日本公衆衛生看護学会誌
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研究
精神疾患の親をもつ子どもの困難
田野中 恭子
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キーワード: 精神疾患の親, 子ども, 困難
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2019 年 8 巻 1 号 p. 23-32

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Abstract

目的:精神疾患の親をもつ子どもの困難を示し年代別の特徴を明らかにする.

方法:子どもの頃に精神疾患を患う親がいた10名の成人に対し半構造化面接を実施し,質的記述的研究によりカテゴリーを抽出した.

結果:子どもの困難は全年代を通して【わけのわからぬまま親の症状をみるしかない生活】や【親の言動に振り回される精神的不安定さ】,【心許せる友達や安心できる場所のない苦しさ】,【我慢だけ強いられ周囲からも支援を受けられない苦しさ】があり,特に学童期から思春期にかけては【世話をされない苦しい生活】があり,青年期以降は【青年期以降に発達への支障を自覚する生きづらさ】が明らかになった.

考察:子どもは精神面だけでなく生活面を含む困難を家庭内外にもっていた.支援として子どもの疾患理解を支援,生活支援,子どもとの関係づくりと気持ちの支え,青年期以降も支援,精神疾患に関する啓発活動が必要である.

I. 緒言

精神疾患の親をもつ子どもは,オーストラリアでは子どもの23.3%(Maybery et al., 2009),イギリスでは5~15歳の子どもの4人に1人(Parker et al., 2008)いると推定されている.国内では子どもの割合は明らかになっていないが,精神障害者数が390万人を超え(厚生労働統計協会,2017),国民の約30人に一人が精神疾患をもつことから,その子どもの数も少なくないと予想される.

親が精神疾患を患う場合,子どもへの影響に関して,欧米では1930年代から調査され(Mattejat et al., 2011),子どもの精神疾患罹患率は疾患により異なるが一般人の2~10倍であること(Pollak et al., 2008),親子の愛着形成の問題やコミュニケーション不足により子どもの行動や発達,情緒面における問題が報告されている(Beardslee et al., 1998Maybery et al., 2009).特に情緒面への影響が調査され,子どもは親の言動に対して怖れや不安,孤独感があり(Lancaster, 1999),子どもの精神的ケアが進められている(Goodyear et al., 2009田野中ら,2015).情緒面以外の困難は,青年期に着目して年下のきょうだいや親の面倒をみる負担に関する報告(Champion et al., 2009),鬱病の親の育児上の問題として,子どもへのネグレクト(Beardslee et al., 2003)が報告されているが,精神疾患の親をもつ子どもの困難の全容に関する報告はほとんどみられない.

国内では,土田(2013)が,子どもの深刻な状態を紹介して以降,テレビや新聞でも精神疾患の親をもつ子どものことが取り上げられるようになってきている.しかし研究としては,精神疾患の親の経験(下山,2005上別府ら,2007)や親への保健師からの支援(蔭山ら,2013)等,親に着目した報告はあるが,子ども自身に関しては,精神科医療の症例研究で家庭の特徴として,経済的困難や生活リズムの確立の難しさ(本間ら,1988山中ら,2005),文献検討による子どもの精神発達への影響(長江ら,2013),事例による子どもの経験(夏苅,2011田野中ら,2016)が報告されているのみで,日本の子どものおかれている状態や困難の全容に関する研究は見当たらなかった.

中村(2016)は,公衆衛生看護において健康問題に取り組む際,その問題を生み出している部分や要素の関係をとらえ,全容を把握することで,問題を具体的に理解して対応を考えることができるとしている.子どもの困難な事象だけでなく,それを引き起こしている状態を明らかにし,介入することで,子どもの困難を緩和させ,健やかな精神発達を促す一助になると考える.また,これまでの研究では,子どもへの影響は年齢を限定していないが,年代別に発達課題が異なり,困難な内容も異なることが予想される.

そこで本研究は,精神疾患の親をもつ子どもが抱える困難を示し,それが年代別でどのような特徴があるかを明らかにすることを目的とする.子どもの困難を明らかにすることで,今後の子どもへの具体的な支援について検討できると考える.

II. 研究方法

研究デザインは質的記述的研究である.

