日本公衆衛生看護学会誌
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研究
市町村保健師の精神障がい者支援に関する意識と精神保健福祉活動状況との関連
長澤 ゆかり山口 忍綾部 明江鶴見 三代子
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2017 年 6 巻 2 号 p. 159-167

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Abstract

目的:市町村保健師の持つ精神障がい者支援に関する意識と市町村の精神保健福祉活動の実施状況との関連を明らかにする.

方法:平成25年7月~8月に市町村保健師550人を対象として自記式質問紙調査を実施.

結果:有効回答205件(有効回答率37.3%).市町村では「定期相談事業」は73.7%,「デイケア事業」は49.8%が実施し,「随時所内相談」などの活動は,96~100%が実施していた.90%以上が「市町村保健師にとって精神障がい者支援は重要」で「実施すべき」と考え,60%以上が活動にやりがいを感じていたが,保健師特有の活動方法を意識しているのは,半数以下だった.

考察:精神分野では保健師特有の活動が浸透していないと推察されたが,定期的に対象者と接点がある方が支援に対する意識が高まることが示唆された.経験を重ねることが,保健師自身の積極的な取り組みや市町村全体の精神保健福祉の充実につながると考えられた.

I. 緒言

近年,精神障がい者については,入院医療中心から社会復帰や福祉施策に重点が置かれ,地域生活を支える機関の重要性が言われている(内閣府,2013).保健所を第一線機関として行われていた行政の支援は,2002年の精神保健福祉法改正,2006年の障害者自立支援法制定やそれに続く2013年の障害者総合支援法への改正に伴い,住民に最も身近な相談機関である市町村を中心に行われ,その役割が大きくなっている(内閣府,2013).

精神保健福祉相談等および精神保健訪問指導の実施数の推移を見ると,保健所の相談等と訪問数とも減少傾向であるが,市町村の相談等は微増,訪問はほぼ横ばいである(精神保健福祉白書編集委員会編,2010)ことから市町村の活動が積極的に行われているとは考えにくい.先行研究として,精神保健福祉法改正や障害者自立支援法制定による役割の変化で,保健所のデイケア事業が縮小している現状を示す研究(佐伯ら,2011)や,保健所においてデイケアを含むグループワークの実施は3~5割であり,障害者福祉サービスを精神障がい者がどの程度利用しているかの把握割合の少なさを指摘する研究(赤澤ら,2014)がある.さらに,保健師経験年数による違いはあるが,保健所保健師の認識として精神障がい者の相談や緊急対応はその役割として重要と考えているという研究(池上ら,2012)がある.また,限定された地域の研究として,1つの県の精神保健福祉活動実態の研究(高橋ら,2006)や,精神障がい者の生活環境整備に関する研究(守田ら,2006),保健所保健師による市町村保健福祉活動支援に関する研究(中土ら,2013)はある.しかし,精神障がい者の対応を新たに担ってきた市町村保健師の取り組みへの意識や,活動の状況は明らかになっていない.

そこで,本研究では市町村保健師の持つ精神障がい者支援に関する意識と市町村の精神保健福祉活動の実施状況との関連を明らかにし,市町村での精神障がい者に向けた支援の示唆を得ることを目的とした.

II. 用語の定義

(1)「精神障がい者」:統合失調症,うつ病,神経症等の診断を受けている場合のみでなく,あらゆる精神的問題を抱える地域住民本人.

(2)「精神保健福祉活動」:市町村所属の関連職種による精神保健福祉の随時相談,訪問,定期事業,精神保健福祉手帳の発行等の事務手続きを含めた内容.

(3)「意識」:行動の根底にある認知・感情・意思を包含したもの.本研究では,保健師の精神障がい者支援に対する現状の認識や感情等を包含した.

III. 方法

1)研究対象:全国市区町村1,742(平成25年4月1日現在)から,設置する保健所が市町村の役割を兼務する場合がある政令指定都市,中核市,保健所政令市,特別区を除外し,さらに1/3を等間隔抽出法により無作為抽出した550市町村の精神保健福祉を担当する保健師(以下「担当保健師」とする)各1名.

2)調査期間:平成25年7月~8月

3)調査方法:自己記入式無記名質問紙を郵送にて配布回収した.

4)調査内容:

①対象者である担当保健師の属性21項目は,性別,年齢,職位,所属等である.

②市町村における精神保健福祉活動(以下「活動」とする)状況8項目は,随時所内相談,訪問指導,定期相談事業,精神障がい者デイケア事業(以下「デイケア」とする),精神保健福祉手帳発行等である.

③担当保健師の活動状況13項目は,相談・訪問・緊急対応の実施,他の保健師と随時意見交換の実施,所属する市町村内のロールモデルとなる保健師の有無,所属する市町村全体の精神保健福祉手帳の登録数の把握状況等である.

