日本公衆衛生看護学会誌
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活動報告
市町村保健師活動の充実や能力向上に向けて開発した活動評価方法の評価と活用
―活動評価の試行に参加した保健師の意見調査より―
大井 靖子山田 洋子松下 光子
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2017 年 6 巻 3 号 p. 278-287

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Abstract

【目的】開発した市町村保健師活動評価方法を試行し参加者の意見から本評価方法の意義と活用方法を検討する.

【方法】試行に参加した4市町村12名の保健師より本評価方法の意見,保健師としての能力向上に役立つか等を聴取し,意見内容の類似性に沿って分類整理した.

【結果】評価試行後の意見・感想は「事業の方向性・位置づけや保健師の考えが整理できた」「保健師自身が現状や目標を意識していないことに気づいた」等であった.保健師としての能力向上に役立つかについては「複数の保健師で話し合うことで複数の考えや視点に気づくことができる」「後輩保健師の考えや意見を確認できる」等の内容であった.

【考察】開発した評価方法は,保健師が活動の目的目標および自身の思考過程を認識し保健師間で共有することで,個々の保健師の能力向上につながっていた.活用に向けては管理的立場にある保健師が現場保健師の思考を整理する役割を担うことが重要である.

I. はじめに

行政保健師の保健師活動評価は,保健事業への信頼性を担保し立証すること,住民に対する説明責任を果たすことであり,その必要性が指摘されている(平野,2005中板,2009).近年は多くの自治体が行政評価を導入し,保健師活動評価においては専門職としてだけではなく行政職としての視点も含めた評価が求められるが,保健師が日常業務の中で実施できる活動評価方法は確立しているとはいえない現状にある.

保健師活動評価に対する市町村保健師の考えを調査した結果では,保健師活動の結果の見えにくさや評価にかける時間のなさから保健師は評価実施に困難を感じる一方,行政が求める成果を出すだけでなく保健師活動を評価しながら自分の能力や技術を評価し高めることを希望していた(松下ら,2008).行政評価に先進的に取り組む6基礎自治体の管理的立場にある保健師への調査では,行政評価シートでは保健師活動の評価には不十分であるが総合計画と保健師活動の連動は必要であると認識していた(松下ら,2014).行政評価と保健師活動評価の取り組み実態を調査した結果では,市町村の86.7%が職場内での話し合いの機会を持つことを評価の機会として意識していた(大井ら,2013).

これらの結果から,筆者らは市町村保健師活動評価シート(以下,評価シートとする)を用いる市町村保健師活動評価方法(以下,活動評価方法とする)を開発した.この評価シートは,保健師が捉えた地域の健康課題と事業目的・方法との対応,関連施策との対応が確認できる内容・構成とし,地域生活集団を対象にした看護過程,すなわちアセスメント-計画-実施-評価-改善の過程を確認し,かつ保健事業の目的・目標と行政施策との関連も確認することで,保健師が自らの活動を振り返り保健師としての能力向上につながることをねらいとした.評価シートの記載にあたっては,筆者らが作成した質問項目に沿って経験年数の異なる複数の保健師が話し合いながら記載する.質問項目は保健師の思考過程に沿って情報を記載できる順序としている.経験年数の異なる保健師同士で話し合いながら記載する方法は,それぞれの立場の保健師の考えや実践内容が言語化され保健師間で共有されることで次の活動計画が実施可能なものとなるだけではなく,評価に参加した保健師の能力向上にもつながることを意図した.評価シートおよび質問項目の概要を図1および表1に示す.

本研究では,保健師活動と行政施策との関連が確認できる評価シートを用いること,複数の保健師が話し合うことの二つの方法を基軸とした活動評価方法が,保健師にとってどのような意義をもつか,実際に現場で活用できる評価方法となりうるか,評価試行後の保健師の意見調査から検討することを目的とする.

