日本公衆衛生看護学会誌
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活動報告
思春期ピアカウンセリング講座を受講した高校生の友人との人間関係構築に関する認識
田邉 綾子鶴田 来美長谷川 珠代蒲原 真澄塩満 智子
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2016 年 5 巻 3 号 p. 259-265

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Abstract

目的:本研究は,高校生の友達との人間関係の実態と思春期ピアカウンセリング講座(以下,講座)受講者の人間関係構築に関する認識を明らかにすることを目的とした.

方法:講座を受講した高校生を対象に,友達との人間関係や人間関係構築に関する認識について自記式質問紙調査を実施した.

結果:約9割の高校生は友達と喧嘩の経験を有しており,自ら仲直りをする人は約6割であった.講座受講者の人間関係構築に関する認識をみると,8割以上が多様な価値観をもった人がいると感じ,友達のことを大切にしようと思っていた.

考察:高校生は友達とのコミュニケーションを通して,人間関係の築き方を学ぶ時期である.講座受講は他者の意見を傾聴し,友達の多様な価値観を尊重することの大切さを感じるきっかけとなり,人間関係の構築についての認識を深める機会となった.

I. はじめに

文部科学省は,知識基盤社会化,グローバル化といった社会の変化を踏まえ,平成23年度より新学習指導要領を開始し,子どもたちが変化の激しいこれからの社会を生きるために,「生きる力」となる,確かな学力,豊かな人間性,健康・体力の知・徳・体をバランスよく育むことを目指している(文部科学省,2010).「生きる力」とは,自分で課題を見つけ,学び,考え,主体的に判断・行動し,よりよく問題を解決する資質や能力である.また,自らを律しつつ,他人とともに協調し,他人を思いやる心や感動する心など,豊かな人間性のことであり,たくましく生きるための健康や体力も含む(中央教育審議会,1996).思春期は二次性徴が出現する時期であり,身体的にも精神的にも激しく葛藤する(高村,2001).生きる力を育むための教育として性教育は重要であり,その手法の一つに,ピアカウンセリング手法を用いた活動がある.

性教育におけるピアカウンセリングは,同世代に生きる価値観を共有する“仲間”というキーパーソンが行う支援活動であり,思春期の人々の主体的な行動変容を促すために,有効であることが国際的に認められている(高村,1999).仲間が行う健康教育手法として,他にピアエデュケーションがある.ピアエデュケーションとは,テーマについて“正しい知識・スキル・行動を共有し合うこと”であり,ピアカウンセリング・マインドとスキルを用いて行うことが重要とされている(日本ピアカウンセリング・ピアエデュケーション研究会,2005).本学では,ピアカウンセリングに一部ピアエデュケーションを含めた内容の「思春期ピアカウンセリング講座」を実施している.

中央教育審議会(2008)は,心身の成長発達の理解には,「生命や自己及び他者の個性を尊重し,望ましい人間関係を構築することを重視し,指導することが重要」としている.また,有賀(2015)は,対人関係を営むための技能である社会的スキル(首藤,1997)は相談者がいる人の方が高いと述べている.そこで,本学の「思春期ピアカウンセリング講座」は,自己と他者の両方を大切にする力や,多様な価値観を尊重する力,問題解決のために他者に相談する力など,人間関係を構築するために必要な力を育むことを重視したプログラムで構成した.

思春期は,“自分とはいったい何者なのか”と自我にめざめ,一人の自立した男として,女としておとな社会へ羽ばたく時期である(高村,1999).特に高校生は,次第に親から自立し,友達と行動をともにするようになり,様々な経験を共有することが増える.その中で,互いの意見や気持ちを伝えあうことにより,様々な考え方があることや受け取り方が異なることを学ぶ.人間関係における多くの成功体験と失敗体験は,対人接触の方法や人間関係を円滑に維持する工夫に関連する貴重な体験であり(菊地,1991),人間関係の築き方を学ぶと同時に,アイデンティティを形成していく.このように,高校生にとって友達との関係は非常に重要な意味をもつ.しかしながら,高校生の友人関係の実態を明らかにした研究は少なく,人間関係構築に関する認識についての研究はほとんどない.