④担当保健師の精神障がい者支援(以下「支援」とする)に対する意識23項目は,「かなりそう思う」から「全くそう思わない」の4件法で尋ね,内容は,支援の現状への認識4項目,保健師の特徴的な活動への認識5項目,支援に積極的な意識6項目,支援に対する感情4項目,自己研鑚への取り組み4項目である.項目は文献検討した結果を参考に,研究者間で検討した.

5)分析方法:担当保健師の属性,活動状況,支援に対する意識は,単純集計.

支援に対する意識は,マイナスの感情である「精神障がい者の対応に戸惑うことがある」「市町村保健師にとって精神障がい者支援は難しい」「精神障がい者の対応に対して苦手意識がある」は,逆転項目とした.また,「かなりそう思う」,「そう思う」の肯定的回答を意識高群,「あまりそう思わない」,「全くそう思わない」の否定的回答を意識低群とし,市町村における活動状況や担当保健師の活動状況との関連についてχ2検定及びFisherの直接確率検定を行った.

市町村における活動は,実施率が80%以下であった定期相談事業およびデイケアと意識低群高群との関連をみた.また,担当保健師の活動状況は,13項目中「行っている」「行っていない」のうち一方の回答が80%以上と偏りの見られた4項目と他の項目と重複していると考えられた2項目を除外し,残りの7項目と意識低群高群との関連を見た.有意水準は5%とした.

6)倫理的配慮:自己記入式質問紙調査は無記名式で,個人情報保護に留意し,研究結果を公表する際には,所属する都道府県は明らかになるが,個人または市町村が特定できないよう配慮した.本研究は,茨城県立医療大学倫理委員会にて,平成25年5月11日に承認(No. 515)を得た.

IV. 結果

回収は550件中269件(回収率48.9%)であり,そのうち担当保健師が回答した205件(有効回答率37.3%)を分析対象とした.

1. 回答した担当保健師の属性

回答者である担当保健師は,196件(95.6%)が「女性」,平均42.2±8.3歳,125件(61.0%)が「保健部門」所属であった(表1).市町村内の担当保健師数は平均2.1±2.8人,担当年数は平均6.5±7.0年目で,192件(93.7%)が「他の業務と兼務」だった.同僚の常勤精神保健福祉士がいるのは,44件(21.5%)であった.

表1  回答した担当保健師の属性(N=205)
n (%)
自治体 94​ (45.9)
92​ (44.9)
18​ (8.8)
不明 1​ (0.5)
性別 女性 196​ (95.6)
男性 9​ (4.4)
年齢(歳) 42.2±8.3
職位 管理職 16​ (7.8)
管理職以外 186​ (90.7)
不明 3​ (1.5)
保健師経験年数(年目) 18.2±8.6
所属 保健センター(保健部門) 125​ (61.0)
障害者福祉 66​ (32.2)
高齢者福祉 1​ (0.5)
その他 4​ (2.0)
不明 9​ (4.4)
精神担当保健師数(人) 2.1±2.8
精神担当年数(年目) 6.5±7.0
担当形態 専任 10​ (4.9)
兼務 192​ (93.7)
その他 3​ (1.5)
精神保健福祉士資格 あり 28​ (13.7)
なし 177​ (86.3)
同僚の常勤精神保健福祉士 いる 44​ (21.5)
いない 159​ (77.6)
不明 2​ (1.0)

年齢,保健師経験年数,精神担当保健師数,精神担当年数は,平均±標準偏差を示した.

2. 精神保健福祉活動状況

1) 市町村における精神保健福祉活動状況

市町村では,100%近く実施されていた活動が多いが,定期相談事業は151件(73.7%),デイケアは102件(49.8%)の実施だった(表2).

表2  市町村における精神保健福祉活動状況(N=205)
実施している
n (%)
電話相談 205 (100.0)
随時所内相談 203 (99.0)
訪問指導 201 (98.0)
通院医療費助成手続き 202 (98.5)
精神保健福祉手帳発行 200 (97.6)
他機関との連携 198 (96.6)
定期相談事業 151 (73.7)
精神障がい者デイケア事業 102 (49.8)

2) 担当保健師の精神保健福祉活動状況

担当保健師は,「相談を行っている」203件(99.0%),「訪問を行っている」196件(95.6%)であり,「緊急対応を行っている」160件(78.0%),「所属する市町村内にロールモデルとなる保健師がいる(以下「ロールモデルあり」とする)」は,47件(22.9%)であった(表3).担当保健師が「所属する市町村全体の精神保健福祉関連の社会資源を把握している」は174件(84.9%),「所属する市町村全体の精神保健福祉手帳の登録数を把握している(以下「手帳登録数把握」とする)」は121件(59.0%),「所属する市町村全体の保健師の精神障がい者に対する年間訪問件数を把握している(以下「訪問件数把握」とする)」は156件(76.1%)であった.