1. 用語の定義

困難:新村(2018)は困難を苦しみ悩ませること,物事の実行が難しいと感じさせることとしている.健康問題を捉える視点(中村,2016)を参考にし,困難とは「困難な事象を示す心身の状態,その心身の状態をもたらす日常生活行動(食事・活動・休養等),心身の状態と生活行動の背景となる家庭・学校等の生活の状態を含む困難の全体像」とした.

年代:服部(2015)の10の発達周期を参考にし,日本の現在の教育課程の区切り方を考慮し,学童期(小学校低学年・小学校高学年6~12歳),思春期(中学生・高校生12~18歳),青年期(18~22歳),成人前期(22歳~30歳)とした.

2. 研究参加者

研究参加者は,子どもの頃に精神疾患を患う親がいた人とした.参加可能な子どもの募集にあたり,子どもと接点をもてる機会として,文献やインターネット,研究者自身のネットワークから,全国で「精神に障がいのある親をもつ子どもの集い」が2か所で開催されていることを把握した(2014年時点).集いには地域や年齢を限定せず全国から子どもの立場の人が参加していた.そこで両集いの主催者に文書と口頭で研究協力を依頼し,承諾を得た後に集いの参加者に研究者より文書と口頭にて研究概要を説明し,同意が得られた者を研究参加者とした.

3. データ収集方法

2014年11月~2017年1月,研究参加者に半構造化面接を個別に1回行った.面接内容は研究参加者に了解を得た上で,ICレコーダーに録音した.面接時間は約80~180分で,120分を超える場合は,負担を考え続行の有無を確認した上で面接を続けた.面接するにあたり,研究参加者には紙面で基礎情報(年齢,性別,精神疾患の親の続柄と診断名,親が発症した時の対象者の年齢,子どもの頃に同居していた人,家庭での役割)の記載を依頼した.面接内容は,「子どもの頃から年代を追って困難に感じたこと,困難な心身の状態,食事や活動,休養などの状態,家庭や学校等の生活の状態」とした.

4. 分析方法

研究参加者の基礎情報を単純集計した.面接内容は,逐語録を作成しデータとした.分析法は佐藤(2010)の質的データ分析法を用いた.質的データ分析法は,コーディングによりデータの縮約を行い語りの意味を明らかにしていく.また,事例の個別性に配慮しつつ,その特殊性を超えた一般的なパターンを見出し,それらを説明する方法である.本論の目的である子どもの困難を明らかにするためには,個々のケースは多様であるが,できる限り共通の困難やその背景を見出す必要があり,質的データ分析法が適していると考え採用した.

具体的には,逐語録の文書セグメントに要約したコードをつけ,該当する年代を記載し,コードの意味の相違を考慮し,サブカテゴリー,カテゴリーを作成した.次に,2つの事例―コードマトリックス表を作成した.一つ目は,縦軸にカテゴリー,横軸を年代とし,コードの年代をもとに,サブカテゴリーを該当する年代に配置し,年代による困難の特徴を分析した.二つ目は,縦軸をサブカテゴリー,横軸を事例とし,サブカテゴリーに事例別のコードを配置し,事例の特徴とサブカテゴリーの特徴を整理しカテゴリーの妥当性を再検討した.分析中は,事例の個別性や特殊性をみながら,コードや文脈とカテゴリーを何度も読み返し,内容やカテゴリー相互の関係性の分析を行った.メンバーチェッキングについては,研究参加者が語るだけでなく,後日,記録や分析内容を読み返すことによる精神的負担を考慮し,今回は実施していない.逐語録や抽出されたカテゴリー,マトリックスについて,質的研究に精通した研究者2名のスーパーバイズを受け,さらに著者が所属する研究ゼミにおいても意見を得て,内容を改善し,研究の妥当性の確保に努めた.

5. 倫理的配慮

研究参加者に,本研究の目的,方法,個人名や関係先の匿名化,個人情報の保護,データの厳重な管理,調査に対する参加・拒否・中断の自由について文書と口頭で説明し,同意書への署名をもって同意とした.なお,研究を実施するにあたり,佛教大学保健医療技術学部研究倫理委員会の承認を得て実施した(2014年10月23日:承認番号H26-30).