図1 

市町村保健師活動評価シート

表1  質問項目

II. 方法

1. 市町村保健師活動評価方法の試行

試行は筆者らの教育研究活動を通じて保健師の活動状況を把握しており,活動評価に関心があり所属組織の了解が得られた4市町村12名の保健師に対して研究参加を依頼した.評価する事業を担当する保健師の中から,新任期(経験年数目安1~5年),中堅期(同6~19年),管理的立場にあるリーダー(同20年以上)から1名ずつの保健師が参加できるよう依頼した.試行は作業を2回に分けて実施した.1回目は研究者1名が質問項目にそって質問し,質問に対して保健師が保健師間で話し合いながら回答し,回答内容を別の研究者がパソコンを用いて評価シートに入力した.研究者は,保健師からの質問に応じ質問の補足説明をしながら評価シートへの入力内容を確認した.2回目は1回目で作成した評価シートを保健師に示したのち,内容を確認して必要な内容を追記し評価シートを完成させた.1回目,2回目ともに作業時間は各90分で実施した.試行後に保健師から意見・感想を聴取し,筆者らで検討し改善を加えながら,最終的には4か所の市町村にて試行を繰り返して開発した.

2. 市町村保健師活動評価方法の試行に参加した保健師の意見調査

1) 調査対象者およびデータ収集方法

市町村保健師活動評価の試行に参加した4市町村12名の保健師を対象に,半構造的面接調査を行った.保健師1名に対し研究者1名が個別に面接し,インタビューガイドにそって1名あたり30分程度の聞き取りを行った.対象者の了解が得られた場合に発言内容を録音した.調査期間は2013年2月から12月であった.

2) インタビュー内容

インタビュー内容は,①保健師間で話し合いながら活動を評価した意見・感想,②保健師としての能力向上に役立つか,③保健師活動について考えたこと・気づいたこと,④本方法を現場へ円滑に導入するためのアイディア,の4項目を設定した.項目②については,保健師実践能力の例を示すことはせず調査対象者自身が保健師としての能力向上に役立ったと回答した内容をそのまま聴取し,それはどのような能力か,どのような面から役に立つと思ったか,を重ねて質問した.リーダー保健師に対しては自身の能力向上だけではなく,後輩保健師にとっての能力向上に役立つかどうかも質問した.

3) 分析方法

データは質的帰納的に内容を分析した.発言内容から逐語録を作成し本活動評価方法に関する意見・感想や考えが含まれる記述を取り出し,前後の発言内容を考慮して要約を作成しデータとした.要約内容の類似性に沿って分類し,共通する意味内容を記述し小分類とした.さらに小分類を分類し抽象度を上げ,その内容を示す言葉を記述し大分類とした.要約の記述および分類は研究者1名が行った後,他2名の研究者と共に要約内容が発言内容の主旨に合致しているか,分類名が意味内容を適切に示しているか繰り返し検討し修正を行うことでデータの妥当性を確保した.

3. 倫理的配慮

活動評価の実施および評価後の意見聞き取り調査の実施にあたっては,研究対象者に対して文書と口頭で研究目的,方法,個人情報の保護,結果の説明について十分に説明し,書面にて同意が得られた場合に実施する.研究協力に同意した後も協力を断ることが可能であること,断った場合も不利益は生じないことを説明した.調査日時・場所は研究対象者の都合に配慮しプライバシー保護に留意した.研究対象者が業務の一部として本研究に協力することができるよう研究対象者の所属機関の長にも依頼文書を送付し了解を得た上で実施した.

なお,この調査は岐阜県立看護大学研究倫理審査部会より承認を得て実施した(承認番号0064,平成24年12月3日承認).

III. 結果

A市町村3名,B市町村3名,C市町村2名,D市町村4名,計12名の保健師から聞き取りを実施した.A市町村はリーダー保健師,中堅保健師,新任保健師が各1名,B市町村はリーダー保健師1名,中堅保健師2名,C市町村はリーダー保健師1名,中堅保健師1名,D市町村はリーダー保健師1名,中堅保健師1名,新任保健師2名であった.評価した事業は,乳幼児健康相談,健康づくり推進員事業,家庭訪問事業,生活習慣改善プログラム推進事業であった.

以下,保健師からの意見を分類した結果について,大分類を《 》,小分類を【 】として記す.