表3  担当保健師の精神保健福祉活動状況(N=205)
n (%)
相談を行っている 203​ (99.0)
訪問を行っている 196​ (95.6)
担当以外の保健師が行う活動のサポートをしている 144​ (70.2)
緊急対応を行っている 160​ (78.0)
精神保健福祉手帳の発行を行っている 49​ (23.9)
他の保健師と随時意見交換を行っている 186​ (90.7)
他の保健師と定期的に情報交換を行っている 119​ (58.0)
他の保健師と事例検討会を開いて話し合っている 83​ (40.5)
所属する市町村内の保健師に助言・指導を受けている 131​ (63.9)
所属する市町村内にロールモデルとなる保健師がいる 47​ (22.9)
所属する市町村全体の精神保健福祉関連の社会資源を把握している 174​ (84.9)
所属する市町村全体の精神保健福祉手帳の登録数を把握している 121​ (59.0)
所属する市町村全体の保健師の精神障がい者に対する年間訪問件数を把握している 156​ (76.1)

3. 担当保健師の支援に対する意識

担当保健師の支援に対する意識で「かなりそう思う」「そう思う」が多かったのは,支援の現状への認識の「市町村保健師にとって精神障がい者支援は重要な活動である」76件(37.1%),111件(54.1%),保健師の特徴的な活動への認識の「精神障がい者が心を開いてくれるまで待とうと思っている」23件(11.2%),157件(76.6%),支援に積極的な意識の「精神障がい者からの相談に対して傾聴しようと心がけている」69件(33.7%),135件(65.9%),支援に対する感情の「精神障がい者支援にやりがいを感じている」19件(9.3%),110件(53.7%),自己研鑽への取り組みの「精神保健福祉に関連した研修に参加しようと思う」37件(18.0%),145件(70.7%),「精神保健福祉に関連した資料を集めようと思う」24件(11.7%),139件(67.8%)であった(表4).逆に「全くそう思わない」「あまりそう思わない」の回答が比較的多かったのは,支援の現状への認識の「精神障がい者支援について管轄保健所からの技術支援は行われている」11件(5.4%),70件(34.1%),保健師の特徴的な活動への認識の「精神障がい者の個別支援から得たニーズを,地域全体の支援活動に取り入れている」4件(2.0%),110件(53.7%),支援に対する感情の「精神障がい者の対応に戸惑うことはない」61件(29.8%),120件(58.5%),自己研鑽への取り組みの「精神保健福祉に関連した雑誌を定期的に読もうと思う」12件(5.9%),92件(44.9%),「精神保健福祉に関連した資格を取るための学習をしようと思う」25件(12.2%),120件(58.5%)だった.