そこで本研究では,高校生の友達との人間関係の実態および思春期ピアカウンセリング講座受講者の人間関係構築に関する認識を明らかにし,人間関係を構築するための力を育む支援について検討することを目的とした.

II. 方法

1. 対象者

A県にある高等学校で,思春期ピアカウンセリング講座の実施を希望した学校2校のうち,本研究への参加に同意が得られた学校1校の生徒308名を対象とした.

2. 思春期ピアカウンセリング講座の内容

本講座は高等学校の希望により,保健体育の時間を2時間用いて実施するため,100分間で5つのプログラムで構成している.プログラムは,日本家族計画協会主催のピアカウンセラー養成講座を受講した大学生および教員が作成し,その指導案をもとに大学生が高校生にグループワーク方式で展開している.

5つのプログラムは,それぞれ以下の内容を学ぶことを目的に実施している.1つ目のプログラムは,人にはそれぞれの価値観があり,自分と他者の考え方や存在を尊重し大切にすること.2つ目のプログラムは,思春期の接近欲求や接触欲求について理解し,人を好きになることが自然な過程であること.3つ目のプログラムは,恋愛において互いの価値観を尊重しながら各過程を大切にすることの重要性を学び,且つ避妊や性感染症の予防について考えることの大切さを理解すること.4つ目のプログラムは,自分や周囲の人々が存在していることの尊さ,生命のつながりを学び,自分や家族,友人,周囲の人々の大切さを感じること.5つ目のプログラムのねらいは,互いの良いところを認め合い,表現することの大切さを学ぶことである.

3. 調査方法

調査は,思春期ピアカウンセリング講座受講前後に自己記入式質問紙調査法にて実施した.思春期ピアカウンセリング講座受講前の調査票は受講前1週間以内,受講後の調査票は受講後1週間以内にそれぞれ記入することとした.調査票の配布は学級担任を通して行い,回収は各自封筒に封入したものを学校ごとに回収した.なお,調査期間は2015年9月であった.

受講前の調査は,対象者の基本的属性,友達との人間関係の実態を明らかにすることを目的に実施した.

受講後の調査は,友達との人間関係構築に関する認識を明らかにすることを目的に実施した.

本調査では,人間関係における失敗体験を,自分と相手との意見の相違があり,それを調整できなかった体験と捉え,調査対象である高校生が理解しやすく,かつ多くが経験する「喧嘩」と設定した.成功体験は,自分の意見を主張しつつ相手の意見も受け入れ,トラブルを解決する体験と捉え,同様に「仲直り」とした.また,他者とのトラブル解決に至るまでの過程の一つに第3者に相談する方法がある.その手段を用いることができるのか把握するために,相談者の有無を質問した.これらのことより,友達との人間関係については,「喧嘩」の経験と「仲直り」の経験,相談者の有無を質問した.

また,人間関係を構築するために必要な力を「自己と他者の両方を大切にする力」「多様な価値観を尊重する力」「問題解決のために他者に相談する力」の3つ挙げ,「自己と他者の両方を大切にする力」として,自尊心,自己肯定,他者受容,「多様な価値観を尊重する力」として,多様な価値観の尊重,他者の意見を傾聴すること,「問題解決のために他者に相談する力」として,自己を表現すること,他者へ相談すること,に対する思春期ピアカウンセリング講座受講後の気持ちや考え方を尋ねた.具体的には,「自分には良いところがある」「自分のことを大切にしようと思う」「友達のことを大切にしようと思う」「『世の中には,いろいろな考えをもった人がいる』と思う」「友達の考えや思っていることを聞いてみようと思う」「友達の考えが自分と違う時でも,友達の考えを大切にしようと思う」「自分の考えが友達と違う時でも,自分の考えを大切にしようと思う」「自分の考えたことや思ったことは,相手に伝えようと思う」「『自分は自分らしく生きていて良いんだ』と思った」「友人関係で困ったことがある時に,誰かに相談してみようと思う」の10項目について質問し,「とてもそう思う」「ややそう思う」「変わらない」「あまりそう思わない」「そう思わない」の5段階で回答を得た.

