日本公衆衛生看護学会誌
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研究
運動器の機能低下がみられる高齢者への訪問による複合プログラム
林 真二
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2019 年 8 巻 1 号 p. 43-51

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Abstract

目的:通所サービスに参加しなかった運動器の機能低下がある高齢者に対し,訪問による複合プログラムの効果を検討した.

方法:対象者18人に運動器・口腔機能向上,栄養改善を併用した複合プログラムを訪問・電話により各4回実施した.介入前後・介入終了6ヵ月後に運動器機能や心理社会的側面等を評価した.

結果:運動器機能は開眼片足立ち(P<0.01),立ち上がり(P<0.01),足指筋力(P<0.05),心理社会的側面は精神健康状態(P<0.01),主観的健康感(P<0.05),基本チェックリストは運動器,口腔,認知機能,うつ項目で介入後上昇した.基本チェックリストの評価より,プログラム参加者の運動器機能低下の該当者数は介入後に38.9%,介入終了6ヵ月後に50.0%に減少した.握力,反復唾液嚥下テスト,オーラルディアドコキネシス,BMI,ADLおよび外出に対する自己効力感は有意な変化がなかった.

結論:運動器機能,精神健康状態,主観的健康感が維持・向上し,訪問による複合プログラムの効果があったと考えられる.

I. 緒言

我が国の高齢化率は27.3%(2016年10月1日現在)となり,史上類をみないほどの超高齢社会となった(内閣府,2017).さらに,高齢化は加速を続け,2025年には団塊の世代が75歳以上となり,後期高齢者人口も20%を占めると予想されている.高齢化が進めば,どの地域においても,医療や介護が問題となる.そこで,可能な限り疾病予防や健康の保持・増進,介護にならないための介護予防が必要である.このような背景より,国は介護保険法を改正し,2006年度から予防重視型システムとして要介護状態になるリスクがある高齢者を対象に介護予防事業を強化している(厚生労働省,2005).

介護予防は,体力の衰え,転倒・骨折などの障害,低栄養状態,うつや認知症から要介護状態になることを予防する.特に身体機能は加齢とともに一般的に低下していくが,高齢期になっても適切なトレーニングを行うことで,筋力を維持・向上させることが示唆されている(Ferri et al., 2003Valkeinen et al., 2005).また,マシンを使った筋力向上トレーニングでは,年齢に関係なく心身機能を高め,可逆的に状態を改善したという報告もある(新井ら,2006).つまり,高齢になっても心身の生活機能やQOLの維持・向上を行う介護予防の取り組みが重要と言える.現在,運動器の機能や口腔機能の向上,栄養改善,閉じこもり・認知機能低下・うつ予防などの介護予防プログラムが,通所サービスを中心に,集団での効果を引き出しながら市町村で実施されている.しかし,すべての者が通所できるとは限らない.対象者の中には,健康問題を持つ者,物理的環境や交通の不便な生活環境にある者,単に集団参加を好まない者もいるため,介護予防は訪問による事業も必要である(安村ら,2013).

2015年度の全国の訪問による介護予防の実施率は,通所の86.8%に比べ38.4%と市町村によって実施していないところも多い(厚生労働省,2015).実施率が低い背景は,自宅での個別援助であるため,スタッフの人件費やマンパワー,時間的制約などの課題も一因である(厚生労働省,2016).しかし,2017年度の制度改正では,閉じこもり予防や寝たきり予防を目的に,看護職による訪問サービスの展開が期待されている(厚生労働省,2018).特に生活機能低下がみられる高齢者の在宅生活は,身体機能やADL,QOLのさらなる低下を引き起こし,要介護状態や死亡率を高めるため(河野ら,2000),通所困難な対象者は,訪問支援を早期に行い,生活機能の維持・改善を図っていかなければならない.

先行研究では,閉じこもり高齢者の外出支援を目的に,複合プログラムを訪問で実施し,介入効果を報告した(林ら,2018).この研究では,身体機能だけでなく口腔機能,栄養摂取状況,心理社会的側面も相乗的に機能低下することを考慮し,それらの予防のため複合プログラムを行った.しかし,調査を進める中で,閉じこもり高齢者以外に運動器の機能低下で通所サービスを利用しない高齢者もいたため,自宅での介護予防が必要であった.介護予防は,下肢筋力の維持・増強が重要であり,加えて筋力は栄養状態が良好であること,低栄養に関連する口腔機能の低下を予防する必要がある.そのため本研究では,運動器の機能低下がみられる高齢者に,運動・栄養・口腔を合わせた複合プログラムを訪問で実施し,介入後の効果を明らかにすることを目的とした.