表4  担当保健師の精神障がい者支援に対する意識(N=205)
かなりそう思う そう思う あまりそう思わない 全くそう思わない 不明
n (%) n (%) n (%) n (%) n (%)
支援の現状への認識 市町村保健師にとって精神障がい者支援は重要な活動である 76​ (37.1) 111​ (54.1) 16​ (7.8) 2​ (1.0) 0​ (0.0)
市町村保健師は精神障がい者支援を実施すべきである 67​ (32.7) 120​ (58.5) 15​ (7.3) 3​ (1.5) 0​ (0.0)
精神障がい者支援は所属する市町村で行われている 38​ (18.5) 130​ (63.4) 36​ (17.6) 0​ (0.0) 1​ (0.5)
精神障がい者支援について管轄保健所からの技術支援は行われている 20​ (9.8) 103​ (50.2) 70​ (34.1) 11​ (5.4) 1​ (0.5)
保健師の特徴的な活動への認識 精神障がい者が心を開いてくれるまで待とうと思っている 23​ (11.2) 157​ (76.6) 22​ (10.7) 1​ (0.5) 2​ (1.0)
精神障がいの問題で悩んでいても相談行動を起こせない人を見つけようという気持ちを持っている 19​ (9.3) 135​ (65.9) 48​ (23.4) 2​ (1.0) 1​ (0.5)
精神障がい者と信頼関係を築くための様々な工夫をしている 20​ (9.8) 126​ (61.5) 58​ (28.3) 0​ (0.0) 1​ (0.5)
精神障がい者の身近な相談者として活動している 23​ (11.2) 110​ (53.7) 69​ (33.7) 3​ (1.5) 0​ (0.0)
精神障がい者の個別支援から得たニーズを,地域全体の支援活動に取り入れている 8​ (3.9) 83​ (40.5) 110​ (53.7) 4​ (2.0) 0​ (0.0)
支援に積極的な意識 精神障がい者からの相談に対して傾聴しようと心がけている 69​ (33.7) 135​ (65.9) 1​ (0.5) 0​ (0.0) 0​ (0.0)
精神障がい者からの相談があれば担当でなくても対応している 38​ (18.5) 131​ (63.9) 30​ (14.6) 1​ (0.5) 5​ (2.4)
精神障がい者支援を継続して行っていきたい 32​ (15.6) 139​ (67.8) 31​ (15.1) 3​ (1.5) 0​ (0.0)
精神障がい者からの相談があれば他の業務よりも優先している 25​ (12.2) 135​ (65.9) 38​ (18.5) 3​ (1.5) 4​ (2.0)
精神障がい者への訪問を躊躇なく行っている 31​ (15.1) 121​ (59.0) 48​ (23.4) 4​ (2.0) 1​ (0.5)
精神障がい者支援を積極的に進めたいと思っている 28​ (13.7) 118​ (57.6) 54​ (26.3) 3​ (1.5) 2​ (1.0)
支援に対する感情 精神障がい者支援にやりがいを感じている 19​ (9.3) 110​ (53.7) 70​ (34.1) 5​ (2.4) 1​ (0.5)
精神障がい者の対応に対して苦手意識がない 9​ (4.4) 106​ (51.7) 69​ (33.7) 20​ (9.8) 1​ (0.5)
市町村保健師にとって精神障がい者支援は難しくない 4​ (2.0) 51​ (24.9) 108​ (52.7) 42​ (20.5) 0​ (0.0)
精神障がい者の対応に戸惑うことはない 2​ (1.0) 20​ (9.8) 120​ (58.5) 61​ (29.8) 2​ (1.0)
自己研鑽への取り組み 精神保健福祉に関連した研修に参加しようと思う 37​ (18.0) 145​ (70.7) 21​ (10.2) 2​ (1.0) 0​ (0.0)
精神保健福祉に関連した資料を集めようと思う 24​ (11.7) 139​ (67.8) 38​ (18.5) 2​ (1.0) 2​ (1.0)
精神保健福祉に関連した雑誌を定期的に読もうと思う 10​ (4.9) 91​ (44.4) 92​ (44.9) 12​ (5.9) 0​ (0.0)
精神保健福祉に関連した資格を取るための学習をしようと思う 12​ (5.9) 47​ (22.9) 120​ (58.5) 25​ (12.2) 1​ (0.5)

注:数字は人数,( )は%を示す.

4. 担当保健師の支援に対する意識と活動状況との関連

1) 担当保健師の支援に対する意識と所属する市町村における活動状況との関連

担当保健師の支援に対する意識と所属する市町村における活動状況との関連(表5)を見ると,市町村における定期相談事業が実施ありの場合,担当保健師の「精神障がい者と信頼関係を築くために様々な工夫をしている」,「精神障がい者の身近な相談者として活動している」,「精神障がい者支援にやりがいを感じている」意識の高い者が多かった(p<0.05).