1. 保健師間で話し合いながら活動を評価した意見・感想

保健師間で話し合いながら活動を評価してみての意見・感想は,1)評価を実施して達成または理解できたこと,2)本方法の良い点,に分けられた.

1) 評価を実施して達成または理解できたこと

評価を実施して達成または理解できたこととして,《事業の方向性・位置づけや保健師の考えが整理できた》《保健事業の展開について振り返ることができた》《事業の目的・目標や住民にとっての意義など評価する際の重要な視点に気づくことができた》《保健師自身が現状や目標を意識していないことに気づいた》《評価を通じて地域をみることができた》《評価にじっくり取り組むことができた》に分類した(表2).

表2  評価を実施して達成または理解できたこと
大分類 小分類(要約件数)
事業の方向性・位置づけや保健師の考えが整理できた 事業に対する保健師の考えを整理できた(3)
事業の方向性が整理できた(3)
上位計画・目標における事業の位置づけが整理できた(3)
健康と生活の実態に関する情報が整理できた(1)
保健事業の展開について振り返ることができた 事業をどのように展開してきたか振り返り見直すことができた(5)
現状から事業を組み立てることが大事であることに気づいた(1)
事業評価を通してPDCAサイクルに基づいた事業展開を理解できた(1)
事業の目的・目標や住民にとっての意義など評価する際の重要な視点に気づくことができた 評価する際の視点・指標に気づくことができた(2)
目的・目標に基づいて評価する重要性に気づいた(1)
事業の目標,住民にとっての意義をみる視点で考えが整理できた(1)
保健師自身が現状や目標を意識していないことに気づいた 保健師自身が現状を把握できていないという弱みを振り返ることができた(1)
保健師自身が上位目標と下位目標を意識できていなかった(1)
評価を通じて地域をみることができた 事業評価を通して地域をみることができた(1)
評価にじっくり取り組むことができた 評価・計画にじっくり取り組む時間がもててよかった(1)

《事業の方向性・位置づけや保健師の考えが整理できた》では,【事業に対する保健師の考えを整理できた】【事業の方向性が整理できた】【上位計画・目標における事業の位置づけが整理できた】【健康と生活の実態に関する情報が整理できた】であった.《保健事業の展開について振り返ることができた》では,【事業をどのように展開してきたか振り返り見直すことができた】【現状から事業を組み立てることが大事であることに気づいた】【事業評価を通してPDCAサイクルに基づいた事業展開を理解できた】であった.《事業の目的・目標や住民にとっての意義など評価する際の重要な視点に気づくことができた》では,【評価する際の視点・指標に気づくことができた】【目的・目標に基づいて評価する重要性に気づいた】【事業の目標,住民にとっての意義をみる視点で考えが整理できた】であった.《保健師自身が現状や目標を意識していないことに気づいた》では,【保健師自身が現状を把握できていないという弱みを振り返ることができた】【保健師自身が上位目標と下位目標を意識できていなかった】であった.《評価を通じて地域をみることができた》は,【事業評価を通して地域をみることができた】であった.《評価にじっくり取り組むことができた》は,【評価・計画にじっくり取り組む時間がもててよかった】であった.

2) 本方法の良い点

本方法の良い点は,《保健師同士で話し合うことにより,お互いの意見や考えを共有し,整理できる》《シートを使用することにより,保健師の考えが整理され,評価方法が理解できる》《教員が参加することにより考えや意見を整理し評価に必要な視点に気づくことができる》《保健師同士で話し合う機会が得られる》に分類した.

《保健師同士で話し合うことにより,お互いの意見や考えを共有し,整理できる》については【互いに意見を出し合い,考えを共有することができた】【他の保健師の考えを知ることができた】【事業を立ち上げたときの思いや今の課題について話し合うことができた】【複数の保健師で話し合うことで整理しやすかった】であった.《シートを使用することにより,保健師の考えが整理され,評価方法が理解できる》については,【保健師の考えが整理され,まとめ方の勉強になった】【他の事業でもシートを活用することで評価の方法がさらに理解できる】があった.《教員が参加することにより考えや意見を整理し評価に必要な視点に気づくことができる》については,【教員からの質問・確認により考えを整理できた】【教員からの質問により評価に必要な視点に気づくことができた】【第三者である教員が同席することで他者にわかるような意見を出し合うことができた】であった.《保健師同士で話し合う機会が得られる》は,【普段は十分に話し合う機会がないのでいい機会であった】であった.