II. 研究方法

1. 対象

対象はA市在住高齢者(要支援・要介護者を除く)で,2015年度の生活機能評価事業において運動器の機能低下に該当し,かつ通所サービスを勧奨するも希望しなかった高齢者18名である.対象者選定を図1に示した.A市は介護予防事業対象者のうち,運動器の機能低下がある2,687人へ郵送で通所サービスを勧奨し,参加しない者については同封の返信用葉書で訪問サービスの希望者を募集した.返信のあった参加希望者は56人で,研究責任者が訪問調査により状態確認と研究の趣旨説明を行った.介護予防事業の除外基準(厚生労働省,2012)も参考に最終的に18人の対象者を選定した.地域特性では,通所サービスの会場が近くに無かったり,自宅周辺の坂道により外出が妨げられている対象者が半数いた.

図1 

対象者選定の流れ

運動器の機能低下は,厚生労働省の介護予防マニュアル(厚生労働省,2012)に示された生活機能をみる基本チェックリストの運動器項目で,「階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか」,「椅子に座った状態から何もつかまらずに立ち上がっていますか」,「15分位続けて歩いていますか」,「この1年間に転んだことがありますか」,「転倒に対する不安は大きいですか」の5項中3項目以上に該当した対象者である.

2. 介入方法

1) 実施方法

研究期間は,2015年11月から2016年8月である.介入者は介護予防事業所に勤務する看護師2名であり,通所・訪問の介護サービスでの支援の実績を有するものである.介入前に,訪問で実施するプログラムについて,介護予防を研究する大学研究者からの指導や,通所サービスでの実地研修を行った.

介入は,2週間に1回1時間の訪問を計4回実施し,電話による相談・支援は訪問のない隔週に計4回実施した.訪問のない日は自主訓練日としたが,各自の体力と無理のない計画で,対象者との調整により1週間に3回~5回の範囲で設定した(図2).実施状況は事前に配布した介護予防カレンダーへチェックしてもらい,訪問時や電話相談時に確認しながら,継続支援に繋げた.また,自主訓練ができなかった日は,次の日に実施するなど1週間に決められた訓練回数を出来るだけ予定通りに行うよう勧奨した.

図2 

介入および評価の流れ

評価は研究責任者が行い,1人40分程度で,介入の1週間前,介入終了から1週間後,介入終了から6ヵ月後に実施した.

訪問内容は,健康チェック10分と運動プログラム30分以内を毎回実施した.栄養改善と口腔機能向上に関するプログラムは4回の訪問のうち2回ずつに分けて実施し,1回あたり15分以内とした.最後に5分間で次回までの自主訓練の予定を確認した.自主訓練内容も訪問日と同様の内容と時間で,運動を毎回実施し,交互に栄養改善と口腔機能向上のプログラムを追加してもらった.

2) プログラム内容

複合プログラムを活用した通所サービスの研究では,単独プログラムに比べて,転倒骨折,誤嚥性肺炎等の要介護状態となるリスクを低減し,介護予防効果が高いことが示唆されている(田口ら,2013渡邊ら,2011).そのため,訪問サービスにも複合プログラムを活用することで同様の効果が得られるものとして採用した.また,プログラム内容は,運動・口腔・栄養の複合プログラム(厚生労働省,2012)を参考に実施した.

運動プログラムは,上肢の筋力向上として,介護予防ボールの両手つぶし,ボール掴み動作を行い,握力向上のためにタオルしぼりを行った.下肢の筋力向上として,椅子からのスクワットやレッグレイズ,レッグエクステンション,つま先上げを行い,転倒予防のために足指や足裏を使ってタオルを引き寄せる(タオルギャザー)運動を行った.口腔プログラムは,嚥下体操,発声練習(パタカラ体操),唾液腺や口腔周囲筋のマッサージ,口腔ケアの指導を行った.パタカラ体操は,口腔体操の代表的な体操の1つで,「パ」・「タ」・「カ」・「ラ」と発音することで,食べるために必要な筋肉のトレーニングになる.運動・口腔プログラムは,実施方法を絵や写真で示した冊子を配布し,訪問のない日も自身で取り組めるよう支援した.栄養プログラムは,食事摂取状況に関する多様性チェックシートを記入してもらい,栄養バランスや低栄養に関するリーフレットを活用しアドバイスを行った.