表5  担当保健師の精神障がい者支援に対する意識と市町村における定期相談・デイケア事業実施との関連
市町村の定期相談事業実施(n=151) 市町村の精神障がい者デイケア事業実施(n=102)
n (%) p n (%) p
担当保健師の精神障がい者支援に対する意識 支援の現状への認識 市町村保健師にとって精神障がい者支援は重要な活動である 139​ (92.1) 0.160a 95​ (93.1) 0.702a
市町村保健師は精神障がい者支援を実施すべきである 140​ (92.7) 0.603a 96​ (94.1) 1.000a
精神障がい者支援は所属する市町村で行われている 128​ (85.3) 1.000a 86​ (84.3) 0.782a
精神障がい者支援について管轄保健所からの技術支援は行われている 92​ (61.3) 0.379 60​ (58.8) 0.569
保健師の特徴的な活動への認識 精神障がい者が心を開いてくれるまで待とうと思っている 134​ (89.3) 0.400a 94​ (92.2) 0.301a
精神障がいの問題で悩んでいても相談行動を起こせない人を見つけようという気持ちを持っている 118​ (78.1) 0.745a 83​ (82.2) 0.372
精神障がい者と信頼関係を築くための様々な工夫をしている 114​ (75.5) 0.039a 75​ (73.5) 0.387
精神障がい者の身近な相談者として活動している 107​ (70.9) 0.007 71​ (69.6) 0.087
精神障がい者の個別支援から得たニーズを,地域全体の支援活動に取り入れている 69​ (45.7) 0.269 48​ (47.1) 0.207
支援に積極的な意識 精神障がい者からの相談に対して傾聴しようと心がけている 151​ (100.0) 102​ (100.0)
精神障がい者からの相談があれば担当でなくても対応している 123​ (82.6) 0.475a 82​ (82.0) 0.811
精神障がい者支援を継続して行っていきたい 128​ (84.8) 0.150a 92​ (90.2) 0.017
精神障がい者からの相談があれば他の業務よりも優先している 118​ (79.7) 1.000a 83​ (83.0) 0.315
精神障がい者への訪問を躊躇なく行っている 116​ (76.8) 1.000a 83​ (81.4) 0.433
精神障がい者支援を積極的に進めたいと思っている 115​ (76.2) 0.236a 83​ (81.4) 0.130
支援に対する感情 精神障がい者支援にやりがいを感じている 104​ (68.9) 0.043 66​ (65.3) 0.353
精神障がい者の対応に対して苦手意識がない 90​ (59.6) 0.458 62​ (60.8) 0.648
市町村保健師にとって精神障がい者支援は難しくない 41​ (27.2) 0.771a 28​ (27.5) 0.677
精神障がい者の対応に戸惑うことはない 19​ (12.7) 0.696a 12​ (11.9) 1.000a
自己研鑚への取り組み 精神保健福祉に関連した研修に参加しようと思う 135​ (89.4) 1.000a 95​ (93.1) 0.080a
精神保健福祉に関連した資料を集めようと思う 126​ (83.4) 0.170a 85​ (83.3) 0.785
精神保健福祉に関連した雑誌を定期的に読もうと思う 77​ (51.0) 0.940 55​ (53.9) 0.486
精神保健福祉に関連した資格を取るための学習をしようと思う 45​ (29.8) 0.562a 30​ (29.4) 0.889

注:「担当保健師の精神障がい者支援に対する意識」は高群のみ示す.

χ2検定.a.Fisherの直接確率検定.

数字は人数,( )は%を示す.%は欠損値を除く.

また,市町村におけるデイケアが実施ありの場合,「精神障がい者支援を継続して行っていきたい」意識の高い者が多かった(p<0.05).

2) 担当保健師の支援に対する意識と担当保健師の活動状況との関連

担当保健師の支援に対する意識と担当保健師の活動状況との関連(表6)では,「担当以外の保健師が行う活動のサポートをしている」活動状況ありに,担当保健師の「精神障がいの問題で悩んでいても相談行動を起こせない人を見つけようという気持ちを持っている」,「精神障がい者と信頼関係を築くための様々な工夫をしている」,「精神障がい者の身近な相談者として活動している」,「精神障がい者の個別支援から得たニーズを,地域全体の支援活動に取り入れている」意識の高い者が多かった(p<0.05).

