらきかける〉なども予防のための支援であった.悪化時の対策に関するものは,先ず,本人の訴えの傾聴・日常生活の観察・主治医やケア提供者らとの情報交換により〈精神病症状の変化を早期に把握し柔軟に対応する〉であった.判断能力が不十分な同居家族に代わる親族の協力状況を見極める〈医療保護入院になった場合の対処の方法をあらかじめ決めておく〉支援もあった.

すなわち,このカテゴリーは,日常生活への深いかかわりを通して本人・家族が主体的に精神病症状の悪化を予防し対処できるよう体制を整える支援であった.

4) 家族の助力の確認と維持

2つのサブカテゴリーから生成された.1つは,家族員各々が抱える疾病・障害の状況や関係性から助力状態を把握する〈家族員の健康課題や相互の立場から助力関係を見極める〉であった.さらに,責任能力が不十分な同居家族に代わって助力可能である別居家族と直接連絡をとる〈遠方にいる家族と情報を共有し助力を得る〉であった.

すなわち,このカテゴリーは,同居・別居の家族員を重要な支援チームのひとりとして位置づけ,その能力に応じた助力を引き出そうとする支援であった.

5) 世帯の経済的安定維持に向けた親族・専門機関との調整

2つのサブカテゴリーから生成された.1つは,医療・在宅ケアサービスの収支,本人または世帯の収入源,金銭管理状況等を把握する〈世帯の経済的状況や管理状態を具体的に把握している〉であった.また,これまでの使途状況から金銭管理上の問題行動を把握し,資産管理に関する制度を利用する〈本人の金銭管理能力を具体的に把握しトラブルを予防する〉支援であった.

すなわち,このカテゴリーは,親族や専門機関の協力や制度利用により地域生活の基盤となる経済的安定を世帯単位で維持できるよう整える支援であった.

6) 在宅ケアサービスの適用とモニタリング

4つのサブカテゴリーから生成された.適用に関するものは,先ず,ふだんの生活状況やケア提供者からの情報に基づいて必要なサービスを見極め〈生活上必要と判断したサービスを提案し導入する〉であった.また,住民グループによる介助ボランティアが適当と判断し利用を勧める〈住民グループ支援を適用する〉であった.モニタリングに関するものは,利用中の在宅ケアサービスの利用実態に基づいて利用の意義を確認することで〈利用中の在宅ケアサービスの適切な利用継続を本人・家族に意識づける〉であった.また,対応困難な状況への対処方法についてホームヘルパーと共に考える〈ホームヘルパーから報告を受け相談に応じる〉であった.

すなわち,このカテゴリーは,地域生活の継続を側面から支える在宅ケアサービスを適切かつ有効に利用するために,既存サービスの適用を促進しモニタリングを行う支援であった.

7) 生活者である本人と周囲の人々との関係性把握と調整

4つのサブカテゴリーから生成された.先ず,最も影響を及ぼし合うと推察される家族との関係性把握と調整があった.母親との不安定な関係が精神病症状の変化に影響することをふまえて本人への関わり方を選択する〈本人と家族の関係性が精神病症状に及ぼす影響をふまえてはたらきかける〉であった.次いで,本人と関わりがある近隣住民やケア提供者にはたらきかける際には〈本人・家族と周囲の人々の関係性をふまえてはたらきかける〉であった.また,〈本人と関係ある周囲の人々に本人とのかかわり方を具体的に説明する〉,〈地区の民生委員を含めた近隣住民からの相談を受け,対応する〉であった.

すなわち,このカテゴリーは,本人と関わりある周囲の人々との関係性を見極め調整的にはたらきかけることにより,双方の関係を可能な限り良好にし,地域生活の継続を安定させる支援であった.一方で,地域住民の精神疾患への理解やケア提供者らのケア力の向上を促す支援でもあった.

8) 主体的に自立していくことへの支持と促進

3つのサブカテゴリーから生成された.先ず,定期的な健診結果や食習慣等から身体的健康状態を把握し,生活習慣病予防等の健康管理を行う〈精神科疾患以外の身体の調子や生活習慣を確認する〉であった.また,〈本人なりの自立への方向性を見据え本人の強みを活かしてできることを確認する〉,〈本人の希望に即した生活目標を明確化し行動範囲を拡げるような居場所や活動を提案する〉であった.

すなわち,このカテゴリーは,本人自身がもつ力を見極め,日常生活を継続し主体的に自立していく力を引き出す支援であった.

IV. 考察

1. 精神障害者の地域生活継続支援のプロセス

地域生活支援の内容として見出した8つのカテゴリーには,支援としてのプロセス(文中斜字)があると考えられる.図1に示し,以下にその内容を述べる.なお,図中と文中の【 】はカテゴリーを示す.また,図中に示した“”は支援におけるカテゴリーのプロセスを,“”はカテゴリーの相互の関連を示す.