3) 評価指標

生活機能として,運動器の機能(握力,開眼片足立ち,立ち上がり,足指筋力),口腔機能(反復唾液嚥下テスト,オーラルディアドコキネシス),栄養摂取状況(BMI)を評価した.運動器の機能評価として,握力は全身の筋力測定に有効であり自宅でも簡便に実施できる.開眼片足立ちや立ち上がり,足指筋力は,立位の平衡調整能力,移乗動作,歩行など生活の基本動作を評価するうえで有用な指標となる(半田ら,2004).足指筋力の評価は,足指筋力測定器II®(竹井機器工業株式会社)を使用した.口腔機能評価として,自宅でも簡易に行える反復唾液嚥下テストを行い,摂食嚥下機能を評価した(小口ら,2000).オーラルディアドコキネシスは,口唇や舌の運動の速度や巧緻性の評価であり,健口くんハンディ®(竹井機器工業株式会社)を使用し,「パ」,「タ」,「カ」の単音節の発声を各5秒間ずつオートカウントして速度評価を行った(伊藤ら,2009).栄養改善の評価は,血液データや食事摂取量からも評価できるが,受診の負担,本人の思い出し記憶や記録の負担を考慮し,自宅で測定できるBMIで評価した.

心理・社会的側面として,通所サービスへの参加が困難な要因として,身体的機能に関連したADLに対する自己効力感,外出に対する自己効力感を評価するともに,自身の精神健康状態や主観的健康感からも評価した.ADLに対する自己効力感尺度は,10項目の質問からなる易転倒性指標(Falls Efficacy Scale: FES)(木村,2001)を使用し,社会参加や通所サービスへの参加意欲は,6項目の質問からなる地域高齢者の外出に対する自己効力感尺度(山崎ら,2010)を使用した.いずれも「全く自信がない(1点)」から「大変自信がある(4点)」の4件法で尋ねた.精神健康状態は,WHO-5精神健康状態表(岩佐,2007)を使用し,5項目について「全くなかった(0点)」から「いつもそうだった(5点)」の6件法で尋ねた.主観的健康感は,杉澤ら(1994)の自覚的健康度を使用し,「健康ではない(1点)」から「非常に健康である(5点)」の5件法で尋ねた.

心身の生活機能は,25項目の基本チェックリストを使用した.運動器5項目,栄養2項目,口腔3項目,閉じこもり2項目,認知機能3項目,うつ5項目である.機能低下に該当した項目を点数化し全体の平均値を算出した.合計得点は,介護予防マニュアル(厚生労働省,2012)の基準にそって,うつ項目を除いて得点を算出した.

介入後の感想は,自由記載によって参加者からの意見を得た.自由記載は,意味のまとまりのある文脈を抽出後,類似性に着目して分類し,結果に示した.

4) 解析方法

介入前,介入後,介入終了6カ月後の生活機能,心理社会的側面,基本チェックリストの評価は,群間の差を算出しFriedman検定を用いた.3群間に有意差を認めた項目は,Bonferroniの補正による多重比較を行った.Bonferroniの補正は,介入前後,介入前と介入終了6ヵ月後,および介入後と介入終了6ヵ月後の各々を想定し,各比較で得られたP値を3倍して補正後のP値とした.統計解析はEZR Ver 1.33(Kanda, 2013)を使用した.

5) 倫理的配慮

参加者には,事前の訪問面接により研究の趣旨や意義を説明するとともに,任意の参加によるものでいつでも辞退できること,データは匿名化して使用されることを伝え,書面にて承諾を得た.なお,安田女子大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(No. 160003).

III. 結果

1. 対象者の特徴(表1

対象者の平均年齢は80.9±7.1歳であり,18人のうち後期高齢者が13人(72.2%)と多かった.現病歴では,高血圧症と白内障が6人(33.3%),膝痛と腰痛が5人(27.8%),脳卒中と心疾患が4人(22.2%)の順に多かった.また,難聴・耳鳴り,不眠症の症状がある者もいて,そのことが理由で訪問サービスを希望された.家族構成では,独居が6人(33.3%)と最も多く,次に配偶者と同居が5人(27.8%)と多かった.