表6  担当保健師の精神障がい者支援に対する意識と担当保健師の精神保健福祉活動状況との関連
担当保健師の精神保健福祉活動状況
担当以外の保健師が行う活動のサポートをしている(n=144) 緊急対応を行っている(n=160) 他の保健師と定期的に情報交換を行っている(n=119) 所属する市町村内の保健師に助言・指導を受けている(n=131) 所属する市町村内にロールモデルとなる保健師がいる(n=47) 所属する市町村全体の精神保健福祉手帳の登録数を把握している(n=121) 所属する市町村全体の保健師の精神障がい者に対する年間訪問件数を把握している(n=156)
n (%) p n (%) p n (%) p n (%) p n (%) p n (%) p n (%) p
担当保健師の精神障がい者支援に対する意識 支援の現状への認識 市町村保健師にとって精神障がい者支援は重要な活動である 131​ (91.0) 1.000a 148​ (92.5) 0.215a 106​ (89.1) 0.118 122​ (93.1) 0.282 45​ (95.7) 0.250a 112​ (92.6) 0.400 143​ (91.7) 0.773a
市町村保健師は精神障がい者支援を実施すべきである 133​ (92.4) 0.386a 151​ (94.4) 0.003a 109​ (91.6) 0.782 122​ (93.1) 0.167 46​ (97.9) 0.079a 110​ (90.9) 0.871 142​ (91.0) 1.000a
精神障がい者支援は所属する市町村で行われている 124​ (86.7) 0.076 136​ (85.5) 0.010 106​ (89.1) 0.004 114​ (87.0) 0.023 42​ (89.4) 0.129 102​ (84.3) 0.481 132​ (85.2) 0.061
精神障がい者支援について管轄保健所からの技術支援は行われている 86​ (60.1) 0.986 100​ (62.9) 0.173 76​ (63.9) 0.227 79​ (60.8) 0.823 27​ (57.4) 0.898 72​ (60.0) 0.973 90​ (58.1) 0.247
保健師の特徴的な活動への認識 精神障がい者が心を開いてくれるまで待とうと思っている 127​ (88.2) 0.761 141​ (89.2) 0.583a 109​ (91.6) 0.164 116​ (88.5) 0.779 44​ (93.6) 0.178 114​ (95.0) 0.001 140​ (90.9) 0.074
精神障がいの問題で悩んでいても相談行動を起こせない人を見つけようという気持ちを持っている 117​ (81.8) 0.001 124​ (78.0) 0.055 91​ (77.1) 0.589 104​ (79.4) 0.089 36​ (76.6) 0.670 98​ (81.7) 0.012 124​ (80.0) 0.008
精神障がい者と信頼関係を築くための様々な工夫をしている 113​ (79.0) 0.001 118​ (74.2) 0.170 93​ (78.2) 0.016 99​ (75.6) 0.137 40​ (85.1) 0.012 94​ (78.3) 0.015 118​ (76.1) 0.010
精神障がい者の身近な相談者として活動している 101​ (70.1) 0.038 116​ (72.5) 0.000 82​ (68.9) 0.167 87​ (66.4) 0.665 35​ (74.5) 0.075 88​ (72.7) 0.004 108​ (69.2) 0.020
精神障がい者の個別支援から得たニーズを,地域全体の支援活動に取り入れている 72​ (50.0) 0.028 78​ (48.8) 0.025 62​ (52.1) 0.008 58​ (44.3) 0.914 22​ (46.8) 0.609 64​ (52.9) 0.004 76​ (48.7) 0.026
支援に積極的な意識 精神障がい者からの相談に対して傾聴しようと心がけている 143​ (99.3) 1.000a 159​ (99.4) 1.000a 118​ (99.2) 1.000a 130​ (99.2) 1.000a 47​ (100.0) 1.000a 120​ (99.2) 1.000a 156​ (100.0) 0.239a
精神障がい者からの相談があれば担当でなくても対応している 125​ (87.4) 0.074 134​ (84.8) 0.719 99​ (83.2) 0.425 111​ (86.0) 0.493 42​ (89.4) 0.264 105​ (89.7) 0.013 135​ (88.2) 0.008
精神障がい者支援を継続して行っていきたい 125​ (86.8) 0.072 137​ (85.6) 0.058 101​ (84.9) 0.603 111​ (84.7) 0.577 43​ (91.5) 0.078 101​ (83.5) 0.949 136​ (87.2) 0.010
精神障がい者からの相談があれば他の業務よりも優先している 110​ (78.6) 0.606 130​ (82.8) 0.013 96​ (82.1) 0.366 106​ (82.2) 0.256 41​ (89.1) 0.045 100​ (84.0) 0.054 127​ (82.5) 0.068
精神障がい者への訪問を躊躇なく行っている 114​ (79.2) 0.051 126​ (78.8) 0.014 96​ (80.7) 0.020 98​ (75.4) 0.908 36​ (76.6) 0.606 98​ (81.7) 0.004 124​ (79.5) 0.003
精神障がい者支援を積極的に進めたいと思っている 109​ (76.2) 0.052 119​ (75.3) 0.015 88​ (75.2) 0.251 101​ (78.3) 0.008 40​ (85.1) 0.012 93​ (78.2) 0.016 114​ (74.0) 0.237
支援に対する感情 精神障がい者支援にやりがいを感じている 93​ (65.0) 0.524 104​ (65.0) 0.180 78​ (65.5) 0.441 87​ (66.9) 0.137 35​ (74.5) 0.034 84​ (69.4) 0.022 104​ (66.7) 0.067
精神障がい者の対応に対して苦手意識がない 83​ (57.6) 0.964 90​ (56.6) 0.824 68​ (57.6) 0.813 68​ (52.3) 0.057 24​ (51.1) 0.494 67​ (55.8) 0.910 91​ (58.7) 0.231
市町村保健師にとって精神障がい者支援は難しくない 39​ (27.1) 0.900 46​ (28.8) 0.234 28​ (23.5) 0.174 33​ (25.2) 0.377 8​ (17.0) 0.086 36​ (29.8) 0.278 48​ (30.8) 0.023
精神障がい者の対応に戸惑うことはない 17​ (11.9) 0.718 17​ (10.8) 0.783a 13​ (11.0) 0.969 14​ (10.9) 0.928 5​ (10.9) 1.000a 16​ (13.4) 0.163 19​ (12.3) 0.223
自己研鑚への取り組み 精神保健福祉に関連した研修に参加しようと思う 128​ (88.9) 0.864 142​ (88.8) 0.790a 106​ (89.1) 0.828 119​ (90.8) 0.176 44​ (93.6) 0.187 111​ (91.7) 0.101 141​ (90.4) 0.194
精神保健福祉に関連した資料を集めようと思う 116​ (81.1) 0.863 127​ (80.4) 0.740 96​ (81.4) 0.595 109​ (83.8) 0.064 42​ (89.4) 0.052 100​ (84.0) 0.101 124​ (80.5) 0.887
精神保健福祉に関連した雑誌を定期的に読もうと思う 76​ (52.8) 0.119 80​ (50.0) 0.329 62​ (52.1) 0.258 69​ (52.7) 0.108 29​ (61.7) 0.041 67​ (55.4) 0.028 76​ (48.7) 0.779
精神保健福祉に関連した資格を取るための学習をしようと思う 46​ (32.2) 0.056 48​ (30.2) 0.297 35​ (29.4) 0.793 37​ (28.2) 0.794 17​ (36.2) 0.172 44​ (36.7) 0.004 46​ (29.7) 0.672