調査票の作成においては,研究者間で協議し,修正を重ねることにより妥当性の確保を図った.

4. 分析方法

データの解析は,統計解析用ソフトSPSS11.0J for Windowsを用いて行った.

人間関係構築に関する認識については,「とてもそう思う」から「そう思わない」の順に5~1点で点数化した.相談者の有無と人間関係構築に関する認識との関連を見るためにMann-Whitney検定を用いて分析した.また,仲直りの経験と人間関係構築に関する認識との関連を見るためにKruskal Wallis検定を用いて分析した.有意水準は,いずれも5%とした.Kruskal Wallis検定で有意差が認められた場合の対比較はMann-Whitney検定を行い,その際の有意水準はBonferroniの方法に基づいて,3群比較については1.7%とした.

5. 倫理的配慮

思春期ピアカウンセリング事業実施主体である県福祉保健部より,思春期ピアカウンセリング講座開催校に対して文書にて調査協力依頼を行った.その後,研究者が開催校の担当者に対し,文書および口頭にて研究の趣旨等の説明と協力依頼を行い,文書にて同意を得た.同意が得られた学校に在籍し,思春期ピアカウンセリング講座を受講する対象者には,文書にて研究の趣旨説明と協力の依頼を行った.文書には,調査票への回答は無記名であり結果公表の際には個人が特定できないこと,研究への協力は自由意思によるものであり強制ではないこと,研究に協力することの利益と不利益,個人情報の取り扱いと保護,研究成果の公表,調査票への回答をもって同意が得られたこととすること,について記載した.

なお,本研究は宮崎大学医学部医の倫理委員会の承認(第2015-078号)を受けて実施した.

III. 活動結果

1. 対象者の基本的属性

本研究への参加に同意の得られた高等学校は,1校であった.調査票は308名に配布し,287名から回答が得られた.回収率は93.2%であった.性別は,男性105名(36.6%),女性181名(63.1%),無回答1名(0.3%)であった.学年別では,1年生148名(51.6%),2年生139名(48.4%)であった.

2. 友達との人間関係の実態

友達と喧嘩をした経験については,経験あり257名(89.5%),経験なし29名(10.1%),無回答1名(0.3%)であった.仲直りの経験については,自ら行動した,もしくは行動すると思う人は184名(64.1%),自ら行動したことがない,もしくは行動しないと思う人は36名(12.5%),分からない65名(22.6%),無回答2名(0.7%)であった.また,友達との関係で困っていることがある時の相談者の有無については,相談者がいる人は242名(84.3%),いない人は43名(15.0%),無回答2名(0.7%)であった.

3. 人間関係構築に関する認識

1) 思春期ピアカウンセリング講座を受講した高校生の人間関係構築に関する認識(図1

人間関係構築に関する認識について質問した10項目のうち,「とてもそう思う」「ややそう思う」と回答した人が多かったのは,“「世の中には,いろいろな考えをもった人がいる」と思う”263名(91.7%)であった.次いで“友達のことを大切にしようと思う”262名(91.3%),“友達の考えが自分と違う時でも,友達の考えを大切にしようと思う”248名(86.4%),“友達の考えや思っていることを聞いてみようと思う”216名(75.3%),“自分の考えたことや思ったことは,相手に伝えようと思う”206名(71.8%)の順であった.「あまりそう思わない」「そう思わない」と回答した人が多かったのは,“自分には良いところがある”60名(20.9%)であった.