表1  対象者の特徴
全体 男性 女性
N=18(%) N=3(%) N=15(%)
年齢(mean±SD 80.9±7.1 83.7±12.7 80.4±6.0
前期高齢者 5(27.8) 1(33.3) 4(26.7)
後期高齢者 13(72.2) 2(66.7) 11(73.3)
現病歴(複数回答)
高血圧症 6(33.3) 1(33.3) 5(33.3)
白内障 6(33.3) 1(33.3) 5(33.3)
膝痛 5(27.8) 0(0.0) 5(33.3)
腰痛 5(27.8) 0(0.0) 5(33.3)
脳卒中 4(22.2) 1(33.3) 3(20.0)
心疾患 4(22.2) 1(33.3) 3(20.0)
脂質異常症 3(16.7) 0(0.0) 3(20.0)
緑内障 2(11.1) 0(0.0) 2(13.3)
脊柱管狭窄症 2(11.1) 0(0.0) 2(13.3)
糖尿病 1(5.6) 0(0.0) 1(6.7)
歯槽膿漏 1(5.6) 0(0.0) 1(6.7)
パーキンソン病 1(5.6) 0(0.0) 1(6.7)
骨粗鬆症 1(5.6) 0(0.0) 1(6.7)
椎間板ヘルニア 1(5.6) 0(0.0) 1(6.7)
変形性膝関節症 1(5.6) 0(0.0) 1(6.7)
胃潰瘍 1(5.6) 1(33.3) 0(0.0)
前立腺肥大 1(5.6) 1(33.3) 0(0.0)
子宮筋腫 1(5.6) 0(0.0) 1(6.7)
不眠症 1(5.6) 0(0.0) 1(6.7)
難聴・耳鳴り 1(5.6) 0(0.0) 1(6.7)
家族構成(同居者)
独居 6(33.3) 1(33.3) 5(33.3)
配偶者 5(27.8) 0(0.0) 5(33.3)
配偶者・子 1(5.6) 1(33.3) 0(0.0)
配偶者・子・孫 1(5.6) 0(0.0) 1(6.7)
3(16.7) 0(0.0) 3(20.0)
子・孫 2(11.1) 1(33.3) 1(6.7)

N(%)

2. プログラムの実施結果(表2

参加者全員が途中脱落することなく,設定されたすべてのプログラムを完遂することができた.

表2  プログラムの実施結果(N=18)
介入前 介入後 介入終了6ヵ月後 P1) 多重比較2)
介入前-介入後 介入前-介入終了6ヵ月後
mean±SD mean±SD mean±SD P P
生活機能 運動器機能 握力[kg] 20.1±5.8 20.3±5.5 19.4±6.5 0.476 1.000 0.720
18.9±5.2 18.3±5.0 18.7±5.3 0.638 0.570 1.000
開眼片足立ち[秒] 14.3±16.9 19.3±17.0 16.4±16.9 <0.001 0.003 0.154
12.8±14.9 17.4±17.3 15.8±17.3 0.015 0.009 0.191
立ち上がり[回] 8.0±4.1 9.9±4.7 10.1±5.2 0.004 0.007 0.049
足指筋力[kg] 6.1±3.1 7.7±2.7 7.3±2.9 0.014 0.012 0.063
5.7±2.5 6.7±2.3 6.7±2.3 0.007 0.012 0.094
口腔機能 反復唾液嚥下テスト[回] 2.9±1.5 3.3±1.3 2.8±1.2 0.043 0.233 1.000
オーラルディアドコキネシス[回] /pa/ 25.3±4.9 26.7±3.9 25.4±4.2 0.181 0.180 1.000
/ta/ 25.2±4.3 26.4±3.5 26.0±3.9 0.162 0.210 1.000
/ka/ 24.0±4.8 25.7±4.0 24.3±3.7 0.327 0.250 1.000
栄養改善 BMI(kg/m2 24.3±4.1 24.3±3.9 24.1±4.2 0.612 1.000 1.000
心理社会的側面 ADL対する自己効力感[点] 28.1±3.3 28.8±3.7 28.4±3.1 0.149 0.150 0.760
外出に対する自己効力感[点] 13.1±4.4 13.7±4.8 13.1±4.3 0.032 0.170 1.000
精神健康状態(WHO-5)[点] 13.0±1.5 14.3±1.3 13.8±1.8 0.012 0.004 0.299
主観的健康感[点] 2.7±0.6 3.3±0.8 3.3±0.9 0.004 0.045 0.071
基本チェックリスト3) 運動器 3.33±0.6 2.44±1.1 2.61±1.0 0.001 0.007 0.013
口腔 1.50±0.7 0.83±0.9 0.78±0.6 <0.001 0.005 0.011
栄養 0.00±0.0 0.00±0.0 0.00±0.0
閉じこもり 0.72±0.5 0.61±0.5 0.39±0.5 0.030 1.000 0.059
認知機能 0.61±0.6 0.22±0.4 0.33±0.6 0.008 0.032 0.218
うつ 2.17±1.0 1.22±0.8 1.33±0.9 0.002 0.025 0.041
合計得点 6.17±1.1 4.11±1.8 4.11±1.5 <0.001 0.002 0.001
①運動器該当者数(%) 18(100) 7(38.9) 9(50.0)
②口腔該当者数(%) 9(50.0) 4(22.2) 2(11.1)
③栄養該当者数(%) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0)