注:表中「担当保健師の精神障がい者支援に対する意識」は高群,「担当保健師の精神保健福祉活動状況」は「はい」の値のみ示す.

χ2検定.a.Fisherの直接確率検定.

数字は人数,( )は%を示す.%は欠損値を除く.

また,「緊急対応を行っている」活動状況ありに,担当保健師の「市町村保健師は精神障がい者支援を実施すべきである」,「精神障がい者支援は所属する市町村で行われている」,「精神障がい者の身近な相談者として活動している」,「精神障がい者の個別支援から得たニーズを,地域全体の支援活動に取り入れている」,「精神障がい者からの相談があれば他の業務よりも優先している」,「精神障がい者への訪問を躊躇なく行っている」,「精神障がい者支援を積極的に進めたいと思っている」意識の高い者が多かった(p<0.05).

「他の保健師と定期的に情報交換を行っている」活動状況ありでは,「精神障がい者支援は所属する市町村で行われている」,「精神障がい者と信頼関係を築くための様々な工夫をしている」,「精神障がい者の個別支援から得たニーズを,地域全体の支援活動に取り入れている」,「精神障がい者への訪問を躊躇なく行っている」意識の高い者が多かった(p<0.05).

「所属する市町村内の保健師に助言・指導を受けている」活動状況ありでは,「精神障がい者支援は所属する市町村で行われている」,「精神障がい者支援を積極的に進めたいと思っている」意識が高い者が多かった(p<0.05).

さらに,「ロールモデルあり」の状況では,「精神障がい者と信頼関係を築くための様々な工夫をしている」,「精神障がい者からの相談があれば他の業務よりも優先している」,「精神障がい者支援を積極的に進めたいと思っている」,「精神障がい者支援にやりがいを感じている」,「精神保健福祉に関連した雑誌を定期的に読もうと思う」意識の高い者が多かった(p<0.05).

「手帳登録数把握」の状況ありでは,保健師の特徴的な活動への認識の5項目全ての意識や,支援に積極的な意識のうちの3項目,支援に対する感情の「精神障がい者支援にやりがいを感じている」や,自己研鑽への取り組みのうちの2項目の意識が高い者が多かった(p<0.05).

また,「訪問件数把握」の状況ありでは,保健師の特徴的な活動への認識のうちの4項目や,支援に積極的な意識のうちの3項目,支援に対する感情の「市町村保健師にとって精神障がい者支援は難しくない」意識の高い者が多かった(p<0.05).

V. 考察

1. 精神障がい者支援を行う市町村保健師の特徴と活動体制

市町村では,担当保健師数平均2.1人という少人数で,中堅の保健師が他の業務と兼務しながら精神保健福祉活動を担当していることが分かった.2002年精神保健福祉法改正直後の調査でも,保健所や市町村では精神保健福祉担当者は他業務と兼任している者が多く(浅沼ら,2002中添ら,2004),10年以上経過しても当時の状況と変化していないことが伺えた.精神保健福祉士の常勤配置が2割の自治体にとどまっている状況とも併せてみると,常時,担当保健師と精神保健福祉士が協力して活動できる体制ではない自治体が多かったと推察される.自治体の規模にもよるが,中堅保健師であっても兼務で2名体制では十分な活動ができる状況ではないことが考えられた.厚生労働省地域保健・健康増進事業報告201020122014)によると市町村が実施した精神保健福祉相談数が増加している反面,訪問数は横ばいであり,保健師や精神保健福祉士の人員配置と関連している可能性が考えられた.

また,担当保健師は他の保健師と随時意見交換は行っているが,定期的な情報交換や事例検討会での話し合いの実施は5割前後と低く,保健所からの技術支援がないと認識している者が約4割,ロールモデルがいるのは約2割であることから,担当保健師に対する市町村内外の支援体制は充足していない状況だった.