図1 

思春期ピアカウンセリング講座を受講した高校生の人間関係構築に関する認識(n=287)

2) 仲直りの経験と人間関係構築に関する認識との関連(表1

仲直りの経験と人間関係構築に関する認識との関連をみたところ,“自分のことを大切にしようと思う”(p<0.05),“友達のことを大切にしようと思う”(p<0.01),“「世の中には,いろいろな考えをもった人がいる」と思う”(p<0.01),“友達の考えや思っていることを聞いてみようと思う”(p<0.05),“友達の考えが自分と違う時でも,友達の考えを大切にしようと思う”(p<0.001),“自分の考えたことや思ったことは,相手に伝えようと思う”(p<0.01),“友人関係で困ったことがある時に,誰かに相談してみようと思う”(p<0.001)の7項目において有意な関連が見られた.

表1  仲直りの経験および相談者の有無と人間関係構築に関する認識との関連(n=287)
質問項目 仲直りの経験 Kruskal Wallis検定 対比較Mann-Whitney検定 相談者 Mann-Whitney検定
a. 行動する(n=184) b. 行動しない(n=36) c. 分からない(n=65) いる(n=242) いない(n=43)
自分には良いところがある 146.08 125.94 139.27 n.s. 147.33 111.40 **
自分のことを大切にしようと思う 151.08 122.25 129.23 * n.s. 151.34 91.56 ***
友達のことを大切にしようと思う 151.07 121.75 129.87 ** a-b
a-c
148.83 106.04 ***
「世の中には,いろいろな考えを もった人がいる」と思う 151.75 118.36 127.43 ** a-b
a-c
145.09 124.77 n.s.
友達の考えや思っていることを聞いてみようと思う 151.65 126.99 125.32 * a-c 148.27 110.17 **
友達の考えが自分と違う時でも,友達の考えを大切にしようと思う 158.04 106.14 120.85 *** a-b
a-c
148.33 113.01 **
自分の考えが友達と違う時でも,自分の考えを大切にしようと思う 150.41 121.40 131.92 n.s. 149.51 103.19 ***
自分の考えたことや思ったことは,相手に伝えようと思う 152.49 118.82 120.99 ** a-c 147.88 102.93 ***
「自分は自分らしく生きていて 良いんだ」と思った 149.60 120.00 132.66 n.s. 150.07 95.71 ***
友人関係で困ったことがある時に,誰かに相談してみようと思う 155.38 115.94 118.35 *** a-b
a-c
151.73 87.71 ***

注1)無回答を除く

注2)「とてもそう思う」~「そう思わない」を5~1で回答を得,平均ランクで示した.

注3)*p<0.05 **p<0.01 ***p<0.001

注4)対比較の有意水準はBonferroniの方法 p<0.017

対比較でみると“友達のことを大切にしようと思う”,“「世の中には,いろいろな考えをもった人がいる」と思う”,“友達の考えが自分と違う時でも,友達の考えを大切にしようと思う”,“友人関係で困ったことがある時に,誰かに相談してみようと思う”の4項目において,仲直りの経験において自ら行動する人の方が,行動しない人および「分からない」と回答した人より有意に「そう思う」と回答した人が多かった.また“友達の考えや思っていることを聞いてみようと思う”,“自分の考えたことや思ったことは,相手に伝えようと思う”の2項目において,自ら行動する人の方が「分からない」と回答した人より有意に「そう思う」と回答した人が多かった.

3) 相談者の有無と人間関係構築に関する認識との関連(表1

相談者の有無と人間関係構築に関する認識との関連をみたところ,“自分には良いところがある”(p<0.01),“自分のことを大切にしようと思う”(p<0.001),“友達のことを大切にしようと思う”(p<0.001),“友達の考えや思っていることを聞いてみようと思う”(p<0.01),“友達の考えが自分と違う時でも,友達の考えを大切にしようと思う”(p<0.01),“自分の考えが友達と違う時でも,自分の考えを大切にしようと思う”(p<0.001),“自分の考えたことや思ったことは,相手に伝えようと思う”(p<0.001),“「自分は自分らしく生きていて良いんだ」と思った”(p<0.001),“友人関係で困ったことがある時に,誰かに相談してみようと思う”(p<0.001)の9項目において,相談者がいる人の方がいない人より有意に「そう思う」と回答した人が多かった.