図1 

市町村保健師の支援のプロセス

保健師の支援のプロセスは,ニーズの顕在化による多様な相談経路からの導入に次いで,医療と地域生活継続の基盤形成を行い,その上で,生活者として地域で生きていく力の獲得を促すことであると考える.すなわち,【ニーズの顕在化による支援の開始や集中】に始まり,先ずは【医療継続の確認と調整】の上で,生活を継続していくために重視した【当事者の主体的な精神病症状管理による悪化の予防と対策】【家族の助力の確認と維持】【世帯の経済的安定維持に向けた親族・専門機関との調整】【在宅ケアサービスの適用とモニタリング】が連動しながら循環し地域生活の基盤形成を促すものであった.医療と地域生活継続の基盤形成を土台に【生活者である本人と周囲の人々との関係性把握と調整】や【主体的に自立して行くことへの支持と促進】を行うことにより,生活者として地域で生きていく力を獲得するよう支援するものであった.

2. 精神障害者の地域生活継続のための支援方法

明らかになった支援内容から示唆を得た支援方法を,以下1)~3)に述べる.

1) プライマリレベルの多様な相談を受けて医療につなげる支援

精神障害者の相談経路は家族や利用している在宅ケアサービスの職員,市役所内他課職員からなど多様であった.一方,精神障害者本人の状態も,治療中断や病状悪化,あるいは家族の助力低下等多様であった.相談を受けた保健師には,まず受療の必要性や緊急性の程度を判断することが求められていた.ニーズの顕在化による支援の開始や集中が支援プロセスの最初にあったことからも,地域住民にとって第一段階となるプライマリレベルの相談に対応することが保健師に求められていると考えられる.これらは,行政に所属する保健師による支援方法として重要であると考える.

蔭山ら(2012)は,統合失調症をもつ本人を治療につなげる際の行政専門職による支援内容を明らかにした研究において,長期的な家族関係と本人の予後への影響を見据えた支援が重要であると述べている.本研究では,治療開始時のみならず治療継続においても,精神障害者・家族各々が治療をどのように受け止めているか,阻害要因は何かを見極めていた.家族関係を良好に保ちながら精神障害者・家族が各々の立場において治療継続の必要性を実感し実行できるようはたらきかけていた.一方,必要に応じて同行受診し主治医に対面することを通して精神障害者の日常を報告し治療方針を確認する支援を行っていた.精神科訪問看護で提供されるケア内容を明らかにした研究では,治療継続を促す詳細なケア内容が明らかにされているが,未治療や治療中断の状況にある人を治療につなげるかかわりについては述べられていない(瀬戸谷ら,2008).一方,治療中断のおそれがある,あるいは未治療の精神障害者を治療につなげるための支援について明らかにした研究では,治療の必要性を判断し,本人のみならず家族に受診や治療継続の必要性を説明する,入院に向けて関係者の調整を行うなどが明らかになっている(吉岡ら,2010蔭山ら,2012).本研究結果でも,潜在的ニーズを見極めることによりそのニーズを顕在化させ中断していた治療の再開や継続のために本人・家族への支援が行われていた.多様な場所からプライマリレベルの相談が持ち込まれ,医療につなげるプロセスを支援する責務は公的サービスを担う自治体にあり,市町村精神保健福祉担当部署に所属する保健師による支援方法として重要であると考える.

2) 他機関からのサービスと協働し補い合いながら家族を支える支援

家族から持ち込まれた相談は,分析対象事例の相談の経緯からみると,親の高齢化による家族形態の変化が理由と考えられる.このことによって精神障害者の生活に変化が生じ,精神疾患による生活上の課題が際立つと同時に,家族もライフステージに即した健康上の課題を抱え支援を必要としていた.高齢の親と同居する場合には,親自身の認知能力や身体機能の低下から生じる支援ニーズに対処する必要があると考えられる.また,乳幼児を擁する精神障害者ならば,児の成育への支援が必要と考えられる.保健師には,様々なライフステージや健康レベルにある人々を支援対象とする看護専門職として世帯のニーズを見極める機能が求められていると考える.さらに,保健師は世帯にとって必要な支援が提供されるよう調整を行い,訪問看護や訪問介護等と協働しチームとして支援を提供する必要があると考える.瀬戸屋ら(2011)は精神科訪問看護における家族ケアの実施状況を明らかにした研究において,家族ケアを要する支援では訪問頻度が高くなり滞在時間が長くなる傾向があり電話相談に対する診療報酬等サービスに対する十分な報酬がないことを挙げている.定期的な支援では担いきれないニーズをもつ家族への支援においては,公的なサービスを担う保健師と定期的な支援を提供できる訪問看護が補い合いながら協働して家族を支える支援が有効であると考える.

3) 障害者がその人らしく生きていける居場所を地域の中につくる支援

先行研究において,精神障害者への行政保健師による援助の特徴の一環として近隣住民との交流の促進や,障害者なりに生活の幅を拡げていくことができる場を創造することが報告されている(嶋澤,2000,2009).地域資源の開発は,公衆衛生看護活動である地区活動の機能である.本研究でも,保健師は,精神障害者がその人らしく自立して生きていくことができる居場所を創る支援を行っていた.住まいそのものやふと立ち寄ることができる場所を創る,家族の中での存在をより良くする,近隣住民との良好な関係性を築く,といった支援であった.