III. 結果

1. 研究参加者の概要(表1

研究参加者は10名,親の発病時の年齢は出生前または乳児期4名,小学生・中学生6名,精神疾患の親に関しては,統合失調症の母親9名,父親1名,パニック障害の母親1名である.父親のケースは参加者が小学校高学年の頃から母親がパニック障害と診断され,母親の疾患による困難が語りの大半であった.親の治療状況は9名が治療を受けていたが,内4名は中断を繰り返していた.子どもの世話をしていた健常な親のうち数名は,子どもが10代から20代の頃に亡くなり,子どもの困難がより深刻化したため,補足説明を表1( )に記載した.子どもの頃に診断名を聞いていたのは1名で,他9名は思春期以降に自分で調べたり,診断書類をたまたま見て知った.

表1  研究参加者の概要
研究参加者(子ども) 精神疾患の親/親以外の同居者(補足説明)
性別 年齢 親発病時の年齢 子どもの頃の家庭での役割
A 40代前半 14歳(中2) 家事全般 母親/父親・姉(20代で死別)
B 40代前半 出生前 家事全般 母親/父親・弟
C 20代後半 乳児 自分の食事・洗濯 母親/父親(中2の時に死別)・兄・祖父母
D 30代後半 出生前 家事一部・親の服薬支援・通院同行 母親/父親・姉
E 40代前半 9歳(小3) 家事全般 母親/父親(20代で死別)・祖父母
F 20代後半 出生前 親に代わって通院 父親と母親(パニック障害)/(両親のみ)
G 50代前半 7歳(小1) 家事全般 母親/父親・弟
H 30代前半 12歳(小6) 家事全般・親の身辺介助・金銭管理
通院同行
母親/弟2人・父親(小2の時に両親離婚し別居)
I 20代後半 12歳(小6) 家事全般 母親/父親・妹
J 20代後半 9才(小3) 買い物,親の話し相手,通院同行 母親/父親

2. 精神疾患の親がいる子どもの困難(表2

子どもの困難として6つのカテゴリーと35のサブカテゴリーを抽出した.以下,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〔 〕,研究参加者の語りを“斜字”を用いて記載し,精神疾患の親は「親」,健常な親は「健親」,その子どもを「子ども」とした.

表2  精神疾患の親がいる子どもの困難

1) わけのわからぬまま親の症状をみるしかない生活

親の病状が重い場合は,〔わけのわからぬまま親の症状に巻き込まれ〕,その症状や健親との激しい衝突を怖い気持ちで見るしかなく,時には夜中でも逃げたり,親の幻覚を信じたり,引越しをせざるを得ない子どももいた.特に未治療や治療中断している親の場合,親の症状への巻き込まれは顕著であった.こうした怖い記憶が今もトラウマとなっている子どもや親の発病後の生活について一時期の記憶がない子どももいた.9名が疾患の説明を受けておらず,人から状況を尋ねられても答えられず,誰かに助けを求める発想がなく,困難な状況は自分が悪いからと思った子どもが複数いた.また,友達との遊びを切り上げ,家事や親の服薬介助に格闘していた.〔親のケアによる過大な負担と自分の生活との葛藤〕は,学童期に留まらず,成人期まで生じていた.

“(親の言動が激しく),保健所の人に「警察を呼べばいいよ」って言われて.その時は警察イコール犯罪みたいな所.警察を呼んだら掴まるみたいな.だから,それは私には理解できなくて,その言葉だけでは”

“すごい楽しかった遠足から帰ってきたら,お母さんがすごい何か憂鬱な感じで.家の中がぐちゃぐちゃだし.夢の世界から現実に帰ってきて,私がハアーっていうような感じになっちゃって”

2) 世話をされない苦しい生活

生活面では,健常な親も十分に子どもの世話ができない場合,〔大人から生活の世話を十分されない苦しさ〕から,小学校低学年の子どもは,給食が主な食事になり,栄養不足で倒れたり,“心がすさんでいた”.また,家の中は物で散乱していた.〔学校生活への支障〕として学校に必要なものが用意できない困難もあった.

〔自分でやるしかない家事・身支度の辛さ〕として,小学校高学年以降になると図書館の料理の本などを見ながら自分で食事を作ったが,野菜の皮のむき方や調理道具が分からず,上手くいかなかったことや自分で作った弁当が友達のものと比べて恥ずかしかったことが語られた.