精神保健福祉は,ほとんどの市町村で新たに加わった活動で,法改正に伴う人員増の予算措置がとられてはいる(勝又,2010)が,実際には精神保健福祉担当専任ではなく,他業務と兼務で多忙となり,研修参加等の体制が整っていない.さらに経験年数が短くロールモデルがいないことで,支援技術向上や精神的負担の解消ができないことが推察された.保健師活動の前提となる態度の特徴を矢野(2014)は,「組織内の支援関係と体制づくりを求める態度」や「保健師としての専門性を高める態度」としており,前者には「同僚や先輩との活動に関わる日頃からのコミュニケーション」や「個人任せでない組織内の協力関係と相互扶助」,後者には「理想となる先輩保健師の模倣」や「専門知識や技術,情報獲得のための継続的自己学習の意欲」を挙げている.本研究では,支援方法を工夫したり,躊躇なく訪問したりする意識の高さと,他の保健師と定期的な情報交換をしていることに関連があり,今後は,担当保健師を支える仕組み作りや,研修参加の時間を確保する等の体制作りが必要であると考えられた.

2. 担当保健師の意識と精神保健福祉活動との関連と今後の課題

担当保健師は,精神障がい者支援について身近な相談者として支援を他の業務より優先させて積極的に進め,保健師の特徴的な活動を行っていることが分かったが,その意識の高さと,緊急対応を行うことに関連があった.このことは,緊急対応を行う能力は,保健師に特徴的な活動を行う力を養い,地域住民に寄り添った密接な関係構築につながると示唆された.緊急対応を保健所保健師と協働で行うことによって支援技術を学び,市町村に必要な事業の助言を受ける等,今後の積極的な活動につながる可能性が考えられた.

反面,担当保健師は,精神の分野では地域全体を意識した保健師の特徴的な活動に対する意識が低い傾向にあり,その活動方法がまだ浸透していないと推察された.また,活動への苦手意識は少ないが,戸惑い難しいと思う者が多いことから,経験の短さや保健所からの支援の少なさ,ロールモデルがいないことが影響していると推察された.しかし,定期的に対象者と接することで支援に対する意識が高まること,他の保健師の支援を受けることや市町村全体の動向を知ることが,地域全体を見通して活動することに繋がると示唆された.地道に支援活動の経験を重ねて振り返ることが,保健師自身の積極的な取り組みにつながり,市町村全体の精神保健福祉の充実につながっていくと考えられた.

現在では,精神障がい者の社会復帰を支える社会資源も増えているが,公的機関で専門職が実施する支援事業を充実させていくことも必要であり,今後の取り組みが期待される.さらに,民間の支援事業への保健師の介入状況は明らかではないが,継続的支援が今後の保健師の重要な役割ではないかと考えた.

本研究により9割以上の市町村で精神障がい者支援が実施されていることが明らかになったが,定期相談やデイケア等事業として位置づけたものの実施率は低く,対象者からアプローチがあれば対応するが,事業として継続的に取り組んでいないことが推察され,市町村で行われる精神保健福祉活動を事業として今以上に位置付けることが必要であると考えられた.保健師の事業化のストラテジーの先行因子として「住民のために活動するという保健師のビジョンとそれに対する使命感が基盤にある」(宮崎,2010)としており,担当保健師が専門職として精神障がい者支援にあたる使命感とビジョンの明確化が活動の充実には必要である.支援の実績を積み重ねることがその明確化に繋がり,地域全体を見て活動することで,市町村全体の精神障がい者支援の向上に繋がるとの示唆を得た.

3. 研究の限界

自治体の人口規模別で人員の配置や活動状況を分析しておらず,その実態が明確になっていない.人口規模による取り組みの違いは,先行研究でも言われているため,今後分析が必要と考える.

また,担当保健師の意識と事業の実施に関連があることが分かったが,経時的にどちらが先かは明らかではない.今後はその関連性も見ていく必要がある.

VI. 結論

市町村では精神保健福祉活動が行われているが,事業として確立している割合は低かった.担当保健師の,支援にやりがいを感じ対応に工夫をしようとする意識の高さと,事業の実施には関連があり,更に,定期的に対象者と接することや,他の保健師の支援を受けること,市町村全体の動向を知ることが,地域全体を見通して活動することに繋がると示唆された.

謝辞

本研究を行うにあたり,ご協力いただきました全国市町村の保健師の皆様に深く感謝いたします.

また,調査内容の検討や結果の分析についてご教授いただいた,茨城県立医療大学保健医療学部医科学センターの桜井直美先生に,深く感謝いたします.

本論文は,茨城県立医療大学大学院博士前期課程の修士論文に加筆修正した.

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© 2017 日本公衆衛生看護学会
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