2. 保健師としての能力向上に役立つか

保健師としての能力向上に役立つかについては,1)保健師同士が話し合うことによって能力向上に役立つこと,2)その他能力向上につながると思うこと,に分けられた.

1) 保健師同士が話し合うことによって能力向上に役立つこと

保健師同士が話し合うことによって能力向上に役立つことについては,《複数の保健師で話し合うことで複数の考えや視点に気づくことができる》《話し合える環境を作る必要性を認識できる》《後輩保健師の考えや意見を確認できる》《評価の視点と地域を見る視点がわかる》に分類した(表3).

表3  保健師同士が話し合うことによって能力向上に役立つこと
大分類 小分類(要約件数)
複数の保健師で話し合うことで複数の考えや視点に気づくことができる 話し合うことで保健師間の考えを共有し,統一することができ,みんなの考えが変わる〈リ(2)〉
話し合うことによって,事業の立ち上げ時の考えを伝えることができる〈リ(1)〉
話し合うことによって,事業を見る視点や組み立ての考え方を学ぶことができる〈リ(2)〉
話し合うことで評価につながる方法を検討することができる〈リ(1)〉
共有して振り返りができ自分ひとりだけの見方や考えにならない〈中(2)〉〈新(1)〉
話し合うことで先輩保健師の考え方や視野を学べる〈新(1)〉
話し合うことで他職種から見た保健師という視点に気づくことができる〈新(1)〉
話し合える環境を作る必要性を認識できる 中堅には話し合えるようにコーディネートする役割がある〈中(2)〉
後輩保健師が意見を言える環境をつくる必要がある〈リ(1)〉
集まって話し合うことが大事である〈新(1)〉
後輩保健師の考えや意見を確認できる 話し合うことで新任期,中堅期の保健師の考えが確認できる〈リ(2)〉
後輩保健師の意見を引き出せる〈リ(2)〉
評価の視点と地域を見る視点がわかる シートを使い話し合うことで評価の視点と地域を見る視点がわかる〈新(1)〉

〈 〉はそれぞれ〈リ〉リーダー保健師,〈中〉中堅保健師,〈新〉新任保健師からの意見であることを示す

《複数の保健師で話し合うことで複数の考えや視点に気づくことができる》に含まれる【話し合うことで保健師間の考えを共有し,統一することができ,みんなの考えが変わる】【話し合うことによって,事業の立ち上げ時の考えを伝えることができる】【話し合うことによって,事業を見る視点や組み立ての考え方を学ぶことができる】【話し合うことで評価につながる方法を検討できる】は,リーダー保健師からの意見であった.【共有して振り返りができ自分ひとりだけの見方や考えにならない】【話し合うことで先輩保健師の考え方や視野を学べる】【話し合うことで他職種からみた保健師という視点に気づくことができる】は,新任・中堅保健師の意見から挙げられた.《話し合える環境を作る必要性を認識できる》については,リーダー保健師の意見からは,【後輩保健師が意見を言える環境を作る必要がある】,中堅保健師からは【中堅には話し合えるようにコーディネートする役割がある】,新任保健師からは【集まって話し合うことが大事である】であった.《後輩保健師の考えや意見を確認できる》では,リーダー保健師から【話し合うことで新任期,中堅期の保健師の考えが確認できる】【後輩保健師の意見を引き出せる】,が挙げられた.《評価の視点と地域を見る視点がわかる》として,【シートを使い話し合うことで評価の視点と地域を見る視点がわかる】が挙げられた.

2) その他能力向上につながると思うこと

その他能力向上につながると思うこととして,《事業を見る視点,地域全体を見る視点,保健師の役割がわかる》《事業の位置づけ・目的・目標を考え整理できる》《次の計画を見直すプロセスが理解できる》《地域把握や事業企画・実施の段階で不足している情報に気づくことができる》《住民を理解する大切さや方法を再認識できる》《地域について考えることができる》《教員が入ったことで違う視点で考えることができる》に分類した(表4).