IV. 考察

1. 高校生の友達との人間関係および人間関係構築に関する認識の実態

高校生の多くは友達と喧嘩をした経験を有していた.喧嘩後の関係形成のための行動である「仲直り」の経験については,自ら行動する人は約6割であった.友人関係は,社会的情動的スキルやコンピテンス習得の場としての機能を有しており(Catherine, 2013),喧嘩は,対等な人間関係にあるもの同士が,互いに違う意見をもち,それを主張することで始まる.自分の意見を主張し,それに対する友達からの意見をもらうことで,自分の考えを客観的に捉えることができ,且つ相手の感情を害することなく自分の意見を伝えるスキルを磨く場となる.仲直りは,自分と相手の両方の意見を調整し,一時的に悪くなっていた関係を修復し,友達との関係を形成していく経験のできる場である.Erikson(1982)は,この時期の発達課題を「同一性(アイデンティティ)対同一性拡散」と定義した.アイデンティティ形成とは,自己の視点に気づき,他者の視点を内在化しながら,そこで生じた自己と他者の間の視点の食い違いを相互調整する作業であり,アイデンティティ形成の作業である探求は,他者を考慮したり,利用したり,他者と交渉することにより問題解決していくことである(杉村,1998).多くの高校生は,喧嘩や仲直りといった行動を通して,アイデンティティを形成する作業に取り組むことができていると考える.

一方で,喧嘩をした経験がない高校生が1割いた.喧嘩の経験がないということは,自分と異なる意見の相手に自分の主張や感情を伝える経験が少なかったと考える.岡田(2011)は,現代青年の友人関係は,自他共に傷つくことがないよう配慮し,相手から拒絶されず受容されることを通して,自尊感情の水準を高揚・維持しようとしていると述べている.自他共に傷つかないよう配慮した結果,自己の意見を主張しないという行動を選択する生徒がいるものと考える.しかしながら,アイデンティティを形成するためには,他者との関わりの中で,自分と他者の両方の視点を知り,その違いを調整する経験が欠かせない.相手との違いに気づくだけでなく,その違いに対してどのように折り合いをつけていくのかという経験が重要だと考える.また,社会に出て生活する際には,自己主張しなければならない場面が幾度となく存在する.時には喧嘩をしながらお互いに自己主張し合うことで,より強固な信頼関係を築く経験をするとともに,自分も相手も傷つけることなく,自分の意見を主張する技術を獲得することが必要である.

人間関係構築に関する認識については,思春期ピアカウンセリング講座受講後,8割以上の高校生が,多様な価値観をもった人がいると思い,友達のことを大切にしようと思うと回答した.さらに,7割以上が友達の考えを大切にしようと思い,友達の考え等を聞いてみようと思うと回答した.思春期ピアカウンセリング講座にて,多様な価値観や生命の尊さに関するプログラムを受講することを通して,多くの高校生は他者の意見を傾聴し受容することや多様な価値観を尊重することの大切さを感じたことが示唆された.一方,約2割が自分には良いところがないと思い,約1割は自分のことを大切にしようと思わないと回答した.これは,思春期の心理社会的特徴が影響しているものと推察する.アイデンティティ形成の直中にある高校生は,成長と発達の途上で,自己内部の変化に直面し,自己の社会的役割を統合する試みに関わるようになる(Erikson, 1982).つまり,思春期の若者は,自分が誰であるかを探し求めることになる.自分自身を安定した存在として認識しづらい時期であるために,安心感や自信を得ることが難しく,自己肯定や自尊心など自分自身に関することについて,ネガティブな反応を示す人がいたものと推察する.