さらに,〔普通の生活を知らない恥ずかしさ〕では,生活習慣として挨拶や入浴,着替えを知らず,就学以降に友達に匂いや汚れを指摘され,恥ずかしい思いをした子どももいた.思春期の頃には,〔成長や体調不良に対応できない苦しさ〕があり,成長に合わせた服や生理用品の用意,子ども自身の体調不良時に対応できず困った経験が語られた.両親が働いていない場合は,〔貧困による生活苦〕もあった.一方,高校生になると家庭での役割が増え,〔家の管理や祖父母の介護の過大な負担〕を感じていた.

“普通だったら親から,家事のやり方を教え(られ)たり,親のやることを見たりすると思うんですけど,うちではできなかったので,家事や生活全般,人と人とのやり取り.これで良かったのかとか.食事の前に,「いただきます」と言うとか,そういう細かいところまで教えてくれる人が必要だったんじゃないかな”

3) 親の言動に振り回される精神的不安定さ

幼い頃から親が精神疾患を患っている場合,就学前は何も気づかなかったが,就学以降は〔親の言動への嫌気と恥ずかしさ〕を感じるようになった.一方,就学以降に親が発病した場合は,健康な頃の親を失う〔親の発病への喪失感と自殺への不安〕が大きく,以前の親に戻ってほしい,いつかは戻るのではないかと信じ願っていた.また,希死念慮の強い親を心配し,就学中に自殺未遂の親の元に駆けつけることもあった.〔常に親の不安定さが頭から離れず過ごす辛さ〕のため,自分自身の生活を楽しめない苦しさから“一生背負う闇”とも語られた.また,〔親の意向に囚われ楽しみや希望なく生きる辛さ〕として,親に楽しみや要望を認めてもらえず,勉強や習い事だけ強いられ,“小学生の頃は生きているのが辛かった”と語った子どももいた.

“(親に)漫画を捨てられたのは,もう嫌で嫌で.大事にしてたんですよ.(中略)それ以来何か楽しめるものが無くなったように思います.親の意向に沿ってやっていくしかないともう諦めたんですよね”

こうした不安定な家庭環境の中で,〔親の言動による自分自身の不安定な感情と言動〕が表出され,“誰かに連れ去られたい”と思ったり,“非行に走った”子どももいた.また〔家をでて親と距離をとりたい〕という思いから,家に帰りたくなく,学校から回り道をして帰宅したり,中学生以降は友達やアルバイト先で夜まで過ごしたり,学校を卒業したら家から離れられるような進路を選択する子どもが半数以上いた.

特に子ども自身が家事をなんとかできるようになる中学生以降は,生活の困難さ以上に〔思春期の不安定さと親の疾患との葛藤〕が語られた.また青年期以降は,〔親の精神疾患による将来への影響不安〕として,疾患は必ず遺伝すると思い込み不安を感じたり,周囲の偏見を恐れ,普通の就職や結婚はできないのではないかと思い悩む子どももいた.

“中1の時に自分ちは冷凍食品みたいなお弁当で,周りはみんな作ってもらって,親の話とかをしてるとすごい自分が落ち込んで.反抗期なのもあったんですけど,あの時はけっこう毎日辛くて.「死にたいな」みたいな気持ちでいたんです”

一方,〔健常な親のネガティブな言動からの深刻な影響〕もあった.健親が子どもの気持ちをきかず威圧的な関わりや暴言・暴力を表出したケースや健親自身が精神疾患の発病や突然死したケースも複数あった.健親の状態悪化に伴い,子ども自身も体調を崩し精神的に追い詰められていた.それらの経験が青年期以降もトラウマになっていた.

4) 心許せる友達や安心できる場所のない苦しさ

〔家庭内で精神疾患に関する会話欠如により他人への口外不可〕では,8名の親が家庭内で自分の疾患について話しておらず,暗黙の了解で家庭外に知られないようにしていた.

“親のことを他にしゃべるということは,親を裏切るということだから,それはできない”

また,〔親の疾患や家庭状況を知られないように努力〕として,友達が家に遊びに来ないように,自分も友達の家に行かないようにしたり,親の疾患により近隣や学校で不都合なことがあっても,その理由を決して他人に話さなかった.家庭の状況を友達に話さないことや,流行の話を楽しくする友達とでは話が合わない等の理由から〔心許せる友達や安心できる場所のない苦しさ〕が語られた.