表4  その他能力向上につながると思うこと
大分類 小分類(要約件数)
事業を見る視点,地域全体を見る視点,保健師の役割がわかる 事業を見る視点や考えがわかる〈リ(1)〉〈中(2)〉〈新(1)〉
事業を振り返り,地域全体を見る視点がわかる〈中(1)〉〈新(1)〉
事業実施における保健師の役割や目的がわかる〈中(1)〉
事業の位置づけ・目的・目標を考え整理できる 何を目指しているのか,事業の位置づけを考えることができる〈リ(1)〉〈中(2)〉
目標の捉え方の偏りに気づき整理できる〈中(2)〉
次の計画を見直すプロセスが理解できる 結果を出し評価し次の事業につなげるためにまとめが必要と気づくことができる〈リ(2)〉
計画を見直すことができる〈中(1)〉
評価プロセスが学べる〈中(1)〉
地域把握や事業企画・実施の段階で不足している情報に気づくことができる 企画や事業展開の段階で不足している情報がわかる〈リ(1)〉〈中(1)〉
地域を把握するための情報が不十分であることがわかる〈新(2)〉
住民を理解する大切さや方法を再認識できる 住民と話すこと,生活を見ることの大事さにあらためて気づくことができる〈中(1)〉〈新(1)〉
住民の立場に立つために保健師の接し方を見直すことができる〈新(1)〉
地域について考えることができる 担当地域について話し合い地域について考えることができる〈リ(1)〉
教員が入ったことで違う視点で考えることができる 教員が入ったことで違う視点でものを見ることができる〈リ(1)〉

〈 〉はそれぞれ〈リ〉リーダー保健師,〈中〉中堅保健師,〈新〉新任保健師からの意見であることを示す

《事業を見る視点,地域全体を見る視点,保健師の役割がわかる》では,【事業を見る視点や考えがわかる】【事業を振り返り,地域全体を見る視点がわかる】【事業実施における保健師の役割や目的がわかる】が挙げられた.《事業の位置づけ・目的・目標を考え整理できる》では,【何を目指しているのか,事業の位置づけを考えることができる】【目標の捉え方の偏りに気づき整理できる】であった.《次の計画を見直すプロセスが理解できる》では,【結果を出し評価し次の事業につなげるためにまとめが必要と気づくことができる】【計画を見直すことができる】【評価プロセスが学べる】であった.《地域把握や事業企画・実施の段階で不足している情報に気づくことができる》は,【企画や事業展開の段階で不足している情報がわかる】【地域を把握するための情報が不十分であることがわかる】であった.《住民を理解する大切さや方法を再認識できる》は,【住民と話すこと,生活を見ることの大事さにあらためて気づくことができる】【住民の立場に立つために保健師の接し方を見直すことができる】であった.《地域について考えることができる》は【担当地域について話し合い地域について考えることができる】であった.《教員が入ったことで違う視点で考えることができる》は【教員が入ったことで違う視点でものを見ることができる】であった.

3. 保健師活動について考えたこと・気づいたこと

保健師活動について考えたこと・気づいたことについては,《地域住民の健康生活実態や問題解決能力を捉えることの重要性》《事業評価に必要な視点や方法》《保健師間で話し合うことで保健師の考えや事業の位置づけや過去の経過を整理できる》《地区担当制による活動がイメージできる》《保健師の役割》に分類した(表5).

表5  保健師活動について考えたこと・気づいたこと
大分類 小分類(要約件数)
地域住民の健康生活実態や問題解決能力を捉えることの重要性 住民の健康と生活実態をみることが重要だ(3)
住民の立場にたち一緒に考えることが大事だ(2)
住民が問題を解決する力をつけることでより多くの住民を救うことができる(2)
事業評価に必要な視点や方法 事業評価は保健師の活動であり保健師の視点で評価を行うことはよい(2)
目標や目指すものがないと評価ができない(2)
評価は長期的にみていき節目で評価するとよい(4)
住民の力を活用する事業はその住民が活動できて初めてできたと評価できる(1)
事業のどの時点で区切りをつけるか迷う(1)
保健師間で話し合うことで保健師の考えや事業の位置づけや過去の経過を整理できる 保健師間でシートを用いて話し合うことは,保健師の考え方を整理できる方法である(2)
経験年数の異なる保健師で話し合うことは,事業の過去の経過,政策,予算について知ることができる(2)
地区担当制による活動がイメージできる 地区担当制による活動のイメージができる(1)
保健師の役割 保健師は地域の人と人,地域の人と資源をつなぐ職種である(1)