2. 人間関係を構築するための力を育む支援

思春期ピアカウンセリング講座を受講した高校生の人間関係構築に関する認識をみると,自ら仲直りのための行動をする人の方がしない人と比較し,多様な価値観を受け入れ,友達を大切にし,困ったときには誰かに相談しようと思うことが明らかになった.また,相談者がいる人の方がいない人と比較し,多様な価値観を受け入れ,友達のことを大切にするとともに,自分のことも大切にしようと思っていた.

思春期ピアカウンセリング講座では,グループワークを通して,自分の価値観を理解することや多様な価値観があることを理解すること,および自分の考えや思いを表現することの大切さを体験的に学ぶ機会を提供した.Malcolm(2008)は,経験は豊かな学習資源であり,人々は受動的に受け取った学習よりも,経験から得た学習によりいっそうの意味を付与すると述べている.また,現実生活の課題や問題によりうまく対処しうる学習の必要性を実感したときに,人々は学習しようとする(Malcolm, 2008).仲直りのための行動をとる人や相談者がいる人は,過去に人間関係に関連する課題解決を経験しており,自らの経験を踏まえた上で学習することができたものと推察する.思春期ピアカウンセリング講座受講において,その経験は,多様な価値観や自己の考えを表現することの必要性を感じることにつながり,より深い学びへと結びついたのではないかと考える.思春期ピアカウンセリング講座の実施に際しては,グループワークなど自らの考えを整理する場において,より具体的な場面をイメージすることができるよう受講者の経験を引き出すなどの働きかけを行い,受講者の学習レディネスを高める必要がある.

高校生は友達等とのコミュニケーションを通して,人間関係の築き方を学ぶ時期である.この時期に,思春期ピアカウンセリング講座での学びを深めることにより,人間関係を構築するために必要な力を効果的に育むことができると考える.人間関係を構築するために必要な力を育むことは,物事を多様な側面から見る力や多くの情報の中から自分にとって必要な情報を選択する力を育むことにもつながり,これは,これからの社会を「生きる力」を育むことに通ずると考える.

V. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,対象者がA県の高等学校1校に在籍する生徒に限られているため,地域性や学校の特性が結果に影響した可能性がある.平成27年度学校基本統計(総合政策部統計調査課,2016)によると,A県には高等学校が53校あるが思春期ピアカウンセリング講座の開催を希望した学校は2校であった.今後は,事業主体である県福祉保健部と大学が協力し,県内で思春期ピアカウンセリング講座を周知し,開催校を増加する必要があると考える.

また,人間関係構築に関する認識に関しては,思春期ピアカウンセリング講座受講後のみ調査を行ったため,受講前の認識と比較することができず,思春期ピアカウンセリング講座の効果を明らかにすることはできなかった.

今後は,対象者を拡大するとともに,思春期ピアカウンセリング講座受講前後で人間関係構築に関する認識を調査し,前後比較することで思春期ピアカウンセリング講座の効果を明らかにする必要がある.

VI. おわりに

高校生の友達との人間関係の実態および思春期ピアカウンセリング講座を受講した高校生の人間関係構築に関する認識を明らかにすることを目的として,A県の思春期ピアカウンセリング講座を受講した高校生を対象に,自己記入式質問紙調査を実施した.その結果,以下のことが明らかとなった.

1.高校生の多くは友達と喧嘩をした経験を有しており,喧嘩後の関係形成のための行動である「仲直り」の経験について,自ら行動する人は約6割であった.

2.思春期ピアカウンセリング講座を受講した高校生の人間関係構築に関する認識をみると,8割以上の高校生が,多様な価値観をもった人がいると思い,友達のことを大切にしようと思うと回答した.また,自ら仲直りのための行動をする人および相談者がいる人の方が,多様な価値観を受け入れようと思うと回答していた.

謝辞

思春期ピアカウンセリング事業は,平成14年度より宮崎大学医学部看護学科が県の委託を受け実施しております.本研究にご協力いただいた高校生および学校関係者,県福祉保健部の皆様に心より御礼申し上げます.

文献
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