“クラスで心を許せなかったというか.当然家のことは,もう全部隠してみたいな感じなので.親しくなり過ぎないようにして.(中略)中高時代,楽しい時間はほんと無いです.もうとにかくすごくしんどい時期”

“精神病について(家庭で)口止めというのは,けっこう多くて.(中略)自分は「本当の自分を人の前にさらけだすことが一生できないんだな」って思って,半分そこから人生を諦めて生きていましたね”

5) 我慢だけ強いられ,周囲からも支えられない苦しさ

家庭内では,子どもが反抗することや相談することを許されず,〔家庭で我慢だけ強いられる辛さ〕を感じていた.子どもも親に心配をかけないように困りごとを相談しないようにしていた.

家庭外では,〔親が疾患を隠すことによる外部からの支援欠如〕の状況であり,子どもも周囲の大人に困りごとを相談することはなかった.学校では,持ち物の用意ができなかったり,遅刻や欠席をした際に教員から注意だけされ,踏み込んで関わられたことはなかったため,子どもは,〔教員から関わられない学校生活の困難〕を感じていた.

“教員は忙しいから目立たない生徒には深く関わらない”

“教員が家庭の事情に気づいても関わり方が分からないのではないか”

また,〔相談者不在による進路選択の難しさ〕から,進路選択の後悔を語る子どももいた.〔理解し助けない近隣住民との関係欠如〕として,“近所の人が自分の子どもに,あそこの子どもとは遊ばないように言った”と語った子どももいた.親戚から継続的な支援は難しく,親や健親を非難される等〔理解不足の親戚との確執〕があった.

青年期になると,〔保健医療福祉専門職に支えられない苦しさ〕が語られた.子どもが親の主治医に相談しても,親の治療や対応が話題の中心であり,支援機関を自ら探して保健福祉の専門職に相談するが,親や健親が来ないため相談に応じてもらえなかった.

以上のような状況から,〔家庭外で気持ちをきき支えてくれる人の欠如による苦しさ〕を感じ,自分の存在価値に疑問をもつ子どももいた.

“自分は透明人間だと思った.困っているんだけど助けてほしいんだけどっていう声が誰にも届かないから,私の存在は何なんだろうと.何で生きてるのかなって”

他人から疾患の口止めや親の人格否定,遺伝に関する心配だけされ,〔社会の偏見と対応への怒り〕が語られた.また,人に弱みを見せたり迷惑をかけてはいけないという強い思いから〔何事も人に頼れない辛さ〕があり,どんな困難も倒れるまで自分一人で抱え込んでいた.

6) 青年期以降も発達への支障を自覚する生きづらさ

子どもの頃の経験は,青年期以降にも影響していた.〔普通が分からず自信欠如〕として,普通の生活が分からないため家事や日常生活の中で自信がもてなかった.

“何やっても自信が無い.だから,何かリハビリが一生続く.もういい加減終わらせたいと思うんだけど”

〔発達への支障を自覚する苦しさ〕として,心許せる人や場所がなかったことから人との接し方や距離感の分からなさ,場の雰囲気をみて動くことの苦手さを感じていた.また,人に合わせて生きてきたため自分の意見をだすことの難しさもあった.他の人と比べて上手く自己表現したり,自分の考えを整理して伝えられないことを自覚し,大学時代のレポートが書けなかったり,就職の面接で上手く対応できないこともあった.さらに,このような生きづらさに成人してから一人で向き合わないといけない辛さがあった.

“友達らしい友達もいなくて.(中略)人との合わせ方が,何かあまり洗練されていなくて,できていない.しんどかったですね”

“20歳超えてから一人で発達課題に向き合うのがしんどい”,“20代でもこうした(精神疾患の親をもつ子どもの)集いに行くのは勇気がいる”

偏見や周囲の反応を恐れ,成長しても〔人に心許せず人間不信〕をもつ子どもがいた.また,自分の気持ちを誰からもきかれずに育ち,混乱したまま成長し自分のことを受け入れられなかったり,親の意向に囚われてきたため,〔自分のために生きられない辛さ〕が語られた.

“(本当の気持ちを聴いてくれていたら)というか,今みたいにこんな混乱はしないだろうね.もうちょっとその後になっての(大人になってからの)生きづらさにはつながらない”

IV. 考察

精神疾患の親をもつ子どもの困難について6つのカテゴリーが明らかになった.年代を考慮しながら,本研究で新たに明らかになった子どもの困難と必要な支援について考察する.