《地域住民の健康生活実態や問題解決能力を捉えることの重要性》では,【住民の健康と生活実態をみることが重要だ】【住民の立場にたち一緒に考えることが大事だ】【住民が問題を解決する力をつけることでより多くの住民を救うことができる】が挙げられた.《事業評価に必要な視点や方法》では,【事業評価は保健師の活動であり保健師の視点で評価を行うことはよい】【目標や目指すものがないと評価ができない】【評価は長期的にみていき節目で評価するとよい】等が挙げられた.《保健師間で話し合うことで保健師の考えや事業の位置づけや過去の経過を整理できる》では,【保健師間でシートを用いて話し合うことは,保健師の考え方を整理できる方法である】【経験年数の異なる保健師で話し合うことは,事業の過去の経過,政策,予算について知ることができる】であった.《地区担当制による活動がイメージできる》は【地区担当制による活動のイメージができる】,《保健師の役割》は【保健師は地域の人と人,地域の人と資源をつなぐ職種である】であった.

4. 本方法を現場へ円滑に導入するためのアイディア

本方法を現場へ円滑に導入するためのアイディアでは,《シート記入を簡易にする》《シート様式を工夫する》《話し合いがしやすくなるように工夫する》《話し合いに保健師以外の者を入れる》《本評価方法を活用する目的を定める》に分類された(表6).

表6  本方法を現場へ円滑に導入するためのアイディア
分類 要約(要約件数)
シート記入を簡易にする 記載例があるとよい(2)
箇条書きがよい(1)
段階を踏んで記入するとよい(1)
質問項目をみて自分でパソコンに入力するとよい(1)
パソコンではなく大きな紙と付箋を使うとよい(1)
シート様式を工夫する 次の事業への考えや目標につなげて書ける工夫があるとよい(2)
より具体的な評価指標がわかり評価する力が獲得できるシートがよい(2)
話し合いがしやすくなるように工夫する 時期を決めて話し合う必要がある(1)
複数の保健センターがある場合はリーダーが集まって話し合えばよい(1)
経験が同じくらいの保健師で話し合う機会もあるとよい(1)
話し合いに集中できるよう入力したりファシリテートする人がいるとよい(1)
話し合いに保健師以外の者を入れる 保健師以外の者の助言や意見があることで目標の整理,振り返りができる(3)
教員からシート活用方法のレクチャーがあるとよい(1)
本評価方法を活用する目的を定める 第三者に保健師活動を伝えていくことを目的にする(1)
目標設定する力をつけていけるようにする(1)
既存様式から本シートに落としてみることで既存様式の見直しに活用できる(1)

《シート記入を簡易にする》では,【記載例があるとよい】【箇条書きが良い】【段階を踏んで記入すると良い】【質問項目をみて自分でパソコンに入力するとよい】等が挙げられた.《シート様式を工夫する》は,【次の事業への考えや目標につなげて書ける工夫があるとよい】【より具体的な評価指標がわかり評価する力が獲得できるシートがよい】であった.《話し合いがしやすくなるように工夫する》では,【時期を決めて話し合う必要がある】【複数の保健センターがある場合はリーダーが集まって話し合えばよい】【経験が同じくらいの保健師で話し合う機会もあるとよい】【話し合いに集中できるよう入力したりファシリテートする人がいるとよい】であった.《話し合いに保健師以外の者を入れる》では,【保健師以外の者の助言や意見があることで目標の整理,振り返りができる】【教員からシート活用方法のレクチャーがあるとよい】であった.《本評価方法を活用する目的を定める》は【第三者に保健師活動を伝えていくことを目的にする】【目標設定する力をつけていけるようにする】【既存様式から本シートに落としてみることで既存様式の見直しに活用できる】であった.