厚生労働省は,退院後の受け皿がない等の理由で精神科病院に累積する長期入院患者の地域生活への移行促進のためにアウトリーチによる訪問支援を充実させる考えを示している(厚生労働省,2012).アウトリーチの方法としては,服薬や症状の管理や生活状況の確認に加え地域で暮らすひとりの生活者として近隣住民との良好な関係の構築や必要な資源の創造が必要であると考える.アウトリーチにおける看護の役割については,精神科訪問看護で提供するケア内容として近隣住民との関係性への援助や本人をサポートする関係者間の連携および社会資源の有効な活用が挙げられている(吉田ら,20112013).本研究では,ホームヘルパーの精神障害者支援スキルの向上を意図したはたらきかけを行っていたり,高齢者支援のための制度を精神障害者にも適用できるよう制度を創ったりするなど地域ケア体制構築を目指した支援が行われていた.精神障害者のための地域ケア体制構築は,行政に所属する保健師活動としてさらに責任をもって取り組む必要のある機能であると考える.

文献
  •  安保 寛明(2004):地域に暮らす精神障害者のQOLとその関連要因,岩手県立大学看護学部紀要,6,135–143.
  •  姉歯 純子(2011):時代の波が変えた地域の今―かつて市町村保健師活動が活発であった農村部の現状から―,病院・地域精神医学,53(3),287–292.
  •  蔭山 正子, 代田 由美, 藤賀 美枝子,他(2012):統合失調症の本人を治療につなげる際の行政専門職による家族支援,日本公衆衛生雑誌,59(4),259–269.
  •  蔭山 正子, 田口 敦子(2013):精神障がいをもつ母親への保健師による育児支援技術―症状と育児のバランスを図る―,日本地域看護学会誌,16(2),47–54.
  • 厚生労働省「今後の精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」(2009):厚生労働省検討会報告「精神保健医療福祉の更なる改革に向けて」,平成21年9月24日.
  • 厚生労働省「精神科医療機能分化と質の向上に関する検討会」(2012):厚生労働省第6回精神科医療機能分化と質の向上に関する検討会報告,平成24年6月13日.
  • 宮崎美砂子,北山三津子,春山早苗,他編集(2007):最新地域看護学総論,日本看護協会出版会,東京.
  •  関根 正, 小林 悟子(2008):精神障害者の社会参加過程に関する研究―地域生活を支えた要因―,日本看護学会論文集:地域看護,39,39–41.
  •  瀬戸谷 希, 萱間 真美, 宮本 有紀,他(2008):精神科訪問看護で提供されるケア内容,日本看護科学学会誌,28(1),41–51.
  •  瀬戸谷 希, 萱間 真美, 角田 秋,他(2011):精神科訪問看護における家族ケアの実施状況と家族ケアに関連する利用者の特徴,日本社会精神医学会雑誌,20(1),17–25.
  •  嶋澤 順子(2000):在宅精神障害者と近隣住民の相互の交流に関する看護援助方法,千葉看護学会会誌,6(2),62–68.
  •  嶋澤 順子(2009):在宅精神障害者の自立を促す行政保健師の援助の構造,千葉看護学会会誌,15(1),35–42.
  •  角田 秋, 柳井 晴夫, 上野 桂子,他(2012):精神科訪問看護ケアの類型化の検討―訪問看護ステーションが統合失調症を有する人へ提供するケアの類型と対象の特性―,日本看護科学会誌,32(2),3–12.
  •  Tempier  R.,  Caron  J.,  Mercier  C., et al. (1998): Quality of Life of Severely Mentally Ill Individuals: A Comparative Study, Community Mental Health Journal, 34(5), 477–485.
  •  宇佐美 しおり, 矢野 千里, 川田 美和,他(2009):病状が不安定な精神障害者の自立支援における退院支援ケア・パッケージ作成とパッケージを含む集中包括型ケア・マネジメントモデル(CBCM)の開発,インターナショナルナーシングレビュー,32(1),88–95.
  •  矢島 鉄也(2005):精神保健福祉の動向,病院・地域精神医学,48(2),107–111.
  •  吉田 光爾, 瀬戸屋 雄太郎,他(2011):重症精神障害者に対する地域精神保健アウトリーチサービスにおける機能分化の検討,精神障害とリハビリテーション,15(1),54–63.
  •  吉田 光爾, 瀬戸屋 雄太郎, 瀬戸谷 希,他(2013):重症精神障害者に対する地域精神保健アウトリーチサービスにおける機能分化の検討 Assertive Community Treatmentと訪問看護のサービス比較調査(続報)―1年後追跡調査からみる支援内容の変化―,精神障害とリハビリテーション,17(1),39–49.
  •  吉岡 京子, 荒井 澄子,他(2010):治療中断のおそれのある精神障害者を医療につなげる際の保健師の技術の解明―保健師による対象への個別支援の展開過程に焦点を当てて―,日本地域看護学会誌,13(1),68–75.
 
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