1. わけのわからぬまま親の症状をみるしかない生活~疾患と対応に関する子どもの理解を支援

親の疾患について青年期以降は徐々に自分で調べて理解するが,思春期までは【わけのわからぬまま親の症状をみるしかない生活】で,助けを求めることもできず,怖い気持ちや不安を持ち続けていた.このことから,子どもが学童期であっても親の疾患について,子どもの理解を支えることが重要と言える.今回の結果より,その内容は疾患名だけでなく,疾患から起こりうる状況や相談を含む対応方法,困難な状況は子どもが悪いわけではないこと等が挙げられる.子どもの年代や疑問に応じて,絵本(プルスアルハ,2013)等を活用し,気持ちを確認しながら,それらの理解を支える必要がある.

2. 世話をされない苦しい生活~就学以降も生活支援

健常な親から十分な世話をされない場合,これまで着目されてきた情緒面以外に,生活面の困難も深刻であることが明らかになった.特に学童期や思春期は,子ども一人では衣食住が整えられないことなど【世話をされない苦しい生活】を体験していた.就学前までは市町村の乳幼児健診等で育児上の困難を把握し,育児支援家庭訪問事業(厚生労働省,2004)などの支援につなげられるしくみがある.一方,今回の対象者のうち6名が就学以降に親が発病していた.就学以降は,子どもと外部との接点の多くは学校になるが,家庭が疾患を隠しているため,教員は家庭の問題に気づきにくい,または疾患の理解不足や多忙さから踏み込んだ対応が難しいことが考えられる.就学前だけでなく,学童期や思春期でも子どもの安全面はもちろん生活を具体的に把握し,保健医療福祉機関と連携しながら支援していく必要がある.また,学校生活で忘れ物や学業の遅れがあったときに,教員の助けで救われたという語りもあった.このような日々の学校生活の中でも具体的な困りごとに気づき,支援することが子どもの生きやすさにつながると考える.

これまでの研究では,精神疾患の親のいる家庭の特徴として生活リズムの崩れが報告(山中ら,2005)されていたが,本研究では,家庭によっては元から基本的生活習慣を教えられないことが明らかになった.坪井(2016)は,ネグレクト家庭の子どもは,(家庭内での教育や経験不足から)一般的に常識と思われるようなことでも身につかず,劣等感や不全感を抱いて,学校での適応的な生活が難しくなることもあると指摘し,支援の中で基本的習慣が身に付き,周囲の人と同じように生活できることによって,自己肯定感や有能感が育まれるとしている.以上より,就学以降も親の育児が不十分な場合,子どもの基本的生活習慣習得も含め,子どもの生活を支援していく必要がある.

3. 心許せる友達や安心できる場所のない苦しさ~精神疾患に関する学校や社会での啓発活動

子どもの情緒面への影響として【親の言動に振り回される精神的不安定さ】は,これまでの報告(Maybery et al., 2009)と同様に表出された.本研究では,加えて【心許せる友達や安心できる場所のない苦しさ】が明らかになった.

子どもは,親が周囲の偏見を恐れ隠している病状や家庭の状態を,友達や周囲の人に知られないように努力していた.その結果,心許せる友達の不在となっていた.学童期の発達課題として重要な友達との交流は,対人距離の取り方や言葉遣い等の対人態度,行動スキルを獲得する重要な機会である(服部,2015).また,友達とのつながりは子どもが困難から回復するための重要な要素でもある(Mattejat et al., 2011).

友達との交流を阻害している背景に社会における精神疾患への偏見がある.海外でも,子どもは偏見により親の疾患を隠し,自分だけが特別な辛い状況にいると思っている(Wiegand et al., 2011).そのため,学校や社会のなかで精神疾患は特別なことではなく,誰もがかかる疾患の一つであるということを理解するよう定期的な啓発活動が行われている(Lenz et al., 2016).日本でも子どもが一人で困難を抱え込まないように,大人も子どもも精神疾患への理解を進めていけるように,より積極的な啓発活動が必要である.