5. 本評価方法を実施する上での課題

本評価方法を実施する上での課題として挙げられた意見は,《保健師だけで実施できるか疑問である》《シート記載前に事業の位置づけや現状を整理しておく必要がある》《シートに記載しにくい》《既存様式がありシートは役に立たない》に分類した.

《保健師だけで実施できるか疑問である》では【内容を整理し記載するのは難しく保健師だけでできるか不安・疑問である】【保健師だけで整理するのは時間がかかる】【保健師間では意見を言いにくいこともあるのではないか】【事業の位置づけをイメージできるのか疑問】であった.《シート記載前に事業の位置づけや現状を整理しておく必要がある》では【事業の位置づけや目的・目標が整理されていないとシートに記載しにくい】【保健師自身が現状把握し考えを整理しないと答えにくい】であった.《シートに記載しにくい》では【質問項目が多いと面倒になる】【同じような内容を重複して記載することになる】,《既存様式がありシートは役に立たない》は【すでに既存の様式があるのでこのシートが役に立つのか】であった.

IV. 考察

1. 評価シートを用いることによる意義

1) 保健師自身による思考過程の確認

評価を実施して達成または理解できた内容から,保健師は,自身の考え・事業の方向性・位置づけを整理でき,事業の展開について理解を深めることができていた.また保健師の能力向上につながると思うこととして《事業を見る視点,地域全体を見る視点,保健師の役割がわかる》《事業の位置づけ・目的・目標を考え整理できる》《次の計画を見直すプロセスが理解できる》《地域把握や事業企画・実施の段階で不足している情報に気づくことができる》が挙げられたが,これらは評価シートを用いて情報や保健師の思考過程を整理する作業プロセスを通じて得られたといえる.これまで保健師が感覚的に感じていたこと,頭の中で思い描いていたことを客観視し,評価において保健師の思考過程を保健師自らが確認できたことにより保健師のリフレクションを促したといえる.

上田(2012)は,保健師のリフレクションにおける思考内容の特徴の一つとして,保健師は自身が担うべき立場や役割を強く感じ,実践に対する思いや考えを整理できたという特徴があったと述べている.佐伯ら(2009)は,保健師の人材育成の基盤となる能力として自己内省力を挙げており,実践と内省,つまりリフレクションの繰り返しによって実践能力は向上すると述べている.評価シートに記載する方法は,保健師の思いや考えを整理し確認することでリフレクションを促し保健師の能力向上につながるものであった.

2) 目的・目標を意識する重要性への気づき

保健師が自らの思考過程を確認した結果,事業の目的・目標を意識することに関する意見が多くみられた.結果1.1)にある《事業の方向性・位置づけや保健師の考えが整理できた》《事業の目的・目標や住民にとっての意義など評価する際の重要な視点に気づくことができた》,結果2.2)にある《事業の位置づけ・目的・目標を考え整理できる》に分類した意見内容から,評価シートに記載していくことにより事業や保健師活動の目的・目標を意識することの重要性が再認識されていた.このことは言い換えると,保健師は事業の目的・目標を日常的には認識していない,もしくは認識しにくい状況におかれていることも示唆される.結果3.にある【目標や目指すものがないと評価ができない】,結果5.にある【事業の位置づけをイメージできるのか疑問】【事業の位置づけや目的・目標が整理されていないとシートに記載しにくい】といった意見からも,目的・目標を整理し確認することは日常的には行われていないことが伺える.

本評価方法の試行では,あらかじめ保健師間で事業の目的・目標や位置づけを明確に整理してから評価シートを記入することを求めていない.シートに記載できないのはなぜか保健師自身が話し合い考えることで,例えば生活実態がつかめていなかった,事業の目的・目標が不明確だった等,保健師自身が気づくことをねらいとしている.今回評価を試行した4市町村においては,このねらいは達成できたといえる.何のためにその事業を行っているのか目的・目標を保健師間で確認し共有することを定期的に行うこと,そして保健師間で目的・目標を確認することも含めて保健師活動の評価なのだという認識をもつことが重要である.