1)介入前,介入後,介入終了6ヵ月後の3群間の平均値の差の検定はFriedman検定を用いた

2)多重比較は,Bonferroniの補正(P値×3)を用いた

介入前-介入後,介入前-介入終了6ヵ月後,介入後-介入終了6ヵ月後の変化を検定したが,介入後-介入終了6ヵ月後は,いずれの項目も有意差がなかったため,介入前-介入後,介入前-介入終了6ヵ月後の結果のみを示した

3)生活機能評価の基本チェックリストは,対象者の平均値を示し,機能低下ほど点数が高い

点数は,厚生労働省の「介護予防のための生活機能評価」に関するマニュアルにしたがうもので,運動器の機能向上,口腔機能向上,栄養改善が必要な介護予防の対象者は,以下の基準となる

①運動器の機能向上:5点満点で3点以上,②口腔機能向上:3点満点で2点以上,③栄養改善:2点満点で2点

生活機能測定で有意に増加したのは,運動器の機能評価において,開眼片足立ち(右:P=0.003,左:P=0.009),立ち上がり(P=0.007),足指筋力(右:P=0.012,左:P=0.012)が介入前後で有意に増加した.立ち上がりは,介入終了6ヵ月後も介入前に比べて有意に増加していた(P=0.049).口腔機能の評価である反復唾液嚥下テストは介入後に得点の上昇があったが,多重比較では群間の有意差は認められなかった.握力,オーラルディアドコキネシス,BMIは有意差を認めなかった.

心理社会的側面として,介入後に有意に増加した評価項目は,精神健康状態(P=0.004),主観的健康感(P=0.045)であった.外出に対する自己効力感は,介入後に得点の上昇があったが,多重比較では群間の有意差は認められなかった.ADLに対する自己効力感は有意差を認めなかった.

3. 基本チェックリストの結果

得点化した基本チェックリストの結果として,介入後に有意にリスクが軽減した項目は,運動器(P=0.007),口腔(P=0.005),認知機能(P=0.032),うつ(P=0.025),合計得点(P=0.002)であった.介入終了6ヵ月後において,介入前に比べ有意にリスクが軽減していたのは運動器(P=0.013),口腔(P=0.011),うつ(P=0.041),合計得点(P=0.001)であった.運動器の機能低下リスクがある該当者は,介入前の全対象者18人に対して,介入後は7人(38.9%)に減少した.

4. 介入後の参加者の感想

分析の結果,参加者の感想は3つの項目に分類された.分析結果の記述は,項目を「 」で示した.

「全体を通しての感想」では,参加者18人中16人が参加して良かったと回答され,2人は痛みのため思うようにできなかったとの感想であった.

「良かった理由」には,動作が楽になった,毎日体操をするようになった,気力をもらった,健康意識が高まった,状態を維持できた,調子がよかった,前向きになった,希望が持てたとの感想があった.

「実施方法や指導内容の感想」は,訪問や電話で自主訓練を確認してくれるため頑張れた,プログラムは簡単に行えた,冊子やリーフレットで確認しながらできた,精神面の相談もできた,自宅周辺が坂道で訪問に来てくれて良かったとの感想があった.また,終了後も継続してもらいたかったとの意見があり,終了後,通所サービスや地域の高齢者サロンに継続参加する方もいた.