4. 我慢だけ強いられ,周囲からも支えられない苦しさ~子どもとの関係づくりと気持ちの支え

研究参加者の9名が家庭内で疾患に関しての疑問や不安な気持ちを話せず,困難な状況をより深刻なものにして【我慢だけ強いられ,周囲からも支えられない苦しさ】を抱えていた.家庭内の情緒的交流の重要性はドイツやイギリスでも指摘され,支援が進められている(田野中ら,2015).国内でも家族の話し合いによる問題解決を目指すメリデン版訪問家族支援の導入が始まり(佐藤,2016),子どもを含めた家族の情緒的交流を支えるしくみ広がることが期待される.

精神疾患の親と子どもの関係性だけでなく,本研究では健親から我慢だけ強いられる辛さも語られた.健親は仕事や精神疾患の配偶者への対応,家事や子育てと過剰な役割を担い,その負担感を子どもにあててしまうことは容易に想像できる.健親への理解と支援を行うことは,健親が子どもを支えることにもつながると考える.

さらに家庭外でも子どもの気持ちを支える人がいないことが明らかになった.研究参加者は全員,家庭の状況を他人に簡単には話さないという対処をとっていた.これは,偏見を恐れているだけでなく,家庭外では“楽しい時間を過ごせる”という語りがあり,Parys et al.(2015)が指摘する,苦しい経験を思い出さなくてよい対処行動でもあると言える.しかし,この状況が続くと子ども一人で問題を抱え込むことになる.大西(2017)は,問題を抱え沈黙している子どもには時間と空間を共にし,存在を受け止めることの重要性を述べている.さらに國分(2015)は,子どもへの支援では,この人は味方であると子どもが感じられる関係性が大切であり,自分をケアしてくれる人が一人でもいるという感覚が人生に居場所があるという生への意欲にもつながるとしている.子どもが家族以外の人との信頼関係を築けるように,子どもの状況を注意深く見守ることが重要である.

下山(2005)は,育児中の統合失調症女性患者18例のうち,約半数が夫はいても主たる養育者は患者で,子育てへの援助が少ないと報告している.このことから親自身も疾患に苦しみながら,子どもを育てていることが予想される.親が周囲の人に自分の疾患について話さず関係をもっていないと,子どもも周囲の人に家庭の状況を話し,助けを求めることは難しい.そのため,周囲の人による親への理解や関係づくりも,子どもが家族以外の人とつながる重要な要素と言える.

さらに,青年期以降に精神保健医療福祉の専門機関に子どもが相談しても受け止めてもらえない経験をしている.専門職も子どもの存在や困難を気にかけ,相談に応じることが必要である.そのことが次に精神疾患を患う人をうみださないことにもつながる.

5. 青年期以降の生きづらさ~青年期以降も支援

本研究で明らかになった5つの困難を引き起こす状態が解決されないため,【青年期以降も発達への支障を自覚する生きづらさ】につながっていた.海外では,青年期以降の支援について着目した報告は極めて少ない.

国内では,青年期以降に精神障がいの親をもつ子どもの集いに参加できるようになり,困難緩和に役立っている(土田,2013).集いはピアカウンセリング(渡部,2016)の役割を果たしていると考えられる.

一方,“20歳超えてから一人で発達課題に向き合うのがしんどい”“20代でもこうした(精神疾患の親をもつ子どもの)集いに行くのは勇気がいる”と語る人もいた.青年期以降の生きづらさも深刻であり,個別の支援も必要である.

6. 研究の限界と課題

本研究参加者の親の疾患は統合失調症10名,パニック障害1名であった.両親共に精神疾患をもつケースは,パニック障害の親による困難が語りの大半であり,他のケースと同様の困難が抽出されたため,本研究のタイトルを「精神疾患の親をもつ子どもの困難」としたが,親の疾患に偏りがあった.また,研究参加者は成人しており,子どもの頃の治療やサービスは現在とは異なるため,現在の子どもの困難をそのまま反映しているとはいい難い.今後,親の疾患や性別を多様にし,現在の子どもを対象に調査する必要がある.また,助けとなった要素にも着目することで効果的な支援について検討できると考える.

謝辞

本研究を進めるにあたり,研究に協力していただいた参加者の皆様,子どもの集いの主催者の皆様,ご指導くださいました大阪大学大学院医学系研究科の遠藤淑美教授と皆様に心より感謝いたします.本研究はJSPS科研費25671006の助成を受けたものです.

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
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