2. 複数の保健師が話し合う意義

保健師同士が話し合うという方法が保健師としての能力向上に役立つかの質問に対して,保健師からは役立つとの回答が多く得られた.結果2.1)の《複数の保健師で話し合うことで複数の考えや視点に気づくことができる》の内容から,複数の保健師が話し合い互いの考えを知ることで,事業をみる視点や考え方を学びあうことができていた.本方法の意見・感想からも,保健師同士で話し合うことが良かったとの内容があった.保健師は,保健師同士で話し合うことで互いの考えや思いを共有でき,保健師の能力向上につながることに大きな意義を感じていた.宮島(2013)は他の保健師の気づきを知ることは自分が否定的悲観的に捉えていたことを新たな視点から捉えなおすきっかけとなると述べており,保健師が互いの考えを共有することは,複数の保健師が同時に学びあい,保健師全体の能力向上につながるといえる.

また,保健師同士が話し合うことについて,中堅保健師は保健師同士が話し合える環境をつくることを自身の役割として認識していた.リーダー保健師は後輩保健師の考えを知ることができ,後輩育成の機会として捉えていた.このことから,保健師同士で話し合うことは,単なる活動評価の機会としてだけではなく,人材育成の機会としても保健師から重視されているといえる.村松ら(2008)は新任保健師と熟練保健師との対話リフレクションは自己成長を共に確認し相互に成長を促進する場として重要であると述べており,保健師同士が話し合うこと,かつ経験年数の異なる保健師が話し合うことは,保健師自身の気づきを促し互いを高め合い育ち合う人材育成の方法でもある.

3. 本評価方法の今後の活用に向けて

保健師活動を評価するにあたり,保健師同士が話し合って活動を見直し整理することの重要性は保健師に意識されているが,複数の保健師が集まり話し合う機会と時間を確保することは実際には難しい現状もある.保健師同士が話し合い,互いの思いや考えを知る機会,つまり人材育成の機会が恒常的にあるような職場を作ることが重要である.また,保健師だけで評価を実施できるか不安や疑問がある,保健師以外の者が評価に参加することで保健師の考えを整理できるといった意見がみられた.日常の業務に追われ事業の目的・目標や位置づけを認識しにくい状況にある保健師にとっては,保健師活動の全体を見据え客観的立場から助言して保健師同士の話し合いを支える存在が必要である.

これらの役割を担う者として,管理的立場にあるリーダー保健師に期待したい.結果2.1)より,リーダー保健師は【後輩保健師が意見を言える環境を作る必要がある】等,人材育成の役割を担う立場にあることを認識していた.また今回の試行ではリーダー保健師が管理的立場から広い視野で発言していた実態があった.管理的立場にある保健師が,保健師が話し合える職場環境を整え,所属部署の機能役割を踏まえて客観的に助言し現場保健師の思考を明確化し整理する役割をとることで,本評価方法は有効に活用できると考える.

V. 結論

評価シートは保健師の思考過程の道筋を示す機能をもち,試行に参加した保健師は事業の目標や成り立ち,評価する視点や考えを意識化させることに役立っていた.そして複数の保健師が話し合いながら評価シートを整理することにより保健師の視野や考えが広がり保健師間の共有を促していた.試行に参加した保健師にとって本活動評価方法は,保健師の思考を明確化し保健師間で共有し人材育成の機会となるという点において,保健師の能力向上に役立つと捉えられていた.しかし調査対象は4市町村12名のみであり,開発途中での意見調査であるため,本活動評価方法を他市町村でも実施し保健師の能力向上への効果や有用性についてさらに検証する必要がある.

謝辞

調査にご協力いただきました保健師の皆様に感謝申し上げます.データ収集には橋爪真衣氏(前岐阜県立看護大学)のご協力をいただきました.なお,本研究はJSPS科研費23593388(研究代表者:松下光子)の助成を受けて実施し,第3回日本公衆衛生看護学会学術集会にて一部を発表した.本調査において開示すべき利益相反状態はない.

文献
 
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