IV. 考察

1. 対象者の特徴

対象者は,生活機能をみる基本チェックリストにおいて,運動器5項目中3項目以上で機能低下の恐れがあった.また,平均年齢は男女とも80歳以上と高かったため,現病歴では,対象者の殆どが生活習慣に関連した疾患や膝痛,腰痛等の複数の症状を合せ持っていた.逆にこれら複数の疾患や症状を有することで,通所サービスや社会参加が困難となっていたとも考えられる.また,難聴や不眠症等の症状がある者は,集団参加が困難な場合も想定され,訪問による個別支援の必要性があった.

2. プログラムの効果

介入後の結果として,開眼片足立ち,立ち上がり,足指筋力の測定値や,精神健康状態,主観的健康感の得点が有意に改善したことで,複合プログラムによる効果があったと考えられる.特に運動器の機能向上が有意にみられたことは,運動器の機能低下がある者に運動中心のプログラムを毎回実施したことが影響していると考えられる.口腔機能や栄養改善は,有意な差を認めなかったが,機能低下はなく現状を維持できたと考える.

運動器の機能では,足指筋力に直接結びつくタオルギャザー運動や開眼片足立ち,立ち上がりに必要なスクワット,レッグレイズ等下肢筋力を強化する訓練が身体機能を高める要因に繋がったと考えられる.また,介入後と介入終了6ヵ月後に有意差がなかったことより,自主訓練も通じて,運動器の機能を維持していることが分かった.足指筋力は,加齢に伴う低下率が握力に比べて大きいことや立位保持等の平衡調整に関連しているため(半田ら,2004),転倒予防の観点から筋力強化していく必要がある.運動器項目で上昇がみられなかった握力は,タオルしぼりやボール掴みを行うことで増強されると考えたが,介入後は維持に留まった.虚弱高齢者を対象とした研究でも,握力は介入後の上昇はみられないものの,訓練群は非訓練群に比べ維持していたという報告もあり(池添ら,2006),本研究と同様の結果である.自主訓練と合せて,日常生活の中で握力に適度な負荷をかける生活リハビリを提案していくことも必要である.さらに,筋力はタンパク質の摂取量と合せて栄養面での改善指導を要するが(葛谷,2015),今回の短い訪問時間では,きめ細かな意識づけや食事指導が困難であったと考えられる.

基本チェックリストの運動器項目である歩行や立ち上がり等の改善は,下肢筋力の向上が寄与したと考える.

口腔機能の得点は有意な上昇がみられなかった.反復唾液嚥下テストは,自立した高齢者で2回以下/30秒を異常としており(小口ら,2000西尾ら,2016),本研究の対象者は介入前の値がほぼ正常内であったため,介入後の上昇はみられず現状を維持したものと推察できる.オーラルディアドコキネシスの自立高齢者の基準値は,「パ」で6.0±0.9回/秒,「タ」で6.0±0.6回/秒,「カ」で5.7±0.8回/秒と報告されており(伊藤ら,2009).今回の対象者は,介入前の「パ」で5.1±1.0回/秒,「タ」で5.0±0.9回/秒,「カ」で4.8±1.0回/秒で基準値より低い.しかし,過去の報告で改善がみられた対象者は,介入前が5回/秒未満と明らかに低値の対象者であったため(薄波ら,2010大岡ら,2008),本研究の対象者では有意差を認めなかったと考える.ただし,時間の経過で一般的に低下する機能が,介入後,介入終了6ヵ月後のいずれも介入前より高値であったことや,基本チェックリストで,口腔の該当者数が介入後減少したこともあり,実施により維持・向上に寄与したと推察できる.

栄養改善状況では,介入前のBMIが24.3±4.1で,正常値の20.0~24.9に比べ,対象者の体格は良く低栄養予防の必要性は少ない.介入後の上下変動もなく,現状を維持できたと言える.ただし,現病歴からも生活習慣病予防として,栄養バランスを考慮し,筋力向上を視野に入れた改善指導が必要である.

心理社会的側面では,運動器の機能が向上したにも関わらず,ADLや外出に対する自己効力感は有意な上昇が認められなかった.しかし,閉じこもり高齢者を対象とした調査では,ロコモーショントレーニングや運動を含む複合プログラムにより,外出に対する自己効力感は,同様の期間でも有意に上昇していた(山崎ら,2016林,2018).この外出に対する自己効力感は,地域高齢者の閉じこもりにおいて14点未満が該当すると示唆されている(山崎ら,2010).本研究の対象者はこれより平均値がやや低いが,疾病や障害を複数持っていることや,そのことで集団参加や通所サービス利用を避けて訪問を希望しているために,外出への自信に至らなかったと推察する.また,ADLに対する自己効力感は,心疾患や脳卒中等の疾病を抱える対象者も多く,入浴や掃除等による負荷を控えるため,改善効果に影響しなかったと考える.また,運動の継続とADLに対する自己効力感の効果を測定した研究でも,有意差がないという報告もあり(Arai et al., 2007),本研究結果を支持する.さらに,対象者が運動器の機能低下がみられても,要介護状態となるようなADL低下がみられない場合には,自己効力感への介入効果も低かったとする研究もあり(田口ら,2007),本研究の対象者にも同様の見解が言える.しかし,ADLは継続した訓練をしていかないと維持することも困難となるため,自己効力感も維持しながら介入後の長期的な支援をすることが求められる.精神的健康状態は,得点が13点未満か5項目中のいずれかに0または1の回答があれば不良になる.介入前に不良に該当する対象者は6人(33.3%)で,全体の平均値は13点であったが,それでも介入後の得点が上昇したことは訪問による看護師の個別援助が精神的サポートに影響したと考えられる.また,対象者は独居6人(33.3%),配偶者との二人暮らし5人(27.8%)と6割の人が高齢者のみ世帯であり,健康や生活に関して専門的支援の効果があったものと推測される.主観的健康感は,生活機能や精神的健康状態の維持・向上により相乗的に健康を実感できたと考える.

訪問での複合プログラムの実施は,運動器の機能・口腔機能の向上・栄養改善を含めた生活機能全般を相互に維持・向上させることや心理社会的側面で,健康と生活を踏まえたアプローチの必要性があるため,看護職による総合的な支援が求められると考える.

3. 介入後の対象者の行動や意識

対象者の殆どが介入結果に関わらず,概ね参加してよかったという感想で,短期介入のため継続希望もあった.特に介入後は機能維持のため,地域の多様な社会資源や通所サービス等も活用する必要がある.また,介入期間中の自主訓練は,「訪問や電話の確認,相談があったため頑張れた」との感想もあり,看護職の個別サポートが意欲向上に繋がったと考えられる.さらに,2ヵ月間の長期による定期的支援が自主訓練を継続させ,機能向上にも寄与したと考えられる.自宅周辺が坂道であったり,近くに通所サービスの会場が無いなど地域特性の課題もあるため,訪問支援による介護予防の意義があった.

4. 本研究の限界と課題

本研究では,介入群のみの調査であり,対照群を設定できていない.また,通所サービスに参加しない運動器の機能低下がみられる対象者に対して,希望により訪問を行ったため,対象者の選択バイアスの問題がある.さらに,参加者の多くが複数の疾病や障害を持ち,生活環境や家族構成も異なる.そのため,今後は,対照群を設定し,介護予防と疾病予防の両輪から支援し,心理社会的側面も含め,家族との連携や生活支援を考慮した介入を検討する必要がある.

V. 結語

本研究では,運動器の機能低下がみられた高齢者18人を対象として,訪問による複合プログラムの効果を検討し,以下のことが明らかになった.

1)生活機能として測定した運動器の機能では,開眼片足立ち,立ち上がり,足指筋力は,介入後に有意な上昇が認められ,立ち上がりは介入終了6ヵ月後も継続効果がみられた.

2)心理・社会的側面として測定した精神的健康状態,主観的健康感は,介入後に有意な上昇がみられた.

3)基本チェックリストの運動器項目で機能低下のある者は,介入後に38.9%に減少し,介入終了した6ヵ月後でも50%の者が機能を維持していた.

運動器の機能低下がみられた高齢者への訪問による複合プログラムの効果があったと考えられる.

謝辞

本研究の実施に際し,介護予防の訓練にご参加くださいました対象者の方々,介護予防の研究にご理解とご協力をいただきましたA市役所介護保険課の皆様,施設職員の皆様に心から感謝いたします.

なお,本研究は2013年度~2016年度文部科学省科学研究費助成金若手研究(B)課題番号25862271の助成を受け実施しました.

本研究に関わる利益相反は存在しない.

文献
 
© 2019 日本公衆衛生看護学会
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